弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一審原告の控訴を棄却する。
     原判決を次のとおり変更する。
     一審原告の請求を棄却する。
     一審原告は一審被告に対し金二八万七六六八円およびこれに対する昭和
三〇年九月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
     一審被告のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも本訴反訴を通じて三分し、その二を一審原
告、その一を一審被告の各負担とする。
         事    実
 昭和三七年(ネ)第二四七号事件につき、一審原告訴訟代理人は「原判決中一審
原告敗訴の部分を取り消す。一審被告は一審原告に対し金一三八万四九三四円およ
びうち金一三八万四九二〇円に対する昭和三〇年八月一二日から支払ずみまで年五
分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とす
る。」との判決を求め、一審被告は控訴棄却の判決を求めた。
 昭和三七年(ネ)第二四五号事件につき、一審被告は「原判決中一審被告敗訴の
部分を取り消す。一審原告の請求を棄却する。一審原告は一審被告に対し金一五〇
万三七五〇円およびこれに対する昭和三〇年九月二八日から支払ずみまで年五分の
割合による金員を支払え。訴訟費用は本訴反訴を通じ、第一、二審とも一審原告の
負担とする。」との判決を求め、一審原告訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、左記のほかは原判決の事実摘示
と同一であるから、これを引用する。
 一審被告は次のとおり述べた。
 (一) 本件売買の目的となつた立木は、一審原告が町財政資金獲得と森林利用
計画のため、売払要綱とも称すべき売却案内書を公示して処分したものである。す
なわち一審原告は昭和二九年八月頃a町役場林業係員A技手ほか数名に毎木調査を
なさしめて各伐区毎木明細表を作成し、右売却案内書に売買目的物件、売却予定価
格、代金支払方法、契約保証金額、造材事業終了期限等の条件を示し、同年一〇月
全道の木材業者に売却の通知を発し、参加業者に現地を確認させて売却処分したも
のであるが、一審被告は一審原告が指示した第一号伐区につき前記毎木明細表に記
載されたとおりの立木が存在するものとして売買契約の締結に応じたものである。
現地確認といつても数十粁にわたり散在する各伐区の毎木につき精密な調査を行な
うことは至難であるから右毎木明細表に基づいての外観確認の程度に止まらざるを
得ないし、右明細表においては一般用材に適する立木として樹種、本数、石数が明
示され、前記売却予定価格は当時の一般用材の市価、所在場所の林相、立地条件等
を基礎とし財産委員会の諮問に付したうえで決定されたものであつたから、右売買
契約は一般用材たる立木を対象としてなされたものであることは明らかであり、腐
蝕材が混入しているようなことは双方当事者とも全く予想しなかつたところであ
る。従つて、売買契約書第二条において「伐採に当り本契約書の樹種、本数、石数
につき増減を生ずるも異議なきものとす。」とあるのは、一般用材としての伐採歩
止りの如何については異議がないというにすぎず、右はいわゆる一般用材不適格立
木、ことに腐蝕による廃材をも売買の目的物に包含する趣旨でないことは明らかで
あり、右条項あるが故に瑕疵担保免責の特約があるとすることはできない。
 (二) 本件売買契約において立木の引渡しというも、前記明細書および伐区図
面による書類上のものであり、現地において双方立会のうえ毎木につき確認したも
のではない。一審被告は右引渡しによつて直ちに瑕疵を発見することはできなかつ
たが、その後これを発見し、引渡しの日から六カ月以内である昭和三〇年一月一二
日a町長に対し本件売買物件中に約三分の一の腐蝕立木が混入しており、契約をな
した目的を達することができない旨を口頭で通知した。
 (三) 一審被告が一審原告に交付した契約保証金四二万円は、一審被告に債務
不履行がない(却つて一審原告に不履行がある)以上、一審原告において取得し得
べきものでなく、最終的には一審被告に返還されるべきものであるから、一審原告
は本訴(昭和三八年四月二三日午前一〇時の口頭弁論期日)において右返還請求債
権と一審原告の請求債権と対当額において相殺の意思表示をする。
 (四) また一審被告は本件伐区内に、完成された薪四五敷(一敷は二尺×五尺
×六尺)を残しておいたところ、一審原告は擅にこれを搬出処分したから、一審被
告に対し右薪の価格(山土場渡し一敷一五〇〇円)計金六万七五〇〇円を賠償すべ
き義務がある。よつて右金額を加えて反訴請求を拡張し、一審原告に対し金一五〇
万三七五〇円およびこれに対する昭和三〇年九月二八日から支払ずみまで、従前の
主張と同一の割合による遅延損害金の支払を求める。         以  上
 一審被告は乙第一六ないし第二三号証を提出し、当審証人Bの証言を援用し、一
審原告訴訟代理人は乙第一六ないし第二二号証の成立を認あ、乙第二三号証の証明
文言の成立は認めるがその余の部分の成立は知らないと述べた。
         理    由
 昭和二九年一一月三日一審原告と一審被告との間で前者を売主、後者を買主とし
て一審原告主張のとおり特定物たる一般用材シナほか一七種一三三八本、七三一二
石〇六升につき代金四二〇万円、代金支払方法は昭和二九年一一月一八日限り金一
四一万円、同年一二月二〇日限り金一四一万円、昭和三〇年一月三一日限り金一三
八万円、代金遅滞の場合の損害金は各支払期日の翌日から日歩五銭として売買契約
が締結されたこと、その頃右目的物の引渡しがなされたこと、一審原告主張のとお
り一審被告が昭和三〇年七月二五日までに代金合計二四二万七〇〇〇円を支払つた
こと、はいずれも当事者間に争いがない。
 一審被告は右売買契約は一般用材たる立木についてなされたものであるのに、目
的物件中約三分の一にあたる立木(石数二六七九石)は腐蝕木であり一審原告の債
務はいまだ履行されていないこととなるから一審被告には代金債務の不履行はな
く、また売買の目的物に隠れたる瑕疵があつたため、一審原告に対し損害賠償請求
権を有すると主張するのに対し、一審原告は右売買は特定物の売買であり一般用材
という呼称を用いたけれども、一般用材としての材質を担保したものではないか
ら、腐蝕木があつたとしても目的物に瑕疵があつたことにはならないし、また右契
約において一審原告は瑕疵担保責任を免れる旨の特約があつたと主張する。
 しかして一審被告が昭和二九年一二月上旬立木伐採に着手し、昭和三〇年二月末
日頃全部伐採完了したことは当時者間に争いがなく、原審証人Cの証言により真正
に成立したものと認め得る乙第二号証、成立に争いのない乙第三号証、原審証人
C、D、当審証人Bの各証言および原審における一審被告本人の供述を総合する
と、右伐採の結果は一審被告の主張するとおり一般用材(検査合格品)出石数三二
四三石〇五升、腐蝕木出石数一八七五石であつて、右立木中には約三分の一の腐蝕
木が混入していたこと、一審被告は伐採の途中昭和三〇年一月上旬頃に右のような
割合で立木中に腐蝕木が混入していることを発見したこと、をそれぞれ認めること
ができる。
 しかしながら右売買は特定物についてなされたものであることは冒頭説示のとお
りであり、その引渡しがなされた以上、売主たる一審原告に債務不履行ありとする
ことはできない。そこで一審原告の瑕疵担保責任の有無について考察する。前掲当
事者間に争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第一号証、第六号証、乙
第一号証、第一四号証、第一六、第一七号証、原審証人E、F、G、Hの各証言お
よび原審における一審被告本人の供述を総合すると次の事実を認めることができ
る。
 (一) 一審原告a町(以下本項においては単にa町という。)は一般会計歳入
の財源にあてるためと森林経営の面から町有山林立木の売却を毎年一、二回の割合
で行なつてきたが、昭和二九年度においてもこれを実施することとし、a町殖産課
においてその事務を担当した。まず同町大字b村字c山林を数個の伐区に分け、同
課所属技手Aが各伐区内の払下立木の毎木調査をなし、伐採すべき立木には刻印を
付して特定したうえ、一般用材としての立木の石数を算定して各伐区毎木明細表を
作成した。
 (二) 毎木調査は、個々の立木について番号を付し、胸高直径および樹高を測
り、野帳と称する規格用紙に、その番号の順に個々の立木の樹種および石数(立木
石数であつて素材石数ではない。)を算定記入することによつて行なうが、一部腐
蝕の立木でも一般用材として使用し得る部分のあるものについては腐蝕部分を除き
(例えば根上何尺と備考欄に記入し腐蝕部分を明示する。)石数を算定記入する。
一般用材とは昭和二八年農林省告示第七六九号により、「銘木類、廃材(腐れ又は
その他の欠点により利用し得ない部分が材積の一〇〇分の七〇以上を占める木
材)、屑材その他特殊のもの」以外の、建築その他一般(通常は枕木以上)の用に
供される木材を指称し、本件売買においてもその意味であることは当事者間に諒解
されていた。
 (三) しかしてAの作成した第一号伐区明細表には本件売買の対象となつた樹
種シナほか一七種一三三八本、七三一二石〇六升が掲げられ、その売却価格はa町
財産委員会(町有林などの町有財産の管理、処分等の事務を担当する機関で、当時
の委員長はH)が町長の諮問により一般用材としての合理的価格を算定してなした
答申に基づき、同町長の決裁により四二〇万円と定められた。かくして同年九月頃
他の伐区とともに売却のための入札が行なわれたが、一号伐区については入札価格
が右売却価格に達しなかつたので、再入札を行なうべきところ、a町では同年一〇
月一審被告を含む若干の業者に個々に見積書を提出せしめ、随意契約により売却を
行なうこととし、一審被告はa町から示された前掲の明細表および野帳を閲覧し、
一応現地をも見分したうえで、一般用材として右明細表に記載された石数の立木が
存在するものとしてこれをa町の定めた売却価格で買い受けることとし、冒頭掲記
の売買契約を締結するに至つた。
                                     
     以  上
 右認定によれば本件売買は一般用材としての特定物たる立木について行なわれた
ものであるというべく、その伐採の結果約三分の一の腐蝕木が混入していたのであ
るから売買の目的物に隠れたる瑕疵があつた場合に該当するというべきである。一
審原告は右売買につき一般用材としての材質を担保したものではないと主張する
が、右は数量を指示して売買した場合に当らないとしても両当事者において腐蝕木
でない一般用材を売買の対象としたものであることは右認定のとおりであるから右
主張は採用できない。もとより大量の立木の売買にあつては当初の見込数と実際の
出石数との間に若干の増減のあり得ることは当然であろうし、予期しない腐蝕木の
混入も或る程度避けられないであろうから(本件売買契約についても当然そのこと
が予定されていたことは原審証人F、E、Gの各証言によつて認めることができ
る。)、一般の社会通念と当該取引の趣旨において許容されるべき限度内のものに
ついて隠れたる瑕疵を主張することは許されないというべきであるが、一般用材と
しての特定物たる立木の売買につき全体の三分の一腐蝕木が混入していたことは右
の趣旨において許容される限度を超えたものというべきである。
 一審原告は右売買契約において瑕疵担保責任を免れる旨の特約があつたと主張す
る。前記甲第一号証(立木売買契約書)の第二条には「伐採に当り本契約書の樹
種、本数、石数につき増減を生ずるも異議なきものとす。」とあり、第四条には
「本契約締結後売買立木について発生する損害については買受人は減価その他一切
の異議を申立てざるものとする。」とあるが、前段認定の事実関係のもとにおいて
右条項の趣旨は、見込数と出石数の若干の相異の場合および天災、盗難等の場合の
危険負担の定めをなしたものと解するのを相当とし、原審証人E、F、Gの各証言
中この点に関する一審原告の主張に副う部分は同証人等の意見もしくは見解であつ
て直ちに採用することができず、他に右のような特約の存在を認めるに足りる証拠
は存在しない。
 しかして成立に争いのない乙第四号証、原審証人F、Hの各証言および原審にお
ける一審被告本人の供述を総合すると、一審被告は昭和三〇年一月上旬頃a町役場
においてa町長I、同町財産委員長Hに面接し、前記のとおり本件売買の目的物た
る立木の三分の一が腐蝕していた事実を告げ損害の賠償もしくは他の山林立木の売
却方を申し入れ、町長においても考慮を約したことを認めることができる。よつて
一審原告は一審被告に対し売主の瑕疵担保責任により損害賠償の義務を負うものと
いわなければならない。
 一方一審原告が昭和三〇年八月二日、一審被告に対し内容証明郵便で売買代金残
額金一五二万三〇〇〇円(前記支払ずみ代金二四二万七〇〇〇円のほか一審原告が
残木処分によつて得た金二五万円を代金の内入として充当計算した残額)および代
金の各支払期日の翌日から昭和三〇年七月三一日までの日歩五銭の割合による約定
損害金二〇万五三四六円、合計金一七二万八三四六円を右書面到達の日から七日以
内に支払うよう催告するとともに、右期間内に完済しないときは売買契約を解除す
る旨の意思表示をし、右書面は同月四日一審被告に到達したが、一審被告が右期間
内に支払をしなかつたことは当事者間に争いがない。
 一審被告は前記のとおり一審原告が瑕疵担保責任による損害賠償の請求を受けな
がらその履行もせず、契約を解除することは信義則上許されないと主張するが、瑕
疵担保責任を追及されている売主といえども買主において代金減額請求権を行使し
得ない以上代金請求権を失うものではなく、その履行遅滞による契約解除権を失う
ものではないから、本件売貿契約は昭和三〇年八月一一日の経過とともに解除され
たものというべく、当事者双方は互いに原状回復の義務を負うこととなる。すなわ
ち一審原告はその受領した売買代金合計金二四二万七〇〇〇円、一審被告は売買の
目的たる立木をすべて伐採処分した以上(このことは本件口頭弁論の全趣旨により
明らかである。)、契約解除のときにおける目的物の価額を、それぞれ相手方に返
還すべき義務がある。
 しかして本件売買契約成立に際し一審被告は契約保証金四二万円を一審原告に交
付したことは当事者間に争いがなく、前記甲第一号証第三条には「契約保証金は
(中略)買受代金完納し本契約の事項を完済したるとき返付するものとす。」、第
五条には「買受人買受金額の納入期日を経過しても納入を完了しない場合は売払人
は本契約を無効とすることが出来る。この場合買受人は何等異議を申立てることが
できない。又契約保証金は町の所得とする。」とされており、一審被告の代金支払
債務の不履行により契約が解除された以上、右保証金は一審原告において没取し得
るかのように見える。しかしながら前段認定の事実関係のもとにおいては右契約条
項は売主において瑕疵のない完全なものを給付したにも拘らず、買主が代金支払債
務の履行を怠つたときに限り適用されるものと解すべく、売主において瑕疵担保責
任を負うべき場合にはその瑕疵の程度が僅少である等特段の事情のない限り、右売
買契約が解除され、双方が相手方に対し原状回復の義務を負うべき場合、売主から
買主に返還すべきものといわなければならない。
 一審被告は売買の目的物に隠れた瑕疵のあつたことによる損害額につき、転売に
よる得べかりし利益一七九万六二五〇円および販売先違約金五六万円(一審被告に
おいて本件物件を瑕疵のないものと信じて神戸資材株式会社、JおよびKにそれぞ
れ売り渡す契約を締結していたところ、前記瑕疵のため各一部につき履行不能とな
つたため、これら買主等に支払わなければならなくなつた違約損害金、神戸資材株
式会社につき金三五万円、Jにつき金一一万円、Kにつき金一〇万円)、計金二三
五万六二五〇円から腐蝕<要旨第一>材を薪材に処分して得た利益金六万七〇〇〇円
を差引き合計金二二八万九二五〇円と主張する。しかしながら売主の担
保責任は、売買の目的物に原始的な瑕疵があつて売買が少なくとも一部無効となり
得るような場合の責任であるから、損害賠償の範囲は瑕疵のないものについて売買
契約が完全に成立したと信頼したことによる損害に限ると解するのが相当であつ
て、右転売による得べかりし利益一七九万六二五〇円は、これを請求することはで
きないものといわなければならない。従つて右にいわゆる販売先違約金の主張につ
き考察するに、原審証人Jおよびこれによつて成立を認め得る乙第八号証、同第一
三号証、原審証人Kの証言およびこれによつて成立を認め得る乙第七号証、原審証
人Lの証言、原審における一審被告本人尋問の結果<要旨第二>およびこれにより成
立を認め得る乙第五号証、同第一一、一二号証を総合すると、次の真実を認めるこ
とができる。すなわち一審被告は本件木材を転売するため
 (一) 昭和二九年一一月一〇日および同月二二日の二回に神戸資材株式会社に
対し一般用材(素材)計三四五〇石を、引渡期限は昭和三〇年一月末日として売り
渡す旨の契約をしたところ、前記瑕疵のため二五一八石を引き渡したのみで九三二
石は引渡不能となり、昭和三〇年五月三一日同会社から債務不履行の場合の約定に
よる損害賠償として金三五万円の支払を請求され前渡代金(過払分)返還債務金一
九〇万円位とともに、その支払のため一審被告所有の家屋(小樽市所在)の所有権
を同会社に移転し、一応の精算を得た。
 (二) 昭和二九年一二月二二日Jに対し一般用材(素材)計七〇〇石を、引渡
期限は昭和三〇年二月末日として売り渡す旨の契約をしたところ、前記瑕疵のため
約二〇〇石を引き渡したのみで、その余は履行不能となり、前渡代金(約束手形)
は別途に精算したうえ、右不履行によりJの蒙つた損害約六〇万円のうち金一一万
円を昭和三一年七月二五日支払つて示談した。
 (三) 昭和二九年一二月一〇日頃Kに対し一般用材(素材)計約六〇〇石を、
引渡期限は昭和三〇年三月末頃として売り渡す旨の契約をしたところ、前記瑕疵の
ため約三〇〇石を引き渡したのみで、その余は履行不能となつたので、右不履行に
よりKの蒙つた損害約一二、三万円のうち金一〇万円を右履行ずみ木材代金から差
し引くこととして昭和三一年三月一〇日示談した。
 以上、一審被告が各転売先に支払つた損害賠償額は、結局同人が一審原告との本
件売買において、瑕疵のないものにつき売買契約が完全に成立したと信頼したこと
による損害というべきである(一審被告の支払つた各損害賠償額は右認定の事実関
係のもとにおいては不当のものではない)。従つて右合計金五六万円から一審被告
主張の、腐蝕材を薪材に処分して得た利益金六万七〇〇〇円を差引いた残額金四九
万三〇〇〇円を一審原告は一審被告に賠償すべき責任がある。
 次に不法行為による損害賠償として一審原告に対し金五〇万円の支払請求権あり
とする一審被告の主張ならびにこれに対する抗弁および再抗弁についての当裁判所
の判断は原判決理由第一、四、相殺の抗弁(一)原告の不法行為の成否(原判決三
八頁九行目から四一頁四行目まで)に記載するところと同一であるから、ここにこ
れを引用する。なお成立に争いのない乙第二一号証によれば、一審被告の主張する
薪四五敷についても一審原告において処分の決定をしたことが窺われるが、前掲乙
第一〇号証によれば、右薪の処分は見合わせられたことを認めることができ、他に
右薪が擅に処分されたことを認めるに足りる証拠はない。すなわち一審被告の主張
する不法行為による損害賠償請求債権は認めることができず、これを前提とする相
殺の抗弁および反訴請求は理由がない。
 そこで契約解除による原状回復義務として一審被告が一審原告に返還すべき目的
物件の価格について考察するに、この点に関する当裁判所の判断は原判決理由第
一、三、契約の解除による被告の原状回復その他の義務(一)七行目以下一四行目
まで(原判決三二頁七行目から三三頁九行目まで)と同一であるから、ここにこれ
を引用する。すなわち目的物件の価格は二八一万五〇八〇円であるから、一審被告
はこれを一審原告に支払うべきであるとともに、一審原告は受領ずみ代金二六七万
七〇〇〇円を一審被告に返還しなければならない。そこでそれぞれ右金額を一審原
告主張のとおり差引計算した場合、当事者双方の原状回復義務としては、一審被告
から一審原告に金一三万八〇八〇円を支払うべきであるところ、一審被告が一審原
告に支払つた契約保証金四二万円は契約解除とともに一審被告に返還されるべきも
のであることは前段説示のとおりであるが、一審被告は昭和三八年四月二三日の本
訴口頭弁論期日において右の返還請求債権と一審原告の原状回復請求債権とを対当
額において相殺する旨の意思表示をしたから、一審原告の主張する原状回復請求債
権はこれによりすべて消滅したことになる。
 右のほか一審原告は一審被告に対し民法第五四五条第三項の規定に基づいて各代
金支払期日の翌日から昭和三〇年七月三一日まで日歩五銭の割合による約定損害金
の支払を求めており、当裁判所はその主張が金二〇万五三三二円の限度で正当であ
ると認めるものであるが、その理由は原判決理由第一、三、契約の解除による被告
の原状回復その他の義務(二)(原判決、三四頁五行目から三八頁八行目まで)に
記載するところと同一であるから、ここにこれを引用する。
 然るところ前段説示のとおり一審被告は一審原告に対し、瑕疵担保として金四九
万三〇〇〇円の損害賠償請求債権を有するところ、一審被告は昭和三四年一月二〇
日の原審準備手続期日において右債権と一審原告の本訴請求債権とを対当額におい
て相殺する旨の意思表示をしたから、一審原告の右約定損害金請求債権は相殺によ
り消滅したものといわなければならない。
 従つて一審原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却すべく、一審被告
の反訴請求(瑕疵担保および不法行為による各損害賠償請求)は瑕疵担保責任によ
る損害賠償債権金四九万三〇〇〇円のうち前記相殺に供した部分を除くその余の金
二八万七六六八円およびこれに対し成立に争いのない乙第四号証によつて認め得る
請求の日の翌日である昭和三〇年九月二八日から支払ずみに至るまで民事法定利率
年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを
認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。
 よつて一審原告の本件控訴は理由がないから棄却すべく、一審被告の本件控訴は
前記の限度において理由があるから原判決を変更することとし、訴訟費用の負担に
つき民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 和田邦康 裁判官 田中恒朗 裁判官 藤原康志)

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