弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決え破棄する。
     本件を千葉地方裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人鍛冶利一の上告趣意は末尾添附の上告趣意書と題する書面記載の通りであ
つて、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。
 第一点について
 惟うに食糧管理法第三條第一項は米麦の生産者は命令の定むる所により、その生
産した米麦にして命令を以て定むるものを政府に売渡すべき旨を規定している。故
に同條項違反の罪は米麦の生産者が法定の除外事由がないにも拘らずその生産した
米麦にして命令で定めたものを所定の期限迄に供出しないことによつて成立するの
である。同條項は生産者に対する供出の割当数量が生産した米麦である事を予定し
ているのであるが割当数量がその年度において収穫した米麦の数量を超えるときで
も生産者には前年度生産した米麦の手持があることもあつて割当数量を供出するこ
とが出来ることもあるから割当数量所定の改定のない限りは一応これを供出する義
務あるものと解するが相当である。また実収高から自家消費用の保有量を控除する
と割当数量に満たなくなる場合でも割当数量を供出する義務があるのである。一旦
供出しておいて後で還元米をうけて自家の消費用に<要旨第一>充てることが出来る
のである。故に前記條項違反の罪の判示には被告人が米麦の生産者であるが法定除
外事由がないのに割当数量を所定の期日までにこれを供出しなかつた旨
を判示すれば足りるのであつて割当数量が実収高の範囲であることや実収高が保有
米を控除してもなお割当量以上である旨を判示する必要がないのである。原判示に
よれば被告人は米麦の生産者であるが法定の除外事由がないにも拘らず昭和二十一
年度産米の被告人に対する割当数量二十八石四斗(七十一俵)の内二十四石八斗
(六十二俵)を所定の期限までに政府に売渡さなかつたというのであるからこの点
につき判示がなくても原判決は本罪の判示として欠くるところがな<要旨第二>い。
しかし割当数量がその年度の実収高を超ゆる場合において農家が幸い前年度産米の
余剰が手持としてあつて供出可能な事もあるが余剰手持米のない場合に
は他からこれを入手してまで供出する義務がないものと解するのが相当でおる。斯
かる場合に実収高を超える分についてもこれを供出しなかつたという理由で犯罪の
成立を認めると農家はその供出の爲に闇のルートを通じ又多くは闇値でこれを入手
して供出するおそれがある。斯くの如きは公定價格を堅持し配給の統制を目的とす
る法の精神でなく、又かかる供出を義務づけてもこれは難きを強ゆるもので期待可
能性がないものといわねばならない。今記録を検討すると原審において被告人は昭
和二十一年度の米の収穫高は六十俵に過ぎないで割当数量は実収高よりはるかに多
量で供出不可能である旨を主張しているのである。もし実収高が被告人の主張する
通りの数量で而も前年度の余剰手持米もなかつた場合は実収高を超える部分の不供
出については被告人は責任なく犯罪の成立を阻却するものといわねばならない、故
に右の様な主張のあつた場合には裁判所は須らく被告人の実収高や前年度産米の余
剰手持米があつたかなどの事情につき審理し供出を期待出来るかどうかを判断すべ
きである。しかるに原判決は事茲に出でなかつたのは理由不備の違法があるもので
破毀を免かれない。論旨は結局理由がある。上述のように原判決は既にこの点にお
いて破毀を免かれないから他の点に対する判断はこれを省略する。
 原判決の前述の違法は事実の確定に影響を及ぼすべき法令の違反であるから刑事
訴訟法第四百四十八條の二により原判決を破毀し事件を原裁判所に差し戻すことと
する。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 細谷啓次郎)

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