弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告が平成9年2月13日付けで原告に対してした自然公園法21条に基づく
原状回復に代わる措置命令を取り消す。
2 被告が平成8年10月17日付けで原告に対してした森林法10条の3に基づ
く復旧工事施行命令が無効であることを確認する。
3 被告が平成8年10月18日付けで原告に対してした林地開発行為許可取消処
分及び岩石採取計画認可取消処分が無効であることを確認する。
第2 事案の概要
 本件は,採石業者である原告が,被告から,森林法による開発行為に対する復旧
工事施行命令及び林地開発許可取消処分,採石法による岩石採取計画認可取消処分
並びに自然公園法による原状回復に代わる措置命令を受けたため,前三者の処分に
ついて無効であることの確認を求め,後者の処分について取消しを求める事案であ
る。
1 争いのない事実等
(1) 原告は,昭和54年12月25日に設立された砕石の製造及び販売等を目
的とする株式会社であるが,その前身は,原告代表者の父Aが昭和34年6月に宝
塚砕石工業所の商号で始めた個人企業である。
(2) Aは,昭和36年4月に大阪府和泉市α23-13において採石事業を始
め,採石法の改正に伴い,昭和46年10月30日に採石法(平成11年法律第8
7号による改正前のもの。以下同じ。)32条の大阪府採石業者の登録を(甲6の
1),昭和47年8月12日に採石法33条の岩石採取計画の認可(以下「採取計
画認可」という。)を受けた(甲6の2)。
(3) 原告代表者は,昭和48年7月26日,Bとの間で,和泉市α23-13
の採石権設定契約を締結し,同月31日に登記した。また,原告代表者は,昭和5
7年9月27日,Cから和泉市β443番の88,89,90を買い受け,同年1
0月2日に所有権移転登記をした(甲5の1ないし5)。
(4) 原告は,設立と同時にAからその営業を譲り受け,昭和55年1月26日
に大阪府採石業者の登録を受け,原告代表者が取得した土地を採石業の対象地に加
えるなどして,対象地を拡大した。
 原告は,採石業の対象地(以下「本件採石地」という。)には,森林法(平成1
0年法律第135号による改正前のもの。以下同じ。)5条に基づく地域森林計画
の対象となっている民有林が含まれ,また,一部が自然公園法(平成11年法律第
87号による改正前のもの。以下「公園法」という。)17条1項に規定する国定
公園(γ国定公園,以下「本件国定公園」という。)第三種特別地域内に所在して
いるとして,被告から森林法10条の2第1項に基づく開発行為の許可(以下「開
発行為許可」という。)を受け,また,昭和55年3月13日に被告から公園法1
7条3項による土石採取許可(以下「公園法許可」という。)を受けた。
 原告は,その後も,採取計画認可,公園法許可及び開発行為許可の期間満了のた
びに,被告にそれらの申請を行い,被告から許可ないし認可を受け,本件採石地に
おいて採石業を行ってきた。
(5) 被告は,平成8年1月12日付けで,原告に対して,①行為場所は本件採
石地とし,申請のとおり排水施設の設置や植栽を行うこと,②施行に際しては,原
則として防災施設を先行設置するとともに全般的な防災措置に万全を期すこと,③
開発行為の施行中に災害が発生した場合には,適切な措置をとるとともに遅滞なく
知事に届け出ること,④開発行為により第三者に与えた損害は,開発者において解
決すること,⑤調整池は適宜しゅんせつを行い常にその適正な機能を確保するこ
と,⑥他の関係法令を遵守すること,⑦開発行為の途中において,災害等が発生
し,あるいは発生するおそれがある場合は,許可条件の変更及び追加等をすること
がある,⑧許可条件に従って開発行為を行わない場合には,この許可を取り消すこ
とがある等13項目の条件を付して開発行為許可をした(乙14)。
 被告は,同日付けで,原告に対して,①行為場所は本件採石地とし,採取期間は
同日から平成9年1月11日までとすること,②採石計画に従って岩石採取を行う
こと,③岩石採取に先立ち沈殿池等の必要な災害防止施設を設置し,採取区域外に
災害が及ばないようにすること,④沈殿池及び場内排水路等は随時しゅんせつして
維持管理を十分行うこと等の8項目の条件を付して採取計画認可をした(乙2
0)。
 被告は,同日付けで,原告に対して,①行為場所は本件採石地とし,申請のとお
り排水施設の設置や植栽を行うこと,②行為期間を平成8年1月12日から平成9
年1月11日までとすること,③緑化計画書(植栽計画図)に基づき緑化修景する
こと,④支障木の伐採は必要最小限とすること,⑤沈殿池を設置する等の措置を講
じ,周辺域に土砂及び濁水を流出させないこと,⑥残土は国定公園区域外に搬出す
ること,⑦工事に伴う仮工作物は,行為完了後直ちに撤去すること,⑧採石跡地は
風致の保護上支障のないよう整理すること,⑨風致景観に著しい支障を与える場所
には,張芝,種子吹付等により,緑化を行うこと,⑩行為の期間中は,行為の場所
に標識を設置すること,⑪本国定公園の風致維持及び管理上支障ありと認めたと
き,又は本許可条件に違反したときは許可期限内であっても本許可を取り消し,原
状の回復を命ずることがある,⑫行為は許可条件に従って施行するものとする。た
だし,これを変更しようとするときは,知事の許可を受けなければならない,⑬土
石採取の進ちょく状況について,天然色写真を添え半年ごとに知事に報告するとと
もにその検査を受けること,⑭測量ポール等により行為地域を明示すること,⑮施
工に先立ってまず防災設備(遊水池,沈砂池,排水路,土止柵等)を完備して土砂
等を下流に流入しないよう措置すること,⑯行為中の降雨時の土砂流出防止対策は
もちろん,台風,豪雨時の非常災害における防災等の処置に万全を期すこと,⑰隣
接地に被害を及ぼさぬよう,万全を期すこと等23項目の条件を付して公園法許可
をした(甲6の12)。
(6) 平成8年6月21日,本件採石地の北側敷地境界線付近において,崩落事
故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(7) 被告は,同月26日にDから,同年7月1日にEから,それぞれ本件事故
について被害届を受理した(乙15,16)。
(8) 被告は,同月2日,原告に対し,①本件事故について同月10日までに原
告責任者を府庁に出頭させ修復協議を行うこと,②被告との間で修復協議が整うま
で崩落土石の現状保存を行うこと,③崩落現場に防護柵を設けて立入禁止とするこ
との開発行為許可条件を追加するとともに(甲26),採石法33条の13第1項
に基づき,同内容の緊急措置命令をした(乙11)。しかし,原告はこれらの命令
に従わなかったため,被告は,同月16日,原告に対し,弁明の機会を与えた上
(乙5),同年8月2日,森林法10条の3により,同日から平成9年2月1日ま
での6か月間の開発行為の中止命令(ただし,上記期間内であっても,大阪府との
間で平成8年8月26日までに修復協議が整い,それを前提とし,かつ大阪府が承
認した修復計画図書に基づく施工が可能となれば,本命令は解除する。)をした
(甲27の1,乙19)。しかし,その後も,原告は,崩落土石の搬出,製品化を
続けた。
(9) 被告は,同月26日,原告に対して,森林法に基づく開発行為許可取消処
分及び採石法に基づく採取計画認可処分に係る各聴聞手続を行った。この際,原告
は,現状保存等の命令に従わずに崩落土石を除去した事実及び崩落土石の除去に対
する中止命令に従わなかった事実について自認した(乙8,10)。
(10) 被告は,同年10月17日付けで,原告に対して,森林法10条の3に
基づき,本件採石地付近において,植栽工,水路工の施行を命じる開発行為に対す
る復旧工事施行命令(甲3,以下「処分1」という。)をした。被告は同月18日
付けで,原告に対して,森林法に基づく開発行為許可取消処分(乙12,以下「処
分2」という。)及び採石法33条の12に基づく採取計画認可取消処分(乙1
3,以下「処分3」という。)をした。原告は,処分1ないし3について,異議申
立て等の手続を行うことはなかった。
(11) 原告は,公園法許可の申請をすることなく,採取許可期間満了日である
平成9年1月11日が経過した。
(12) 被告は,同年2月13日付けで,原告に対し,公園法21条に基づき,
①工事に伴う仮工作物等の撤去,撤去跡地の整理,②防災措置の施行,③緑化回復
措置の施行を命ずる原状回復に代わる措置命令処分(甲2,以下「処分4」とい
う。)をした。
 原告は,同年4月3日付けで,環境庁長官に対し,処分4について審査請求を行
ったが,環境庁長官は平成10年3月17日付けで,原告の審査請求を棄却する裁
決をした。
(13) 原告は,平成8年11月1日に被告に火薬類消費許可書及び火薬譲受許
可証を返納し,その後休業した。
(14) 法令の定め
ア 森林法
10条の2(開発行為の許可)
1項 地域森林計画の対象となっている民有林(括弧内省略)において開発行為
(土石又は樹根の採掘,開墾その他の土地の形質を変更する行為で,森林の土地の
自然的条件,その行為の態様等を勘案して政令で定める規模をこえるものをいう。
以下同じ。)をしようとする者は,省令で定める手続に従い,都道府県知事の許可
を受けなければならない。(以下省略)
2項 都道府県知事は,前項の許可の申請があった場合において,次の各号のいず
れにも該当しないと認めるときは,これを許可しなければならない。
1号 当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみ
て,当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他
の災害を発生させるおそれがあること。
3号 当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて,当該開発
行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあるこ
と。
4項 第1項の許可には,条件を附することができる。
10条の3(監督処分)
 都道府県知事は,森林の有する公益的機能を維持するために必要があると認める
ときは,前条第1項の規定に違反した者若しくは同項の許可に附した同条第4項の
条件に違反して開発行為をした者又は偽りその他の不正な手段により同条第1項の
許可を受けて開発行為をした者に対し,その開発行為の中止を命じ,又は期間を定
めて復旧に必要な行為をすべき旨を命ずることができる。
イ 採石法
33条(採取計画の認可)
 採石業者は,岩石の採取を行おうとするときは,当該岩石の採取を行う場所(以
下「岩石採取場」という。)ごとに採取計画を定め,当該岩石採取場の所在地を管
轄する都道府県知事の認可を受けなければならない。
33条の12(認可の取消し等)
 都道府県知事は,第33条の認可を受けた採石業者が次の各号の一に該当すると
きは,その認可を取り消し,又は六箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採
取場における岩石の採取の停止を命ずることができる。
3号 第33条の9又は次条第1項の規定による命令に違反したとき。
33条の13第1項(緊急措置命令等)
 都道府県知事は,岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があると認める
ときは,採取計画についてその認可を受けた採石業者に対し,岩石の採取に伴う災
害の防止のための必要な措置をとるべきこと又は岩石の採取を停止すべきことを命
ずることができる。
ウ 自然公園法
17条(特別地域)
1項 環境庁長官は,国立公園又は国定公園の風致を維持するため,公園計画に基
づいて,その区域(括弧内省略)内に,特別地域を指定することができる。
3項 特別地域(括弧内省略)内においては,次の各号に掲げる行為は,(中略)
国定公園にあっては都道府県知事の許可を受けなければ,してはならない。ただ
し,当該特別地域が指定され,若しくはその区域が拡張された際既に着手していた
行為(中略)は,この限りでない。
3号 鉱物を掘採し,又は土石を採取すること。
19条(条件)
 第17条第3項,第18条第3項及び前条第3項の許可には,国立公園又は国定
公園の風致又は景観を保護するために必要な限度において,条件を附することがで
きる。
21条(原状回復命令等)
 環境庁長官は国立公園について,都道府県知事は国定公園について,当該公園の
保護のために必要があると認めるときは,第17条第3項,第18条第3項若しく
は第18条の2第3項の規定,第19条の規定により許可に附せられた条件又は前
条第2項の規定による処分に違反した者に対して,その保護のために必要な限度に
おいて,原状回復を命じ,又は原状回復が著しく困難である場合に,これに代るべ
き必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 争点
(1) 処分1ないし3の無効事由の有無
(被告の主張)
ア 処分1(森林法10条の3に基づく開発行為に対する復旧工事施行命令)
 森林は,水源のかん養,災害の防止,環境の保全といった公益的機能を有してお
り,これにより国民生活の安定と地域社会の健全な発展に寄与している。そして,
これらの森林は一度開発をしてその機能が破綻した場合には,これを回復すること
が非常に困難であることが多いため,森林における開発行為については,森林の有
する役割,機能を阻害しないように適正に行うことが必要となり,またそれが森林
開発行為を行う者の権利に内在する当然の制約でもあることから,森林法は,林地
開発について許可制を創設し(10条の2第1項),許可に当たって,土砂災害の
防止,水害防止,環境悪化の防止等の必要から条件を附すとともに(同条4項),
条件違反行為によって,森林の公益機能を害した場合には,これを原状に復する処
置を義務づけることとした(10条の3)。
 本件についても,原告は被告の許可を得て,開発行為として採石業を行ってき
た。同許可に附せられた条件は,いずれも土砂災害の防止,水害防止,環境悪化の
防止等の必要から附されたものであるが,原告は,本件事故以前も,許可条件違反
や許可除外事由に該当して被告から指導を受けていた。
 被告は,本件事故の規模が従前の崩落に比べて遥かに大きく,本件事故後の崖面
は上部に亀裂が生じている可能性があり,梅雨期の大雨により二次崩落を引き起こ
す懸念があり,現場の地盤が相当軟らかいことをも考え併せると,原告従業員を危
険にさらすものであって,これを放置することは防災上極めて危険であり,またそ
の修復工事を行うに当たり,二次被害や事故再発防止等の十分な検討をする必要が
あり,現段階で崩落土石の搬出を行った場合,本件採石地内に急崖面が露出するこ
とになるので,当面これを防止しなければならないと判断した。そこで,許可条件
中にある災害発生時に許可条件を追加できる旨の項目に従って,①崩落現場の修復
協議を府と行うこと,②修復協議が整うまで崩落土石の現状保存を行うこと,③崩
落現場に防護柵を設けて立入禁止とすることを許可条件に追加した。しかし,原告
は,被告の中止勧告を無視し,弁明の機会を与えたものの弁明を拒否し,開発行為
の中止命令の発令にもかかわらずこれを無視したので,被告は,この状態を放置す
ることは,今後の二次崩落の危険性を助長させるとともに森林の有する公益的機能
を維持する上で支障があることから,森林の復旧をさせることが必要と認め,処分
1を行ったものである。なお,処分2及び3を行う前提としてなされた各聴聞にお
いて,原告は許可条件違反行為及び命令違反行為を認め,弁明を行わなかった。
 原告は,崩壊の程度は軽微であり植栽工・水路工は不必要と主張するが,たとえ
軽微であっても,開発行為による侵害を放置すれば自然の自力回復を期待すること
はできない。また,原告は,本件採石地の所有者でなければ復旧命令の履行ができ
ないと主張するが,復旧作業は採石作業に必然的に伴う付随的行為であってできな
いはずはない。
 したがって,処分1は適法であって,無効事由がない。
イ 処分2(森林法に基づく開発行為許可取消処分)
 森林法上開発行為許可取消しについては直接定めた規定は存在しないが,条件付
許可制度とした趣旨を担保できなくなった場合に許可を撤回できるのは許可制度上
当然である。なお,本件開発行為許可条件中にも注意的に条件として掲げられてい
る。
 原告は,開発行為許可に当初から附加されていた条件(①行為場所は本件採石地
とし,申請のとおり排水施設の設置や植栽を行うこと,②施行に際しては,原則と
して防災施設を先行設置するとともに全般的な防災措置に万全を期すこと,③開発
行為の施行中に災害が発生した場合には,適切な措置をとるとともに遅滞なく知事
に届け出ること,④開発行為により第三者に与えた損害は,開発者において解決す
ること,⑤調整池は適宜しゅんせつを行い常にその適正な機能を確保すること,⑥
他の関係法令を遵守すること)に違反し,かつ森林法10条の2第2項1号,3号
に該当していただけでなく,被告の指導,勧告を無視し,開発行為許可の追加条件
に違反して,本件採石地において崩落土石の搬出を継続し,弁明も拒否したのであ
って,これは,本件採石地における二次崩落の危険性を助長させ,森林の有する公
益的機能を害するものであるから,被告は,防災上やむを得ない緊急の措置として
処分2を行ったものである。
 したがって,処分2は適法であって,無効事由はない。
ウ 処分3(採石法に基づく採取計画認可取消処分)
 採石法は,国民経済上の重要性が増大しつつあった採石業について,その事業の
安定と健全な発達の基礎を与える目的で制定されたものであるが,その後,事業の
実施に伴って,土地の崩壊・流出・陥没や飛び石・粉じん・騒音・汚水の発生等も
増大し,採石による災害防止が重要課題となったため,採石法が改正され,採石に
よる災害に対処するため,採石業者の登録制度,岩石採取計画の認可制度が創設さ
れた(33条)。そして,同法の認可は,岩石の採取が他人に危害を及ぼし,公共
施設を損傷し,他産業の利益を損じ,公共の福祉に反すると認めるときはしてはな
らないとされ(33条の4),認可を行う際には,認可に係る事項の確実な実施を
図るための必要最小限かつ不当な義務でないものに限り条件を附することができる
とされた(33条の7)。また,災害発生のおそれがある場合に緊急措置をとるべ
き作為義務・岩石採取を禁じる不作為義務を課すことができ(33条の13第1
項),これに違反すると認可取消原因となる(33条の12第3号)。
 前述のとおり,本件事故はその規模が大きく,二次崩落を起こすおそれがあり防
災上極めて危険な状況にあったが,原告は本件採石地において崩落土石の搬出を始
めた。そこで,被告は,原告に対し,災害防止のため緊急の必要があるとして緊急
措置命令を発し,①崩落に係る修復協議を行うこと,②防護柵を設けて立入禁止と
することとした上,③修復協議が整うまでは現状を保存するよう命じた。しかし,
原告はこれらの命令に従わず,崩落土石の搬出,製品化を継続した。そして,森林
法上の中止命令の無視や原告の弁明等からすれば,採石法上も,更に緊急措置命令
を重ねても,命令の履行が期待できないものと考えられたので,被告は,処分3を
前提として聴聞を行った。この聴聞において,原告は,採石法の緊急措置命令違反
の事実について全面的に認め,弁明することがないことを明らかにした。そこで,
被告は,緊急措置命令に従わなかったことを理由として,採石法33条の12第3
号後段により処分3をしたものである。
 したがって,処分3は適法であって,無効事由はない。
エ 原告の崩落土石の搬出行為は,崩落土石を製品化して販売することを目的とす
る行為であって復旧工事ではなく,正当な行為とはいえない。
 原告の崩落土石の搬出行為は極めて危険な行為であり,原告は被告の再三の指導
や命令等にもかかわらず崩落土石の搬出行為を継続したため,被告は防災上やむを
得ない緊急の措置として処分1ないし3を行ったのであって,処分1ないし3が原
告の違反行為と比較して過大な処分であるとはいえない。
 処分1ないし3は,被告の崩落現場の災害防止措置に原告が応じなかったために
行ったものであって,崩落の原因が原告にあるかどうかや崩落土石の所有権が誰に
あるかなどを理由とするものではない。
 原告は処分1ないし3について所定期間内に審査請求や取消訴訟の提起を行って
おらず,不服申立期間の徒過についても特段正当性のある理由も述べていないこと
からしても,原告の主張に理由がないことが明らかである。
(原告の主張)
ア 原告は本件採石地において崩落土石の搬出行為を継続したが,これは次のとお
り正当な行為であるにもかかわらず,被告は処分1ないし3を行ったのであって,
処分1ないし3には重大かつ明白な違法があるといえる。
 本件事故後,崩落土石は崖面から原告の製砂設備に向かって傾斜を形成していた
のであって,仮に崖面に残った浮石等が落下した場合,浮石等が斜面を転がり落
ち,原告の製砂設備を直撃し,原告の財産や作業員の人命に危害を与えるおそれが
あった。そこで,原告は,二次崩落の危険性がないことを十分に確認し,また労働
基準監督署の指導を受けた上で,会社財産及び作業員の安全を守る目的で,崩落土
石の斜面上部の土石を取り除き,平坦部を造成したのである。実際,原告の崩落土
石搬出作業中に二次崩落等は発生していない。そもそも,本件事故は自然現象であ
って,本件採石地上の崩落土石は本件採石地の附合物としてその所有権は原告にあ
るのであるから,原告にはその土石を搬出する権利があるというべきである。
イ 被告は,次のとおり重大な事実誤認の上,処分1ないし3を行ったのであっ
て,これは処分1ないし3の無効事由に当たる。
 本件事故は,本件採石地の北側で採石業を行っていた藤原砕石興業株式会社が違
法なすかし掘り採取を行い,そのために本件採石地の北側の山林尾根に多数の亀裂
が生じ,亀裂に雨水が溜まり,氷結氷解を繰り返し亀裂が浸透した結果生じたもの
である。原告がすかし掘りを行ったことはなく,何ら責任はない。また,本件事故
によって崩落した土石の大多数は,原告が採石権又は所有権を有する土地上のもの
である。それにもかかわらず,被告は,本件採石地隣地の地主の虚偽の被害届を受
け,事実を確認しないまま,本件事故の原因を原告が過去に行ったすかし掘りによ
るものと軽信し,重大な事実誤認をして処分1ないし3をしたものであって,無効
である。
ウ 仮に,原告が被告の指示や命令に従わなかったことに違法性があったとして
も,その程度は軽微であり,処分1ないし3をするほどの違反行為とはいえない。
したがって,処分1ないし3は比例原則に反する処分であって,無効である。
エ 被告は,処分1ないし3に先立ち,原告に対し,開発行為許可条件を追加する
とともに緊急措置命令を発令して,崩落現場の修復協議を府と行い,修復協議が整
うまで崩落土石の現状保存を行うことを命じた。しかし,修復協議の成立には,本
件事故に関し虚偽の被害届を提出した本件採石地隣地の地主との合意が不可欠であ
ることから,修復協議の成立は不可能である。被告は実現不可能な条件を原告に課
し,無期限の現状保全と立入禁止をさせるものであって,処分1ないし3は無効で
ある。
オ 本件事故の崩落部分は僅かであって,復旧工事が不必要であることは明白であ
るし,また被告の命じた復旧工事は土地所有者でなければ実現できない内容であっ
て,処分1は無効であるというべきである。
(2) 処分4(原状回復に代わる措置命令処分)の取消事由の有無
(被告の主張)
ア 国定公園は,国立公園に準ずる優れた自然の風景地であって,関係都道府県の
申出により環境庁長官が中央環境審議会の意見を聞いた上で,区域を定めて指定す
るものである。国定公園を指定する場合には,区域に含まれる各土地の地番を指定
するのではなく,縮尺5万分の1の地形図を用い,同図に区域線を画することによ
って行われる。公園区域の範囲を示す区域線は,原則として稜線界,沢界,河川
界,汀線界等地形による線並びに森林施業における事業区界,林班界及び小班界と
されており,「林班界」とは,都道府県知事が全国森林計画に即して地域森林計画
の樹立及び実施の便に供するため,地域森林計画対象民有林を分けるためのもので
あって,原則として,字界,天然地形又は地物をもって区域するものであり,町等
の区域界の線と林班界は必ずしも合致しない。本件国定公園は,昭和33年4月1
0日に当時の所轄行政庁であった厚生大臣により指定されたもので,本件国定公園
の区域線は林班界と表示されており,当該部分は概ね稜線と一致している。本件採
石地が本件国定公園の第三種特別地域内に含まれることは明らかであって,原告
も,本件採石地が国定公園内に存在することを認識していたから,被告に対し公園
法許可の申請をし,許可を得ていたのである。
イ 国定公園に指定された優れた自然の風景地は,一度破壊されれば再び元に復す
ることが著しく困難なものであるから,自然の風景地をできる限り自然のままの姿
において永遠に存続するよう保護する必要がある(公園法1条,2条の2)。しか
し,国定公園は,これを指定する国が土地の権利を有することを要件としておら
ず,国の所有権からは規制できないため,国定公園指定の趣旨を貫徹するために,
国定公園の風致景観に影響を与えるおそれのある土石採取等の一定の行為を風致景
観の維持の立場から禁止又は規制する必要がある。一方,国定公園内に財産権を有
する者は一定の規制に服さざるを得ないが,憲法29条の規定する経済的自由権に
ついては,内在的制約のほか,政策的制約に服するものとされているところ,上記
の公園法の趣旨は国民の自然環境享有の観点からする政策的制約であって合理的な
政策目的であるし,公園法は国定公園区域内のうちでも自然状態を保持する必要性
に応じて規制の度合いに差を設ける等しており,公園法の規制は許容されるべきで
ある。
 公園法許可に関する具体的判断は各許可権者に委ねられているものであるが,全
国的に統一的処理を図る目的等により,環境庁自然保護局長から各都道府県知事宛
に「国立公園内(普通地域を除く。)における各種行為に関する審査指針につい
て」(以下「審査指針」という。)及び「国立公園内(普通地域を除く。)におけ
る各種行為に関する審査指針の細部の解釈及び運用の方法について」(以下「細部
解釈」という。)が出され(細部解釈によれば,審査指針の適用は昭和50年4月
1日からである。),これらは公園法の目的に沿って公園法許可の解釈運用の指針
を示したもので,その内容に合理性があるから,被告はこの指針に即して許可して
いる。なお,審査指針及び細部解釈は,単なる通達であって法規範ではないから合
憲性判断の対象とはならない。
 露天掘りによる土石採取は,地上部を直接改変し必然的に原地形の改変を伴うも
ので,自然地域の基本に関わる部分の改変をもたらすから,風致景観に著しい支障
を及ぼす行為として原則として許可しない(審査指針)。しかし,国定公園内にお
いて現に生業として継続されてきた土石の採取行為が即許可されなくなってしまう
のは当該行為者の生活をおびやかすことになり適当でないことから,規模・期間
は,行為者等の生活を守るために必要な範囲に限定されるべきであり,この場合で
きるだけ近い将来に終掘させるという方向で指導するのが適当であるとされ(細部
解釈),その限度で許可することとされている。
 被告は,昭和55年3月13日以降,原告に対して,本件採石地における採石行
為について公園法許可を行ってきた。その際,被告は,審査指針及び細部解釈に従
って,原告から,行為の期間,区域面積,採取方法,緑化防災対策措置について申
請図書を提出させ,期間を1年に限定し申請をその都度行うこととし,許可には景
観維持上の条件を附し,終局的に近いうちに終掘するよう指導してきた。
 原告は,審査指針及び細部解釈施行以前に本件採石地において創業した事業を継
承しているから,審査指針及び細部解釈の適用を受けないと主張するが,審査指針
及び細部解釈施行以前になされた許可は当該許可の期限内に終了しており,原告
は,審査指針及び細部解釈施行後も申請と許可を繰り返しているのであるから,従
前の許可の効力が後続の許可の効力と何らの関連がないことは明らかである。ま
た,原告は,審査指針及び細部解釈は,採石業者と鉱山業者を不当に差別するもの
で,採石業者の国定公園内の営業を否定するものであると主張するが,審査指針
は,鉱山業者の鉱物掘採についてはやむを得ない場合に露天掘りを許可するとし,
採石業者の露天掘りについても必要最小限とすると記載するにすぎず,この程度の
区別が不当な差別をもたらすものとは到底いえない。更に,原告は,公園法許可を
1年間と限定することは公園法19条に反し,公園法許可は無効であるとするが,
被告が公園法許可の期間を1年間として繰り返してきたのは,例外的な許可に必要
な諸要件を充たしているか否か等をチェックし,採石行為者に対して終掘指導を厳
正に行うことを目的とするためであって,合理的であり,また公園法許可は既に公
定力をもって確定したものであるところ,原告の主張は重大かつ明白な違法をいう
ものではなく失当である。
ウ 都道府県知事は,国定公園の保護のために必要があると認めるときは,公園法
17条3項の規定により公園法許可に附せられた条件に違反した者に対して,その
保護のために必要な限度において,原状回復を命じ,又は原状回復が著しく困難で
ある場合に,これらに代わるべき必要な措置をとるべき旨を命ずることができる
(21条)。原状回復に代わるべき必要な措置は,同法の規定に基づく不作為義務
に違反する場合に,これを放置することは国定公園の風景に支障を及ぼすおそれが
大きいことから,当該違反行為の実施前の状態又はこれに近い状態に回復させよう
とするものである。
 被告は,平成8年1月12日付けで,原告に対して,行為期間を平成8年1月1
2日から平成9年1月11日までとする本件採石地における公園法許可をしていた
ところ,原告は上記行為期間を経過した後も新たな公園法許可の申請を行わなかっ
た。そこで,平成9年1月11日の経過によって,本件採石場の公園法許可の法的
効力が消滅し,同法上,採石跡地であることが確定した。また,上記行為期間内に
本件採石地内において大規模な崩落事故が発生し,原告は被告から開発行為許可及
び採取計画認可の取消処分を受けた。この結果,本件採石地が公園法,森林法及び
採石法上許認可のない状況で放置される結果となった。被告が本件採石地を調査し
たところ,原告には,平成8年1月12日付け公園法許可の条件のうち,許可区域
外採掘,緑化修復不履行,沈殿池不設置,風致景観に支障を与える場所への緑化不
履行,採掘跡地への修復不履行,土石採取の進ちょくについての不報告,行為地域
不明示,防災設備不設置の条件違反事実があることを確認した。そこで,被告は,
国定公園の風致景観を保護する上で著しい支障を与えていると判断し,行政手続法
13条1項の規定により弁明の機会を付与したところ,原告は弁明書を提出したも
のの,指定された期日には出頭せず口頭での弁明はなかった。被告は,調査結果に
照らして,原告の弁明は何ら合理性を有しないものと判断し,処分4を行ったので
あり,処分4は適法である。
 原告は,被告が仮工作物として撤去を命ずる建物は,原告が近畿圏の保全区域の
整備に関する法律(以下「近緑法」という。)に基づき被告に届出をした本件国定
公園地域外の建物であって「仮工作物」とはいえないと主張する。しかし,本件採
石地は,近緑法上の近郊緑地保全区域と公園法上の国定公園区域が重複している地
域であり,被告が撤去を命じている建物は,土石採取行為に付随するものとして土
石採取に関する公園法許可の内容に含まれており,許可期間やその付随性から,公
園法上「仮工作物」と扱っているものである。したがって,本体である土石採取自
体が許可を失って行えなくなった場合には,本件採石地は跡地となり,採石行為に
付随する仮工作物も当然不要となったものであることは明白であり,原状回復義務
の内容として撤去する義務が生じるのである。また,原告は,本件採石地が「採石
跡地」ではないと主張するが,原告から新たな公園法許可の申請がなく,公園法許
可もないから,従前の公園法許可に基づいて行われた採石業の跡地が放置された状
態であることに変わりはなく,原告の主張に理由はない。
(原告の主張)
ア 被告は,本件採石地が本件国定公園区域内にあることを前提として,処分4を
行っているが,本件採石地のうち,本件国定公園区域内にあるのは,和泉市α23
番13の一部のみであって,その他の土地は本件国定公園区域外の土地である。仮
に,本件採石地が本件国定公園区域内に含まれるものとしても,国定公園を指定す
る場合には,その旨及びその区域を官報で公示しなければならないとされていると
ころ,本件国定公園の区域指定を公示する官報には,和泉市の一部を本件国定公園
に指定すること及びその区域を表示した図面は,厚生省,関係府県庁及び関係各市
町村役場に備えて供覧することの記載があるのみで,具体的な指定区域が明示され
ていない。しかも,本件国定公園区域を表示する図面は,縮尺5万分の1の地図で
あって,その図面に表示された林班界を示す線が具体的にどの地点を通過するのか
不明確である。被告が本件国定公園の区域線と主張する林班界付近には稜線等は存
在せず,自然の地形とは全く無関係に定められたものである。したがって,このよ
うな不明確な国定公園の指定は,公園法10条3項に反するものであって,本件採
石地が本件国定公園区域内にあることを前提としてなわれた処分4は違法である。
イ 原告は,「国立公園特別地域の行為許可に関する留意事項について」と題する
厚生省大臣官房国立公園部管理課長通達(昭和27年10月23日発出,以下「旧
通達」という。)に基づき,公園法許可を受けた採石業者(原告代表者の父)から
採石事業を譲り受けたものである。審査指針は従前の採石権限を侵害するものであ
るから,その効力が遡及して審査指針発出前の公園法許可に適用されることはあり
得ない。したがって,本件採石地における原告の採石事業に関しては,旧通達が適
用され,審査指針の適用はない。よって,旧通達の効果は本件採石地の岩石採取が
終掘するまで持続するのであり,平成9年1月11日以降もその効果が継続し,同
日の経過によっても,原告は本件採石地における採石権限を失ったとはいえず,工
作物を撤去し,緑地修景をする義務を負うことはないから処分4は違法である。
ウ 処分4の前提となる公園法許可は,被告が審査指針及び細部解釈に基づいて行
ったものであるが,審査指針及び細部解釈は憲法に反する無効な通達である。
 原告は,本件採石地において,昭和36年から採石業を営み,採石権の登記も既
に経由し,国を含めた第三者に対抗できる採石権を有している。審査指針及び細部
解釈は,国定公園内の風致景観を侵害するとして,国定公園区域内における露天掘
りによる土石採取を原則として禁止し,土石採取を許容する場合も極めて厳しい条
件を課すものであって,公園法が定める風致景観の保護の限界を逸脱し,法律に基
づかずに,憲法が保障した国民の基本的人権たる財産権を剥奪するものとして,憲
法29条に違反し無効である。公園法3条も,公園法の適用に当たって「関係者の
所有権,鉱山権その他の財産権を尊重する」ことを定めており,審査指針及び細部
解釈は同条にも反する。
 更に,審査指針及び細部解釈は,露天掘りによる土石の採取を原則として許可し
ないものと定め,採石業者について露天掘りによる土石の採取を禁止する一方,鉱
山業者については「露天掘り以外の方法によることが著しく困難と認められるもの
である」場合には露天掘りを認めることとしている。現在,鉱山業者が主に扱う石
灰岩と採石業者が扱う土石(花崗岩等)との間には,その価値においてほとんど格
差がない。それにもかかわらず,審査指針及び細部解釈は,採石業者と鉱山業者と
を不当に差別するものであって,憲法14条に違反し無効である。
エ 処分4は公園法許可を前提とするものであるところ,被告が公園法許可に附し
た1年間の短期間の許可条件は,公園法19条の国定公園の風致景観を保護する限
度を超えているものであるから無効である。本件採石地の風致景観は,原告が採石
地の土石を採取したことによる変化だけであり,毎年本件採石地の風致景観を保護
するために,本件採石地の状況を確認しなければ,土石の採取許可をすることがで
きないということは社会通念上あり得ない。被告が公園法許可に附した1年間の短
期間の許可条件は,原告を廃業の追い込むことを意図したものであって,公園法1
9条に違反する。
オ 被告は,本件採石地が「採石跡地」に該当するとして処分4を行った。しか
し,原告が平成9年1月11日以降も本件採石地において採石業を継続する意思を
有していたことは明らかであって,本件採石地が「採石跡地」であるとしてなされ
た処分4は違法である。
カ 被告は,処分4として,原告に対し,本件採石地上の設備が仮工作物であると
して,その撤去を命じている。しかし,本件採石地上の設備は,いずれも数千万円
相当の企業設備であり,原告が近緑法9条に基づく届出をして適法に所有する設備
であって,「仮工作物」とはいえない。また,本件採石地は,本件国定公園区域内
の外れに位置していることから,原告の企業設備は国定公園の風致景観に何ら実害
を与えていない。したがって,原告に対し,それらの撤去を命ずる処分4は違法で
ある。
キ 被告は,原告に公園法許可条件の違反事実があることを確認したとして,処分
4を行っている。しかし,排水施設の未設置や行為区域明示の未施行は軽微な違反
であり,緑化修復については本件事故が発生したため未履行のままになっているの
であって,処分4は,違反事実に比べて,明らかに過大な処分であって,違法であ
る。
第3 争点に対する判断
1 証拠(甲14,24~27,29,30,49~51,107,143,14
4,172,208,215,254,256,263,乙1~14,17~2
0,25~27,30~36,38~40(各枝番を含む。),証人F,証人G,
証人H,証人I,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認めら
れる。
(1) 本件事故によって,幅約140メートル,高さ約50メートルにわたり崩
落した土石が堆積した。崩落は,本件採石地外にも及び,その範囲は約5000平
方メートルである。本件事故によって,本件採石地外の檜が数本なぎ倒された。
(2) 本件事故地では,昭和63年,平成2年,平成7年8月ころ,崩落事故が
発生したことがあったが,本件事故の規模は,過去の崩落事故と比較して大きいも
のであった。
 原告は,過去の崩落事故発生の際,被告担当者の修復協議前の崩落土石採取禁止
の指示に反し,崩落地へ立ち入り崩落土石を採取したことがあったが,最終的には
修復協議に応じてきた。
(3) 本件事故地は,大雨のため地盤が軟らかく,崖面の上部に亀裂が生じてい
る可能性が相当あったが,本件事故発生から処分1ないし4が行われるまでの間,
本件事故地において,新たな崩落事故が発生することはなかった。
(4) 原告は本件事故発生について被告に通報しなかった。本件採石地付近の西
野建設が被告に本件事故の発生を通報した。
(5) 被告担当者は,本件事故発生当日である平成8年6月21日,原告代表者
に電話をし崩落土石の現状保存を指示したが,原告代表者は現状保存については約
束しかねるとの発言をした。
 原告は,本件事故の翌日である同月22日から,崩落土石の除去を開始し,同月
25日ころから,崩落土石の製品化を開始した。
 被告担当者は,同月26日から28日までの各日,本件採石地を立入検査し,原
告従業員等に対し,崩落土石を現状保存すること,関係課との間で修復方法につい
ての協議を行うこと,崩落地には立ち入らないこと及び崩落土石の採取行為を直ち
に中止することを指示したが,原告はその指示に従わなかった。
 被告は,同年7月2日,原告に対し,緊急措置命令及び開発行為許可の条件の追
加処分を行った。原告代表者が命令書の受取を拒否したため,処分通知書は同月3
日に原告に送達された。
 被告担当者が,同日,追加条件の履行を確認するため本件採石地に赴いたとこ
ろ,本件採石地に,クラッシャーランというコンクリートに混合して使用される小
石製品が10メートル程度山積みされていた。
 被告担当者は,同月5日及び8日に本件採石地を立入検査し,原告担当者に対し
て,緊急措置命令及び開発行為許可に附された追加条件の履行を指示したが,原告
代表者が,同月9日,来庁し,命令に従う意思のないこと,経営上の理由から崩落
土石を搬出せざるを得ないこと,不利益処分が科される可能性のあることを理解し
ていること等を伝えた。
 被告担当者は,同月10日及び12日にも本件採石地を立入検査し,原告担当者
に対して,緊急措置命令及び開発行為許可追加条件の履行を指示したが,原告は,
修復協議を拒否し,本件事故地に防護柵を設置することなく,本件事故地に立ち入
り,崩落土石の採取を継続した。
 被告は,同月16日,原告に対し,開発行為の中止命令を行うための弁明の機会
付与通知を発送したが,同月22日,原告代表者から弁明書の提出を拒否する旨の
内容証明郵便が届いた。
 被告担当者は,同日,同月26日及び29日の各日にも本件採石地を立入検査
し,原告担当者に対して,違反行為の是正を促したが,原告の違反行為は継続し
た。
 被告は,同年8月2日,原告に対し,開発行為の中止命令をした。被告担当者
は,同月6日,9日,12日,16日の各日,本件採石地を立入検査し,緊急措置
命令,開発行為許可追加条件及び開発行為の中止命令に対する違反行為が継続して
いることを確認し,是正するよう指示した。しかし,原告は,本件採石地におい
て,崩落土石の採取,製品化等の開発行為を継続した。
(6) 同月9日時点において,本件採石地では,開発行為許可申請段階で予定さ
れていた排水施設が設置されておらず,設置済みの排水施設についても機能喪失の
状態が見られた。予定されていた植栽についても未だ施行されておらず,崩落に関
する防災上必要とされるシガラ柵工も設置されていなかった。また,本件採石地に
は,切土法面勾配基準を充たさない法面が多数存在し,法面の崩壊を防止するため
の小段設置,植生ないし人工材料による法面保護措置や落石防止措置が施工されて
いなかった。本件採石地の周辺部に保全緑地が確保されおらず,また採石区域外の
緑化修復措置が遅延していたほか,主要道路等からの景観維持対策も講じられてい
ない箇所が多かった。
(7) 被告は,同月26日,原告に対し,森林法の開発行為許可の取消処分(処
分2)及び採石法に基づく採取計画認可取消処分(処分3)をするためにそれぞれ
聴聞を実施したところ,原告代表者は,違反事実を認め,一切弁明することはない
と発言した。
(8) 原告の所轄労働基準監督署は,同月23日,原告に対し,採石作業におい
て,崩壊又は落下の危険のある立木や土石がある場合には,予め土石を取り除き,
土止防網を張る等の措置を講じること等採石作業を行う際の留意事項を指導し,原
告は,同月24日指示に基づいた作業を実施し,崩落場所に立入禁止のロープを張
る措置を行い,同月30日に労働基準監督署に対し,その旨を報告をした。なお,
同日ころには,ほぼ価値ある土石については採取されていた。
(9) 平成9年1月14日時点において,本件採石地で採石はなされていないも
のの,トロンメル等採石に使用される機械や会社事務所等の工作物,建築物が存在
していた。また,本件採石地では,平成8年1月12日付け公園法許可の条件とさ
れていた排水施設の設置や植栽がなされておらず,緑化修復措置や景観維持対策も
行われていなかった。
2 処分1ないし3の無効事由の有無について
(1) 処分1(森林法10条の3に基づく開発行為に対する復旧工事施行命令)
ア 森林法10条の3は,違反行為に起因して10条の2第2項各号に該当するよ
うな事態の発生を防止するため,開発行為に対する復旧工事施行命令を定めてい
る。その要件は,●森林の有する公益的機能を維持する必要があること,●開発行
為者が開発行為許可に附した条件に違反したこと,●復旧に必要な行為であること
である。
イ ●開発行為者が開発行為許可に附した条件に違反したこと
 前述の前提事実及び認定事実によれば,原告は,府との修復協議を拒否した上,
本件事故の翌日から崩落土石の搬出作業に取りかかり,製品化し,ほぼ製品価値の
ある土石を取り除いた平成8年8月30日なって初めて崩落場所を立入禁止とした
ものである。したがって,原告が,被告の同年7月2日付け開発行為許可追加条件
(①本件事故について同月10日までに原告責任者を府庁に出頭させ修復協議を行
うこと,②被告との間で修復協議が整うまで崩落土石の現状保存を行うこと,③崩
落現場に防護柵を設けて立入禁止とすること)に違反したことは明らかである。
 原告は,原告の行為が,原告の所有する施設や原告の従業員の生命身体を保護す
るための正当な行為であると主張する。しかし,結果的に本件事故地で二次崩落が
発生することがなく,土石除去作業に従事した従業員の生命身体を害するような事
態は発生しなかったものの,本件事故が過去の崩落に比べて規模が格段に大きく,
本件事故の発生が梅雨期であることを考えると,本件事故地において二次崩落の発
生する可能性は相当高く,土石除去作業中に原告の従業員が負傷したり,二次崩落
によって下流域に被害が生じるおそれがあったことが認められる。したがって,安
全な修復工事方法について府との間で協議検討することなく,修復工事に着手する
こと自体非常に危険であって,正当な行為であるということはできない。かえっ
て,原告代表者が崩落土石の採取が経営上の理由によるものであると明言している
ことや階段式採石場の上段へ重機やダンプの通行を確保した後も本件事故地からの
採石を継続し,被告の再三の指示に反して,商品価値のある土石のほとんどを搬出
していることを考え合わせると,原告の崩落土石の採取・搬出行為の主たる目的
は,従業員や施設に対する危害の防止ではなく,本件事故地で採石業を行うことに
あったものと推認される。
 原告は,土石の除去作業を労働基準監督署の指導に沿って行ったことを原告の行
為の正当性の根拠として主張する。しかし,証拠(証人I)によれば,労働基準監
督署が原告に対して積極的に除去作業を行うよう指示したという事実はなく,原告
が仮に除去作業を行う場合には,従業員の安全を図る見地から少なくとも原告が守
るべき注意事項を通知したにすぎないものと認められる。また,労働基準監督署の
指導が行われたのは本件事故から2か月以上経過した後であり,その指導に従った
措置がとられたのは価値のある土石の採取がほぼ終了した段階であったことからし
ても,原告の主張は採用できない。
 原告は,修復協議の成立まで崩落土石の搬出を禁止する開発行為許可追加条件
は,原告に不可能な行為を強いるものであって無効であるとも主張する。しかし,
修復協議は府との間で行うものであり,必ずしも本件採石地の隣接地の地主の協力
を得る必要はないし,過去の崩落事故の際に,原告は府との間で修復協議を行って
いるのであって,原告の主張は採り得ない。
ウ ●森林の有する公益的機能を維持する必要があること
 前述の認定事実によれば,本件事故が発生した結果,土石の崩落に伴って,一部
ではあるものの崩落部分の檜が落脱し森林が損なわれたことが認められ,水源のか
ん養,災害の防止,環境の保全といった森林の有する公益的機能を維持する必要性
が生じていたことが認められる。
 また,本件事故地において二次崩落が発生した場合には,更に森林が損なわれる
おそれがあり,本件事故地における二次崩落を防止して,公益的機能を維持する必
要も認めることができる。
エ ●復旧に必要な行為であること
 既に森林を開発し森林以外のものとなったものを原形どおりにすることを求めて
も実際上不可能又は不合理であるから,「復旧に必要な行為」とは,造林その他の
措置により森林が従前有していた公益的機能を復旧することを指すものと解するべ
きである。
 被告の原告に対する復旧工事施行命令は,本件採石地付近における植栽工,水路
工の施行であって,いずれも,水源のかん養,災害の防止,環境の保全という森林
の有する公益的機能を維持するために必要な行為であるといえる。
 原告は,本件事故の崩壊の程度は軽微であって植栽工・水路工は不必要であると
主張する。しかし,本件事故の程度が軽微であるとは到底いえないし,開発行為に
よる侵害を放置すれば自然の自力回復を期待することはできないことも明らかであ
る。また,原告は,本件採石地の所有者でなければ復旧命令の履行ができないと主
張するが,処分1の復旧作業は採石作業に必然的に伴う付随的行為であって,原告
の有する採石権の範囲内の行為であって,原告の主張は失当である。
オ 以上によれば,処分1は適法であって無効事由は存在しない。
(2) 処分2(森林法に基づく開発行為許可取消処分)
ア 森林法上,開発行為許可の取消しを定めた規定は存在しない。しかし,有害行
為の規制を行う目的で許可制度が採用されているにもかかわらず,いったん許可を
付与した後は,公益上重大な事実が発生しても,一切許可の撤回,すなわち許可の
取消しが許されないとすることは,許可制度を定めた法の趣旨にそぐわない。した
がって,許可に関する根拠規定自体が,一定の場合の撤回権の留保を伴うものとい
うべきであって,許可時点においてそのような事実が存在していたならば許可を与
えないであろうと考えられる公益上重大な事実が発生した場合には,当然許可の取
消しも認められるというべきである。
イ(ア) 開発行為許可条件違反
 原告が開発行為許可追加条件に違反していたことは前述のとおりである。
 更に,原告が,開発行為許可申請に従った排水施設の設置や植栽を怠っていたこ
と,防災施設としてのシガラ柵工を行っていないこと,本件事故の発生を被告に通
報しなかったことが認められ,開発行為許可に当初から附加された条件(①開発行
為許可申請の記載どおりの排水施設の設置や植栽を行うこと,②施行に際しては,
原則として防災施設を先行設置するとともに全般的な防災措置に万全を期すこと,
③開発行為の施行中に災害が発生した場合には,適切な措置をとるとともに遅滞な
く知事に届け出ること,⑤調整池は適宜しゅんせつを行い常にその適正な機能を確
保すること)にも違反していたことが認められる。
(イ) 森林法10条の2第2項1号及び3号違反
 本件採石地には切土法面勾配基準を充たさない法面が存在し,法面崩壊防止のた
めの小段上の排水施設設置がなされておらず,植生又は人工材料によって法面侵害
防止措置が施工されていない。更に雨水排水施設や落石防止措置が未設置,未施工
となっている。これらによって,土砂の流出又は崩壊その他の災害が発生するおそ
れ(森林法10条の2第2項1号)が認められるといえる。
 本件採石地の周辺部に保全緑地が確保されおらず,また採石区域外の緑化修復措
置が遅延していたほか,主要道路等からの景観維持対策も講じられていない箇所が
多い等,開発行為によって森林の周辺地域における環境を著しく悪化させるおそれ
(森林法10条の2第2項3号)も認められる。
(ウ) 中止命令違反
 原告は,平成8年8月2日に森林法10条の3に基づき,同日から平成9年2月
1日までの6か月間の開発行為の中止命令を受けたが,その間も,本件採石地にお
いて,崩落土石の採取,製品化等の開発行為をしたのであって,原告が中止命令に
違反したことは明らかである。
 なお,中止命令の適法性について検討すると,原告は開発行為許可条件に違反し
て開発行為を行った者であって,本件採石地周辺の森林の有する公益的機能を維持
する必要が生じていたことは前述のとおりであって,中止命令は適法である。
ウ 以上によれば,原告が開発行為許可条件や中止命令に違反していることは明ら
かである。特に,本件事故が過去の崩落に比べてその規模が大きく,崩落事故後の
当該崖面の上部には亀裂が生じている可能性が相当程度あり,梅雨期の大雨により
二次崩落を起こす危険性は非常に高かったのであるから,府との修復工事前に崩落
土石の搬出作業を行うという開発行為許可に追加された条件違反行為は,作業員や
本件採石地の下流域の人々の人命を危険にさらすこととなって,許可を取り消すべ
き公益上重大な事実が発生したといえる。更に,原告には,森林法10条の2第2
項1号及び3号に反する行為が認められ,許可時点でそのような事実が存在すれ
ば,被告が原告に対して開発行為許可を与えないことは明らかである。
 よって,原告には,開発行為許可を取り消すべき公益上重大な事実が発生したと
いうべきである。
 原告は,原告の本件採石地における採石事業を事実上不可能とする開発行為許可
取消処分は,原告の違反行為の程度に比較して重きに失すると主張する。しかし,
原告の行為は軽微な条件違反に止まらず,法律に違反し,極めて危険な事態を招来
させるおそれのある行為であり,また前述の認定事実のとおり,被告担当者は処分
2の発付前に,原告の違反行為の是正に十分努めたにもかかわらず,原告が違反行
為を継続したのであるから,原告の主張を採用することはできない。また,原告の
行為が正当行為に当たらないことも前述のとおりである。
エ 以上によれば,処分2は適法であって無効事由は存在しない。
(3) 処分3(採石法に基づく採取計画認可取消処分)
ア 採石法33条の12は,採取計画の認可制度の担保のために設けられた採取計
画に附された条件,採取計画の遵守義務,緊急措置命令等に違反した採石業者に対
して,その制裁として,当該採取計画の認可の取消し又は一定期間の岩石採取行為
の停止命令を定めている。
イ 緊急措置命令違反
 前述の認定事実記載のとおり,原告は,被告から緊急措置命令を受けたものの,
それを無視し崩落土石の採取,製品化を継続したこと,原告代表者自身が被告担当
者に対して命令に従う意思のないことを明示したこと,被告担当者は,緊急措置命
令発付後,多数回にわたって緊急措置命令の遵守を指示したが,原告はその指示に
従わなかったことが認められ,採石法33条の12第3号後段に該当する事実があ
ることは明らかである。
 なお,緊急措置命令の適法性について検討すると,本件事故地において崩落事故
という災害が発生し,必要な措置として本件事故地に防護柵を設けて立入禁止とす
ることや府と修復協議をすること,修復協議が整うまで現状保全を命じることは相
当であって,緊急措置命令は適法である。
ウ 以上によれば,処分3は適法であって無効事由は存在しない。
 原告は,処分3についても違法行為と処分との比例原則に反すると主張するが,
採石法33条の12各号に該当する事実が存在する場合,認可を取り消すか事業停
止に止めるかについては被告の裁量に委ねられているところ,本件事故の規模が過
去の崩落事故に比べて格段に大きく,本件事故の発生が梅雨期であることから,本
件事故地において二次崩落が発生する可能性が相当高く,安全な修復工事方法につ
いて府との間で協議検討することなく,修復工事に着手すること自体が非常に危険
な行為であることからすれば,原告の緊急措置命令違反は非常に重大であるとい
え,被告が採取計画認可取消処分を選択したことは,比例原則に反するとはいえな
い。
(4) なお,原告は,本件事故は自然現象によるものであって,崩落土石は原告
の所有物であると主張する。しかし,処分1ないし3は,本件事故の原因や崩落土
石の所有権の所在とは全く無関係になされたものであって,前記の結論に影響を与
えるものではない。その他にも原告は縷々主張するが,いずれについても上記判断
を覆すものとはいえない。
3 処分4(原状回復に代わる措置命令)の取消事由の有無
(1) 本件国定公園区域
ア 証拠(甲113,114,乙21~28(各枝番を含む。),証人F)及び弁
論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
 国定公園は,公園法に基づき,国立公園に準ずる優れた自然の風景地をして,環
境庁長官が指定するものであって,国定公園区域の指定は,区域に含まれる各土地
の地番を指定するのではなく,縮尺5万分の1の地形図に区域線を引くことによっ
て行われる。区域線の選定は,原則として,稜線界,沢界,河川界といった地形に
よるもの,森林施行における事業区界,林班界,小班界によるものとされている。
 本件国定公園は,国定公園に関する権限が環境庁の所管となる以前の昭和33年
4月10日に,厚生大臣により指定されたものあって,本件採石地付近の公園区域
線は,森林法の地域森林計画で使用されている林班界が用いられている。本件国定
公園の区域線である林班界は,本件採石地を含むように本件採石地の北側を通って
おり,本件採石地が本件国定公園区域内であることは明らかである。
イ 原告は,官報で具体的な公園区域線が公示されていないこと及び縮尺5万分の
1の地形図を使用して,自然の地形とは無関係に区域線が指定されていることか
ら,本件国定公園の区域線は不明確であり公園法10条3項に反するものであっ
て,本件採石地が本件国定公園区域内に存在することを前提として行われた処分4
は違法であると主張する。
 公園法10条3項が,国定公園の指定について,指定する旨及び指定する区域を
官報で公示して行うべきことを定めているのは,国定公園の指定が国民の権利義務
に直接影響を及ぼすところが大きいことに基づくものであるが,官報に公園区域線
を記載した図面を掲載することは実際的でなく,指定地域の名称を掲載し,公園区
域線を明示した図面は関係省庁に備付けとすることで,国定公園の指定を受け新た
に権利義務を負う可能性のある者に対する注意喚起としては十分であるといえる。
また,公園の区域指定が広範囲にわたるものであることからすると,縮尺5万分の
1の地図を利用することは相当であるといえる。国定公園の指定が森林計画等とも
密接な関係を有すると考えられるところからすると,指定区域線が必ずしも自然の
地形と一致しないとしてもやむを得ないというべきであって,本件国定公園の区域
指定が公園法10条3項に違反するとはいえない。実際,原告は,昭和55年から
本件採石地の一部が本件国定公園区域内にあることを前提に公園法許可の申請を行
っていることからしても,原告の主張は採用できない。
(2) 処分4(原状回復に代わる措置命令処分)
ア 国定公園は,これを指定する国が土地の権利を有することを要件としない地域
性の公園であり,国が土地の権利を根拠として公園全体について規制を行うことは
できないから,その美しい自然の風致景観を保護するためには,風致景観に影響を
与えるおそれのある行為を禁止又は規制する必要がある。このため,公園法は,公
園区域内に保護の必要性の内容・程度に応じて特別地域,特別保護地域等を指定
し,各地域について,一定の行為を行うにつき都道府県知事の許可を要するものと
しており,特別地域については,土石の採取行為を許可を要する行為としている
(17条3項3号)。17条3項の許可には,風致景観を保護するために必要な限
度において,条件を付することができる(19条)。
 そして,公園法21条は,上記の行為規制や許可に付された条件に違反する行為
があった場合には,都道府県知事は,違反行為をした者に対して,原状回復又はこ
れに代わるべき必要な措置をとるよう命じることができる旨定めている。許可条件
違反行為に対する措置命令の要件は,●当該公園の保護のために必要があること,
●19条により許可に附せられた条件に違反したこと,●保護のために必要な限度
であること,である。
イ ●公園法19条の規定により附せられた条件に違反したこと
(ア) 前述の前提事実及び認定事実記載のとおり,原告が,公園法許可において
条件とされた排水施設の設置や植栽を怠っていたこと,緑化修復措置や景観維持対
策を行っていないことが認められるほか,原告は,公園法許可の行為期間経過後も
新たな公園法許可の申請を行わなかったため,公園法許可が消滅したが,依然本件
国定公園内の工作物,建築物等を撤去していないことが認められ,原告が公園法1
9条の規定により附せられた条件(①行為場所は本件採石地とし,申請のとおり排
水施設の設置や植栽を行うこと,③緑化計画書(植栽計画図)に基づき緑化修景す
ること,⑤沈殿池を設置する等の措置を講じ,周辺域に土砂及び濁水を流出させな
いこと,⑦工事に伴う仮工作物は,行為完了後直ちに撤去すること,⑧採石跡地は
風致の保護上支障のないよう整理すること,⑨風致景観に著しい支障を与える場所
には,張芝,種子吹付等により,緑化を行うこと,⑮施行に先立ってまず防災設備
(遊水池,沈砂池,排水路,土止柵等)を完備して土砂等を下流に流入しないよう
措置すること)に違反していることは明らかである。
(イ) なお,原告は,①審査指針及び細部解釈は憲法29条,14条に違反す
る,②原告は,旧通達に基づいて公園法許可を受けたAから採石事業を譲り受けた
から,審査指針の適用を受けず,平成9年1月11日以降も採石権限を有する,③
公園法許可に1年間の短期間の条件を付することは,風致景観の保護のために必要
な限度を超えており,公園法19条に違反する,と主張する。
 しかし,公園法による特別地域等における行為規制は,風景地の保護,利用の増
進による国民の保健,休養,教化という目的(公園法1条)のために財産権に対し
て加えられる政策的制約として許容されるものであり,憲法29条に反するとはい
えない。そして,審査指針及び細部解釈は,公園法の解釈運用に関する内部通達に
すぎず,公園法の目的及び個別の規定の趣旨に反する内容を含むとは認められない
から,これらの通達に基づいて公園法の解釈運用を行うことが憲法29条に反する
とはいえない。また,審査指針において鉱山業者の露天掘りによる鉱物採掘と採石
業者の露天掘りによる採石について原告主張のような違いがあるからといって,審
査指針に基づいて公園法許可の解釈運用を行うことが採石業者に対する不当な差別
をもたらし,憲法14条に違反するとも認められない。
 審査指針及び細部解釈の施行以前になされた公園法許可は,当該許可の期間の満
了により終了しており,原告は,審査指針及び細部解釈の施行後も申請,許可を繰
り返しているのであるから,従前の許可の効力がなお存続するということはあり得
ず,従前の許可の内容が後続の許可の内容に影響を与えることもない。
 公園法許可に当たり,対象となる行為について他の法律に基づいて付された期間
の条件を考慮し,1年という期間を条件として付加して,期間満了時に再度の許可
に必要な諸要件の具備を確認することは,公園法19条に定める「国定公園の風致
又は景観を保護するために必要な限度」を超えるものではなく,この点に関する原
告の主張も採用できない。
ウ ●当該公園について保護の必要があると認められること
 処分4の時点において,原告に対する公園法許可の効力は消滅しており,原告が
本件採石地において土石採取を行うことは許されない。したがって,本件国定公園
内に存在する原告の工作物,建築物等は,公園法上何ら根拠なく存在していること
になる。そして,国定公園内の風致景観維持という公園法の趣旨からすると,国定
公園内の工作物,建築物等は国定公園の風致景観を害するものであるから,国定公
園内に法的根拠なくそのような工作物,建築物等が存在することは好ましくない。
また,通常,自然の自力回復を期待することはほとんどできないから,本件国定公
園内において,排水施設の未設置,植栽未施行,緑化修復措置未施行,景観維持対
策未実施という状態が継続することによって,国定公園内の風致景観維持を害する
ことは明らかであって,保護の必要性を認めることができる。
エ ●必要な限度でかつ必要な措置であること
 前述のような保護の必要性からすれば,原告に対して,工事に伴う仮工作物等の
撤去,撤去跡地の整理,防災措置の施行,緑化回復措置の施行を命じることは,必
要な限度でかつ必要な措置であるということができる。そして,これは撤去すべき
仮工作物の経済的価値等により影響を受けるものではないことも明らかである。
(3) なお,原告は,原告が採石業を継続する意思を有していたことは明らかで
あって本件採石地は「採石跡地」ではない,また本件採石地上の設備,建築物等は
「仮工作物」とはいえないと主張する。しかし,原告から公園法許可の申請がな
く,したがって被告の許可もない以上,従前の許可に基づいて行われた採石業の跡
地が本件国定公園内に放置されているといわざるを得ない。また,本件採石地上の
設備,建物等は,採石業に付随するものとして採石業に関する公園法許可の内容に
含まれており,許可期間やその付随性から,公園法上は仮工作物として扱っている
もので,その限りで別途「工作物新築」の許可(公園法17条3項1号)を要せず
して設置を許可されているのであって,その経済的価値や近緑法に基づく届出のさ
れていることにより「仮工作物」該当性が否定されるものではない。
(4) 以上によれば,処分4は適法であるといえる。
4 結論
 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 山下郁夫
裁判官 山田明
裁判官 小泉満理子

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