弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 原告の被告東京国税局長に対する訴えを却下し、被告国税不服審判所長に対す
る請求を棄却する。
2 原告と被告国との間で、原告の亡Aの遺産相続に係る相続税の延滞税納付債務
が42万7400円を超えて存在しないことを確認する。
3 原告の延滞税納付債務不存在確認請求のうち、その余の部分を棄却する。
4 原告の被告国に対する金員請求を棄却する。
5 訴訟費用のうち、原告と被告東京国税局長及び被告国税不服審判所長との間で
生じた分は全部原告の負担とし、原告と被告国との間で生じた分は、これを2分
し、その1を原告の、その余を被告国の各負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告東京国税局長が、平成10年10月27日付けでした原告の延滞税のうち
397万9100円を超える部分を免除しなかった処分を取り消す。
2 被告国税不服審判所長が、平成12年10月5日付けでした原告の延滞税に係
る課税処分についての審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。
3 被告国との間で、原告の延滞税納付債務金676万4100円が存在しないこ
とを確認する。
4 被告国は、原告に対し、金80万4600円及びこれに対する平成10年12
月23日から支払済みまで年7・3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、「亡Aの遺産相続に伴って発生した相続税につき、違法に高額
の延滞税が課せられた。」と主張して、原告のいう「延滞税課税処分」及び同処分
を不服として提起した審査請求に対する却下裁決の取消し、延滞税納付債務の不存
在確認、並びに過誤納金の還付を求める事案である。
1 前提事実等
 以下の事実は、証拠上容易に認めることができる(被告国との間では争いがな
く、被告東京国税局長は、明らかに争わない事実でもある。)。
1)原告は、浅草税務署長に対し、昭和63年11月2日付けで亡Aの遺産相続に
伴う相続税申告をし(以下「当初申告」という。甲1)、平成元年2月12日付け
で当初申告について更正の請求をし(以下「本件更正請求」という。)、同年5月
26日付けで本件更正請求を全部認容する更正(以下「本件更正」という。)を受
けた(甲1、2、弁論の全趣旨)。
 当初申告及び本件更正の内容は、別表1、2各記載のとおりであり、この段階に
おいては、遺産分割協議が成立していなかったため、配偶者に対する税額控除は適
用されていなかった。
2)原告は、本件更正後の相続税を納付しなかったため、平成5年12月15日付
けで、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)の原告の共
有持分(持分割合は6分の3)につき、滞納処分としての差押え(以下「本件差押
え」という。)を受けた(甲3、4)。
3)平成9年10月22日、亡Aの遺産についての遺産分割審判が確定した。
4)原告は、浅草税務署長に対し、平成10年2月13日付けで遺産分割審判の確
定を理由として相続税に関する更正の請求をし(以下「本件再更正請求」とい
う。)、同年4月28日付けで本件再更正請求を全部認容する再更正(以下「本件
再更正」という。)を受けた(甲5、7)。
 本件再更正の内容は、別表3記載のとおりであるところ、原告が取得すべき相続
財産の価額が増加した一方で、遺産分割審判(以下「本件遺産分割審判」とい
う。)の確定によって配偶者に対する税額控除が適用された結果、原告が納付すべ
き相続税額は、本件更正時の4444万9700円から892万2500円に減少
した。そして、原告は、同年3月10日、相続税の支払として、893万0600
円を納付した(甲6)。
5)被告東京国税局長(以下「被告国税局長」という。)は、平成10年10月2
7日付けの「延滞税免除通知書」と題する書面をもって、原告の相続税に係る延滞
税(以下「本件延滞税」という。)につき、133万2600円を免除した結果、
免除後の延滞税額は1074万3200円となった旨を通知(以下「本件延滞税免
除通知」という。)した(甲10)。
 なお、本件延滞税免除通知における延滞税額の計算方法は、次のとおりであっ
た。
(1) 免除前の延滞税額・・・1207万5800円
ア)昭和63年11月2日(法定納期限)から昭和64年1月2日(法定納期限の
翌日から2か月後)までにつき10万8824円
 892万円×7.3(%)×61(日)÷365(日)=108,824(円)
イ)昭和64年1月3日から平成10年3月10日(相続税本税の納付日)までに
つき1196万7072円
 892万円×14.6(%)×3354(日)÷365(日)=11,967,
072(円)
ウ)以上の合計・・・・・1207万5800円
(2) 延滞税の免除額・・・・133万2600円
 ただし、平成5年12月15日から平成7年12月31日までは、本件差押えに
よって滞納された相続税の全額を徴収するために必要な財産につき差押えがされて
いたものと認め(国税通則法63条5項)、延滞税額の2分の1の範囲内で免除を
したもの。
(3) 免除後の延滞税額・・・1074万3200円
 ただし、(1)から(2)を控除した残額。
6)原告は、平成10年11月25日、被告国税局長に対し、本件延滞税免除通知
を不服として、異議申立てをしたが、平成12年2月29日付けで、異議申立ての
対象となる行政処分が存在しないとの理由でこれを却下する旨の決定を受け、同年
3月28日、被告国税不服審判所長(以下「被告審判所長」という。)に対し審査
請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが、同年10月5日付けで、同様の
理由により審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)がされ、同
月7日、本件裁決書謄本の送達を受けたため、同月27日、本訴を提起した(甲1
1ないし14、弁論の全趣旨)。
7)なお、被告国税局長は、原告が前記3)のとおり相続税の支払いとして納付し
た893万0600円のうち、相続税本税額(892万2500円)を超過する8
100円を本件延滞税の支払に充当し、また、原告の共同相続人であり、原告の相
続税につき連帯納付義務を負うBに対して支払うべき還付金64万8200円及び
Cに対して支払うべき還付金412万7400円をいずれも本件延滞税の支払に充
当する旨の処理をしている(甲10、15、16)。
8)原告が、本訴において、被告国税局長による延滞税額の計算に対して不服を述
べている点は、次の2点である。
(1) 本件更正の際に、配偶者控除がされていれば、納付すべき相続税額は38
1万9000円(ただし、相続税額である4444万9700円から配偶者控除の
額である4063万0700円を控除した残額。)となるはずであったところ、本
件再更正において配偶者控除後の相続税額が892万2500円に増加したのは、
本件遺産分割審判によって原告が取得すべき相続財産の価額が増額されたためであ
る。したがって、本件遺産分割審判の結果増加した相続税(510万3500円。
以下「相続税増加部分」という。)に対しては、相続税法51条2項2号ロにより
延滞税が発生しないものとして処理されるべきであるのに、この分に対しても延滞
税が課されている(以下、これを「延滞税不発生の不服部分」という。)。
(2) 国税通則法63条5項に基づく延滞税の免除が平成7年12月31日まで
の分についてしかされていないのは違法であり、平成10年3月10日までの分を
免除の対象とすべきである(以下、これを「延滞税不免除の不服部分」とい
う。)。
2 争点と争点に関する当事者双方の主張
 本件の争点は、①本件延滞税免除通知は、取消訴訟の対象となる行政処分に当た
るかどうか、及びこれについて審査請求前置、出訴期間の要件が満たされていると
いえるかどうか、②上記1、8)の(1)に掲げた原告の主張の適否、③同(2)
に掲げた原告の主張の適否、④原告に対して還付されるべき過誤納金が存するかど
うかであり、これらの点に関する当事者双方の主張は次のとおりである。
1)争点①について
(1) 被告
ア)原告が主張する相続税不発生の不服部分、延滞税不免除の不服部分のいずれに
ついても、取消訴訟の対象となるべき行政処分は存在しない。したがって、原告の
本訴請求中、本件延滞税免除通知の取消しを求める訴えは不適法なものとして却下
されるべきであり、また、本件裁決の取消しを求める部分は、理由がないものとし
て棄却されるべきである。その理由は、次のとおりである。
 まず、延滞税は、法律上当然に発生するものであって、賦課決定処分等の行政処
分がされて始めて発生するものではない。したがって、延滞税不発生の不服部分に
係る延滞税納付義務は、法律上当然に発生しているか発生していないかのいずれか
であって、本件延滞税免除通知によって、その義務の有無が左右されるものではな
く、同通知は、延滞税納付義務が法律上当然に発生していることを告知したのにす
ぎないのである。そうすると、本件延滞税免除通知の取消しを求める訴えのうち、
延滞税不発生の不服部分に対応する部分には、何ら取消しの対象となる行政処分は
存在していないものというべきであるから、不適法である。
 また、国税通則法63条5項に基づく延滞税の免除は行政処分であるが、これ
は、あくまでも延滞税の一部を免除するという行政処分であって、免除しなかった
部分につき延滞税不免除処分という行政処分が存在するものではない。したがっ
て、本件延滞税免除通知の取消しを求める訴えのうち、延滞税不免除の不服に対応
する部分は、不免除処分という行政処分が存在するという誤った前提に基づくもの
であり、やはり不適法というべきである。
イ)また、延滞税不発生の不服部分と延滞税不免除の不服部分とは、別個の法律関
係に基づく別個の事柄なのであるから、仮にこれらに対応する行政処分が存在する
としても、それは別個の行政処分であり、それぞれについて審査請求前置、出訴期
間遵守の要件を満たす必要がある。
 しかしながら、原告は、本件審査請求においては、延滞税不免除の不服部分に関
する具体的主張はしておらず、また、本訴提起時においてもこの点を明確に主張せ
ず、むしろ、「延滞税に係る課税処分」の取消しを求めるとして、延滞税不発生の
不服部分のみを訴えの対象とすることを明言し、本訴第7回口頭弁論期日(平成1
4年3月5日)の裁判所の釈明を受けた第7準備書面(同年3月20日付け、同年
4月16日の本訴第8回口頭弁論期日において陳述)において初めて、延滞税不免
除の不服部分についても処分の取消しを求める旨を明らかにしたものであり、これ
は訴えの変更(拡張)に当たるものである。
 そうすると、少なくとも延滞税不免除の不服部分に関する訴えは、審査請求前置
の要件を満たしておらず、仮に審査請求前置の要件を満たしていたとしても、出訴
期間を遵守していないことは明らかであるから、いずれにせよ不適法というべきで
ある。
ウ)被告審判所長は、ア)と同様の理由から、本件審査請求を不適法と認め、これ
を却下する旨の本件裁決をしたものであり(なお、延滞税不免除の不服部分につい
ては、もともと審査請求の対象となっていたとは認められないことは、イ)で指摘
したとおりである。)、本件裁決は適法である。
(2) 原告
ア)原告は、平成10年2月13日、同年5月21日の2度にわたって、浅草税務
署長に対し、延滞税不発生の不服部分のとおりの内容を記載した「事情説明書」
(甲8、9)を提出し、相続税額増加部分に対しては、延滞税が課されるべきでは
ない旨を主張していたにもかかわらず、被告国税局長はこの主張を無視した本件延
滞税免除通知を発し、この部分に対しても延滞税を課したものである。延滞税は、
法律上当然に発生するものであり、賦課決定処分等の行政処分は不要であるとして
も、本件のように、原告の主張を無視して、延滞税が発生したとの取扱いがされて
いる場合には、ここに被告国税局長の判断が介在しているのであるから、この判断
を行政処分に準ずるものとして、取消訴訟の対象とすることが許されるものと解す
べきである。
 また、延滞税不免除の不服部分に関しては、被告国税局長は、平成7年12月3
1日までの分の延滞税を2分の1の範囲内で免除するとともに、その余の分につい
ては免除しないという一部免除一部不免除の行政処分をしたものと解すべきである
から、一部不免除の部分の取消しを求めることが許されるものというべきである。
イ)原告は、本件審査請求及び本訴提起当初から延滞税不発生の不服部分及び延滞
税不免除の不服部分の両者を不服として審査請求をし、訴えを提起しているのであ
るから、審査請求前置、出訴期間遵守の要件に欠けるところはない。
ウ)以上によれば、本件延滞税免除通知は行政処分に当たり、本件審査請求は適法
というべきであるにもかかわらず、被告審判所長は、これを不適法却下する旨の本
件裁決をしたのであるから、本件裁決は違法であり、取り消されるべきである。
2)争点②について
(1) 原告
 本件更正と本件再更正とを比較すると、本件遺産分割審判の結果、原告が取得す
べき遺産の価額が増額される一方で、配偶者控除の規定(相続税法19条の2)が
適用された結果、全体としてみれば、税額が減額されることとなった。
 しかしながら、本件更正時点において配偶者控除の規定が適用されなかったの
は、当事者間において遺産分割協議が成立していなかったからにすぎず、本件は、
本来的には配偶者控除の規定が適用されて当然の事案なのであるから、本件再更正
は、実質的には、本件遺産分割審判の結果、原告が取得すべき遺産の価額が増額さ
れたことを理由とし、その増額部分について相続税額を増額させる増額再更正とみ
るべきものである。そうだとすると、相続税法51条2項2号ロにより、増額され
た相続税額(相続税増加部分)に対しては、相続税は発生しないものと考えるべき
である。
 また、上記の点に照らしてみれば、本件再更正は、配偶者控除の適用によって相
続税額を減額させる減額再更正部分と、取得すべき遺産の価額が増額されたことを
理由として相続税額を増加させる増額再更正部分とに分けることができ、この増額
再更正部分については、相続税法51条2項2号ロが適用され、延滞税が発生しな
いものというべきである。
(2) 被告
 配偶者控除の規定は、本件遺産分割審判が確定したことによって初めて適用が可
能となったものであり、本件更正時点においてはその適用の余地がなかったもので
あるから、あたかも本件更正時点においてその適用が認められるかのような前提に
立ち、本件再更正を実質的には増額再更正であるとするのは誤りである。
 また、本件再更正は、相続税額を減額させる減額再更正であり、原告のいう「増
額再更正部分」や「減額再更正部分」は、結論に至るまでの計算過程の問題にすぎ
ず、それ自体が独立した更正になるものではない。そして、減額再更正は、専ら税
額を減額させるものにすぎず、更正によって納付すべき税額は存在しない以上(国
税通則法29条2項によって、減額更正は、これにより減少した税額に係る部分以
外の部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさないこととされているのである
から、減額後の納税額が、減額更正によって「納付すべき税額」となるものではな
いことは明らかである。)、相続税法51条2項2号ロが適用される余地はないも
のである。
 以上の次第で、この点に関する原告の主張はすべて失当というべきである。
3)争点③について
(1) 原告
 本件差押えの対象となった本件土地建物の当初申告時における評価額(ただし、
原告の持分である2分の1に対応する評価額。以下同じ。)は、当初申告時におい
て合計1032万0792円であったところ、本件土地建物は、被告国税局長が延
滞税の免除を認めなかった期間についても、
平成8年当時は1614万6919円
平成9年当時は1254万6099円
平成10年当時は1074万5689円
の価値を有するものであった(甲17-19)。
 これに対し、相続税の本税の額は、892万2500円であり、延滞税の対象と
なるべき相続税額は381万9000円にすぎないのであるから、これを前提とし
た計算をすると、本件土地建物の差押えによって、平成元年から平成10年まで一
貫して「滞納に係る国税の徴収に必要な財産につき差押え」がされていたものとい
うことができるから、国税通則法63条5項により、上記の全期間にわたって延滞
税の免除がされるべきであったのに、平成8年以降の分につき延滞税の免除がされ
なかったのは違法である。
(2) 被告
 平成8年以降の分については、国税通則法63条5項に基づく延滞税の免除処分
がされておらず、また、延滞税不免除の不服部分に関する原告の訴えが不適法であ
ることは、既に主張したとおりであるから、原告が延滞税の不免除を争う余地はな
く、原告の主張は主張自体失当である。したがって、争点③に関する原告の主張に
ついて具体的な認否反論をする必要はない。
4)争点④について
(1) 原告
ア)2、2)、3)の主張を前提とすると、原告が納付すべき相続税の本税の額は
892万2500円であり、延滞税の額は、次のとおり合計397万9100円で
あって、その合計額は1290万1600円となる。
昭和63年11月3日から昭和64年1月2日まで
381(万円)×61(日)×7・3(%)÷365(日)=46、482(円)
昭和64年1月3日から平成5年12月14日まで
381(万円)×1807(日)×14・6(%)÷365(日)=2、753、
868(円)
平成5年12月15日から平成10年3月10日まで
381(万円)×1547(日)×7・3(%)÷365(日)=1、178、8
14(円)
以上の合計は、397万9164円
イ)これに対し、原告が納税した相続税本税及び延滞税額(還付金が充当された分
も含む。)は、次のとおり、合計1370万6200円となる。
原告の納付額・・・・・・・・・・893万0600円
Bへの還付金の充当額・・・・64万8200円
Cへの還付金の充当額・・・412万7400円
ウ)したがって、被告国が主張する延滞税額である1074万3200円と上記
ア)に記載した正しい延滞税額である397万9100円との差額である676万
4100円については延滞税の納付債務が存在しないものであり、また、上記イ)
記載の納付済税額1370万6200円は、上記ア)記載の相続税本税額と延滞税
額の合計1290万1600円を80万4600円上回っており、同額の過誤納金
が生じていることになるので、被告国は、原告に対し、上記部分について延滞税の
納付債務が存在しないことを確認するとともに、過誤納金を返還すべき義務を負う
ことになる。
(2) 被告
 原告の主張は争う。
 2、2)、3)に関する原告の主張が理由のないものであることは既に主張した
とおりであり、原告による延滞税額の計算は、誤った前提に基づくものであって失
当であることは明らかである。
第3 争点に対する判断
1 争点①について
1)延滞税不発生の不服部分について
 原告は、「延滞税不発生の不服部分に関しても、被告国税局長による延滞税賦課
決定処分に準ずる行政処分がされたものと解すべきである。」という趣旨の主張を
する。しかしながら、延滞税は、一定の事由が存在する場合には当然に発生するこ
とが予定されており(国税通則法60条等)、その発生について賦課決定処分等の
行政処分を要するものではないことは被告が主張するとおりであり、このことは、
延滞税不発生の不服部分についても何ら異なるものではない。
 原告は、「事情説明書(甲8、9)による原告の主張を無視して延滞税発生の処
理がされており、ここには被告国税局長の判断が介在するのであるから、この判断
を行政処分に準ずるものとみるべきである。」という趣旨の主張をするが、行政庁
の判断があれば行政処分が存在するとの主張に根拠がないことは明らかであり(ど
のような行政上の行為でも、その前提として行政庁の何らかの判断が存在すること
は当然である。したがって、行政庁の判断行為があるから行政処分に当たるという
ことはできず、それが行政処分に当たるかどうかは、その判断に基づく行為に特別
な法的効果が与えられているかどうかという観点から検討されるべきものである。
また、延滞税が当然発生の税である以上、原告に延滞税を発生させないための申請
権が認められるものではないことも明らかなのであるから、原告の申請に対する拒
否処分があったと理解して、行政処分性を肯定することもできない。)、上記主張
は到底採用できるものではない。そして、行政処分の存在が認められないとして
も、原告としては、延滞税納付債務の不存在確認を求めることによって、延滞税が
発生しているかどうかを争うことができ、現に本件においても、この訴えを提起し
ているのであるから、何ら不都合は生じないものというべきである。したがって、
この点に関する原告の主張は失当であり、採用することはできない。
2)延滞税不免除の不服部分について
 国税通則法63条5項は、国税局長等は、滞納に係る国税の全額を徴収するため
に必要な財産につき差押えをした場合等においては、その差押え等に係る国税の計
算の基礎とする延滞税につき、その差押え等がされている期間のうち、当該国税の
納期限の翌日から2月を経過する日後の期間に対応する部分の金額の2分の1に相
当する金額を限度として、免除することができる旨を定めている。そして、この規
定は、延滞税の免除をする場合に、免除処分という行政処分をすることを定めてい
るのみであって、免除をしない場合に何らかの処分をすべき旨は何ら定めていない
のであるから、免除をしない場合に不免除処分という行政処分をすることは予定し
ていないものと解さざるを得ない。このことは、一部免除処分の場合であっても同
様であり、延滞税の一部免除処分とは、一部免除処分と一部不免除処分を含むとす
る原告の主張は失当といわざるを得ない。そうすると、本件延滞税免除通知におい
て延滞税免除の対象とはされていなかった期間について、延滞税不免除処分という
行政処分がされたと理解することはできないのであるから、延滞税不発生の不服部
分と同様に、取消しの対象となる行政処分は存在しないものというべきである。
 このように解すると、国税局長等が延滞税の免除の要否に関する判断を誤り、本
来延滞税を免除すべきであるにもかかわらず、免除処分をしなかった場合であって
も、納税者としては不免除処分の取消訴訟を提起することはできず、また、延滞税
の免除がされていない以上、延滞税納付債務不存在確認訴訟等によってこれを争う
こともできないということとなり、不当な結果をもたらすとの疑問が生じないでは
ない。しかしながら、このことは、国税通則法63条5項の解釈上やむを得ない結
果であるといわざるを得ないし、また、この場合であっても、納税者としては、延
滞税の免除がされないことが違法であり、その結果損害を受けたとすれば、国家賠
償を請求することによってその救済を求めることは可能であると解すべきであるか
ら、これによって最低限の救済措置は確保されているものというべきである。
 したがって、この点に関する原告の主張は、審査請求前置主義違反や出訴期間徒
過についての被告の主張について判断するまでもなく失当であるといわざるを得な
い。
3)以上によれば、本件延滞税免除通知の取消しを求める訴えは、対象となる行政
処分が存在せず、不適法として却下するほかはない。また、同様の理由に基づく本
件裁決は適法というべきであるから、その取消しを求める請求は、理由がないもの
として棄却すべきものである。
2 争点②について
 前示のとおり、本件においては、①本件遺産分割審判の結果、原告が取得すべき
遺産の価額が増額する一方で、②本件遺産分割審判の確定により、配偶者控除の規
定の適用が可能になったため(相続税法19条の2第2項ただし書)、納税すべき
税額が減額されることとなったものである。
 ところで、①の事由は、相続税法31条1項(及び同法32条1号)によって修
正申告をすべき事由に当たり、②の事由は、同法32条6号によって更正の請求を
すべき事由に当たるものであるところ、同法31条、32条は、いずれも、同法3
2条各号(同法31条の場合には同32条1号から4号まで)に規定する事由が生
じたため、既に確定した相続税額に不足を生じた場合又は税額が過大となったとき
には、修正申告又は更正の請求をすべき旨を定めている。そして、これらの規定の
仕方からすると、同法31条、32条の規定は、所定の事由が生じて相続税額に変
動が生じた場合には、その事由ごとに修正申告又は更正の請求をすべきことを定め
ているものと解するのが相当であるから、納税者が規定の趣旨を忠実に守ってその
事由ごとに修正申告と更正の請求の双方の手続を行った場合はもとより、両者の事
由をまとめて更正の請求を行った場合においても、延滞税については、その事由ご
とに修正申告と更正の請求の双方がされたことを前提とした処理がされるべきもの
である。したがって、本件における延滞税の計算についていえば、①の事由を理由
とする修正申告と、②の事由を理由とする更正の請求があったことを前提とした処
理をするのが本来の姿であり、このことは、原告が相続税の更正の請求書(甲5)
という書面のみを提出した場合であっても異なるものではないというべきである。
 そうだとすると、①の事由を理由とする修正申告によって増額された税額に対し
ては、相続税法51条2項1号ロにより、当該申告書の提出があった日までの期間
は延滞税が課されないものと解すべきこととなるから(原告の主張には、このよう
な主張も含まれているものと解することができる。)、その意味において、原告の
主張は理由があるものというべきである。
 なお、このような見解に対しては、「仮に、上記のような理解をするとしても、
修正申告と更正の請求とが同時にされた場合、修正申告は直ちに確定するからそこ
で相続税額増額の効果が発生し、その後、更正の請求に基づく本件再更正(減額更
正)によって相続税額が減額され、その結果、最終的な税額は、本件更正当時の税
額を下回ることとなるのであるから、これらを全体として見れば、税額が減額され
ているだけであって、増額部分に対する延滞税の不発生という効果が発生する余地
はない。」との反論があり得るかもしれない。この反論を本件に即した数値で説明
すると、当初の申告によって確定していた税額が4444万9700円であったと
ころ、修正申告と更正の請求が同時にされ、まず修正申告によって税額が510万
3500円増加して4955万3200円となり、その後更正により税額が406
3万0700円減少して892万2500円となったのであって、全体としてみれ
ば税額が減額されているだけであるということになる。しかしながら、修正申告に
よって税額が増額した時点においては、その時点における相続税本税の総額495
5万3200円のうち、当初から存在した4444万9700円については、従来
どおり、その法定納期限以降の延滞税が発生しているのに対し、増額された510
万3500円については、修正申告書提出日の翌日以降延滞税が発生するにすぎな
いのである。すなわち、その後の更正によって、全体としての相続税本税が減少す
るとしても、その時点における相続税本税には延滞税の発生時期を異にする2つの
部分があるといわざるを得ないのであって、更正の結果減額された相続税本税につ
いて、上記のいずれの部分がどのように残存していると考えるかによって、相続税
法51条2項1号ロの適用の結果も大きく異なることとなるのである。そして、こ
のように相続税本税の中に延滞税の発生時期を異にする2つの部分がある場合にお
いて、更正によって税額が減額されるときにいずれの部分から減額すべきかについ
ては法律上の定めがないのであるから、相続税法全体の趣旨からその結果を導くほ
かないところ、本件のように減額更正の事由が修正申告の事由の存在を前提とした
ものではなく、仮に修正申告事由がない場合においても、当初の申告税額を同じよ
うに減額するものであるときには、更正によって減額されるのは、その時点で存在
する相続税本税のうち、修正申告事由の存在にかかわりなく存在する当初申告の部
分であると考えるのが相当である。このように考えると、更正の後には、修正申告
によって新たに発生した部分510万3500円については、更正によって影響を
受けず、相続税法51条2項1号ロにより、当該申告書(本件の場合は、これと同
視すべき更正請求書)提出の日の翌日以降延滞税が発生することとなり、その余の
部分についてのみ、相続税の法定納期限以降の延滞税が発生していることとなるの
であって、被告の主張は採用できない。
3 争点③について
 既に説示したとおり、延滞税は、賦課決定処分を待つまでもなく当然に発生する
ものなのであるから、原告が不服としている平成8年から平成10年までについて
も、年14・6パーセントの割合による延滞税が発生していることは明らかであ
る。
 これに対し、原告は、この期間については、国税通則法63条5項によって延滞
税の半額が免除されるべきであると主張するが、本件においては、その旨の免除決
定はされておらず、また、原告において免除決定がされていないことを争うことも
できないことは1、2)において説示したとおりである。
 そうすると、この点に関する原告の主張は失当というほかはない。
4 争点④について
 以上によると、原告の主張のうち、延滞税不発生の不服部分(争点③)は理由が
あるが、延滞税不免除の不服部分(争点④)は理由がないこととなるので、これを
前提として、原告が支払うべき延滞税の額を計算すると、次のとおり、その額は、
521万1100円となる。
昭和63年11月3日から昭和64年1月2日まで
381(万円)×61(日)×7・3(%)÷365(日)=46、482(円)
昭和64年1月3日から平成10年2月12日(更正の請求書により修正申告をし
た日)まで
381(万円)×3328(日)×14・6(%)÷365(日)=5、071、
872(円)
平成10年2月13日から同年3月10日まで
892(万円)×26(日)×14・6(%)÷365(日)=92、768
(円)
以上の合計・・・・・521万1122円
 他方、上記延滞税の支払として評価されるべき金額は、原告が相続税本税の額よ
りも多く支払った8100円、Bへの還付金を延滞税の支払に充当した64万82
00円、Cへの還付金を延滞税の支払に充当した412万7400円の合計478
万3700円となるから、結局、現段階においては、上記延滞税額から支払済みの
額を控除した残額である42万7400円の延滞税が残存していることとなる。
 したがって、原告の延滞税納付債務不存在確認請求は、延滞税納付債務が42万
7400円を超えて存在しないことの確認を求める限度では理由があるから認容す
べきであるが、これを超える部分は理由がないものとして棄却すべきものである
(なお、原告は、原告が発生せず、あるいは免除されるべきであると主張する延滞
税の合計額金676万4100円について延滞税納付債務の不存在確認を求めてい
る。しかしながら、延滞税納付債務の存否やその額を確定させるためには、同債務
の一部の存否確認ではなく、口頭弁論終結時における同債務の存否やその額を確認
するのが相当というべきであるところ、原告の請求には、この趣旨も含まれている
ものと解されるので、主文においては、延滞税納付債務が42万7400円を超え
て存在しないことの確認をすることとする。)。また、原告の過誤納金返還請求
は、上記のとおり過誤納金は存在しないものというべきである以上、棄却するほか
はないものである。
第4 結論
 以上の次第で、原告の本件延滞税免除通知取消請求に係る訴えを却下し、裁決取
消請求を棄却し、延滞税納付債務不存在確認請求を主文2項記載の限度で認容し、
その余を棄却し、過誤納金返還請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、
行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条、65条を適用して、主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 加藤晴子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛