弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人訴訟代理人は、原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金二十二万五千
百四十五円及びこれに対する昭和三十年九月三十日以降完済に至るまで年六分の割
合による金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの
判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、控訴人訴訟代理
人において、
 (一) 原判決事実摘示中請求原因(二)に「追加分人工賃」とあるのを「追加
分工賃」と改める。
 (二) 本件請負工事は仕事の目的について引渡を要しない場合に該当する、仕
事終了の時期は昭和三十年八月五日である。
 と附加し、
 原審における被控訴人の主張に対し、
 (イ) 控訴人のなした工事中一階四畳半の欄間の硝子及び一階洋間の螢光灯の
箱のすり硝子がはめ込んでないことは認めるが、その額は数百円程度のものであ
る。
 (ロ) 二階の廊下及び階段にラツカー塗装をしてないことは認めるが、それは
請負契約に含まれていないからである。
 (ハ) 一階洋間のマントルピースの飾板の塗装が不完全になつていることは認
めるが、それは最初被控訴人の指示に従い黒色に塗つて完成したところ、更に被控
訴人より塗り直しを求められたので、前の塗装を剥がして塗り直そうとしたが、被
控訴人が複雑な色の注文をなし塗装職人においてその注文に応ずることができなか
つた結果である。
 要するに本件においては工事の未完成部分は極めて僅かで、不完全な部分もさし
て問題にするほどではなく、しかもこれら不完全な部分はすべて被控訴人の指図に
従つた結果生じたものであるから、信義則上被控訴人は請負報酬残金の支払を拒む
ことができないものであると述べ、
 被控訴人訴訟代理人において、本件工事が仕事の目的物について引渡を要しない
場合に該当することは認めるが、仕事終了の事実は争う、本件においては仕事はま
だ終了していない。なお、被控訴人は、本件においては民法第六百三十四条に定め
るかしの修補又は損害賠償の請求に関する抗弁を提出するものではないと附加し、
当審における新たな証拠として、控訴人訴訟代理人において、当審証人A、同B、
同Cの各証言及び当審における控訴会社代表者D尋問の結果を援用し、被控訴人訴
訟代理人において、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用したほかは、いず
れも原判決事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。
         理    由
 当裁判所は、次の諸点を附加するほかは、原判決と同じ理由により、本件請求を
理由がないものと判断するから、右判決の理由の記載をここに引用する。附加する
点は次のとおりである。
 一、 原判決理由一枚目(記録一六六丁)裏一行目「証人E」を「原審証人E、
当審証人B、同C」に改め、同二枚目(記録一六七丁)裏三、四行目「認められ
る。」の下に「以上各認定に反する被控訴人本人の当審における供述は採用できな
い。」を加え、同(記録一六七丁)裏六、七行目「証人Eの証言」を「原審証人
E、当審証人Cの各証言及び当審における控訴会社代表者Dの供述」に改め、同
(記録一六七丁裏)末行「本件においては、」の下に「当審における被控訴人本人
尋問の結果をも参酌し」を加え、同五枚目(記録一七〇丁)表末行「被告本人尋問
の結果によれば、」を「原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果と成立に争
のない乙第二号証とを綜合すれば、」に改め、同(記録一七〇丁)裏七行目「採用
できない。」の下に「右認定に反する当審証人Cの証書及び当審における控訴会社
代表者Dの供述は採用できない。」を加える。
 二、 前記引用に係る原判決理由中で認定した硝子工事その他の追加工事につい
ては、それが本件医院増改築の跡始末工事の一部を成すもので、本来の工事と独立
のものではない点及び成立に争のない甲第五号証を参酌するときは、右は従前の請
負契約における工事の内容を変更追加するものであり、これに伴う報酬も従前の請
負契約における報酬に加算されて工事内容及び報酬額に変更があつた後の請負契約
における報酬金として支払う合意があつたものと推認すべく、従来の請負契約と切
離して別個に独立に支払わるべきものではないものと解すべきである。
 三、 被控訴人は、控訴人のなした工事中被控訴人の意に満たない不完全な個所
多数を挙げて、工事が未完成かつ不完全だから請負報酬金の支払義務はないと主張
している。この点を判断するため、先ず民法第六百三十二条、第六百三十三条と第
六百三十四条との関係を見るに、第六百三十二条第六百三十三条によれば、請負人
は仕事を完成した上その仕事の結果に対して報酬の支払を受けるべきものであり、
第六百三十四条によれば、仕事の目的物にかしがあるときは、請負人において担保
責任に任ずることになつていて、かしについては隠れたかしと顕われたかしとを区
別していない。一般に仕事の目的物にかし特に顕われたかしがある場合には仕事の
結果が完全であるとはいわないので、かようなかしがあるままで仕事を完成すると
いうことがあり得るかという疑問を生ずるけれども、民法が、一方第六百三十二条
第六百三十三条において、仕事が完成し目的物を引渡したときは報酬の支払をなす
ことを要するものとし、他方第六百三十四条第二項において、請負人が仕事の目的
物のかしにつきその担保責任を果たすまでは注文者は報酬の支払につき同時履行の
抗弁権を有するものとして、仕事の目的物にかしがあつても一応報酬が請求できる
ことを前提としているところから見れば、民法は、同じく仕事の結果が不完全な場
合のうち、仕事の目的物にかしがある場合と、仕事が完成しない場合とを区別し、
たとえ仕事の目的物にかしがあつても、それが隠れたものであると顕われたもので
あるとを問わず、その<要旨第二>ために仕事が完成しないものとはしない趣旨であ
ると解すべきである。すなわち請負人は、仕事が完成して目的物を引渡
し又は引渡を要しない仕事の場合において仕事が終了したときは、別段の特約がな
い限り、直ちに報酬の支払を請求することができ、仕事の目的物にかしがあると否
とを問わないと同時に、仕事の目的物にかしがあるときは、注文者には、かしの修
補を請求し又はこれと併わせて損害賠償の請求をなし、請負人がその義務を履行す
るまでは報酬金の支払を拒否する同時履行の抗弁をなす権利が与えられている。従
つて注文者は仕事が完成して目的物の引渡があつたとき又は目的物の引渡を要しな
い場合において仕事が終了したときは、この請負人の担保責任を追及する方法によ
らないで、単に仕事の目的物にかしがあるというだけの理由で直ち<要旨第一>に報
酬金の支払を拒むことはできないものというべきである。ただ実際においては、仕
事の結果が不完全な場合に、それを仕事の未完成と見るべきか又は仕事
の目的物にかしがあるものと見るべきかの明らかでないことがあり得るけれども、
工事が途中で廃せられ予定された最後の工程を終えない場合は工事の未完成に当る
ものでそれ自体は仕事の目的物のかしには該当せず、工事が予定された最後の工程
まで一応終了し、ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはなら
ないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物にかしがあるときに該当するも
のと解すべきである。本件について見るに被控訴人の主張する不完全工事の大部分
は右にいう仕事の目的物のかしに該当するものというべきところ、被控訴人は、本
件においては、仕事の目的物のかしを理由に修補又は損害賠償の請求をするもので
ないことその釈明するとおりであるから、そのようなかしの存否を明らかにするこ
とは、直接には控訴人の本件請求の当否を判断する上において必要がない。よつて
かような点を除くときは、被控訴人の指摘する諸点のうち、そのために仕事が未完
成であるということのできるのは、原判決理由中に説示してある(イ)一階四畳半
の部屋の前の檜縁張替部分のラツカー塗装、(ロ)同じ部屋の欄間の硝子のはめ込
み、(ハ)一階洋間(応接室)のマントルピースの上の飾板の塗装、(二)同じ洋
間の螢光灯箱のすり硝子のはめ込み、(ホ)一階廊下の床板巾一尺一寸長さ一間半
のラツカー塗装、(へ)二階廊下のラツカー塗装、(ト)階段のラツカー塗装等が
未完成であるという諸点に過ぎず、しかも右(イ)(ホ)の二点については、その
後被控訴人において自らこれを完成していることが認められるから、被控訴人がこ
れを別途損害賠償等の請求をなす理由となし得るのは格別、現在においては、右
(イ)(ホ)の二点が控訴人の手で完成されなかつたということは控訴人が被控訴
人に本件報酬金の支払を請求することの妨げとはならないものと解すべきである。
結局報酬金支払請求の当否につき問題となるのは右(ロ)(ハ)(ニ)(へ)
(ト)の五点に過ぎない。控訴人は右(へ)(ト)のラツカー塗装工事は請負契約
に含まれていないものであると主張するけれども、これらの工事が請負契約に定め
られた仕事の内容に含まれていたことは、さきに補充して引用した原判決理由の説
示するとおりであり、又原審証人Eの証言並びに原審及び当審における被控訴人本
人尋問の結果によれば、右(ハ)の飾板の塗装がしてないのは、控訴人の主張する
ように一旦完成したものを被控訴人の指示により塗直すため剥がしたのではなく、
控訴人の派遣した塗装職人が一旦黒の塗装をして見たけれどもその結果が満足すべ
きものでなく、それを被控訴人にも指摘されたので塗り直すため板を削つたままそ
の後仕事を放棄して塗装をなすに至らなかつたものであることを認めることができ
るので、この場合はなお工事が完成しないものというを妨げない。
 控訴人は本件工事の不完全な部分はすべて被控訴人の指図に従つた結果生じたも
のである旨主張するけれども、当審証人A、同Cの各証言及び当審における控訴会
社代表者D尋問の結果を総合しても、被控訴人においては本件工事の途中仕事の完
全なことを望んで随時やや口喧しく工事人の注意を喚起したことを認めることがで
きるに止まり、工事の前示部分的な未完成が被控訴人の指図に起因したものである
ことを認めることのできる資料はないから控訴人の右主張は採ることができない。
 本件工事中前示(ロ)(ハ)(ニ)(へ)(ト)の各未完成部分は、本件請負工
事全体から見るときはすこぶる軽微なものであるけれども、すでに引用した原判決
理由中に示すような本件における特別の事情を参酌するときは、被控訴人において
軽微な部分の仕事が未完成なことに乗じこれに籍口して不当に請負報酬金全額の支
払を遅延しようとしているものとは認め難く、その工事の完成するまで報酬金残額
全部の支払を拒むことを以て信義則に反するものということはできないから、控訴
人は右残工事の完成前は被控訴人に対し本件請負報酬金残額の支払を請求すること
ができない。
 以上の次第で控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法
第三百八十四条第九十五条第八十九条に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小沢文雄 裁判官 中田秀慧 裁判官 賀集唱)

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