弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人栗山裕吉、同組村真平の上告理由第二点について
 原判決は、(1) 昭和三七年八月中旬ころ、被上告人Bは、訴外D株式会社(以
下「訴外会社」という。)の注文によつて、訴外会社が同年一〇月一日に開校する
予定のE自動車学校の用地の整地、練習用コース周囲の明渠の設置及び排水の工事
(以下「本件工事」という。)をその完成期日を同年九月中旬と定めて請負い、上
告人は、訴外会社の被上告人に対する右請負工事の報酬債務を重畳的に引き受ける
とともに、その支払に代えて上告人所有の釧路市a町b番地及びc番地の土地のう
ち一〇〇〇坪を被上告人Bに譲渡する旨約定した、(2) 上告人は、同年九月二二
日、右約定に基づき、被上告人Bに対し、右一〇〇〇坪の土地の約二分の一に相当
する第一審判決添付目録記載の土地約五〇〇坪(以下「本件土地」という。)を譲
渡し、その所有権移転登記を経由した、(3) 被上告人Bは、昭和三七年八月下旬
本件工事に着手したが、準備作業として公道から自動車学校用地に入る道路部分に
土を入れて整備したほか、排水工事の一部に手をつけ、約三〇〇〇坪に及ぶ練習用
コース敷地のほぼ六等分された一区画に若干の土砂を搬入しただけで、本件工事全
工程の約一〇分の二程度の工事をした段階にすぎなかつたにもかかわらず、同年九
月中旬ころ工事を中止してしまつた、(4) 訴外会社代表者は、再三にわたつて工
事の続行を催告したが、被上告人Bがこれに応ぜず全工事完成の見込がたたなくな
つたので、同年一一月下旬ころ被上告人Bに対して本件工事残部の打切りを申し入
れ、既施工部分の引渡を受けるとともに、本件土地の返還を要求したところ、被上
告人Bは、既施工部分の出来高代金として一〇〇万円を支払わなければ本件土地の
返還要求には応じられないとの態度を示し、訴外会社代表者も自動車学校の開校が
遅れたことによる損害の発生を主張し、その損害賠償債権と出来高工事代金債権と
を相殺するとして、被上告人Bの要求する一〇〇万円の支払を拒絶した、との事実
を認定した、(5) そして、以上の事実からすれば、訴外会社は、昭和三七年一一
月下旬ころ、被上告人Bに対し、債務不履行を理由に本件工事のうち未完成部分に
ついての工事請負契約を解除するとともに、併せて、被上告人Bの出来高工事代金
債権と同被上告人の債務不履行による訴外会社の損害賠償債権とを対等額で相殺す
る旨の意思表示をしたことが認められるが、右解除は契約の一部解除であつて、そ
の効果は本件工事請負契約に基づいて被上告人Bがした既施工部分についてまで及
ぶものではなく、既施工部分についての契約関係は右解除によりなんらの影響を受
けるものではないから、上告人が本件土地所有権を被上告人Bに移転したことは、
既施工部分の工事出来高代金債務に対する前払としてなお有効であり、被上告人B
に対する本件土地所有権移転の効果が解除により消滅するいわれはないとしている
のである。
 しかしながら、原審の確定したところによれば、被上告人Bは本件工事全工程の
約一〇分の二程度の工事をしたにすぎず、また、本件工事はその性質上不可分であ
るとはいえないが、被上告人Bのした右既施工部分によつては訴外会社が契約の目
的を達することはできないことが明らかであるところ、訴外会社代表者は、本件工
事残部の打切りを申し入れるとともに本件土地全部の返還を要求しているのである
から、他に特別の事情がない以上、右本件工事残部の打切りの申入をすることによ
り、訴外会社は契約全部を解除する旨の意思表示をしたものと解するのを相当とす
べく、単に、右残工事部分のみについての契約の解除の意思表示をしたものと断定
することは妥当を欠くものといわなければならない。それにもかかわらず、原判決
が、右特別の事情のあることを認定することなく、残工事部分のみについての契約
の解除を認めたのは、経験則に照らして是認することができないものというべく、
論旨は理由がある。それゆえ、この点において原判決を破棄し、本件を原審に差し
戻すのが相当である。
 よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    環       昌   一

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