弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件記録によれば、北海道静内郡a町字b町c番地Aは、抗告人を被告として、
札幌地方裁判所昭和二七年(ワ)第三五六号貸金請求事件の判決に対し債務金額の
不存在を理由に請求に関する異議の訴を提起し、かつ民事訴訟法第五四七条による
強制執行停止決定を申し立てて原決定を得たものであることが認められる。民事訴
訟法第五四七条の強制執行停止決定に対して即時抗告をなしうるか否かについて
は、裁判例も学説も、積極消極に分れ、それぞれに議論がなされている。しかし、
両説のいずれをとつても、その理由は決定的なものであるとはいえない。このよう
に許否いずれにも理論構成をすることが可能な事態においては、特に当該の場合に
つき不服申立を禁止する規定がない以上、また不服申立を許すことによつて著しい
不都合の生じることが一見明らかであるとか実証的に明らかにされたというのでな
い以上、むしろ民事訴訟法第五五八条の一般的原則に立ちかえつて不服申立を許す
こととするのが、法の精神にも合致し、相当である。従つて本件抗告は適法であ
る。
 そこで、進んで本件抗告の当否を判断することとする。本件抗告の趣旨は原決定
を取り消し、申立を却下するとの裁判を求めるにあり、その理由の要旨は、本件債
権はなお金四六万一六〇〇円が残存すること、本件停止決定の申立をしたAの代理
人たる弁護士上口利男は、昭和二八年一月二二日、本件債務名義である判決正本に
つき裁判所書記官として執行文を付与したことがあるから、本件申立は弁護士法第
二五条第四号に抵触し無効のものであることを主張するに帰する。
 そのうち債権残存の点については、停止決定申立書添付の文書の書証により本訴
たる請求異議の訴の原因につき疏明ありと見た原決定は、記録に照してこれを肯認
することができる。これはもとより確定的な心証ではないが、それは本訴の証明手
続の問題であつて、疏明で足りる本件停止決定の申立手続においでは、この程度を
以て満足すべきである。
 次ぎに、弁護士法違反との点については、たしかに、主張のとおりの事実を認め
ることができる。しかしな<要旨>がら、弁護士法第二五条第四号違反の行為はその
すべてが無効となるわけのものではなく、「公務員として職務上取り扱つ
た」という場合の職務内容のいかんによつて結論が異なるべきものであるところ、
裁判所書記官による執行文付与の手続は債務名義に執行力が現存するか否かの形式
的要件の調査に基づく公証をなすに止まり、何ら事案の実質に関与するものではな
いから、(民事訴訟法第五一八条第二項および第五一九条の場合には、同法第五二
〇条により「裁判長ノ命令」を要するよう定められていることも考え合わすべきで
ある。)執行文を付与したからといつて、その後、その書記官が弁護士となつて当
該事件に関与するにつき何らかの不都合が起るとは考えられず、形式的には弁護士
法第二五条第四号違反に該当しても、弁護士としての職務執行の効力を否定すべき
道理はない。従つて、本件において―記録によれば、右の執行文付与の後、執行債
権者が本件抗告人に変り、あらためて他の書記官により承継執行文が付与されたと
いう事情も認められるが、それを論じるまでもなく―弁護士上口利男のなした申立
行為は有効と解すべきである。
 その他記録を検討しでも、原決定を取り消すべき事由は認められず、本件抗告は
失当として棄却すべきである。よつて民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五
条、第八九条に則つて、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 臼居直道 裁判官 倉田卓次)

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