弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中二二〇日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人川端和治、同弘中惇一郎の上告趣意第一の二の(一)について
 所論は憲法三一条、三九条、七三条六号但書、九八条一項違反をいうが、爆発物
取締罰則が日本国憲法施行後の今日においてもなお法律としての効力を保有してい
るものであることは当裁判所の判例とするところであるから(昭和二三年(れ)第
一一四〇号同二四年四月六日大法廷判決・刑集三巻四号四五六頁、昭和三二年(あ)
第三〇九号同三四年七月三日第二小法廷判決・刑集一三巻七号一〇七五頁参照)、
所論は理由がない。
 同第一の二の(二)の第一について
 所論は憲法三一条、三六条違反をいうが、爆発物取締罰則一条に定める刑が残虐
な刑罰といえないのみならず(最高裁昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二
三日大法廷判決・刑集二巻七号七七七頁参照)、同条所定の行為に対し所定のよう
な法定刑を定めることは立法政策の問題であつて憲法適否の問題ではないから(最
高裁昭和二三年(れ)第一〇三三号同年一二月一五日大法廷判決・刑集二巻一三号
一七八三頁、昭和四六年(あ)第二一七九号同四七年三月九日第一小法廷判決・刑
集二六巻二号一五一頁参照)、所論は理由がない。
 同第一の二の(二)の第二について
 所論は憲法一九条、三一条違反をいうが、爆発物取締罰則一条は、所定の目的で
爆発物を使用した者を処罰するものであつて、その思想、信条のいかんを問うもの
ではなく、また、同条にいう「治安ヲ妨ケ」るの概念は不明確なものではないから
(前掲昭和四七年三月九日第一小法廷判決参照)、所論は前提を欠き、適法な上告
理由にあたらない。
 同第一の二の(二)の第三について
 所論は憲法三一条、三九条違反をいうが、爆発物取締罰則の規定のうち所論指摘
のものは原判決の是認する第一審判決が適用していないものであり、また、本件に
適用される同罰則一条及び三条の規定につきこれを合憲であるとした原判決の判断
は正当であつて、犯行後の法令の適用を許容した趣旨のものではないのであるから、
所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 同第二の二について
 所論のうち憲法三一条、三五条一項違反をいう点は、Aの明示の意思に反してボ
ーリングバツグを開披したB巡査長の行為を職務質問附随行為として適法であると
した原判決の判断は、警察官職務執行法(以下「警職法」という。)二条一項の解
釈を誤り、ひいて憲法三五条一項に違反し、違法収集証拠を本件の証拠とした点に
おいて憲法三一条に違反する、というのである。
一 原判決の認定した事実及び原判決の是認した第一審判決の認定した事実によれ
ば、本件の経過は次のとおりである。(一)岡山県総社警察署巡査部長Cは、昭和
四六年七月二三日午後二時過ぎ、同県警察本部指令室からの無線により、米子市内
において猟銃とナイフを所持した四人組による銀行強盗事件が発生し、犯人は銀行
から六〇〇万円余を強奪して逃走中であることを知つた、(二)同日午後一〇時三
〇分ころ、二人の学生風の男が同県吉備郡a町b附近をうろついていたという情報
がもたらされ、これを受けたC巡査部長は、同日午後一一時ころから、同署員のB
巡査長ら四名を指揮して、総社市cのD営業所前の国道三叉路において緊急配備に
つき検問を行つた、(三)翌二四日午前零時ころ、タクシーの運転手から、「E線
F駅附近で若い二人連れの男から乗車を求められたが乗せなかつた。後続の白い車
に乗つたかも知れない。」という通報があり、間もなく同日午前零時一〇分ころ、
その方向から来た白い乗用車に運転者のほか手配人相のうちの二人に似た若い男が
二人(被告人とA)乗つていたので、職務質問を始めたが、その乗用車の後部座席
にアタツシユケースとボーリングバツグがあつた、(四)右運転者の供述から被告
人とAとを前記F駅附近で乗せ倉敷に向う途中であることがわかつたが、被告人と
Aとは職務質問に対し黙秘したので容疑を深めた警察官らは、前記営業所内の事務
所を借り受け、両名を強く促して下車させ事務所内に連れて行き、住所、氏名を質
問したが返答を拒まれたので、持つていたボーリングバツグとアタツシユケースの
開披を求めたが、両名にこれを拒否され、その後三〇分くらい、警察官らは両名に
対し繰り返し右バツグとケースの開披を要求し、両名はこれを拒み続けるという状
況が続いた、(五)同日午前零時四五分ころ、容疑を一層深めた警察官らは、継続
して質問を続ける必要があると判断し、被告人については三人くらいの警察官が取
り囲み、Aについては数人の警察官が引張るようにして右事務所を連れ出し、警察
用自動車に乗車させてG警察署に同行したうえ、同署において、引き続いて、C巡
査部長らが被告人を質問し、B巡査長らがAを質問したが、両名は依然として黙秘
を続けた、(六)B巡査長は、右質問の過程で、Aに対してボーリングバツグとア
タツシユケースを開けるよう何回も求めたが、Aがこれを拒み続けたので、同日午
前一時四〇分ころ、Aの承諾のないまま、その場にあつたボーリングバツグのチヤ
ツクを開けると大量の紙幣が無造作にはいつているのが見え、引き続いてアタツシ
ユケースを開けようとしたが鍵の部分が開かず、ドライバーを差し込んで右部分を
こじ開けると中に大量の紙幣がはいつており、被害銀行の帯封のしてある札束も見
えた、(七)そこで、B巡査長はAを強盗被疑事件で緊急逮捕し、その場でボーリ
ングバツク、アタツシユケース、帯封一枚、現金等を差し押えた、(八)C巡査部
長は、大量の札束が発見されたことの連絡を受け、職務質問中の被告人を同じく強
盗被疑事件で緊急逮捕した、というのである。
 二 警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することが
できると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、
所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげる
うえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随
してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、
任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾
を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しか
しながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警
察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理す
べき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一
切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわ
たらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。も
つとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定
めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は
憲法三五条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを
受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が
許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的
な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益
と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認
められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。
 三 これを本件についてみると、所論のB巡査長の行為は、猟銃及び登山用ナイ
フを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務と
されていた状況の下において、深夜に検問の現場を通りかかつたA及び被告人の両
名が、右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあつ
たのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒
否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上さ
れたものであつて、所持品検査の緊急性、必要性が強かつた反面、所持品検査の態
様は携行中の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べ
つしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものでは
なく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるから、これを警職法二条一
項の職務質問に附随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である。
 よつて、所論違憲の主張は、前提を欠き、その余の点は、事実誤認、単なる法令
違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 同第二の三について
 所論のうち憲法三一条、三五条一項違反をいう点は、アタツシユケースをこじ開
けた前示B巡査長の行為を警職法に違反するものと認めながら、アタツシユケース
及び在中の帯封の証拠能力を認めた原判決の判断は、上記憲法の規定に違反する、
というのである。
 しかし、前記ボーリングバツグの適法な開披によりすでにAを緊急逮捕すること
ができるだけの要件が整い、しかも極めて接着した時間内にその現場で緊急逮捕手
続が行われている本件においては、所論アタツシユケースをこじ開けた警察官の行
為は、Aを逮捕する目的で緊急逮捕手続に先行して逮捕の現場で時間的に接着して
された捜索手続と同一視しうるものであるから、アタツシユケース及び在中してい
た帯封の証拠能力はこれを排除すべきものとは認められず、これらを採証した第一
審判決に違憲、違法はないとした原判決の判断は正当であつて、このことは当裁判
所昭和三一年(あ)第二八六三号同三六年六月七日大法廷判決(刑集一五巻六号九
一五頁)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない。その余の所論は、単
なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 なお、Hから押収した証拠物に関する所論は、具体的な理由の記載を欠くので、
不適法である。
 同第三について
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 同第四について
 所論は、事実誤認、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文の
とおり判決する。
  昭和五三年六月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    環       昌   一

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