弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人正木孝明、同桜井健雄の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係は、(1) 上告人は、昭和五六年七月二二日D住宅
建設株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で、上告人が訴外会社に対し、
報酬総額二一〇〇万円で第一審判決別紙物件目録記載の土地に一階鉄骨造、二階木
造の事務所併用住宅の建築を請け負わせる旨の契約(以下「本件契約」という。)
を締結した、(2) 上告人は、後記破産宣告前に訴外会社に対し、請負報酬の内金
として合計一六〇〇万円を支払つた、(3) 訴外会社は昭和五七年二月三日大阪地
方裁判所において破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に選任された、(4) 右
破産宣告当時、訴外会社及び上告人の双方がいまだ共に本件契約の履行を完了して
いなかつた、(5) 上告人は、被上告人に対し、破産法(以下「法」という。)五
九条二項に基づき、同月二二日ころ到達の書面で、本件契約の解除をするか、又は
その履行を請求するかを確答すべき旨の催告をした、というのである。
 二 右事実関係のもとにおいて、原審は、請負人が破産宣告を受けた場合におい
て、請負契約の内容が請負人の個人的な労務の提供を内容とするときには、労務を
提供することそれ自体は破産財団の管理又は処分に属しないことであつて破産財団
とは無関係であるから、法五九条の適用がないと解することは実質的にも相当であ
るし、また、請負契約が代替的債務を内容とするときにも、法六四条により破産財
団の介入による請負工事完成の方法が講じられており、かつ、その適正な運用によ
り妥当な解決がされるものと解すべきであるから、法五九条の適用を認める実質的
な理由に乏しく、本件契約の注文者たる上告人が同条二項の規定による確答催告権
を有するとの上告人の主張は採用しがたい旨判示し、法六〇条二項の財団債権とし
て、支払ずみの請負報酬の内金一六〇〇万円から工事出来高分を差し引いた残額の
支払を求める上告人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由が
ないとし、これを棄却すべきものとしている。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のと
おりである。
 法五九条は、請負人が破産宣告を受けた場合であつても、当該請負契約の目的で
ある仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため、
破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り、右
契約について適用されるものと解するのが相当である。けだし、同条は、双務契約
における双方の債務が、法律上及び経済上相互に関連性をもち、原則として互いに
担保視しあつているものであることにかんがみ、双方未履行の双務契約の当事者の
一方が破産した場合に、法六〇条と相まつて、破産管財人に右契約の解除をするか
又は相手方の債務の履行を請求するかの選択権を認めることにより破産財団の利益
を守ると同時に、破産管財人のした選択に対応した相手方の保護を図る趣旨の双務
契約に関する通則であるところ、請負人が破産宣告を受けた場合に、請負契約につ
き法五九条の適用を除外する旨の規定がないうえ、当該請負契約の目的である仕事
の性質上破産管財人が破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り、
同条の適用を除外すべき実質的な理由もないからである。原判決が説示するように、
同条の適用のない請負契約について法六四条を適用することができ、その適正な運
用によりある程度妥当な解決を図ることが可能であるとしても、破産財団の都合等
により請負契約の目的である仕事を完成することができないときには、注文者の保
護に欠けるところが大きいので、右のことをもつて法五九条の適用を否定する根拠
とすることはできないというべきである。
 そうすると、本件契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成すること
のできない性質のものであるため、破産管財人において破産者の債務の履行を選択
する余地のないものでない限り、本件契約については法五九条が適用され、本件契
約が解除されたものとされる場合には、上告人は支払ずみの請負報酬の内金から工
事出来高分を控除した残額について、法六〇条二項に基づき財団債権としてその返
還を求めることができるものというべきである。したがつて、右の点について認定
判断することなく、法五九条が本件契約に適用されないとして上告人の本訴請求を
棄却すべきものとした原判決は、法令の解釈適用を誤りひいては審理不尽、理由不
備の違法を犯したものというべく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであ
るから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件
については更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととす
る。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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