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判決 平成14年5月14日 神戸地方裁判所 平成14年(わ)第63号有印公文
書偽造,同行使,詐欺被告事件(認定罪名 詐欺)
主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成13年8月21日,AことB(以下「A」という。)から,被告
人において「B」になりすまし,株式会社Vから金銭を借り受ける契約をして欲し
い等と依頼されるや,Aにおいて,同人の戸籍上の氏名が「B」であることを消費
者金融業者に知られていないことを奇貨として,「B」名義で借入金名下に金員を
詐取しようと決意し,遅くとも同日ころまでに,前記株式会社VC支店の融資担当
営業員Dに対し,真実は「B」はAの氏名であって被告人の氏名ではないのにこれ
を秘し,あたかも被告人が「B」であるかのように装い,被告人の顔写真入りの
「B」あての兵庫県公安委員会作成名義の自動車運転免許証様のコピーその他関係
書類を提出するなどして「B」が経営するE株式会社の運転資金等として300万
円の融資申込みをする
旨虚偽の事実を申し向けていることなどを知りながら,前記Aの依頼を了承し,こ
こにAと共謀の上,前記株式会社Vから借入金名下に金員を詐取しようと企て,同
月22日ころ,大阪市F区Ga丁目b番c号所在の株式会社H事務所において,同
事務所に電話してきたDに対し,Aにおいて被告人が「B」である等と紹介し,被
告人において自ら「B」と名乗る等して同人になりすまし,さらに,同月24日午
後5時ころ,兵庫県I市Jd番e号Kf階所在の料理店「L」I店において,被告
人において,Dらの面前で「B」であると詐称して同人のごとく振る舞って,継続
的極度内借入契約書等に署名押印する等して,同社審査部部長Mから「B」に対す
る貸付極度額300万円の範囲内での継続的貸付の決裁を受けていたDらをして,
被告人が「B」であ
り,被告人に対する同貸付が可能であると誤信させ,即時同所において,前記Dら
から現金150万円及びVカード(ローンカード)1枚の交付を受け,もって,人
を欺いて財物を交付させたものである。
(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
 省略
(補足説明)
1 本件公訴事実は,要旨「被告人は,Aと共謀の上,被告人において「B」を詐
称し,金融業者から借入金名下に金員を詐取しようと企て,平成13年8月20日
ころ,兵庫県I市Ng丁目h番地のi所在の前記A方において,行使の目的で,ほ
しいままに,有印公文書である『B』あての兵庫県公安委員会作成名義の自動車運
転免許証のコピー1通(以下「本件偽造文書」という。)を偽造した上,同月21
日ころ,前記株式会社H事務所において,前記株式会社VC支店の融資担当営業員
Dに対し,本件偽造文書を真正に成立したもののように装ってその他関係書類とと
もに提出して行使し,被告人がなりすました「B」が,同人の経営するE株式会社
の運転資金等として300万円の融資申込みをする旨の虚偽の事実を申し向け,さ
らに,同月22日ころ,被告人において,被告人に電話をかけてきたDに対し,
「B」を名乗って応対する等し,前記株式会社V審査部部長Mをして,「B」は被
告人であってAではなく,「B」には融資実行が可能であるものと誤信させ,貸付
極度額300万円の範囲内での継続的貸付を決定させ,同月24日午後5時ころ,
前記「L」I店において,Dらから現金150万円及びVカード(ローンカード)
1枚の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた」というものであるが,
当裁判所は,本件全証拠によっても,Aが本件偽造文書を偽造し,これをDに対し
行使するまでの間に,被告人がAとの間で有印公文書偽造,同行使及び詐欺の共謀
を遂げた事実は認めるに足りないから,有印公文書偽造,同行使の点については犯
罪の証明がないが,関係証拠によれば,判示の限度で詐欺罪の共同正犯の成立が認
められると判断した。
  その理由について補足して説明を加える。
2 被告人及び弁護人は,当公判廷において,本件公訴事実について前記有印公文
書偽造,同行使の点を含めてこれを認める旨述べるとともに,被告人は,捜査段階
においても,Aから判示Vからの金員詐取を持ちかけられた際,Aが被告人の顔写
真入りの本件偽造文書を偽造し,これを金融業者に提出して行使することは分かっ
ていた旨述べ,Aも,被告人が了承するであろうと考えて本件偽造文書の偽造及び
その行使に及んだ旨供述する。また,関係証拠によれば,被告人は,Aと共謀の
上,「B」になりすまして,平成13年1月29日,O株式会社との間で住宅建設
請負契約を締結したり,同年2月か3月ころ,Aにおいて,被告人から交付された
同人の顔写真を利用して同人の顔写真入りの「B」あての兵庫県公安委員会作成名
義の自動車運転免許証(コピー)を偽造する等した上,同年6月か7月ころ,これ
を利用してP銀行との間で住宅ローン契約を締結した事実が認められる。
  しかしながら,本件全証拠によっても,平成13年2月か3月の時点におい
て,被告人とAの間で前記運転免許証の偽造等を反復継続する旨の明示又は黙示の
合意があったとは認められないから,本件偽造文書の偽造及びその行使について共
謀が成立しているとは認められない上,関係証拠によれば,本件犯行は,前記のO
株式会社等の件とは,時期的にも動機的にも全く別個の犯行計画に基づき敢行され
たものであること,Aは,同年8月中旬ころ,判示詐欺を企て,前記顔写真を利用
して再度運転免許証等を偽造することにつき,事前に被告人の了解を得ることな
く,同月20日,前記偽造運転免許証とは全く別の本件偽造文書を偽造し,同月2
1日,前記Dに対し,これを提出して行使したこと,その後,被告人は,同月21
日,Aから被告人が「B」になりすまして前記Vから金員を詐取しようと本件犯行
を持ちかけられたが,それまでの間,Aによる前記の有印公文書偽造,同行使の事
実を全く知らなかったこと,同日,Aから前記依頼を受けて前記犯行計画を了承
し,判示のとおり自ら各欺罔行為に及び現金等の交付を受けたこと等が認められる
のであって,これらの事実を総合考慮すると,被告人は,同月21日,Aとの間
で,判示詐欺の共謀を遂げて判示の詐欺の各欺罔行為を実行したが,その時点で,
Aが単独で実行した前記有印公文書偽造及び同行使の事実を事後的に了知し,単
に,その結果を利用する意思を有していたに過ぎないというべきであるから,結
局,本件有印公文書偽造,同行使について,被告人及びAの共謀を自認する供述部
分は信用性がなく,その他本件全証拠によっても,この点に関する共謀の事実を認
めることはできない。
3 よって,本件については,判示のとおり詐欺罪の共同正犯が成立し,有印公文
書偽造,同行使の点は,犯罪の証明がないことに帰するが,この点は判示詐欺の罪
と牽連犯の関係にあるとして起訴されたものと認められるから,主文において特に
無罪の言渡しをしない。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は,刑法60条,246条1項に該当するので,その所定刑期
の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこ
の裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法1
81条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,Aと共謀の上,被告人において「B」になりすまして被害会
社から貸付金名下に判示現金等を詐取したという詐欺の事案である。
 被告人は,Aに本件犯行を持ちかけられるや,自己の事業がうまくいかず金策に
窮していたことから,Aからの報酬を期待して安易に本件犯行に及んだものであ
り,その短絡的かつ自己中心的な動機に酌むべき事情は認められない。その犯行態
様をみるに,被告人が,Aにおいてすでに被害会社の融資担当者に本件偽造文書を
提出して融資を申し込んでいたことを奇貨として,前記担当者らに対し,電話口で
「B」を名乗ったり,その面前で平然と「B」として各契約書に署名押印する等し
たものであり,前記担当者らも被告人らの態度等から被告人が「B」であると完全
に信用していたこと等に照らすと,計画的かつ大胆巧妙な犯行というべきであり,
被害額が多額であり,現時点では完全な被害弁償は実現困難であること等をも考慮
すると,その犯情は悪質である。そして,被告人が本件において果たした役割の大
きさを考えると,前記のとおり,被告人は,有印公文書偽造,同行使の点について
は無罪であることを考慮しても,なおその刑事責任は重いといわざるを得ない。
 他方,被告人は,本件の主犯格であるAの依頼を受けて,専ら同人の指示命令の
とおり本件犯行に及んだものであり,Aとの関係では従属的立場にあること,被告
人は本件犯行直後にAに判示現金等を交付しており,本件犯行による実質的な利益
を得ていないこと,被害会社に遅延利息相当の被害弁償金として15万円を支払
い,金30万円を準備するなど今後も被害弁償に努める旨誓約していること,被告
人の妻が当公判廷において被告人の指導監督を誓約していること,前科前歴がない
こと,未決勾留が相当期間に及んだこと,反省悔悟の情等,被告人のために酌むべ
き事情も認められる。
 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,主文掲記の刑を科した上,その刑の執行を
猶予することとした。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年5月14日
神戸地方裁判所第1刑事部
    裁判長裁判官 杉森研二
       裁判官 橋本 一
       裁判官 林 史高

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