弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A、同B、同C、同D、同E、同Fに関する部分を破棄
する。
     右被告人六名を各罰金二、〇〇〇円に処する。
     被告人等において右罰金を完納できないときは、金五〇〇円を一日に換
算した期間、当該被告人を労役場に留置する。
     右被告人六名より各金五三〇円を追徴する。
     但し、被告人等に対しては公職選挙法第二五二条に規定する選挙権、被
選挙権停止の規定を適用しない。
     原審訴訟費用中証人G、同Hに支給した分は、右被告人等六名及び原審
相被告人Iの負担とする。
     被告人Iの本件控訴を棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人等七名の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人渡辺治湟の控訴趣意書記載のとおりであるから、これ
をここに引用し、これに対し次のとおり判断する。
 本件控訴趣意は原判決の事実誤認を主張するものであるから、所論に基き本件記
録を精査して審按するに、原判示第一の事実は原判決挙示の証拠により優にこれを
証明することができ、所論の総べてを参酌し、且つ、当審における事実取調べの結
果に照らしても、原判決は正当であつて、いささかも事実を誤認した違法は認めら
れない。それ故この点の論旨は理由がないから刑事訴訟法第三九六条に則り、被告
人Iの本件控訴はこれを棄却する。
 次に、原判示第二の事実につき職権を以て本件記録を精査し、原判決を仔細に検
討してみると、原判決はその証拠として、
 一、 証人J、K、L、M、Nの当公判廷の各供述
 二、 Oの検事に対する昭和三三年七月二九日附供述調書謄本
 三、 Pの検事に対する供述調書
 四、 Iの昭和三三年八月六日附検事に対する供述調書
 を掲記しており、右の各証拠なくしては原判示第二の事実を確証することができ
ないことが認められる。然しながら、右一、四、の各証拠は原審において、原判示
第二の被告人であるA外五名についてはその取調べのなかつたものであり、二、三
の各証拠は右被告人等に付てはこれを証拠となし得ないものであるに拘らず、その
証拠調べをした上証拠として採用した違法の存することが明らかである。
 即ち、本件記録によると、
 一、 JはI外五名に対する公職選挙法違反被告事件の第六回公判廷において証
人として取調べられたのであるが、その後Iに対する右被告事件の第一五回公判廷
において右被告事件は被告人A外五名に対する本件公職選挙法違反被告事件と併合
審理されるに至つたけれとも、同被告人等に対する関係で前記証人Jの証言記載の
ある第六回公判調書は取調べられていない。(第一五回公判調書参照)また、その
後被告人A外五名の関係において、Jが改めて証人として取調べられた事跡も存し
ない。更に、K、L、M、Nは、本件においては原審公判廷において証人として取
調べられた形跡がなく、只併合前のIの被告事件の第七回公判において証人として
取調べられ本件第一五回公判廷でその公判調書の取調べが行われたに過ぎないこと
が明らかである。それ故原判決が右K等の当公廷の供述を証拠としたのは、結局取
調べのない証拠を採用したものといわなければならない。
 二、 Iの検察官に対する昭和三三年八月六日附供述調書は、前記両被告事件の
併合後である第一六回公判廷において、検察官の刑事訴訟法第三二二条第一項によ
る取調請求により取調べられたものであつて、被告人I以外の関係では証拠調べは
なされていない。
 三、 Oの検察官に対する昭和三三年七月二九日附供述調書謄本二通、及びPの
検察官に対する供述調書は、第一五回公判廷において、検察官の刑事訴訟法第三二
一条第一項第二号による取調請求により、被告人A外五名の原判示第二の本件被告
人等の関係において取調べられたものであるが、右条項により検察官の面前調書を
証拠とするためには供述者死亡等の場合か、供述者が公判準備、若しくは公判期日
においてこれと相反するか若しくは実質的に異つた供述をした場合において、検察
官の面前における供述を信用すべき特別の情況の存することを要件とするところ、
本件においては右の如き事情はいずれもこれを認めることができない。尤も、Pは
前記の如く本件をIの被告事件に併合するに先立ちIに対する公職選挙法違反被告
事件の第八回公判廷で証人として取調べを受け、Oは同第一〇回公判廷で証人とし
て取調べを受け、右二回の公判調書は、併合後の第一五回公判廷で被告人A外五名
及びその弁護人において、これを証拠とすることに同意したため、被告人A外五名
の本件被告人等のためにも取調べられては<要旨>いるのであるが、刑事訴訟法第三
二一条第一項第二号に謂う公判準備、若しくは公判期日における供述とは、
当該被告人に対する被告事件の公判準備、若しくは公判期日における供述を指称す
るものと解するのが相当である。蓋し、同号の規定は証人の検察官に対する供述調
書についても反対尋問の機会の与えられる当該被告人の被告事件の公判準備若しく
は公判期日においてなされた当該証人の供述を、同人の検察官に対する供述と対比
し、前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限り、検察官に対する供述調
書を証拠となし得るものとする趣旨に出でたものと解せられるからである。従つ
て、併合前の他の被告人の被告事件の公判期日における証人の供述を記載した公判
調書の前説示の事由により書証として取調べられた場合においても、右証人の供述
が検察官の面前調書の記載と相反することを事由として、直ちに同人の検察官の面
前調書を証拠とはなし得ないものといわねばならない。
 以上の如くであつて、原判決は証拠調べを経ない証拠を採証し、また、違法な証
拠調べに基く証拠を採証した訴訟手続法上の違背があり、右は固より判決に影響を
及ぼすことが明らかであるから、原判決中判示第二の点は到底破棄を免かれない。
よつてその他の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項第三七九
条第四〇〇条但書に則り、原判決中被告人A、同B、同C、同D、同E、同Fに関
する部分を破棄し、当裁判所において自から次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人A、同B、同C、同D、同E、同Fは、いずれも昭和三三年七月六日施行
の逗子市議会議員一般選挙に際し、その選挙人であるが、同年二月二三日頃藤沢市
ab番地「Qヘルスセンター」において、右選挙に立候補予定のOから、同人がI
と共謀の上、自己の当選を得る目的を以て投票並に投票取纏等の選挙運動を依頼
し、その報酬として供与するものであることを知りながら、一人当り金五三〇円相
当の酒食の饗応接待を受けたものである。
 (証拠の標目)
 一、 被告人等の当審公廷における供述
 一、 原審第六回公判調書中証人Jの供述記載
 一、 原審第七回公判調書中証人K、同L、同M、同Nの各供述記載
 一、 Pの検察官に対する供述調書
 一、 Iの検察官に対する昭和三三年八月六日附供述調書
 一、 逗子市選挙管理委員会委員長R作成の「調査事項回答について」と題する
書面の謄本
 一、 Sの答申書謄本
 一、 当審証人Oの当公廷の供述
 一、 被告人Aの昭和三三年七月二八日附、同Bの同月二六日附、同Cの同月二
八日附、同Dの同月二八日附、同Eの同月三〇日附、同Fの同月二八日附各検察官
に対する供述調書
 (法令の適用)
 被告人A外五名の右所為は、各公職選挙法第二二一条第一項第四号罰金等臨時措
置法第二条に該当するので、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、その所定金額の範
囲内で各罰金二、〇〇〇円に処し、罰金不完納の場合につき刑法第一八条を適用
し、金五〇〇円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置し、被告人等に
対してに公職選挙法第二二四条により、本件饗応を受けた利益の価額として、それ
ぞれ金五三〇円を追徴すべく、なお情状により、被告人等に対しては同法第二五二
条第三項に則り、選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用しないこととす
る。
 なお、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用し、主文第六
項第八項記載のとおりその負担を定める。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 山本謹吾 裁判官 目黒太郎 裁判官 深谷真也)

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