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裁判例


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平成13年(行ケ)第415号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年6月24日
判       決
    原      告    株式会社三洋物産
訴訟代理人弁理士    川口光男
同復代理人弁理士    山田強
  被      告    特許庁長官 小川洋
指定代理人      二宮千久
同           藤井靖子
同           高木進
同           涌井幸一
主       文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が異議2000-73548号事件について平成13年7月17日
にした決定中,「特許第3022545号の請求項1に係る特許を取り消す。」と
の部分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,発明の名称を「パチンコ機」とする特許第3022545号の特許
(平成元年5月16日出願の特願平1-121990号からの分割出願として出願
された特願平7-180887号からの分割出願として出願された特願平10-1
6132号からの分割出願として,平成11年2月9日に出願され(特願平11-
31836号,以下「本件出願」という。),平成12年1月14日設定登録。以
下「本件特許」という。請求項の数は1である。甲第2号証は,本件出願に係る願
書に添付された明細書及び図面の,公開時における内容を示す特許公報である。な
お,登録後,後記本件訂正により,発明の名称(本件訂正前は「遊技機」),特許
請求の範囲及びこれに伴う発明の詳細な説明の訂正がなされている。)の特許権者
である。
  平成12年9月21日,本件特許に対し,特許異議の申立てがなされた。特
許庁は,これを異議2000-73548号事件として審理した。原告は,審理の
過程で,請求項1の文言の訂正を含む,明細書の訂正(以下「本件訂正」という。
本件訂正の内容は,甲第4号証(訂正請求書)記載のとおりである。以下,本件訂
正後の明細書及び図面を,「本件明細書」という。)を請求した。特許庁は,審理
の結果,平成13年7月17日,「訂正を認める。特許第3022545号の請求
項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年8月16日,その謄本を原告に
送達した。
2 本件訂正後の特許請求の範囲(別紙1,2参照)
 「文字,数字,図形などの画像による図柄を,一つの連続した表示領域とされ
るドットマトリクス型ディスプレイ上に複数列でスクロール表示する表示装置を備
え,前記図柄のスクロール動作が停止したときに特定の組み合わせが得られた場合
に,遊技者に所定の遊技条件が付与されるように構成されたパチンコ機において,
  前記表示装置の前記表示領域には,前記スクロール動作が停止したときに,
少なくとも一段については前記図柄の全体が表示され,この全体表示がなされた段
のスクロール方向に隣接する他の段には前記図柄の一部が前記表示領域に含まれて
当該一部が表示されることを特徴とするパチンコ機。」
(判決注・下線部が本件訂正による付加訂正部分である。以下,この本件訂正後
のものを「本件発明」という。)
3 決定の理由
  別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開昭62-4
1680号公報(異議手続の甲第1号証・本訴甲第6号証。以下「引用例」とい
う。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づき,当
業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。
4 決定が認定した,引用発明の内容,本件発明と引用発明との一致点・相違点
(1)引用発明の内容(別紙3,4参照)
 「画像によるシンボルを,各シンボル列表示領域R11~Rklに表示し,C
RT108ディスプレイの管面上に複数列のシンボル列表示領域R11~Rklで上
下移動表示する表示装置を備え,シンボル列のシンボルの上下移動動作が停止した
とき所定の当り組合せが得られた場合に,所定数のコインが払出されるスロットマ
シンにおいて,表示装置の各シンボル列表示領域には,シンボル列の上下移動動作
が停止したときに,その中央部にシンボルの全体が表示され,該シンボルの上下方
向のシンボルはその一部が表示されるスロットマシン。」(決定書5頁6行目~1
3行目)
(2)本件発明と引用発明との一致点
 「文字,数字,図形などの画像による図柄を,ディスプレイ上に複数列でス
クロール表示する表示装置を備え,前記図柄のスクロール動作が停止したときに特
定の組み合わせが得られた場合に,所定の結果が付与される遊技機において,前記
表示装置の表示領域には,前記スクロール動作が停止したときに,少なくとも一段
については前記図柄の全体が表示され,この全体表示がなされた段のスクロール方
向に隣接する他の段には前記図柄の一部が前記表示領域に含まれて当該一部が表示
されていることを特徴とする遊技機。」,である点。」(決定書5頁37行目~6
頁6行目)
(3)本件発明と引用発明との相違点
「相違点A.文字,数字,図形などの図柄を,複数列でスクロール表示する
表示装置を備え,前記図柄のスクロール動作が停止したときに特定の組み合わせが
得られた場合に,遊技者に所定の遊技条件が付与される遊技機として,本件請求項
1に係る発明(判決注・本件発明)は,パチンコ機を特定しているのに対して,上
記刊行物記載の発明(判決注・引用発明)は,スロットマシンである点,
 相違点B.文字,数字,図形などの画像による図柄を複数列でスクロール
表示するディスプレイが,本件請求項1に係る発明は,一つの連続した表示領域と
されるドットマトリクス型ディスプレイであるのに対して,上記刊行物記載の発明
は,一つの連続した表示領域とはなっていないCRTディスプレイである点。」
(決定書6頁7行目~16行目)
(以下,それぞれ「相違点A」,「相違点B」という。)
第3 原告の主張の要点
  決定は,本件発明と引用発明との一致点の認定を誤って相違点を看過し(取
消事由1),相違点Bの認定を誤り(取消事由2),認定した相違点A及びBにつ
いての判断を誤り(取消事由3及び4),その結果,本件発明が,引用発明及び周
知技術から容易に推考できるとした。また,本件発明の顕著な作用効果も看過して
いる(取消事由5)。
  したがって,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点認定の誤り及び相違点の看過)
(1)決定は,「4.対比・判断」の項において,
 「・・・上記刊行物記載の発明(判決注・引用発明)の「シンボル列表示領
域」・・・は,本件請求項1に係る発明(判決注・本件発明)の「表示領
域」・・・に相当する」(決定書5頁33行目~35行目),としている。
(2)しかし,引用発明のシンボル列表示領域は,CRT管面(表示領域)中に
多数区画されて存在する,個々の領域に過ぎない。本件発明の「一つの連続した表
示領域」とは,全く異なるものである。
  したがって,引用発明の「シンボル列表示領域」が,本件発明の「表示領
域」に相当するとの認定は,誤りである。
(3)本件発明の特許請求の範囲においては,あくまで,ドットマトリクス型デ
ィスプレイ全面が,一つの連続した表示領域とされている。このうちの,一つの列
が単位となり,それらが結合して一つの連続した表示領域となる,という概念は記
載されていない。「一つの連続した」と「表示領域」は,不可分のものである。
  決定の認定は,本件発明の一つの連続した表示領域を,無理矢理個々の要
素に分解して把握しているものであって,不合理である。
(4)後記のとおり,引用発明においては,CRT管面が,一つの連続した表示
領域となっている。
  したがって,一致点の認定における「表示領域」が,一つの連続した表示
領域,すなわちドットマトリクス型ディスプレイの全面を指す,という前提に立つ
とすれば,本件発明と引用発明とは,「全体表示がなされた段のスクロール方向に
隣接する他の段の図柄が,本件発明では,その一部が一つの連続した領域に含まれ
て(つまり,他の部分がはみ出して)当該一部が表示されるのに対し,引用発明で
は,全部が一つの連続した表示領域に含まれて(はみ出すことなく)当該一部が表
示されることになる」点で相違することになる。しかるに,決定は,一致点の認定
を誤り,この相違点を看過している。
2 取消事由2(相違点Bの認定の誤り)
(1)前記のとおり,決定は,相違点Bの認定において,引用発明は,一つの連
続した表示領域とはなっていないCRTディスプレイである,としている。
  しかし,引用例の図1から明らかなとおり,引用発明のCRT管面は,一
つの連続した表示領域となっている。まず,この点で,決定の認定は誤りである
(2)引用発明では,一つの連続した表示領域の中に,多数のシンボル列表示領
域を形成して,個々のシンボル列表示領域の中においてのみ,シンボルを表示でき
るようになっている。
  引用発明の構成では,例えば,CRT管面の境界部位にまで,シンボルが
表示されることはない。これに対し,本件発明では,ドットマトリクス型ディスプ
レイから成る表示装置の表示領域を,一つの連続した表示領域として使用し,この
単一の表示領域内で,図柄を表示するようにしているから,ディスプレイ全体を表
示領域として使用できる。
  両者の表示態様を,同一視することは不可能である。
  このように,本件発明における,一つの連続した表示領域における図柄の
表示態様と,引用発明における小さく区画された表示領域における図柄の表示態様
との差異は,重大な相違点である。しかし,決定は,この相違点について何も言及
していない。
3 取消事由3(相違点Aについての判断の誤り)
(1)決定は,
 「・・・相違点Aについて検討すると,本件の出願前,パチンコ機の技術
分野において,文字,数字,図形などの図柄を,複数列でスクロール表示する表示
装置を備え,前記図柄のスクロール動作が停止したときに特定の組み合わせが得ら
れた場合に,遊技者に所定の遊技条件が付与されるように構成されたパチンコ機
は,例示する迄もなく,慣用の技術事項であって,このようなパチンコ機は,パチ
ンコ機にスロットマシンの機能を結合させたものであるから,パチンコ機における
スロットマシンの機能を奏する構成部分は,必要に応じてスロットマシンの技術か
ら転用できるというべきである。
  そうすると,相違点Aにかかり,スロットマシンを対象とする刊行物記
載の発明(判決注・引用発明)を転用して,パチンコ機を対象とする本件請求項1
に係る発明(判決注・本件発明)のようにすることは,当業者が容易に想到できる
ことである。」(決定書6頁18行目~28行目)
 と説示している。
(2)スクロール表示を前提としているパチンコ機において,スロットマシンの
機能を果たすあらゆる構成部分(技術)を,必要に応じて転用できるというのは,
あまりに飛躍した論理である。
  パチンコ機とスロットマシンは,遊技形態が全く異なり,そのため,各機
器の構造も大きく異なる。例えば,パチンコ機は,パチンコ玉を遊技盤面に発射
し,その挙動を楽しむものであり,そのための領域が遊技領域となるから,その中
に表示装置を設ける場合,この表示装置の大きさは自ずと限られたものとなる。こ
れに対し,スロットマシンは,表示装置(回胴)の回転及び停止を楽しむものであ
るから,この表示装置(回胴)の大きさには,相当の余裕をもたせることができ
る。
  このような違いがあるのであるから,スロットマシンの技術を,当然に,
パチンコ機に転用できるものではない。
  本件発明は,パチンコ機の表示装置の大きさに制約があるということに鑑
み,表示領域を細かく分割せずに一続きの領域とし,かつ,その限られた表示領域
にさしかかる隣接図柄の一部を表示する,という構成に到達したのである。しか
し,引用発明には,そのような発想も必要もない。
(3)決定で引用されている実願昭61-21712号(実開昭62-1336
85号)のマイクロフィルム(甲第7号証。以下「甲7公報」という。),実願昭
62-79990号(実開昭63-188077号)のマイクロフィルム(甲第8
号証。以下「甲8公報」という。)及び実願昭62-156561号(実開平1-
62881号)のマイクロフィルム(乙第1号証。以下「乙1公報」といい,これ
に記載された発明を「乙1発明」という。)は,単に,ドットマトリクス型ディス
プレイを備えたパチンコ機を開示しているにすぎない。スロットマシンの遊技機能
を転用することについて,一言も触れていない。パチンコ機の形態(構造上の自由
度等)に合わせて,スロットマシンの遊技機能をパチンコ機に適合させることな
ど,何ら開示していない。
(4)スロットマシンは,もともと機械式であり,表示窓をとおしてシンボル列
表示領域(装置としてはリール・回胴)の図柄を見せるものであるから,当たりラ
インの上下の図柄も自ずと見える。引用発明は,この機械式のものをCRTで表示
するものである。
  しかし,パチンコ機においては,そもそも大当たりに無関係な図柄を表示
するという発想そのものが存在しなかったのであり,当たりラインの上下の図柄の
一部が見えるという,スロットマシンの構成を,パチンコ機の表示装置で採用しよ
うという発想も,容易には出てこない。
4 取消事由4(相違点Bについての判断の誤り)
(1)決定は,
 「相違点Bについて検討すると,本件の出願前,パチンコ機の表示装置と
して,ドットマトリクス型ディスプレイは,周知技術(例えば,実願昭61-21
712号(実開昭62-133685号)のマイクロフィルム(判決注・甲7公
報),実願昭62-156561号(実開平1-62881号)のマイクロフィル
ム(判決注・乙1公報),実願昭62-79990号(実開昭63-188077
号)のマイクロフィルム(判決注・甲8公報)にすぎず,また,複数列でスクロー
ル表示するディスプレイとして一つの連続した表示領域を形成したドットマトリク
ス型ディスプレイは,表示装置として慣用技術(例えば,特開昭52-11702
9号公報(判決注・乙第2号証。以下「乙2公報」という。),特開昭60-20
5578号公報(判決注・甲第9号証。以下「甲9公報」という。),特開昭62
-157091号公報(判決注・甲第10号証。以下「甲10公報」という。))
である。
  そうすると,相違点Bにかかり,上記刊行物記載の発明の一つの連続し
た表示領域とはなっていないCRTディスプレイに代えて一つの連続した表示領域
を形成したドットマトリクス型ディスプレイを採用して,本件請求項1に係る発明
(判決注・本件発明)のようにすることは,当業者であれば容易に想到できること
である。」(決定書6頁29行目~7頁5行目)
 としている。
(2)前記のとおり,引用発明において,そのCRT管面は一つの連続した表示
領域であり,その中に,多数のシンボル列表示領域が形成されている。
  したがって,一つの連続した表示領域を形成したドットマトリクス型ディ
スプレイが周知技術であっても,本件発明の構成である,一つの連続した表示領域
の全体表示がなされた段のスクロール方向に隣接する他の段に,図柄の一部が前記
表示領域に含まれて当該一部が表示される,という構成に想到することは,容易で
はない。
  換言すると,引用発明の,一つの連続した表示領域(CRT管面)を多数
のシンボル列表示領域としたものを,一つの連続した表示領域であるドットマトリ
クス型ディスプレイに適用したとしても,一つの連続した表示領域であるドットマ
トリクス型ディスプレイを多数のシンボル列表示領域とすることに想到できるだけ
である。これは,本件発明の構成と全く異なる。
  表示領域を結合して一つの連続した表示領域を形成することが容易である
などというのは,本件発明をみた後でなされた,こじつけにすぎない。
(3)前記のとおり,パチンコ機においては,表示装置の占有領域が限られてお
り,その中で,図柄の表示をダイナミックに演出する必要がある。そのような思想
は,表示装置を大きくできるスロットマシンを前提にした引用例からは見出せな
い。すなわち引用発明には,本件発明の構成に想到するための技術思想の一つであ
る,一つの連続した表示領域を極限まで利用し切るという技術思想は,開示されて
いないのである。
(4)被告は,当業者が,引用発明から,水平方向に複数列にわたって多数のシ
ンボル列表示領域が配置される構成に着目するのは当然である,と主張する。しか
し,引用発明は,縦方向にもシンボル列表示領域を設けたことを特徴としているの
であって,水平方向の配列だけに着目する理由はない。
5 取消事由5(顕著な作用効果の看過)
  本件発明は,表示装置の面積が限られるというパチンコ機特有の制約の下,
そのディスプレイの限られた表示面積を極限まで利用しつつ,図柄の表示をダイナ
ミックかつ多彩に演出し,遊技者の興趣を高める,という優れた作用効果を奏する
ものである。
  甲9公報,甲10公報及び乙2公報には,パチンコ機に関する記載はなく,
ましてや,パチンコ機特有の図柄表示に際しての演出,興趣の向上といった点につ
いては,開示も示唆もないのであって,本件発明は,どの先行技術からも予測でき
ない有利な効果を奏するものである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点認定の誤り及び相違点の看過)
に対して
(1)引用発明の,複数列のシンボル列表示領域R11~Rklを構成する要素で
ある個々のシンボル列表示領域は,本件発明における,複数列の図柄がスクロール
表示される一つの連続した表示領域を構成する要素である,図柄がスクロール表示
される表示領域(一つの列),に相当するものである。
  そこで,決定は,引用発明における個々のシンボル列表示領域が,上記本
件発明の表示領域(一つの列表示領域)に相当する,と認定したものであって,原
告が主張するように,引用発明のシンボル列表示領域が,本件発明の,一つの連続
した表示領域に相当する,などと認定したものではない。
(2)本件発明では,物理的に形成された表示領域と図柄(シンボル)の表示作
用が実際になされる表示領域が一致するのに対し,引用発明では,物理的には一つ
の連続した表示領域となっているCRT管面の全領域が,図柄を実際に表示する表
示領域とはなっていない。CRT管面の中の,多数区画された個々のシンボル列表
示領域においてのみ,シンボルが表示されるようになっている。
  決定は,この点を踏まえ,実際にシンボル(文字,数字,図形などの図
柄)が表示される領域に着目し,表示領域の認定を行ったものである。
  そして,決定は,相違点Bとして,一つの連続した表示領域の有無に係
る,本件発明と引用発明との相違を摘示している。
  決定には,原告が主張するような一致点認定の誤りも,相違点の看過もな
い。
2 取消事由2(相違点Bの認定の誤り)に対して
  1で述べたとおり,決定は,実際にシンボルが表示される領域に着目し,引
用発明における表示領域の認定を行っている。この表示領域,すなわちシンボル列
表示領域は,CRT管面上に,連続することなく,複数設けられているから,一つ
の連続した表示領域となっていない。相違点Bは,このことを摘示している。
  CRT管面が,物理的に一つの連続した表示領域となっているとしても,そ
のことと,決定が相違点Bとして,表示領域(個々のシンボル列表示領域)が一つ
の連続した表示領域になっていないと認定することに,何ら矛盾はない。
3 取消事由3(相違点Aについての判断の誤り)に対して
  決定は,図柄を複数列でスクロール表示できる表示装置を備え,スロットマ
シンの機能を結合させたパチンコ機が,慣用の技術事項であることを前提に,この
ように,スロットマシンの機能を併せ持ったパチンコ機が存在することから,スロ
ットマシンに関する引用発明の構成の一部を,パチンコ機に転用できる,としたも
のである。根拠もなく,スクロール表示を行う表示装置を備えたスロットマシンの
技術を,パチンコ機に転用できる,としたものではない。
  なお,スロットマシンにおける機械的回転表示装置や電気的可変表示装置を
備えたパチンコ機は,乙第3号証ないし第5号証にも開示されている。
4 取消事由4(相違点Bについての判断の誤り)に対して
(1)決定は,文字等を,複数列でスクロール表示するディスプレイであって,
一つの連続した表示領域を形成しているドットマトリクス型ディスプレイが,表示
装置として慣用技術であることを前提に,引用発明における,複数列で図柄が表示
されるものの,表示領域(個々のシンボル列表示領域)が一つの連続した表示領域
となっていないCRTディスプレイを,一つの連続した表示領域を形成したドット
マトリクス型ディスプレイにすることが,容易推考である,としたものである。
(2)乙1公報には,図柄を複数列でスクロール表示する表示装置を備えたパチ
ンコ機が開示されており,これは,周知慣用のものである。
(3)一つの連続した表示領域を形成したドットマトリクス型ディスプレイが慣
用技術であることは,乙2公報に開示されている。
  そして,乙2公報は,このようなドットマトリクス型ディスプレイが,表
示内容の位置をドット単位で連続的に移動させることができるので,内容が見やす
く,限られた表示画面の全面積を表示に使用できるため多くの文字等を表示でき,
好都合であることも開示している。
(4)スロットマシンの技術分野において,シンボルをマトリクス配置すること
が一般的であるのに対し,パチンコ機の技術分野においては,マトリクス配置のほ
か,水平方向にのみ配置することも一般的である。
  そうすると,乙1公報に開示された,周知慣用のパチンコ機を知る当業者
が,引用発明における,CRTディスプレイ上に表示された多数のシンボル列表示
領域を見て,そのマトリクス配置の水平方向にわたる配置に着目し,その一段につ
いては図柄の全体が表示され,この全体表示がなされた段のスクロール方向に隣接
する他の段には前記図柄の一部が前記表示領域に含まれて当該一部が表示される,
シンボル列表示領域を複数列にわたって配置する表示装置として,乙2公報の一つ
の連続した表示領域を形成したドットマトリクス型ディスプレイを採用すること
は,容易に推考できることである。
(5)原告は,引用例には,一つの連続した表示領域を限界まで使い切るという
発想はない,と主張する。
  しかし,引用発明は,その表示領域において,一段については図柄の全体
が表示されるとともに隣接する他の段には図柄の一部が表示されるという構成を有
している。この構成を,パチンコ機に適合する形で採用することは,当業者が当然
考えることである。
  そして,前記のとおり,限られた領域にできるだけ多くの文字,数字を表
示できるドットマトリクス型ディスプレイは,乙2公報に開示されている。そのド
ットマトリクス型ディスプレイを,引用発明において採用すれば,原告が主張する
ような作用効果を奏することができるのは,当然である。
(6)以上のとおりであるから,相違点Bについての判断にも,誤りはない。
5 取消事由5(顕著な作用効果の看過)に対して
  本件明細書には,図柄の表示をダイナミックに演出するという効果自体の記
載がない。ましてや,そのような効果が,いかなる構成から生じるかの記載もな
い。
  また,原告が主張する上記作用効果は,パチンコ機に適用可能な引用発明の
構成を,乙2公報を参酌して,限られた領域にできるだけ多くの図柄を表示すると
いう慣用技術を用いつつ,パチンコ機に採用することにより,当業者が容易に予測
できることにすぎない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点認定の誤り及び相違点の看過)
について
(1)本件明細書には,以下の記載がある(甲第4号証)。
ア「・・・図柄を,一つの連続した表示領域とされるドットマトリクス型デ
ィスプレイ上に複数列でスクロール表示する表示装置」(請求項1)
イ「【0002】
  【従来の技術】
  従来,・・・こうしたタイプのパチンコ機の表示装置は,・・・最近で
はLEDによるドットマトリクス型ディスプレイを組込んだ構成のものが多い。例え
ば,5×7のドット数を持つLEDディスプレイパネルを3個並列させ,これによって
各桁の数字等の図柄を表示するようにするものがあった。」(甲第4号証中の全文
訂正明細書1頁17行目~26行目)
ウ「【0027】
  ・・・そしてLEDディスプレイパネル・・・よりなる表示装置19では,
マイクロコンピュータから出力される表示データに基づいて,所定の表示がなされ
るようになっている。具体的には図1に示すように,スロットルマシンのドラムの
回転を模して,図柄(数字あるいは所定の模様)が,表示装置19のディスプレイ
上に3列表示されるようになっている。これら図柄は始動口16~18への入賞に
伴って各桁毎に所定の速度で縦方向へ読取り不能な速度でスクロールしてゆく。」
(同8頁18行目~29行目)
エ「・・・スクロール動作が停止した時には,図1に示すように,各列の中
央の段には図柄の全体が表示され,その上下に隣接する段には図柄の一部,つまり
図柄の下半分あるいは上半分が表示されるようになっている。」(同9頁5行目~
7行目)
オ「【0029】
  ・・・本実施形態では図柄を縦方向へスクロールさせることができ,こ
れによってスロットルマシンにおけるスロットルの回転を表すような表示・・・も
可能となる。」(同9頁22行目~10頁2行目)
  以上の記載によれば,本件発明は,「一つの連続した表示領域」が縦方向
に区分された列複数個から構成され,その「区分された列」の各々において,図柄
を「スクロール表示」すると共に,スクロール動作の停止時には,少なくとも一つ
の段(例えば中央の段)に図柄の全体を表示し,その上下に隣接する段に図柄の一
部を表示する,というスロットマシンを模した表示装置を備えるパチンコ機である
ことが認められる。
  そして,この「区分された列」が,一つの連続した表示領域として構成さ
れているとしても,その縦スクロールという表示作用に着目すれば(この表示作用
は,スロットマシンのそれを模しており,一つの列と他の列の表示作用は相互に独
立し,列単位でなされるものである。),この「区分された列」を,当該一つの連
続した表示領域を構成する要素として把握することは容易である。
(2)引用例には,以下の記載等がある(甲第6号証)。
ア「第1図はビデオ式スロットマシンのCRT管面の正面図で,k×l個
(K,lは2以上の整数)シンボル列表示領域R11~Rklがマトリクスに平行配
置されている。各表示領域R11~Rklでは・・・シンボル列が,一定方向に移動
自在に表示される」(甲第6号証3頁左上欄16行目~右上欄3行目)
イ 第1図及び第5図には,各シンボル列表示領域において,シンボルの移
動動作停止時に,中央の段に図柄の全体を表示し,その上下に隣接する段に図柄の
一部を表示する表示態様が,見て取れる。
  以上によれば,引用例には,シンボル列表示領域の各々において,シンボ
ルが「縦方向に移動動作」をすると共に,移動動作の停止時には「中央の段に図柄
の全体を表示しその上下に隣接する段に図柄の一部を表示する」というビデオ式ス
ロットマシンが記載されている。
(3)そうすると,図柄(シンボル)の移動動作の共通性(スクロール表示),
及び,移動動作停止時の図柄の表示態様の共通性(一段については図柄の全体が表
示され,その上下の段においては,図柄の一部が表示されている。)において,引
用発明の「シンボル列表示領域」は本件発明の上記「区分された列」に相当するこ
とが認められる。
  決定は,本件発明の上記「区分された列」を「表示領域」と称した上で,
引用発明の「シンボル列表示領域」が,この「表示領域」に相当すると対比判断を
したものであり,この判断に誤りがあるとはいえない。
(4)原告は,この対比判断は誤りであると主張する。
ア 原告は,本件発明の「表示領域」とは,「一つの連続した表示領域」を
意味するものであり,引用発明の「シンボル列表示領域」とは全く異なるものであ
ると主張する。
  しかし,決定が,相違点Bとして,「一つの連続した表示領域」がある
か否かという点を認定していることからすれば,一致点における「表示領域」を本
件発明の「表示領域」(一つの連続した表示領域)とは異なる意味で使用している
ことは明らかである。決定が,本件発明の上記「区分された列」を「表示領域」と
称して対比判断したものであることは上記のとおりであり,原告の主張は,その前
提を欠き失当である。
イ 原告は,本件発明の「一つの連続した」と「表示領域」とは,不可分な
ものである,と主張する。
  しかし,本件発明における個々の「区分された列」を,一つの連続した
表示領域を構成する要素として容易に認識し得ることは,既に述べたとおりであっ
て,無理矢理に個々の要素に分解して把握しているものではなく,原告の上記主張
は,採用することができない。
(5)以上のとおりであるから,決定の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点Bの認定の誤り)について
(1)相違点Bは,前記のとおり,「・・・図柄を複数列でスクロール表示する
ディスプレイが,本件請求項1に係る発明は,一つの連続した表示領域とされるド
ットマトリクス型ディスプレイであるのに対して,上記刊行物記載の発明は,一つ
の連続した表示領域とはなっていないCRTディスプレイである点」である。
  この相違点を,さらに分析すると,二つの要素が盛り込まれている,と認
められる。すなわち,表示領域が一つの連続した領域となっているか否か,という
点と,表示装置が,ドットマトリクス型ディスプレイであるか,CRTディスプレ
イであるか,という点である。
(2)本件発明が,表示装置として,一つの連続した表示領域となるドットマト
リクス型ディスプレイを用いていること,引用発明が,表示装置としてCRTディ
スプレイを用いつつ,そこに表示されるシンボル列表示領域は,連続していないか
ら,このCRTディスプレイは,一つの連続した表示領域となっていないことは,
1において引用した本件明細書,引用例の記載(特に第1図)から明らかである。
  したがって,決定の相違点Bの認定に誤りはない。
(3)原告は,引用発明のCRT管面は,一つの連続した表示領域となってお
り,この点で,決定の相違点Bの認定には誤りがある,と主張する。
  物理的に,CRT管面は,一つの連続した表示領域であり,実際の表示態
様においても,一つの連続した表示領域となり得る。しかし,上記のとおり,引用
発明において,個々のシンボル列表示領域は,互いに離隔して配置されており,連
続していない。決定は,この点,すなわち表示態様の差異に着目し,相違点Bとし
て指摘したことは,既に述べたところから明らかである。そして,このことと,C
RT管面が物理的に一つの連続した表示領域となることとは,何ら矛盾しない。
  原告の主張は,失当である。
(4)原告は,本件発明と引用発明との表示態様を同一視することはできない,
と主張し,その具体的な事由として,①前者はディスプレイ全体を表示領域として
使用できるのに,後者ではそうでないこと(CRT管面の境界部位(端部)に,シ
ンボルが表示されることはない。),②一つの連続した表示領域における図柄の表
示態様と,小さく区画された表示領域における図柄の表示態様とは異なること,を
挙げる。
  ①について,引用発明においてディスプレイ全体を表示領域として使用で
きないのは,シンボル列表示領域が離隔している(連続していない)からであっ
て,この点は,相違点として摘示されている。CRT管面の境界部位にシンボルが
表示できないことについては,確かに引用例の第1図には,そのような実施例が記
載されているものの,引用発明が,CRT管面の境界部位にシンボルを表示する態
様を排除しているとは,認められない。もし,CRT管面の境界部位は歪みが大き
く,図柄の表示に適さないため,表示領域として使用されないというのであれば,
このCRT管面をドットマトリクス型ディスプレイ(正確には,例えば本件発明の
実施例として挙げられているような,平面ディスプレイ)に変更すれば,当然解決
でき,この表示装置の相違も,相違点Bにおいて摘示されている。
  ②について,そもそも,原告は,表示態様にどのような差があるのかにつ
いて,具体的に主張していない。もっとも,本件明細書には,
「【0005】
 【作用】
  本発明によれば,少なくとも縦方向については,従来よりも表示領域
が拡大されたため,使用する正規のフォントを複数段に表示させることができ,従
来よりも図柄の表示バリエーションを拡大させうる。
 【0006】
 【発明の効果】
  本発明の効果は次のようである。ディスプレイは少なくとも縦方向に
関しては,複数段の図柄表示をなしうるような連続した表示領域が設定されている
ため,文字による表示あるいは複雑な図柄表示さらにはこれらの組み合わせ表示も
可能である等,多彩な表示によって,より一層の興趣が高められる。」(甲第4号
証中の全文訂正明細書2頁20行目~3頁1行目)
 との記載がある。
  表示領域を一つの連続した表示領域とする場合,この表示領域はより多数
のドット(画素)が,一団のものとして構成されるから,少ないドットから成る表
示領域では表示できないような,例えばより精密な図柄,複雑な図柄の表示が可能
となること,また,図柄を移動しつつ表示することについても,より広範な範囲
や,より円滑な移動ができるようになることは,いずれも,明らかである。上記の
本件明細書の記載及び原告の主張は,このようなものであると理解される。
  しかし,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「少なくとも一段について
は前記図柄の全体が表示され,この全体表示がなされた段のスクロール方向に隣接
する他の段には前記図柄の一部が前記表示領域に含まれて当該一部が表示される」
というものである(これは,引用発明におけるシンボル列表示領域における表示と
同一である。)。それ以外に,原告が主張している多彩な表示の具体的な態様は,
本件発明を特定する特許請求の範囲に係る文言に,全く記載されていないのであ
る。
  したがって,本件発明と引用発明との相違点として,表示領域が一つの連
続したものとなっているか否かということのほかに,表示態様の違いを摘示しない
ことが,相違点の看過ないし認定の誤りである,ということはできない。
3 取消事由3(相違点Aについての判断の誤り)について
(1)乙1公報には,次の記載がある(別紙5,6参照)。
ア「従来,特定の入賞口にパチンコ球が入ったときに,パチンコ遊戯機の遊
戯面中央部に設けた表示装置の一連の絵柄或は数字表示を変化させ,変化が停止し
たときの一連の絵柄或は数字の並びが予め特定した絵柄或は数字の並びになったと
きに,大入賞口を開にして,入賞し易いようにしたパチンコ遊戯機としては,一般
的に遊技面中央に絵合せ,数字合せ用モータ駆動のドラム式回転体或は7セグメン
トLEDを横一列に適数個並べて取付けている。」(乙第1号証2頁1行目~10行
目)
イ「(考案が解決しようとする問題点)
  この場合,これら横一列に並べられて表示装置を形成する個々の回転体
或は,LEDは互いに独立していることもあって,表示の変化を楽しむことができない
と言う欠点があった。」(同号証2頁11行目~15行目)
ウ「(実施例)
  ・・・第1図~第3図に示すように,・・・遊戯面2の中央部には特に
第3図に示す表示器25,この場合,文字,数字を含む画素子としてのドットLEDを
5列7行に配列したドットマトリクスLED26を横一列に3個配列した表示器25が
取付けられ,」(同号証3頁5行目,4頁1行目~5行目)
エ「図柄変動中或は大入賞口16開放中において各始動口12,13,14
にパチンコ球が落入したか否かが判定され,落入しなかった場合・・・図柄表示ル
ーチンに移行し,落入した場合において・・・図柄変動回数SCNTが図柄変動終了の
度にSCNT-1にセットされ,・・・図柄表示ルーチンに移行する。」(同号証12
頁4行目~18行目)
 「図柄表示ルーチンでは,・・・ステップ121で左図柄に対応したドッ
トマトリクスLED26で文字の高速回転処理が行われ,・・・中速回転処理が行わ
れ,・・・低速回転処理が行われ,・・・左回転停止処理が行われた後,・・・図
柄表示ルーチンに戻る。」(同号証12頁19行目~14頁14行目)(中図柄及
び右図柄についても同様の記載がある。)
 「この場合におけるドットマトリクスLED26上の図柄の変化態様を第17
図に示す。・・・図柄表示は次のようにして行われる。・・・該当するレジス
タ・・・H,L(1或は0)制御され,特定の行,特定の列のLEDドットが点灯さ
れ,これが組合わされて予め設定された図柄,例えば”7”等が表示され,更
に,・・・各ドットマトリクスLED26別回転表示,或は後述の流れ表示が行われ
る。」(同号証18頁6行目~19頁1行目)
  同号証の第17図には,上方向に,「-7-6-4-」と流れる表示
(スクロール表示)が例示されている。
オ「・・・本実施例の場合,表示器25にドットマトリクスLED26を用いた
状態において,・・・複数個のドットマトリクスLED26からなる表示装置全体で1
つの絵或は数字を表したり,絵,数字或は文字を電光表示盤のように回転体或はド
ットマトリクスLED配列の縦・横方向に適宜移動させて,・・・又は,表示されるデ
ータを経時的に変化させて,遊戯者に常に適切な情報を提供し,遊戯者に安心して
パチンコ遊戯を楽しんでもらうことができる。」(同号証25頁2行目~18行
目)
(2)乙第4号証(実開昭60-168876号公報)には,以下の記載がある
(別紙7参照)。
 「〔従来技術〕
  パチンコ機などにおいては,・・・いわゆるスロットマシンを応用した
入賞球装置が人気を呼んでいる。スロットマシンを応用した前記入賞球装置は,特
定のセーフ穴に入賞が発生すると,・・・リールを回転させ,これらが停止した時
の各シンボルマークの組合せが所定のものである場合に,例えばアタッカーを30
秒間開いて入賞を得やすくするなどの特典を与えるように構成されている。」(乙
第4号証2頁13行目~3頁8行目)
(3)乙第5号証(実開昭61-124679号公報)には,以下の記載がある
(別紙8)。
ア「〔従来技術〕
  パチンコ機に使用されている・・・入賞球装置として最近広く用いられ
ているものに,スロットマシンを流用したものがある。このスロットマシンタイプ
の入賞球装置では,・・・各リールの回転が停止した時にそれぞれのシンボル,す
なわちシンボルマークや数字の組み合わせが入賞に該当していると,アタッカが開
放され入賞が得やすい状態となる。・・・スロットマシンタイプの入賞球装置の中
には,リールを使用する代わりに7セグメント配列の発光ダイオードからなる表示
素子を利用して,シンボルとして数字を表示するようにしたものもある。」(乙第
5号証3頁2行目~4頁3行目)
イ「従来のスロットマシンタイプの入賞球装置・・・では,その3個の表示
部が横一列に並べられて入賞シンボル表示部を構成している。そして入賞の判定
は,この入賞シンボル表示部に表示されているシンボルの組み合わせに基づいて行
われることになるが,遊技者にとっては,前記入賞シンボル表示部に表示されてい
るシンボルだけしか観察できないようになっている。したがって,通常のスロット
マシンのように,入賞シンボル表示部に表示されたそれぞれのシンボルの前後に位
置しているシンボルを知ることができないため,ゲーム性に欠けるという欠点があ
る。特に,発光ダイオードなどを利用した表示素子でシンボルを表示するようにし
たものでは,どのような配列でシンボル表示が行われているかを識別することがで
きない。」(同号証4頁7行目~5頁3行目)
ウ「〈問題を解決するための手段〉
  上記の目的を達成するために,本考案では,・・・入賞シンボル表示部
を形成する第1シンボル表示部に隣接して,この第1シンボル表示部と並行してシ
ンボルの表示動作を行う第2シンボル表示部を設けたものである。
  本考案の望ましい実施例によれば,前記第2シンボル表示部には,第1
シンボル表示部に表示されたシンボルと隣接関係にあるシンボルが表示され,通常
のスロットマシンと同様の興趣を楽しむことができるようになっている。」(同号
証5頁10行目~6頁1行目)
エ「表示装置8は,第3図に示したように,7セグメント配列の発光ダイオ
ードからなる表示素子10a~10c,11a~11c,12a~12cを,マト
リクス配列することにより構成されている。・・・メモリA内の表示データは表示
素子10a~10cに,・・・順次供給されるので,例えば表示素子10a~10
cには,メモリAに格納された表示データの配列にしたがって,順次に流れるよう
にシンボルが移動表示されるようになる。」(同号証6頁10行目~7頁20行
目)
オ「〔考案の効果〕
  ・・・本考案の入賞表示装置においては,・・・遊技者は入賞シンボル
表示部に表示されたシンボル以外に,その前後に位置しているシンボルをも観察で
きるようになり,遊技者は一般のスロットマシンとほぼ同様の興趣を楽しむことが
できる。」(同号証12頁8行目~17行目)
(4)以上によれば,パチンコ機の表示装置にスロットマシンの表示を転用する
こと,ドットマトリクス型ディスプレイを備え,スロットマシンの回転動作を模し
たシンボルの移動動作(スクロール動作)を表示するパチンコ機とそれにおいてス
ロットマシンと同様の興趣を楽しめるようにすること,のいずれも,本件出願時,
慣用の技術である,と認められる。
  そうすると,図柄を,複数列でスクロール表示するドットマトリクス型表
示装置を備え,図柄のスクロール動作が停止したときに特定の組み合わせが得られ
た場合に,遊技者に所定の遊技条件が付与されるように構成されたパチンコ機,す
なわち,スロットマシンの機能を結合させたパチンコ機は,本件出願時,慣用技術
であった,と認められる。
(5)このような慣用技術が存在する以上,引用発明のスロットマシンの機能に
係る技術を,パチンコ機の表示装置に転用することに想到することは,当業者が極
めて容易にできることである,と認められる。
  したがって,相違点Aについての決定の判断に誤りはない。
(6)原告は,スロットマシンとパチンコ機とでは,遊技形態が全く異なり,そ
のため,図柄の表示装置の大きさの制約等に差があるから,スロットマシンの技術
を当然にパチンコ機に転用できるとはいえない,と主張する。
  スロットマシンの機能を結合させた(転用した)パチンコ機が,現実に慣
用技術であったことは,上記のとおりである。現実に転用したパチンコ機が慣用の
ものである以上,原告の主張は,この点において既に失当である。
  スロットマシンとパチンコ機とでは,図柄の表示装置(スロット部)の大
きさの制約に差があることは,原告が指摘するとおりである。しかし,そのような
ことは,当業者が当然に認識していることであり,パチンコ機において,パチンコ
玉を挙動させるための十分広い領域を確保できるように,図柄の表示装置を適宜小
さくする程度のことは,当業者が当然にする設計的事項にすぎない,というべきで
ある(本件明細書も,表示装置ないし表示領域の大きさ自体を具体的に規定するこ
とはしていない。)。
  原告の主張は,採用できない。
(7)原告は,パチンコ機においては当たり判定に関係のない図柄を表示する,
という発想がなかったから,スロットマシンの構成を,パチンコ機の表示装置で採
用しようという発想も容易に出てこない,と主張する。
  しかし,前記のとおり,乙第5号証には,当たり判定に関係のない図柄も
遊技者に見せることとし,遊技者の興趣を高める,ということが記載されている。
すなわち,スロットマシンの構成を忠実に,パチンコ機に結合させることが開示さ
れているのである。原告の主張は採用できない。
4 取消事由4(相違点Bについての判断の誤り)について
(1)表示装置として,CRTディスプレイ,ドットマトリクス型ディスプレイ
のいずれも,慣用の装置であり,前記のとおり,パチンコ機の表示装置において,
ドットマトリクス型ディスプレイを採用することは,乙1公報及び乙第5号証に開
示されており,慣用のものである。
  したがって,引用発明のCRTディスプレイをパチンコ機において採用す
る際,このCRTディスプレイをドットマトリクス型ディスプレイに変更すること
は,単なる設計事項である,と認められる。
(2)次に,引用発明の相互に離隔したシンボル列表示領域を,一つの連続した
表示領域にすることの容易推考性について検討する。
  乙2公報には,以下の記載がある(別紙9参照)。
ア「従来のX-Yマトリクス形デイスプレイ装置の表示画面の概略図を第1
図により説明すると,・・・5×7ドツト(図示の場合)・・・の絵素で構成され
た1文字単位の表示素子2が各々X及びY方向共に適度な間隔を置いて並べられて
いる。・・・この様な表示の上下移動は行単位で行われる為,間歇的且つ不連続と
なり例えば文字を連続して表示する際には非常に読みにくいという欠点があつ
た。」(乙第2号証2頁左上欄1行目~16行目)
イ「本発明は上述の如き従来の装置に存する欠点を除去し,表示絵素を構成
するドツトが,X-Y方向に等間隔に配列されている表示画面上に横一列に表示さ
れている文字,記号等の表示パターンをそのまま上下方向に対してドット単位で移
動させる事により表示が滑らかに移動する事を特徴とする・・・」(同号証2頁左
上欄17行目~右上欄3行目)
ウ「第2図は・・・本実施例に於ては,1文字の絵素として5×7ドツト方
式を採用している為,Y方向にはn個のドツトが並び一方,X方向に対して5個を
1組としてm組,合計5m個のドツトが並んで各々行列状に配置されている。」
(同号証2枚目右上欄5行目~12行目)
エ「本方式によれば・・・内容が非常に見易いという大きな特長を持ち,且
つ,限られた表示画面の面積全部を表示に使用し且つ外部からの入力データを連続
的に表示する事が可能な為,・・・」(同号証3頁右下欄16行目~4頁左上欄2
行目)
(3)以上のとおり,乙2公報には,従来,文字パターンを表示できる単位とな
る,複数の表示素子を間隔を置いて行列状に配置していた構成に代え,この単位表
示素子を隙間なく配置し,かつ,文字パターンを,行単位ではなくドット単位で上
下に移動させることにより,表示が見易く,かつ,限られた表示画面の面積全部を
有効に使用することが開示されている。
  乙1発明に代表されるような,図柄の表示部を備える,慣用技術たるパチ
ンコ機においても,表示が見やすく,かつ,限られた表示面積を有効に活用できる
ことが望ましいこと(原告が主張するとおり,パチンコ機では,スロット部の表示
領域の大きさに制約があるからである。)は明らかであるから,乙1公報の第3図
に示されるようなドットマトリクスLED26(5行7列)を横一列に間隔をおいて3
個配列した表示器25において,この3個のドットマトリクスLED26を間隔を置く
ことなく横一列に配列し,「一つの連続した表示画面」とすることは,当業者が上
記乙2公報の開示事項を参照して,容易になし得るというべきである。
  引用発明のCRTディスプレイをドットマトリクス型ディスプレイに変更
したものにおいても,同様の理由から,離隔して設けられているシンボル列表示領
域を,連続したものにすることは,容易に推考できるものと認められる。
(4)原告は,引用発明のCRTディスプレイにおいて,水平方向の配列だけに
注目すべき理由はない,と主張する。
  しかし,スロットマシンの構成として,縦方向に移動するシンボルを表示
するシンボル列表示領域を,横方向(水平方向)に複数個(通常三つ)並べる構成
は慣用の,最も基本的な構成のうちの一つである(甲第6号証の第7図,第8図の
ほか,乙第3号証の第3図,乙第5号証の第5図参照)。そして,原告が主張する
とおり,パチンコ機においては,その遊技面上のパチンコ玉を挙動させる領域を広
くとるため,当該遊技面上に設けられる表示装置の大きさに制約があり,そのこと
は,当業者にとって自明のことと認められる。
  そうすると,引用発明の表示装置を,パチンコ機に適用するに際し,そこ
から,スロットマシンとして最も基本的な構成の一つであり,かつ,占有面積も小
さくて済む,シンボル列表示領域を水平方向に一段だけ(複数列連続して)並べた
構成を抽出して適用することは,当業者が容易に推考できるものであると認められ
る。
(5)原告は,引用発明には,限られた表示領域を極限まで利用しようとする技
術思想はない,と主張する。
  しかし,前記のとおり,パチンコ機において,スロットマシンの機能を実
現する構成を採用することが,慣用技術であり,かつ,表示装置の大きさに制約が
あることは当業者に自明であることに照らせば,引用発明において,引用発明の構
成をパチンコ機に採用する場合,表示領域の大きさの制約に基づく必要な変更をす
ることは当然であり,また,本件発明の構成に至るために必要な変更の要素が周知
慣用であること,引用発明の構成に適合できることは,既に述べたとおりである。
  したがって,原告主張の上記思想が引用発明にないことは,何ら,相違点
Bに係る構成の容易推考性を否定するものではないというべきである。
(6)以上のとおりであるから,相違点Bについての判断にも誤りはない。
5 取消事由5(顕著な作用効果の看過)について
  原告は,本件発明は,表示装置の面積が限られるというパチンコ機特有の制
約の下,表示面積を極限まで利用して図柄の表示をダイナミックにかつ多彩に演出
し,興趣を高めるという効果を奏するものであり,この効果は,どの先行技術から
も予測できないと主張する。
  表示領域を極限まで利用する,との点については,表示装置をドットマトリ
クスとし,かつ,シンボル列表示領域を連続させれば,物理的な表示領域を,すべ
て,実際の表示領域とすることができることは当然である。
  ダイナミックかつ多彩な表示ができる,との点について,本件発明の請求項
に記載されているのは,一部の連続した表示領域について,「少なくとも一段につ
いては前記図柄の全体が表示され,この全体表示がなされた段のスクロール方向に
隣接する他の段には前記図柄の一部が前記表示領域に含まれて当該一部が表示され
る」というものであるから,これが,ダイナミックかつ多彩な表示であるというの
であれば,それは,本件発明の構成(表示態様)に当然伴われるものであり,何ら
顕著な作用効果であるとはいえないし,原告のこの主張が,一つの連続した表示領
域であれば,より多数のドットを用いた多種で精密な図柄を表示できる(甲第2号
証の図1,図2(b)参照)ということであれば,これも,当業者が当然予測でき
る効果に過ぎない。
  原告が主張する本件発明の効果は,容易に推考できるその構成から,当業者
が当然予測できる程度のものであって,本件発明の特許性を基礎付けるものとはい
えない。
6 結論
  以上のとおりであるから,原告が主張する取消事由は,いずれも理由がな
く,その他,決定に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。そこで,
原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
 裁判長裁判官      佐  藤  久  夫
 裁判官      設  樂  隆  一
 裁判官      高  瀬  順  久
(別紙)
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