弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件抗告をいずれも棄却する。
2抗告費用は,抗告人らの負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は,原決定を取り消し,川崎市長が平成18年10月5日付
けでした社会福祉法人A(以下「本件法人」という)を川崎市B保育園及び。
川崎市C保育園(以下「本件各保育園」という)の指定管理者に指定する処。
分(以下「本件指定」という)の効力を本案事件(横浜地方裁判所平成18。
年(行ウ)第55号,同第68号指定管理者指定処分取消請求事件)の判決確
定まで停止するというものであり,その理由は,別紙「即時抗告状」及び別紙
「抗告理由補充書」に記載のとおりである。
第2事案の概要
,,1本件は本件各保育園に入所している児童及びその保護者である抗告人らが
川崎市長が地方自治法244条の2第3項に基づいてした本件指定は,抗告人
らの保育所選択権等を侵害し違法であるとして,本件指定の取消しを求めて本
案訴訟(横浜地方裁判所平成18年(行ウ)第55号,同第68号事件)を提
起するとともに,本案判決の確定まで本件指定の効力を停止することを求めた
事案である。
2原審は,本件指定により,抗告人である児童らないし保護者である抗告人ら
が監護する児童らに行政事件訴訟法25条2項が規定する重大な損害が生じる
,。とは認められないとして抗告人らの本件指定の執行停止の申立てを却下した
これを不服として,抗告人らが抗告したものである。
3基礎となる事実及び当事者の主張(骨子)は,原決定の「理由」中の「第2
事案の概要」2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件指定により,抗告人である児童らないし保護者である抗告
人らが監護する児童らに行政事件訴訟法25条2項が規定する重大な損害が生
じるとは認められないから,本件指定の執行停止の申立ては理由がないものと
判断する。その理由は,原決定の「理由」中の「第3当裁判所の判断」に記
載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における抗告人らの主張にかんがみ,以下補足する。
(1)抗告人らは,保育士が全員交替することにより,保育の内容が根底から
,,変容されその変化と混乱が児童らに大きな悪影響を与えることが推測され
それが重大な損害に当たることは明らかであると主張する。
上記認定の事実によると,平成19年4月1日以降,本件各保育園におい
ては保育士が全員交替することになり,本件法人が本件各保育園に配置する
予定の保育士のうち8名は,保育経験の平均年数が約11年であるものの,
その余の10名は新規に採用する予定であり,どの程度の経験年数のある保
育士が配置されるかは未定であるのに対し,現在本件各保育園にいる保育士
は,証拠(疎甲25)によると,9名の保育士の保育経験の平均年数が27
年以上であり,その他の10名の平均年数は7年であることが認められ,全
体としてみれば経験年数が現在の保育士よりも少ない保育士らが保育を担当
することになるといえる。また,本件各保育園において保育を受けている児
童らの年齢や当該保育園において過ごす時間の長さを考慮すると,場所的環
境が同一であるとはいえ,人的環境が変わることにより児童らが受ける影響
は,否定できないものといわざるを得ない。
しかし,人的環境の変更が直ちに保育の質の低下を示すものとはいえない
し,経験年数の違いがそのまま保育の質の低下を意味するものでもないので
あり,本件各保育園において保育を受けている児童らが受ける環境の変更に
よる影響を軽減するため,相手方は本件法人との間で委託契約を締結して,
本件各保育園の業務引継を6か月にわたり行っていることは上記のとおりで
ある。そして,証拠(疎乙46から48)によると,相手方は,指定管理者
による管理が開始される保育園の巡回のための職員を健康福祉局こども事業
本部こども施策推進部こども計画課に配置することとしており,平成19年
4月以降,本件各保育園等を巡回する職員を現在の本件各保育園の園長とし
たこと,本件法人が,現在本件各保育園において臨時職員として勤務してい
る職員のうち複数名を引き続き臨時職員として雇用する予定であることが認
められ,これらの点を考慮すると,相手方及び本件法人が保育士の交替等に
より児童らに大きな混乱が生じないよう配慮し,悪影響を与えないよう相応
の対策をとっているものといえる。確かに,上記引継期間において,児童同
士のトラブルが増えたことや赤ちゃん返りやお漏らし等が増えたこと,紙を
口に入れたまま放置されていた児童がいたことなどの報告があること(疎甲
,,),,112から115126から132疎乙40が認められるが他方で
引継期間の経過により,次第に児童らが落ち着いてきており,業務引継が円
滑に進行しているとの意見もある(疎乙40,41(枝番を含む)こと。)
が認められるのであり,上記引継期間において,保育の責任を負担している
のが現在の本件各保育園の保育士らであることを考慮すると,上記保育士ら
が引継業務のため多忙となっていることはあるとしても,上記のような問題
が発生したことのすべてが本件法人による管理開始により生じることになる
ものといえないことも明らかである。
以上のとおり児童らが受ける影響について軽減措置が取られており,その
成果が一定程度認められること等を考慮すると,本件法人による管理開始に
より,児童らが受ける影響は,保育士が全員交替することを考慮しても,大
きなものであるとはいえず,したがって,児童らが重大な悪影響を受けると
まではいえないものというべきである。
(2)抗告人らは,指定管理者制度の適用が,成長期の子供にどのような影響
を与えるかは計り知れないものであり,世の中に対する信頼を育む過程にお
いて直面する喪失感,不安や混乱がその子供の将来の精神面にどういう影響
を及ぼすのかは,個々の子供の個性やこれからの状況により異なるものの,
大人とは異なる重大な影響が生じる可能性があるとも主張する。
一般論として,低年齢の児童が,何らかの損害を被り,その回復が大人や
年長の児童と比べより困難である場合もあることは否定できないが,本件に
おいては,抗告人らの主張によっても,本件法人が管理を開始することによ
り児童らが受ける影響の具体的内容は,保育環境に変更が生じるという以上
には明らかになっておらず,回復の困難な損害があるとは認められない。
そして,環境の変更により児童らが重大な悪影響を受けるといえないこと
は上記のとおりであり,環境の変更が直ちに損害といえない以上,損害の性
質及び程度を考慮しても,本件指定により児童らに重大な損害が生じるとは
いえない。
(3)本件指定が,直接抗告人らの法律上の利益を侵害する行政処分といいう
るかどうかは暫くおくとしても,本件指定は平成14年に策定された川崎市
保育基本計画の一環として実施されたものであり,本件指定により,本件法
人は,平成19年4月1日以降の期間を定めて本件各保育園の指定管理者に
指定され,既に相手方と本件法人との間の委託契約に従って6か月の業務引
継期間を経て,平成19年4月1日以降管理を開始することとなっているこ
と,したがって,これに伴って,本件各保育園勤務の保育士らの勤務場所に
ついても変更されることが予定されていること,本件法人による管理開始後
は,本件各保育園における保育時間が現行よりも延長されることが予定され
ていること等,抗告人ら以外の者にも多様な影響が及んでいるのであり,こ
,。れら本件指定の処分の内容及び性質を勘案しても上記結論は左右されない
3よって,原決定は相当であり,本件抗告はいずれも理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり決定する。
平成19年3月29日
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官太田幸夫
裁判官森一岳
裁判官石栗正子

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