弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人貞家克巳、同岩佐善巳、同高橋欽一、同中井宗敏の上告理由について
 公の営造物の設置又は管理に瑕疵があるため国又は公共団体が国家賠償法二条一
項の規定によつて責任を負う場合につき、同法三条一項が、同法二条一項と相まつ
て、当該営造物の設置もしくは管理にあたる者とその設置もしくは管理の費用の負
担者とが異なるときは、その双方が損害賠償の責に任ずべきであるとしているのは、
もしそのいずれかのみが損害賠償の責任を負うとしたとすれば、被害者たる国民が、
そのいずれに賠償責任を求めるべきであるかを必らずしも明確にしえないため、賠
償の責に任ずべき者の選択に困難をきたすことがありうるので、対外的には右双方
に損害賠償の責任を負わせることによつて右のような困難を除去しようとすること
にあるのみでなく、危険責任の法理に基づく同法二条の責任につき、同一の法理に
立つて、被害者の救済を全からしめようとするためでもあるから、同法三条一項所
定の設置費用の負担者には、当該営造物の設置費用につき法律上負担義務を負う者
のほか、この者と同等もしくはこれに近い設置費用を負担し、実質的にはこの者と
当該営造物による事業を共同して執行していると認められる者であつて、当該営造
物の瑕疵による危険を効果的に防止しうる者も含まれると解すべきであり、したが
つて、公の営造物の設置者に対してその費用を単に贈与したに過ぎない者は同項所
定の設置費用の負担者に含まれるものではないが、法律の規定上当該営造物の設置
をなしうることが認められている国が、自らこれを設置するにかえて、特定の地方
公共団体に対しその設置を認めたうえ、右営造物の設置費用につき当該地方公共団
体の負担額と同等もしくはこれに近い経済的な補助を供与する反面、右地方公共団
体に対し法律上当該営造物につき危険防止の措置を請求しうる立場にあるときには、
国は、同項所定の設置費用の負担者に含まれるものというべきであり、右の補助が
地方財政法一六条所定の補助金の交付に該当するものであることは、直ちに右の理
を左右するものではないと解すべきである。
 ところで、自然公園法二五条によれば、地方公共団体が国立公園事業を執行する
場合、その執行費用は、この地方公共団体が負担すべきものとされているが、同法
一四条一項及び二項によれば、上告人が国立公園事業を執行すべきものとされ、地
方公共団体は、上告人から承認を受けてその一部の執行をなしうるに止まり、また、
同法二六条によれば、国が地方公共団体に対し執行費用の一部を補助することがで
きる旨定められているのである。そして、この補助金交付の趣旨・目的は、上告人
が、執行すべきものとされている国立公園事業につき、一般的に地方公共団体に対
しその一部の執行を勧奨し、自然公園法の見地から助成の目的たりうると認められ
る国立公園事業の一部につき、その執行を予定し又は執行している地方公共団体と
補助金交付契約を締結し、これを通じて右地方公共団体に対し、その執行を義務づ
け、かつ、その執行が国立公園事業としての一定水準に適合すべきものであること
の義務を課するとともに(なお、明治三十年法律第三十七号「国庫ヨリ補助スル公
共団体ノ事業ニ関スル法律」第一条参照)、当該事業の実施によつて地方公共団体
が被る財政的な負担の軽減をはかることにあるのであり、右の国立公園事業として
の一定の水準には、国立公園事業が国民の利用する道路、施設等に関するものであ
るときには、その利用者の事故防止に資するに足るものであることが含まれるべき
であることは明らかである。そして、原審が適法に確定したところによれば、上告
人は、同法一四条二項により三重県に対し、国立公園に関する公園事業の一部の執
行として本件かけ橋を含む本件周回路の設置を承認し、その際設置費用の半額に相
当する補助金を交付し、その後の改修にも度々相当の補助金の交付を続け、上告人
の本件周回路に関する設置費用の負担の割合は二分の一近くにも達しているという
のであるから、上告人は、国家賠償法三条一項の適用に関しては、本件周回路の設
置費用の負担者というべきである。したがつて、これと同趣旨の原審の判断は、正
当として是認することができる。
 所論は、右と異なる見解に立つて原判決を非難するか、原審の専権に属する証拠
の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官高辻正己の反対意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官高辻正己の反対意見は、次のとおりである。
 本件での問題は、公の営造物の設置者である地方公共団体に対しその営造物の設
置に要する経費について補助金を交付した国が、国家賠償法三条一項にいわゆる「
公の営造物の設置……の費用を負担する者」に当たるかどうか、という点である。
この点について、私は、多数意見の見解に同調することができず、諭旨は、結局、
理由があり、原判決は破棄を免れず、被上告人の上告人に対する本訴請求は棄却す
べきものと考える。以下、その理由を述べる。
 一 国家賠償法三条一項は、国又は地方公共団体が公の営造物の設置の瑕疵に基
づく損害の賠償責任を負う場合において、その設置者と設置「費用を負担する者」
とが異なるとき、「費用を負担する者」もまた右の責任を負う旨を定めている。そ
して、「費用を負担する者」が具体的な場合において何者であるかは、それについ
て、以下に述べるように、組織法的な制度の定めがある以上、その定めるところに
照らして判断すべきものと解するのが、相当である。
  国の財政と地方公共団体の財政との関係に関し、地方財政法は、事務の執行責
任と経費の負担責任との一致を建前に、事務の執行に要する経費は、国が執行の責
めに任ずべきものについては国が、地方公共団体が執行の責めに任ずべきものにつ
いては地方公共団体が、それぞれ、負担するとの基本原則を定めるとともに、その
例外の場合を限定的に定め(九条ないし一〇条の四、一七条、一七条の二・一項)、
もつて、国と地方公共団体の事務の執行に要する経費の負担区分を明らかにし、他
方、この負担区分とは別に、特別の必要がある特定の場合に限り、国が地方公共団
体に対して補助金を交付することができる旨を定めている(一六条)。このような
地方財政法の定めに徴すると、同法において「負担」というのは、単に経費の全部
又は一部の費用を支弁するという事実上のことを意味するのではなく、当該事務の
執行に要する経費を自己の財源をもつてまかなう責めに任ずることを意味するもの
であり、他方、同法が補助金の交付としていう「補助」とは、当該事務の執行に要
する経費の当該部分につき、自己の財源をもつてまかなう責めに任ずる立場にある
わけではない者が、そのような立場にある者に対し、当該経費の支出に当てるため
の金額を給付することを意味するものであることが、明らかである。
 ところで、自然公園法は、国立公園に関する公園事業は、国が執行するものとし
ているが(一四条一項)、国の執行にまつだけでは右事業の完成を期することが困
難であることにかんがみ、地方公共団体もまた、主務官庁の承認を受けて、国立公
園に関する公園事業の一部を、自らの事業として、執行することができる途を開き
(同条二項)、同時に、公園事業の執行に要する費用は、一律に国の負担とするこ
となく、その公園事業を執行する地方公共団体の負担とすることとし(二五条)、
国は、都道府県が公園事業を執行する場合、当該都道府県に対して、その公園事業
の執行に要する費用の一部を補助することができるものとしている(二六条)。地
方公共団体が主務官庁の承認を受けて公園事業の一部の執行者となつた場合に、そ
の執行に要する費用を、国の負担とすることなく、地方公共団体の負担とすること
は、地方財政法に定められている国と地方公共団体との事務の執行に要する経費の
負担区分にもとるところはなく、もしそれが右の負担区分にもとるというのであれ
ば、右の場合にされる国の「補助」は、その実体において、地方財政法にいわゆる
「負担」であると解すべき余地がないとはいえないが、それが右の負担区分にもと
るものでない以上、右の国の「補助」は、やはり、地方財政法が補助金の交付とし
ていう「補助」と意味を一にするものであり、その実体において同法にいわゆる「
負担」を意味するものと解すべき余地はないのである。
 以上によつて本件をみると、原審の確定するところによれば、「本件周回路は、
三重県が自然公園法一四条二項により、厚生大臣の承認を受けて国立公園に関する
公園事業の一部の執行として設置したものである」というのであるから、本件の場
合、自然公園法の前記規定に照らせば、右事業の執行者は、三重県であつて国では
なく、その費用は、三重県の「負担」とされるものであつて国の「負担」とされる
ものではないことが、明らかである。すなわち、本件周回路の設置費用の負担者は、
三重県であつて国ではないということになり、国家賠償法の定めるところによれば、
そのような国が同法上の損害賠償責任を負うべき地位に立つことはないのである。
そして、本件周回路につき、三重県が設置者であると同時に設置費用の負担者であ
つて、三重県のほかには費用負担者がいないということになつても、それは、公の
営造物の設置者と設置費用の負担者とが異なることのない一般の場合と別に変わり
がないのであつて、本件の場合、国もまた費用負担者となるように解さなければ、
一般の場合に比し、被害者の権利保護に欠けることになるということはなく、本件
において、特に、前述の制度的な意味における「補助」と「負担」の区別を無視し、
実定法の体系を顧みない解釈を施してまで、被害者の権利保護を図らなければなら
ないとする理由があろうとは、考えられないのである。
 二 私が多数意見の見解に同調することができない理由としては、なお、多数意
見の見解そのものの合理性に疑わしいものがあることを挙げておかなければならな
い。
  多数意見は、危険責任の法理を論拠とし、被害者の救済を全からしめる見地に
おいて、当該営造物の設置費用につき補助金を交付する者であつても、その補助金
の額が費用負担者の負担する額と同等もしくはこれに近いものである等一定の基準
に該当するものである場合には、その者もまた国家賠償法三条一項所定の設置費用
の負担者に含まれるとするのであるが、右の基準は、その内容にあいまいなものが
あることを免れず、また、それが、設置者とは別に国家賠償法上の責任を負うべき
地位に立つにつき、設置費用の負担者については負担金の額の多少を問題とするこ
とはないのに、補助金の交付者についてはその額の多少を問題とする点について、
理由とするところが明らかでなく、その合理性に疑問が残る。
  なおまた、多数意見によると、国が、公の営造物の設置者たる地方公共団体と
ともに、国家賠償法上の責任を負うべき地位に立つか否かが、当該地方公共団体の
申請に対し、補助金を交付するか否かによつて、また、交付することにする場合に
は、その額を多くするか少なくするかによつて、左右されることになり、国がその
ような地位に立たないでいるためには、当該地方公共団体の申請に対し、補助金を
交付しないか、交付するにしてもその額を少なくすればよいことになるのであつて、
そのような意味をも含む多数意見が理に即したものとみられるかどうか、疑わしい
といわなければならない。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄

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