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平成17年(行ケ)第10414号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年12月15日
            判        決
     原        告    旭硝子株式会社
     原        告    オプトレックス株式会社
     両名訴訟代理人弁理士    岩壁冬樹
     同             塩川誠人
     被        告    特許庁長官 中嶋誠
     指定代理人         瀧廣往
     同             福田裕司
     同             立川功
     同             濱野隆
     同             伊藤三男
            主        文
     1 原告らの請求を棄却する。
     2 訴訟費用は原告らの負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2004-12531号事件について平成17年3月1日にした審決を取り
消す。
第2 事案の概要
 本件は,後記特許出願の出願人である原告らが,特許庁から拒絶査定を受けた
ので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が同請求不成立の審決をし
たため,原告らが同審決の取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 原告らは,名称を「液晶表示素子の駆動方法」(後に「液晶表示装置及び
その駆動方法」に訂正)とする発明につき,平成4年9月22日に特許出願(平成4
年特許願第277864号,以下「本件出願」という。甲3)をした。なお,本件出願
は,平成3年7月8日になした特許出願(平成3年特許願第193502号)の一部を分
割して出願したものである。
 その後原告らは,平成10年7月8日付け手続補正(第1次補正,甲4)及び平成
16年3月8日付け手続補正(第2次補正,甲5)をした。
 特許庁は,本件出願に対し,平成16年5月11日付けで拒絶査定をした。
 そこで原告らは,平成16年6月17日に拒絶査定不服審判を請求し,同請求は不服
2004-12531号事件として特許庁に係属した。
 その後原告らは,平成16年7月16日付け手続補正(第3次補正,甲6)をした。
 特許庁は,同事件について審理した上,平成17年3月1日付けで「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成17年3月15日原告らに送
達された。
(2) 発明の内容
 平成16年7月16日付け手続補正書(甲6。第3次補正)により全文変更さ
れた明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された【請求
項1】に係る発明は,下記のとおりである(以下「本願発明」という。)。
               記
  N本の行電極と複数の列電極との間にダイナミック駆動時の平均応答時
間が150msec以下である液晶材料が挟持されたスーパーツイスティッドネマチック
液晶パネルが備えられ,前記N本の行電極をM本(2≦M<N)の行電極からなる
複数のサブグループに分割し,サブグループ内の行電極に選択パターンを印加する
ことによってM本の行電極の選択を同時に行ない,列電極のデータパターンと行電
極の選択パターンとの排他的論理和をとることにより,列電極に印加する電圧を決
定し,行電極と列電極のマトリクスの点灯部の電圧実効値が,表示パターンによら
ず均一になる期間を1フレームとした場合に,該選択パターンをサブグループ毎に
順次印加する際に,1フレームのなかで,一つのサブグループの選択後,前記サブ
グループに対する非選択期間の後に,前記サブグループを選択し,前記非選択期間
のなかで他のサブグループを選択し,全てのサブグループの選択時に選択パターン
を一つずつ印加することにより,選択パルスを1フレーム内で分散し,ある行電極
について,一つの選択パルスから次の選択パルスが印加されるまでの非選択期間
が,行電極を1本ずつ順次選択する電圧平均化法の場合よりも短い,液晶表示装置
の駆動方法。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決謄本写しのとおりである。その理由の要旨は,
本願発明は,その出願前に頒布された下記刊行物(甲1。以下「刊行物1」とい
う。)及び周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明することができたもので
あるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,としたもの
である。

1988INTERNATIONALDISPLAYRESEARCHCONFERENCE"AGENERALIZED
ADDRESSINGTECHNIQUEFORRMSRESPONDINGMATRIXLCDS"(T.N.RUCKMONGATHAN)
CH-2678-1/88/0000-0080c1988IEEE,pp.80-85
イ 上記判断をするに当たり,審決は,本願発明と刊行物1に記載された発
明(以下「引用発明」という。)との一致点及び相違点について,次のとおり認定
している。
(一致点)
「N本の行電極と複数の列電極との間に」「液晶材料が挟持されたスー
パーツイスティッドネマチック液晶パネルが備えられ,前記N本の行電極をM本
(2≦M<N)の行電極からなる複数のサブグループに分割し,サブグループ内の
行電極に選択パターンを印加することによってM本の行電極の選択を同時に行な
い,列電極のデータパターンと行電極の選択パターンとの排他的論理和をとること
により,列電極に印加する電圧を決定し,行電極と列電極のマトリクスの点灯部の
電圧実効値が,表示パターンによらず均一になる期間を1フレームとした場合に,
該選択パターンをサブグループ毎に順次印加する際に,1フレームのなかで,一つ
のサブグループの選択後,前記サブグループに対する非選択期間の後に,前記サブ
グループを選択し,前記非選択期間のなかで他のサブグループを選択し,全てのサ
ブグループの選択時に選択パターンを一つずつ印加することにより,選択パルスを
1フレーム内で分散」する,「液晶表示装置の駆動方法」である点。
(相違点1)
 本願発明では「ダイナミック駆動時の平均応答時間が150msec以下である」液晶
材料を用いているのに対し,刊行物1にはこのような記載がない点。
(相違点2)
 本願発明では「ある行電極について,一つの選択パルスから次の選
択パルスが印加されるまでの非選択期間が,行電極を1本ずつ順次選択する電圧平
均化法の場合よりも短い」のに対し,刊行物1にはこのような記載がない点。
(4) 審決の取消事由
 審決は,以下の理由により,引用発明の認定を誤った結果一致点の認定を
誤り,また,相違点に係る進歩性の判断を誤った違法なものとして取消しを免れな
い。
ア 取消事由1(引用発明の認定の誤りに起因する一致点の認定の誤り)
 審決は,刊行物1の記載事項から導き得ない事項を引用発明の内容とし
て認定し,かかる引用発明の認定の誤りの結果,一致点の認定を誤ったものであ
る。
 すなわち,審決は,「刊行物1には,N個の行がN/(編注;「リットル」を表
す記号あり)個のサブグループに分割され,サブグループの各々が(編注;「リッ
トル」を表す記号あり)個の行からなること………,サブグループは次のサブグル
ープを選択する前に連続的に2

の行選択パターンとともに選択されること………,
ここでjは0から(編注;「リットル」を表す記号あり)までの範囲の数であるこ
と………,サブグループが選択される順序は同様に全てのサブグループが全ての2
(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いている)の
行選択パターンとともに選択される限り変更可能であること………が記載されてい
る。jとして0を採用した場合,次のサブグループを選択する前に選択する行選択
パターンの数は1となり,全てのサブグループの選択時に行選択パターンを一つず
つ印加することとなり,行選択パターンの印加が分散して行なわれることとな
る。」(3頁下から第2段落)と認定した。
 審決の上記認定のうち,刊行物1に,①「サブグループは,次のサブグループを
選択する前に,連続的に2

の行選択パターンとともに選択されうる」,②「jの値
は0から(編注;「リットル」を表す記号あり)までの間である」,③「サブグル
ープが選択される順序は,全てのサブグループが,全ての2(編注;「リットル」
を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いている)の行選択パターンととも
に選択される限り,同様に変更可能である」との記載があること,④「jとして0
を採用した場合,次のサブグループを選択する前に選択する行選択パターンは1と
な(る)」ことは認めるが,⑤「(jを0とした場合に)全てのサブグループの選択
時に行選択パターンを一つずつ印加することとなり,行選択パターンの印加が分散
して行われることとなる」という事項は,上記①~④から導くことが可能な事項で
はない。この点において,審決は引用発明の認定を誤っている。
(ア) 刊行物1には,サブグループの選択について,上記①,③の外に,⑥
「(編注;「リットル」を表す記号あり)=2及び3の時のIHATのアドレシング波
形は,代表的な例として,図1及び図2にそれぞれ描かれている」と記載されてい
る。
 図1及び図2には,各サブグループに対して,集中的(連続的)に行選択パター
ンが印加されている例が示されており,選択パルスを1フレーム内で分散させるこ
とは,刊行物1に全く開示されていない。そして,刊行物1において,上記①の
「サブグループは次のサブグループを選択する前に連続的に2

の行選択パターンと
ともに選択されること」に関連する具体的な開示は,他にはない。
 そうすると,刊行物1の上記①の記載が意味するところは,(編注;「リット
ル」を表す記号あり)=2の場合を例にすると,ある一つのサブグループに対して
2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いている)
=4通りの行選択パターンを印加したら,次のサブグループに対して,また4通り
の行選択パターンを印加するというものである,と解さざるを得ない。そして,上
記③の「サブグループが選択される順序は,全てのサブグループが,全ての2(編
注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いている)の行選
択パターンとともに選択される限り,同様に変更可能である」という記載は,例え
ば,N=8,(編注;「リットル」を表す記号あり)=2の場合,サブグループ数
はN/(編注;「リットル」を表す記号あり)=4となるが,サブグループの選択
は,例えば,「第1サブグループ→第2サブグループ→第3サブグループ→第4サ
ブグループ」の順番で選択されてもよいし,「第1サブグループ→第3サブグルー
プ→第2サブグループ→第4サブグループ」等の順番で選択されてもよい,という
ことを意味していると解される。
 そうすると,刊行物1の記載から把握できる内容は,例えば,「第1サブグルー
プに対してすべての行選択パターンを印加→第2サブグループに対してすべての行
選択パターンを印加→第3サブグループに対してすべての行選択パターンを印加→
第4サブグループに対してすべての行選択パターンを印加」の順番でもよいし,
「第1サブグループに対してすべての行選択パターンを印加→第3サブグループに
対してすべての行選択パターンを印加→第2サブグループに対してすべての行選択
パターンを印加→第4サブグループに対してすべての行選択パターンを印加」等の
順番で選択されてもよいが,いずれの場合でも,選択されたサブグループに対して
は,すべての行選択パターンが集中的に印加されているというものである。
(イ) 刊行物1には,「jの値は0から(編注;「リットル」を表す記号あ
り)までの間である」(上記②)と記載されており,「jとして0を採用した場
合,次のサブグループを選択する前に選択する行選択パターンの数は1とな(る)」
(上記④)ことは認めるが,上記(ア)で述べたとおり,刊行物1のその他の記載(上
記①,③,⑥)を参酌すると,当業者にとって,上記④の事項から「全てのサブグ
ループの選択時に行選択パターンを一つずつ印加することとなり,行選択パターン
の印加が分散して行われることとなる。」(上記⑤)ことまで想起することは困難
である。したがって,上記②の記載及び上記④の事項から上記⑤の事項を導き出す
ことには無理があり,審決が上記⑤のとおり認定したことは誤りである。
(ウ)(被告の主張に対する反論)
a 被告は,刊行物1において,jとして(編注;「リットル」を表す
記号あり)未満の値(0を含む)を採用した場合には,任意のサブグループに対し
て,2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いてい
る)種類の全ての行選択パターンの一部の2

種類(j=0の場合は1種類)の行選
択パターンを印加した後,他のサブグループに対する行選択パターンの印加を行
い,更にその後に前記任意のサブグループAに対して,最初に印加したのとは別の


種類の行選択パターンを印加するというように,行選択パターンの印加が行われ
るのであるから,任意のサブグループに対して,行選択パターンの印加が分散して
行われることになる,と主張する。
 しかし,刊行物1において,jが(編注;「リットル」を表す記号あり)の場合
には,一つのサブグループの選択時にすべての行選択パターンが印加されるのに対
して,jが(編注;「リットル」を表す記号あり)未満の場合には,印加されずに
残る行選択パターンが存在する。そして,刊行物1には,選択された一つのサブグ
ループに対する行選択パターンの印加の順序について,上記①の「サブグループ
は,次のサブグループを選択する前に,連続的に2

の行選択パターンとともに選択
されうる。」という記載以外には具体的な開示はないから,当該サブグループの最
初の選択時に印加されずに残った行選択パターンを,どのようなタイミングでその
サブグループに印加するのかについて,刊行物1には全く開示がない。さらに,一
つのサブグループを選択した後,次のサブグループとして,どのサブグループを選
択するのかに関しても,刊行物1には全く開示がない。
b 上記aのことを,具体例で説明すると以下のとおりである。
 刊行物1の記載に基づけば,例えば,N=12,(編注;「リットル」を表す記号
あり)=2,j=0の場合に,次の(a),(b)のような順序及びタイミングでサブグ
ループの選択及び行選択パターンの印加を行うことが考えられる(以下,それぞれ
「駆動例1」,「駆動例2」という。)。
(a)駆動例1
 まず,第1サブグループ及び第2サブグループについて,下
記[1]~[8]の処理を行う。
[1] 第1サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[2] 第2サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[3] 第1サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[4] 第2サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[5] 第1サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[6] 第2サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[7] 第1サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[8] 第2サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
 続いて,第3サブグループ及び第4サブグループについて,
上記[1]~[8]の処理と同様に行選択パターンを印加する。さらに,第5サブグルー
プ及び第6サブグループについて,上記[1]~[8]の処理と同様に行選択パターンを
印加する。以降,1フレームの終了まで同様の動作を繰り返す。また,1フレーム
終了後,再度同様の動作を繰り返す。
 このような動作において,例えば,第1サブグループに着目する
と,上記の[1]~[7]の処理では,第2サブグループと交互に選択されるため,1回
選択されてから次に選択されるまでの時間が短くなる。しかし,[7]の処理終了後
は,次のフレームの開始まで選択されることはなく,選択されない期間が過剰に長
くなってしまう。したがって,この駆動例1では,行選択パターンの分散が成立し
ない。
(b) 駆動例2
[1] 第2サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[2] 第4サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[3] 第3サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[4] 第5サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[5] 第1サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[6] 第6サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[7] 第1サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[8] 第6サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[9] 第3サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[10] 第2サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[11] 第5サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[12] 第2サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[13] 第3サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[14] 第1サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[15] 第5サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[16] 第1サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[17] 第2サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[18] 第6サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
[19] 第4サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[20] 第5サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印
加する。
[21] 第6サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[22] 第4サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印
加する。
[23] 第3サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印
加する。
[24] 第4サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印
加する。
 このような動作において,例えば,第4サブグループに着目する
と,第4サブグループは上記の[2],[19],[22],[24]の処理で選択される。第4
サブグループが[22]の処理で1回選択されてから次に[24]の処理で選択されるまで
の期間は短い。一方,第4サブグループが[2]の処理で1回選択されてから,次
に[19]の処理で選択されるまでの期間は過剰に長くなってしまう。したがって,駆
動例2でも,分散が成立しない。
c 上記bの駆動例1や駆動例2に示すように,jとして0を採用した
場合,選択された任意のサブグループに1種類のみの行選択パターンが印加された
後,次に選択されるサブグループに行選択パターンが印加されることになるが,一
つのサブグループに着目すると,一度選択されてから次に選択されるまでの時間が
短い場合と過剰に長い場合とが混在しているのであるから,行選択パターンが「分
散」されていない場合を,明らかに含むのである。
 つまり,刊行物1には,行選択パターンを分散して行電極に印加するという技術
的思想が,全く現れていないのである。刊行物1の発明者は,単純マトリックス型
液晶表示装置の駆動法において行選択パターンを「分散」させることを,発明とし
て把握しておらず,発明としての構成・効果は,全く示されていない。刊行物1に
図1,図2として具体的に示された駆動方法は,各サブグループに行選択パターン
を連続的に,かつ集中して印加する方式のものである。したがって,本願発明にお
ける「分散」は刊行物1に記載された事項の表現を変えたものにすぎない,という
被告の主張は明らかに誤っている。
(エ) 上記(ア)~(ウ)のとおり,審決が,刊行物1に「jとして0を採用した
場合に,………全てのサブグループの選択時に選択パターンを一つずつ印加するこ
ととなり,行選択パターンの印加が分散して行われることとなる」(審決3頁下か
ら8行~4行)ことが記載されていると認定したことは誤りであるから,本願発明
と刊行物1に記載された発明(引用発明)との一致点の認定に,「全てのサブグル
ープの選択時に選択パターンを一つずつ印加することにより,選択パルスを1フレ
ーム内で分散」(審決4頁9行~10行)する点を含めたことも,誤りである。
イ 取消事由2(相違点1に係る判断の誤り(1):周知技術の認定の誤り)
 審決は,特開平3-96182号公報(以下「刊行物2」という。)の記載を
引用して,応答時間が150msec以下の液晶は周知であったと認定したが,以下のと
おり誤りである。
(ア)本願発明においては,「ダイナミック駆動時の平均応答時間が150m
sec」と限定している。この技術内容を特定する記載として,本件明細書の段
落【0006】に,平均応答時間τを,
τ=((t4-t3)+(t2-t1))/2
の式で定義している。
 これに対して,刊行物2には,「応答時間」の定義について,「応答速度は,非
点灯から点灯に変わる信号が入力された場合透過率が10%から90%に変化する時間
を示し………」と記載されており,いわゆる「10%-90%」の短い区間における応
答時間(τ10-90)を用いたものである。この場合,液晶の応答特性として,緩やか
な変化を示す領域を全く含んでいないことになる。また,刊行物2では,立ち上が
り時の応答速度と,立ち下がり時の応答速度の両方を平均した数値を採用していな
い。
 したがって,刊行物2に開示された液晶の応答速度は,本願発明で特定する応答
速度の計測手法に則ったものではなく,完全に等価な数値として直接対比すること
に,そもそも間違いがある。本件出願当時において,応答速度の速い液晶材料が存
在していたのは事実であるが,刊行物2の液晶は,本願発明で定義された方式で評
価すれば,134msec,120msecよりも,相当大きい数値(少なくとも200msec以
上)を示すと考えられる。
(イ)本件出願後の刊行物である1995年〔平成7年〕6月号「電子技術」11
頁(甲8,以下「甲8文献」という。)に「従来レベル(180~200ms)に比べる
と改善されてきているが」と説明されているように,本件出願後においても,行電
極と列電極をマトリックス配置したパッシブ駆動型の液晶表示装置で高速の表示を
良好に表現することは,依然としてできていなかったのである。同様のこと
が,1993年〔平成5年〕3月1日初版発行の「液晶ディスプレイのすべて」(佐々
木昭夫ら編著)234頁(甲10,以下「甲10文献」という。)にも触れられている。
ウ 取消事由3(相違点1に係る判断の誤り(2):容易想到性の判断の誤り)
(ア)ダイナミック駆動時の応答時間が150msec以下の液晶が,本件出願当
時,液晶材料メーカによって既に開発されていたとしても,STN液晶を用いた液晶表
示装置において良好な高速表示が実現していたわけではない。単に高速液晶を用い
れば良好な高速表示ができるというわけではなく,本件出願当時,液晶表示装置の
様々な表示特性のうち1ないし複数のパラメータを無視すれば,確かに,高速液晶
を液晶表示装置に用いる試みが行われていたことは認めるが,高速液晶を刊行物1
に記載された発明(引用発明)に対して適用するか否かは,引用発明の目的効果を
参酌して,判断すべきである。
 本願発明は,ダイナミック駆動時の応答時間が150msec以下の液晶を用いた場合
のコントラスト比の低下防止を目的としている。そして,複数ライン同時選択法を
用い,選択パルスを分散させることによって,所望の効果を得ている。
 一方,刊行物1は,選択パルスを分散させることを教示していないので,ダイナ
ミック駆動時の応答時間が150msec以下の液晶を用いた場合にコントラスト比の低
下防止が実現できるか否かは,不明である。それどころか,刊行物1の図1及び図
2の典型例では,選択パルスが集中的に印加されているので,サブグループ単位で
順次選択されることになり,ダイナミック駆動時の場合と同様に,コントラスト比
が低下するおそれがある。つまり,刊行物1に記載された発明に,ダイナミック駆
動時の応答時間が150msec以下の液晶を適用しても,本願発明のような効果が得ら
れない。
 よって,刊行物1における引用発明の開示の程度,その目的・効果を考慮した場
合には,引用発明(刊行物1記載の駆動方法)と周知技術(刊行物2等に開示され
た高速液晶)とを組み合わせることは,当業者にとって困難であった。審決が,応
答時間が150msec以下の液晶は周知であったと認定した上,このような周知の液晶
を刊行物1に記載された駆動方法(引用発明)に適用して本願発明の相違点1に係
る構成とすることを,当業者が適宜に行い得ると判断したことは,誤りである。
(イ)本件出願前に,応答速度が150msec以下の液晶材料自体が存在してい
たとしても,単なる液晶材料の存在だけで良好な液晶表示をすることができるわけ
ではなく,所定の物性を持つ液晶材料とうまく結合させることができる駆動法の創
作が必要である。本件出願当時,高速応答性の液晶材料の開発が先行して行われて
いたものの,その液晶材料に対応し,所望の表示特性を同時に達成することができ
る有効な駆動法は見出されていなかったのである。応答速度が150msec以下の液晶
材料を,刊行物1に記載されている液晶表示装置に適用しても,直ちに所望の効果
が得られるわけではなく,当業者が,刊行物1に記載された液晶表示装置に,その
ような液晶材料を適用することには,困難性がある。
 刊行物1は,数学的な表現により,パッシブ型の液晶表示装置における駆動法の
一般解を示しているのであって,様々な場合を含んでいる。具体例は,IHAT法であ
り,それ以外に,高速液晶との組み合わせが良好な駆動法を,明確に把握すること
には至っていない。パッシブ型液晶表示装置における高速表示に適合する駆動法の
示唆,あるいは具体例の記載は一切ないのである。刊行物1は,液晶が実効値動作
できるように,従前の「1本線順次駆動法」(APT)と同等の応答性を前提としてお
り,つまり,その基本構成は,応答速度の遅い液晶材料を必須とするものである。
(ウ)被告は,STN型カラー液晶の開発の当初から,応答性が重要な課題であ
ると認識されていたという点に基づいて,高速の液晶を引用発明と組み合わせるこ
とは容易であったと主張している。しかし,応答性が重要な課題であると認識され
ていたからといって,高速液晶を用いれば直ちに応答性に関する課題が解決される
わけではないから,刊行物1に記載された液晶表示装置に高速液晶を用いることが
容易であったとはいえない。
 そもそも刊行物1は,実効値動作することを大前提としている。一方,高速液晶
を用いると,光学応答波形が実効値応答から外れて,コントラスト比が低下すると
いう問題が生じることは,本件出願時に知られていた。また,高速応答を実現しつ
つ高いコントラスト比を得ようとすると,均一表示(クロストークのない表示)が
できなくなってしまうことも,本件出願当時の技術常識となっていた。
 したがって,実効値応答を前提とする引用発明の液晶表示装置に,わざわざコン
トラスト比の低下という弊害を招く高速液晶を用いることは,不自然である。なぜ
なら,当業者は,課題を解決しようとする際に,結果が相反すると予想される技術
条件を採用し,組み合わせることをしないからである。
 また,刊行物1に記載された液晶表示装置に,高速液晶を用いた場合にも,コン
トラスト比低下のおそれがあることは,上記(ア)で述べたとおりである。
 この点からしても,刊行物1に記載された液晶表示装置に対して,高速液晶を適
用することは,当業者が容易に想到できたことではない。
エ 取消事由4(相違点2に係る判断の誤り)
 審決は,引用発明において非選択期間を短くし,本願発明の相違点2に
かかる構成とすることは当業者が適宜に行い得ることであると判断したが,以下の
とおり誤りである。
(ア) 審決は,「刊行物1に記載された発明では,次のサブグループを選
択する前に選択する行選択パターンの数を1とし,各サブグループを順次選択する
と,ある行電極についての一つの選択パルスから次の選択パルスが印加されるまで
の非選択期間((N/(編注;「リットル」を表す記号あり)-1)T)は,行電極
を1本ずつ順次選択する電圧平均化法の場合(Tを1行の選択期間とすると,(N-
1)T)よりも短くなる。」(4頁下から第3段落)と説示している。
 しかし,上記アで述べたとおり,「次のサブグループを選択する前に選択する行
選択パターンの数を1と(する)」ことは刊行物1に記載されているが,「各サブグ
ループを順次選択する」ことは,刊行物1の記載から把握できる事項ではない。し
たがって,審決の上記説示は,刊行物1に記載された事項についての誤った認定を
前提にするものであって,誤りである。
(イ) また,審決は,「非選択期間を短くすることは,例えば刊行物2に
1フィールド時間を短くすることが記載されているように,周知であり」と認定し
ている。しかし,刊行物2に記載されている駆動法は,「時分割駆動」(「ダイナ
ミック駆動」と同義)である。そして,時分割駆動を用いた場合,刊行物2に記載
されているように,1フィールド時間を1/2にするには,そうでないときに比べて,
駆動周波数を2倍にする必要がある。ところが,刊行物1に記載された発明では,
駆動周波数を上げることなど想定されていない。
 相違点2に係る本願発明の構成(「ある行電極について,一つの選択パルスから
次の選択パルスが印加されるまでの非選択期間が,行電極を1本ずつ順次選択する
電圧平均化法の場合よりも短い」)において,非選択期間を短くするために本願発
明が採用した手法は選択パルスを分散させることであって,駆動周波数を上げるこ
ととは,異なっている。そうすると,審決が,刊行物2の記載を引用して,「刊行
物1に記載された発明において非選択期間を短くし,相違点2のようにすることは
当業者が適宜行ないうることである。」と判断したことは,誤りである。
 以上のとおり,当業者が,駆動周波数を上げて非選択期間を短くするという刊行
物2記載の技術を知ったとしても,刊行物1に記載された発明に対して,本願発明
のように選択パルスを分散させるようにすることによって非選択期間を短くするこ
とを,容易に想起できたとは到底考えられない。
オ 取消事由5(作用効果に関する判断の誤り)
(ア) 刊行物1には,その発明の効果として,輝度の均一性が記載されて
いる。そのことは,本願発明の効果である,高速液晶を用いた場合に,コントラス
ト比の低下を防止できるということとは異なる。
 また,審決において周知技術の一例として説明されている,刊行物2に記載され
た発明は,STN液晶を用いた液晶表示装置において,高速応答であって,かつ所
定のコントラスト比を得ることを目的とした発明である。しかし,その目的を達成
するために,駆動周波数を上げるというアプローチを採っているため,消費電力が
増大する。また,駆動周波数を上げるとクロストークが増加し,これを補償するに
は,液晶表示装置の透明電極のインピーダンスを下げることが必要となり,表示部
分における透過率が低下してしまうという問題が生じてくる。本願発明には,これ
らの問題は生じない。
 このように,本願発明は,刊行物1に記載されている発明及び周知の技術手段か
ら予測できない顕著な作用効果を有している。
(イ) 高速応答を実現しつつ高いコントラスト比を得ようとすると,均一
表示ができなくなってしまうことは,本件出願当時の技術的常識となっていた。本
願発明は,高速応答,高いコントラスト比,及び,均一表示をすべて実現するもの
であり,出願当時の技術常識を覆す,顕著な効果を有している。
 このように,本願発明は,パッシブ型液晶表示装置において「フレーム応答」を
克服し所望のコントラスト比の表示を達成することができた画期的な技術として,
広く一般に評価されて液晶業界において認知されており,市場で販売される携帯電
話等の商品に搭載され,市場で実際に利用されるようになっている。
 この点からしても,審決が「本願発明の作用効果についても,刊行物1に記載さ
れた発明及び周知の技術手段から予測しうるものであり,格別のものではない。」
(4頁下から第2段落)と判断したことは,誤りである。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)~(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
 刊行物1には,「サブグループは,次のサブグループを選択する前に,連
続的に2

の行選択パターンとともに選択されうる。」,「ここで,jの値は0から
(編注;「リットル」を表す記号あり)の間である。」との記載があり,jとして
0を含む(編注;「リットル」を表す記号あり)未満の値をも,採用し得ることが
示されている。そして,jとして(編注;「リットル」を表す記号あり)未満の値
(0を含む)を採用した場合には,任意のサブグループに対して,2(編注;「リ
ットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いている)種類の全ての行
選択パターンの一部の2

種類(j=0の場合は1種類)の行選択パターンを印加し
た後,他のサブグループに対する行選択パターンの印加を行い,更にその後に前記
任意のサブグループAに対して,最初に印加したのとは別の2

種類の行選択パター
ンを印加するというように,行選択パターンの印加が行われるのであるから,任意
のサブグループに対して,行選択パターンの印加が分散して行われることになる。
そうすると,本願発明における「分散」は,刊行物1に記載された事項の表現を変
えたものにすぎない。
 したがって,審決が「全てのサブグループの選択時に行選択パターンを一つずつ
印加することにより,選択パルスを1フレーム内で分散」することを含めて一致点
を認定したことに,原告らが主張する誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
 審決は,刊行物2に記載された応答時間(応答速度)が,本願発明と同様
の計測手法に則ったものとしているのではなく,刊行物2の計測手法で応答時間が
150msec以下の液晶は周知であるとしているのである。また,「ダイナミック駆動時
の応答時間が150msec以下の液晶」が,本件出願当時液晶材料メーカーによって既に
開発されていたことは,原告らも認めているところである。
(3) 取消事由3に対し
 本件出願当時,高速液晶を液晶表示装置に用いる試みが行われていたこと
は,原告らも認めているところである。また,平成7年の刊行物である甲8文献に
も,STN型カラー液晶の開発の当初から,応答性が重要な課題であると認識されてい
たことが示されている。そうすると,刊行物1に記載されたSTN型液晶として高速液
晶を用いることが困難なものということはできず,原告らの主張は,根拠がない。
(4) 取消事由4に対し
 審決が,「各サブグループを順次選択する」としたのは,単に,jが0の
場合の分かりやすい例を示したものにすぎない。刊行物1の図1の場合(j=(編
注;「リットル」を表す記号あり)=2)や図2(j=(編注;「リットル」を表
す記号あり)=3)の場合でも,非選択期間は,行電極を1本ずつ順次選択する場
合よりも短くなる。jが(編注;「リットル」を表す記号あり)より小さい場合
(0である場合も含む)も同様に考えられる。
 また,審決が刊行物2を引用したのは,非選択期間を短くすることが周知である
ことを例示するためである。刊行物2には,非選択時に透過率が低下すること,書
き込む回数を増やして1フィールド時間を短くすることが記載されており,非選択
期間を短くすること自体は周知であるいうことができる。
(5) 取消事由5に対し
 刊行物1に記載された発明は,行選択パターンの印加が分散して行なわれ
るものであるから,同様にコントラスト比の低下を防止できるものであり,高速液
晶を用いることによる作用効果も,周知のものにすぎない。また,本願発明の技術
が広く市場で用いられている事実があるとしても,実際に受け入れられている技術
は本願発明を更に具体化した技術であり,本願発明自体と直接関係するものではな
いから,このような事実によって,本願発明の作用効果が格別のものであることが
根拠付けられるということはできない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
 そこで,以下においては,原告ら主張の取消事由ごとに審決の適否について判断
する。
2 取消事由1について
(1) 原告らは,刊行物1(甲1)には,「(編注;「リットル」を表す記号あ
り)=2及び3の時のIHATのアドレシング波形は,代表的な例として,図1及び図
2にそれぞれ描かれている」(訳文3頁9~10行)と記載され,当該図1及び図2
では,選択された各サブグループに対して2(編注;「リットル」を表す記号が
「2」の上に小さいフォントで付いている)通りの行選択パターンが集中的(連続
的)に印加されているのに対し,これら図1及び図2のほかには「サブグループ
は,次のサブグループを選択する前に,連続的に2

の行選択パターンとともに選択
されること」(訳文3頁1~2行)に関連する具体的な記載は見いだせないから,
刊行物1には行選択パターンの印加を分散することは開示されていない,と主張す
る。しかし,以下のとおり,原告らの主張は採用できない。
ア 原告らは,刊行物1に,サブグループの選択及び行選択パターンの印加
の方法が図1及び図2以外には開示されていないことを,上記主張の根拠としてい
る(取消事由1〔上記第3の1(4)ア〕の(ア))。
 そこで,刊行物1(甲1)の記載を検討すると,刊行物1には下記の記載がある
(訳文2頁6行~27行)。

 この技術に含まれるさまざまなステップは以下の通りである:
(ⅰ)アドレシングする時に,一つのサブグループが選択される。
(ⅱ)行選択パターンとして(編注;「リットル」を表す記号あり)-ビ
ット ワードが選択される
  ………
(ⅷ)行電圧と列電圧は,同時にT時間の間マトリクスディスプレイに印
加される
(ⅸ)新しい行選択パターンが選ばれ,ステップ(iv)~(vi)によって列電
圧が決められる。新しい行電圧と列電圧は,T時間が終了したら,同じ時間だけデ
ィスプレイに印加される
(ⅹ)サイクルは,全てのサブグループ(=N/(編注;「リットル」を表
す記号あり))が全ての行選択パターン2(編注;「リットル」を表す記号が
「2」の上に小さいフォントで付いている)とともに一度選ばれた時点で完了する
(xi)このサイクルを繰り返すことで,表示は更新される
 この記載によれば,刊行物1には,確かに,ステップ(i)で一つのサブグ
ループを選択し,同(ⅱ)~(ⅷ)で決定される一つの行選択パターンを印加した後,
別のサブグループに移ることなく,ステップ(ⅸ)において別の新しい行選択パター
ンを印加することが開示されている。しかしながら,当該一つのサブグループにつ
いて2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いてい
る)個のすべての行選択パターンを印字し終わってから別のサブグループに移る,
と記載されているわけではない。そして,次のステップ(ⅹ)の記載によれば,「サ
イクルは,全てのサブグループ(=N/(編注;「リットル」を表す記号あり))が
全ての行選択パターン2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフ
ォントで付いている)とともに一度選ばれた時点で完了する」とされており,1サ
イクルは,すべてのサブグループがすべての行選択パターンとともに一度選ばれた
時点を意味するのであって,この1サイクルの間に,サブグループと行選択パター
ンが,どのような組合せの順番で選ばれるのかまでは特定していない。そうする
と,刊行物1に記載された発明は,原告らが主張する「各サブグループに対して,
すべての行選択パターンが集中的に引加され」るという態様に限定されるものでは
ない。
 また,原告らがその主張の根拠とする刊行物1(甲1)の図1及び図2は,
「(編注;「リットル」を表す記号あり)=2及び3の時のIHATのアドレシング波
形は,代表的な例として,図1及び図2にそれぞれ描かれている」(訳文3頁9行
~10行)との記載からも明らかなとおり,(編注;「リットル」を表す記号あり)
=2及び3のそれぞれの場合におけるサブグループの選択及び行選択パターンの印
加の方法のうち「代表的な例」を挙げているにすぎないのである。そうすると,刊
行物1に接する当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者)は,サブグループの選択及び行選択パターンの印加の方法について,図1及び
図2のアドレシング波形を示すような方法以外にも多様な場合を想定するものと認
められ,そのような多様な場合の一つとして,下記イに述べるとおり,jの値とし
て0を採用し,2

=1通りのみの行選択パターンを各サブグループの選択時に印加
するという方法が考えられるのである。
イ 刊行物1(甲1)には「サブグループは,次のサブグループを選択する
前に,連続的に2

の行選択パターンとともに選択されうる。ここで,jの値は0か
ら(編注;「リットル」を表す記号あり)までの間である」(訳文3頁1行~2
行)と明記され,jの値として0を採用した場合には,2

=1となるのであるか
ら,選択された特定のサブグループについて行選択パターンを1通りのみ印加した
後,別のサブグループを選択して行選択パターンを1通り印加する,というアドレ
シングの方法も,刊行物1が開示する技術の範囲に入ることは明らかである。
 この点につき,原告らは,jの値として0を選択した場合に理屈の上ではそのよ
うなアドレシングの方法になることを認めつつ,刊行物1の記載全体を参酌する
と,そのようなアドレシング方法によって行選択パターンの印加が分散して行われ
ることは,当業者にとって容易に想起できないと主張する(取消事由1〔上記第3
の1(4)ア〕の(イ))。
 しかしながら,刊行物1には,「サブグループは,次のサブグループを選択する
前に,連続的に2

の行選択パターンとともに選択されうる。ここで,jの値は0か
ら(編注;「リットル」を表す記号あり)までの間である」(訳文3頁1行~2
行)との記載に先立って,「IHATは,行選択のシーケンスとサブグループの選
択においては以下のような自由度を有する。」(2頁下から4行~3行)との記載
がある。この記載によれば,刊行物1には,行選択パターンとサブグループの選択
の仕方には「自由度」があり,「サブグループは,次のサブグループを選択する前
に,連続的に2

の行選択パターンとともに選択されうる。ここで,jの値は0から
(編注;「リットル」を表す記号あり)までの間である」ことは,与えられた「自
由度」の中の態様として開示されているのであるから,jの値として0とを選択し
た場合のアドレシング波形について図1及び図2のような具体的な形での説明はな
されていないものの,j=0(すなわち2

=1)とすること自体は刊行物1に開示
されているものと認められる。そして,jの値として0を採用することによって,
サブグループと行選択パターンの選択の態様として,各サブグループに対して行選
択パターンを一つずつ印加することとし,結果として,行選択パターンの印加を
「集中的」にではなく「分散」して行うことが開示されていることになる。したが
って,刊行物1に記載された発明では,「全てのサブグループの選択時に行選択パ
ターンを一つずつ印加することとなり,行選択パターンの印加が分散して行なわれ
る」とした審決の認定に誤りはない。
ウ 上記ア及びイのとおり,刊行物1(甲1)にはサブグループの選択と行
選択パターンの印加についての具体的方法の開示が図1及び図2以外にはないこと
や,刊行物1全体の記載を参酌すれば選択されたサブグループに対する行選択パタ
ーンの印加は集中的(連続的に)行われると解されること等を理由に,刊行物1に
行選択パターンの分散が開示されていない,という原告らの主張は,理由がない。
(2) 原告らは,刊行物1(甲1)の技術においては,jの値として0を採用す
ることにより一つのサブグループの選択ごとに1通りの行選択パターンのみを印加
することは刊行物1に開示されているとしても,残った(2(編注;「リットル」
を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いている)-1)通りの行選択パタ
ーンをどのようなタイミングで当該サブグループに印加するかについて開示がな
く,さらに,サブグループの選択の順序についても開示がないと主張する(取消事
由1〔上記第3の1(4)ア〕の(ウ)a)。そして,このことを前提に,jの値として
0を採用した場合に,サブグループの選択の順序や,選択されたサブグループに対
する行選択パターンの印加のタイミングについて,駆動例1や駆動例2(取消事由
1〔上記第3の1(4)ア〕の(ウ)bで示したもの)のような例が成立し得るのであ
り,これらの駆動例では特定のサブグループに着目した場合,一つの行選択パター
ンの印加から次の行選択パターンの印加までの時間が短い場合と長い場合が混在
し,行選択パターンの印加が「分散」されているとはいえない,と主張する。
 しかし,原告らの上記主張も,採用することはできない。その理由は以下のとお
りである。
ア 刊行物1(甲1)には,「IHATは,行選択のシーケンスとサブグル
ープの選択においては以下のような自由度を有する。」(2頁下から4行~3行)
との記載の後に,次の記載がある。
「- 2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォン
トで付いている)の行選択パターンがサブグループに適用される順序は関係なく,
すなわち,二進法やグレイコードやランダムでもよい。」(訳文2頁下から2行~
1行)
「- サブグループが選択される順序は,全てのサブグループが,全て
の2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォントで付いてい
る)の行選択パターンとともに選択される限り,同様に変更可能である。」(訳文
3頁3行~4行)
 これらの記載によれば,刊行物1には,サブグループの選択の順序及び
選択されたサブグループに対する行選択パターンの印加の順序について,いかなる
順序でもよいとしつつ,具体的に,二進法,グレイコード及びランダムの3種類を
例示していると認められる。
 そして,jの値として0を採用し,サブグループの選択の順序と,選択されたサ
ブグループに対する行選択パターンの印加の順序とを,いずれも二進法又はグレイ
コードにした場合には,任意のサブグループに対して1個の行選択パターンを印加
し,その後に,二進法やグレイコードに基づいて選択された次のサブグループに対
して同じ1個の行選択パターンを印加し,更にその後,他のすべてのサブグループ
に対して同じ1個の行選択パターンが印加された後に,前記任意のサブグループに
対して,残りの2(編注;「リットル」を表す記号が「2」の上に小さいフォント
で付いている)個の内の1個の行選択パターンを印加する,ということになる。
イ このことを,具体的な例で示すと以下のとおりである。
 原告ら主張の駆動例1,2と同様にN=12,(編注;「リットル」を表
す記号あり)=2,j=0の場合を考える。そして,サブグループの選択の順序
と,選択されたサブグループに対する行選択パターンの印加の順序とを,いずれ
も,二進法によることにする。
 この場合,サブグループの選択及び選択されたサブグループに対する行選択パタ
ーンの印加の順序は,下記のとおりとなる(以下「駆動例A」という。)。

[1] 第1サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印加する。
[2] 第2サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印加する。
[3] 第3サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印加する。
[4] 第4サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印加する。
[5] 第5サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印加する。
[6] 第6サブグループを選択し,第1の行選択パターンを印加する。
[7] 第1サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印加する。
[8] 第2サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印加する。
[9] 第3サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印加する。
[10] 第4サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印加する。
[11] 第5サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印加する。
[12] 第6サブグループを選択し,第2の行選択パターンを印加する。
[13] 第1サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印加する。
[14] 第2サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印加する。
[15] 第3サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印加する。
[16] 第4サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印加する。
[17] 第5サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印加する。
[18] 第6サブグループを選択し,第3の行選択パターンを印加する。
[19] 第1サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印加する。
[20] 第2サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印加する。
[21] 第3サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印加する。
[22] 第4サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印加する。
[23] 第5サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印加する。
[24] 第6サブグループを選択し,第4の行選択パターンを印加する。
    (編注;赤字部分は判決文中では黒のドットで塗りつぶしが施されてい
る) 
ウ 上記の駆動例Aでは,例えば第1サブグループに着目した場
合,[1],[7],[13],[19]で第1サブグループが選択されて行選択パターンが印加
されている。そうすると,駆動例Aでは,本願発明と同様に,「1フレームのなか
で,一つのサブグループの選択後,前記サブグループに対する非選択期間の後に,
前記サブグループを選択し,前記非選択期間のなかで他のサブグループを選択し,
全てのサブグループの選択時に選択パターンを一つずつ印加することにより,選択
パルスを1フレーム内で分散」したものであるといえる。そして,二進法は,刊行
物1に上記アのとおり明示された二進法,グレイコード及びランダムの3種類のう
ちで最初に記載されたものなのであるから,駆動例Aは,刊行物1の記載から自然
に導き出せる駆動例であるといえる。
 したがって,審決が,刊行物1には選択パルスを1フレーム内で分散させる発明
が開示されていると認定し,この点を一致点の認定に含めたことは,正当なものと
して是認することができる。
 確かに,原告らが例示する駆動例1,2も,刊行物1の記載から導き出せる駆動
例であることは認められる(例えば,駆動例2は,サブグループの選択及び行選択
パターンの印加の順序を,いずれもランダムにしたものである)。しかし,駆動例
1,2において選択パルスの「分散」が生じないことは,刊行物1から導き出せる
他の駆動例である駆動例A等に基づいて,刊行物1には選択パルスを分散させる発
明が記載されていると認定することを,何ら妨げるものではない。
(3) 以上のとおり,原告らの取消事由1に係る主張は,いずれも採用すること
ができない。
3 取消事由2(相違点1についての判断の誤り(1):周知技術の認定の誤り)に
ついて
(1) 原告らは,刊行物2に液晶の応答速度として記載された134msec,120m
secという数値は,本願発明と同一の手法に則って計測されたものではなく,本願発
明と同一の手法で計測すれば刊行物2記載の液晶の応答速度は200msec以上を示す
と考えられるから,審決が刊行物2の記載を引用して,応答時間が150msec以下の
液晶は周知であると認定したことは誤りである,と主張する。
 確かに,刊行物2に記載された液晶の応答速度と,本件明細書の段落【0006】で
定義された「平均応答速度」との間で,測定手法は異なっているものと認められ
る。したがって,刊行物2の記載のみから,本願発明にいう「ダイナミック駆動時
の平均応答時間が150msec以下の液晶」が周知であったと認定することはできな
い。
 しかしながら,本件明細書の段落【0005】には,下記の記載がある。

 このような問題(判決注:段落【0004】で指摘されるコントラスト低下
等の問題)は,数百以上の高デューティ比のダイナミック駆動を行なう際にはいわ
ゆる液晶表示素子の平均応答速度が150msec以下になると発生してくるが,特にダ
イナミック駆動における平均応答速度100msec以下の液晶表示素子において顕著で
ある。
 上記記載によれば,ダイナミック駆動時の応答時間が150msec以下の液晶
はもちろんのこと,100msec以下のものも本件出願当時に既に知られていたこと
は,本件明細書の記載自体から明らかであるということができる。したがって,審
決が,応答時間が150msec以下の液晶は周知であったと認定したことに,誤りは認
められない。
(2) また,原告らは,甲8文献,甲10文献の記載からすれば,パッシブ駆動型
の液晶表示装置で高速の表示を良好に表現することは本件出願後においても実現さ
れていなかったことを指摘し,本願発明と同一の手法によって計測した応答速度が
150msec以下となる液晶は,実際に良好な高速表示をすることができる液晶表示装
置に用いられているという意味で周知であったとはいえない,とも主張する。
 しかし,審決は,単に「応答時間が150msec以下の液晶は周知であるとい
うことができ,」と述べているだけであって,応答速度が150msec以下である液晶
材料の存在自体が当業者に知られていたという意味で,そのような液晶が「周知」
であると認定しているのである。したがって,原告らの主張は,審決を正しく理解
しないものであって,採用することができない。原告らの主張する事情(高速の液
晶を用いて実際に良好な高速表示をすることができる液晶表示装置が実現されてい
なかったこと)は,本願発明の課題(上記(1)に引用した本件明細書の段落【0005】
に記載されたとおりのもの。)が当時存在していたことを意味するにすぎないので
ある。
4 取消事由3(相違点1に係る判断の誤り(2):容易想到性の判断誤り)につい

 原告らは,刊行物1記載の技術(引用発明)は応答速度の遅い液晶材料を前提と
するものであり,これに,審決が周知技術であるとする高速液晶(応答速度が150m
sec以下であるもの)を組み合わせることは当業者にとって困難であった,と主張す
るが,以下のとおり採用できない。
(1) 本件明細書には,本願発明が解決しようとする課題について,下記の記載
がある。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】この電圧平均化法においては,液晶がい
わゆる実効値応答としての挙動を示すことが前提となっており,これにより所定の
コントラスト比を得ることができる。図5(b)のCに実効値応答の様子を示す。横
軸は時間,縦軸は液晶層の両側に偏光板を配置した際の透過光強度である。
【0004】ところが,端末におけるマウス表示や,ビデオ表示に対応できる
ような高速応答性を有する液晶素子を駆動する場合,上述の駆動法を用いると液晶
分子の分子軸方向の変化が,電圧に対して追随しやすいため,図5(b)のBのよう
に,光学応答波形がいわゆるピーク値応答的な挙動を示すようになり,実効値応答
のCからはずれるようになる。即ち,選択期間に立ち上がった光学応答波形が,非
選択期間では保持できず,減衰の割合が大きくなるので,透過率平均レベルが下が
り,コントラスト比が低下するという問題点が生じる。
【0005】このような問題は,数百以上の高デューティ比のダイナミック駆
動を行なう際にはいわゆる液晶表示素子の平均応答速度が150msec以下になると発
生してくるが,特にダイナミック駆動における平均応答速度100msec以下の液晶表
示素子において顕著である。
 上記記載によれば,本願発明は,電圧平均化法を高速液晶に適用した場合
にコントラスト比が低下するという事実を,解決すべき課題とするものである。そ
して,本件明細書の上記記載が,このような課題を見いだしたこと自体を新規な発
見であるとする趣旨をうかがわせるものではないことや,上記記載と同様の事項
が,本件出願のわずか約半年後に発行された成書(甲10:1993年〔平成5年〕3月
1日株式会社工業調査会発行「液晶ディスプレイのすべて」234~235頁)に下記の
とおり記載されていることからすれば,かかる課題は,本件出願時において既に当
業者に広く認識されていたものであると認めるのが相当である。

「(3)高速応答化
 ………
 さらに,動画表示に必要な50ms以下も可能であるが,ここまで高速化すると従来
の駆動法に起因する問題が生じ,高速応答と高コントラストが両立しない。図
11.5はその現象を模式的に示したもので,印加波形の高電圧パルスごとに応答
し,ON・OFFの光学変化(コントラスト)が生じなくなる。………。
 今後,単純マトリクス型液晶ディスプレイの高速応答化を目指す際に避けられな
い課題であり,駆動方法の改良が続けられている。」(234頁最終行~235頁6行
目)
(2) 上記課題を解決して本願発明の効果(コントラストの低下を回避しつつ高
速表示を実現すること)を得るために,本願発明は,「電圧平均化法」に代えて,
請求項1の記載のとおり「N本の行電極をM本(2≦M<N)の行電極からなる複
数のサブグループに分割し,サブグループ内の行電極に選択パターンを印加するこ
とによってM本の行電極の選択を同時に行な(う)」という方法(以下「複数ライン
同時選択法」という。)を採用し,これによって選択パルスを「分散」させている
ものである。このことは,本件明細書の下記記載から明らかである。

【0043】
【作用】従来の電圧平均化法では,図5のように選択パルスがN本に1本
の割合で配列されている。
【0044】したがって,高速応答素子に適用した場合,非選択期間が,液晶
の応答時間(減衰時間)に比べ長いので,1本の選択パルスで励起された光学状態
が,非選択期間中に減衰し,高速性が増加すればするほど,減衰の程度も増大す
る。このため,ON時の輝度が低下し,コントラストも低下する。
【0045】これに対し,本発明においては,選択パルスがN/M本に1本の
割合で分散されているために,次の選択パルスが立つまでの非選択期間が,上記電
圧平均化法の場合に比べて短くなり,光学状態の変化の度合いが少なくなるので,
輝度およびコントラスト低下の防止に寄与すると考えられる。
 本願発明である【請求項1】の記載では,複数ライン同時選択法を用いた
上,「選択パルスを1フレーム内で分散し,ある行電極について,一つの選択パル
スから次の選択パルスが印加されるまでの非選択期間が,行電極を1本ずつ順次選
択する電圧平均化法の場合よりも短い」ものとする構成しか特定されておらず,ま
た,本件明細書の発明の詳細な説明中にも,これ以上に具体的な記載は存在しな
い。一方,上記2のとおり,刊行物1(甲1)には,選択パルスを1フレーム内で
分散させるという点で,本願発明と同様な構成を有する技術(引用発明)も開示さ
れており(上記2(2)イで示した駆動例Aはその例である。),そのような構成を採
用した場合には,後記5のとおり,本願発明と同じく,「ある行電極について,一
つの選択パルスから次の選択パルスが印加されるまでの非選択期間が,行電極を1
本ずつ順次選択する電圧平均化法の場合よりも短」くなるという作用が生じるので
あるから,本願発明が解決しようとした課題を解決し,本願発明と同じ効果をもた
らすことができる。
 このように,本願発明の効果は,刊行物1の記載事項に基づいて引用発明を抽出
し,引用発明を高速液晶に適用することによって当然に生じるものにすぎない。そ
して,本件出願前に,高速液晶の存在が周知となっていたことは上記3のとおりで
あるし,高速液晶を液晶表示装置に用いる試みが既に行われており,その場合に,
電圧平均化法による駆動ではコントラスト比の低下が生じるという問題が課題とし
て当業者に認識されていたことも上記(1)のとおりであるから,当業者にとって,引
用発明を高速液晶に適用してみることに,格別の困難性があるとはいえない。
 したがって,「このような周知の液晶を刊行物1に記載されたものに用い,相違
点1のようにすることは当業者が適宜行いうることである。」とした審決の判断
に,誤りはないというべきである。
(3) 原告らは,刊行物1が,応答速度の遅い液晶を前提としたものであって高
速液晶への適用を念頭に置いたものでないことを,刊行物1記載の技術に対して高
速液晶を適用することは想到困難である,との主張の理由として挙げている。
 しかし,刊行物1には,液晶の応答速度について特段の限定をする記載は見いだ
せない。そうすると,高速液晶の存在が周知であり,しかも高速液晶に電圧平均化
法を適用したときのコントラスト低下という技術課題も知られていた本件出願時に
おいては,刊行物1に接した当業者が,刊行物1から抽出できる引用発明を高速液
晶に適用して上記技術課題の解決を図ることに,特段の困難があるとはいえない。
5 取消事由4(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 原告らは,審決の判断は,当業者が,刊行物1(甲1)の記載から「各サ
ブグループを順次選択する」ことができるという,誤った判断を根拠にしている」
ことを前提として,審決の判断が,刊行物1の記載に基づくものではないと主張す
る。
 しかしながら,上記2(2)のとおり,刊行物1には,サブグループが選択される順
序を二進法やグレイコードとできることが記載されており,この記載からすれば,
「各サブグループを順次選択する」こと,すなわち,本願発明と同様に特定のサブ
グループに対する選択パルスを「分散」させる技術が開示されているといえる。し
たがって,原告らの上記主張は,その前提において誤っているといわざるを得な
い。
(2) 原告らは,刊行物1(甲1)の記載からは,「ある行電極についての一つ
の選択パルスから次の選択パルスが印加されるまでの非選択期間が,電圧平均化法
の場合よりも短い」ものとなるという事項は導き出せない,と主張する。
 しかしながら,刊行物1の記載によれば,サブグループの選択の順序及び行選択
パターンの印加の順序については自由度があるところ,上記2(2)イで例示した駆動
例Aのように,本願発明と同様に選択パルスの分散を行う構成が刊行物1の開示す
る技術事項の範囲中に含まれている。そして,このような構成を採用した場合には
当然に,「ある行電極について,一つの選択パルスから次の選択パルスが印加され
るまでの非選択期間が,行電極を1本ずつ順次選択する電圧平均化法の場合よりも
短い」との構成が得られることは,明らかである。
(3) 原告らは,刊行物2は駆動周波数を上げることによってコントラスト低下
等の問題に対処しようとしたものであるのに対し,刊行物1に記載された引用発明
では,駆動周波数を上げることなど想定されていないことから,刊行物2の記載を
引用する審決の判断は,誤っていると主張する。
 しかしながら,審決は,「非選択期間を短くすることは,例えば刊行物2に1フ
ィールド時間を短くすることが記載されているように,周知であり,刊行物1に記
載された発明において非選択期間を短くし,相違点2のようにすることは当業者が
適宜に行ないうることである」(4頁下から第3段落)と説示しているのである。
すなわち,審決の論理において,刊行物2は,非選択期間を短くすること(刊行物
2の記載によれば「1フィールド時間を短くすること」)が周知であることを示す
ために引用されているのであり,そのための具体的方法として駆動周波数を上げる
方法を刊行物2が採用していることは,周知事項の認定に含まれていない。そし
て,刊行物2の「1フィールド書き込む間の読みだしの回数を本実施例より増やし
てもよく,これにより1フィールド時間をさらに短くすることが可能で,このこと
により応答速度とコントラスト比はさらに向上する。」(2頁右下欄下から14行~
10行)との記載からすれば,非選択期間を短くすること(1フィールド時間を短く
すること)によって本願発明と同様にコントラスト比が向上するという事項は,周
知のものとして刊行物2にも開示されているということができる。
 したがって,「刊行物1に記載された発明において非選択期間を短くし,
相違点2のようにすることは当業者が適宜行ないうることである。」とした審決の
判断に誤りはない。
6 取消理由5(本願発明の顕著な作用効果の看過)について
(1) 原告らは,刊行物1には,その発明の効果として輝度の均一性が記載され
ているにすぎず,本願発明の効果(高速液晶を用いた場合にコントラスト比の低下
を防止できること)とは異なっていることや,本件出願当時,高速応答を実現しつ
つ高いコントラスト比を得ようとすると均一表示ができなくなってしまうことが技
術的常識となっていたことから,高速応答,高いコントラスト比及び輝度の均一性
をすべて実現した本願発明は,出願当時の技術常識を覆す顕著な効果を有してい
る,と主張する。
 しかしながら,本願発明の効果が,刊行物1に記載された技術事項の中から引用
発明を抽出して,これを高速の液晶に適用することにより,当然に生じると予測さ
れる程度のものにすぎず,格別顕著なものとはいえないことは,上記4,5のとお
りであるから,この原告らの主張も,採用することができない。
 本件明細書には,「ところで,T.N.Ruckmongathanは低電圧での駆動および表示
の均一性を実現するため,いわゆるIHAT法を提案している(1988International
DisplayResearchConference)」(段落【0007】),「IHAT法は,高速応答を示す液
晶素子に適用した場合,必ずしも利点を生ずるわけではなく,また,そのような概
念も示されていなく,液晶表示素子を高速に駆動する方法とは直接なんら関係のな
いものである。しかし,本発明者は,この方法に新規な改良を加えることにより,
液晶表示素子の高速駆動に極めて適した駆動方法が得られることを新規に見出し,
本発明に至ったものである」(段落【0016】)との記載があり,本願発明の出願人
である原告らは,刊行物1に「新規な改良」を加えたものが本願発明であるとの立
場に立っている。しかし,上記2~5に説示したとおり,本願発明は刊行物1に
「新規な改良」を加えたものということはできず,刊行物1に元来開示されていた
引用発明を,周知の高速液晶に適用したものにすぎない。本願発明の発明者らが,
外国における学会発表要旨である刊行物1を発見し,その中に従来技術(電圧平均
化法)の課題(高速液晶に適用したときのコントラスト低下)の解決につながる技
術を見いだしたことは一定の評価に値するが,外国における公知文献に接すること
自体の困難さは特許法29条2項の容易想到性の判断に影響しない。
(2) 原告らは,本願発明が,STN液晶を用いた液晶表示装置における新形式の
駆動技術として,液晶業界において広く認知・利用されていることや,「フレーム
応答」を克服した上で所望のコントラスト比の表示を達成することができた画期的
な技術として,広く一般に評価されていることを主張する。
 しかしながら,本願発明の技術を用いた商品に対する業界の認知及び一般の評価
が原告ら主張のとおりであるとしても,そのような認知・評価を受けていること
が,必ずしも本願発明の進歩性を裏付けることにはならない。上記(1)で説示したと
おり,刊行物1の記載から引用発明を抽出して高速液晶に適用すること自体は当業
者にとって容易である以上,本願発明は進歩性を欠くといわざるを得ないのであ
る。
 したがって,原告らが主張する点は,審決が,本願発明の効果について「刊行物
1に記載された発明及び周知の技術手段から予期しうるものであり,格別のもので
はない。」と判断したことを,誤りであるとする理由にはならない。
7 結語
 以上の次第で,原告らが取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
い。よって,原告らの本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主
文のとおり判決する。
  知的財産高等裁判所第2部
  裁判長裁判官   岡  本        岳
       裁判官  上  田     卓  哉
       裁判官     長  谷  川  浩  二

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