弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士清瀬一郎、内山弘の上告理由第一点について。
 原判決引用の第一審判決は、用語不十分で、いささか明瞭を欠くが、その趣旨と
するところは、被上告会社は上告会社に対し判示物件を一括して賃貸していたが、
被上告会社について判示第二会社が設立され、右物件の中判示土地が右第二会社に
現物出資となり、その所有権が被上告会社から右第二会社に移転した結果、被上告
会社は右土地を改めて第二会社より賃借し、かくして引き続き上告会社との間の賃
貸借関係を維持し来つたこと、すなわち本件賃借物件の中その一部は被上告会社の
所有権より離脱したことは事実であるが、この故に被上告会社と上告会社との間の
賃貸借関係に変動を生じたようなことはなく、もとより、判示土地について上告会
社と判示第二会社との間に新な賃貸借関係が発生したものでないことを認定したも
のであつて、右第一審判決挙示の証拠によれば、そのような認定が出来ないわけの
ものではない。尤も、右判決が判示土地について、被上告会社が判示第二会社から
賃借してこれを上告会社に賃貸している関係は、転貸であると判示していることは
所論のとおりであるが、右は判示土地に関しての本件当事者間の法律関係はかくか
くであるとした裁判所の法律上の意見を開陳したに止り、要は本件当事者間の賃貸
借関係は賃料の点はともあれ、従来のまま存続していることをいわんとした趣旨に
外ならないものであつて、しかも、判示のように、全賃借物件の中の一部の所有権
が他に移転した場合、その一部を新所有者から賃借して引続き従前の賃貸借を存続
させることは法律上これを妨ぐべき何らの理由もないが故に、原判決の判断は正当
であつて、これを所論のように違法のものとして非議すべき根拠を見出し得ない。
論旨は畢竟原判決の認定事実に対する独自の見方から独自の法律上の見解を交えつ
つ、原判決がその裁量によつて自由に為した事実認定を非難するだけのものであつ
て、上告適法の理由とするに足りない。
 第二点について。
 しかし乍ら、記録に徴すれば、被上告人は所論主張の上において所論自白をした
ものとは認め難いが故に(本件訴状及び原判決添付の物件目録には本件土地を冒頭
にしるしてはいるが、その記載自体からしては被上告人において右土地を本件賃貸
借の第一の目的としている趣旨を主張しているものとは到底理解し難い)、原判決
には自白に反して事実を認定した違法ありというを得ない。それ故所論は採用出来
ない。
 第三点について。
 しかし乍ら、原判決は所論のように建物の賃貸借と土地の賃貸借との二つの関係
が別個に存在していることを認めたものではなく一個の賃貸借関係が引き続き存続
しているものと判断しているものであることは、論旨第一点について説示したとお
りであるから、原判決には所論の違法ありというを得ない。所論も亦採用できない。
 第四点について。
 しかし乍ら、所論主張の中に所論趣旨の主張を包含するものとは到底理解し難い
のみならず、被上告人が所論約束をしたからといつて、上告人に対し所論交渉の成
否確定まで本件明渡の請求を留保しなければならないわけのものでもないから、所
論も亦採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決をする。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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