弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人の本訴請求中附加金五万五七七〇円に対する本判決確定の日の翌
日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分に
つき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人は、上告人に対し、金五万五七七〇円に対する本判決確定の日
の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
     上告人のその余の上告を棄却する。
     訴訟の総費用は、これを三分し、その一を被上告人の負担とし、その余
を上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 (一) 所論は、本件解雇が不法行為を構成するものではないとした原審の認定判
断は、法令違背、事実誤認、審理不尽、経験則違背、判例違背の違法をおかすもの
であり、ひいては憲法二七条一項、一四条一項、憲法前文に違反する、という。
 しかしながら、本件解雇が不法行為を構成するものではないとした原審の認定判
断は、原判決挙示の証拠関係及び説示に照らし正当として是認することができ、そ
の過程に所論の違法はない。所論違憲の主張は、原判決に右違法のあることを前提
とするものであつて、失当である。論旨は、採用することができない。
 (二) 所論は、また、原審が上告人の提出した「調書の記載に対する異議の申述
書」と題する書面につき民訴法二〇六条により決定をしなかつたことは、訴訟手続
上違法をおかすものであり、ひいては憲法前文に違反する、という。
 しかしながら、右「調書の記載に対する異議の申述書」と題する書面は、その記
載内容に徴すれば、原審において行われた上告人本人尋問の結果を記載した調書の
記載についての異議申出(民訴法一四六条二項)であつて、裁判所書記官の処分に
対する異議申出でないことが明らかであるから、これにつき原審が同法二〇六条に
より決定をしなかつたことは当然であつて、原審の訴訟手続に所論の違法はない。
所論違憲の主張は、右違法のあることを前提とするものであつて、失当である。論
旨は、採用することができない。
 (三) 所論は、更に、労働基準法一一四条の附加金の支払義務は、その支払いを
命ずる判決があれば、その判決確定前に発生し、かつ、それと同時に右附加金に対
する遅延損害金も発生すると解すべきであるとし、およそ附加金に対する遅延損害
金は発生する余地がないとした原判決には、法律の解釈を誤つた違法がある、とい
う。
 思うに、同法一一四条の附加金の支払義務は、その支払いを命ずる裁判所の判決
の確定によつて初めて発生するものであるから、右判決確定前においては、右附加
金支払義務は存在せず、したがつて、これに対する遅延損害金も発生する余地はな
いが、右判決の確定後において、使用者が右附加金の支払いをしないときは、使用
者は履行遅滞の責を免れず、労働者は使用者に対し右附加金に対する民法所定年五
分の割合による遅延損害金の支払いを請求しうるものと解するのが相当である(当
裁判所昭和四三年(オ)第一〇六〇号、第一〇六一号同年一二月一九日第一小法廷
判決・裁判集民事九三号七一三頁参照)。
 ところで、上告人は、本件において、附加金五万五七七〇円に対する右附加金の
支払いを命じた本件第一審判決の正本が被上告人に送達された日の翌日である昭和
四八年二月一日から支払済みに至るまで一日四〇九円の割合による遅延損害金の支
払いを求めるものであるところ、さきに説示したところに照らせば、上告人の右請
求中右附加金の支払いを命じた判決の確定の日までの遅延損害金の支払いを求める
部分及び右判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合をこえる遅延
損害金の支払いを求める部分は、失当として排斥を免れないが、右請求中のその余
の部分、すなわち、右判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合に
よる遅延損害金の支払いを求める部分は、被上告人が上告人に対し本件解雇予告手
当を支払わず、そのため本件附加金の支払いを命ぜられるに至つた本件訴訟の経緯
に徴すれば、上告人においてあらかじめ右遅延損害金の支払いを訴求する必要のあ
ることも肯認できるから、正当として認容すべきである。したがつて、原審が、労
働基準法一一四条の附加金の支払いに遅滞があつても遅延損害金は発生しないとの
理由で、上告人の右部分の遅延損害金請求を棄却したのは違法というべきであり、
原判決の違法をいう論旨は、右の限度において理由があるものといわなければなら
ない。それゆえ、上告人の本訴請求中本件附加金五万五七七〇円に対する本判決確
定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求
める部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、上告人の請求を
認容し、その余の上告はこれを棄却することとする。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、
九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    団   藤   重   光

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