弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点ないし第三点について。
 被上告会社は、昭和四一年九月新株の発行をしたが、その発行価額は一株につき
五〇円、申込期間は同年九月八日から同月一九日まで、払込期日は同月三〇日であ
つたこと、上告人は、当時被上告会社の株式四〇株を有する株主としてその新株一
八株の割当を受けた者であつて、同月一二日被上告会社に対し株式申込書のみを郵
送して株式の申込をなし、また同月一九日申込取扱場所である訴外D信託銀行E支
店に株式申込書のみを提出して株式の申込をしたが、いずれも拒否されたこと、さ
らに上告人は、同月二九日右訴外銀行F支店に株式払込金を郵送して払込をしたが、
同支店は被上告会社と連絡のうえ、その受領を拒否したこと、被上告会社の定款に
は株主の新株引受権につきなんらの定めもなく、また新株引受権につき株主総会が
これを決する旨の規定もないこと、前記新株の発行に際し被上告会社は、取締役会
の決議により株主に新株引受権を与える旨、およびその新株引受権行使の条件とし
て株式申込の際払込金額と同額の申込証拠金を添えることを要する旨を定め、これ
を各株主に通知したこと、新株発行の場合において、株式申込に際し払込金額と同
額の申込証拠金を添えることを要求する取扱いは、現在では少なくともその株式が
株式市場に上場されている、いわゆる上場会社においては、広く慣行として行なわ
れているものであり、このような取扱いは、株主の払込失念による失権の防止、失
権株の増大による会社の増資目的不達成の防止、新株発行事務の簡素化、ことに新
株券発行事務の促進等を目的としてなされているものであること、上場会社の場合
には、株主が全国に散在し、かつ極めて多数にのぼるので、株式申込人の確定、失
権株の処理等のため、申込期間の末日と払込期日との間には最少限一〇日前後の期
間が必要であること、以上の各事実は、原判決(その引用する第一審判決を含む。
以下同じ。)の適法に確定するところである。
 しかるに、上告人は、申込期間内に適法に株式の申込をなし、払込期日に適法に
払込をしたのに、被上告会社はいずれもこれを拒否して、上告人を失権させたもの
であるにもかかわらず、原判決が、上告人の右申込は申込としての効力を生ぜず、
その結果上告人が失権するに至つたとしても、被上告会社にはなんらその損害を賠
償する義務がないと解したのは、商法二八〇条ノ五第四項、二八〇条ノ七、二八〇
条ノ九に違反する旨主張する。
 思うに、現行法上は、株主は法律上当然には新株引受権を有していないのである
から、定款によつて株主に新株引受権が無条件に付与されている場合はともかく、
そうでない場合には、新株引受権の付与、新株発行条件の決定等は、原則として取
締役会の決議に委ねられているのである。それゆえ、会社が、取締役会の決議によ
り株主に新株引受権を付与するにあたり、その新株引受権の行使に条件を付するこ
とは、その条件が不法ないし不合理なものでなく、かつ、それが法定の期間内に各
株主に通知されるかぎり、許されるものと解するのが相当である。ところで、会社
が新株を発行するにあたり、その資金計画を予定通り達成するため、払込期日前に
失権株を確定し、これにつき右期日までに他に引受人を求めて、所定の株式全部の
発行を完了しようとすることには十分な理由があり、そのために、会社が右の手続
を行なうにつき必要最少限度の期間を見込み、払込期日よりも若干前の日を申込期
間の末日と定め、株主がその新株引受権を行使する条件として、株式申込の際に払
込金額と同額の申込証拠金を添えることを要求することは、実際上その必要がある
ばかりでなく、それ自体不当ないし不合理なものということはできない。そして、
この場合、その申込証拠金が払込期日に払込金に充当されるまでの期間中これに利
息をつけないとすることも、その期間が右のように短いものであるかぎりは、利息
をめぐる事務処理に伴う著しい煩を避ける方法として、必ずしも不当なものとはい
えず、かつ、その定めが各株主に通知されている以上、株主はその趣旨を了知した
うえで株式の申込および申込証拠金の払込をするものと認められるから、これを違
法とすることはできない。したがつて、右のいずれの措置も法律上許されるものと
解すべきである。なお、商法二八〇条ノ五第一項に列挙されている事項は、制限的
なものではなく、株主が新株引受権を行使するにつき通常必要とされる事項を例示
したものにすぎず、その行使につき株式申込証拠金の払込という条件を付すること
が前述のとおり許されるものである以上、これも同条項により通知を要する事項に
属するものと解すべきであつて、これが各株主に通知されているかぎり、申込証拠
金の払込を伴わない申込を拒否することは、二八〇条ノ五第四項の規定に違反する
ものではなく、また、二八〇条ノ七、二八〇条ノ九第一、二項は、いずれもすでに
新株の引受人となつている者について適用される規定であつて、新株引受権を有し
ていても、所定の条件に適合した申込をしなかつたため、その申込が申込としての
効力を有しないものとして受付を拒否され、その結果新株の引受人たる地位を取得
していない株主には適用されないものと解すべきである。
 これを本件についてみるに、被上告会社の取締役会の決議によつて定めた新株引
受権行使の条件は、前記確定した事実関係のもとでは、叙上の説示に徴し、不当な
いし不法なものとはいえないから、被上告会社が、上告人の前記条件を無視して、
申込証拠金を添えないでした申込を拒否したことに違法はなく、したがつて、上告
人の本訴請求を排斥した原判決は、結論において正当である。原判決に所論の違法
は認められず、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三

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