弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人色川幸太郎、同川島武宜、同宮川種一郎、同松本保三、同松井一彦、
同中根宏、同中川徹也、同猪熊重二、同桐ケ谷章、同八尋頼雄、同福島啓充、同若
旅一夫、同漆原良夫、同小林芳夫、同今井浩三、同大西佑二、同堀正視、同春木實、
同川田政美、同稲毛一郎、同平田米男、同松村光晃の上告理由について
 一 本件においては、上告人が被上告人に対し、包括宗教法人D(以下「D」と
いう。)が被上告人を僧籍剥奪処分たる擯斥処分(以下「本件擯斥処分」という。)
に付したことに伴い、被上告人がA寺の住職たる地位ひいては上告人の代表役員及
び責任役員たる地位を失い、上告人所有の第一審判決添付の物件目録記載の建物(
以下「本件建物」という。)の占有権原を喪失したとして、本件建物の所有権に基
づきその明渡を求めるのに対し、被上告人は、本件擯斥処分はDの管長たる地位を
有しない者によってされ、かつ、D宗規(以下「宗規」という。)所定の懲戒事由
に該当しない無効な処分であると主張して、上告人の右請求を争っている。
 二 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法
三条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関
係の存否に関する紛争であって、かつ、法令の適用により終局的に解決することが
できるものに限られ、したがって、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争
であっても、法令の適用により解決するに適しないものは、裁判所の審判の対象と
なり得ないというべきである(最高裁昭和五一年(オ)第七四九号同五六年四月七
日第三小法廷判決・民集三五巻三号四四三頁参照)。
 しかるところ、宗教法人法は、宗教団体に法律上の能力すなわち法人格を与える
ものであるが、その趣旨は、「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を
教化育成すること」(同法二条)を主たる目的とし、固有の組織と活動の主体とし
て存在する宗教団体について、その「礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維
持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営する」(同法一条一項)
という、いわば経済的及び市民的生活にかかわる部分のために法人格を認めること
にあるのであって、宗教団体は、法人格を取得して宗教法人となった後においても、
それに包摂されない宗教活動の主体として存在するものであることはいうまでもな
い。そして、同法一二条一項五号に規定する宗教法人の代表役員及び責任役員の地
位はもとより法律上の地位であるが、宗教団体と宗教法人とが右のような関係にあ
ることから、本件においても、宗教団体内部における宗教活動上の地位としての宗
教上の主宰者である法主、管長又は住職たる地位(これらの地位が法律上の地位で
ないことについては、最高裁昭和五一年(オ)第九五八号同五五年一月一一日第三
小法廷判決・民集三四巻一号一頁参照)にある者が、宗教法人の代表役員及び責任
役員となるものとされており、したがって、住職たる地位を喪失した場合には、当
然代表役員及び責任役員の地位を喪失する関係にある。
 そして、宗教団体における宗教上の教義、信仰に関する事項については、憲法上
国の干渉からの自由が保障されているのであるから、これらの事項については、裁
判所は、その自由に介入すべきではなく、一切の審判権を有しないとともに、これ
らの事項にかかわる紛議については厳に中立を保つべきであることは、憲法二〇条
のほか、宗教法人法一条二項、八五条の規定の趣旨に鑑み明らかなところである(
最高裁昭和五二年(オ)第一七七号同五五年四月一〇日第一小法廷判決・裁判集民
事一二九号四三九頁、前記昭和五六年四月七日第三小法廷判決参照)。かかる見地
からすると、特定人についての宗教法人の代表役員等の地位の存否を審理判断する
前提として、その者の宗教団体上の地位の存否を審理判断しなければならない場合
において、その地位の選任、剥奪に関する手続上の準則で宗教上の教義、信仰に関
する事項に何らかかわりを有しないものに従ってその選任、剥奪がなされたかどう
かのみを審理判断すれば足りるときには、裁判所は右の地位の存否の審理判断をす
ることができるが、右の手続上の準則に従って選任、剥奪がなされたかどうかにと
どまらず、宗教上の教義、信仰に関する事項をも審理判断しなければならないとき
には、裁判所は、かかる事項について一切の審判権を有しない以上、右の地位の存
否の審理判断をすることができないものといわなければならない(前記昭和五五年
四月一〇日第一小法廷判決参照)。したがってまた、当事者間の具体的な権利義務
ないし法律関係に関する訴訟であっても、宗教団体内部においてされた懲戒処分の
効力が請求の当否を決する前提問題となっており、その効力の有無が当事者間の紛
争の本質的争点をなすとともに、それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっ
ているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断す
ることができず、しかも、その判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものであ
る場合には、右訴訟は、その実質において法令の適用による終局的解決に適しない
ものとして、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当たらないというべきである
(前記昭和五六年四月七日第三小法廷判決参照)。
 三 これを本件についてみるに、原審の認定するところによれば、要するに、D
の内部においてEを巡って教義、信仰ないし宗教活動に関する深刻な対立が生じ、
その紛争の過程においてされた被上告人の言説がDの本尊観及び血脈相承に関する
教義及び信仰を否定する異説であるとして、Dの管長Fが責任役員会の議決に基づ
いて被上告人を訓戒したが、被上告人が所説を改める意思のないことを明らかにし
たことから、宗規所定の手続を経たうえ、昭和五六年二月九日付宣告書をもって、
被上告人を宗規二四九条四号所定の「本宗の法規に違反し、異説を唱え、訓戒を受
けても改めない者」に該当するものとして、本件擯斥処分に付した、というのであ
り、原審の右認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯するに足りる。
 そして、本件においては、被上告人が本件擯斥処分によってDの僧侶たる地位を
喪失したのに伴いA寺の住職たる地位ひいては上告人の代表役員及び責任役員たる
地位を失ったかどうか、すなわち本件擯斥処分の効力の有無が本件建物の明渡を求
める上告人の請求の前提をなし、その効力の有無が帰するところ本件紛争の本質的
争点をなすとともに、その効力についての判断が本件訴訟の帰趨を左右する必要不
可欠のものであるところ、その判断をするについては、被上告人に対する懲戒事由
の存否、すなわち被上告人の前記言説がDの本尊観及び血脈相承に関する教義及び
信仰を否定する異説に当たるかどうかの判断が不可欠であるが、右の点は、単なる
経済的又は市民的社会事象とは全く異質のものであり、Dの教義、信仰と深くかか
わっているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくして判断することのでき
ない性質のものであるから、結局、本件訴訟の本質的争点である本件擯斥処分の効
力の有無については裁判所の審理判断が許されないものというべきであり、裁判所
が、上告人ないしDの主張、判断に従って被上告人の言説を「異説」であるとして
本件擯斥処分を有効なものと判断することも、宗教上の教義、信仰に関する事項に
ついて審判権を有せず、これらの事項にかかわる紛議について厳に中立を保つべき
裁判所として、到底許されないところである。したがって、本件訴訟は、その実質
において法令の適用により終局的に解決することができないものといわざるを得ず、
裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に該当しないというべきである。
 四 以上のとおり、本件訴えは不適法として却下を免れないというべきであり、
これと同旨の原審の判断は、結論において正当として是認することができ、原判決
に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、ひっきょう、右と異なる見解
に立って原判決の不当をいうか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の
認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    奧   野   久   之

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