弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主    文
     控訴人A、同B、同Cの本件控訴を棄却する。
     原判決中控訴人Cに関する部分を左の如く変更する。
     控訴人Cは被控訴人に対し岐阜市a町b丁目c番宅地十六坪一合を其の
地上に存する木造トントン葺平家建住家一棟建坪九坪を収去して明渡せ、
     原判決中控訴人D(脱退)に関する部分を取消す。
     引受参加人株式会社日本勧業経済会に対する被控訴人の請求を棄却す
る。
     控訴費用中控訴人A、同B、同Cに関する部分は同控訴人等の負担とす
る。
     控訴人D(脱退)、引受参加人株式会社日本勧業経済会に関する訴訟費
用は其の第一審に関する部分は同参加人の負担とし当審に関する部分は被控訴人の
負担とする。
         事    実
 控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二
審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 被控訴代理人の陳述
 一、 被控訴代理人は株式会社日本勧業経済会をして控訴人D(脱退)に対する
本件訴訟を引受けしむべき旨の申立を為し、控訴人C、Dに対する請求の趣旨を左
の如く訂正する。即ち「控訴人Cは被控訴人に対し岐阜市a町b丁目c番宅地三十
二坪二合中原判決添付図面記載の(ロ)(ト)(へ)(ホ)(ロ)点を結ぶ範囲の
部分を其の地上に存する木造トントン葺平家建住家一棟建坪九坪を収去して明渡
せ」とあるのを「控訴人Cは被控訴人に対し岐阜市a町b丁目c番宅地十六坪一合
を其の地上に存する木造トントン葺平家建住家一棟建坪九坪を収去して明渡せ」と
訂正し、
 「控訴人Dは被控訴人に対し岐阜市a町b丁目c番宅地三十二坪二合中右図面記
載の(ト)(チ)(リ)(ヘ)(ト)点を結ぶ範囲の部分を其の地上に存する木造
瓦葺二階家一棟建坪十二坪二階十二坪を収去して明渡せ」とあるのを「控訴人Dの
引受参加人株式会社日本勧業経済会は被控訴人に対し岐阜市a町b丁目c番ノd宅
地十六坪九勺を其の地上に存する木造瓦葺二階建店舗建坪十二坪七合三勺二階坪十
二坪七合三勺を収去して明渡せ」と訂正する。
 二、 控訴人C、Dは岐阜市a町b丁目c番宅地三十二坪二合について共有物分
割を為し控訴人Cは其の占有部分を岐阜市a町b丁目c番宅地十六坪一合として取
得し昭和二十八年二月十八日岐阜地方法務局受付第一六六七号を以て其の所有権取
得登記を為し、控訴人Dは其の占有部分を岐阜市a町b丁目c番ノd宅地十六坪九
勺として取得し昭和二十八年二月十八日岐阜地方法務局受付第一六六八号を以て其
の所有権取得登記を為した。そして控訴人Dは本訴繋属中なるにも拘らず引受参加
人株式会社日本勧業経済会に対し右宅地及其の地上の建物木造瓦葺二階建店舗建坪
十二坪七合三勺二階坪十二坪七合三勺(従前此の建物を木造瓦葺二階家一棟建坪十
二坪二階十二坪と主張していたが間違につき上記の如く訂正する)を売却し昭和二
十八年二月十八日岐阜地方法務局受付第一六六九号を以て右所有権移転登記を経由
し右引受参加人株式会社日本勧業経済会は右宅地を占有使用しているのである。仍
て請求の趣旨を前記一、の如く訂正する。
 三、 控訴人等は権利濫用を主張するけれども被控訴人は控訴人等の権利を害す
ることを目的として本件借地権を主張しているのではない。被控訴人は従前から本
件借地権を保有しており其の借地上に自営の旅館を設け之に自営の劇場に出演する
旅役者等遊芸人を宿泊せしめ観劇料のコストを低廉ならしめんとして予てから計画
し其の準備途上において控訴人Aは被控訴人に借地権の存することを知りながら安
価に本件係争宅地を買入れ、又其の余の控訴人等は本件訴訟の繋属中借地権が被控
訴人に在り係争中なることを知悉しながら頗る安価に本件係争宅地を買入れたもの
であつて今更被控訴人に対し権利濫用を主張することこそ社会正義に反する。
 控訴代理人の陳述
 一、 被控訴人の借地権の範囲は特定していない。
 岐阜市a町b丁目e番宅地は以前訴外Eの所有であつて其の換地前の地積は四百
五十坪四合八勺であつたところ右土地は特別都市計画法に基き岐阜市において施行
せられた土地区劃整理により三百六十三坪二合に減歩せられ同市a町b丁目地内の
大略原位置において三百二十二坪二合と同市f町地内において四十一坪と二箇所に
分離して其の換地予定地が指定され昭和二十一年四月十九日に其の旨の発表があつ
た、其の後同年末頃Eは右土地全部を一括して訴外F、G両名に売却し同人等は右
換地予定地のa町b丁目地内三百二十二坪二合をe番、二百一坪、同番ノg、三十
二坪二合、同番ノh、二十七坪、同番ノi、三十四坪、同番ノj、二十八坪に、又
f町地内四十一坪を同番ノk、四十一坪に分割し登記簿上はE名義にて
 a町b丁目e番 二百九十坪四合八勺(昭和二十二年十一月二十日受付)後に二
百四十二坪二合四勺(昭和二十三年二月十八日受付)
 同番ノg 四十坪(昭和二十二年十一月二十日受付)
 同番ノh 四十坪(前同日受付)後に三十二坪四合(昭和二十三年五月十三日受
付)
 同番ノi 四十坪(昭和二十二年十一月二十日受付)
 同番ノj 四十坪(前同日受付)
 同番ノk 四十八坪二合四勺(昭和二十三年二月十八日受付)
 と分筆の登記をして同市都市計画課に其の旨届出で同所備付図面に前記換地予定
地分割の記載を受けた。
 そして右の内
 e番ノgが控訴人C及横田利雄の共有に
 同 番ノhが控訴人Bに
 同 番ノiが控訴人Aに
 夫々所有権が移転され且其の登記(登記簿上はEより直接又は第三者を経て)が
為された。
 右三筆の土地については(其の他の土地と共に)昭和二十六年九月十四日に換地
認可になり共の地番は同年十一月七日登記受付を以て
 e番ノgがa町b丁目c番宅地三十二坪二合
 同 番ノhが同所    l番宅地二十七坪
 同 番ノiが同所    m番宅地三十四坪
 と変更された(以下此の三筆を本件土地と略称する)。
 ところで被控訴人の主張によれば彼控訴人は換地前のa町b丁目e番宅地四百五
十坪四合八勺の全部につき借地権を有していたのではなく其の中の一部百十四坪の
みを前記Eより賃借していたのに過ぎない。然らば被控訴人が本件土地につき借地
権ありと謂わんが為めには換地前の借地部分百十四坪が換地後の本件土地と同一で
ある所以の主張及立証を要する訳であるが此の点について被控訴人は換地前の借地
百十四坪の位置に本件土地三筆が地理的に存在する事実を主張立証しているのみで
あつて果して被控訴人の借地権は換地中の何れの部分に如何なる範囲で特定して存
するかについては何等の証明はない、従つて被控訴人の借地権が本件三筆の土地上
に存することの確認(土地明渡請求は其の前提として賃借権の確認を含む)を求め
得べきではない。
 二、 被控訴人の借地権の換地による消滅
 被控訴人の借地部分百十四坪については被控訴人より市当局に対し借地権の届出
を為さず、其の結果a町b丁目e番宅地四百五十坪四合八勺の換地予定地上に其の
借地権の範囲の指定を受けなかつた。法は従前の土地の一部に既登記の所有権以外
の賃借権等の権利があるときは其の権利証書の提出や権利者及義務者連署の届出に
より換地交付の際に換地上に其の権利の目的たる部分を「指定」することにしてい
るのである(耕地整理法第三十三条、都市計画法第十二条第二項、特別都市計画法
第一条第一項、第十四条第二項、同法施行令第四十五条)そして此の法律に基く行
政庁の形式的行為である「指定」により換地上における権利の目的の範囲が特定す
るが故に従前の土地の一部の借地権等が換地の中の指定された部分に移るのであつ
て右行政庁の指定以外の方法を以て換地上における右権利の範囲を特定する方法は
ないのである。然るに被控訴人の借地部分百十四坪については市当局に借地権の届
出が為されず其の為めa町b丁目e番宅地の換地予定地上に其の借地権の目的たる
部分の指定がなかつたことは明かなところであるから被控訴人の右借地権は換地予
定地指定の際消滅し其の結果本件三筆の土地のみならず其の他のa町b丁目e番宅
地の換地にももはや存在しない。
 三、 権利の濫用
 被控訴人の本訴請求は権利の濫用の典型的なものである。
 控訴人Aは以前a町n丁目o番地の借家に居住していたが戦災により家は焼失し
敷地は道路となつた為め附近の土地を山崎某より賃借し家を建築したところが山崎
より土地明渡の申出があつた為めやむを得ず家を売り其の金で何も知らずに本件土
地を買つたのである、そして家の明渡を迫られていたので急いで本件土地に建築を
始めたところ被控訴人はHに依頼し其の子分等をして建築を妨害させた、それでや
むなく調停の申立をしたのであるが後にHが被控訴人に非のあることを認め妨害を
取止め控訴人に建築をすすめたので建築を続行し調停を取下げたのである、控訴人
Aは現在父母、夫婦、子三人の七人暮しで細々と錻力量を営んでいる。
 控訴人大野は以前p町q丁目の借家に居住していたが建物疎開により取毀され土
地は道路敷地となつたので其の後r町、s等で間借又は借家生活をしていたが女手
に子供二人を抱え生活上本件土地家屋を買い、おでん屋を始めたが失敗し現在ズボ
ン製造の内職をして辛うじて子供等を養育している。
 控訴人Bは以前tの借家に居住していたが戦災を受け則武の親許に間借し後にu
に小屋を建てて居住し一方岐阜駅前にて約三坪を借地して自転車修繕業を営んでい
た、間もなく駅前の土地を追立てられたのでやむなく本件土地家屋を買い営業を続
け夫婦と子供五人が細々と生活している状態である。
 控訴人D(脱退)は以前v町の借家に居住していたが戦災後は忠節、w町、r町
等で転々と間借生活を送り後に本件土地家屋を買つて岐阜電報局に勤務する傍ら化
粧品店を営んでいたが失敗し現在弟妹等と共に五人暮しであるが窮迫した生活を送
つているのである。
 右のように控訴人等の三名は罹災者、一名は建物疎開の犠牲者であつて何れも何
も知らないで全資力を傾けて本件土地家屋を入手し之によりて辛うじて生活を維持
している者達であり本件土地家屋を追われることは控訴人等及其の家族計二十二名
にとつては生活を奪われるに等しい。
 之に反し被控訴人は終戦後如何にして資金を獲得したのか逸早く自宅、劇場、ダ
ンスホール等を建築し本件土地の如きは永らく放置して顧みなかつたのであり其の
必要性は頗る薄いのである、本件土地上の家屋建築に際しても控訴人Aに対して前
記の如く妨害したのと同控訴人及W(控訴人Bの土地家屋の前所有者)に対して仮
処分を行つたに過ぎず他の控訴人等及其の前所有者に対しては何等の措置も講じて
いない。
 されば地代支払義務を履行せず、権利放棄に近い状態にて借地を放置し、しかも
他に自宅、劇場、ダンスホール等を所有して借地の必要性の甚だ薄い被控訴人が、
善意で土地を取得し其の上に家屋を所有し生活上全面的に依存していて土地家屋を
失うことは生活を奪われるに等しい控訴人等に対し家屋の収去と土地明渡を要求す
ることは正に権利の濫用である。
 四、 被控訴人の引受参加申立に異議はない。
 引受参加人日本勧業経済会等は何等の陳述をしない。
 以上の外当事者双方の事実の陳述は原判決事実摘示と同一であるから之を引用す
る。
 証拠として被控訴代理人は甲第一乃至六号証同第八乃至十四号証を提出し原審に
おける証人I(第一、二回)、J、K、L、M、N、Oの各証言、鑑定人Pの鑑定
の結果、検証の結果(第一、二回)、被控訴本人Q訊問の結果、当審証人R、Sの
各証言を援用し、乙第一号証の成立は不知、共の他の乙号各証の成立を認め、丙第
五号証の成立は不知、共の他の丙号各証の成立を認めると述べ、控訴代理人は控訴
人全員の為めに乙第二乃至九号証を提出し、当審における証人Tの証言、検証の結
果を援用し甲第十三、十四号証の成立を認め、控訴人A、C、D(脱退)の為めに
乙第一号証を提出し原審証人U、I(第一回)の各証言を援用し甲第一乃至六、
九、十号証の成立を認め同第八号証の市長作成部分の成立を認め其の他の部分の成
立は不知、同第十一、十二号証の成立は不知、同第一号証を利益に援用し、控訴人
Bの為めに丙第一乃至七号証、同第八号証ノ一、二、同第九、十号証を提出し原審
における証人Tの証言、検証の結果、控訴人B本人訊問の結果を援用し、甲第一乃
至六、九、十号証の成立を認め同第八号証の市長作成部分の成立を認め其の他の部
分の成立は不知、同第十一、十二号証の成立は不知と述べた。
         理    由
 第一、 被控訴人の借地権の有無について。
 成立に争なき甲第一、二、三号証、原審証人I(第一、二回)の証言、原審にお
ける検証の結果(第一、二回)、被控訴本人訊問の結果によれば昭和十一年九月一
日被控訴人は訴外Eより岐阜市a町b丁目e番宅地四百五十坪四合八勺の内百九坪
を建物所有の目的を以て賃料一ケ月二十七円二十五銭の定にて賃借し昭和十三年春
頃右借地に五坪を増して計百十四坪とすると共に賃料を一ケ月二十八円五十銭に改
定したこと、被控訴人は右借地上に百貨店用店舗二階建木造瓦葺亜鉛板葺建坪九十
六坪六合二勺四才、二階九十五坪八合七勺四才を建設所有していたが右建物は昭和
二十年七月九日の空襲によりて焼失したことを夫々認め得る。
 控訴人等は右賃貸借は一時使用の目的で期間を三ケ年に限つたものであると主張
し前記甲第一号証土地賃借証書に「賃借期間は昭和十一年九月一日より向う三年と
する、期間経過後は異議なく本件土地を明渡す、但し期間経過後は一週間内に双方
協議整いたるときは期間を延長することあり、若し協議が整わざる場合は即時明渡
す」旨の記載があるけれども前記証人I(第一、二回)の証言、前記被控訴本人訊
問の結果及甲第一号証中「期間経過後は貸主の請求あるときは何時にても賃料増額
に応ずる」旨の記載によれば右三年の期間は慣例上の地代据置の期間を定めたのに
過ぎす当事者双方の意思は一時使用の目的で右期間満了を以て賃貸借を終了せしめ
る意思ではなく被控訴人は前記の如き建物を建設所有し右期間経過後もEは何等異
議なく賃貸借を継続していたことを認め得るから右は一時使用の目的ではないと認
めるのが相当であつて建物の種類及び構造を定めていない右賃貸借契約においては
其の賃貸借期間は昭和十五年九月二十五日勅令第六百二十一号借地法及借家法ノ施
行期日及施行地区ニ関スル件、借地法第十七条第一項により昭和十一年九月一日よ
り二十年間と謂うべきである、(但し罹災都市借地借家臨時処理法第十一条の規定
上期間満了は昭和三十一年九月十五日となる)右認定に反する原審証人Uの証言は
措信し難い。
 控訴人等は前記建物の罹災後被控訴人は借地権を放棄したと主張するけれども之
を認めるに足る証拠はない、却て原審証人J、Kの各証言、原審における被控訴本
人訊問の結果、当審証人R、Sの各証言及成立に争なき丙第一号証によれば被控訴
人は昭和二十七年七月分迄の家賃は其の当時迄に支払つており前記建物焼失後其の
焼跡に更に建物築造の目的で焼跡を整地し建築の準備上昭和二十年九月頃には一間
半に二間位のバラックを建て昭和二十一年九、十月頃引続いて借地する為めに地料
の受領方を申出でたところEは区劃整理中であるからと言つて地料を受取らなかつ
たので被控訴人は昭和二十二年十一月二十八日に昭和二十年八月分以降の賃料を供
託したのであつて被控訴人は借地権を放棄したようなことはないことを認め得る、
右認定に反する原審証人I(第一、二回)の証言は措信し難く原審及当審における
証人Tの証言は右認定を覆すに足りない。
 控訴人等は被控訴人は訴外Lに対し借地を無断転貸したから賃貸借契約を解除す
ると主張するけれども右無断転貸を認めるに足る証拠はない、原審証人L、Kの各
証言、原審における被控訴本人訊問の結果を綜合すれば被控訴人は戦災後前記借地
の焼跡を整地して建築の準備をしていた頃訴外Lに材木の購入を世話して貰うつも
りで建築開始のときは何時でも取除くことを条件として昭和二十一年十二月頃から
昭和二十三年八月頃迄無償で右焼跡に材木を置くことを許容していたことが認めら
れるが右の如く終戦直後建築統制、資材入手難で順調に建築が進捗できない当時焼
跡に容易に移動し得べき材木等を暫時置くことを許す程度のことは何等排他的独占
的な土地占有を得しむるものではないから未だ以て土地の賃貸借若しくは使用貸借
と認め難く、無断転貸行為ありと主張する契約解除は理由がない。
 以上の事実によれば被控訴人は罹災都市借地借家臨時処理法第十条に所謂罹災建
物が滅失した当時から引続き借地権を有するものであることは明かであると謂わな
ければならない。
 第二、 岐阜市a町b丁目e番宅地四百五十坪四合八勺の土地所有権の移動。
 原審証人I(第一、二回)、M、O、Nの各証言、成立に争なき甲第五、六、
九、十、十三号証、乙第二乃至第七号証、丙第六、七号証、原審における検証の結
果(第一、二回)を綜合すれば訴外Eは其の所有にかかる岐阜市a町b丁目e番宅
地四百五十坪四合八勺を訴外F、Gを通じて分筆して売却したのであるが右宅地の
一部については昭和二十二年十一月二十日E名義を以て同所e番ノg宅地四十坪、
同所e番ノh宅地四十坪同所e番ノi宅地四十坪、に分筆して其の登記を為し、
(一)昭和二十三年二月十二日V(脱退せる原審被告)は右e番ノg宅地四十坪を
買受け同月十三日Eより直接所有権移転登記を受け、同年五月二十五日Vは右宅地
を控訴人C及脱退せる控訴人Dに売渡して同年七月三十一日其の移転登記を為し、
(二)昭和二十二年十一月二十三日沢田昇(脱退せる原審被告)は右e番ノh宅地
四十坪を買受け同月二十五日Eより直接所有権移転登記を受け昭和二十三年五月十
三日沢田昇は右e番ノh宅地を分筆して其の一部を同所e番ノh宅地三十二坪四合
となし之を同日訴外Wに売渡して其の移転登記を為し、昭和二十三年十月二日X
(脱退せる原審被告)は右宅地をWより買受け同月十八日其の所有権移転登記を受
け、昭和二十三年十二月十四日控訴人Bは右宅地をXより買受け同日其の所有権移
転登記を受け、(三)昭和二十二年十一月二十日控訴人Aは前記e番ノi宅地四十
坪を買受け同月二十一日Eより直接所有権移転登記を受けたこと、岐阜市a町b丁
目e番宅地四百五十坪四合八勺は前記の分筆が行われるより前に特別都市計画法に
基き岐阜市において施行せられた土地区劃整理により三百六十三坪二合に減歩され
a町b丁目地内の原位置において三百二十二坪二合とf町地内において四十一坪と
二箇所に分離して其の換地予定地が昭和二十一年四月十九日に指定されたのであつ
て前記分筆された(一)(二)(三)の宅地については昭和二十六年九月十四日本
換地が確定し(一)の控訴人CD共有のe番ノg宅地四十坪はa町b丁目c番宅地
三十二坪二合として原判決添付図面(ロ)(ト)(チ)(リ)(へ)(ル)(ロ)
を結ぶ範囲の土地が換地確定し、(二)の控訴人Bの所有するe番ノh宅地三十二
坪四合は同町b丁目l番宅地二十七坪として原判決添付図面(リ)(ヌ)(オ)
(ハ)(ニ)(ル)(ヘ)(リ)を結ぶ範囲の土地が換地確定し、(三)の控訴人
A所有のe番ノi宅地四十坪は同町b丁目m番宅地三十四坪として原判決添付図面
(イ)(ロ)(ハ)(イ)を結ぶ範囲の土地が換地確定したこと、昭和二十八年二
月十七日控訴人C、Dは其の共有に係る前記換地されたc番宅地三十二坪二合を分
割し控訴人Cは同所c番宅地十六坪一合を取得し、Dは同所c番ノd宅地十六坪九
勺を取得して同月十八日夫々分割による所有権取得の登記を為し、昭和二十八年二
月十七日Dは右c番ノd宅地十六坪九勺を引受参加人株式会社日本勧業経済会に売
渡し同会社は同月十八日其の所有権移転登記を受けたことを夫々認定することがで
きる。
 第三、 第一に認めた被控訴人の借地権が第二の換地即ち(一)a町b丁目c番
宅地十六坪一合(控訴人本野操所有)、同所c番ノd宅地十六坪九勺(引受参加人
株式会社日本勧業経済会所有)、(二)同所l番宅地二十七坪(控訴人B所有)、
(三)同所m番宅地三十四坪(控訴人A所有)の上において原判決添付図面(イ)
(ロ)(ト)(チ)(リ)(ソ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(イ)を結ぶ線を以て
囲まれた地域に存すか否かについて。
 原審第一、二回検証の結果、原審証人K、M、N、Oの各証言、原審における被
控訴本人訊問の結果を綜合すれば被控訴人が所有していた罹災家屋の敷地である借
地百十四坪はa町b丁目道路の交叉する部分に西側及南側を接して存在し其の北側
は原判決添付図面(ソ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)の線に達し東側は稍(レ)
(イ)の線を東方に超えていて其の面積は殆ど前記罹災建物の床面積九十六坪六合
二勺四才に充たされていて結局前記(一)(二)(三)の換地の殆ど全部が右建物
の床面に蔽われていたことを認め得る((ソ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(イ)の
線の南側が僅かに一間乃至一尺位の幅で床面に蔽われていなかつただけである)、
そして従前の或る一筆の土地の一部に存した借地権は其の一筆の土地内で占めてい
た位置にふさわしい部分を換地の上で占めるものとするのが相当であり殊に本件の
如く従前の土地と同一の場所に換地があつた場合は尚更のことである、前記の証拠
によれば従前の土地a町b丁目e番地四百五十坪四合八勺はa町b丁目道路の交叉
する部分の東北側を占め其の内被控訴人の借地百十四坪は前記の如く右道路の交叉
する部分に面していたのであるから換地についてもそれにふさわしい部分として前
記道路の交叉する部分に面接して其の東北側に存する部分即ち(一)(二)(三)
の換地上原判決添付図面(イ)(ロ)(ト)(チ)(リ)(ソ)(カ)(ヨ)
(タ)(レ)(イ)を順次結ぶ線を以て囲まれた地域に存するものと認むべきであ
る。又面積から見ても前記の証拠によれば従前の土地四百五十坪四合八勺に対する
換地面積は三百六十三坪二合であつて従前の土地の約八割に当るところ前記換地上
被控訴人の借地権の範囲と認むべき部分も亦従前の借地面積百十四坪に比較すれば
其の約八割であることが認められるから換地上前記の範囲において被控訴人の借地
権が存するものと認めるのが相当である、控訴人等は従前の一筆の土地の一部に存
した被控訴人の借地権は共の一筆の換地上何れの部分に如何なる範囲で存するか特
定せず之を確認し得ないと争うけれども前記説明の通り其の存在する部分及範囲を
確認し得る更に控訴人等は被控訴人は特別都市計画法施行令第四十五条所定の届出
をしなかつたから被控訴人の借地権は消滅したと主張し被控訴人が右の届出をしな
かつたことは被控訴人の認めるところである、然し同令第四十五条は同令所定の期
間内に賃借権等既登記の所有権以外の権利の届出がないときは区劃整理施行者は換
地の交付を為すに当り右換地上の全部又は一部につき賃借権等の存する部分を指定
しないというに過ぎす、右届出が為されず従つて指定がないときは賃借権等は消滅
するものと解すべきではない、蓋し換地は従前の土地と看做されるのであつて(耕
地整理法第十七条第一項、都市計画法第十二条第二項、特別都市計画法第一条)、
即ち従前の土地に対する権利を消滅せしめて新たな権利を設定するものではなく従
前の土地について存した権利関係を法律上当然そのまま換地に移行せしめるもので
あるから前記の届出、指定の有無を問はず従前の土地の上の賃借権等は換地の上に
存するものと解するを相当とし、換地の如何なる部位範囲に存するかは右の指定が
為されなかつた場合は当事者の協議によりて定められることもあり得べく争あらば
確認の訴を以て確定せらるべきである、被控訴人の本訴請求は其の確認を包含して
いるのである。
 第四、 被控訴人は前記借地権を控訴人等及引受参加人株式会社日本勧業経済会
に対抗できるかどうかについて。
 一、 引受参加人株式会社日本勧業経済会は前記第二に説明したように昭和二十
八年二月十七日(翌十八日登記経由)に前記(一)の換地の一部の所有権を取得し
たものであるから其の取得は昭和二十一年七月一日から五箇年を経過した後のこと
に属し従つて罹災都市借地借家臨時処理法第十条により被控訴人は右引受参加人に
対し前記借地権を対抗することができないから右引受参加人に対する請求は失当で
ある、そして被控訴人の此の部分の請求は脱退せる控訴人Dに対する訴訟の目的た
る債務を承継した右引受参加人に対するものであつてそれが認定すべからざるもの
である以上原判決中Dに関する部分を取消し右引受参加人に対する請求を棄却すべ
きである、
 二、 控訴人A、C、Bは第二に説明した如く何れも昭和二十一年七月一日から
五箇年の間に借地権の目的たる土地の所有権を取得したものであるから前記処理法
第十条により被控訴人は前記借地権を同控訴人等に対抗し得るものと謂わなければ
ならない。
 同控訴人等は被控訴人の罹災建物は登記がしてなかつたから罹災都市借地借家臨
時処理法第十条によつて其の賃借権を対抗することはできないと主張し、右登記の
なかつたことは被控訴人の認めるところである、然し<要旨>同法条は「其の土地に
ある建物の登記がなくても」と規定しているだけでてあるから罹災建物が登記して
あつたか否かの区別を問わず凡そ罹災建物が滅失した当時から引続き借地権
を有する者を保護する趣旨と解するのが相当である、罹災建物の登記がしてあつて
建物保護法上の対抗力を具えていた借地権に限つて処理法第十条の救済規定を設け
たものと狭く解釈する必要はないことである、更に同控訴人等は排他性のない賃借
権に基いて建物の収去土地明渡を求めることはできないと主張する、然し被控訴人
は前記の如く従前の貸主の土地所有権を取得した同控訴人等に対し共の土地の賃借
権を対抗し得るのであるから同控訴人等は被控訴人に対する関係においてEの賃貸
人たる地位を承継しているのである、従つて同控訴人等は賃貸人として被控訴人に
対し賃貸の目的たる上地を引渡し之を使用収益せしむべき義務があるのであるから
被控訴人が賃借権に基き同控訴人等に対し借地上の同控訴人等の建物収去及土地明
渡を求め得るのは明かである。
 第五、 権利の濫用、信義則違背であるかどうかについて。
 原審における証人Kの証言、被控訴本人訊問の結果、当審証人R、Sの各証言に
よれば第一に認定した如く被控訴人は終戦後間もなく自己の営業上建物を築造すべ
く本件土地の焼跡を整地した程であつて其の権利の行使は本件土地を自ら使用する
目的に出で決して単に控訴人等の利益を害することのみが目的であるとは認め難
い、而のみならず控訴人Aが本件土地の所有権を取得したのは昭和二十二年十一月
二十日であり原審における被控訴本人訊問の結果及成立に争なき甲第四号証によれ
ば同控訴人は右地上に被控訴人が借地権を有することを主張していた為めに同年十
二月十六日被控訴人を相手方として岐阜簡易裁判所に調停の申立を為し右地上に建
物を築造できるようにとの申立を為し其の争が解決しない儘建物の築造を完成した
のであり又本件記録によれば被控訴人は昭和二十三年二月二十七日には既に本訴を
提起していて被控訴人は決して本件土地上の借地権を権利放棄の状態にしていたの
ではない、控訴人C、同Bは何れも前記第二に説明したように本件土地の訴訟繋属
後に其の所有権を坂得したものであり争のある土地であることは十分承知していた
ものと認められる、又成立に争なき丙第二、三、四号証、乙第八号証によれば被控
訴人は他に居宅、劇場等宅地、建物を所有していることが認められるけれども之が
為めに本件土地に対する被控訴人の権利行使を不当なりと謂い難く、被控訴人の権
利行使の結果控訴人等が生活上及経済上不利益を蒙ることがあつても其の為めに被
控訴人の権利行使をとがめることはできない、更に甲第一号証土地賃借証書には借
主は貸主に対して迷惑をかける行為をしない旨の誠実義務を表明しているが本件土
地の賃料が昭和二十年八月分以降未払になつていたことは前記第一に認定した如き
事情によるものであつて罹災当時の混乱状態においてはあり勝ちのことで殊に原審
証人I(第一、二回)の証言によればEは戦災により建物が滅失すれば改めて賃貸
借契約を締結しない限り自然賃借権は消滅するものと信じていたことが窺えるので
あつて地主が賃料を受取る意思のないことから賃料の支払が順調に行かなかつたこ
とが認められるのである、以上の事情から見て被控訴人に権利の濫用又は信義則違
背ありとは認められない、
 第六、 控訴人各自の建物収去土地明渡義務について。
 以上説示の通り被控訴人は原判決添付図面(イ)(ロ)(ト)(チ)(リ)
(ソ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(イ)を結ぶ範囲の土地について借地権を有する
ことを控訴人A、C、Bに対抗し得るのであるから同控訴人等は右地域中夫々所有
し且占有する部分を其の地上の夫々の所有建物を収去して其の土地を被控訴人に明
渡す義務があるものと謂わなければならない、控訴人Aが其の所有するa町b丁目
m番宅地三十四坪(換地)中原判決添付図面(イ)(ロ)(タ)(レ)(イ)を結
ぶ地域を占有し其の地上に木造トタン葺平家建住家一棟建坪十五坪五合及其の他の
被控訴人が請求の趣旨に掲げる建物を所有することは同控訴人の認めるところであ
るから同控訴人は右建物を収去して右占有部分を被控訴人に明渡すべき義務があり
従つて被控訴人の同控訴人に対する本訴請求は認容せらるべきであり原判決は正当
であるから同控訴人の本件控訴は之を棄却すべきである。
 次に控訴人Bが其の所有するa町b丁目l番宅地二十七坪(換地)中原判決添付
図面(リ)(ソ)(カ)(ヨ)(タ)(ホ)(へ)(リ)を結ぶ範囲を占有し其の
地上に木造トントン葺一部トタン葺平家建住居兼店舗一棟建坪十三坪五合、木造ト
タン葺平家建便所物置一棟建坪一坪を所有することは同控訴人の認めるところであ
る、従つて被控訴人が同控訴人に対し右建物を収去して右占有部分の明渡を求める
のは正当であつて之を認容した原判決は正当であり同控訴人の本件控訴は之を棄却
すべきである。
 次に控訴人Cが其の所有するa町b丁目c番宅地十六坪一合の上に木造トントン
葺平家建住家一棟建坪九坪を所有して右土地を占有することは同控訴人の認めると
ころである、従つて被控訴人が同控訴人に対し右建物を収去して右土地の明渡を求
めるのは正当であつて之を認容した原判決は正当であるから同控訴人の本件控訴を
棄却すべきである、唯原審においてはc番宅地は同控訴人と脱退せる控訴人Dとの
共有に属していたところ当審において右土地について共有物の分割があつたから被
控訴人は右分割による土地の表示の変更に従つて請求の趣旨を訂正した為めに原判
決主文第二項を変更したのに過ぎない。
 仍て民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条第九十三条第三百八十六条
第九十六条第九十二条に従い主文の如く判決する。
 (裁判長裁判官 中島奨 裁判官 石谷三郎 裁判官 県宏)

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