弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人松枝述良の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条
の上告理由にあたらない。
 なお、本件における賄賂であるAカントリークラブの個人正会員たる地位、すな
わちいわゆるゴルフクラブ会員権は、株式会社Bの経営管理するゴルフ場施設を優
先的に利用することができる権利及び所定の条件のもとで入会保証金の返還を請求
することができる権利並びに年会費等を納入しなければならない義務を内容とする
債権的法律関係であつて、譲渡性を有する権利ないし法律上の地位ではあるが(最
高裁昭和四九年(オ)第二四六号同五〇年七月二五日第三小法廷判決・民集二九巻
六号一一四七頁参照)、それ自体は性質上没収することができないものであり、ま
た、記録によれば、右会社の発行した所論入会保証金預託証書は、裏面に譲渡人と
譲受人の氏名押印欄が設けられ、右ゴルフクラブ会員権と一体をなすものとして裏
書によつて転転譲渡されることを予定しているようにみえるけれども、証書上から
は右会員権の内容が明らかでないのみならず、指図文句の記載もなく、かえつて右
ゴルフクラブの会員としての地位の譲渡についてはクラブの承認が必要とされ、そ
の旨が証書上に記載されており、譲渡について右の制限が設けられているのは、ク
ラブ会員たる地位の取得についてはその者の個人的適格性の有無の考慮が必要であ
るとされるためであると認められること等に照らして考えると、右預託証書をもつ
て前記ゴルフクラブ会員権を表章する有価証券として没収の対象となるものと認め
ることはできないとした原審の判断は正当であり、本件において、被告人らが本件
ゴルフクラブ会員権を収受したことによつて得た利益を剥奪するためには、これを
収受した時点におけるその価格の全額を追徴すべきものとした原審の判断に所論の
違法はない。
 よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官谷口正孝の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるも
のである。
 裁判官谷口正孝の意見は、次のとおりである。
 一 本件において、被告人らが収受した賄賂は、Aカントリークラブの個人正会
員たる地位であり、収受の対象となつた原判示の入会保証金預託証書が右カントリ
ークラブ会員権を表章する有価証券と解すべきでないことは原判決の説示するとお
りであつて、この点について格別の意見はない。
 二 私がここで言いたいのは、没収不能のばあい追徴すべき賄賂の価額の算定基
準時についてである。
 原判決は、右入会保証金預託証書が右会員権の一部としての入会保証金返還請求
権を化体した有価証券ではないことを理由としてこれを没収の対象から除外し、賄
賂としての個人正会員たる地位は没収不能であるからその価額を追徴すべきもので
あるが、その価額の算定基準時は被告人らがこれを収受した時点であるとして、そ
の時点の価額(会員権買取価格に名義書替料を加算した金額)によるべきものとし
ているのである。
 従来の大審院判例及び最高裁判所判例もこの点については同様に解してきた。
 確に、この見解は賄賂罪における賄賂の没収・価額の追徴が犯人の収受した不正
の利益をその手裡にとどめずこれを剥奪して国庫に帰属させるという制度本来の趣
旨からすれば、犯人は賄賂収受の時に不正の利益を収めたわけであるから、収受の
時点を基準としてその価額を算定するというのはよくその趣旨にかなつたものとい
えるようである。
 しかし、私はこの点についてやはり疑問をもつのである。
 賄賂罪における価額の追徴の趣旨はそうであつても、刑法の建てまえとしては、
没収不能のとき初めてその代償処分として価額の追徴をすべきものとしているので
あつて、没収が本来の処分であり、追徴は没収の一つの執行方法ともいうべきもの
であつて、価額賠償として没収に代用する処分として位置づけられているわけであ
る。そうだとすると、賄賂の価額の追徴は、事実審裁判所が犯人の収受した賄賂の
没収が不能と認定したとき初めて課せられるべき処分であるといわざるを得ないわ
けである。
 そして、この没収不能の認定は事実審の口頭弁論終結の時点において決せられる
わけである(価額の算定基準時を事実審の判決言渡時とする説も訴訟法的には右と
同じ時点に求めざるを得ない)。従つて、追徴すべき賄賂の価額算定の基準時は、
右の賄賂の没収が不能と認定されるべき時点即ち事実審の口頭弁論終結時と解する
のが刑法の条規に即した解釈と考える。
 このように考えると、賄賂の収受時と事実審の口頭弁論終結時において賄賂の価
額に変動があつて、後者の時点における価額が前者のそれより低額となつたばあい
犯人の収受した利益の一部を逸することになるのではないかとの反論もあろうが、
それは先に見たように賄賂の価額の追徴が没収の代償処分であることを思えば解決
のつくところと思う。
 三 次に、原判決は被告人らの収受した原判示の入会保証金預託証書が有価証券
に当らないことを理由として没収の対象とならないとしている。原判決が被告人ら
の収受した賄賂はAカントリークラブの個人正会員たる地位であると認定する以上
右入会保証金預託証書は刑法一九七条の五の規定により没収できないことは原判決
のいうとおりである。しかし、右預託証書は刑法一九条一項三号、二項所定物件と
して裁量的没収の対象となるものと考える。もつとも、原判決がこれを没収しなか
つた措置をとらえて違法といえないことは当然である。
  昭和五五年一二月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    谷   口   正   孝

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