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裁判例


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主文
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求(当審での新請求を含む。)を棄却する。
3訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)本案前の申立て
被控訴人の訴えを却下する。
(3)本案に対する申立て
被控訴人の請求を棄却する。
2被控訴人の控訴の趣旨に対する答弁
(1)本案前の答弁
控訴人の本件控訴を却下する。
(2)本案に対する答弁
控訴人の本件控訴を棄却する。
3被控訴人が当審で追加した新請求の趣旨
控訴人は,被控訴人に対し,有効期間の終期を平成20年2月20日とする
自動車運転免許証を交付せよ。
4控訴人の上記請求に対する答弁
(1)本案前の答弁
被控訴人の本件新請求に係る訴えを却下する。
(2)本案に対する答弁
被控訴人の本件新請求を棄却する。
第2事案の概要
1事案の要旨
被控訴人は,運転免許証(以下「免許証」という。)の有効期間満了に伴い,
控訴人に対し,免許証の有効期間の更新(以下では「免許証の更新」というこ
とがある。)を申請したが,控訴人は,更新前5年間に被控訴人に道路交通法
(以下「法」という。)の規定に違反する行為(安全運転義務違反)があった
ことから,被控訴人が法92条の2第1項の表の備考一の4に定める違反運転
者等に該当するとして,被控訴人に対し,更新後の免許証の有効期間を3年
(更新前の免許証の有効期間満了日後の被控訴人の3回目の誕生日から起算し
て1月を経過する日(平成18年2月20日)まで)とする,免許証の有効期
間の更新をした。
本件は,被控訴人が,控訴人による上記免許証の有効期間の更新につき,更
新後の免許証の有効期間を3年とした処分は,有効期間を5年(平成20年2
月20日まで)とする更新を受けることのできる被控訴人の法的地位を侵害す
る違法な行政処分であると主張して,その取消しを求めている事案である。
原審は,被控訴人には更新後の免許証の有効期間を5年とすることを求める
申請権があることを前提に,控訴人が平成15年2月17日被控訴人に対して
した自動車等運転免許証の有効期間の更新は,有効期間とされるべき5年に満
たない2年(平成18年2月21日から平成20年2月20日まで)の期間に
ついては,更新申請の一部申請拒否処分であるとした上で,控訴人は,その部
分の更新を拒否するにつき,被控訴人に対し何らの理由提示も行わなかったか
ら,上記一部拒否処分は行政手続法8条1項本文に規定する理由提示義務に違
反する違法な処分であり,取消しを免れないとして,これを取り消して被控訴
人の請求を認容したので,控訴人が控訴した。
被控訴人は,本件控訴につき,控訴人が控訴提起後50日以内に控訴理由書
の提出をしなかったから不適法であるとして,その却下を求めるとともに,附
帯控訴して,当審で新たに,控訴人に対し,有効期間の終期を平成20年2月
20日とする自動車運転免許証を交付することを求める旨の行政事件訴訟法3
7条の3の義務付けの訴え(新請求)を追加した。
2前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2
事案の概要」の1ないし3項(原判決2頁19行目から21頁20行目まで)
に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決3頁11行目の「旧法施行令別表第1の1」の次に「及び2」を
加える。
(2)同13頁10行目の「判例時報1433号」を「判例時報1453号」
に改める。
3被控訴人の当審における申立て等
(1)本案前の申立て
控訴人は,平成17年5月9日に本件控訴を提起したが,控訴理由書の提
出が遅れ,同年7月11日になって控訴理由書を提出した。しかし,民訴規
則182条によれば,控訴理由書は控訴提起後50日以内に提出することが
義務付けられており,提出期限までに控訴理由書の提出がなされなかった本
件控訴は,同条項に反する不適法な控訴として却下されるべきである。
(2)当審における新たな請求
更新後の被控訴人の免許証の有効期間を3年とする本件更新には上記のよ
うな違法事由があるから取り消されるべきであるところ,本件更新に係る免
許証の効力は平成17年12月11日の経過をもって失われるので,本件更
新処分の取消しを求めるとともに,控訴人に対し,有効期間の終期を平成2
0年2月20日(5年)とする運転免許証の交付をするよう求める。
4上記申立て等に対する控訴人の反論
(1)被控訴人の本案前の答弁に対する反論
控訴理由書については,上告理由書とは異なり,控訴提起後50日以内に
書面の提出のなかったこと自体を控訴却下事由とする規定は存在せず(民訴
法315条1項,316条1項2号参照),被控訴人の主張には理由がない。
(2)当審における新たな請求に対する反論
運転免許証の有効期間の区分は,継続して免許を受けている期間,更新日
等における年齢及び法令違反の状況に応じて,自動的に3年,4年又は5年
とされるのであり(法92条の2第1項,同法施行令33条の7),更新申
請者に更新後の免許証の有効期間を5年とする申請権が付与されていると解
する余地はない。また,有効期間が申請者の意思にかからしめることとされ
ていないことも文理上明らかである。したがって,本件は,行政事件訴訟法
3条6項2号が規定する「行政庁に対し一定の処分を求める旨の法令に基づ
く申請がされた場合」には該当しない。
また,上記のとおり,法92条の2第1項,同法施行令33条の7による
と,被控訴人については,過去の法令違反の状況からして,更新後の免許証
の有効期間は3年(有効期間の終期は平成18年2月20日)となり,有効
期間を5年とする余地はないから,行政事件訴訟法3条6項2号が規定する
「行政庁がその処分をすべきである」ときにも該当しない。
以上のとおり,被控訴人の新請求は,上記行政事件訴訟法の規定する義務
付け訴訟のいずれの類型にも該当せず,不適法である。
また,仮に,そうでないとしても,更新後の免許証の有効期間を3年とす
る本件更新手続に誤りはなく,被控訴人の新請求は理由がないから棄却され
るべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の本件控訴は適法であり,また,被控訴人の本件請求及
び当審における新請求に係る訴えはいずれも適法であると考えるが,被控訴人
の本件請求及び新請求はいずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
2本件控訴の適法性
被控訴人は,控訴理由書が控訴提起後50日を経過した平成17年7月11
日になって提出された本件控訴は,民訴規則182条に違反する不適法な控訴
として却下されるべきであると主張する。
しかしながら,控訴理由書については,上告理由書に関する民訴法315条
1項,316条1項2号のように,控訴提起後50日以内に控訴理由書の提出
のなかったこと自体を控訴却下の事由とする規定はないので,控訴理由書が上
記期間経過後に提出されたことによって,控訴が不適法になると解することは
できない。
被控訴人の上記主張は採用できない。
3運転免許更新処分取消請求について
(1)被控訴人の本件請求は,本件更新に係る被控訴人の免許証の有効期間を
3年とした控訴人の行為(本件更新処分)が取消訴訟の対象となる行政処分
に当たるとの前提に立った上で,控訴人の本件更新処分は,①行政手続法
2条4号の不利益処分に該当するのに,同法12条ないし14条に定める手
続がとられておらず,あるいは同法2条3号の申請に対する処分に該当する
のに,同法5条及び8条に定める手続がとられておらず違法であり,②前
回更新時に考慮した本件違反行為を再度考慮して,被控訴人を違反運転者と
認定して本件更新に係る免許証の有効期間を3年としたことが一事不再理の
原則に違反し違法であり,③法施行令改正附則2条に違反し違法であり
(前回更新時講習と同一の講習を本件更新時に再度受講させることの不当
性),④前回更新時に本件違反行為に対応する更新時講習を受講し,その
後本件更新時まで違反行為のない被控訴人を「一般運転者」とせずに本件更
新をする等,法の趣旨を逸脱した違法があるので,取り消されるべきである
というものである。
(2)本件更新に係る被控訴人の免許証の有効期間を3年とする控訴人の行為
の行政処分性
ア取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行
為」(行政事件訴訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は公共団体
がその行為によって,直接国民の権利義務を形成し,あるいはその範囲を
確定することが法律上認められているものをいうものと解される(最高裁
判所昭和28年(オ)第123号同30年3月4日第二小法廷判決・民集
9巻3号229頁参照)。
イところで,平成13年改正後の法においては,違反運転者等に該当する
者の更新後の免許証の有効期間は3年とされているのに対し,更新日の年
齢が70歳未満の者の場合,優良運転者及び一般運転者に該当する者の更
新後の免許証の有効期間は5年とされており(法92条の2第1項),違
反運転者等と比較して優良運転者及び一般運転者の更新後の免許証の有効
期間が2年間延長されているなど更新手続の負担が軽減されている。この
ような優良運転者及び一般運転者に与えられている地位ないし利益は,公
安委員会が法の規定によって付与しているものと解されるから,その地位
ないし利益が公安委員会の違法・不当な処分によって侵害された場合(例
えば,更新を受けようとする者の過去の違反行為の内容や評価を誤って違
反運転者等と認定したり,年齢を誤認して70歳以上と認定して更新手続
をした場合など)には,その者は,当該更新において公安委員会がした運
転免許更新処分の取消しを求める取消訴訟を提起して,その地位ないし利
益の回復を求めることができると解すべきである。
この点に関して,被控訴人は,原審において,更新後の免許証の有効期
間を3年とする更新処分のうち,有効期間を3年とする部分のみの取消し
を求める趣旨の主張をしているが,有効期間の区分指定自体が行政処分で
あると解することはできないし,また,本件更新処分が取り消されれば,
判決の拘束力によって,有効期間を5年とする免許証の更新を受けること
ができると解されるから,被控訴人の主張の本旨は,更新後の免許証の有
効期間を5年として更新処分を受けることのできる地位ないし利益がある
のに,更新後の免許証の有効期間を3年とする更新処分を受けた結果,被
控訴人の上記地位ないし利益が侵害されているので,その被侵害利益の回
復を図りたいという点にあると解すべきである。したがって,被控訴人の
取消しを求める行政処分の対象は,有効期間を3年とする本件更新処分そ
のものであると解するのが相当である。
なお,控訴人は,更新後の免許証の有効期間の区分については,法文上
一義的に規定されていて,控訴人に裁量の余地がないから,有効期間の区
分指定自体は行政処分たり得ず,被控訴人の訴えは不適法である旨の主張
をするが,本件においては,上記のとおり有効期間を3年とする免許証更
新処分自体が違法,不当かどうかが審理の対象になっていると解すべきで
あるので,控訴人の主張は採用できない。
(3)訴えの利益の有無(争点(2))
控訴人は,更新後の免許証の有効期間は,原則として3年であり,5年と
される場合は,更新を受ける者が享受できる恩典にすぎないから,更新後の
免許証の有効期間を3年とする控訴人の行為が行政処分に当たるとしても,
その処分は,被控訴人に一方的に利益のみを付与する処分であって,被控訴
人の法律上の利益を侵害するものではないから,訴えの利益を欠くと主張す
る。
しかしながら,被控訴人の本件請求は,更新後の免許証の有効期間を3年
とする免許証更新処分を受けたことによって,本来有していた有効期間を5
年とする更新処分を受けることのできる地位ないし利益を侵害されたので,
その回復のために,有効期間を3年とする上記処分の取消しを求めるという
ものであるから,被控訴人の本件請求に訴えの利益のあることは明らかであ
り,控訴人の上記主張は採用できない。
(4)行政手続法違反の有無(争点(3)ア)
ア被控訴人は,本件更新における免許証の有効期間を3年とする免許証更
新処分は,行政手続法2条4号の不利益処分に該当するのに,同法12条
ないし14条に定める手続がとられておらず,違法であると主張する。
しかし,同法2条4号の「不利益処分」とは,行政庁が特定の者を相手
方として,直接に,その権利を制限したり義務を課したりするために行う
処分をいうものと解されるところ,自動車の運転免許制度のように,道路
の安全等を確保するという目的のために,原則として禁止されている自動
車の運転行為を,一定の要件を備えた者一般に対し解除して許すという性
質の処分については,運転免許証の取得あるいはその更新手続に一定の基
準が設けられ,そのために何らかの制限や制約を受ける者があるとしても,
それが,特定の者を名あて人として,直接に義務を課し,又はその権利を
制限する処分に該当するとはいえないから,そのような制約等が同条項に
いう「不利益処分」であると解することはできない。
また,仮に,本件更新が,行政手続法2条4号の「行政庁が,法令に基
づき,特定の者を名あて人として,直接に,これに義務を課し,又はその
権利を制限する処分」に該当するものであるとしても,自動車の運転免許
証の有効期間の更新を受けようとする者は,公安委員会に更新申請書を提
出することになっており(法101条1項),不利益処分の除外事由とさ
れている同条4号ロの「申請により求められた許認可等を拒否する処分そ
の他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分」に該当
することが明らかであるから,同条4号の「不利益処分」には当たらない
というべきである。
したがって,いずれにしても,被控訴人の上記主張は採用できない。
イ被控訴人は,上記免許証更新処分は行政手続法2条3号の「申請」に対
する処分に該当するのに,同法5条及び8条に定める手続がとられておら
ず,違法であるとも主張する。
(ア)行政手続法2条3号にいう「申請」とは,法令に基づき行政庁の許
可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求め
る行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすることが法
令上義務付けられているものをいうと解される。法101条5項によれ
ば,公安委員会は,適性検査の結果等から判断して,運転免許証の有効
期間の更新を受けようとする者が自動車等を運転することが支障がない
と認めたときは,当該免許証の更新をしなければならないと定められて
いるから,運転免許証の有効期間の更新は,利益の付与を求める者に対
して行政庁が諾否の応答をすることが法律上義務付けられているもので
あって,行政手続法上の「申請」に該当するものということができる。
(イ)行政手続法5条違反の主張について
被控訴人の主張は必ずしも明らかではないが,控訴人が免許証の更新
手続を行うに際して,被控訴人から意見聴取を行わなかったことが同条
項に反し,手続の公正を侵害するものであると主張するものと解される。
しかしながら,同法5条には,申請者の意見聴取を行うことを義務付
ける規定はないから,同条項違反をいう被控訴人の主張は失当であると
いわざるを得ない。
また,上記の点を別としても,免許証の有効期間についての更新手続
は,法92条の2,法施行令33条の7によって,更新後の免許証の有
効期間の区分等が具体的かつ一義的に明記されており,更新申請手続の
過程において手続の公正・透明性が損なわれることはないといえるから,
行政庁が上記区分のほかに新たな基準を設置する義務があると解するこ
とはできない。したがって,上記更新手続について,控訴人が,行政手
続法5条にいう審査基準等を設けていないとしても,同条項違反の問題
は生じないというべきである。
いずれにしても,被控訴人の上記主張は採用できない。
(ウ)行政手続法8条違反の主張について
被控訴人は,本件更新に際し,違反運転者等に区分され,更新後の免
許証の有効期間を3年とする更新処分を受けたが,その際,被控訴人に
対して,どの基準のどの項目を満たさないために一般運転者に該当しな
いのかについて,明確な理由を示されなかったことが,同法8条に違反
すると主張する。
まず,更新後の運転免許証の有効期間を5年ではなく,3年とする更
新処分が,同法8条1項の「申請により求められた許認可等を拒否する
処分」に該当するかが問題となるが,法101条5項は,公安委員会は,
適性検査の結果から判断して,申請者が自動車の運転に支障がないと認
めたときは,その者について当該免許証の更新をしなければならないと
定めており,かつ,更新後の運転免許証の有効期間を3年とするか5年
とするかについては,法92条の2,法施行令33条の7が,その区分
等を一義的に明確に定めているのであるから,これらの規定に照らせば,
公安委員会が裁量により有効期間の区分を決定して更新を行う余地はな
い。また,上記のような免許証の更新制度の構造に照らせば,申請者が
更新後の運転免許証の有効期間を5年とする具体的な更新申請権を有し
ているものと解することもできない。したがって,公安委員会による免
許証の有効期間を3年とする更新処分は,これを5年とする更新処分の
内容についての一部拒否処分であると解することはできず,行政手続法
8条の定める「申請により求められた許認可等を拒否する処分」には該
当しないと解すべきである。そうすると,本件更新について,控訴人に
は同条の理由提示義務はないことになる。
なお,仮に,本件更新が同条の定める「申請により求められた許認可
等を拒否する処分」に該当するとしても,行政庁の恣意を抑制するとい
う同条項の趣旨に照らせば,運転免許証の更新後の有効期間の定めにつ
いては,上記説示のとおり,法92条の2,法施行令33条の7によっ
て,その区分等が具体的かつ一義的に明記されており,申請段階におけ
る手続の公正・透明性が損なわれるおそれがないと考えられるので,同
条ただし書に該当し,理由提示義務はないと解される。
被控訴人の上記主張は,いずれにしても採用することができない。
ウ以上のとおりであるから,更新後の免許証の有効期間を3年とする本件
更新処分には,被控訴人の主張するような行政手続法違反の瑕疵があると
いうことはできない。
(5)一事不再理の原則違反の有無(争点(3)イ)
被控訴人は,控訴人が,本件更新に際し,前回更新と同様に本件違反行為
を考慮して,被控訴人を違反運転者等に区分して,更新後の運転免許証の有
効期間を3年とする更新処分を行ったことが,同一の違反行為を2回にわた
って不利益評価して処分をしたことになり,憲法39条の定める一事不再理
原則に反し,違法であると主張する。
確かに,控訴人は,被控訴人に対し,平成12年1月17日ころ,本件違
反行為による累積点数が4点であったことにより,被控訴人が旧法92条の
2第1項所定の「優良運転者以外の者」に該当するとして,更新後の運転免
許証の有効期間を被控訴人の誕生日である平成15年1月20日までの3年
とする前回更新をした後,同年2月17日ころ,更新前の免許証の有効期間
満了日の直前の被控訴人の誕生日(平成14年1月20日)より40日前の
日より前5年間において,本件違反行為により累積点数が4点であったとの
根拠で,被控訴人が違反運転者等に該当するとして,更新後の免許証の有効
期間を更新前の免許の有効期間満了後の被控訴人の3回目の誕生日から起算
して1月を経過する日である平成18年2月20日までの3年とする本件更
新をしており(先に引用した原判決摘示の前提事実(7)イ),被控訴人は,
1回の違反行為を前回更新と本件更新の2回にわたって考慮されて,更新後
の免許証の有効期間について不利益な取扱いを受けたということができる。
しかし,憲法39条の定める一事不再理の原則は,同一の犯罪について重
ねて刑事上の責任を問われないとする刑事上の責任に関する原則であり,刑
罰権の発動とはいえない行政手続である運転免許証の更新に直接適用される
ものではない。
また,運転免許証を取得した者について,道路交通法違反行為の有無や違
反内容に対応した累積点数に基づき,「違反運転者等」,「優良運転者及び
一般運転者」といった区分をし,更新後の免許証の有効期間につき,優良運
転者及び一般運転者を5年,違反運転者等を3年という差異を設けることは,
道路交通法違反等の行為を道路交通法上の危険性の徴表と見て,このような
違反行為をした者について更新後の免許証の有効期間を短くし,これによっ
て道路交通法規に対する遵法精神を喚起するとともに,講習の回数を増やし
たり内容を強化し,道路における交通の安全に資するという行政目的の実現
を図るための適正合理的な制度ということができる。このような運転免許証
の更新制度の中で1回の違反行為をその後の2度にわたる更新に当たって不
利益に考慮することがあるとしても,上記の行政目的に照らせば,それが直
ちに不合理,不当な取扱いであるとまではいえず,それが立法裁量を逸脱し
た違法・不当な手続であるということもできない。
したがって,被控訴人の同一の違反行為を2回にわたって不利益に評価し
て本件更新処分が行われたものであるとしても,憲法39条の定める一事不
再理の法理を及ぼして,その効力を否定しなければならないと解することは
できず,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
なお,被控訴人は,違反運転者等と区分されて,前回更新時と本件更新時
の2回にわたって違反運転者に対応する講習を受けさせたことが一事不再理
の原則に反し不当であるとも主張するが,仮に更新時講習を2回受講させら
れたことが違法であるとしても,そのことが本件更新処分の効力に影響する
とは言い難いから,この点に関する被控訴人の主張は上記判断を左右するも
のとはいえない。
(6)法施行令改正附則2条違反の有無(争点(3)ウ)
被控訴人の主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,前回更新時に行われ
た更新時講習は法施行令改正附則2条により,平成13年改正後も効力を有
するものであるから,本件更新において,本件違反行為を理由に再度本件更
新時講習を受講させることが不当であり,このような講習を義務づけている
本件更新処分自体が違法であって取り消されるべきである旨を主張している
ものと理解することができる。
しかし,更新時講習は,自動車の運転者に定期的に安全教育を行い,その
安全意識を維持し,高めることを目的とするものであるから,更新の都度,
更新時講習を受けるべきことが定められているのであって(法101条の3
第1項,108条の2第1項11号),前回更新時の講習と本件更新時講習
とは別個の講習であり,法施行令改正附則2条の規定が前回更新時講習を受
講した者について本件更新時講習を免除する趣旨を含むと解することはでき
ない。したがって,被控訴人の上記主張は失当であり,採用することはでき
ない。
(7)法の趣旨の逸脱の有無(争点(3)エ)
被控訴人は,更新前5年間に法違反行為をしたが累積点数が3点未満の者
については,「一般運転者」として更新後の免許証の有効期間を5年とする
更新を受けられるのに対し,前回更新時後何ら違反行為をしていない被控訴
人が「一般運転者」とされずに,「違反運転者等」として区分され,更新後
の免許証の有効期間を3年とする更新しか受けられないのは,控訴人が法の
解釈適用を誤ったものであり,違法であると主張する。
しかしながら,法92条の2及び法施行令33条の7は,優良運転者,一
般運転者及び違反運転者等を一義的に区分しており,控訴人が裁量によって
被控訴人を「一般運転者」に区分する余地はないから,控訴人に区分につい
ての裁量権があることを前提とする被控訴人の主張は理由がない。
なお,被控訴人が主張する違反者相互間の不平等は,法及び法施行令が,
累積点数4点以上の違反を重大な違反行為ととらえ,道路交通法規に対する
遵法精神を喚起する必要性が高いと考えたことの結果であり,このような内
容を定めた法及び法施行令の規定には相応の合理性が認められるから,これ
が立法裁量を逸脱した不当なものであるということはできない。
(8)そうすると,本件更新に係る被控訴人の免許証の有効期間を3年とした
本件更新処分は,取消訴訟の対象となる行政処分に該当するが,当該処分に
は被控訴人の主張するような違法・不当事由は存在しないから,その取消し
を求める被控訴人の請求は理由がないというべきである。
4被控訴人の当審における新たな請求について
(1)控訴人は,被控訴人の当審での新請求につき,被控訴人には更新後の免
許証の有効期間を5年とする申請権が付与されていると解することができな
いから,被控訴人の請求は,行政事件訴訟法3条6項2号が規定する「行政
庁に対し一定の処分を求める旨の法令に基づく申請がされた場合」に該当せ
ず,また,被控訴人の過去の法令違反の状況からすると,更新後の免許証の
有効期間は3年(有効期間の終期は平成18年2月20日)となり,有効期
間を5年とする更新の余地はないから,同条項の「行政庁が一定の処分をす
べきである」ときにも該当せず,結局,被控訴人の上記請求は,行政事件訴
訟法の規定する義務付け訴訟のいずれの類型にも該当しない不適法な訴えと
して却下されるべきであると主張する。
しかしながら,被控訴人の当審における新請求は,本件更新申請に対して,
更新後の被控訴人の免許証の有効期間を3年として更新をした控訴人の本件
更新処分には,法92条の2,法施行令33条の7の定める更新後の免許証
の有効期間の区分指定を誤った違法事由があり,取り消されるべきものであ
って,控訴人としては,本来,本件更新後の有効期間の終期を平成20年2
月20日(5年)とする運転免許証を交付すべき義務があるから,その交付
を求めるというものである。このように行政庁が本来なすべき正当な処分を
せずに誤った処分をしたことを理由として,本来なされるべき処分をするよ
うに求める申立ては,行政事件訴訟法3条6項2号の規定する「行政庁に対
し一定の処分を求める旨の法令に基づく申請がされた場合において,当該行
政庁がその処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」という要
件を充たすものと解するのが相当である。
また,控訴人は,被控訴人の過去の法令違反の状況から有効期間を5年と
する更新の余地がないから,同号の「行政庁が一定の処分をすべきである」
ときにも該当しないと主張するが,有効期間を5年とする更新が認められる
かどうかは,被控訴人の求める義務付け訴訟の実体要件であるから,これを
訴訟要件であるように主張する控訴人の主張は失当である。
結局,被控訴人の新請求の却下を求める控訴人の申立ては理由がなく採用
できない。
(2)そこで,次に,被控訴人の新請求に理由があるかどうかについて検討す
るに,上記3において認定説示したとおり,本件更新に係る被控訴人の免許
証の有効期間を3年とした控訴人の本件更新処分には,被控訴人の主張する
ような違法・不当な事由は認められず,その取消しを求める被控訴人の請求
は理由がないものである。したがって,本件における被控訴人の新請求は,
行政事件訴訟法37条の3第1項ないし3項に定める訴えに係る請求に理由
があると認められるとの要件を充たさないことになるから(同法37条の3
第5項),これを認容する余地はないというべきである。
したがって,被控訴人の新請求も理由がない。
5以上によれば,被控訴人の本件請求は理由がなく,これを認容した原判決は
失当であるから,これを取り消して,被控訴人の請求を棄却することとし,当
審で追加された被控訴人の新請求も理由がないから棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官赤塚信雄
裁判官小林崇
裁判官佐藤陽一

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