弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人中田義正、同本谷康人の上告理由一について
 労働組合の規約により組合員の納付すべき組合費が月を単位として月額で定めら
れている場合には、組合員が月の途中で組合から脱退したときでも、特別の規定又
は慣行等のない限り、その月の組合費の全額を納付する義務を免れないものという
べきであり、所論のように脱退した日までの分を日割計算によつて納付すれば足り
ると解することはできない。したがつて、右特別の規定又は慣行等のない本件では、
上告人らは脱退した月の組合費の全額を納付する義務があるとした原審の判断は正
当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同二及び三について
 一 原判決によれば、被上告組合がその組合員から徴収することを決定した本件
各臨時組合費のうち、原判示の年末闘争資金二〇〇円(組合員一人あたりの額。以
下同じ。)及び春闘資金中の二七〇円は、それぞれ被上告組合が昭和三三年の年末
手当等の要求及び昭和三六年春の賃上等の要求を貫徹するための闘争資金、管理所
闘争資金一〇〇円は、国鉄が経営合理化の一環として計画した管理所設置の構想に
対し人員整理を生じさせるものであるとして反対するための闘争資金、Dカンパ五
〇円ないし一二〇円は、国鉄D炭鉱の民間払下げが同じく合理化による人員整理を
生じさせるものであるとしてこれに反対するための闘争資金である、というのであ
り、これらの資金は、右各闘争の遂行に直接要する費用のほか、その闘争によつて
民事上又は刑事上の不利益処分を受ける組合員を救援するための費用にも充てられ
るものであつたことが、うかがわれる。本件は、被上告組合がその組合員であつた
上告人らに対し、右各臨時組合費の支払を請求する事案であるが、原審は、前記闘
争の一部に公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項違反の
争議行為が含まれていたとしても、被上告組合が違法な争議行為を主に実行するこ
とを意図していたものとは認められないから、その資金の徴収決議を違法無効とい
うことはできないとして、上告人らに右各臨時組合費の納付義務があると判断して
いる。
 論旨は、要するに、たとえ闘争の一部にせよ違法な争議行為が含まれている以上、
その闘争全体を違法でないとすることはできず、そのための資金の徴収決議は公序
良俗に違反するものというべきであつて、その効力を認めた原判決には憲法二八条、
二九条、民法九〇条の解釈適用を誤つた違法がある、と主張する。
 二 ところで、公労法一七条一項は、公共企業体等の行う事業の公益性にかんが
み、公共の福祉のために、その職員及び組合の争議権の行使に対して特に制限を加
えた政策的規定であつて、これに違反した職員が同法一八条により解雇されること
などがあるのはともかく、禁止違反の争議行為であるというだけで、直ちにそれを
著しく反社会性、反道徳性を帯びるものであるとすることはできない。また、原審
の確定した事実関係に徴しても、本件闘争の態様が公序良俗に違反するほどのもの
であつたとは認めがたい。それゆえ、右闘争のための資金の徴収決議をもつて公序
良俗違反を目的とするものであるとの所論は、採用することができない。
 三 しかしながら、労働組合において、組合のする決議がいかなる範囲で組合員
を拘束し、それに対する組合員の協力を強制することができるかについては、更に
検討しなければならない。思うに、労働組合の組合員は、組合がその目的を達成す
るために行う団体活動に参加することを予定してこれに加入するものであり、また、
これから脱退する自由も認められているのであるから、右目的に即した合理的な範
囲において組合の統制に服すべきことは、当然である。したがつて、労働組合の決
定した活動がその目的と関連性をもつものである限り、たとえ個人的にはそれに反
対の組合員であつても、原則としてはその決定に拘束され、そこで定められた活動
に参加し、また、その活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、
右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務(以下これらの義務を「協力義務」
という。)を免れないというべきであるが、他方、労働組合の活動が多様化するに
つれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有す
る自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、
組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上
大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の決定した活動が組合の目的と
関連性を有するというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務
を無条件で肯定するは相当でなく、問題とされている具体的な組合活動の内容・性
質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多
数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点か
ら、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加
えることが必要である。
 四 そこで、右の見地から、公労法に違反して行われる争議行為とこれに対する
組合員の協力義務の関係について考察する。
 1 まず、同法違反の争議行為に対する直接の協力(争議行為への参加)につい
ては、これを組合員に強制することはできないと解すべきである。禁止違反の争議
行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結びつけられている場合に、
その不利益を受忍すべきことを強いるのが不当であることはいうまでもなく、また、
右のような不利益を受ける可能性がない場合でも、法律は公共の利益のために争議
行為を禁止しているのであるから、組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場を
とることは、是認されるべきであり、多数決によつて違法行為の実行を強制される
べきいわれはない。
 2 次に、同法違反の争議行為の費用の負担については、右費用を拠出すること
が当然には法の禁止に触れるものではないから、その限度で協力義務を認めても、
違法行為の実行そのものを強いることになるわけではないが、違法行為を目的とす
る費用の拠出は違法行為の実行に対する積極的な協力にほかならず、このような協
力を強制することも、原則としてやはり許されないとすべきである。もつとも、労
働組合がいわゆる闘争資金を徴収するにあたり、違法な争議行為の実施をその闘争
手段として掲げていても、具体的な闘争の遂行過程で実際に右争議行為をするかど
うか、また、それをどの程度においてするかは、労使交渉の推移等に応じて流動変
転するものであるから、資金徴収決議の時点で既に違法な争議行為を実施すること
が確定不動のものとして企図され、これと直接結びつけてその資金が徴収されるよ
うな場合は格別、単に将来の情況いかんによつては違法な争議行為の費用に充てら
れるかも知れないという程度の未必的可能性があるにとどまる場合には、その資金
と違法目的との関連性がいまだ微弱であり、これを拠出することをもつて直ちに違
法行為の実行に積極的に協力するものであるということはできない。したがつて、
このような場合には、その資金の徴収決議に対する組合員の協力義務を否定すべき
理由はない。
 また、違法な争議行為の実施が確実に予定されている場合であつても、労働組合
の闘争活動は、そのような争議行為だけに限らず多岐にわたるものであり、その闘
争費用は一体として徴収されるのが通常であるから、そのうち違法な争議行為に充
てられる費用を徴収の段階で具体的に確定することは、実際上ほとんど不可能であ
る。この場合に、闘争活動のなかにいささかでも違法な争議行為が含まれていれば、
常に闘争費用の全部につき組合員が協力義務を免れうるとすることは、違法行為に
助力することを欲しない組合員の利益のみを絶対視するものであつて、先に述べた
比較考量の見地からは当を得た解決とはいいがたい。組合員は基本的には組合の多
数決に服することを予定してこれに加入するものであり、組合の闘争によつて獲得
される有利な労働条件はすべての組合員が享受するものであることを考えると、闘
争の一部において違法な争議行為が含まれているとしても、闘争全体としてはこの
ような違法性のない行為を主体として計画され遂行されるものであるときは、費用
負担の限度においては、その全部につき組合員の協力義務を優先させても、必ずし
も著しく不当の受忍を強いるものではなく、組合員はこれを納付する義務を免れな
いと解するのが、相当である。
 3 違法な争議行為により処分を受けた組合員に対する救援費用については、こ
れを直ちに右争議行為を目的とする費用と同視することはできない。すなわち、一
般に、かかる救援の主眼とするところは、労働組合がその組織の維持強化を図るた
めに組合員に対して行う共済作用の一つとして、被処分者の受けている生活その他
の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり、処分の原因となつた被
処分者の行為のいかんにかかわるものではなく、もとよりその行為を助長すること
を直接目的とするものではないから、たとえその救援費用の徴収が違法な争議行為
の実施に先立つて決定された場合であつても、これを拠出することが直ちに違法な
争議行為に積極的に協力することになるものではないというべきである。したがつ
て、このような救援費用については、法律違反との関連性が薄いものとして、先に
述べた違法な争議行為を直接の目的とする費用とは異なり、その徴収決議に対する
組合員の協力義務を肯定しても、特に不当とはいえない。
 五 以上によつてみるのに、本件において原審の確定するところによれば、被上
告組合が前記各臨時組合費を徴収するにあたつて指令した闘争手段のなかには、半
日ストや勤務時間内の職場集会あるいはいわゆる遵法闘争等が含まれていたが、同
組合が右闘争において半日ストや勤務時間内職場集会などを主な闘争手段とし、あ
るいは違法な争議行為を主に実行することを企図し、これを実行しないときは組合
員に闘争の実行を期待しないほどにこれを重視していたものとは認められず、なお、
昭和三六年の春闘においては、闘争指令に掲げられていた半日ストが全く実施され
ることなく闘争が収拾された、というのである。してみると、右各臨時組合費のな
かに違法な争議行為の実施あるいはその結果生ずる被処分組合員の救援のための費
用が含まれていたとしても、上告人らがこれを納付する義務を免れないことは、以
上の説示から明らかであり、これと結論を同じくする原判決は、結局、正当として
是認することができる。論旨は、ひつきよう、独自の見解又は原審の認定しない事
実を前提として原判決の違憲、違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、上告理由
二及び三につき裁判官高辻正己の補足意見及び裁判官天野武一の反対意見があるほ
か、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官高辻正己の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見に同調するものであるが、多数意見が組合員は違法な争議行為に
より処分を受けた組合員(以下「被処分者」という。)についての救援費用の納付
義務を免れないとする点に関し、その理由とするところにつき、私の意見を補足的
に述べておきたい。
 多数意見は、被処分者に対してする組合の救援のための資金を拠出することは、
直ちに違法な争議行為に積極的に協力することになるわけのものではなく、法律違
反との関連性が薄いものであるから、そのためにする組合の徴収決議に対し組合員
の協力義務を肯定しても、特に不当とはいえないとするのであるが、右の法律違反
との関連性が薄いということについて、私は、次のように理解するのである。
 およそ、違法な争議行為をめぐつてする組合の決議に対し組合員の協力義務を肯
定することの可否については、当該争議行為が多数意見のいうように公序良俗違反
をもつて目すべき限りのものでない以上、専ら、これを肯定することになると、組
合がその多数決による優位の立場において、組合員に対し、その意に反して、違法
な争議行為の実行そのものによる不利益を受忍すべきことを強いることになるか否
か、又は組合員が一市民としてとるべき法律の尊重遵守の立場と相いれない立場を
とることを強要することになるか否か、を基準として判断するのが、相当である。
 ところで、組合が組合員に対し、違法な争議行為を行うこと自体を強制すること
が、なによりも、それを実行すること自体に伴う不利益を受忍すべきことを組合員
に強いることになりかねないものであり、また、争議費用の拠出のごとき違法な争
議行為の実行そのものに必要不可欠な条件を充足する所為を強制することが、その
ことだけに着目していう限り、組合員が一市民としてとるべき法律の尊重遵守の立
場と相いれない立場をとることを組合員に強要することになるものであることは、
明らかである。しかし、組合が組合員に対し、その行為を行うこと自体を強制した
り、その行為の実行そのものに必要不可欠な条件を充足する所為を強制するのでは
なくて、単に被処分者の救援資金の拠出を強制するにとどまる場合には、それを実
行すること自体に伴う不利益を受忍すべきことを組合員に強いることにならないの
はむろんのこと、組合員が一市民としてとるべき法律の尊重遵守の立場と相いれな
い立場をとることを組合員に強要することにもならない筋合いであつて、この種の
費用についてする徴収決議に関しては、組合員の協力義務を否定すべきいわれはな
い。
 被処分者の救援は、そもそも、被処分者が生活その他の面で受ける不利益の回復
を経済的に援助するものにほかならず、これをするかどうかは、専ら当該組合が法
の規制を受けることなく自主的に判断すべき政策問題であつて、多数決によりこれ
を救援することが決定され、そのための費用の徴収が決議された場合における組合
員の協力義務については、他にこれを否定すべきものとする特段の理由はないので
ある。
 私が被処分者の救援費用についての組合の徴収決議に対する組合員の協力義務を
肯定する理由は、上記のとおりである。多数意見が救援費用について法律違反との
関連性が薄いという点は、私としては、右に述べたような趣旨を意味するものと解
し、その意見に同調するのである。
 裁判官天野武一の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由二及び三について多数意見と見解を異にし、原判決の破棄を求め
る論旨に理由があると考える。以下、私の見解を述べる。
 一 はじめに、多数意見は、「労働組合において、組合のする決議がいかなる範
囲で組合員を拘束し、それに対する組合員の協力を強制することができるか」につ
いて検討しなければならないとして、「労働組合の決定した活動が組合の目的と関
連性を有するというだけで、直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定
することは相当でなく、」「公労法違反の争議行為に対する直接の協力(争議行為
への参加)については、これを組合員に強制することはできないと解すべき」であ
り、「禁止違反の争議行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結び
つけられている場合に、その不利益を受忍すべきことを強いることが不当であるこ
とはいうまでもなく、」また、「違法行為を目的とする費用の拠出は違法行為の実
行に対する積極的協力にほかならず、このような協力を強制することも、原則とし
てやはり許されないとすべきである。」と説く。右に説かれているところは、すべ
て正しい。問題は、以下に述べるように、この立場によつて本件の具体的事例に処
する適応の仕方いかんにある。
 二 本件につき、原審が適法に確定した事実を、原判決に即して示すと、昭和三
三年の年末闘争、本件管理所闘争、D鉱払下闘争、昭和三六年春季闘争の各指令が、
各臨時組合費の徴収のほかに、半日ストや勤務時間内の職場集会の実行の日時、場
所、参加人員等を大まかに定め、その具体的決定権限を下部機関に与える指令と同
時にされていることが認められるが、なお、これら各闘争の指令は半日ストや時間
内職場集会のほかに、順法闘争のごとく公労法の規定に直ちに違反すると断定し難
い手段や時間外職場集会などの違法の疑いのない行動をも指令していることは明ら
かであり、そして、前記各闘争の指令の内容を検討しても、これら半日ストや時間
内職場集会を主な争議行為とし、あるいはスト権奪還のためのみに実行し、又は計
画した事実は認められず、また、前記闘争の指令が正当性のない争議行為を主に実
行することを意図し、これを実行しないときには組合員に正当な争議行為の実行を
期待しないほど重視していると解釈すべき事実を認められないばかりか、昭和三六
年春闘においては、被上告組合において全く半日ストを実施しないで右闘争を収拾
した事実が明らかである、というのである。日本国有鉄道に雇用される職員及び組
合は、公労法一七条によつて争議行為を禁止され、同条の規定に違反する行為をし
た職員は解雇されるものとされていることは、ここに記すまでもなかろう。
 三 ところで、これに対して多数意見は、「原審の確定した事実関係に徴しても、
本件闘争の態様が公序良俗に違反するほどのものであつたとは認めがたい。それゆ
え、右闘争のための資金の徴収決議をもつて公序良俗違反を目的とするものである
との所論は、採用することができない。」と冒頭に断定し、そのうえで、「労働組
合がいわゆる闘争資金を徴収するにあたり、違法な争議行為の実施をその闘争手段
として掲げていても、具体的な闘争の遂行過程で実際に右争議行為をするかどうか、
また、それをどの程度においてするかは、労使交渉の推移等に応じて流動変転する
ものであるから、」資金徴収決議の時点で、「単に将来の状況いかんによつては違
法な争議行為の費用に充てられるかも知れないという程度の未必的可能性があるに
とどまる場合には、その資金と違法目的との関連性がいまだ微弱であり、これを拠
出することをもつて直ちに違法行為の実行に積極的に協力するものであるとするこ
とはできない。」とし、さらに、「闘争の一部において違法な争議行為が含まれて
いるとしても、闘争全体としてこのような違法性のない行為を主体として計画され
遂行されるものであるときは、費用負担の限度においては、その全部につき組合員
の協力義務を優先させても、必ずしも著しく不当の受忍を強いるものではなく、組
合員はこれを納付する義務を免れないと解するのが、相当」と説いて、このような
場合にその資金の徴収決議に拘束力を認める立場を一層強調するのである。しかし、
私は、所論の半日ストや勤務時間内職場集会など公労法一七条違反の争議行為の指
令条項が、単に景気づけの呼号にすぎず、相手方に対する強がり文句挿入の域を出
たものではないというのであるならば格別、いやしくもかかる行為が本件闘争手段
に含まれていることを明らかに肯定し、かつ、その資金として金額的に不可分で合
法・非合法による使途目的の区分不明のまま金員を拠出させるものであることを当
然のこととして認定しながら、スト禁止の実定法の存在するもとでその意味を極力
微小視し、違法とされる争議行為を含むことを明らかに示した闘争費用の拠出決議
や指令に法的拘束力があることを認めうるとする多数意見の立場は、とうてい納得
することができない。思うに、多数意見は、一部の争議行為が違法であるからとい
つて全体の争議行為が違法となるものではないという命題から、直ちに、そのため
の費用徴収決議は法的拘束力をもつ、という結論に飛躍する誤りを犯したもののよ
うである。いうまでもなく、本件における問いかけは、闘争資金の徴収決議が組合
員に対し法的拘束力をもつか否かということなのであるから、この場合は違法闘争
を理由として法的制裁(刑罰又は行政罰)を科す場合とは異なり、その闘争行為の
すべてが違法であつたことを確定する必要はなく、むしろ闘争自体が適法であるこ
とこそが確定されなければならないのである。違法闘争を含めての、その闘争の全
体のために闘争資金の拠出が求められる場合に、その資金の使途について適法な闘
争手段のための金額と違法な闘争手段のための金額の区分があり、かつ、前者の拠
出のみを法的に強制されるものと解しうる事情が認められるならば、それこそが訴
訟に堪えうる本来の特別の事情であつて、仮りにも、このような事情もなしに、た
だ闘争資金の故をもつて拠出の協力を組合員に義務づけこれを強制することは許さ
れるはずがないのである。たとえ一部であるにせよ、また、その違法闘争が予測の
段階にとどまる場合の徴収であるにせよ、違法の使途を含むことを掲げる資金の拠
出の強制を法的に肯定することは、違法行為の実行に協力させることを法認するも
のにほかならず、どうしてこれが、私法上の権利として許されるであろうか。
 原判決は、「労働組合の闘争の指令が正当性のない争議行為の指令を含み、しか
も、組合員に対して、これを重点的に実行することを命じていて、これが実行でき
ないときには正当性のある争議行為の実行を期待できないものと解釈されるときに
は、たとえ右闘争指令が正当な争議行為の指令を一部含んでいたとしても、全体と
して公序良俗に違反し、無効であると解してよい。」という。これはその限りにお
いて妥当であるが、ここで注意すべきことは、闘争指令全体の有効・無効と本件の
臨時組合費徴収の訴求における当否を同一視してはならないということである。も
とより、指令全体が違法であれば、その違法目的を実行するための資金の徴収決議
は無効であるに相違ないけれども、指令全体が違法とはいえないからといつて、資
金の徴収決議が必ずしも有効となるものではない。つまり、両者の間にあたかも確
立した相関関係があるように立論すると、誤つた判断に至るのである。
 四 ところで、多数意見は、その結論を導くにあたり、多数決原理に基づく組合
活動の実効性と組合員個人の基本的利益の比較考量という方法を用い、「闘争活動
のなかにいささかでも違法な争議行為が含まれていれば、常に闘争費用の全部につ
き組合員が協力義務を免れうるとすることは、違法行為に助力することを欲しない
組合員の利益のみを絶対視するものであつて……比較考量の見地からは当を得た解
決とはいいがたい。」とする。しかしながら、私によれば、およそ違法行為に助力
しないのは法律上それが許されないから助力しないのであつて、これを多数意見の
いうように、個々の組合員の利益を絶対視することによる非協力などと、解すべき
ものではない。そしてまた、組合自身の立場としても、その構成員である組合員に
対して、その組合員等が欲しない違法行為につながる助力を強制してよいはずがな
い。したがつて、違法の使途を含む費用の負担を拒む組合員のいわゆる利益と、闘
争費用の全部につき支出を求める組合の利益とを、比較考量して結着を図ることは、
いかにも当を得ず、司法的にみれば、この場合の利益の比較考量は、あくまで双方
の適法な利益におけるそれであるべきものである。重ねていうと、本件の場合、組
合の闘争方針に従えない組合員がこのような協力義務を免れるべきであるのは、多
数意見のいうごとき「違法行為に助力することを欲しない組合員の利益のみを絶対
視」するからではなくて、合法を欲する順法の立場からであることを、知らなけれ
ばならないのである。
 五 次いで、いわゆる救援費用につき、多数意見は、救援の主眼とするところは、
「労働組合がその組織の維持強化を図るために組合員に対して行なう共済作用の一
つとして、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助
してやることにあり」、「処分の原因となつた被処分者の行為……を助長すること
を直接目的とするものではないから、たとえその救援費用の徴収が違法な争議行為
の実施に先立つて決定された場合であつても、これを拠出することが直ちに違法な
争議行為に積極的に協力することになるものではないというべきで」あり、したが
つて、「このような救援費用については、法律違反との関連性が薄いものとして、
先に述べた違法な争議行為を直接の目的とする費用とは異なり、その徴収決議に対
する組合員の協力義務を肯定しても、特に不当とはいえない。」と述べる。しかし
ながら、組合は違法行為の実行に積極的に協力させ、あるいは、させたことを顧慮
すればこそ、組合としてその違法行為の実行により処分をうけた組合員を救援しな
ければならず、そのためにその資金徴収を決議し、これは法的拘束力をもたせる必
要があるわけであつて、そうでなければ、その拠出を強く主張する根拠を見出しが
たい。もとより、救援活動が必ずしも違法な実行行為に対する積極的協力とは見ら
れない場合があるにしても、相互に協力関係があることは争う余地がなく、かかる
協力関係が認められる限りにおいて、その費用の負担は、法的強制の外に、その意
図に相応しい途を選ぶべきものであろうと、私は考える。すなわち、この種の救援
活動の場合にあつては、その救援の原因をなす処分を受けた組合員の当該行為が、
組合の指令や決議と無関係に敢行されたものではなく、そのことゆえに組合が救援
活動を行なうのであるというゆえんを度外視して他をいうことは、当を得たもので
はないのである。私は、組合の共済作用としての救援活動の社会的意義とその有用
性に高く評価すべきものがあることを広く認めるものであるが、本件闘争の事例に
即して多数意見の見解を一、二審判決の判示とともにみる限り、いわばその闘争方
針につき争いがある場合に、闘争を指導した組合の幹部なり執行部なりがその責任
において負うべき問題と、その方針に抗してすでに当該組合を脱退した組合員個々
の法的義務の問題とを混同してはいないかと、想わざるを得ないのである。
 六 以上をもつて、私は、その他傍論部分の多くにつき論ずるまでもなく、原判
決には結局民法九〇条の解釈適用を誤つた違法があり、上告理由二及び三の論旨は
理由があると考える。よつて、本件は、被上告人の本訴請求中、上告人らに対しそ
れぞれ第一審判決添付第二目録の「(ロ)年末闘争資金」「(ハ)管理所闘争資金」
「(ニ)Dカンパ」各欄記載の金員及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める
部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、右の各部分に関する
請求を棄却すべきものである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    高   辻   正   己

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