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平成21年1月21日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10299号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成20年12月18日
判決
原告神富士鉱業株式会社
被告特許庁長官
同指定代理人川本眞裕
小林和男
北村明弘
亀丸広司
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−9327号事件について平成20年6月26日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服とし
て審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求
めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成7年6月30日,名称を「微弱磁気保温服飾品」とする発明(請求
項の数6。なお,その後,発明の名称を,順次「微弱磁気保健衛生用品「微弱,」,
磁気再生医療抗菌用品」に変更するとの補正がされている)につき,優先権(優。
先日:平成7年2月23日及び同年6月13日)を主張して特許出願(特願平7−
165273号)をしたが(甲2,特許庁は,平成18年3月8日付けで拒絶査)
定をした(甲9の3。)
原告は,平成18年4月7日,上記拒絶査定に対する不服の審判請求をするとと
もに,同日付けで特許請求の範囲及び発明の名称を変更する手続補正(甲9の7。
以下「本件補正」という)をした。。
特許庁は,上記審判請求を不服2006−9327号事件として審理し,平成2
0年6月26日,本件補正を却下する決定とともに「本件審判の請求は,成り立,
たない」との審決をし,その謄本は,同年7月16日に原告に送達された。。
2本願に係る発明の要旨
(1)本件補正前
本件補正前の平成17年9月6日付けの手続補正書(甲9の2)に記載の請求項
1に係る発明(以下「本願発明」という)の内容は,次のとおりである。。
「2∼20ガウスの微弱磁気を有する保健衛生用品を,傷口,又は化膿部に装着
使用することを特徴とする,細胞再生方法」。
(2)本件補正後
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という)の内容は,。
次のとおりである(甲9の7。)
「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用いる微弱磁気再生医療抗菌用品」
3審決の内容
審決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1)本件補正の却下について
本件補正に係る「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用いる微弱磁気再生医療抗
菌用品」は,当初明細書に記載されたものではなく,また,微弱磁気製品が「再生
医療」に用いられるものであることが,当初明細書の記載から当業者にとり自明な
ものであったともいえず,本件補正は,平成6年改正前特許法17条2項の規定に
適合しないので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の
規定により却下する。
(2)本願発明が特許を受けることができないことについて
本件補正の却下により審判の対象となる本件補正前の特許請求の範囲の記載に基
づく本願発明は,微弱磁気を有する保健衛生用品を「傷口,又は化膿部に装着使用
する「細胞再生方法」に係るものであり,本願発明が,実際に細胞を再生するも」
のであるか否かはさておき,本願発明は,実質上医師が患者に対して行う医療行為
として実施される発明といえるから,特許法29条1項柱書でいう産業上利用する
ことができる発明に該当せず,特許を受けることができない。
第3原告主張の審決取消事由
原告主張の審決取消事由は,別紙の原告作成の「訴状」及び「答弁書」のとおり
であり,要するに,(1)本願補正発明は,当初明細書に記載されている,(2)本願に
係る平成17年9月6日付けの手続補正書(甲9の2)に記載の請求項に係る発明
及び本願補正発明は,いずれも治療等の効果を有するものであって特許として認め
なければならない,というものである。
第4当裁判所の判断
1本件補正の適否について
(1)本件補正は,請求項1を「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用いる微弱
磁気再生医療抗菌用品」と変更するものである(甲9の7。。)
「再生医療」とは「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して,細,
胞を積極的に利用して,その機能の再生を図る」もの(日本再生医療学会」平成「
13年5月における設立趣旨「平成15年度特許出願技術動向調査報告書・再生,
医療」等における記載)であって,創傷治ゆにおける自然治ゆ力による細胞の再生
とは異なるものである。
(2)そこで,本件補正の適否について検討するに,本願の願書に最初に添付し
た明細書又は図面(以下「当初明細書」という)には,次の記載がある(甲2。。)
0005】本発明は保温性に加え,さらに抗菌性,坑かび性をも有する保温服飾品を提「【
供することを目的とする」。
「0006】本発明の別の目的は,抗菌性さらには細胞再生能(効果)を利用した保健衛【
生用品をも提供することを目的とする」。
「0017】本発明者はさらに本発明の2∼20ガウスの微弱磁気を有する保温服飾品が【
皮膚および呼吸器等の感染症においてよく原因となる菌種に対して抗菌性を有することをも見
いだした」。
「0018】特に,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌および緑膿【
菌に効果があり,本発明による保温服飾品はこれらの菌種の発育を阻止する機能を有する」。
「0020】また,磁性材料を繊維の内部に含有させる等の,本発明による抗菌性を有す【
る保温服飾品素材を用いて製造した毛布,布団カバーおよび寝間着等を医療用として利用する
ことは,特に寝たきり患者にとって非常に有効である」。
「0021】さらに,抗菌性に対する研究を続けたところ2∼20ガウスの微弱磁気はみ【
ずむしの原因となる菌種(真菌)に対する抗菌性,坑かび性を有することを見いだした・・。
・ここに本発明は上記のような抗菌,坑かび性を利用したみずむし治療用保温服飾品または下
記する保健衛生用品を提供するものである」。
「0024】なお,本発明による微弱磁気坑催眠服飾品は,皮膚および呼吸器等の感染症【
の原因となる前記菌種に対して抗菌性をも有するため,頭部に着用する服飾品が清潔に保て,
衛生的にも優れた頭部服飾品を提供することができる」。
「0025】また,本発明による微弱磁気服飾品を製造する前段階の素材を成形して,抗【
菌性または坑かび性機能のみを目的として保健衛生用品に用いてもよい。例えば,傷口保護治
具,包帯,ばんそうこうの代替物,あかすり,手ぬぐいおよび雑巾として利用することができ
る」。
「0026】この場合,抗菌性,坑かび性があるため菌の繁殖を防止することができ,安【
心して使用することができる。また,保管中にも菌の繁殖を防止することができる」。
「0027】本発明を傷口用保健衛生用品として使用する場合,自己で治療できる軽い傷【
はもちろん,手術後の大きな傷口に対しても有用で,傷口に直接または覆うようにして使用す
ると傷口の化膿防止に有用である・・・」。
「0029】さらに驚いたことに2∼20ガウスの微弱磁気を,例えば前記メチシリン耐【
性黄色ブドウ球菌等の菌種による化膿口に,医学的に適切にパッド等の形態で適用することに
より,化膿口の回復に極めて有効であることがわかった。これは2∼20ガウスの微弱磁気が
細胞再生能(効果)があることを示すものである・・・」。
「0048】実施例7【
次に,微弱磁気製品の抗菌性効果を調査するため,皮膚および呼吸器等の感染症についてよ
く原因となるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌および緑膿菌ならびに
マグネットバリアシート(不織布(8∼10ガウス(以下,磁気シートという)を用いてそ))
れぞれの菌種の発育を観察した」。
「0049】マックファーランド比濁法によりそれぞれの菌濃度を約0.5×10/ml【
に調整した菌液を作り,シャーレ(直径10㎝(10)に入れたBTB寒天培地にそれぞれ)
接種した。そして約4㎝×約3㎝の大きさの磁気シート(13)をそれぞれの培地に載せ,3
7℃で48時間培養し,発育阻止領域の有無を観察した」。
「0050】その結果・・・4種の菌の中で,メチシリン耐性ブドウ球菌が最も顕著に磁【,
気シートにより発育を阻止された」。
「0051】本実施例により,本発明による微弱磁気材料は皮膚および呼吸器等の感染症【
についてよく原因となるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌および緑膿
菌に対して抗菌作用を有することが示された」。
「0052】実施例8【
本実施例では微弱磁気製品の細胞再生能を調査した。バンコマイシン,ハベカシン,スルペ
ラゾン,ホスミシン等,感染症メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に有効とされる薬
剤の投与にも抵抗性のある感染症MRSA(S状結腸憩室症術後)腹壁膿瘍を患い,化膿口の
大きさ縦13㎝,横18㎝,深さ2㎝のMRSA腹壁膿瘍を有する患者に対して,その化膿箇
,,.()。,所に大きさ縦20㎝横30㎝の0001T10ガウス磁気繊維を装着した装着後
化膿口は徐々に回復し80日で元の状態に完全に回復した。これだけの大きな化膿傷口であっ
たがケロイド痕を殆ど形成せず完治した。この事実により細胞再生効果があることが推察され
る」。
(3)上記(2)の記載を含め,当初明細書(甲2)には「1mTの微弱磁気を有,
し再生医療に用いる微弱磁気再生医療抗菌用品」についての明示的記載は存在しな
い。
また,上記(2)のとおり,当初明細書には,微弱磁気服飾品の素材(以下「微弱
磁気製品」という)には,抗菌性及び抗かび性があるため,傷口の化膿防止に有。
効であること(0025】∼【0027,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等の【】)
菌種による化膿口に微弱磁気製品をパッド等の形態で用いると,化膿口の治ゆに有
効であること(0029)の記載があるが,このような創傷の治ゆについては,【】
消毒等による創傷の保護下で,肉芽が増殖して治ゆに至るものであって,この肉芽
の増殖による創傷の治ゆは「再生治療」とは異なるものである。,
さらに,上記(2)のとおり,当初明細書【0052】には,感染症MRSA(S
状結腸憩室症術後)腹壁膿瘍が磁気繊維の装着により治ゆし「細胞再生効果があ,
ることが推察される」との記載がされているが【0017【0018】並びに,】,
【0048】∼【0051(実施例7)に,微弱磁気製品のメチシリン耐性ブド】
ウ球菌等に対する抗菌性効果について述べられていることからすると,上記【00
】,,,52の記載は微弱磁気製品の抗菌作用により創傷が細菌の活動から保護され
腹壁膿瘍が肉芽の増殖により治ゆしたことが記載されているものと認められ,そう
すると【0052】に記載された事実から推察される「細胞再生効果」とは,自,
然治ゆによる細胞再生の域を出ないものであって「再生医療」への用途を何ら開,
示しないものである。
そして,その他の記載も含め,当初明細書の記載において,微弱磁気製品が「再
生医療」に用いられるものであることが当業者にとって自明であるとはいえない。
(4)以上によれば,本件補正に係る「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用い
る微弱磁気再生医療抗菌用品」は,当初明細書に記載されたものではなく,また,
当初明細書の記載より自明のものであるとも認められず,本件補正は,前記改正前
特許法17条2項の規定に適合しないので,同法159条1項において読み替えて
準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものとなる。
したがって,本願補正発明が当初明細書に記載されているとする原告主張の審決
取消事由は理由がない。
2本願発明が特許を受けることの可否について
審決は「本願発明が,実際に細胞を再生するものであるか否かはさておき,本,
,」願発明は実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえる
ことから「特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当,
しない」としたものであるところ,原告は,審決の上記認定判断について何ら取消
事由を主張するものではなく,本願発明に対する原告主張の取消事由(本願発明が
治療等の効果を有するというもの)は,審決の結論に影響しないものである。
そして,本願発明につき,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施さ
れる発明といえるから特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発
明に該当せず特許を受けることができない,とする審決の認定判断は是認すること
ができる。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
本多知成
裁判官
田中孝一
以下訴状等省略

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