弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 申立て
(原告)
「京橋税務署長が原告に対し昭和四二年四月二七日付をもつてした更正および過少
申告加算税賦課処分による租税債務のうち、原告の昭和三八年一二月一日から昭和
三九年一一月三〇日までの事業年度分法人税一一八、七〇〇円、過少申告加算税
七、九〇〇円および昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業
年度分法人税四五、二〇〇円、過少申告加算税三、五〇〇円の租税債務が存在しな
いことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。
(被告)
主文同旨の判決を求める。
第二 原告の請求原因
一 京橋税務署長は、原告の昭和三八月一二月一日から昭和三九年一一月三〇日ま
での事業年度(昭和三九年度という。)および昭和三九年一二月一日から昭和四〇
年一一月三〇日までの事業年度(昭和四〇年度という。)の各法人税につき、昭和
四二年四月二七日付で更正および過少申告加算税賦課処分(両者を合わせて本件処
分という。)をした。
右処分による租税債務のうち、次の金額は、原告がその従業員であるAに対し右両
年度中に支給した月額三〇、〇〇〇円の給料につき、同署長がその損金算入を否認
し、これをAの妻Bに対する寄付金とみなして、原告の所得を計算したことによる
ものである。
(1) 昭和三九年度分のうち、所得金額三五九、八〇〇円、法人税額一一八、七
〇〇円、過少申告加算税額七、九〇〇円
(2) 昭和四〇年度分のうち、所得金額三六七、五五七円、法人税額四五、二〇
〇円、過少申告加算税額三、五〇〇円
二 しかし、本件処分には次のとおり重大かつ明白な瑕疵があり、無効というべき
である。
(一) Aは、原告に嘱託として勤務中昭和三八年夏ごろから行方不明となり出勤
しなくなつたが、原告は、同人が会社にとつて是非とも必要な従業員であつたた
め、近い将来かならず帰来して出勤するものと信じて、昭和四一年七月二一日に退
職の手続をとるまでその給料を支給し、代理人である同人の妻にこれを渡してい
た。一般に、会社の従業員が行方不明等のため労務を提供しなくなつた場合でも、
当然に従業員としての身分を失うわけではないから、会社が労務管理等の必要に基
づき、その給料を支給することは、なんら違法または不当なことではない。雇用契
約においては、従業員が労務に服さないとぎは、使用者は報酬を支払わないことが
できるとされているけれども、これは従業員が正当の理由なく労務を提供しなかつ
た場合の報酬支払拒絶権を定めたものであつて、使用者に右権利の行使を強制した
ものではない。
しかるに、本件処分は、Aの労務不提供という一事をもつて、同人に対して支給し
た給料の損金算入を否認したものであり、その違法であることは明らかである。
(二) のみならず、原告がAに支給した右給料についてはすでに源泉所得税が徴
収されているから、本件処分が右給料の損金算入を否認し、これに法人税を課する
ことは、二重課税の違法を犯すものというべきである。
三 よつて、本件処分による前記一項(1)(2)の租税債務が存在しないことの
確認を求める。
第三 被告の答弁
一 請求原因一項の事実は認める。ただし、原告はAに対し給料名義で毎月三〇、
〇〇〇円のほか、毎年二〇、〇〇〇円を支給していたので、本件処分においては、
その全額をAの妻に対する寄付金と認定し、昭和三九年度分については、旧法人税
法(昭和二二年法律第二八号)九条二項、同法施行規則七条により計算した寄付金
の損金算入限度額二〇、二〇〇円、昭和四〇年度分については、法人税法三七条二
項、同法施行令七三条一項により計算した寄付金の損金算入限度額一二、四四三円
をそれぞれ超える部分につき損金算入を否認したものである。
二 同二項冒頭の主張は争う。
同項(一)のうち、Aが昭和三八年夏ごろから行方不明となり、原告に出勤しなく
なつたこと、原告が昭和四一年七月二一日までAに対する給料名義で前記金員を同
人の妻に渡していたことは認めるが、その余の主張の趣旨は争う。
同項(二)のうち、右給料名義の金員の支給について源泉所得税を徴収したことは
認めるが、本件処分が二重課税であるとの主張は争う。右源泉所得税の徴収は誤り
であり、原告はその返還を請求しえたものである。
三 法人税法上給料とは、従業員の法人に対する労務提供の対価として支払われる
ものをいうところ、本件においては、原告がAの妻から、夫が行方不明となつたの
で子供が大学を卒業するまで面倒をみてほしい旨頼まれたため、Aに対する給料名
義で前記金員を支給したものであるから、右金員を労務提供の対価ということはで
きず、同人の妻に対する経済的利益の無償供与すなわち寄付金と認めるべきもので
ある。
原告は、雇用契約が消滅しない以上、給料を支給しうることは当然であると主張す
るが、かりに原告とAとの雇用契約がなお存続していたとしても、労働基準法等に
特別の定めがある場合のほかは、現実に労務を提供しない従業員に対して給料を支
払うべき理由はないし、また、右給料は原告が当該年度の所得を得るために必要と
した経費ではないから、これを損金に算入することは認められないのである。
さらに、従業員が雇用の途中において行方不明となつたような場合には、その時点
において、暗黙の意思表示によりまたは死亡の場合に準じて、雇用契約が終了する
ものと解すべきであり、この点からも原告の前記主張は失当である。
第四 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因一項記載の事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原
告が昭和三九年度および四〇年度中にAに対する給料として支給した金額は、毎月
三〇、〇〇〇円のほか毎年二〇、〇〇〇円ずつがあり、本件処分においては、右全
額を寄付金と認定して係争税額を算出したものであることが認められる。
二 ところで、法人がその従業員に支給する給料は、法令または契約等により、従
業員たる地位を有すること自体に基づいて支払われる保障的賃金部分のほかは、当
該従業員の労務の提供に対する対価として支払われるものであつて、法人所得の計
算上損金に算入される。これは、従業員が法人の事業活動のために労務を提供する
ものであるから、その対価としての給料は、法人が収益を獲得するために必要な支
出であり、損益計算においては収益に対応する費用となるものだからである。した
がつて、従業員に対し給料名義で支給した金員であつても、それが前記の法令等に
基づく保障的賃金もしくは労務提供の対価たる性質のいずれをも有しないときは、
これを給料として損金に算入することはできないものというべきであつて、形式的
に雇用契約があるとの一事により、右給料名義の支出が税法上すべてその名義どお
りのものとして是認されるわけではない。もともと雇用契約における報酬請求権
は、労務の提供があることを条件として発生するものであり、従業員の責に帰すべ
き事由により労務を提供しなかつた場合には、法令または契約等に別段の定めがな
いかぎり、その報酬を請求しえないものと解すべきであるから、それにも拘らず使
用者の支給した報酬名義の金員が、本来の報酬と法律上の取扱いを異にすることは
むしろ当然というべきである。もつとも、雇用は継続性を有する一種の人的結合関
係であるところから、実際には、従業員の責に帰すべき事由により労務の提供がな
い場合においても、使用者がある程度の期間引続き給料を支給するという事例は十
分ありうるけれども、それが労務に対する反対給付たる意義を有せず、かつ、使用
者の義務に属さない支出である以上、税法上の取扱いとしては、これを相手方に対
する寄付金と認めるほかないものというべきである。
三 そこで、本件についてみると、Aが昭和三八年夏ごろから行方不明となり(こ
れは同人の責に帰すべきものであることが証人Cの証言および本件弁論の全趣旨か
ら推認される。)原告に出勤しなくなつたが、原告はその後も昭和四一年七月二一
日まで同人に対する給料として前記金員を同人の妻に渡していたことは当事者間に
争いがなく、この事実によれば、昭和三九年度以降に支給された右給料名義の金員
は、他に特段の事情がないかぎり、Aの労務の提供と対価関係を有するものとは認
められず、また、右金員の支給が法令、契約等により原告に義務づけられていたこ
とを認めるべき証拠もない。
してみると、右支給期間中原告とAとの雇用契約がなお存続していたとしても、右
金員を原告の損金に算入しうべき給料ということはできず、現実の受給者であるA
の妻に対する寄付金として取り扱うのが相当である。
原告は、Aが重要な従業員であつたため、労務管理の必要から給料を支給したもの
であると主張するが、そのような事実があるとしても、それだけの事由によつて右
結論を左右しえないことは前記のとおりである。
よつて、本件処分が、昭和三九年度および四〇年度中の右支給額全部を寄付金と認
定して、法定の損金算入限度額を超える部分につき損金算入を否認したことは正当
である。
四 次に、原告の二重課税の主張について判断する。Aに対する前記支給額につき
源泉所得税が徴収された事実は当事者間に争いがない。しかし、前項説示の判断か
らすれば、被告も認めるように、右徴収は誤りであつたことに帰するわけであるか
ら、それについて救済方法を講ずるべきであり、そのために本来なすべき本件処分
をなしえなくなるいわれはない。
五 以上により、本件処分に原告主張の無効事由はない。よつて、本件請求を失当
として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 高津 環 内藤正久 佐藤 繁)

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