弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人A1、同A2に関する請求のうち、同人らの敗訴部分
を破棄し、これを札幌高等裁判所に差し戻す。
     上告人A3の上告を棄却する。
     前項の上告費用は同上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岩沢誠、同能登要の上告理由第一点について。
 原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実を肯認することができる。そ
して、原判決の判示のとおり、担保のため単に株券を交付したにすぎない場合にお
いては、とくに代物弁済の予約がある等特段の事情のないかぎり、質権設定を目的
とする行為をしたにすぎないと解するのが相当であり、前記認定した事実関係に徴
すれば、本件担保権の内容は、単に質権の設定にとどまるものとした原判決の判断
は、正当である。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠
の取捨・選択、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第二点について。
 記名株式を質権の目的とするには、質権設定の合意のほか株券の交付を必要とす
るが、それのみには足ることは、商法二〇七条の規定の解釈上明らかであるところ、
このような質権者は、その株券の占有を継続するかぎり裏書または譲渡証書の添付
によつてその権利を証明することを要しないで、右質権を株式名義人(所有権者)
に対抗することができ、商法二二九条、小切手法二一条の規定の適用の問題が生じ
ない旨の原判決の判断は、正当である。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は原審の認定しない事実を前提とす
るものであつて、とるをえない。
 同第三点について。
 原判決の判示するところによれば、上告人A1、同A2名義の第一審判決添付の
別紙第二、第三目録記載の株券は、それぞれ、同人らの所有に属し、上告人A3は、
親権者として管理し、右上告人らを代理してこれを処分する権能を有し、上告人A
3は、昭和三一年五月頃Dの依頼に応じ、右上告人らの株券および自己名義の株券
等を一括して、担保に供する目的をもつて、その使者であるEに交付したというの
である。
 ところで、上告人A1、同A2は未成年で、父である上告人A3、母であるFこ
とGの両名が法定代理人たる親権者であることは、一件記録上、明らかである。
 そして、未成年の子の財産の管理その他の処分行為については、民法八二四条、
八二五条の規定により父母が共同して親権を行使すべきであり、これに違反して、
共同親権者の名義を用いないで、また、父もしくは母が親権者として単独で、未成
年の子の財産に関してなした行為は無効であると解すべきである(最高裁昭和二六
年(オ)第三六六号昭和二八年一一月二六日第一小法廷判決、民集七巻一一号一二
八八頁参照)。
 上告人A1、同A2の財産に属する本件株券の処分行為について、原判決は、上
告人A3がこれをしたことを判示するのみであつて、その処分行為について、同上
告人と母たるGと共同して親権を行使したことはもちろん、右Gが同上告人に対し
その処分の権限を付与することに承諾を与えたことについてはなんら判示すること
がない。
 果してしからば、原判決は、実体法の解釈、適用をあやまつた結果、審理不尽の
違法をおかしたものというべく、この点に関する論旨は理由がある。
 よつて、原判決中、上告人A1、同A2に関する請求のうち、同人らの敗訴部分
を破棄して、これを原審に差し戻すが、上告人A3の上告は失当であるからこれを
棄却し、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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