弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中主位的請求に関する部分についての本件上告を却下する。
     その余の本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人溝呂木商太郎の上告理由について
 不動産が競売手続において競落され、所有権に関する仮登記が先に登記された抵
当権に対抗することができないために抹消された場合において、右仮登記の権利者
は、所有権を取得していたときであつても、右仮登記の後に登記を経由した抵当権
者に対して、不当利得を理由として、その者が競売手続において交付を受けた代価
の返還を請求することはできないと解するのが相当である。けだし、仮登記は本登
記の順位を保全する効力を有するにとどまり、仮登記の権利者は仮登記に係る権利
を第三者に対抗することができず、所有権に関する仮登記の権利者には、本登記を
経由するまでの手続として、仮登記のままでその権利を主張することが認められる
場合があるが(不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項、仮登記担保契約に関す
る法律一五条二項参照)、この場合であつても、当該手続を離れて仮登記の権利者
が本登記を経由したのと同一の効力又は法的利益の帰属を主張することが認められ
るものではないので、所有権に関する仮登記の権利者は仮登記の後に登記を経由し
た抵当権者に対して優先して代価の交付を受ける権利を主張することはできないか
らである。
 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、(1) 訴外D
は本件建物を所有していたが、昭和四七年一二月一四日、訴外E実業株式会社のた
め、本件建物に債権額を三〇〇〇万円、損害金を日歩三銭とする抵当権を設定し、
昭和四八年一月一一日その旨の登記を経由し、(2) 訴外F実業株式会社(上告人
と同一商号であるが、別会社である。)は、昭和四八年三月二〇日、本件建物を訴
外Dから買い受け、昭和四九年七月二四日、その買主たる地位を上告人に譲り渡し、
(3) 上告人は、昭和五一年一二月一一日、右売買契約に基づく権利を保全するた
め、昭和四八年三月二〇日付けの売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を
経由したが、(4) 本件建物は、その後、訴外Dから訴外G産業株式会社へ、同訴
外会社から訴外H産業株式会社へ順次譲渡され、昭和五二年一月一三日、訴外H産
業株式会社への所有権移転登記が経由され、(5) 同訴外会社は、昭和五二年一月
一三日、被上告人のために、本件建物に、極度額二億五〇〇〇万円の根抵当権を設
定し、(6) 昭和五二年六月一六日、訴外E実業株式会社の競売申立により、本件
建物について競売開始決定がされ、昭和五三年一二月七日被上告人がこれを一億二
〇〇〇万円で競落し、昭和五四年一月一八日代金が納付され、同年二月一五日、右
代金から競売費用及び租税債権を控除した金額は、三六五七万円が同訴外会社に対
して、八一四三万八六四九円が被上告人に対して、それぞれ交付されたというので
あるから、前記説示に徴すれば、右競売手続において、被上告人が交付を受けた代
価を不当利得として返還するよう求める上告人の予備的請求を棄却した原審の判断
は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、右と異な
る見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができない。
 なお、原判決中主位的請求に関する部分については、上告人は上告理由を記載し
た書面を提出しない。
 よつて、民訴法四〇一条、三九九条の三、三九九条一項二号、九五条、八九条に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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