弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
被告は,原告に対し,174万9810円及びうち18万0500円に
ついては平成22年11月3日から支払済みまで年6分の割合による金員
を,うち156万9310円については同日から支払済みまで年5分の割
合による金員を各支払え。
イ(予備的)
被告は,原告に対し,154万3500円及びうち12万3500円に
ついては平成22年11月3日から支払済みまで年6分の割合による金員
を,うち142万円については同日から支払済みまで年5分の割合による
金員を各支払え。
被告は,原告に対し,平成22年10月1日から本判決確定の日まで,月
額9500円の割合による金員及びこれらの各金員に対する各月26日から
支払済みまで年6分の割合による各金員を各支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
2請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
1争いのない事実
原告は,平成6年3月,Aを卒業後,被告に就職し,被告が組織するB
病院(以下「本件病院」という。)の理学療法科(現在のリハビリテーシ
ョン科,以下,単に「リハビリテーション科」という。)に配属され,理
学療法士(そのころ資格を取得した。)として勤務を開始した者である。
原告は,平成15年2月に結婚し,平成16年12月17日に第1子を,
平成20年10月12日に第2子をそれぞれもうけた。
イ被告は,組合員の出資によって経営される医療介護事業を営む協同組合
であり,平成22年6月30日現在の組織は,およそ別紙C事業組織図記
載のとおりである。
原告は,平成6年3月21日(ただし,本採用は同年6月21日),被告
との間で,期間の定めなく,B病院の理学療法科において理学療法士として
業務に当たることを内容とする労働契約(以下「本件労働契約」という。)
を締結した。その際の給与は,基本給月額16万7700円とされ,毎月1
5日締めの当月25日払いとされた。
原告は,平成10年11月16日にD診療所に,平成15年1月16日に
訪問看護ステーションEに,それぞれ異動したが(いずれの職場も理学療法
士は原告のみであった。),同年12月1日,本件病院のリハビリテーショ
ン科(当時は,訪問リハビリチームと病院リハビリチームに分かれていたが,
原告は前者に所属)に異動となり,訪問リハビリ業務に従事するようになっ
た。
原告は,平成16年4月16日,被告から,リハビリテーション科の副主
任に命ぜられた。
被告は,平成19年7月1日,リハビリテーション科の業務のうち,訪問
リハビリ業務を,訪問看護ステーションF(以下「F」という。)に移管し
た。原告は,これにより,リハビリテーション科の副主任から,Fの副主任
となった。
原告は,平成20年2月,第2子を妊娠し,労働基準法(以下「労基法」
という。)65条3項による「軽易業務への転換」を希望した。
被告は,平成20年3月1日,原告に対し,リハビリテーション科(同科
を命ずるとともに,副主任の地位を免じた(この副主任の地位を免じた措置
を「本件措置1」という)。
原告は,平成20年9月1日から同年12月7日まで産前産後休暇を取得
し,翌同月8日から平成21年10月11日まで育児休暇を取得した。
被告は,平成21年10月12日,原告に対し,Fへの異動を命じた。

における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」
といい,これに係る施行規則を「均等法規則」という。)9条3項に反する違
務への転換希望以前に命じていた副主任の地位を免じたが,この措置(以下「本
件措置2」といい,本件措置1と併せて「本件各措置」という。)も,均等法
9条3項及び「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に
関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)10条に反する違法無効
なものであるなどとして,被告が本件措置1を講じた平成20年3月1日以降
平成22年10月15日までの就労期間における副主任手当相当(月額950
0円)の金員合計18万0500円及び遅延損害金並びに翌同月16日から本
判決確定日までの同手当相当(月額9500円)の割合による金員及び遅延損
害金の各支払を求めるとともに,②本件各措置は,不合理な理由による性差別
あるいは家族的責任を負う労働者に対する差別であり,副主任として誠意をも
って尽くしてきた原告の懸命の努力を無にし,原告の尊厳を傷つけるもので,
均等法2条,育児・介護休業法1条に定める被告の義務に反する違法なもので
がされなかった場合に給付された額と実際の給付額との差額8万7514円,
れた額と実際の
付金のうち,本件措置1がされなかった場合に給付された額と実際の給付額と
計156万9310円の損害を被ったとして,債務不履行ないし不法行為に基
づき,損害賠償金156万9310円(上記①の18万0500円と合計する
置1が適法有効であるとしても,①本件措置2は上記のとおり違法無効である
などとして,被告が本件措置2を講じた平成21年10月12日以降の就労期
間における副主任手当相当(月額9500円)の金員合計12万3500円及
び遅延損害金並びに翌同月13日から本判決確定日までの同手当相当(月額9
500円)の割合による金員及び遅延損害金の各支払を求めるとともに,②本
件措置2が上記のとおり,均等法2条,育児・介護休業法1条に定める被告の
義務に反する違法なものであり,これにより原告は慰謝料100万円及び弁護
士費用42万円の損害を被ったとして,債務不履行ないし不法行為に基づき,
損害賠償金142万円(上記①の12万3500円と合計すると154万35
00円)及び遅延損害金の各支払を求めた事案である。
3争点
本件措置1の効力
本件措置2の効力
本件各措置は債務不履行,不法行為に当たるか
4争点に関する当事者の主張
本件措置1の効力
【原告の主張】
ア被告は,均等法施行規則2条の2第6号に定める,妊娠に伴う軽易な業
務への転換請求を契機に本件措置1を講じており,均等法9条3項に定め
る「妊娠又は出産に関する事由」によって原告に「降格」(平成18年厚
という「不利益な取扱い」をしたといえるから,本件措置1は,均等法9
条3項に反する違法無効なものである。
イ原告が本件措置1に同意し,また,原告と被告が副主任の地位の免除を
黙示に合意したとの,被告の後記主張事実は否認する。
また,被告は,後記のとおり,副主任の免除は降格に当たらないと主張
するが,降格とは職位,職階,職能資格等を低下させることで,号棒の引
下げが必須の要件となるわけではない。副主任の免除により,役職手当が
なくなり,職務内容の変化もあるから,当然均等法告示にいう「降格」に
当たる。仮に,降格に当たらないとしても,原告の処遇は明らかに以前と
比して低下しており,均等法9条3項が禁ずる「不利益な取扱い」に当た
る。
【被告の主張】
ア被告が,本件措置1によって副主任の地位を命じなかったのは,軽易な
業務への転換請求をしたゆえではなく,異動先のリハビリテーション科の
規模からして副主任を置く必要はなかったものであり,被告の業務遂行上
・管理運営上・人事配置上の必要性に基づくものであって,合理性があり,
濫用はない。
イまた,原告は,リハビリテーション科に異動するに際し,本件措置1に
つき同意しているし,仮にこの同意の事実が認められないとしても,原告
は,副主任の地位を免除されたまま,産前産後休暇を取得するまでの6か
月間,リハビリテーション科での勤務を異議なく続けているから,原告と
被告は,副主任の地位の免除を黙示に合意したといえる。
ウそもそも,理学療法士等の技術職の主任・副主任の地位は「職位」であ
っても「職階」ではなく,その免除は「降格」ではない。したがって,本
件における副主任の免除は「降格」に該当しない。
したがって,本件措置1は,均等法9条3項に違反するものではない。
本件措置2の効力
【原告の主張】
ア被告は,本件措置2によって副主任の地位を免ぜられたが,被告が免除
した理由は,妊娠に伴う軽易な業務への転換請求があったからであり,結
果的に,本件措置2は,軽易な業務への転換請求を理由としているという
べきである。また,本件措置2は,原告が,産前産後休業,育児休業をし
たことも理由としているとみられる。
本件措置2は,直前の職と比較すれば地位の変更はないが,妊娠により
軽易業務への転換を行った結果その職位が降格した場合,妊娠の事実がな
くなった以上,軽易業務の転換を継続する必要はなくなっているから,当
然,軽易業務への転換前の職位に戻されるべきである,したがって,原告
に対し,副主任の地位を免除したまま復帰を命じた本件措置2は,実質的
な降格処分である。
したがって,原告は,本件措置2により,均等法9条3項に定める「妊
娠又は出産に関する事由」によって,また,育児休業をしたことによって,
降格,不利益な配置の変更という「不利益な取扱い」(均等法告示第4の
ら,本件措置2は,均等法9条3項,育児・介護休業法10条に反する違
法無効なものである。
イ被告は,後記のとおり,原告を配置できる部署がFに限定され,Fには
副主任がいたので,副主任を置く必要がなかった旨主張するが,異動先が
Fに限定されていたとの合理的根拠に乏しいし,当時Fに副主任を置けな
い理由も存しなかった。
【被告の主張】
被告は,平成21年10月に原告にFへの異動を命じた際,副主任の地位
を免じたのではなく,副主任の地位につけなかったものである。被告は,原
告による産前産後休暇,育児休暇後の適切な人事配置をするべく,原告につ
いて複数の異動先を検討したが,当該異動先の所長から受け入れを拒否され
るなどして異動先の選択肢が限られ,結果としてFに配置となったところ,
Fには既に副主任がいて,原告を副主任に任ずる必要性,必然性がなかった
のである。被告は,このような事業遂行上,管理運営上の必要性に基づいて,
原告を副主任の地位につけなかったもので,合理性があり,濫用はない。
したがって,本件措置2は,均等法9条3項,育児・介護休業法10条に
反するものではない。
本件各措置は債務不履行,不法行為に当たるか
【原告の主張】
一般に,事業者(使用者)は,労働者に対し,労働関係法令にしたがい,
労働者が性別により差別されることなく,また,女性労働者にあっては母性
を尊重されつつ,また家庭的責任を負う労働者についてその責任を達成しつ
つ,充実した職業生活を営むことができるように努める義務がある(均等法
2条,育児・介護休業法1条)。
しかるに,被告は,この義務に反し,本件各措置を行い,これにより原告
は経済的,精神的損害を被った。
したがって,被告は,原告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,
原告が被った上記損害を賠償する責任を負う。
【被告の主張】
原告の上記主張は,否認ないし争う。
【原告の主張】
おりの損害を被った。
ア健康保険組合の出産手当8万7514円
原告は,平成20年3月1日に副主任を免ぜられたことにより,副主
任手当が支給されなくなり,その結果,標準報酬月額が32万円(日額
1万0670円)から28万円(日額9330円)に変更された。
健康保険組合の出産手当は,標準報酬日額の3分の2の額が給付日額
であり,これに産前産後休暇の日数を乗じた額が給付される。
原告の産前産後休暇の日数は98日であるから,原告は,本件措置1
により,同措置がされなかった場合に給付された額と実際の給付額との
差額を得ることができたということになり,その額は,次の計算式のと
おり,8万7514円となる。
【計算式】
(10,670×2/3-9,330×2/3)×98=87,514
イG共済手当の産休見舞金1万3132円
G共済手当の産休見舞金は,標準報酬日額の10%が給付日額であり,
これに産前産後休暇の日数を乗じた額が給付される。
原告の産前産後休暇の日数は98日であるから,原告は,本件措置1
により,同措置がされなかった場合に給付された額と実際の給付額との
差額を得ることができたということになり,その額は,次の計算式のと
おり,1万3132円となる。
【計算式】
(10,670×1/10-9,330×1/10)×98=13,1
32
ウ雇用保険の育児休業基本給付金・育児休業職場復帰給付金4万866
4円
雇用保険の育児休業基本給付金・育児休業職場復帰給付金は,育児休業
開始時の実際の賃金日額の半額が育児休業期間中に給付されるところ,原
告の賃金日額差額は316円,育児休業期間は308日であるから,その
給付差額は,次の計算式のとおり,4万8664円となる。
【計算式】
316×308×0.5=48,664
エ慰謝料100万円
本件各措置は,不合理な理由による性差別あるいは家庭的責任を負う労
働者に対する差別であり,これまで副主任として誠意をもって尽くしてき
た原告は,本件各措置により,その尊厳を傷つけられ,精神的苦痛を受け
た。これを慰謝するには100万円を下らない。
オ弁護士費用42万円
【被告の主張】
原告の上記主張は,否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
上記争いのない事実(第2の1)に,証拠(甲1ないし17,乙1ないし1
1,証人H,同I,同J,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事
実が認められる。
原告は,平成6年3月,本件病院のリハビリテーション科(当時は理学療
法科)に配属され,理学療法士として勤務を開始した(本採用は同年6月)。
このとき,同科には,技術者として,原告を含む4名の理学療法士(科長の
K(理学療法士歴20数年目),H(理学療法士歴9年目,以下「H」とい
う。),J(理学療法士歴3年目。原告と同時に被告に就職,以下「J」と
いう。),原告(理学療法士歴1年目))がおり,他に鍼灸師1名,助手3
名前後がいた。
原告は,平成10年11月16日にD診療所に,平成15年1月16日に
訪問看護ステーションEに,それぞれ異動した(いずれの職場も理学療法士
は原告のみであった。)。
原告は,平成15年10月ころ,妊娠により体調を崩し,異動の希望を申
し出て,同年12月1日,本件病院のリハビリテーション科(当時は,訪問
リハビリチーム(患者の自宅を訪問してリハビリ業務を行うチーム)と病院
リハビリチームに分かれていた。なお,訪問リハビリ業務の方が,病院リハ
ビリ業務より,車を運転したり,重いものを持ったりしないといけない分,
きつい仕事であると,一般に認識されていた。)に異動となり,訪問リハビ
リチームに所属し,同業務に従事するようになった(原告はその後流産した
。)。この当時のリハビリテーション科の主な体制は,Hを科長として,訪
問リハビリチームが,J(平成15年9月に産前産後休暇から復帰,理学療
法士歴12年目),原告(理学療法士歴9年目),L(理学療法士歴5年目
),M(病休中,理学療法士歴7年目),N(育児休暇中,理学療法士歴6
年目,以下「N」という。),病院リハビリチームが,O(理学療法士歴7
年目),P(理学療法士歴3年目,以下「P」という。),Q(理学療法士
歴2年目),R(理学療法士歴2年目)であった。
平成16年4月,リハビリテーション科の科長であるHが,そのころ被告
が行うS病院建設の準備等で不在がちとなり,また同科には科長であるHの
ほかに主任,副主任がいなかったこと,原告がそのころ妊娠し同科の訪問リ
ハビリチームから病院リハビリチームに配置換えになることが決まっていた
ことから,被告は,同月,訪問リハビリチームと病院リハビリチームのそれ
ぞれにおいて取りまとめ役を置く体制を確立すべく,前者の取りまとめの役
割を担ってもらうため,Jを同科の主任に,後者の取りまとめの役割を担っ
てもらうため,同月16日,原告(Jの次に経歴が長かった。)を同科の副
主任に任じた。訪問リハビリチームにおける原告の後任者は,病院リハビリ
テーションチームに所属していたPとなったが,原告,P間の引継ぎは約2
日間のみで行われ,それ以降は,原告が体調不良で病休となったため,実質
的な引継ぎは行われなかった。
原告は,平成16年10月28日から平成17年2月11日までの間,産
前産後休暇を取り(その間の平成16年12月17日,第1子出産),平成
17年2月12日から平成18年2月11日までの間,育児休暇を取った。
平成17年6月,Hは,S病院に異動となり,その後,被告のリハビリ部
門全体のとりまとめを行うようになった。
原告は,平成18年2月12日,リハビリテーション科(訪問リハビリチ
ームに配属)に復帰した。なお,当時,病院リハビリチームの取りまとめは
J(主任)が行っていた。
同年3月,リハビリテーション科の職責者会議が行われた(H,J(主任
),原告(副主任)が参加)。原告は,その際,訪問リハビリについて月8
0件の目標は大変だから月60件くらいに減らすべきである旨意見を述べ,
それほど無理ではないとのJの意見に対し,二重管理しないでほしい旨述べ
るなどして,途中退席した。その後の同年4月以降,職責者会議の円滑な進
行を図るため,当時のT事務次長兼人事・医局事務課長(以下「T」という
。)がオブザーバーとして参加するようになった。
Jは,平成19年6月から平成20年1月までの間,産前産後休暇,育児
休暇を取った。
被告は,平成19年7月1日,リハビリテーション科の業務のうち,訪問
リハビリ業務を,Fに移管した。原告は,これにより,リハビリテーション
科の副主任から,Fの副主任となった。
原告は,平成20年2月,第2子を妊娠し,軽易業務への転換(具体的に
は,訪問リハビリ業務から病院リハビリ業務への転換)を希望した。
Hは,同月13日,Jから,原告の上記希望を聞き,また,翌14日には,
Jから,原告のあとにNがFで勤務することで同人の承諾を得たことを聞き,
訪問リハビリ業務の責任者(副主任)の後任についてはPが適任であること
をJと確認し(Pは,その後,Fの副主任を命じられた。),それらのこと
をTにメールで報告した。
そして,Hは,訪問リハビリ業務(F)についてはPが副主任となるし,
リハビリテーション科(病院(院内)リハビリ業務を行う。)においてはJ
が主任として取りまとめをしており,その規模からしても,さらに副主任を
置く必要性はないと考え,同月下旬ころ,原告に対し,電話で,リハビリテ
ーション科への異動を内示するとともに,同科の体制からみて副主任を置く
必要性がない旨述べて,副主任を免除する旨伝え,渋々ながらも原告の了解
を得た。しかし,原告の上記了解は,Tには伝わらなかった。そのため,原
告の副主任免除については,正しい稟議決裁を経ないまま,平成20年3月
1日の被告の朝礼文書(甲7)には,同日付けで原告がリハビリテーション
科副主任として異動する旨が記載されていた。Tは,同月中旬ころ,原告に
対し,誤った稟議書により朝礼文書の記載が間違ってしまったことを説明,
謝罪した。その後,Hは,原告と電話で話をし,その時点でも,副主任を免
除することについて,渋々ながらも原告の了解を得た。原告としては,自ら
軽易業務への転換を希望した経緯があり,現在妊娠中で,精神的なストレス
が続くかもしれず,役職は負担となるかもしれないとの思いもあり,不満で
はあったが,副主任免除を受け入れようと思った。原告は,そのころ,U介
護事務部長に対し,4月1日付けで副主任を免除されるのでは,原告のミス
で降格になったように受け取られるので,異動日である3月1日に遡って同
日付けでの副主任の免除にしてほしい旨希望した。
被告は,被告内部の稟議を経て,平成20年4月2日,原告に対し,同年
3月1日付けでのリハビリテーション科(副主任免除)への異動の辞令を発
した。
原告は,平成20年9月1日から同年12月7日までの間,産前産後休暇
を取り,平成20年12月8日から平成21年10月11日までの間,育児
休暇を取った。原告は,上記辞令が出て,産前(産後)休暇を取得するまで
の約5か月間,副主任を免除されたことについて被告に異議を述べるなどし
たことはなかった。
被告は,原告の育児休暇が終わる前である平成21年7月下旬ころから,
H,J,Pらが参加するリハビリ職責者会議等で,原告の復帰先を複数検討
した。その中で,原告が配置されるなら自分は辞めるという理学療法士が2
名いる職場があるなどして,復帰先はしぼられていった。他方,Hは,同年
8月初めころ,原告に対し,異動についての原告の希望を聞くと,原告は,
復帰先はどこでもよいが,勤務先と保育所が近い部署がよいなどと要望した。
Hは,同年9月中旬ころ,原告に対し,FからD診療所に他の理学療法士を
転出させるのを前提にした,Fへの異動を打診したところ,原告は,原告が
Fに戻ることで,D診療所に理学療法士が一人異動となり,その結果一人職
場を作ることになるのは良くない,D診療所に理学療法士一人が行ったから
といってどうなるものでもない,私ならそんな人事はしない,意味のない人
事配置でナンセンスである,などと言ってこれに反対した。原告は,また,
その際,Hに対し,Fに復帰の場合の職責者はどうなるかを尋ね,Hが現行
のまま(Pが副主任で,原告は副主任にはならない。)でいく旨述べると,
元部下であるPの下では業務したくない,Hなら元部下の下でも仕事ができ
るかと声を荒げた。これに対し,Hは,組織の人間だから,自分の本意では
なくとも,元部下の下で私は仕事をする旨答えた。
被告は,平成21年10月12日,原告に対し,Fへの異動(副主任の職
はつけていない。)を命じた。
以上の事実が認められ,甲12(原告の陳述書)の記載中及び原告本人尋問
の結果中,同認定に反する部分は直ちに採用できず,他に上記認定を覆すに足
りる証拠はない。

原告は,本件措置1は,原告の妊娠に伴う軽易な業務への転換請求を契機に,
均等法9条3項に定める「妊娠又は出産に関する事由」によって行われたもの
で,同措置により被告は原告に対し均等法告示にいう不利益な取扱いをしたか
ら,本件措置1は,均等法9条3項に反する違法無効なものである旨主張する。
しかしながら,上記1の認定事実によれば,本件措置1は,平成20年2月
に,原告が第2子を妊娠し,軽易業務への転換を希望したことを契機に,その
希望に沿うべく,原告は当時勤務していた訪問リハビリ業務を行うFから本件
病院のリハビリテーション科に異動することになったが,当時,同科には,原
告より理学療法士歴が約3年ほど長いJが主任として,とりまとめを行ってお
り,同科の規模,体制からしても,さらに副主任を置く必要性を見い出せなか
ったため,被告のリハビリ部門全体のとりまとめを行っていたHが,原告にそ
の旨を告げ,原告の了解を得て,被告において原告に対し講じられたものであ
り,事務手続の手違いで同年3月1日付けの朝礼文書には副主任として異動す
る旨の誤った記載がされたが,その後,降格と受け取られないように同日付け
に遡って副主任免除にしてほしい旨原告が被告に求めたり,同年4月2日にリ
ハビリテーション科(副主任免除)の辞令が発せられた後,産前(産後)休暇
を取得する同年9月まで,原告が被告に対し副主任免除について異議を述べた
ことがなかったこと等からしても,原告が副主任免除について,上記辞令が発
せられるまでに,これに(渋々であるとしても)同意していたことは明らかで
ある。
以上によると,本件措置1は,被告において,原告の妊娠に伴う軽易な業務
への転換請求を契機に,これに配慮しつつ,原告の同意を得た上で,事業主で
ある被告の業務遂行・管理運営上,人事配置上の必要性に基づいてその裁量権
の範囲内で行ったものと認められ,原告の妊娠に伴う軽易な業務への転換請求
のみをもって,その裁量権を逸脱して,均等法や均等法告示にいう不利益な取
扱いをしたものとまでは認め難い。
原告は,平成16年4月に原告が副主任に任じられた当時,リハビリテーシ
ョン科の訪問リハビリチームにはJ主任がいて,原告はさらに副主任に任じら
れているもので,このときの病院リハビリチームの人員構成は,原告が副主任
を免除された当時とほぼ同じであるから,被告が本件措置1により原告を副主
任に免除する合理的理由はなかった旨主張する。
しかしながら,原告が平成16年4月に副主任に任じられた経緯は,上記1
務及び病院リハビリ業務の両方について責任を負うH科長がS病院の立ち上げ
の責任者として多忙で不在がちとなり,また同科には科長であるHのほかに主
任,副主任がいなかったこと,原告がそのころ妊娠し同科の訪問リハビリチー
ムから病院リハビリチームに配置換えになることが決まっていたことから,訪
問リハビリチームと病院リハビリチームのそれぞれにおいて取りまとめ役を置
く体制を確立すべく,被告は,前者の取りまとめの役割を担ってもらうため,
Jを同科の主任に,後者の取りまとめの役割を担ってもらうため,同月16日,
原告(Jの次に経歴が長かった。)を同科の副主任に任じたものであって,こ
のとき,訪問リハビリチームもしくは訪問リハビリチームに主任,副主任を同
時に置いたものではなかったし,またその必要性があったことをうかがわせる
証拠も見い出せない。そうすると,原告が平成16年4月に副主任に任じられ
た事情から,原告が本件措置1において副主任を免除されたことの不合理性を
導くことはできず,この点に関する原告の主張は理由がない。
以上のとおりであり,本件措置1に均等法9条3項に基づく無効事由は認め
られず,他に同措置が均等法9条3項により無効なものであることを基礎づけ
る事実を認めるに足りる証拠はない。
3て
原告は,本件措置2により,均等法9条3項に定める「妊娠又は出産に関す
る事由」によって,また,育児休業をしたことによって,降格,不利益な配置
2は,均等法9条3項,育児・介護休業法10条に反する違法無効なものであ
る旨主張する。
しかしながら,上記1の認定事実によれば,本件措置2は,原告が,第2子
の産前産後休暇を経て,育児休暇が終わる前である平成21年7月下旬ころか
ら,被告内部において,原告の復帰先が複数検討され,原告が配置されるなら
自分は辞めるという理学療法士が2名いる職場があるなどして,復帰先がしぼ
られていく一方,原告本人にも復帰先についての希望が聞かれ,その中で,F
への異動が内定したが,当時Fには副主任としてPがいたことから,被告にお
いて,Fへの異動に際し,原告を副主任に任じないことにして,原告に対し講
じられたものである。
そうすると,本件措置2は,原告が第2子出産から職場復帰するに際し,原
告の希望(勤務先と保育所との距離関係等)を聞くなどして,その復帰先につ
いて慎重に検討がされた上で,内定した復帰先(F)に既に副主任がいたこと
等の事情が考慮され,被告において,業務遂行・管理運営上,人事配置上の必
要性に基づいてその裁量権の範囲内で行われたものと認められ,妊娠又は出産
に関する事由のみによって,また,育児休業をしたことのみによって,その裁
量権を逸脱して,均等法や育児・介護休業法に反する不利益な取扱いをしたも
のとまでは認めることはできない。
したがって,本件措置2に均等法9条3項,育児・介護休業法10条に基づ
く無効事由は認められず,他に同措置が均等法9条3項,育児・介護休業法1
0条に反する無効なものであることを基礎づける事実を認めるに足りる証拠は
ない。

上記2,3で説示したことからすれば,被告が本件各措置を講じたことによ
って,原告主張に係る原告に対する債務不履行,不法行為に該当する事情があ
ったと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。この点に
関する原告の主張は理由がない。
5まとめ
がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第2部
裁判官植屋伸一

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