弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人風早八十二の上告理由第一点について。
 所論は、いわゆる東京都第六次強制疎開による損失補償の基準を定めた、防建疎
発第八一号、東京都防衛局長通牒「第六次建物疎開事業ノ実施ニ伴フ損失補償ニ関
スル件」が、建物の買収に伴う借地権についての補償をしない趣旨であると主張し、
それを前提として、右通牒が憲法二九条三項に違背し無効であるから、それに則つ
てなされた本件第六次強制疎開により上告人先代の借地権が消滅したとの原審の判
断は違憲である、というに帰する。しかし、前記通牒の根拠である防空法五条の四
ないし五条の六、一三条二項、同法施行令九条と前記通牒の趣旨にかんがみるとき
は、所論のように借地権について補償をしない趣旨と解すべきものではなく、むし
ろ、第五次以前の強制疎開の場合建物の補償と建物敷地の借地権の補償とは各別に
算定していたところ、第六次疎開の実行された当時(前記通牒は昭和二〇年三月一
九日付)は、戦局の急迫により短時日に疎開を完了させる目的から、家屋税法所定
の家屋台帳に登録された建物の賃貸価格を基準とし、これと建物の経過年数に応じ
て定められた一定の倍率とによつて、建物とその敷地の借地権に対する補償金額を
同時に算出する特殊の方式を定め、それによつて算出された金額を便宜上「建物ノ
買収価格」と名ずけたにすぎないものと解するのが相当であり、この場合所論のよ
うに借地権に対する補償の基準を別個に示すことが必ずしも必要とはいえない。原
判決の判示するところも右の趣旨を明らかにしたものにほかならない。したがつて
所論は前提において失当であり採用できない。(なお、また上告人先代が右補償金
を異議なく受領して、建物の所有権ならびにその敷地の借地権を譲渡により喪失し
たことは右判示からこれを認めることができる)。
 同第二点について。
 第五次強制疎開の場合建物の補償と借地権の補償とは各別にその金額を算定して
行われたこと、上告人先代の所有建物に対する第五次強制疎開においては、建物な
らびに敷地の借地権について補償を行うことが決定され、同人にその旨通知された
こと、同人が右建物に対する補償金を受領したことは、原判決の確定したところで、
右の認定は首肯することができる。以上の事実に、該事実認定の資料として認定さ
れた(一)ないし(四)の事実(第一審判決理由第二段)なかんずく本件を本案と
する仮処分事件において上告人が借地権の存続を主張していない事実を参酌すると
き、上告人先代は本件強制疎開に際し、建物の譲渡のみならずその敷地の借地権の
譲渡にも格別の異議がなくこれを承諾したことを認めることができる。原判決の判
示はいささか正確でない点があるけれども、その判示するところは、結局右のよう
に本件借地権が東京都に譲渡され上告人先代はこれを喪失するに至つた趣旨を示す
ものと解することができる。したがつて所論は採用できない。
 同第三点について。
 所論は、上告人が、本件土地に換地される以前の疎開跡地につき、その所有者D
寺に対し、原判決の事実摘示のように処理法二条の賃借申出をなし、よつて借地権
が設定されたと主張したのに対し、原判決が判示のような理由でこれを排斥したの
は理由不備の違法があると主張する。しかし本件土地における建築が、昭和二一年
勅令第三八九号二条各号の一に該当せず、その建築をなすには都市計画法一一条ノ
二、同法施行令一一条ノ二により東京都知事の許可を必要とすることは明らかであ
るから、原審の確定するように上告人において右許可を受け又は許可を条件として
前記申出をなしたものでない本件において、右賃借申出が効力を生ずるに由ないこ
と処理法二条一項但書の明文上疑のないところである。したがつて、原判決が右申
出拒絶についての正当事由の有無に関しなんら判断しなかつたのは当然であり、所
論は独自の法解釈を主張するに帰し、採用のかぎりでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己

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