弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを禁錮六月に処する。
     但し、右被告人に対してはこの裁判確定の日から二年間、右刑の執行を
猶予する。
     被告人B、同Cの本件各控訴を棄却する。
     原審訴訟費用中証人D、同Eに支給した分は被告人A及び原審相被告人
B、同Cの連帯負担とし、当審訴訟費用は全部被告人Aの負担とする。
         理    由
 次に被告人Aの原判示第二の(一)(二)の事実につき職権により調査するに、
原判決は被告人Aが原判示各文書を、F及びGに手渡した時に公職選挙法第一四二
条所定の法定外文書頒布罪の成立を認め<要旨>ている。ところで、同条に言う頒布
とは、選挙運動のために使用する文書図画を、不特定若しくは多数人に対
直接配布しなくとも、不特定若しくは多数人に対し配布させる目的を以て、少くと
もその一人に配布したことを要すると解するところ、これを本件につき検討する
と、原判決挙示の証拠、並に当審における事実取調べの結果、就中、当審証人H、
同Gの各供述、I、Jの検察官に対する各供述調書、及び被告人Aの当公廷の供述
によると、FはK同業組合の事務員、GはL同業組合連合会の事務員であり、被告
人Aは前記のとおり候補者Mの選挙事務を事実上主宰していた者であるが、同被告
人はK同業組合を通じてその傘下組合員に原判示文書を配布しようと考え、偶々、
選挙本部事務所に連絡のために来たF及びGに対し、いずれも右文書をK同業組合
事務所に届けるよう依頼して手渡し、Gは右の如くしてAから受取つた文書を更に
Fに手渡し、Fは右両方の文書を右組合事務所で同組合理事であるJに手渡した結
果、同人は同理事長Iと協議の上、これを同組合支部長会議の席上で支部長五〇名
位に配布して頒布したことが認められる。以上の如き経緯であるから、F、及びG
は選挙本部事務所で被告人Aから本件各文書を単なる使者として受取り、これをK
同業組合まで運搬した丈けであつて、謂わば被告人Aの手足に過ぎないのであるか
ら、被告人AがF、Gの両名に本件文書を手渡した丈けでは未だこれを以て前説示
の配布があつたものとは認められないから、頒布罪の成立を肯認することはできな
い。
 よつてこれに対し頒布罪の既遂の責任を認めた原判決は法律の解釈を誤つた結
果、事実を誤認した違法があり、右は固より判決に影響を及ぼすことが明らかであ
るから、原判決中被告人Aに関する部分は、この点において破棄を免がれない。
 そこで、弁護人の論旨につき判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項第三八
二条第三八〇条第四〇〇条但書に則り、原判決中被告人Aに関する部分を破棄した
上、当裁判所においては検察官が当審において予備的に追加した訴因に基き、次の
とおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人Aは、昭和三四年六月二日施行の参議院議員選挙に際し、同年五月七日全
国区選出議員候補者として立候補の届出をしたMの選挙運動者であるところ、
 第二、同年五月一三日頃、東京都渋谷区ab丁目c番地の右候補者の選挙事務所
において、M名入りの無検印ポスター二〇〇枚位を、K同業組合を介し、同組合員
多数に交付する目的を以て、同組合事務員Fに手渡し、更に、同月一五日頃前記選
挙事務所において判示第一と同様の「運動員の手引」と題する法定外の文書二、〇
〇〇枚位を、右同様の目的でGに手渡し、更に同人を介してFに交付し、よつて同
日頃、右組合理事長I、同副理事長Jをして、港区d町e丁目f番地の同組合事務
所において、Fから受取つた右ポスター二〇〇枚位及び手引二、〇〇〇枚位を、一
括して同組合員N等約五〇名に配布せしめて頒布し
 たものである。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長裁判官 山本謹吾 裁判官 目黒太郎 裁判官 深谷真也)

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