弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 第一四号事件の訴えを却下する。
二 第一六号事件の訴え中、原告a及び同bの訴えをいずれも却下する。
三 第一五号事件原告らの請求並びに原告a及び同bを除くその余の第一六号事件
原告らの請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、第一四号ないし第一六号事件を通じて、いずれも各事件原告らの
負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
(第一四号事件)
一 請求の趣旨
1 被告市長は、アイランドシティ整備事業に関して、事務費・委託料等名目を問
わず一切の公金を支出し、契約を締結し若しくは履行し、又は債務その他の義務を
負担してはならない。
2 被告cは、福岡市に対し、金一億七四三六万二九九二円及びこれに対する平成
六年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言
二 本案前の答弁
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 本案の答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3(被告c)
 担保を条件とする仮執行免脱宣言
(第一五号事件)
一 請求の趣旨
1 被告市長は、福岡市が別紙埋立区域目録(一)記載の区域に計画している公有
水面埋立に関し、埋立工事費用等一切の公金を支出してはならない。
2 訴訟費用は被告市長の負担とする。
二 本案前の答弁
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 本案の答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(第一六号事件)
一 請求の趣旨
1 被告市長は、アイランドシティ整備事業に関して、事務費・委託料等名目を問
わず、一切の公金を支出し、契約を締結し若しくは履行し、又は債務その他の義務
を負担してはならない。
2 被告cは、福岡市に対し、金一億七四三六万二九九二円及びこれに対する平成
六年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言
二 本案前の答弁
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 本案の答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3(被告c)
 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二 当事者の主張
(第一四号事件)
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、福岡市による博多湾の人工島埋立計画とその決定、実現のプロセ
スに関心を持ち、会員相互間でこれを調査・研究するとともに、問題を社会に向か
って適宜問い掛けること等を目的とした、福岡市に住所を有する権利能力なき社団
である。
(二)(1) 被告市長は、右計画を策定し、現在、積極的に推進している。
(2) 被告cは、昭和六一年一二月から現在に至るまでの間、福岡市長の地位に
ある。
2 人工島埋立計画の概要
(一) 福岡市は、平成元年七月、博多港港湾計画を改訂し、和白干潟の沖を全面
的に埋め立てるという従来の港湾計画における方式から和白干潟を残した人工島を
建設するという方式に転換した。
(二) 福岡市は、国(運輸省第四港湾建設局)及び博多港開発株式会社ととも
に、博多港ふ頭株式会社を設立し、第三セクター方式によって、アイランドシティ
地区(和白干潟沖の南西水域)及び香椎パークポート地区(第二期工事地区)の水
域を埋め立てることとし、これをアイランドシティ整備事業(以下「本件整備事
業」というが、「本件埋立て」ということもある。)と命名して推進している。
(三) 本件整備事業の目的は、九州の中枢都市として福岡市が果たすべき役割を
見据えて、広域交流拠点機能の整備のための港湾機能の強化、福岡市の産業の高度
化と人材の定着を図るためのサイエンスパークの形成、快適な生活空間創造のため
の住宅用地及び緑地の整備等を行うことにある。
3 本件整備事業の実施までには、昭和五九年八月二八日閣議決定に係る環境影響
評価実施要綱(以下「実施要綱」という。)及び公有水面埋立法(以下「埋立法」
という。)等に従って、概ね次の手続が踏まれている。
(一) 環境影響評価に関する手続(以下「本件環境影響評価」という。)
(1) 事業者(福岡市)による環境影響評価準備書(以下「本件準備書」とい
う。)の作成
(2) 本件準備書の公告及び縦覧
(3) 説明会の開催
(4) 関係地域住民の意見書の提出
(5) 関係市町村長及び知事(福岡県知事)の意見
(6) 事業者による環境影響評価書(以下「本件評価書」という。)の作成
(7) 本件評価書の公告及び縦覧
(二) 埋立免許の付与に関する手続
(1) 港湾管理者の長(福岡市長)に対する埋立免許の出願
(2) 出願の告示及び埋立願書等の書類の縦覧(告示日から三週間)
(3) 地元市町村長の意見
(4) 港湾管理者の長から主務大臣(運輸大臣)に対する認可申請
(5) 環境庁長官の意見
(6) 主務大臣の認可
(7) 港湾管理者の長による埋立免許の付与
4 本件整備事業には、次の(一)ないし(三)の諸点にかんがみれば、重大かつ
明白な違法性が存在する。
(一) 埋立法四条一項二号違反
 本件整備事業は、次の(1)ないし(3)の諸点において、環境保全につき十分
な配慮をしたものとはいえないため、埋立法四条一項二号の免許許可事由が存在し
ない。
(1) 和白干潟の海生生物の保護について
 和白干潟の汚泥化の進行によって一一年前と比較して鳥の餌になるゴカイ等の海
生生物が激減しており、本件整備事業が右状況の悪化に拍車をかけることになるの
は明白である。したがって、この点について何らの配慮もすることなく安易な予測
に基づき実施される本件整備事業は、同号に照らしても免許が付与されるべき埋立
てには該当しない。
(2) 和白干潟の鳥類の保護について
 本件整備事業が博多湾の水質悪化・和白干潟の汚泥化に悪影響を与えるのは確実
であり、その結果、鳥類の生息状況にも悪影響を与えるのは必至である。したがっ
て、この点について何らの配慮もすることなく、鳥類の自然環境保全に厳しく配慮
を求める本件準備書に対する福岡県知事及び環境庁長官の各意見を無視する形で、
安易な予測に基づき実施される本件整備事業は、「特に水鳥の生息地として国際的
に重要な湿地に関する条約」(以下「ラムサール条約」という。)の趣旨にも抵触
し、同号に照らしても免許が付与されるべき埋立てには該当しない。
(3) 博多湾の水質悪化の危険について
 福岡市の下水処理場における高度処理は、未だに処理技術開発中であり、アイラ
ンドシティ地区付近に流入する多々良川流域の下水道は、特に整備が遅れている。
また、そもそも高度処理によってはプランクトン増加の原因の一つである窒素を除
去することができないことはよく知られている事実である。このような実情を考慮
することなく、実現の保障のない高度処理技術の導入を前提とした本件整備事業
は、まさに同号の要件を満たさないものである。
(二) 憲法一三条及び二五条違反
 本件整備事業は、世界的野鳥の宝庫であり、福岡市民にとっては家族連れで潮干
狩りや野鳥の観察等を楽しむ絶好の場所として利用されてきた和白干潟の現況に重
大かつ不可逆の悪影響を与えるものであるから、福岡市民の人間生活にとって必要
不可欠ともいうべき良好な環境を支配し、これを享受する権利(環境権)(憲法二
五条)を侵害するとともに、本件整備事業の工事に伴う騒音、振動等により付近住
民の生活上の利益に甚大な影響を与える危険が極めて高いから、付近住民の人格権
(憲法一三条)を侵害し、また、後記(三)(3)記載のとおり、本件整備事業に
よる交通事情への影響に関する配慮を欠くことは福岡市民の幸福追求権(同条)を
も侵害している。
(三) 地方自治法一三八条の二違反
 社会的・政治的・経済的局面等において市民の利害及び価値観が多様化し、見通
しの立てにくくなっている現在では、開発計画の策定からその実施に至る過程にお
いて、市民の利害及び価値観を反映させ、調整してゆくことがますます必要になっ
てきており、右は地方公共団体の執行機関の誠実執行義務(地方自治法一三八条の
二)の裁量を厳しく制約するものというべきであるところ、被告市長は、本件整備
事業の実施に至る過程において、次の(1)ないし(4)のとおり、行政裁量権の
適切な行使を怠ったものであり、右誠実執行義務に違反するから、本件整備事業
は、手続的にも違法である。
(1) 本件環境影響評価の内容の不当性
イ 水質汚濁の防止に関する事項
① 本件準備書において、福岡市は、同市及び福岡県管轄の流域下水道全部につい
て高度処理が導入されるとしていたが、本件準備書作成当時、同県は高度処理計画
を有していなかったのであり、それにもかかわらず、同計画の存在を前提として本
件評価書を作成した。
② また、水質予測については、リンの高度処理により見誤らない保障があるとさ
れるが、リンの高度処理が福岡県下において実施される計画はないし、水質汚濁防
止のための高度処理については、窒素も対象にすることが必要であるところ、窒素
については検証もされていないのであるから、水質予測を間違える可能性は十分に
ある。
③ さらに、潮流予測について、本件評価書では海底摩擦係数を用いていると説明
するが、それだけでは、本当に海底摩擦係数が使用されたのか、使用された結果、
どのようなことが分かったのかが明らかではないし、浅海域についての予測は水理
模型実験を用いるべきであるとする意見に対しては、何の反論も答えもない。
ロ 自然環境の保全に関する事項
 本件準備書に対する福岡県知事の意見は、鳥類の生息状況につき調査をすること
を求めるものであったところ、福岡市は、本件評価書に、右意見が述べられる前に
行われた調査をもって調査した旨の記載をしており、これは虚偽を記載したものと
いえる。
 また、人工島建設予定地は博多湾に生息する魚類にとってなくてはならない場所
であるから、右生息地をなくすことの影響について調査すべきであるのにこれをし
ないのは許されない。
ハ 過去の百道浜埋立ての環境影響評価においても水質は改善されるとしながら、
実現されなかったにもかかわらず、本件整備事業の際には実現可能であるというこ
とについて納得できる説明がなく、各意見に対しても、新たな根拠や資料を示すこ
となく、説明にならない説明に終始している。
(2) 本件環境影響評価の手続の不当性
イ 実施要綱によれば、事業者は、関係住民の意見を聴いた上で環境影響評価(以
下「評価書」という。)を作成するものとされているところ、右意見には当然反対
意見も含まれると考えられるにもかかわらず、本件環境影響評価がなされる前に開
催された福岡市民の意見発表会(以下「意見発表会」という。)において、本件整
備事業の実施に対する反対意見が多数表明されたものの、本件評価書にはそれが全
く反映されておらず、福岡市は、本件整備事業の実施に反対する住民の意見を最初
から無視していたものといわざるを得ない。
ロ 本件整備事業は福岡市民全体に関わりを持つにもかかわらず、本件準備書の縦
覧場所及び説明会の場所が福岡市東区に限定された。
ハ 実施要綱によれば、環境影響評価準備書(以下「準備書」という。)に対する
関係住民の意見書の提出期間は、縦覧期間及びその後二週間の間とされているとこ
ろ、本件準備書にあっては右二週間の期間が六日間延長されたが、本件整備事業の
規模に照らし、また、本件準備書の縦覧期間が年末年始に設定されたことからすれ
ば、これでは短かすぎる。
ニ 水質汚濁に関する極めて重大な指摘がある福岡県知事の意見が出されてわずか
八日後に本件評価書が縦覧に供されているから、その間に右指摘につきどの程度検
討されたのか疑われるし、同知事が意見を述べる際の専門委員の顔触れが本件評価
書を作成する際の専門委員と殆ど変わらない上、同知事の意見は本件準備書と異な
るものであったことからすれば、本件評価書の作成過程には払拭し難い疑問が残
る。
ホ 潮流予測の方法については、通常、本件整備事業のような大規模な埋立てにつ
いては財団法人海洋科学技術センターに調査が委託されるのに、本件整備事業では
委託がなかったのは異例である。これは、その予測が不利であることを見越して、
故意に避けたものである。
(3) 交通問題に関する福岡市の説明とその欺瞞性
 本件整備事業は、アイランドシティ地区及び香椎パークポート地区に出入りする
新たな交通量を生み出し、福岡市の東部地域の交通渋滞のみならず、都心の交通渋
滞に悪影響を及ぼすことになる。被告らは、右の事情を熟知しながら全く言及せ
ず、福岡市民に対しては、志賀島・海の中道地区と都心・香椎地区とが短距離・短
時間で連絡できるようになることのみを強調して、人工島建設につき世論を賛成の
方向に誘導してきたのであり、本件整備事業を推進するに当たって採ってきた被告
らの手法は、極めて不誠実かつ詐欺的な手法である。
(4) 財政面における問題点
 福岡市は、本件整備事業を推進するために、経済状況の変化等で合理性を失った
ことの明らかな従前の資金計画を見直すこともせず、十分な判断資料を添付しない
まま建設着工のための予算を議会に提出して、極めて形骸化された形で予算審議を
進める一方、住民に対しては事実を曲げてまで財政的不安感を惹起しないような宣
伝・広報活動を行っていたものである。
5 福岡市の被った損害額
 被告cは、平成四年度本件整備事業関連予算については別紙平成四年度分人工島
埋立計画関係出費一覧表記載のとおり、平成五年度本件整備事業関連予算について
は別紙平成五年度分人工島埋立計画関係出費一覧表記載のとおり、福岡市をして各
支出させたが、本件整備事業は違憲違法であり、これに関する公金支出も違憲違法
であるから、福岡市は、被告cによって右支出額の限度で損害を被ったことにな
る。
6 被告cの責任原因
 被告cは、本件整備事業に前記違憲違法原因が存することを十分認識していたこ
とは明らかであるから、福岡市に対し前記損害を与えたことにつき、故意又は過失
がある。
7 住民監査請求の前置
(一) 平成六年三月一八日、原告は福岡市監査委員に対し、住民監査請求をした
が、同月三〇日、右請求は却下された。
(二) 右却下の理由は、原告が「法人格のない団体であり、法律上の行為能力が
認められていないため請求人とはなりえない」ということであったところ、地方自
治法は、住民監査請求人を自然人及び法人に明示的に限ってはいないし、実質的に
も、個人にとって事実上容易でない行政実態の調査、検討等を伴わざるを得ない住
民監査請求制度を実効あらしめるためには、法人のみならず権利能力なき社団も請
求人たり得るとするのが合理的であるから、右住民監査請求は適法であるにもかか
わらず、右監査委員がその判断を誤って違法に却下したものである。したがって、
本件訴えは、住民監査請求を経たものとして適法であるというべきである。
8 結論
 よって、原告は、被告市長に対しては、地方自治法二四二条の二第一項一号に基
づき、本件整備事業(実質的にはそのうちアイランドシティ地区における福岡市の
埋立事業に限られる。)に関する公金支出等の差止めを、被告cに対しては、同項
四号に基づき、福岡市に代位して損害賠償金一億七四三六万二九九二円及びこれに
対する本訴状送達の日の翌日である平成六年五月二五日から支払済みまで民法所定
の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 本案前の抗弁
1 訴訟法上の当事者能力の欠如
 権利能力なき社団としては、団体としての組織を備え、多数決の原理が行われ、
構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、
総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要する
ところ、原告は、右要件を満たしていないから、権利能力なき社団には当たらず、
したがって、訴訟法上の当事者能力を有しない。
2 原告適格の欠如
 仮に原告が権利能力なき社団に当たるとしても、次の事由により、地方自治法二
四二条の二に基づき住民訴訟を提起することができる「普通地方公共団体の住民」
には当たらないから、原告適格がない。
(一) 「住民」とは「市町村の区域内に住所を有する者」であるが(地方自治法
一〇条一項)、権利能力なき社団については住所の所在を認めるべき根拠を欠く。
(二) 住民監査請求及び住民訴訟の提起を主たる活動目的として結成された原告
に「住民」の地位を認めることは、個々の住民に住民監査請求権を付与した制度目
的に反する。
3 適法な住民監査請求の欠如
 住民訴訟の提起が適法であるためには、適法な住民監査請求を経ていることが必
要であるところ、原告のした住民監査請求は不適法であるとして却下されており、
右却下の判断は次の事由により適法であるから、本件訴えは適法な住民監査請求を
経ていない。
(一) 原告は、権利能力なき社団には当たらない。
(二) 仮に原告が権利能力なき社団に当たるとしても、次の事由に照らし、住民
監査請求をすることができる「普通地方公共団体の住民」には当たらない。
(1) 権利能力なき社団は、住所の所在を認める根拠を欠く。
(2) 権利能力なき社団に住民監査請求をすることができる住民の地位を認める
ことは、個々の住民に対し一定の財務会計上の非違行為の予防又は是正を果たす役
割を認めた住民監査制度の目的に反する。
(3) 権利能力なき社団に住民監査請求をすることができる住民の地位を認める
と、その構成員に住民監査請求の対象となる普通地方公共団体以外の普通地方公共
団体の住民が含まれていた場合、当該普通地方公共団体の住民に限り認められると
する地方自治法二四二条一項の規定に反すると解されるところ、原告は構成員たる
会員及び協力会員の資格として福岡市民であることを要件としておらず、また、会
員に福岡市外の住民が含まれていることが認められるから、原告が住民監査請求を
することができるとすると、同項の規定に反することになる。
(4) 権利能力なき社団の構成員全員が当該普通地方公共団体の住民であれば、
住民たる右構成員とは別に当該社団に住民監査請求をすることができる地位を重ね
て認めるべき合理的必要性ないし理由はない。
(三) 仮に、原告が権利能力なき社団に当たり、かつ、権利能力なき社団に住民
監査請求をすることができる地位が認められるとしても、平成六年二月二八日、原
告の構成員三三名は住民監査請求をしていたところ、原告は、同年三月一八日に右
請求と同一内容の住民監査請求をしたのであるから、実質的には、同一住民による
同一行為に対する再度の住民監査請求というべきものであり、許されない(最高裁
昭和六二年二月二〇日第二小法廷判決民集四一巻一号一二二頁参照)。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実のうち、原告が福岡市に住所を有する権利能力なき社
団であることは否認し、その余は認める。同(二)(1)の事実は否認し(被告市
長)、同(二)(2)の事実は認める(被告c)。
2 請求原因2の事実のうち、(一)及び(三)は認め、(二)は否認する。本件
整備事業は、昭和六三年四月に策定された福岡市総合計画及び平成元年七月に改訂
された博多港港湾計画(以下「本件港湾計画」という。)に基づき、博多湾東部の
公有水面を、別紙埋立区域目録(一)ないし(三)記載の区域(以下、一括して
「本件埋立区域」といい、個別には「本件埋立区域(一)」などという。)に分け
て、同市、博多港開発株式会社及び国(運輸省第四港湾建設局)がそれぞれ主体と
なって、アイランドシティ地区(別紙埋立区域図面のうち斜線部分の区域を指す。
以下「本件人工島予定地」といい、右区域が埋め立てられたものを「本件人工島」
という。)及び香椎パークポート地区(第二期工事地区)について、埋立てを行
い、整備する事業をいう。福岡市は、平成六年四月一一日、本件埋立区域(一)に
ついて埋立法二条に基づく埋立免許(以下「本件免許」という。)を取得し、本件
免許に基づき、埋立事業を行っている(以下「本件埋立事業」という。)。
3 請求原因3の事実は認める。
4 請求原因4は争う。
5 請求原因5及び6は否認し、又は争う(被告c)。
6 請求原因7のうち、(一)の事実は認めるが、(二)は争う。
四 本案についての被告らの主張
1 原告は、公金支出行為や契約締結等の固有の違法性を主張せず、単にそれらの
原因行為としての本件整備事業の違法性を主張するのみであるところ、本件整備事
業のうち本件埋立事業は、事業者である福岡市が本件免許を適法に取得し、その権
原に基づいて行っているものであるから、原告の請求は、事業者たる福岡市の右埋
立権原を否定した上で初めて成立するものである。
 しかるに、右埋立権原は免許という行政処分によって付与されたものであるか
ら、これを否定するためには本件免許の取消訴訟を提起し、判決によって本件免許
が取り消されることが必要であるが、そのような事実はないから、本件免許及び埋
立権原は適法に存在するものと扱われることになる。
 したがって、これに基づく本件埋立事業も適法であり、原告の右主張は主張自体
失当といわざるを得ない。
2 もっとも、原告は、本件整備事業には重大かつ明白な違法性がある旨主張して
いるから、これを、行政処分である本件免許に重大かつ明白な瑕疵があるから無効
であるとの主張、或いは仮にそうでないとしても、少なくとも本件免許が著しく合
理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存
在するとの主張であると理解した上で、原告の主張(請求原因4)に則して反論す
ることとする。
(一) 埋立法四条一項二号違反との主張について
 福岡市は、本件埋立事業の実施に際し、実施要綱、「運輸省所管の大規模事業に
係る環境影響評価の実施について」(昭和六〇年四月二六日運環第二五号)で通知
された「運輸省所管の大規模事業に係る環境影響評価実施要領」(以下「実施要
領」という。)及び「埋立て及び干拓に係る環境影響評価指針」(昭和六一年三月
二六日港管第七一六号。以下「指針」という。)に基づき、本件環境影響評価を適
法に実施して本件評価書を作成し、環境への影響は小さいとの予測結果を得た上
で、本件評価書を基に埋立法施行規則三条八号に規定された「環境保全に関し講じ
る措置を記載した図書」を作成し、公有水面埋立願書に添付し、本件免許の出願を
行い、事業者たる福岡市とは別個独立の権限を有した港湾管理者の長、運輸大臣及
び環境庁長官の各審査を受け、本件免許を取得した。
 したがって、本件埋立事業は、埋立法四条一項二号に違反するものではない。
 原告の前記個別主張に対しては、次のとおり反論する。
(1) 和白干潟の海生生物の保護について
 本件環境影響評価によると、本件埋立ての工事中は汚濁防止膜を展張して濁りの
拡散を防止すること、さらに、将来下水処理場で高度処理(脱リン)が導入される
こと、和白下水処理場の放流口を本件人工島予定地の西端に変更することといった
水質保全対策を講じることにより、和白干潟周辺の水質や底質は保全されると予測
している。また、本件人工島予定地周辺は静穏な海域であること、潮流の変化によ
る漂砂への影響も小さいことから、地形変化は殆どないと予測され、本件整備事業
を実施しても和白干潟の海生生物への影響は殆どないと予測している。
 したがって、本件埋立事業が和白干潟の海生生物の生息状況を悪化させることは
ないと考えられる。
(2) 和白干潟の鳥類の保護について
 本件環境影響評価によると、和白干潟の水質や底質は保全され、海生生物への影
響は殆どないと予測されることなどから、本件整備事業を実施しても和白干潟の鳥
類への影響は小さいと予測している。
 したがって、本件埋立事業が和白干潟の鳥類の生息状況に悪影響を与えることは
ないと考えられる。
(3) 博多湾の水質悪化の危険について
 本件環境影響評価によると、平成一二年度までに福岡市のすべての下水処理場で
高度処理(脱リン)が導入されることにより、本件整備事業が竣功する平成一五年
度において、博多湾内のリンが削減され、本件人工島予定地周辺の水質は向上する
と予測している。また、福岡市では、既に平成五年度から和白、西部及び中部下水
処理場への高度処理施設の導入を開始しており、今後各処理場への導入を順次進め
てゆき、平成一二年度には福岡市のすべての下水処理場で高度処理導入を完了する
計画であり、原告が主張するような「実現の保障のない高度処理技術の導入を前提
とした」ものではない。さらに、福岡県が所管する流域下水道についても、高度処
理の早期導入について福岡市から福岡県に要望してきたところであり、福岡県では
平成六年度から三か年計画で「特定水域高度処理基本計画」を策定することとして
いる。
 したがって、本件埋立事業が博多湾の水質を悪化させることはないと考えられ
る。
(二) 憲法一三条及び二五条違反との主張について
 本件埋立事業は、本件環境影響評価において、環境保全が図られるとの予測結果
を得て、埋立法四条一項二号の要件を満たしていることから本件免許を受けて実施
されているものであり、さらに、本件埋立事業の実施に当たっては、適切な環境監
視を行い、環境保全対策を講じることにより、環境に十分配慮して進めているとこ
ろであるから、人格権及び環境権を侵害するものではない。
(三) 地方自治法一三八条の二違反との主張について
 そもそも、同条に規定する誠実執行義務は、市長等の地方公共団体の執行機関が
その任務を遂行してゆく上での当然の心構えを明らかにしたもので、条理上負うべ
き一般的抽象的義務にすぎない上に、被告市長は、本件埋立事業の事業者たる福岡
市の市長として、埋立法所定の手続に基づき、適正に本件免許を受け、また、本件
環境影響評価についても、実施要綱等に基づき、適正な手続を経て本件評価書を作
成するとともに、埋立免許出願に際し、環境保全に関し講じる措置を記載した図書
として、埋立願書に添付し、港湾管理者の長、運輸大臣及び環境庁長官の各審査を
経ているなど、いずれも適正に手続が行われている。
 また、本件整備事業の計画策定の段階から意見発表会の開催など新たな手法を積
極的に取り入れて市民意見の把握とそれの事業計画への反映、更には市民の合意形
成に努めてきたところである。
 なお、原告の個別主張に対しては、次のとおり反論する。
(1) 「本件環境影響評価の内容の不当性」について
イの①及び②について
 指針によると、環境影響評価の実施に際し、予測を行うに当たっては、「事業者
等が公害の防止及び自然環境の保全のための措置を講ずる場合には、その措置を踏
まえて行うことができる。」とされており、また、評価については、「国又は地方
公共団体等が実施する公害の防止及び自然環境の保全のための施策を勘案すること
ができる。」とされている。
 ところで、リンの高度処理については、福岡市では、既に平成五年度から和白、
西部及び中部下水処理場への導入を開始し、和白下水処理場では、平成八年度から
高度処理施設が稼働している。また、福岡県では、平成六年度から平成八年度まで
の三か年計画で「博多湾特定水域高度処理基本計画」の策定が進められている。
(2) 「本件環境影響評価の手続の不当性」について
イについて
 意見発表会では一七二名から意見が述べられたが、福岡市は、清掃工場の設置、
景観に配慮した港湾施設の整備、多世帯住宅・高齢者向け住宅の導入など様々な意
見を取り入れた上でアイランドシティ基本計画を策定した。
 意見発表会で表明された反対意見のうち、環境への悪影響を理由とするものにつ
いては、その理由に十分の考慮を払って本件環境影響評価を実施したが、本件埋立
ての工事、本件人工島の存在及び利用が環境に与える影響の範囲は本件人工島予定
地及び浚渫区域の近傍に限られ、影響の程度も小さいことから、環境保全目標を満
足するという評価結果を得たものである。また、本件埋立事業の必要性がないこと
を理由とした反対意見については、右理由を十分考慮検討した結果、その必要性が
十分存在すると結論を得たところである。
 事業者たる福岡市は、関係地域住民の意見及び福岡県知事の意見について本件準
備書の記載内容を検討し、修正を加えた上で、本件評価書を作成し、住民の縦覧に
供しているのであり、住民の意見を聴く姿勢がないとは原告独自の主張である。
ロについて
 関係地域とは、実施要綱によれば、「対象事業の実施が環境に影響を及ぼす地域
であって、当該地域の住民に準備書の内容を周知し、意見を把握することとなる等
環境影響評価手続等を進めるに当たり基本となる地域であり、これを適切に定める
ことが当該手続等の円滑な進行を期する上で重要である。これを定めるに当たって
は、対象事業が実施される地域の実情及び関係地方公共団体の長の意見を踏まえ、
当該地域を含む住居表示による町、丁目、字等の区画等を用いて定めることができ
るものとする。」とされている。
 事業者たる福岡市は、本件環境影響評価に係る関係地域の設定に当たり、右通達
に基づき、事業実施による環境影響の予測結果等を基に、福岡県知事の意見も踏ま
えて、関係地域を福岡市東区としたものである。
 右を前提として、福岡市は、説明会については、実施要綱において、事業者は準
備書の縦覧期間内に、関係地域において、その説明会を開催することとされている
ことに基づいて、本件整備事業の関係地域である福岡市東区で開催したものであ
り、また、本件準備書の縦覧場所については、関係地域内である福岡市東区内の区
役所に加え、事業者たる福岡市の事務所所在地である福岡市博多区の福岡市港湾局
としたものである。
ハについて
 本件準備書は、指針に基づき、記載すべき事項を網羅しつつできるだけ分かりや
すくまとめて作成したものであり、本件準備書の縦覧に当たっては、実施要綱に基
づいて、一か月間の期間を設けるとともに、公害の防止及び自然環境保全の見地か
らの関係地域内に住所を有する者の意見書の提出期間については、年末年始に掛か
ったことを考慮して、実施要綱で定められた「準備書の縦覧期間(一月間)及びそ
の後の二週間の間」を六日間延長したものである。
 また、実施要綱で定められた意見書の提出期間は妥当というべきであるから、事
業者たる福岡市は、実施要綱に基づいて縦覧期間を定めて、本件準備書を縦覧に供
したものである。
(3) 「交通問題に関する福岡市の説明とその欺瞞性」について
 本件人工島における道路の整備については、箱崎、香椎方面と同地区を経て雁の
巣方面を結ぶバイパス機能を持つ道路の整備によって、本件人工島や香椎パークポ
ート地区の発生集中交通量に対応するばかりでなく、箱崎、香椎方面から、本件人
工島を経て雁の巣方面に抜ける通過交通も負担することから、本件整備事業により
新たな交通渋滞を招くことはない。
(4) 「財政面における問題点」について
イ 資金計画書について
 資金計画書の具体的内容については、免許権者である港湾管理者の長及び認可者
である主務大臣が審査することになっており、資金計画書について議会で議決する
制度にはなっていない(埋立法二条、三条及び四七条並びに埋立法施行令三二条三
号及び三二条の二参照)。
 なお、埋立法三条一項に関する関係通達によると、資金計画書は、少なくとも縦
覧すべき関係図書には含まれない。また、資金計画書は、設計概要説明書と照らし
合わせることにより、各年次ごとの工事の発注金額や設計金額が容易に推定され、
公共事業の公正な執行に支障が生じる(競争入札に意味がなくなる。)ことから公
表されていないのである。
ロ 財政負担について
 本件整備事業は、埋立ての形式は変更されたものの、昭和三五年に策定された博
多港港湾計画から計画されていたものであり、本件港湾計画に基づき、都市機能の
強化を図るために長期的展望に立って実施しており、短期的な経済情勢の変動に左
右されるものではない。
(第一五号事件)
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも福岡市の住民である。
(二) 被告市長は、福岡市の公金支出に関する最終責任者である。
2 本件整備事業の概要
 本件整備事業は、本件港湾計画に基づき、福岡市、同市の出資に係るいわゆる第
三セクターである博多港開発株式会社及び国の三者の共同事業として、本件埋立区
域(合計約四〇六・三ヘクタール)を約四六〇〇億円の費用と約一〇年の歳月をか
けて埋め立てようとするものである。
 このうち、福岡市の施行する部分は、本件埋立区域(一)(約二〇九・五ヘクタ
ール)であり、事業費用は約二二〇〇億円である(なお、本件埋立区域(二)の約
一九一・八ヘクタールは博多港開発株式会社の、本件埋立区域(三)の約五ヘクタ
ールは国の各施行部分である。)。
3 公金支出の違法性
 本件整備事業は、前記2のとおり、福岡市、博多港開発株式会社及び国の共同事
業であるところ、各施行部分は不可分一体のものとなっているから、本件整備事業
が違法であれば、本件埋立事業も違法である。そして、公金支出行為が違法となる
のは単にそれ自体が直接法令に違反する場合のみならずその原因となる行為が法令
に違反する場合も含まれるから、違法な本件整備事業のうち福岡市が施行する部分
である本件埋立区域(一)の埋立てを原因とする被告市長の埋立工事費用等一切の
公金支出(以下「本件公金支出」という。)も違法である。
 仮に、公金支出の原因となる行為が違法であってもその違法性が重大かつ明白で
ない限りは当該公金支出は違法にはならないとしても、本件公金支出における原因
行為は、後記4の諸事情からして重大かつ明白な違法性を有する。
4 本件整備事業の違法性
(一) 和白干潟及びその前面浅海域の自然環境としての重要性
(1) 干潟や浅海域などの水辺環境は、熱帯林と並んで、多様な生態系を豊かに
育み、地球上の生物多様性を確保する上で重要な自然環境である。また、国境を越
えて渡来する渡り鳥にとって、こうした環境は豊富な餌を提供する渡りの中継地・
生息地となっており、渡り鳥の地球規模での渡りのルートを保護する上からも欠く
ことができない。さらに、干潟や浅海域などの水辺環境は、多様な生物の営みを通
じて、水質を浄化する巨大な自然の浄化槽としての意義を有し、バードウォッチン
グ、貝掘りなどのレクリエーションや自然の営みを学ぶ環境教育の場としても、水
文学の上からも、限りない価値を有している。
(2) 博多湾は、シベリアから中国大陸、朝鮮半島を経由し、或いは日本列島を
経由して、東南アジアやオーストラリア大陸へと渡って行く渡り鳥の、東アジアに
おける国際的な渡りのルートが交錯するところに位置している。そのため、博多湾
は多数の渡り鳥が渡来する日本有数の野鳥の宝庫となっており、クロツラヘラサ
ギ、ズグロカモメ、カラシラサギなどの絶滅のおそれのある渡り鳥も定期的に渡来
している。
(3) 和白干潟及びその前面浅海域(以下「和白干潟等」という。)は、博多湾
における渡り鳥の中継地・生息地の中核として、東アジアにおける地球規模での渡
りのルートの存続の上で、また、渡来してくる絶滅危惧種の渡り鳥を絶滅のおそれ
から守る上で、国際的に重要な自然環境である。それと同時に、住民に対しては、
貝掘り、バードウォッチング、自然観察などの多様なレクリエーションと環境教育
の場として、また、博多湾の豊かな水産資源を育む場として、さらに、汚染の甚だ
しい博多湾の水質を浄化する自然の浄化槽として、限りない自然の恵みを与え続け
ている。
(4) 我が国は、干潟や浅海域などの水辺環境を「湿地」と規定し、その保護を
目的とするラムサール条約や、「渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類並びにその環
境の保護に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定」、「渡り鳥及び
絶滅のおそれのある鳥類並びにその環境の保護に関する日本国政府とアメリカ合衆
国政府との間の条約」、「渡り鳥及びその生息環境の保護に関する日本国政府と中
華人民共和国政府との間の協定」及び「渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類並びに
その生息環境の保護に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の
条約」(以下、一括して「各二国間渡り鳥条約」という。)を締結しているが、こ
れらの条約を誠実に遵守するためにも、和白干潟等は重要である。
(二) 埋立法四条一項一号違反
 本件整備事業の予定地の浅海域とその影響が及ぶ周辺の浅海域及び和白干潟は、
前記(一)のとおり、福岡市民のみならず全国的・国際的に重要な自然環境である
ので、合理的な必要性のない埋立ては、埋立法四条一項一号にいう「国土利用上適
正且合理的」とは評価し得ないところ、本件整備事業の目的として掲げられている
港湾施設整備、サイエンスパーク整備、住宅用地整備及び緑地整備はいずれも必要
性がないし、また、本件整備事業により東部地域の交通渋滞が解消されることはあ
り得ず、福岡市民が余りに過大な事業費を負担することになるという財政上の観点
からしても合理性がないものであるから、本件整備事業は同号に違反する。
(1) 港湾施設整備の必要性
 工業地帯などの背後圏を持たない博多港においては、将来大幅に貨物量が増加す
る見通しはなく、生活港湾としての少々の貨物量の増加であれば、既存の港湾施設
及びふ頭用地が十分に活用されていないので、これを活用することによって対応可
能である。
 貿易港としては、隣接する北九州港などでも港湾施設の整備が進められているこ
とに照らせば、港湾整備は全体として過剰投資であることが明らかである。都市機
能の分担という見地からは、浅海域のため大型船が出入りする近代的港湾に適さな
い博多港よりも、近代的港湾としての実績を積んでいる北九州港に今後の港湾施設
整備を期待すべきであり、隣接港湾との貨物の奪合いという都市間競争を激化させ
ることを前提とした港湾整備のための埋立てには合理性がない。
(2) サイエンスパーク整備の必要性
 サイエンスパークを構成するとされる工業用地、研究施設用地、交流施設用地の
いずれも、計画どおりに企業や研究機関が進出してくる見通しはない。
 福岡市は、本件港湾計画の策定に際し、企業などに対するアンケート調査を実施
したようであるが、抽象的な意向調査にすぎず、また、バブル経済真っ盛りの異常
な経済状況下での調査であるから、右調査を根拠としたことは不合理である。
(3) 住宅用地整備の必要性
 住民一人当たりの水資源量が少ないことでは日本でも屈指の福岡県の大都市であ
り、かつ、水不足、ゴミ処理問題などの都市問題を抱える福岡市にあっては、本来
住宅問題は、いたずらな人工増加を抑制して福岡一極集中を是正しながら対応され
なければならないのに、これを行わないまま埋立てによって住宅用地を造成するの
はいかにも安易であり、合理的必要性がない。
 また、少々の人口増加に対しては、旧国鉄香椎操車場跡地や九州大学跡地など、
内陸部に十分なスペースがある上、現在空洞化しつつある福岡中心部における定住
化の促進や福岡都市圏を構成する周辺市町村との機能分担などによって解決するこ
とが可能である。
 さらに、近年施行されたシーサイドももちや香椎浜の埋立事業においても、住宅
予測を誤ったため埋立地の用途変更がなされ、当初の目的とは別目的の利用がなさ
れるに至った。この教訓を何ら明確にしないまま行われようとしている住宅目的の
本件埋立てには、合理的必要性のないことが明らかである。
(4) 緑地整備の必要性
 本件人工島内の住宅や港湾、研究施設の関係者の憩いの場としての緑地は、そも
そも右住宅等の合理的必要性がないのであるから、緑地整備の必要性もない。
(5) 東部地域の交通渋滞解消
 福岡市は、本件整備事業の目的の一つとして、東部地域の交通渋滞の解消を図る
ことを掲げているが、本件整備事業の完成によって多大な交通量が発生するから、
交通渋滞が解消するどころか、一層悪化する危険性がある。
(6) 事業費の過大な負担
 本件整備事業において岸壁や航路等の公共施設の整備に要する約一〇三四億円の
うち、国の直轄事業以外の補助事業約四九〇億円の内訳には、福岡市の従前の説明
と異なり、同市の一般財源約二七〇億円が含まれている。また、その余の約三五五
四億円については、その一部を用地の売却による資金で賄おうとしているが、売却
が思うように進まなければ、結果として同市の財政につけが回されてくることは明
らかである。さらに、同市の財政は、平成六年度の公債比率において健全度の警戒
ラインとされる一五〇パーセントを突破したり、起債の増加を抑制するため、本件
整備事業の事業費の約四割を博多港開発株式会社の事業としたりするなど、真に火
の車であるから、本件整備事業を実施する必要性はない。
(三) 埋立法四条一項二号違反、人格権及び環境権侵害
 本件整備事業は、次のとおり、自然及び生活環境の著しい破壊を招くので、埋立
法四条一項二号に違反するとともに、福岡市民の人格権及び環境権を侵害する。
(1) 本件埋立ての対象水域の消滅による悪影響
イ 鳥類の生息域の消滅
 本件埋立てにより四〇一ヘクタールもの広大な面積が陸地化するところ、本件人
工島予定地は、博多湾東部海域の中でも水鳥(カモ類、カンムリカイツブリ、シ
ギ・チドリ類)の生息密度が高い水域であるから、この水域を営みの地とする右水
鳥の生息地が奪われることになる。
 右水鳥は残った付近の水域に移動すれば生存し得るというわけにはゆかない。こ
の水域の水鳥は、通常水深三ないし五メートルの海底で採餌するため、潮の干満に
合わせて、満潮時には和白・香椎沖に、干潮時にはやや深い西戸崎沖にそれぞれ移
動して採餌するから、本件埋立てにより和白・香椎沖の浅海域が失われると、残さ
れた西戸崎沖では干潮時にしか採餌することができず、一日に必要なエネルギーを
補給することができなくなる。気温が低くエネルギー要求が高い冬季には、餌が十
分に取れなかった個体は死に至る。
 したがって、本件埋立てが本件人工島予定地に生息する水鳥に致命的な打撃を与
えることは確実である。
ロ 底生生物の生息域の消滅
 本件埋立てによりその水域及び海底に生息する底生生物はすべて死滅する。例え
ば、和白干潟付近の潮間帯及びその周辺には、ハクセンシオマネキを初めとするエ
ビ、カニ、ヤドカリなどの甲殻類が生息しているが、これらの甲殻類はプランクト
ン幼生期を浅海域で送るから、本件埋立てにより広範な浅海域が消滅すれば、この
水域で幼生期を過ごす甲殻類も大きく減少する。
 また、浅海域に生息する生物は有機物の代謝を通じて海水の浄化に大きな寄与を
しているから、本件埋立てにより右浄化機能も失われてしまい、周辺水域の汚染を
進行させることになるのは必至である。
(2) 周辺水域(特に本件人工島の背後水域である和白干潟沖)への悪影響
イ 和白干潟沖の外海水との水交換の悪化
 本件埋立ては和白干潟の前面水域を対象にしているところ、これにより建設され
る本件人工島と香椎パークポートとの間の水路の幅はわずか一〇〇メートル、雁の
巣海岸との間のそれは五〇〇メートルであるから、和白干潟沖は殆ど閉鎖水域とな
る。
ロ 背後水域の水質の悪化
 もともと博多湾の水質は全体として悪化の一途を辿っているが、東部海域はその
傾向が特に顕著である。湾奥部の水質測定地点における平成四年度COD七五パー
セント値は一リットル当たり四・〇ミリグラムとなっており、福岡県環境白書(平
成五年度版)は、これについて「湾奥部では外海水との交換が悪く、栄養塩類によ
る内部生産も汚濁の要因となっている」と説明している。
 福岡市も、昭和四七年に改訂された博多港港湾計画において、本件整備事業のそ
れとほぼ同じ位置にほぼ同規模の人工島方式の埋立てを行うことを企図したことが
あるが、背後水域の潮流が遅くなり、同水域が停滞水域となって水質が悪化すると
いう理由で、昭和五三年に改訂された港湾計画では人工島方式の埋立てを断念した
経緯がある。
ハ 背後水域の塩分濃度低下のおそれ
 博多湾は、もともと海水の八割の交換に約二週間を要するというように交換の悪
い水域であり、東部海域ほどその傾向が顕著である。そのため、博多湾では東部に
行くにつれて塩分濃度が低下している(現在でも、本件人工島予定地付近は西部海
域に比べて〇・一パーセントほど塩分濃度が低い。)が、本件埋立てによりその傾
向が更に進むおそれがある。
 塩分濃度の低下は、その水域に生息する魚類や底生生物の種類はもとより、生態
系全体に大きな影響や変化を及ぼす。それが又、この水域の動物を餌として飛来す
る鳥類の生態に大きな影響を与えることになる。
ニ 背後水域の浅海化・陸地化のおそれ
 本件埋立てにより全体的に背後水域の海水の流れが悪くなることは前記イのとお
りであるが、周辺沿岸との狭い水路(本件人工島の南北及び香住ケ丘方面)では、
特に干満の交代時には一時的かつ相対的に潮流が早くなることが予測される。
 これらの潮流は、本件人工島の背後水域に流入する河川や雨水排水管に混じって
いる多量の土壌性浮遊物質を撹拌し、それにより、互いに集まり大きな粒子となっ
て次第に沈降する。また、水域の塩分濃度の低下は右浮遊物質の凝縮・沈降を促進
する。
 このようにして、現在でも見られる浅海化が、本件埋立てにより更に進み、将来
的には陸地化してゆくことが予測される。
ホ 底質の悪化
 近年、博多湾東部海域の底生生物、砂浜・干潟生物の個体数や生物相は大きく変
化してきている。例えば、昭和六二年と平成二年の環境調査の結果によると、浅海
域ではシズクガイなど泥質底を好む種が多数を占めるようになっている。個体数を
見ても、平成二年には昭和六二年に比し約半分に減少しており、泥質を好む生物に
とってさえ生息しにくい環境になりつつあることを示している。また、砂浜・干潟
域では、個体数こそ約二倍になっているが、これは専ら泥質に群生するホトトギス
ガイの急増によるものである。昭和六二年の調査時には、泥地帯・転石帯に生息す
るミズヒキゴカイや砂地に生息するイトゴカイの仲間、砂礫泥質に生息するアサリ
なども多く見られたが、平成二年の調査では、アサリの個体数は半減し、イトゴカ
イの仲間やミズヒキゴカイは殆どいなくなっている。これは、砂浜・干潟域におけ
る泥質の堆積、そして汚染の進行を示唆するものである。
 本件埋立てがこのような傾向を更に促進することは明らかである。また、前記ニ
のようにして沈降する粒子には有機物その他の汚濁物質が付着しているので、これ
らの粒子の沈降は本件人工島の背後水域の底質を悪化(ヘドロ化)させてゆく。
 このような状況のもとでは、現在でも減少傾向にある底生生物は絶滅してゆくこ
とが予測される。砂浜・干潟域でも、泥質を好む生物の増加など生物相の単調化に
拍車がかかり、結局は生物数の大幅な減少がもたらされる。また、ハクセンシオマ
ネキを初めとするエビ、カニ、ヤドカリなどの甲殻類も、残された浅海域の汚染の
進行により大きく減少するであろう。
 そして、右底生生物の減少は、浅海域・干潟の浄化能力の低下、ひいては右水域
の汚染の進行につながり、それは更に底生生物を減少させるというような悪循環を
もたらし、底質の悪化は加速度的になってゆくことが考えられる。
ヘ 鳥類の生息環境の消滅
 前記ニのとおり和白干潟が陸地化すればもとよりのことであるが、そこまでゆか
なくとも、本件人工島の背後水域の底生生物が減少・消滅してゆくことにより、こ
れらを主要な餌とする百数十種の野鳥類はここを生息の場とすることができなくな
る。そうすれば、和白干潟は渡り鳥の飛来地としての機能を失うことになる。
(3) 悪臭の発生
 本件人工島の背後水域のヘドロ化や、富栄養化のため異常発生したアオサなどの
腐食によって発生した悪臭は、周辺住民の生活環境を破壊する。
(4) 景観の破壊
 博多湾においては、相次ぐ埋立てのため自然海岸が次々になくなり、わずかに湾
の西部と本件人工島予定地周辺の湾東部に残るばかりとなっているところ、自然海
岸にとって沖合はるかに見渡せる眺望はその価値を構成する重要な要素である。と
ころが、本件埋立てによって、周辺の香椎・香住ヶ丘・和白・奈多・雁の巣の広範
な海岸線のすぐ目の前に本件人工島が建設され、そこに中高層建物や倉庫が建ち並
ぶと、こうした眺望が奪われ、自然海岸の重要な要素である景観が破壊されてしま
う。
(5) 交通渋滞の悪化による生活環境の破壊
 本件埋立てによって、港湾業務などのため、一日当たり四万九〇〇〇台の新たな
交通量が発生する。既に埋立中の香椎パークポートの埋立地が完成すると、一万四
〇〇〇台の交通量が新たに発生するから、これと併せると、合計六万三〇〇〇台も
の交通量が発生することになり、周辺の交通渋滞は一層甚だしくなる。
 その結果、交通事故の虞や交通騒音、大気汚染、外出時の利便性の悪化など、周
辺の住環境は著しく悪化する。
(6) 災害発生のおそれ
 埋立地においてはしばしば地盤沈下が生じているが、地盤沈下は、埋立地の構造
物に影響を与え、とりわけ地震発生の際には埋立土砂の流動化などで取返しのつか
ない重大な被害を発生させる。
 福岡市の周辺地域には内陸直下型地震の震源断層となりうる活断層があるから、
本件整備事業においては大規模地震を想定した災害対策が必要であるところ、これ
をなさないまま本件整備事業が実施されようとしている。
(四) 埋立法四条一項三号違反
(1) 本件埋立ては環境基本法に基づく環境基本計画に違反する。
 政府は、平成六年一二月一六日、環境基本法一五条一項に基づき、環境基本計画
を定めたが、そこでは、例えば、生物の多様性を確保するという観点から生物の多
様性に関する条約に基づく国家戦略を策定するほか、「人間の活動により野生動植
物に取り返しのつかない影響を与えないようにするため、各種事業の実施に際し
て、事業の特性や具体性の程度に応じ、事前に十分に調査・検討を行うとともに、
影響を受ける可能性のある生物の生息・生育に関し適切な配慮を行う」こととして
いるところ、本件整備事業が右計画に違反することは明らかである。
(2) 本件埋立ては生物の多様性に関する条約に基づく生物多様性国家戦略に違
反する。
 生物の多様性に関する条約は平成五年一二月二九日に発効し、これに基づき、平
成七年一〇月に生物多様性国家戦略が策定されたところであるが、そこでは、例え
ば、「湿地については、人間の生活域周辺に存在し、人間活動の様々な影響を受け
ていることが多いから、これらの湿地生態系の特長を維持することを目的とした保
護地域の設定を推進するための施策の展開を図る。また、我が国で開催された第五
回ラムサール条約締結国会議の決議を受けて、渡り鳥の渡来地として国際的に重要
な湿地のラムサール条約登録湿地としての登録を進めるとともに、その適切な管理
に努める。」などと定められているところ、本件整備事業が右戦略に違反すること
は明らかである。
(五) 埋立法四条一項違反(自然保護に関する条約違反)
 本件埋立ては、国際的に重要な湿地の自然環境を破壊するとともに、各二国間渡
り鳥条約に規定された保護すべき渡り鳥の生息地を破壊するので、ラムサール条約
並びに各二国間渡り鳥条約に違反し、条約遵守義務を定めた憲法九八条二項に違反
する。
 なお、埋立法四条一項各号は、最小限の免許基準を例示的に定めたものにすぎな
いところ、憲法九八条二項の条約遵守義務の趣旨からすると、条約違反の埋立て
は、埋立法四条一項各号に規定されていなくとも、同項に違反する。
(六) 適正手続(憲法三一条)違反
 本件整備事業のように、国際的価値を持つ市民共有の財産としての自然環境を改
変する事業にあっては、その手続は十分な世論の合意と適正な環境影響評価手続を
経て実施されなければならない(憲法三一条)ところ、本件整備事業は、次のとお
り右のいずれをも欠いているから、違法である。
(1) 合意形成の欠如
 本件整備事業は、昭和六三年四月に構想として発表された当初から、多くの市民
の反対や見直しを求める声が上がったにもかかわらず、このような世論を無視して
進められており、合意形成は全くできていない。
(2) 適正な環境影響評価手続の欠如
イ 本件環境影響評価は実施要綱に基づき実施されているところ、そもそも実施要
綱自体、既に国際的に確立された環境影響評価に関する準則を満たしていない。
 したがって、本件環境影響評価にも次のような欠陥があり、到底適正な環境影響
評価たり得ないから、本件整備事業は適正な環境影響評価を経ているとはいえな
い。
① 代替案及びゼロサム案の欠如
 環境影響評価に関する最初の体系的な法制度として国際的に認められている米国
の国家環境政策法(以下「米国環境法」という。)においては、本案と並んで代替
案(本案よりも環境への影響が少ない案)及びゼロサム案(全く開発をしない案)
の提示が義務付けられている。
 環境影響評価は、そもそも開発・環境を巡る政策決定に住民の意向を反映させる
という住民自治の理念に基づくものであるから、複数の選択肢を示して、それを住
民自身に選捉させるという方法を採ってこそ、実効的なものになる。また、自然環
境は極めて複雑なものであるから、開発が環境に及ぼす影響をいくら科学的に予測
したとしても、単純化・抽象化した数値による計算に基づく以上、自ずと限界はあ
る。そうであるからこそ、ある程度蓋然性をもった予測を複数の場合について行
い、それを比較して選択・決定するということが重要なのである。
 しかるに、本件環境影響評価は、事業者が計画している本案についての予測がな
されているだけである。
② 計画段階からの環境影響評価の欠如
 本件整備事業は、本来、西部地区の埋立て及び香椎パークポートの埋立てと一体
の事業であるところ、このような場合、米国環境法やヨーロッパの多くの先進国の
制度においては、全体の事業計画が策定された段階で住民の意見を問うこととされ
ているが、福岡市は、このような計画段階からの環境影響評価を行わず、それぞれ
の埋立事業を切り離して個別に環境影響評価を行っている。
③ 内容を検証する第三者機関の欠如
 米国環境法においては、環境影響評価が行われた場合、それが科学的な予測たり
得ているか否かを審査する機関があり、その機関が科学的であると認めたもののみ
が住民に公開される。開発を行おうとしている事業者が自分で環境影響評価を行う
場合、その客観性に疑問が生じるのは当然であるから、客観性・科学性を担保する
ために第三者機関による審査が必要となるのである。
 これに対し、本件環境影響評価は、事業者である福岡市が行ったものであって、
第三者機関による検証を経ていないままであり、これでは事業者の恣意をチェック
するべくもない。
ロ また、事業者が環境の現状と事業実施による環境への影響評価を記載した準備
書を関係住民に縦覧し、関係住民や知事からの意見を求めて、自主的に環境への悪
影響を防止しようという環境影響評価の目的を達成するためには、単に形式的に右
手続を踏むのではなく、少なくとも、事業者が環境破壊を未然に防止する真摯な観
点に立って適正な調査・予測を行い、これに基づいて準備書が作成されているこ
と、住民が十分に検討して意見を述べられるように準備書の記載が配慮されている
こと、住民や知事の意見に対して真摯に耳を傾ける姿勢を事業者が持ち、それらの
意見に道理があれば、調査・予測をやり直し、その結果、計画を変更又は中止する
こともあり得るという姿勢を持っていることなどが必要である。
 ところが、本件環境影響評価においては、次のとおり、到底右要件を満たしてい
ない。
① 科学的に適正な調査・予測が行われていない。
② 本件準備書の縦覧期間が年末年始の住民が最も多忙な時期に設定されていた
り、本件準備書が膨大であるにもかかわらず、科学的検討に必要なデータが開示さ
れていないどころか、逆に素人には理解し難いものになっていたり、説明会も、配
布されたパンフレットをなぞるだけの運用がなされたりするなど、住民の意見を真
摯に聴くという配慮に欠けている。
 また、福岡市民全体の関心事であるにもかかわらず、関係地域が東区のみに限定
され、広範な市民の声に耳を傾けるという姿勢が欠如している。
③ 住民はもとより福岡県知事からも再調査や再予測を求める意見が寄せられたに
もかかわらず、福岡市はこれを無視した。
 また、被告市長自らも、本件環境影響評価の手続開始直後から、世論を無視する
発言をし、環境影響評価を形式的な手続としか位置付けていない姿勢を示してい
る。
ハ 被告市長は、昭和五六年、内閣が国会に提出した環境影響評価法案が成立する
ことを前提に、福岡市として環境影響評価条例の制定の必要性はないものと判断
し、同市議会もこれを支持して住民の直接請求に係る右条例案を否決したものであ
るところ、右法案は廃案になり、その後も本件環境影響評価が実施されるまで制定
されるに至っていないのであるから、同市としては、計画段階からの環境影響評価
や代替案の検討、地域住民の意思の反映などの内容が盛り込まれた環境影響評価条
例を制定した上、環境に配慮した社会的意思決定をすべき義務があったにもかかわ
らず、これを怠り、漫然と実施要綱にのみ依拠して、本件環境影響評価を実施し
た。
ニ 本件整備事業は昭和五三年に改訂された博多港港湾計画に基づくものであると
ころ、同計画は合計九四一ヘクタールにも及ぶ博多湾東部地域及び西部地域を埋め
立てようとするものであるにもかかわらず、福岡市は、まず、昭和五六年に西部地
域のみにつき、次に、昭和六一年に東部地域のうち名島地区につき、それぞれ細切
れに環境影響評価を実施したばかりか、各環境影響評価において、後続の埋立事業
がないことを前提に評価書を作成している。また、昭和四七年に改訂された博多港
港湾計画において採用されていた人工島方式が、前記昭和五三年の港湾計画改訂の
際に、周辺地域の環境を悪化させるという理由で陸続き方式に変更されたにもかか
わらず、本件港湾計画において特段の根拠等も示さず突如として人工島方式が復活
されている。
5 本件公金支出の相当の確実性
 本件整備事業は、既に埋立工事に着工し、現在もなお進行中であるから、福岡市
が工事請負契約などを締結し、これに公金を支出することは相当な確実さをもって
予測されるところである。
6 回復困難な損害の発生
 干潟や浅海域の自然環境は、一度破壊されてしまうと元には戻らない。
 また、本件埋立事業のために福岡市が支出する公金は、工事費用だけで約二二〇
〇億円にも及び、後日、被告市長に対し損害賠償の代位請求をしても回収は不可能
である。
 したがって、本件公金支出が回復困難な損害を発生させることは明らかである。
7 住民監査請求及びその結果
 平成六年三月二五日、原告らは福岡市監査委員に対し、地方自治法二四二条に基
づき住民監査請求をし、同年五月一八日、右監査委員は原告らに対し、右請求には
理由がない旨の通知をした。
8 結論
 よって、原告らは、被告市長に対し、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づ
き、本件公金支出の差止めを求める。
二 本案前の抗弁(別訴禁止規定違反)
 第一五号事件に先立ち第一四号事件が係属しているところ、第一五号事件の訴え
は、第一四号事件における被告市長に対する請求と同一の請求をするものであるか
ら、第一四号事件が適法に係属しているとすれば、第一五号事件の訴えは地方自治
法二四二条の二第四項の規定に違反し不適法となる。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1、5及び7の各事実はいずれも認める。
2 請求原因2の事実のうち、前段は否認し、後段は認める。
3 請求原因3は争う。
4 請求原因4については、(一)(1)の事実のうち、干潟や浅海域などの水辺
環境が、熱帯林と並んで、多様な生態系を豊かに育み、地球上の生物多様性を確保
する上で重要な自然環境であること、国境を越えて渡来する渡り鳥にとって、豊富
な餌を提供する渡りの中継地・生息地となっており、渡り鳥の地球規模での渡りの
ルートを保護する上からも欠くことができないこと、水質を浄化する機能を有する
ことは認めるが、その余は知らない。同(2)の事実は認める(ただし、クロツラ
ヘラサギが定期的に飛来するのは今津干潟である。)。同(3)の事実のうち、和
白干潟等が、博多湾における渡り鳥の中継地・生息地の中核として、東アジアにお
ける地球規模での渡りのルートの存続の上で、また、渡来してくる絶滅危惧種の渡
り鳥を絶滅のおそれから守る上で、国際的に重要な自然環境であることは認める
が、その余は知らない。同(4)の事実のうち、我が国がラムサール条約及び各二
国間渡り鳥条約を締結していることは認めるが、その余は知らない。
 同(二)ないし(六)はいずれも争う。
5 請求原因6の事実は否認する。
四 本案についての被告市長の主張
1 本件整備事業は、福岡市、国及び博多港開発株式会社がそれぞれの施行区域に
関し、それぞれが事業主体として埋立法二条一項に基づく免許又は四二条一項に基
づく承認を受け、独自の事業として実施するものであり、国及び博多港開発株式会
社が施行する埋立事業に関しては、被告市長は答弁する立場にない。したがって、
以下、項を改めて、本件整備事業が違法であるとの原告らの主張(請求原因4)に
対して順次反論するが、その際には、本件埋立事業に限って主張する。ただし、本
件環境影響評価に関する部分は、これが本件整備事業について行われていることか
ら、本件埋立事業にとらわれずに主張する。
2 埋立法四条一項一号違反との主張について
 福岡市は、本件埋立事業を施行するに際し、法に基づく適正な手続を踏まえて本
件免許を取得しているところであるが、港湾管理者の長が免許するに当たっては、
免許の基準として埋立ての免許の出願が埋立法四条一項各号に適合することを判断
しているし、また、埋立法四七条一項により、主務大臣(運輸大臣)の認可を受け
ることとされていて、ここでも、同様の判断がなされているから、本件埋立事業は
埋立法四条一項一号の要件を満たしている。
 また、本件埋立事業は次のとおり必要性がある。
(一) 港湾施設整備の必要性について
 博多港は、福岡市を初めとする博多港背後圏の市民生活や都市活動に必要となる
物資を中心に取り扱っており、北九州港との機能分担も踏まえて、本件港湾計画で
は平成一二年の将来貨物量を約二九六〇万トン(フェリーによる航送車両を除
く。)と予測しているところ、平成七年における取扱貨物量は約三四一六万トン
で、既に右将来貨物量を上回っているから、新たな港湾施設の整備が必要である。
 また、港湾法二条二項は国の利害に重大な関係を有する港湾で政令で定めるもの
を「重要港湾」と規定し、同法四二条二項は重要港湾のうち外国貿易の増進上特に
重要な港湾で政令で定めるものを「特定重要港湾」としているところ、右政令によ
れば、九州地域では博多港及び北九州港が特定重要港湾と定められており、外貿コ
ンテナバース等の整備の必要性があるのは明らかである。
(二) サイエンスパーク整備の必要性について
(1) サイエンスパークは、福岡市の産業構造の重層化、経済の自立性の確保や
人材の定着を目的として、都市型製造業の住工混在の解消や育成強化、基礎研究か
ら応用・開発研究に至る様々な研究施設の集積を図るもので、福岡市の将来にとっ
て必要なものである。
 なお、福岡市は、食料品製造業用地、出版・印刷・同関連産業用地及び金属機械
器具製造業用地(以下「工業用地」という。)を事業者として整備することになっ
ているが、研究施設用地及び交流施設用地については、博多港開発株式会社が事業
者として整備することになっており、被告市長としては答弁する立場にない。
(2) 工業用地の必要性
 福岡市の産業構造は、第三次産業に特化しており、製造業の構成比の急速な低下
が見られるところ、同市がバランスある都市として成長してゆくためには製造業の
育成・強化が急務となっている。また、同市の製造業事業所の立地状況は住工混在
が著しくなっており、工場側には工場拡張の困難性や操業規制等の問題が、住民側
には騒音や振動による生活環境の劣悪化の問題が生じている。したがって、住工混
在を解消し、都市型製造業の育成強化を図ってゆくためには、工業用地の確保が必
要である。
 なお、福岡市は、昭和六三年五月に「福岡市東部地区産業立地意向アンケート」
を実施したが、埋立ての規模を算定する一資料とするためのものであり、個々の企
業の進出計画に応じて工業用地を確保しようとするものではない。
(三) 住宅用地整備の必要性について
 福岡市は、福岡市総合計画において、平成一三年の人口を一四一万五〇〇〇人と
予測しており、これに対応して水、ごみ処理や住宅地の確保等を計画している。将
来の住宅地の確保に当たっては、既存市街地の高度利用や未利用地の活用、市街化
調整区域から市街化区域への計画的編入によっても対応することができない人口に
ついて、臨海部での埋立てにより創出される土地で対応することにしている。
(四) 緑地整備の必要性について
 港湾施設、サイエンスパーク等の整備のため埋立てを行う必要がある以上、そこ
で働き、住む人々のための憩いの場としての緑地は当然必要である。
(五) 東部地域の交通渋滞解消について
第一四号事件の四2(三)(3)に同じ。
(六) 事業費の過大な負担について
 本件埋立事業の事業費について福岡市民の負担が過大であるか否かは財政運営上
の政策に係る問題であり、被告市長が調製した予算(地方自治法一四九条二号)に
ついて、福岡市議会が議決(同法九六条一項二号)によってその是非を判断すべき
事項である。
3 埋立法四条一項二号違反、人格権及び環境権侵害との主張について
(一) 第一四号事件の四2(一)の冒頭部分に同じ。
(二) 本件埋立ての対象水域の消滅による悪影響について
(1) 鳥類の生息域の消滅について
 本件整備事業においては、和白干潟等の生態系の保全に配慮して干潟と一体とな
った約四七〇ヘクタールの海域が残されるし、本件埋立てによっても和白干潟周辺
の水質や底質が悪化することはなく、海生生物への影響は殆どないことから、海域
の一部消滅や本件埋立てに伴う工事による鳥類の生息状況への影響は小さい。
 海ガモ類やカイツブリ類は、潜水深度が主に一ないし三メートルであり、本件埋
立てにより消滅する海域の平均水深が三・五ないし四メートルであることからすれ
ば、干潮・満潮を問わずに和白・香椎沖で採餌することに支障はないし、また、仮
に三メートルより深い海域で採餌しているとしても、消滅海域と同程度の水深の海
域は、本件人工島予定地周辺に広く存在するから、水鳥の採餌場は保全されてい
る。
(2) 底生生物の生息域の消滅について
 エビやカニなどの甲殻類の幼生は、浮遊生活をする動物プランクトンの一種であ
り、潮の流れにより浮遊し、博多湾全域で見られるものである。そして、動物プラ
ンクトンは、本件埋立てにより分布域が減少するが、潮流の変化が本件人工島予定
地近傍に限られ、水質の変化も殆どないので、プランクトンの生息状況への影響は
殆どない。
 なお、本件埋立てにより本件人工島予定地に生息する底生生物の生息域の一部が
消滅するものの、和白干潟等には多くの底生生物が生息し、潮流の変化は本件人工
島予定地近傍に限られ、水質及び底質の変化も殆どないことからその生息環境が保
全されるので、底生生物への影響は小さく、水域の浄化機能への影響は少ない。
(三) 周辺水域(特に本件人工島の背後水域である和白干潟沖)への悪影響につ
いて
(1) 背後水域の水質の悪化について
 本件整備事業により本件人工島予定地と雁の巣、香住ヶ丘や香椎パークポートの
間では潮流は多少速くなるが、和白、香椎、御島崎海域の海流は、本件人工島がな
い場合と比較して遅くなることはない。さらに、将来、下水処理場での高度処理が
導入されること及び現在、和白海域に放流している和白下水処理場の放流口を本件
人工島予定地の西端に変更することにより、本件人工島周辺海域の水質は、現状よ
りも改善される。
 昭和五三年の博多港港湾計画の改訂においては、昭和四七年に改訂された港湾計
画における人工島方式では、埋立地背後水域は当時の現況に比べ、流速が大きく低
下して停滞水域となり、拡散についてもそれによる影響が認められたことから、埋
立方式を陸続き方式に変更したものであるが、本件港湾計画における人工島方式で
は、背後水域が停滞水域となることはなく、本件人工島予定地周辺の水質保全を図
ることができると予測されたことなどから、埋立方式を再び人工島方式に改めたも
のである。
(2) 背後水域の塩分濃度低下のおそれについて
 和白下水処理場の放流口の変更に伴い、和白下水処理場の放流地先で一六・二パ
ーミルが、〇・一ないし〇・三パーミル上昇する程度であり、本件整備事業による
塩化物イオン濃度の変化は殆どない。
(3) 背後水域の浅海化・陸地化のおそれについて
 本件人工島がある場合とない場合とでは、本件人工島予定地近傍の水路部におけ
る流速の差が多少あるものの、その他の海域では流速の変化は小さく、塩化物イオ
ン濃度の変化も殆どない。また、本件人工島予定地周辺海域への河川からの流下土
砂量は少なく、水質及び底質への影響も小さい。したがって、本件整備事業の実施
によって本件人工島の背後水域の浅海化・陸地化が生じることはない。
(4) 底質の悪化について
 一般に、底生生物や干潟・砂浜生物の個体数は、優占種の変遷や季節的な要因に
より大きな変動が見られるものといわれており、個体数の変動をもって直ちに底質
が悪化しているとはいえない。
 また、本件人工島の存在に伴う底生生物への影響については、生息域の一部消滅
等により生息状況が変化するものと考えられているが、底生生物は周辺海域に広く
分布していること及び潮流の変化は本件人工島予定地近傍に限られ、水質・底質の
変化も殆どないことから、生息状況への影響は小さい。干潟生物についても、人工
島方式により干潟を保全すること、潮流の変化は本件人工島予定地近傍に限られ、
地形変化は小さいこと及び水質・底質への影響も殆どないことから、影響は殆どな
い。したがって、底生生物、砂浜・干潟生物の減少による浄化能力の減少や底質の
悪化ということはない。
(5) 鳥類の生息環境の消滅について
 前記(3)のとおり、和白干潟が陸地化することはなく、同干潟及びその前面浅
海域で水質や底質が悪化することはない。したがって、餌生物の生息状況の変化も
小さいから、鳥類の生息状況への影響は小さい。
(四) 悪臭の発生について
 本件整備事業の実施に伴う水質や底質への影響は小さいから、底質の悪化やアオ
サの異常発生はなく、悪臭により周辺住民の生活環境が破壊されることはない。
(五) 景観の破壊について
 本件評価書によると、本件整備事業の実施に当たっては、建物等の適正な配置を
行うとともに、親水護岸や幅約四〇メートルの緑地を配置するなど、周辺の景観と
の調和を図るとともに、環境の保全に相応しい良好な全体景観を創出することか
ら、景観変化の影響は小さいものと予測している。
 さらに、福岡市は、専門家等の意見を聴いて景観形成ガイドラインを策定し、良
好な景観の創造に努めることとしている。
 このように、福岡市は、景観への十分な配慮を行うことにより、環境変化の最小
化に努めることとしている。
(六) 交通渋滞の悪化による生活環境の破壊について
 第一四号事件の四2(三)(3)に同じ。
(七) 災害発生のおそれについて
 本件埋立てにおける埋立工事の設計に当たっては、「港湾の施設の技術上の基準
を定める省令」(昭和四九年七月一六日付け運輸省令第三〇号)に基づき定められ
た「港湾の施設の技術上の基準・同解説」によるほか、運輸省港湾技術研究所や学
識経験者等による博多港港湾整備事業推進協議会専門委員を設置し、災害発生対策
に関しても技術的検討を十分に行いながら設計している。
 また、埋立土砂の流動化(液状化現象)とは、強い地震による振動で緩く詰まっ
た砂質土の粒子の組合せが崩壊し、地盤が泥水のように流動化し、支持力がなくな
る現象をいうが、本件埋立てにおいては、主に均一な砂とは異なるシルト及び粘性
土を用いて行い、埋立て後、ボーリング調査を密に行い、その地盤状況及び土地の
利用目的に応じた地盤改良を行って、よく締まった良好な地盤の埋立地を造成して
ゆくこととしている。
(八) 人格権及び環境権侵害について
 第一四号事件の四2(二)に同じ。
4 埋立法四条一項違反(自然保護に関する条約違反)との主張について
(一) ラムサール条約は、各締約国の領域内にある湿地の保全とワイズユース
(賢明な利用)を目的とする政府間の協定であり、そこには具体的な保護の手段が
明示されておらず、それぞれの国内法に委ねられているところ、我が国では、鳥獣
及び狩猟に関する法律、自然環境保全法及び自然公園法によって、湿地の保護の措
置が講じられている。
(二) また、各二国間渡り鳥条約は、渡り鳥がそれぞれの国に季節的に生息して
おり、鳥類の保全のためには両政府間の協力を欠くことができないものであること
から締結されたものである。右条約には、「各政府は渡り鳥の捕獲及び卵の採取を
禁止するものとする」と規定されており、我が国では鳥獣及び狩猟に関する法律に
よって渡り鳥の保護の措置が講じられている。
5 適正手続(憲法三一条)違反との主張について
(一) 「合意形成の欠如」について
 事業者である福岡市は、埋立法所定の手続に基づき適正に本件免許を取得し、ま
た、環境影響評価に関しても実施要綱などに基づき適正な手続を経て実施してい
る。
 また、本件整備事業の計画策定の段階から意見発表会の開催など新たな手法を積
極的に取り入れて市民の意見の把握とそれの事業計画への反映、更には市民の合意
形成に努めてきたところである。
(二) 「適正な環境影響評価手続の欠如」について
(1) イ及びロについて
 原告らの主張は、結局、我が国における環境影響評価制度に対する意見ないし批
判というべきものであって、立法政策論に関わる事項にほかならないから、本件免
許の埋立権原の有効無効を左右するものではない。
 なお、OECDが行った加盟国に対する環境影響評価立法化の理事会勧告が、加
盟国に対し法的拘束力を有しないものであることはいうまでもないが、原告らの主
張する国際的な環境影響評価に関する準則なるものは、国際社会で一般的に承認・
実行されている国際慣習法として確立されるまでには至っていないものであって、
「確立された国際法規」(憲法九八条二項)には当たらず、また、その内容が国内
行政に関する具体的定めを含んでいるものでもない。
(2) ハ及びニについて
 この点に関する原告らの主張は、本件埋立事業の手続的違法性を主張するもので
はないといわねばならないが、以下、念のため反論しておく。
ハについて
 当時の福岡市長は、環境影響評価条例案の審議に際し、国の動向を踏まえる旨答
弁したにすぎず、同条例の制定を公約したものではないし、そもそも条例の制定
は、議会の議決によらねばならないことはいうまでもないことである。
ニについて
 原告らの主張する埋立事業については、昭和五三年の博多港港湾計画の改訂に際
して、港湾計画全体が実施された場合に環境に与える影響について、予測、評価
し、環境への影響が小さいことを確認している。
 また、個々の事業の実施に当たっては、埋立法、実施要綱などに従って、個別具
体的に当該事業が環境に与える影響について予測、評価してきたところであり、個
々の事業の実施時期については、各事業の成熟度、緊急性等を考慮した政策判断に
よるものである。
 なお、本件整備事業は、本件港湾計画に基づくものであり、昭和五三年に改訂さ
れた博多港港湾計画に基づくものではない。
五 原告らの主張(本件環境影響評価及び本件評価書に対する批判)
1 水質汚濁について
(一) 潮流予測の誤り
(1) 本件評価書は、二次元二層非定常モデルというシミュレーションモデルを
採用して潮流などの変化を予測し、また、右モデルを前提にしながら、「水深四メ
ートル以上を上層、それ以下を下層」と定義している。
(2) しかしながら、本件人工島予定地のような水深四ないし五メートル程度の
浅海域についての潮流変化や物質の拡散についての影響予測は、本来、水理模型を
用いた実験結果によりなされるべきで、右モデルの浅海域への採用はそもそも原理
的に誤っている。
 また、右のような浅海域にあっては、前記定義を前提にする限りは殆どが上層に
関する式のみを適用するという結果になってしまうが、これでは実質的には単層モ
デルによるシミュレーションということになり、運動方程式の下層の式のみに含ま
れている海底との摩擦に関する項は無視されてしまう。このような潮流変化予測は
正しい影響予測にはなり得ない。
(3) 浅海域における計算式には、当然、風によって生じる吹送流も考慮しなけ
ればならない。とりわけ博多湾においては冬季の吹送流の影響が大きい。
 さらに、本件人工島の背後水域では、渦流エネルギーによる潮汐残差流という一
種の環流が独自の流れとして発生することが多いし、また、反時計回りの環流の発
生も予測される。
 しかるに、本件評価書はこれらの点を全く無視している。
(二) リンの高度処理だけを問題にしていることの非科学性
 本件評価書は、リンだけを減らせば富栄養化が避けられるという前提に立ってい
るが、そもそもその前提自体が誤っている。閉鎖性水域である博多湾における富栄
養化の進行には、リンよりも窒素こそが重要な役割を果たしている。このことは、
今や専門家の間では常識の部類に属するし、後記(三)(1)のとおり、本件免許
に係る環境庁長官の意見においても、その点を踏まえた指摘がなされている。
(三) 将来、博多湾のCOD値が環境基準を満足させられるという結論の欺瞞性
(1) 本件評価書は、将来の下水道の普及率の向上及び下水の高度処理によるC
OD負荷量や全リン排出量の削減という前提に立って右結論を導いている。本件免
許に係る環境庁長官の意見も、本件埋立区域周辺の海域の水質保全に万全を期する
ために、「①水質予測の前提となっている博多湾の流域内の下水道の整備を計画的
かつ確実に実施すること。②博多湾の流域内の下水道のすべての終末処理場におい
て、水質予測の前提となっている高度処理を計画的かつ確実に導入すること。③上
記の対策に加え、中・長期的かつ総合的な博多湾水質改善対策を検討し、実施する
こと。特に、博多湾の汚濁機構の解析として、COD、リン・窒素の陸域からの負
荷、底泥からの溶出、内部生産等に関する検討を進めるとともに、発生源対策、湾
内の有機物削減対策を検討し、実施すること。」を求めている。
(2) しかしながら、下水中の全リンの実用的な除去技術(MAP法など)は現
在開発中のものであるし、除去の結果発生する膨大な量のリン含有沈殿物の後処理
問題などは未解決のままである。また、右高度処理に関する具体的な予算措置の裏
付けも現時点ではない。特に福岡県は、その所管にかかる流域下水処理場の高度処
理について未だ実施計画すら立てていない状況である。
(3) また、環境影響評価は、当該事業の完成直後の当該地域の状態を前提にし
なければならず、当該対象行為以外の事業活動によりもたらされる地域の将来の環
境状態の予測は、国又は地方公共団体から提供された入手可能な公的資料に基づい
てなされなければならない。そして、そのような予測が困難な場合には現在の環境
状態を前提に評価がなされなければならない。
 ところが、前記事情に照らせば、本件整備事業の完成時に、本件評価書が前提に
した高度処理が実施されているという保証は全くない。また、福岡市は、本件評価
書の作成に際し、博多湾に注ぐ河川の福岡市以外の流域の下水処理を所管する福岡
県から、高度処理に関する公的な資料の提供すら受けていない。
(4) さらに、本件評価書は、環境条件に基づく将来の水質について、ケース1
として、和白下水処理場の放流口が本件人工島予定地の西端で、福岡市の全下水処
理場のみにおいて高度処理を実施した場合、ケース2として、和白下水処理場の放
流口が現状の位置で、福岡市の全下水処理場及び流域下水処理場において高度処理
を実施した場合、ケース3として、和白下水処理場の放流口が現状の位置で、福岡
市の全下水処理場のみにおいて高度処理を実施した場合を設定して検討している
が、右のうち、ケース1については、和白下水処理場の放流口が本件人工島予定地
の西端に建設されるのは、本件人工島が建設された後、さらにその地盤の安定に要
する五年以上の期間が経過してからのことであるが、このような迂遠な可能性を前
提にすること自体非常識であり、適当ではないし、また、ケース2については、福
岡県では河川流域下水処理場の高度処理について未だ実施計画すら立てていないの
であるから、非現実的な条件を前提にしたものといわざるを得ない。
 最も現実的なのはケース3であるが、これとて、中部下水処理場の用地不足が取
り沙汰されているところからすると、その実現可能性には疑問がある。仮にその点
を措くとしても、同ケースにおけるCOD七五パーセント値の予測結果は、いずれ
も一リットル当たり、湾奥部付近では四ミリグラム、和白干潟に近い雁の巣で三・
八ミリグラム、香椎に最も近い所でも同じ値であり、環境基準値の三ミリグラムを
はるかに超えている(本件評価書四四七頁の図6―1―37)。
(5) それにもかかわらず、本件評価書は、右ケースの場合をも含めて、前記の
ような結論を導いているのであるが、その際の環境基準点とされているE―2及び
E―6はいずれも本件人工島予定地の周辺海域(特に、湾奥部)よりもはるかに水
質条件のよい湾口部に位置しているのである(同書四四七頁の図6―1―37、一
七〇頁の表3―2―14など参照)。このような基準点の選択は余りに恣意的とい
うほかはない。
(四) これまでの環境影響評価における福岡市の水質予測の無責任さ
 福岡市は、地行・百道地区(シーサイドももち)と小戸・姪浜地区(小戸マリナ
タウン)の埋立てに際して、昭和五六年に環境影響評価を行っているが、その水質
予測では、平成二年の時点において全ての測定点で環境基準を満たす筈であった。
ところが、平成三年度の調査結果によれば、博多湾内の九か所の測定点のうち八か
所で環境基準を超え、しかも、そのうち七か所では過去最悪の数値を示している。
とりわけ本件人工島予定地の海域は最も水質悪化が進んでいる。名島地区(香椎パ
ークポート)の埋立てに際して、博多湾東部海域について昭和六一年に福岡市が行
った環境影響評価における水質予測でもこれに類した結果になっている。
 したがって、福岡市の水質予測は到底信用することができない。
2 地形・地質の変化について
(一) 本件評価書は、本件人工島予定地周辺は静穏な海域であり、海岸付近の潮
流の変化も小さいことからすると、地形の改変は殆どないものと考えられ、志賀島
から海の中道に至るまでの貴重な地形に対する影響も殆どなく、砂浜干潟に対する
影響も同様に殆どないものと考えられるとしている。
(二) しかしながら、海岸の砂は漂砂現象によって常に移動しており、補給がな
ければ浸食が進み、障害物があれば堆積し、潮流が変われば移動量も変化する。地
形変化を予測するには、こうした湾内の漂砂現象のメカニズムを正確に把握し、本
件人工島が建設されることにより右現象にどのような影響が及ぶかを科学的に予測
し、それによる汀線の変化を予測しなければならない。
 また、本件整備事業では、本件埋立てに伴い航路や泊地を浚渫することになって
いるから、これにより浚渫部分は水深が現在の二倍以上になる所も少なくない。こ
のように水深が急激に深くなると、海岸から沖に向かって砂が移動し易くなり、そ
の結果海岸が浸食され易くなる筈である。
 ところが、本件評価書は、右のような予測を全く行うことなく、安易に前記のよ
うな結論を導いている。
3 生物について
(一) 総論的批判
(1) 本件評価書では、自然を個々に分断して調査・分析しているだけで、自然
を生態系として取り扱った調査・分析が実施されていない。
 例えば、貝、カニ、ゴカイなどは幼生時をプランクトンとして浅海域で生活して
いるが、本件評価書では、干潟生物、底生生物、プランクトンなどがばらばらに調
査されているだけである。成体と幼生が別々に調査されている右の生物について
は、本件人工島の建設による影響を予測することができない。
 また、本件人工島の建設による潮流や流速の変化は地質・泥質に影響し、地質の
変化は底生生物に影響し、底生生物の変化はそれを餌とする鳥類にも影響する。し
かもそれぞれの影響の仕方は大きく異なる。常識的にも、巨大な本件人工島の建設
により生息地を失うことになる生物たちへの影響は計り知れないものがあると考え
られるのに、そのことについての専門家による本格的な調査は全く実施されていな
い。
(2) 本件評価書ではデータが意図的に操作されている。すなわち、本件環境影
響評価で重要なのは、本件人工島予定地である博多湾の東部海域の特徴をつかむこ
とであり、そのためには東部海域のデータと他の海域のそれとが比較されなければ
ならない筈である。ところが、本件評価書は、そのような比較を避けて東部海域の
データと同海域を含む博多湾全域のデータの比較を行っている。これは東部海域の
特徴が明らかにならないように、福岡市が都合良くデータを操作したものというほ
かはない(そのことが顕著なのは、底生生物の表と図である。)。
 また、本件評価書は、地域間の比較を異なった年度の調査結果で行ったり、計画
的に調査が実施されていないなど、その杜撰さは目に余るものがあり、およそ環境
影響評価と呼べるものではない。
(3) さらに、本件評価書の最大の問題点は、結論の前提となった基礎データが
殆ど示されていないこと及び記載内容が著しく分かり難いことである。
(二) 各生物への影響について
(1) プランクトン
 本件埋立てに伴う工事により、水底の泥や栄養塩類が巻き上げられ、海水が濁っ
たり、赤潮が発生したりすることが考えられるが、本件評価書はこの点を無視して
いる。
(2) 魚卵・稚仔魚
 本件環境影響評価においては、表層に生息するものに対する調査しか実施されて
いないが、本来なら、表層、中層及び低層に分けて網を引いて調査すべきものであ
る。
(3) 遊泳生物
 本件環境影響評価では数種類の分布しか分かっていない。
(4) 底生生物
 底生生物は、それぞれの種でかなり生息環境が異なるため、各種類ごとのきめ細
かな調査が必要であるし、また、底質によってその分布が大きく影響されるため、
底質の粒度分析が必要不可欠である。
 ところが、本件環境影響評価では、右のような調査が殆ど行われていない。
(5) 潮間帯生物
 潮間帯生物には幼生期をプランクトンとして浅海域で過ごすものが多く、本件埋
立てにより影響を受ける筈であるのに、本件評価書には影響がないとの誤った結論
が記載されている。
(6) 海草
 本件埋立てによって今以上にアナアオサが和白干潟に堆積・腐敗し、付近の環境
を悪化させることが考えられるのに、その分布・動態に関する詳しいデータは全く
示されていない。
(7) 干潟生物
 ゴカイ、アサリ、カニなどは幼生期をプランクトンとして浅海域で過ごすものが
多く、本件埋立てにより大きな影響を受けることが予測される。また、カニ等の分
布は、底質の粒度組成に大きく影響されるが、本件埋立てにより右生物の生息場所
の底質が変化することは明らかであるのに、本件環境影響評価では、その点の調査
すら行われていない。
(8) 鳥類
 本件整備事業が鳥類の生息に及ぼす影響を予測するには、特に本件人工島予定地
及び隣接地域において、日中だけではなく、二四時間の調査を、個体又は群れの位
置と数、それぞれの行動、餌、移動経路などについて行い、その地域での鳥の生態
を把握する必要があるが、本件評価書にはそのような情報が乏しく、本件環境影響
評価では、その種の調査・分析が行われていない。
 また、本件評価書は、鳥類に関してしばしば「主要生息地」という言葉を用いて
いるが、その定義は曖昧なままであり、各鳥類の実際の分布を無視して本件人工島
予定地からはずれた地域を主要生息域と判定するなど恣意的な判断をしている。
(第一六号事件)
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも福岡市に住所を有する住民である。
(二) 第一四号事件の請求原因1(二)に同じ。
2 第一四号事件の請求原因2ないし6に同じ。
 因みに、同2は人工島埋立計画の概要、同3は本件整備事業の実施に至る手続、
同4は本件整備事業の違法性、同5は福岡市の被った損害額、同6は被告cの責任
原因である。
3 住民監査請求の前置
 平成六年二月二八日、原告らは福岡市監査委員に対し、住民監査請求をしたが、
同年四月二六日、右監査委員は原告らに対し、右監査請求は理由がない旨の通知を
した。
4 結論
 よって、原告らは、被告市長に対しては、地方自治法二四二条の二第一項一号に
基づき、本件整備事業(実質的にはそのうち本件人工島予定地における福岡市の埋
立事業に限られる。)に関する公金支出等の差止めを、被告cに対しては、同項四
号に基づき、福岡市に代位して損害賠償金一億七四三六万二九九二円及びこれに対
する本訴状送達の日の翌日である平成六年九月一七日から支払済みまで民法所定の
年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 本案前の抗弁
1 別訴禁止規定違反
 第一六号事件に先立ち、第一四号事件が既に係属しているところ、第一六号事件
は第一四号事件における請求と同一の請求をするものであるから、仮に第一四号事
件が適法に係属しているとすれば、第一六号事件の訴えは地方自治法二四二条の二
第四項の規定により不適法となるし、第一四号事件が不適法であり、第一五号事件
が適法に係属している場合には、第一六号事件の訴えのうち被告市長に対する請求
については、第一五号事件における請求と同一の請求をするものであるから、同項
の規定により不適法となる。
2 原告適格の欠如
 住民訴訟の原告は、訴え提起時だけでなく、訴訟係属中も当該普通地方公共団体
の住民たる資格を要するから、訴訟係属中に住民の資格を失った場合には、原告適
格を欠くに至るというべきであるところ、原告aは平成八年一二月三〇日に滋賀県
大津市に、原告bは同年四月一日に川崎市にそれぞれ転出し、福岡市の住民として
の資格を喪失しているので、右原告らの訴えはいずれも不適法である。
3 適法な住民監査請求の欠如
 原告らの被告cに対する請求は、適法な監査請求を経ていないから不適法であ
る。すなわち、原告らの行った監査請求のうち、福岡市が被った損害を補填する措
置の請求については、特定性に欠けるとして監査の対象から除外されている。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実のうち、原告a及び同bについては否認し、その余の
原告らについては認める。同(二)の事実については、第一四号事件の請求原因1
(二)に対する認否に同じ。
2 請求原因2については、第一四号事件の請求原因2ないし6に対する認否に同
じ。
3 請求原因3の事実は認める。
四 本案についての被告らの主張
第一四号事件の本案についての被告らの主張に同じ。
       理   由
第一 本案前の抗弁について
一 第一四号事件
1 原告の当事者能力の有無について
(一) 民事訴訟法二九条が権利能力なき社団についても訴訟当事者としての能力
を認めているのは、権利能力なき社団においても、対外的な活動を行う場合、民事
訴訟による紛争解決の手段を付与しておくことが、法人と同様に必要かつ相当であ
ると考えられたからである。
 右趣旨からすれば、同条に規定する権利能力なき社団といえるためには、団体と
しての組織を備え、多数決原理が支配し、構成員の変動にもかかわらず団体そのも
のが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体と
しての主要な点が確定していることを要するものと解するのが相当である(最高裁
昭和三九年一〇月一五日第一小法廷判決民集一八巻八号一六七一頁参照)。
(二) そこで、原告が右要件を充足しているかを具体的に見ると、証拠(甲イ三
ないし七、九ないし一三、証人d)によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、平成五年一二月二〇日、七名の個人の参加によって設立された団
体であり、次の事項を定めた規約を有している。
イ 博多湾人工島問題を多面的に考察する場を設定し、種々の検討を行うことをそ
の目的とし、①適宜研究会を開催し、相互に意見交換を行うこと及び②その他右目
的を実現するため必要な活動を行うことが予定されている。
ロ 会員及び協力会員から構成され、何人も、会員二名の推薦及び役員会の承認を
受けることにより、会員となることができる。
ハ 総会(定例総会は年一回)及び役員会を開催し、いずれも出席者の過半数の同
意により決議する。
ニ 役員として会長一名、事務局長一名及び運営委員若干名並びに会計監査一名を
置き、いずれも会員の中から総会において選任される。
ホ 会員及び協力会員は年会費を納める義務を負い、会計事務及び財産管理は事務
局長が行う。
(2) 原告は、右設立後、平成六年三月一八日には本件訴えの前提となる住民監
査請求をし、それが却下されると、同年四月二八日、本件訴えを提起し、同年六月
には、福岡市議会に対し、人工島計画の見直しを求める請願書を提出したりするな
どの対外的活動を行うとともに、会合を適宜開催しており、同年七月一日時点にお
いて、三五名の会員を有していた。
(3) また、原告は、会員から徴収される年会費を主たる活動資金に充てること
としており、原告名義の銀行の普通預金口座を有するなど、個々の会員から独立し
た財産を所有している。
(三) 右認定事実によれば、原告は、前記(二)記載の要件を充足していること
が認められるから、原告は権利能力なき社団に当たるものというべく、当事者能力
に欠けるところはないというべきである。
2 原告適格の有無について
(一) まず、一般に法人がその住所地のある普通地方公共団体の住民として住民
訴訟の提起をすることができることについては概ね異論がないところ、権利能力な
き社団においては、法人と異なり、住所地に関する法的根拠が必ずしも明らかでは
ないことから、これを否定する見解もある。しかし、権利能力なき社団について
も、法人と同様に、主たる事務所の所在地を住所地と考えて何ら不都合はない(地
方税法三一七条の二第七項参照)から、主たる事務所の所在地が定められていれ
ば、これを法人と区別して扱う理由はないといえる。
 また、権利能力なき社団に原告適格を認めたからといって、個人たる住民は依然
として住民訴訟を提起することができるのであるから、個々の住民に住民訴訟の原
告適格を認めた意義が没却されるということにはならないし、権利能力なき社団で
あっても代表者の定めがあるものについては、法人同様に地方税を納付する義務を
負っている(地方税法一二条参照)から、その活動区域が属する当該普通地方公共
団体の財政の在り方に利害関係を有するという点では、当該普通地方公共団体の住
民個人と何ら変わりはない。
 そうすると、権利能力なき社団であるからといって、そのことの故のみをもっ
て、原告適格を否定するのは相当でないものというべきである。
(二) もっとも、そうなると、当該地方公共団体の住民ではあっても、個人とし
ては住民訴訟を提起する意思のない者たちが、専ら団体の名で住民訴訟を提起する
目的で権利能力なき社団を結成したりすることも考えられないではなく、さらに
は、住民でさえない者たちが住民訴訟を提起する目的で参集して、権利能力なき社
団を結成し、その主たる事務所を当該地方公共団体の区域内に置くことによって、
右住民訴訟を提起することも可能となるが、このようなことは、住民訴訟の制度趣
旨に反するものといわざるを得ない。したがって、権利能力なき社団の設立目的が
右のようなものであると認められる場合には、当該社団の原告適格を否定するのが
相当である。
 そこで、原告が右場合に当たるかどうかについて検討すると、前記1(二)にお
いて認定した事実及び証拠(甲イ三、七、一〇、証人d)によれば、原告は、設立
後間もない平成六年三月一八日に住民監査請求をし、引き続き同年四月二八日に本
件訴えを提起しており、設立時期と訴訟活動開始時期とが比較的接着しているこ
と、その後も、右以外にはさしたる活動を展開していないこと、会員資格を福岡市
民に限定しておらず、現に福岡市民でない者が会員になっていることが認められる
から、右事実に照らせば、原告の設立目的は専ら右監査請求や住民訴訟の提起にあ
ったものであり、しかも、福岡市民ではない者にもこれに主体的に関与することを
可能にすることを意図していたものと解するのが相当である。また、原告自身、福
岡市の職員など、個人名を明かして住民訴訟を提起することが憚られる者の利便も
あることを自認していることなどを総合的に考慮すると、原告については、右場合
に当たるものということができる。
 したがって、このような原告に原告適格を肯定することはできない。
3 そうすると、その余の本案前の抗弁について判断するまでもなく、第一四号事
件の訴えは不適法として却下を免れない。
二 第一五号事件
1 前訴と同一性が認められる後訴が禁止されるのは前訴が適法な場合に限られる
ものと解されるところ、前記一において判断したとおり、第一四号事件の訴えは不
適法であるから、同事件が既に係属していることの故をもって、第一五号事件の訴
えが禁止されるいわれはない。したがって、両事件の訴えの同一性の有無を判断す
るまでもなく、第一五号事件についての本案前の抗弁は理由がない。
2 なお、付言すると、第一五号事件においては、差止めを求める対象として個々
の公金支出行為が具体的に明示されていないことから、特定性を欠いていないかが
一応問題となる。
 しかしながら、特定の工事の完成に向けて行われる一連の財務会計上の行為につ
いてその差止めを求める場合には、通常、右工事自体を特定することにより、差止
請求の対象となる行為の範囲を識別することができ、また、右特定の工事自体が違
法であることを当該行為の違法事由としているときには、当該行為を全体として一
体と見てその適否等を判断することができるというべきであるから、右工事に関わ
る個々の行為の一つ一つを個別、具体的に摘示しなくとも、差止請求の対象は特定
されているものというべきであり(最高裁平成五年九月七日第三小法廷判決民集四
七巻七号四七五五頁参照)、第一五号事件においても、原告らが差止めを求めてい
るのは、本件埋立事業を原因とする被告市長の一切の公金支出であり、公金支出の
原因となる工事自体は特定されているといえるから、請求対象の特定性に欠けると
ころはないというべきである。
三 第一六号事件
1 別訴禁止規定違反について
(一) まず、第一四号事件との関係でいえば、両事件の訴えが同一性を有するこ
とは一見して明らかであるが、前記一において判断したとおり、前訴である第一四
号事件の訴えが不適法であるから、同事件との関係で第一六号事件の訴えが地方自
治法二四二条の二第四項違反を問われるいわれはない。
(二) ただ、被告市長に対する訴えについては、更に第一五号事件との関係が問
題となる(なお、右訴えの請求の趣旨は、本件整備事業(実質的には本件人工島予
定地における福岡市の埋立事業に限られる。)に関する一切の公金の支出、契約の
締結若しくは履行又は債務その他の義務の負担の差止めを求めるものであって、公
金支出等の原因となる工事自体は特定されているといえるから、請求対象の特定性
に欠けるところはないというべきである。)。
 そこで、両事件の訴えの同一性の有無を判断すると、このような場合には、単に
請求の趣旨が同一であるか否かではなく、請求の対象となる行為が実質的に同一で
あるか否かによって決せられるものと解するのが相当である。
 ところで、第一五号事件の差止請求の対象は、本件埋立事業に係る公金支出であ
るのに対し、第一六号事件の方は、本件人工島予定地における福岡市の埋立事業に
係る公金支出のほか、契約の締結及び履行並びに債務等の負担をもその対象として
おり、一見すると両者は完全に合致しているわけではないが、公金支出の対象事業
の点では殆ど重なり合う関係にあるし、右公金支出以外の行為も最終的には公金支
出の原因となるものであって、実質的には将来の公金支出の差止めを求めているも
のということができるから、結局、両者の請求の対象は同一であるものと認められ
る。したがって、第一六号事件のうち被告市長に対する訴えは、地方自治法二四二
条の二第四項に違反しているものといわざるを得ない。
 しかしながら、このような場合においても、後訴が住民訴訟としての他の要件を
充足しているのであれば、民事訴訟法五二条の共同訴訟参加としての効力があるも
のとして扱うのが相当であるから、いずれにしても直ちに不適法として却下すべき
ではない。
2 原告適格の欠如について
 住民訴訟を適法に提起することができる「普通地方公共団体の住民」たる資格
は、訴え提起時のみならず、訴訟係属中も存続することを要するものと解すべきで
あるところ、証拠(乙五九の1及び2)によれば、原告a及び同bは、本件口頭弁
論終結時において、福岡市に住所を有しないことが認められるから、右原告らにつ
いては、原告適格がないものというべきである。
 したがって、右原告らの訴えは不適法として却下を免れない。
3 適法な住民監査請求の欠如について
 福岡市監査委員は、原告らが監査対象となる財産会計上の行為について個別具体
的な摘示をしなかったことを理由に、損害補填の措置請求を監査対象から除外して
いる(甲イ一八)が、原告らの監査請求の趣旨は、本件整備事業が違法又は不当で
あるから、本件整備事業の実施に向けて行われた一連の準備行為に関する福岡市の
公金支出が全て違法又は不当であるという点にあるものと認められる(甲イ一五、
乙六)のであって、このような場合には、個々の財務会計行為を個別具体的に摘示
してまで監査対象を特定しなければならない理由も必要もないというべきである。
 そうすると、監査委員としては右請求を監査対象から除外することなく監査すべ
きであったにもかかわらず、監査しなかったということになるが、このような場合
には、適法な監査請求を経ているものとみなすのが相当である。
第二 本案について
一 前記第一の三1(二)において検討したところにより、第一五号事件の訴えと
第一六号事件のうち被告市長に対する訴え(ただし、原告a及び同bの各訴えを除
く。したがって、右原告らに関する事実主張についての判断も不要となる。)につ
いては、これを共同訴訟として取り扱い、ここで一括して判断することとする。
1(一) 第一五号事件の請求原因1、5及び7の各事実並びに同2の後段の事実
は、いずれも当事者間に争いがない。
 同2の前段の事実については、証拠(乙四、一〇ないし一二)によれば、本件整
備事業は、昭和六三年に策定された福岡市基本計画及び本件港湾計画に基づいて作
成されたアイランドシティ基本計画に基づき、福岡市、国及び博多港開発株式会社
の三者がそれぞれ本件埋立区域(一)ないし(三)の各区域の公有水面(合計四〇
六・三ヘクタール)について、約四六〇〇億円の費用と約一〇年の期間を掛けて、
一体として埋立・整備事業を施行するものであることが認められる。
(二) 第一六号事件の請求原因1(一)及び同3の各事実は、いずれも当事者間
に争いがなく、同1(二)のうち第一四号事件の請求原因1(二)(1)に同じ部
分については、福岡市が本件整備事業を推進していることが認められる(乙一
一)。
 また、同2のうち第一四号事件の請求原因2(一)及び(三)並びに3に同じ部
分の各事実は、いずれも当事者間に争いがなく、同事件の請求原因2(二)の事実
については、前記(一)において認定したとおり、福岡市が、国及び博多港開発株
式会社とともに、本件人工島予定地及び香椎パークポート地区の各水域を埋め立て
る本件整備事業を推進していることが認められるが、福岡市が、国及び博多港開発
株式会社とともに、博多港ふ頭株式会社を設立した事実を認めるに足りる証拠はな
い。
2 公金支出の原因となる行為の違法性と公金支出の違法性―公金支出の違法性判
断の前提問題(その一)
(一) 第一五号事件原告ら及び第一六号事件原告ら(以下、一括して「原告ら」
という。)は、本件公金支出又は本件人工島予定地における福岡市の埋立事業に関
する公金支出(以下、一括して「本件公金支出等」という。)の違法性を主張し、
その根拠としていずれも当該公金支出の原因となる本件整備事業の違法性を論じる
が、本件整備事業のうち福岡市の担当する本件埋立事業は本件免許に基づいて行わ
れているものであるから、原告らの右主張は少なくとも本件免許の違法性を前提と
したものと解するほかはない。
 それにしても、原告らは、財務会計行為である本件公金支出等に固有の違法性に
ついては全く言及するところがないので、原告らの右主張について判断するための
理論的前提として、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づく公金支出の差止め
は、当該公金支出の原因となる行為(以下「原因行為」という。)に違法事由があ
れば足りるのか否かがまず検討されなければならない。
(二) 地方自治法二四二条の二の規定に基づく住民訴訟は、普通地方公共団体の
執行機関又は職員による同法二四二条一項に規定する財務会計上の違法な行為又は
怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え、もって地方財務行
政の適正な運営を確保することを目的とするものである(最高裁昭和五三年三月三
〇日第一小法廷判決民集三二巻二号四八五頁参照)。そして、同法二四二条の二第
一項一号に基づく差止請求訴訟は、このような住民訴訟の一類型として、財務会計
上の行為を行う権限を有する当該執行機関又は職員に対し、職務上の義務に違反す
る財務会計上の行為の差止めを求めるものにほかならないから、右差止めの対象と
なる当該執行機関又は職員の財務会計上の行為自体が財務会計法規上の義務に違反
する違法なものであることが必要であり、たとえこれに先行する原因行為に違法事
由が存する場合であっても、それのみでは足りず、更に右原因行為を前提としてさ
れた当該執行機関又は職員の行為も違法と評価されるものでなければならないと解
するのが相当である(最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決民集四六巻九号
二七五三頁参照)。
(三) ところで、原告らは、原因行為が違法であれば当該原因行為に基づく公金
支出も違法となる旨主張し、その裏付けとして、最高裁昭和五二年七月一三日大法
廷判決民集三一巻四号五三三頁を挙げるが、同判決の事案は、原因行為が契約であ
って、それが憲法に違反するときには無効になるから、これに基づく公金支出も違
法になるのは当然であって、後記(四)のとおり、原因行為が行政処分である本件
とは事情を異にするものというべく、同判決を根拠にして、原告らの主張を採用す
ることはできない。
 もっとも、財務会計行為、とりわけ公金の支出にあっては、それ自体が固有の違
法性を帯びるということは、支出の根拠を欠いているというような場合以外には通
常は想定し難く、多くは原因行為が違法であることにより、それに基づく公金の支
出の違法性が問われることになるものというべく、その限りにおいては原告らの主
張もあながち理由がないとはいえない。
(四) ただ、原因行為がいわゆる行政処分に該当するときは、行政事件訴訟法三
条二項の取消訴訟により取り消されない以上、あくまで有効なものとして取り扱わ
れるから、この場合には、単に原因行為が違法であることを主張するだけでは足り
ないことは明らかである。
 そして、埋立法二条一項に規定する免許は、公共の用に供する水流又は水面で国
の所有に属するものについて埋立てをする権利を設定する、講学上の特許たる性質
を有する行為であるから、右取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」に当たるもの
と解される。したがって、右免許は、取消訴訟により取り消されない以上は、一応
有効なものとして取り扱われざるを得ない性質のものである(ただし、埋立法三二
条一項は、免許権者は、同項各号に定める場合には、工事竣功認可の告示日前に限
り、免許を取り消すことができる旨規定しているから、取消訴訟による取消以外に
も、同項に基づく取消がなされる場合があり得る。)。
 そうすると、埋立免許を取得した者としては、右免許が取消訴訟などにより取り
消されない以上は、これが有効であることを前提として振る舞ってよく、右免許が
違法であるか否かを検討すべき法的義務を負っているとか、免許が違法であると判
断したときはこれに基づく埋立工事を中止すべき義務を負っているなどと解するこ
とはできない。
 なお、埋立免許を取得したからといって埋立工事を行うべき法的義務まで負うわ
けではない(埋立法三四条一項二号、一三条)から、免許取得者は自らの判断で埋
立工事を行うか否かを選択することができるのは当然であるが、このことは右の結
論を何ら左右するものではない。
(五) 右の理は、埋立免許を取得した者が地方公共団体であるときもそのまま当
てはまるものというべく、したがって、右地方公共団体の長が右免許を踏まえて工
事請負契約を締結するなどし、これに基づいて公金支出をしたからといって、右支
出行為が直ちに違法となることはないと解すべきである。
 ただし、右免許が著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得
ない瑕疵があるという場合には、右免許の有効性を前提とした財務会計上の措置を
講じる義務はないばかりか、そのような措置を講じるべきではないのであって、そ
れにもかかわらず当該措置を講じたときは、違法性があるものと解するのが相当で
ある(最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決民集四六巻九号二七五三頁参
照)。地方公共団体の長は、関係法令に基づき予算執行の適正を確保すべき責任を
当該地方公共団体に対して負担するものであるところ、右のような場合には、地方
公共団体の長の有する予算執行機関としての職務権限として、財務会計上の措置を
講じるべきではないからである。
(六) そこで、本件についてこれを見ると、証拠上、本件免許が取消訴訟で取り
消されたとか、港湾管理者の長たる福岡市長が本件免許を職権で取り消したという
事実は認められないから、本件免許は一応有効に存在しているものというべく、し
たがって、本件公金支出等が違法となるためには、本件免許が著しく合理性を欠き
そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があることが必要
である。
 なお、原告らは、免許権者である港湾管理者の長と公金支出の最終責任者とが、
実質的には同一人であることから、免許基準の適合性を公正に審査することはでき
ないのではないかと懸念しているようである。なるほど、埋立法二条一項は、公有
水面の埋立てをしようとする者は、都道府県知事の免許を受けなければならないと
定めているが、他方、港湾法五八条二項は、埋立法の規定による都道府県知事の職
権は、港湾区域内の公有水面の埋立てに係る埋立地については港湾管理者の長が行
うと定めているから、港湾区域内の公有水面の埋立ての免許は、港湾管理者の長が
行うことになるところ、地方公共団体自体が港湾管理者となる場合(同法二条一
項)において、公有水面の埋立てをしようとする者が右地方公共団体であるとき
は、埋立免許の出願者と同一の地方公共団体の長が港湾管理者の長として埋立法四
条一項各号の要件に適合するか否かを判断するということになる。そして、同項各
号の要件を満たすものとして免許を受けたときには、右地方公共団体は、右免許に
基づき、工事請負契約等を締結したりして公金を支出するなどして、埋立工事を施
行する運びとなるわけであるから、原告らの指摘に一定の根拠がないわけではな
い。しかしながら、他方で、埋立法四七条一項及び同法施行令三二条は、運輸大臣
が甲号港湾として指定した港湾の埋立ての免許や埋立区域の面積が五〇ヘクタール
を超える埋立ての免許などについては、運輸大臣の認可を受けなければならないも
のと規定し、また、埋立法四七条二項及び同法施行令三二条の二は、埋立区域の面
積が五〇ヘクタールを超える埋立てなどについて運輸大臣が右認可をしようとする
ときは、環境庁長官の意見を求めなければならないものと規定している。これによ
れば、埋立法自体が、一般に大規模な埋立てで港湾の現状に相当程度の影響を及ぼ
すと予測されるものについては、免許権者のみならず、国のレベルでより広い視野
から適正・妥当な埋立てであるか否かを審査することを予定しているのであり、本
件埋立てもこれに該当するものであるから、原告らの右懸念は結局は当たらないと
いうべきである。
3 検討の対象とすべき事業の範囲―公金支出の違法性判断の前提問題(その二)
 第一五号事件原告らは、本件整備事業全体を評価の対象としなければ、その違法
性を判断することは不可能である旨主張し、他方、被告市長は、本件整備事業は、
福岡市、国及び博多港開発株式会社の三者がそれぞれの担当区域を独立して埋立事
業を施行するものであるとして、国及び博多港開発株式会社の各埋立事業について
は、関知しないとの態度をとっている。
 確かに、国及び博多港開発株式会社は、それぞれの担当区域の公有水面を埋め立
てるためには、各々埋立法所定の承認又は免許を受けなければならず、右承認又は
免許に基づいて工事請負契約等を締結して事業を遂行するのであるから、仮に国又
は博多港開発株式会社の施行する事業が違法であるとしても、そのことによって直
ちに本件埋立事業が違法であるということにはならないが、前記1(一)及び
(二)において認定したとおり、本件整備事業は、福岡市、国及び博多港開発株式
会社の各担当区域の埋立て及び整備が完了することによって、初めて所期の目的が
達成されることになるという意味において、一体性があるものということができる
し、本件環境影響評価も、本件埋立事業以外の国及び博多港開発株式会社の各埋立
事業をも含めて一体として実施されている(乙一二)ことなどに照らせば、以下の
検討においても、本件整備事業全体を対象として考慮するのが相当である。
4 和白干潟等の自然環境としての重要性―公金支出の違法性判断の前提問題(そ
の三)
(一) 干潟や浅海域などの水辺環境が、熱帯林と並んで、多様な生態系を豊かに
育み、地球上の生物多様性を確保する上で重要な自然環境であること、国境を越え
て渡来する渡り鳥にとって、豊富な餌を提供する渡りの中継地・生息地となってお
り、渡り鳥の地球規模での渡りのルートを保護する上からも欠くことができないこ
と、さらに、多様な生物の営みを通じて、水質を浄化する機能を有することは、被
告市長と第一五号事件原告らとの間においては争いがなく、第一六号事件原告らと
の間においては弁論の全趣旨により認められる。
 そして、証拠(甲ロ五四、証人e)によれば、干潟及びその周辺浅海域の特長及
び重要性として次の事実を認めることができる。
(1) 生物の多様性
 自然環境が健全に保たれている干潟では、ある特定の種類の生物だけではなく、
多種多様な生物が関わりを持ちながら生存している。つまり、食物連鎖の中で、多
くの種類の生物がバランスよく生活し、生態系が保たれている。干潟は、生物相が
豊かで、その生産性は熱帯雨林に勝るとも劣らない。主要な生物は、多毛類・貝
類・甲殻類などの底生動物であるが、これらを食べるために鳥類や魚類も集まる。
このように、陸から豊富な栄養分が流入する干潟には、餌が多く、酸素にも富んで
いるので、多種かつ多数の生物が生息している。
(2) 水産資源的価値
 干潟は、のり等の海草やアサリ等の貝類の生息場所であり、漁民や周辺住民にと
っては、これらの海産物の採取場所として重要な場所である。食用になる魚類やカ
ニ類にも稚魚や幼生時代を干潟やその周辺浅海域で過ごすものが多く見られるし、
周辺海域からも餌を求めて魚類やカニ類がやってくる。このように、干潟やその周
辺浅海域は、必要な水産資源を育む場所として貴重な場所である。
(3) 水の浄化
 干潟やその周辺浅海域には無機物(窒素、リンなど)や生活排水、糞尿(又は汚
水処理後の排水)等の有機物が流入してくる。干潟やその周辺浅海域には水中の酸
素が多く、生物も多数生息しているので、右有機物等はこれらの生物に取り込ま
れ、体内に蓄積されて干潟やその周辺浅海域の外に運び出されたり、生物の体内で
分解されたりして浄化される。
(4) 市民にとってのレクリエーション、環境教育等の場
 干潟は、潮干狩りやバードウォッチング、生物観察など市民にとって、レクリエ
ーションや環境教育など自然に親しむ場として貴重な存在である。
(二) また、博多湾は、シベリアから中国大陸、朝鮮半島を経由し、或いは日本
列島を経由して、東南アジアやオーストラリア大陸へと渡って行く渡り鳥の、東ア
ジアにおける国際的な渡りのルートが交差するところに位置しているため、多数の
渡り鳥が渡来する日本有数の野鳥の宝庫となっており、クロツラヘラサギ、ズグロ
カモメ、カラシラサギなどの絶滅のおそれのある渡り鳥も定期的に渡来しているこ
と、和白干潟等は、博多湾における渡り鳥の中継地・生息地の中核として、東アジ
アにおける地球規模での渡りのルートの存続の上で、また、渡来してくる絶滅危惧
種の渡り鳥を絶滅のおそれから守る上で、国際的に重要な自然環境であること、以
上は、被告市長と第一五号事件原告らとの間においては争いがなく、第一六号事件
原告らとの間においては弁論の全趣旨により認められる。
 そして、証拠(甲ロ一、二、八、五四、五五、六一、六三、一一五、二〇〇、証
人e、検証、ビデオテープ(NHK番組「検証・人工島計画…博多湾・未来への選
択」)の検証)によれば、特に、和白干潟の特長として、①渡り鳥の渡りのコース
が幾つか交差する九州北部に位置していること、②福岡市という百万人都市の中に
あること、③我が国では珍しい砂質干潟であること、といった諸点が挙げられるこ
と、和白干潟の重要性も右のような特長に由来しているが、具体的には後記(1)
ないし(4)に挙げる点が指摘されること、また、ラムサール条約が保護対象とし
ている「国際的に重要な湿地」の登録を推進するために、平成元年に国際自然保護
連合が作成したアジア湿地目録や国際水禽湿地調査局が作成した日本湿地目録に博
多湾が掲げられていること、以上の事実が認められる。
(1) 貴重な野鳥の宝庫
 和白干潟等は、渡り鳥の渡りのコースになっており、世界的に貴重な野鳥がやっ
てくる。その種類の多さでは我が国でもトップクラスにあり、これまで約二〇〇種
以上の野鳥が記録されている。鳥の渡りは、動物の季節移動の代表的なもので、繁
殖地と越冬地の間を毎年決まった時期に移動する現象である。和白干潟を含む九州
北部は、幾つかの渡りのコースが交差する地点であるため、多くの渡り鳥が見ら
れ、日本野鳥の会が毎年行っているバードソン(全国各地で一定時間内に観察され
る野鳥の種類の数を競う競技)でも、博多湾は毎年トップになっている。これらの
鳥の中には、環境庁により昭和六一年から約四年間にわたって行われた「緊急に保
護を要する動植物の種の選定調査」の結果に基づき危急種とされたカンムリカイツ
ブリ、ミサゴ、ハヤブサや、希少種に選ばれたチュウサギ、カラシラサギ、ヘラサ
ギ、クロツラヘラサギ、ホウロクシギ、セイタカシギ、コアジサシが含まれてい
る。また、和白干潟は、我が国で唯一のミヤコドリの定期的飛来地となっている。
これらの鳥にとって、和白干潟等は、餌を採り、エネルギーを蓄える燃料補給基地
であり、翼を休める中継基地であり、生存のための貴重な場所となっている。
(2) 鳥以外の生物の生息場所
 和白干潟等は、そこに見られる鳥以外の多種多様な生物にとっても貴重な生息場
所である。特に、我が国でも数少ないまとまった規模の砂質干潟であるため、他の
干潟には余り見られない生物が生息しているが、中でもスナガニ類のシオマネキ、
ハクセンシオマネキは、前記環境庁の調査で希少種に選定され、絶滅が危惧されて
いるものである。
(3) 和白干潟等の浄化能力
 前記(一)(3)のとおり、干潟及びその周辺浅海域は極めて優れた浄化能力を
持っている。山口大学工学部のfらの「汀線の自浄作用の評価に関する研究」(甲
ロ六一)によれば、細菌や底生動物の働きによって処理される有機物の量は、一日
に一平方メートル当たり、干潟の場合は約一・六五グラムCOD、干潟前面の一〇
メートル以浅の浅海域は約〇・六〇グラムCODと試算されている。したがって、
約八〇ヘクタールの広さを有する和白干潟の浄化能力は、一日当たり約一三二〇キ
ログラムCODとなり、約二〇万人分の糞尿処理能力に相当し、本件人工島の建設
により消失する周辺浅海域約四〇一ヘクタールの浄化能力は、一日当たり約二四〇
六キログラムCODとなり、約三七万人分の糞尿処理能力に相当することになる。
(4) 福岡市及びその近郊都市の住民にとってかけがえのないレクリエーショ
ン・環境教育の場
 和白干潟は、福岡市という大都市の中に位置しながら市民に貴重な自然を提供し
ている。すなわち、同干潟は、福岡市及びその近郊で潮干狩りのできる数少ない海
岸である。そのため、春の和白干潟はたくさんの家族連れで賑わう。また、和白干
潟等には希少種を含め多種多様な野鳥が飛来するので、絶好の野鳥観察の場になっ
ている。さらに、ここは小中学校の校外授業の場としても利用されており、子供た
ちに対する貴重な環境教育の場になっている。
(三) 証拠(甲ロ五四、五六、五七、証人e)によれば、和白干潟等の状況とし
て次の事実が認められる。
(1) 浅海域
 eが、平成五年七月二三日に行った博多湾東部浅海域の底生動物の調査の結果か
らすると、和白干潟の周辺浅海域では汚染がかなり進み、夏季成層の影響がはっき
り現われているが、それでも和白干潟に接している部分では夏季成層期でも生物が
十分に生息し得る健全な環境が保全されている。
(2) 干潟
 eらが、平成五年五月と昭和五七年に行った各調査の結果を比較検討した「博多
湾東部におけるベントスの定量的研究」(甲ロ五七)によると、平成五年の時点で
は、昭和五七年と比較すると底生動物の個体数がかなり減少しており、貝類では、
昭和五七年の調査では全く記録されていなかったマガキがかなり見つかり(マガキ
は汚染に強い種だとされている。)、また、甲殻類は、昭和五七年よりも個体数が
増えているが、これは汚染がひどいところを好むドロクダムシが増えたことによる
ものである。このような調査結果から見ても和白干潟も年々汚染が進行しているこ
とが分かるが、ただ、平成五年の調査の時点でも、和白干潟は一平方メートル当た
りの平均で一五〇〇個体を超える底生動物が生息しており、汚染が進んでいるとは
いえ、和白干潟はまだまだ生物の健全な生息環境が保全されていることを示してい
る。
5 第一五号事件の請求原因4(二)(埋立法四条一項一号違反)について
(一) 埋立法四条一項一号は、免許の基準として「国土利用上適正且合理的ナル
コト」を掲げるが、その前提として、埋立ての必要性があることを要することを包
含しているものと解するのが相当である。自然環境の保全、公害の防止、埋立地の
権利処分及び利用の適正化等の見地から改正された埋立法が昭和四九年に施行され
たことに伴い発令された「公有水面埋立法の一部改正について」と題する通達も、
免許基準について、埋立ての必要性も勘案して審査を行うことを要求している(甲
ロ二〇三)が、これは右の解釈を確認したものということができる。
 ところで、第一五号事件原告らは、本件整備事業が目的として掲げる港湾施設整
備、サイエンスパーク整備、住宅用地整備及び緑地整備の各必要性を否定し、東部
地域の交通渋滞の解消という目的が達せられないことや過大な事業費負担の不合理
性などを主張しているが、右は、前記4のとおり和白干潟等が重要な自然環境であ
るということを前提にした上で、それとの関係において本件埋立ての必要性を否定
するものである。したがって、右事件原告らの主張は、単に本件埋立ての必要性を
否定することのほかに、和白干潟等の重要な自然環境を犠牲にしてまで遂行するほ
どの必要性はないという趣旨をも含むものであると解される。
 そして、この点に関して、証人gは、都市計画論の専門家の立場から、右埋立て
の必要性の要件の具体化として、①海浜でなければ立地できないものであること、
②必要最小限の計画であることの二つの要件を挙げており(甲ロ一一九、証人
g)、第一五号事件原告らも同様の主張をしている。確かに、右基準は、埋立てと
自然環境の保全との調和を図るという観点からは有用なものであり、特に埋立ての
施策を立案・決定する任にある者としては、当該埋立ての是非を慎重に判断し、自
然環境への影響を最小限に止めるために右基準を採用することが期待されるのでは
あるが、これを埋立法四条一項一号の解釈論として採用することができるかといえ
ば、消極とせざるを得ない。
 ところで、本件埋立てにより和白干潟等の自然環境がどのような影響を受けるか
という点は、後記6における主たる検討事項であるから、右の点は後記6に譲るこ
ととし、ここでは専ら本件埋立ての必要性の有無その他について検討することとす
る。ただ、その場合においても、一般に埋立ては自然環境に少なからぬ影響をもた
らさずにはおかない性質のものであること、本件埋立ての場合には、その対象が重
要な自然環境である和白干潟の前面浅海域であることを考慮すると、右の必要性の
程度は相当高度のものでなければならないというべきである。
(二) 以上のような観点から、まず、本件整備事業の最大の眼目であることが明
らかな港湾施設整備の必要性について見ると、これを否定する第一五号事件原告ら
の主張の核心部分は、港湾施設整備の中心に据えられている博多港における外貿コ
ンテナ埠頭の新たな拡充整備が必要ないから、港湾施設整備の必要性もないという
ものである。すなわち、右事件原告らは、現在の博多港における外貿コンテナ埠頭
である箱崎五号岸壁の荷役能力につき、同岸壁には、一時間当たり三〇個のコンテ
ナ(一個当たり三〇・五トン)を取り扱えるガントリークレーンが二基あるから、
その稼働時間を一日当たり二〇時間、稼働日数を年間三〇〇日、コンテナの正味重
量を二五トンとすると、ガントリークレーン一基当たりの荷役能力は四五〇万ト
ン、二基で九〇〇万トンと算定されるところ、昭和六二年から平成二年までの四年
間における同岸壁の外貿コンテナ取扱量は最大でも年間約二七七万トンであるか
ら、同岸壁の荷役能力には十分余裕があるとか、昭和六二年から平成二年までの四
年間における博多港の外貿コンテナ貨物取扱量の全貨物取扱量に対する割合は、約
一四パーセント前後で推移しているにすぎないし、昭和六三年から平成三年までの
四年間における博多港の外貿コンテナ貨物の品目が、輸出ではゴム製品が五〇パー
セントを超える割合を、輸入では動植物性飼肥料と原木とでほぼ五〇パーセントの
割合をそれぞれ占めていることからすると、将来において外貿コンテナ貨物が飛躍
的に増加するとは見込めないなどと主張し、これに沿う証拠(甲ロ七、八、一三、
二五、一一六)を提出する。
(1) しかしながら、右証拠は、いずれも第一五号事件原告ら及びその同調者が
自ら作成した意見書又は資料ないしはそれに類するものにすぎない上、その内容を
見ても、例えば、ガントリークレーンの取扱能力のみを基準にし、しかも、その稼
働時間を一日当たり二〇時間、稼働日数を年間三〇〇日などと設定した上で推計す
るなど、必ずしも相当なものとはいえない。
 そればかりか、証拠(甲イ二九、甲ロ二六、乙二の1・2、二五、五八、六一、
六二)によれば、我が国のコンテナ貨物は昭和五八年から平成五年までの一〇年間
で約二・三倍となり、特にアジアとの輸送料は約三・七倍に急増するなど、今後も
アジアと我が国の各地域との経済交流は飛躍的に拡大するものと予想されることか
ら、国際物流機能の新たな展開が求められること、また、大規模なコンテナターミ
ナルの不足や国際的に比較して立ち遅れた港湾サービスなどのため、国際社会にお
ける我が国の港湾の相対的な地位の低下が進みつつあるとともに、貿易構造につい
ても、輸入コンテナの伸びが約二・九倍と輸出の伸びの約一・九倍を大きく上回
り、輸入対応型のターミナルの整備が急務になっていること、このような事情にか
んがみて、国(運輸省港湾局)としても、既に国際物流の諸機能が集積している東
京湾、伊勢湾、大阪湾及び北部九州の中枢国際港湾において、五〇〇〇ないし六〇
〇〇TEU(二〇フィートコンテナ換算)級の超大型コンテナ船の出現と大規模荷
役施設、情報技術の高度化にも対応した国際海上コンテナターミナルを整備するこ
と、また、そこでは、特に増大する輸入貨物によるコンテナの滞留や荷捌きに円滑
に対応するため、従来の輸出対応型とは異なる広大なコンテナヤードを持つターミ
ナルを整備することなどが企図されていること、右のような状況を背景として、博
多港の港湾管理者である福岡市は、本件港湾計画において、同市が博多港の背後圏
の中心をなし、九州における中枢都市として、ひいてはアジアにおける拠点都市と
して今後も発展を期待されているものと位置付けた上で、平成一二年の総取扱貨物
量を三〇五三・三万トン、そのうち外貿コンテナ取扱貨物量を六一〇万トン(国際
フェリーによるコンテナ取扱貨物量二二万トンを除く。)と各推計し、概ね平成一
二年を目標年次として、香椎地区及び香椎パークポート地区に外貿コンテナ貨物を
取り扱うふ頭を建設することを定めたこと、ところが、博多港の実際の総取扱貨物
量は昭和六二年の二二一二・八万トンから平成七年には約三四一五万トンにまで、
外貿コンテナ取扱貨物量は、昭和六二年の二七九・七万トンから平成七年には七三
八・五万トンにまで増加しており、既に右予測をいずれも上回っていること、博多
港は、本件港湾計画策定後の平成二年に港湾法四二条二項及び同法施行令一条の六
に基づき、重要港湾の中でも外国貿易の増進上特に重要な港湾である特定重要港湾
に指定されたことが認められる。
 右によれば、港湾施設整備の必要性がないとはいえないというに止まらず、むし
ろその必要性が認められるものということができる。
 なお、右事件原告らは、右のような博多港の貨物取扱量の増加は、単純な自然増
ではなく熾烈なポートセールスの結果にほかならないとも主張するが、たとえその
ようなことがいえるとしても、これをもって右の判断を左右するすることはできな
い。
(2) そして、証拠(甲ロ二二、二九、三三、一一六、乙二の1ないし3、九、
一九、三〇)によれば、博多港は、戦前から国際貿易港として港湾施設の整備が図
られていたが、昭和二六年に港湾法上の重要港湾に指定されたのを機に、昭和三五
年に初めて策定された港湾計画やその後数回にわたり改訂された港湾計画に基づ
き、東部の香椎地区から西部の姪浜地区に至るまで次々と埋立てがなされてきてお
り、現在では箱崎、東浜、中央、博多、須崎、荒津及び西戸崎の各ふ頭が稼働して
いること、昭和四七年に改訂された港湾計画では、新たに香椎地区沖合の人工島方
式による海上流通ターミナルの建設を目的とした三八〇ヘクタールの埋立てが計画
されたが、昭和五三年に改訂された港湾計画においては、主として水質保全の観点
から陸続き方式の埋立てに変更されるに至ったこと、同計画において定められた東
部地区の六八六ヘクタールのうち、名島地先一三六ヘクタールの埋立てが、香椎パ
ークポート埋立事業(第一期工事)として昭和六三年一月に着工されたが、これに
先立ち、昭和六二年一一月に右公有水面の埋立免許が認可されるに当たり、環境庁
長官が「博多湾東部海域の自然環境の重要性にかんがみ、今後の港湾整備の検討に
際しては、自然海岸や干潟の保全に十分な配慮がなされる必要がある。」との意見
を表明したこと、昭和六三年三月に社団法人日本港湾協会が被告市長に対し提言し
た博多港長期整備計画調査検討報告書(乙九)によれば、博多港における近年のコ
ンテナ貨物を中心とする取扱貨物量の増大を考慮すると、将来的には既存の前記ふ
頭の効率的活用を図るにしても新たな港湾施設を整備するとともに、既存ふ頭を再
開発するために港湾関連用地の移転用地を確保する必要があることから、香椎パー
クポート地区に隣接した東部地区において、これと機能連携した高度な物流拠点と
してのコンテナメインポートを整備し、博多港の港湾機能の充実強化を図るとの方
向性が打ち出されたこと、このような動きを受けて本件港湾計画が策定されるに際
し、再び人工島方式が採用されたこと、以上の事実が認められる。
(3) そうすると、港湾施設整備の必要性があり、そのために博多港の東部海域
に人工島を建設する必要性があることが一応認められる。
(三) 右のとおり、港湾施設整備のために人工島を建設する必要性があるという
ことになると、福岡市が、この際、右人工島に研究施設や工業用地を確保し(サイ
エンスパーク)、更には住宅用地を確保しようというような総合的な事業を構想
し、これに伴い緑地整備も必要になるという成行きを辿るのは十分理解し得るとこ
ろである(例えば、工業用地は、二次輸送を少なくするために、原材料等の搬入や
製品の搬出が容易にできる場所が好ましく、港湾施設に隣接した場所が最適である
が、現状の博多港においては港湾施設の背後に用地を確保することが困難な状況で
あることから、臨海部において新たな用地を確保する必要があること(乙三の
1)、福岡市は、昭和六三年に策定した福岡市基本計画において、平成一三年の人
口を一四一万五〇〇〇人と予測し、これに対応して住宅用地の確保を計画している
こと、将来の住宅用地の確保に当たっては、既存市街地の高度利用や未利用地の活
用、市街化調整区域から市街化区域への計画的編入によっても対応ができない人口
について、臨海部での埋立てにより創出される土地で対応することとしているこ
と、具体的には、本件人工島の東部地区に一万八〇〇〇人分の住宅用地を確保する
ことを計画していること(乙三の1、一〇ないし一二)が認められる。)。
 そうすると、これらも、港湾施設の整備ほどではないにしても一応必要性が認め
られるものといってよい。
(四) 東部地域の交通渋滞解消
 本件整備事業の出発点となる前記福岡市基本計画には、「市東部地域の交通問題
解決に対処するため、幹線道路の整備、都市高速道路の延伸や副都心香椎との交通
アクセス機能について検討」との記載があり(乙四七)、また、アイランドシティ
基本計画には、「アイランドシティの目的」の一つとして「東部地域の交通体系の
整備」がうたわれている(乙一一)が、前記(二)のとおり、本件整備事業の最大
の眼目は港湾機能の強化であって、東部地域の交通渋滞解消は、精々付随的な狙い
にとどまるものにすぎない(そもそも本件免許に係る埋立願書の添付図書である埋
立必要理由書(乙三の1)には、この点は掲げられてもいない。)。
 なお、本件埋立てにより、右目的が達せられるどころか、却って新たな交通渋滞
を招くとの第一五号事件原告らの主張は、一つの推測の域を出ず、これを認めるに
足りる的確な証拠はない。
(五) 事業費の過大な負担
 本件整備事業のうち、国が施行する部分については、福岡市が負担するのは一九
〇億円、同市の起債で賄うのは四七億円、本件埋立事業については、補助事業が一
般財源二二八億円、市債が五七億円で、起債事業は全部借入金(合計一七〇四億
円)で賄うものとされていることが認められる(乙五六)。
 しかしながら、本件整備事業に係る予算は福岡市議会において議決されており
(甲ロ四四、四七ないし五〇)、必要以上の過大なものであるとの評価はされてい
ないことが窺われるから、単に費用負担が大であることをもって直ちに本件整備事
業に合理的な必要性がないと結論することはできない。
(六) 以上によれば、第一五号事件の請求原因4(二)の主張を採用することは
できない。
6 第一五号事件の請求原因4(三)並びに第一六号事件の請求原因2のうち第一
四号事件の請求原因4(一)及び(二)に同じ部分(埋立法四条一項二号違反、人
格権及び環境権侵害)について
(一) 本件埋立ては博多湾の東部海域の中でも更に東側部分の海域を埋め立てる
というものであり、しかも、その規模は四〇〇ヘクタール余にも及ぶというもので
あるから、本件埋立てが和白干潟等に及ぼす影響として原告らが主張するもののう
ち、次の(1)ないし(6)の諸点については、そのような危惧があるという限り
においては、これを認めることができる(甲ロ二八、五四、五九、証人e、第一五
号事件原告h)。
 なお、第一五号事件原告らの主張する交通渋滞の悪化による生活環境の破壊(請
求原因4(三)(5))及び第一六号事件原告らの主張する本件整備事業による交
通事情への影響(第一四号事件の請求原因4(二))については、前記5(四)の
とおり、一つの推測の域を出ないから、原告らの右主張は採用することができな
い。また、第一五号事件原告らの主張する災害発生のおそれ(請求原因4(三)
(6))については、福岡市もそれなりの配慮を払っていることが認められる(乙
五の五九一頁)から、やはり右主張を採用することができない。
(1) 本件埋立ての対象水域が消滅すること自体による悪影響
イ 右水域の消滅による水質浄化能力の喪失
ロ 右水域における生物の消滅
(2) 和白干潟等に対する影響
イ 本件人工島の背後水域における水交換の悪化
 本件人工島の背後水域(和白干潟の前面浅海域)は、本件人工島の南北に残され
る各水路部分を介して博多湾全体に通じるほかは殆ど閉鎖水域と化し、必然的に外
海(この場合は博多湾を意味する。)との水交換が悪化することが予想される。
ロ 背後水域の浅海化・陸地化
 背後水域に流入する河川水には土壌微粒子が含まれており、これが海水と撹拌さ
れることにより沈降する。前記イのとおり、水交換が悪化することにより、このよ
うな土壌微粒子は外海に出て行きにくくなるので、背後水域において全般に沈降し
た土壌微粒子が蓄積し、浅海化・陸地化が進行することが考えられる。
ハ 背後水域の水質及び底質の悪化
 同様に、河川から背後水域に流入した水質汚濁物質は外海に出て行かず、背後水
域に留まることになる。汚濁物質の中でも有機物が増加(富栄養化)することによ
り、水中のバクテリアが増殖する。このバクテリアが水中の溶存酸素を消費するた
め、溶存酸素量が減少し、水底に棲む生物(底生生物)にとって酸素不足の状態に
なるので、底生生物が減少してゆくとともに、酸素を消費しない嫌気性バクテリア
の活動が活発になる。この嫌気性バクテリアが有機物を分解する際には、底生生物
にとって有害な硫化水素、アンモニアなどが産出されるため、これらによっても底
生生物は減少してゆくことになる。
 このように、水中の溶存酸素の減少と嫌気性バクテリアの活動により、底生生物
の生存に適さない環境が生み出されてゆく(底質の悪化)。
ニ 干潟の水質浄化作用の低下
 干潟の浄化作用には底生生物の活動が重要な役割を果たしている。つまり、底生
生物が減少すればそれだけ干潟の水質浄化作用も減少することになる。水質の悪化
が底生生物の減少を来たし、底生生物の減少はより一層水質の悪化をもたらすとい
う悪循環が生じる。
(3) 和白干潟等における生物への悪影響
 和白干潟の前面浅海域は、博多湾の最奥部に位置し、現在でも閉鎖水域の傾向が
強いため、汚染が進んでいるのに、本件埋立てにより更にその閉鎖性が強まること
になる。そうすれば、和白干潟等の食物連鎖も壊され、野鳥その他の多くの生物が
生活の場を奪われることになり、この地域の生物相は一変してしまう。
(4) 干潟の汚泥(ヘドロ)化
 和白干潟は元々砂質のきれいな干潟で、それ故に福岡市民から身近な憩いの場又
は環境教育の場として親しまれてきたが、そのような自然環境は都市化の影響によ
り年々悪化しつつあり、河川の河口や干潟上部では富栄養化が進行し、汚泥化して
いる。
 本件埋立ては右のような和白干潟の汚泥化を急速に助長することになる。
(5) 悪臭の発生
 右汚泥化によって和白干潟にはアオサが蓄積し、悪臭が発生する。
(6) 景観の変化
(二) これに対し、被告市長は、本件環境影響評価の結果によれば、本件埋立て
による右のような影響はないか、あっても小さいと主張し、本件評価書(乙五)に
はその旨の記述がある。
 その内容(他の証拠により認められる若干の点を含む。)を項目別に列挙する
と、概ね次のとおりである(なお、各項目ごとに本件評価書の該当頁をかっこ内に
掲げる。また、認定に供した他の証拠についても各項ごとに掲記する。)。
(1) 潮流の変化について
 本件人工島予定地周辺において、一定の条件の下に行われた中潮期の潮流シミュ
レーションによれば、本件人工島が存在する場合、低潮後三時(上げ潮最強時)及
び高潮後三時(下げ潮最強時)において、上層(海面から水深四メートルまで)で
は、本件人工島北西側水路で最大毎秒二〇センチメートル程度、本件人工島北東側
水路で最大毎秒四センチメートル、本件人工島南東側水路で最大毎秒一〇センチメ
ートル程度の流れとなっており、下層(水深四メートルから海底まで)では、本件
人工島北西側水路で最大毎秒一〇センチメートル程度となっているところ、本件人
工島が存在する場合と存在しない場合の潮流の速度差は、本件人工島が存在する場
合は、存在しない場合に比べ、低潮後三時、高潮後三時とも、上層では本件人工島
北西側水路において最大毎秒一二センチメートル程度、本件人工島北東側水路にお
いて最大毎秒四センチメートル程度、本件人工島南東側水路において最大毎秒八セ
ンチメートル程度、それぞれ流速が速くなり、本件人工島西側の航路・泊地浚渫域
で最大毎秒六センチメートル程度流速が遅くなる。また、下層では、本件人工島北
西側水路で最大毎秒六センチメートル程度流速が速くなり、航路・泊地浚渫域では
最大毎秒四センチメートル程度流速が遅くなることから、本件人工島が存在する場
合と存在しない場合とでは、本件人工島予定地近傍の水路部における流速の差が多
少あるものの、その他の海域では流速の変化が小さい(四一九頁)。
 恒流についても、本件人工島が存在する場合は、本件人工島の西端前面海域に環
流が見られ、恒流の差流速(本件人工島が存在する場合と存在しない場合の差)
は、上下層において本件人工島西端前面海域で最大毎秒二・五センチメートル程
度、雁の巣鼻付近で最大毎秒一・〇センチメートル程度流速が速くなり、本件人工
島西側の北防波堤付近で最大毎秒一・五センチメートル程度遅くなるにすぎず、他
の海域においても、恒流の変化は小さい(四一九ないし四二〇頁)。
(2) 塩化物イオン濃度について
 本件整備事業による和白下水処理場の放流口の変更に伴い、同下水処理場の放流
口地先で、一六・二パーミルが、〇・一ないし〇・三パーミル上昇する程度であ
り、本件整備事業による塩化物イオン濃度の変化は殆どない(五六一頁)。確か
に、塩化物イオン濃度は、平成二年度の年平均値で、西部海域から東部海域に向か
って低くなっているが、これは、河川等から博多湾に流入する淡水の約七〇パーセ
ントが東部海域に流入していることによるものである(一七二及び三五〇頁)。
(3) 周辺海域の浅海化・陸地化について
 潮流については、本件人工島の北側や南側の水路部分で流速が多少速くなるもの
の、その他の海域では流速の変化は小さいし(前記(1))、塩化物イオン濃度の
変化も殆どなく(前記(2))、また、本件人工島の周辺海域への河川からの流下
土砂量も少なく、水質及び底質への影響も小さいことから、陸地化は殆どない(五
八五頁)。
(4) 潮流の予測方法について
イ 潮流・水質の予測に数理モデルを用いたのは、一般に広く用いられているこ
と、水質の内部生産を再現することができることによるものである(五六三頁)。
ロ 右数理モデルの計算式においては、水深が四メートルより浅く上層のみの計算
となる水域でも、一般的に広く用いられている海底摩擦係数を設定し、この値を用
いた計算をしている(五六一頁)。
ハ 博多湾において、強度の季節風が長時間継続して吹く頻度は少ないことから、
年平均的な流れの予測においては吹送流を考慮していない。密度流も、表層と底層
の塩化物イオン濃度の差は殆どないので考慮していない(五六三頁)。
(5) 水質の悪化について
イ 水質の予測について
 本件人工島の周辺海域の水質について現状と将来とを比較し、本件人工島が存在
しない場合では、主に下水道の整備と下水処理場でのリンの高度処理により改善さ
れると予測している(四四〇頁図6―1―26及び図6―1―27の「COD濃度
年平均値の平成元年度実測値と現況再現計算結果」と四四三頁図6―1―28及び
図6―1―29の「COD濃度年平均値の予測結果(埋立地が存在しない場合)」
との比較、証人i)。その上で、本件整備事業を実施することによる本件人工島の
周辺海域の水質への影響に関しては、和白海域に処理水を放流している和白下水処
理場の放流口を本件人工島予定地西端に変更することにより、本件人工島が存在す
る場合と存在しない場合の水質には殆ど差が生じないものと予測している(四四三
頁図6―1―28及び図6―1―29の「COD濃度年平均値の予測結果(埋立地
が存在しない場合)」と四四四頁図6―1―30及び図6―1―31の「COD濃
度年平均値の予測結果(埋立地が存在する場合)」との比較並びに四四五頁図6―
1ー32及び図6―1―33の「埋立地が存在する場合と存在しない場合のCOD
濃度の差濃度」)。
ロ 予測の条件について
 水質の予測・評価は、和白下水処理場の放流口が本件人工島予定地西端で、福岡
市の全下水処理場及び博多湾に流入する河川の流域下水処理場において高度処理を
実施した場合について行っている(証人i)が、さらに、将来の水質について、次
の三つのケースについて検討を加えている(四四二頁)。
① 和白下水処理場の放流口が本件人工島予定地西端で、福岡市の全下水処理場の
みにおいて高度処理を実施した場合(ケース1)
② 和白下水処理場の放流口が現状の位置で、福岡市の全下水処理場及び博多湾に
流入する河川の流域下水処理場において高度処理を実施した場合(ケース2)
③ 和白下水処理場の放流口が現状の位置で、福岡市の全下水処理場のみにおいて
高度処理を実施した場合(ケース3)
ハ リンを制限因子としたことについて
 窒素やリンなどの栄養塩が大量に流入した海域では、植物プランクトンの増殖に
より有機物が増加した(内部生産)結果として、赤潮の発生を初めとした水質汚濁
が生じている。このような水質汚濁を防止するためには栄養塩の削減が必要である
が、植物プランクトンの増殖は、栄養塩のうち最も不足している栄養塩、いわゆる
制限因子の量によって左右される(リービッヒの最小律)から、制限因子の削減が
効果的な内部生産の抑制につながるところ、植物プランクトンが海中から摂取する
窒素とリンの比は七・二四対一であるから、平均的には海水中の窒素対リンの比が
七・二四よりも大きいときはリンが制限因子となっており、それよりも小さいとき
はその逆となる(甲ロ二一、証人i、弁論の全趣旨)。
 博多湾の海水中の窒素とリンの比については、湾全域の二九地点におけるそれ
は、平成二年度の平均値で湾全体にわたってリンの方が少なく(一八三及び一八五
頁)、博多湾内の窒素対リンの比は一〇前後であった(証人i)。
 したがって、博多湾の植物プランクトン増殖の制限因子は、年平均的にはリンで
あり、リンの高度処理を行うことによって、博多湾の植物プランクトンの増殖を抑
制し、湾内の水質浄化を図ることとしたものである(五五九頁、証人i)。
ニ 高度処理の導入を前提としたことについて
 指針によれば、環境影響評価の実施に際し、予測を行うに当たっては、「事業者
等が公害の防止及び自然環境の保全のための措置を講ずる場合には、その措置を踏
まえて行うことができる。」とされており、また、評価については、「国又は地方
公共団体等が実施する公害の防止及び自然環境の保全のための施策を勘案すること
ができる。」とされている(乙四)ところ、昭和六一年度策定の福岡市環境プラン
において、博多湾の水質保全対策について、工場・事業場、生活排水等の発生源対
策、下水道の整備、底泥の浚渫等の対策とともに、富栄養化防止対策として、博多
湾に流入する河川及び湾に処理水を放流する下水処理場でのリンの高度処理を進め
ることとしており(五五九頁)、同市では、既に平成五年度から和白、西部及び中
部下水処理場への高度処理施設の導入を開始し(ただし、生物学的リン除去法とし
て嫌気好気活性汚泥法が採用されていることは各施設とも共通しているが、返流水
対策としては、和白及び西部はMAP法が採用されているものの、中部下水処理場
においては凝集沈殿法によることとされている。)(甲ロ五二、乙三一)、和白下
水処理場では平成八年度から高度処理施設が稼働しているものである(乙六三)。
そして、平成一二年度には福岡市の全ての下水処理場で高度処理導入を完了する計
画である(甲ロ五二)。
 そこで、本件環境影響評価の実施に当たっては、指針に従い、福岡市環境プラン
の条件を勘案して、将来水質の予測条件として、博多湾に流入する河川及び湾に処
理水を放流する下水処理場でのリンの高度処理の導入を設定する(四三六及び四三
七頁)とともに、福岡市の下水処理場のみがリンの高度処理施設を導入した場合に
ついても、設定している(四三七及び四四二ないし四四七頁)。
 それぞれの設定条件に基づく予測及び評価によると、博多湾に流入する河川及び
湾に処理水を放流する全ての下水処理場が高度処理を行った場合も、福岡市の下水
処理場のみが高度処理を行った場合も、本件人工島予定地周辺の博多湾東部海域の
環境基準点で、将来CODの環境基準を満足するとの評価を得ている(四四一、四
四二、四四六、四四七及び四六七頁)。
ホ 予測結果及び評価方法について
① ケース3でも水質は改善すること
 福岡市の全下水処理場のみがリンの高度処理施設を導入した場合では、水質予測
に係るリンの博多湾東部海域への流入負荷量は、現況よりわずかに増加となるが、
CODの博多湾東部海域への流入負荷量は、現況の日量約一〇・五トンが将来は約
九・五トンに削減される(四三七頁)ことから、和白干潟前面海域及び香椎前面海
域の将来水質は、ケース3の場合であっても、現況と比較してわずかながらではあ
るが、改善されると予測している(四四二頁)。
② 評価方法の妥当性
 水質汚濁に関する環境基準については、環境基本法一六条一項に基づく「水質汚
濁に係る環境基準について」(昭和四六年一二月二八日環境庁告示第五九号。乙六
四)第1の2(1)及び(2)並びに「水質汚濁に係る環境基準の取扱いについ
て」(昭和四五年七月二三日経企水公第七七号。乙六四)第二の2(1)及び
(3)により、環境庁長官又は都道府県知事が対象となる公共用水域に関する環境
基準の類型指定を行うこととなっており、博多湾については、福岡県知事が博多湾
の海域分割及び類型指定を行っている(乙六五)。
 この水質環境基準に関する水質調査については、「水質汚濁に係る環境基準につ
いて」第2(1)並びに「水質汚濁に係る環境基準の取扱いについて」第三の1
(1)及び(3)により、環境庁長官又は都道府県知事が設定した環境基準点を含
む測定点を対象に、水質汚濁防止法一六条に基づき、都道府県知事が作成した測定
計画に従って行われている(乙六四)。
 また、環境影響評価における水質の環境基準の適合如何については、「公共用水
域におけるBOD又はCODの評価方法について(通知)」(昭和五二年七月一日
環水管第五二号。乙二三)の3に基づき、環境基準点により評価されるものである
ことから、本件整備事業を実施する海域に当たる博多湾東部海域の環境基準点であ
るE―2、E―5及びE―6の三地点のうち、本件整備事業実施後も存続するE―
2及びE―6で、環境基準の適合について評価したものである(四四一頁)。な
お、環境基準点E―5が消滅することから、本件環境影響評価では前記ロの四つの
ケースのいずれについても、環境基準点での水質検討に加え、和白前面海域及び香
椎前面海域の水質についても予測している(四四一及び四四二頁)。
(6) 地形の変化について
イ 地形変化の予測方法について
 指針によれば、地形の予測は、「既存事例の引用又は解析、数値計算、模型実験
等により行う。」ものとされている(乙四)ところ、福岡管区気象台の一〇年間の
風資料を基に、本件人工島の南西端の地点について湾内波を推算した結果、波浪
は、波高〇・三メートル未満が九五・七パーセント、一メートル未満でほぼ一〇〇
パーセントと、静穏な海域となっていること(六七頁)及び本件人工島が存在する
場合は存在しない場合に比べて、低潮後三時、高潮後三時とも、海岸付近の潮流の
流速変化は小さいが故に漂砂への影響も小さいことから、地形の変化は殆どない
(四四九頁)。
ロ 航路・泊地の浚渫による海岸線の変化について
 航路・泊地部分は浚渫により水深が現状より最大一〇メートル程度深くなる区域
があるが、既存の海岸から相当の距離があるし、既存の海岸から最も近い西戸崎沖
の航路浚渫区域でも、海岸から一定の距離がある上、現在の水深約六メートルを八
メートル浚渫する程度である(乙二の1添付の博多港港湾計画図)。したがって、
航路・泊地の浚渫による影響は殆どない(五八五頁)。
(7) 生物への影響について
イ 生物に関する環境影響評価の方法について
 指針によれば、植物の予測項目としては「陸生植物、水生植物に係る貴重な種、
貴重な群落及び貴重な植生の消滅の有無及び改変の程度」、動物の予測項目として
は「ア 陸生動物、水生動物に係る貴重種の生息域の消滅の有無及び改変の程度 
イ 貴重種の生息状況への影響」とされている(乙四)ところ、これに従って、生
態系を構成するプランクトン、遊泳生物、底生生物、干潟生物、鳥類などの生物及
びそれを取り巻く水質・潮流などについて現況調査及び予測を行い、これを基に生
物の影響評価を実施している(五八三頁)。
 しかも、海生生物については、昭和六二年度に湾全域の現況調査を実施した上で
平成元年度にも現況調査を実施したものである(二一五、二二二、二二八、二三
二、二三六、二四〇及び二四三頁)。
ロ 海生生物への影響について
 プランクトン及び魚卵・稚仔魚については、潮流・水質の変化による生息状況へ
の影響は殆どなく、遊泳生物及び底生生物については、生息域の一部が消滅又は改
変するが、これらの生物は、本件人工島予定地周辺に広く分布しており、潮流・水
質及び底質の変化による影響も殆どないことから、生息状況への影響は小さい。ま
た、潮間帯生物及び干潟生物については、潮流、水質及び底質の変化による影響は
殆どなく、本件埋立ては人工島方式であるため、生息域の消滅及び改変はないこと
などから、生息状況への影響は殆どない(四五〇ないし四五三及び四六八頁)。
 なお、本件埋立ての工事中は汚濁防止膜を展張することによって濁りの拡散が工
事区域近傍に限られるから、右工事の海生生物の生息状況への影響も小さい(三九
二ないし三九五及び四一〇頁)。
ハ 鳥類への影響について
① 生息状況等への影響について
 本件人工島予定地及びその周辺浅海域には海ガモ類、カイツブリ類、カモメ・ア
ジサシ類、陸ガモ類及びウ類が生息しているところ、本件埋立てによりこれらの鳥
類の生息域が減少し、餌生物である底生生物の生息域も一部消滅するから、右鳥類
の分布状況及び個体数が多少変化するものと考えられるが、その主要生息域であ
り、かつ、餌生物の多い和白干潟等は保全されること、本件人工島予定地の周辺浅
海域にも生息域が存在すること、和白干潟等では、将来の水質や底質が悪化するこ
とはなく、餌生物である底生生物や魚類等の生息状況への影響は小さいことなどか
ら、鳥類への影響は小さいか又は殆どない(四五四ないし四五七及び四六九頁)。
② 本件環境影響評価の妥当性について
 平成三年度に鳥類の終日調査(二四時間調査)を行い(乙三五)、この調査で得
られた群れの位置、数、行動についての結果も踏まえて予測・評価を行っており、
その結果は、本件評価書にまとめて記載されている(二七〇頁の図3-2-84、
85、86及び二七八頁の図3-2-96)。
 カンムリカイツブリ、海ガモ類、シギ・チドリ類といった水鳥の主要生息域は、
水深約三メートル以下の海域であり、かつ、餌生物である底生生物が多い浅海域で
あることから、人工島方式の埋立てとすることにより、右主要生息域を保全し、影
響を小さくすることに配慮している(二六三ないし二六九頁及び二七四頁)。ま
た、鳥類の生息密度の高い水域は、本件人工島予定地よりもその周辺に多い(二七
〇頁)。
 なお、本件評価書において、主要生息域とは、昭和六二年度から平成二年度にか
けて四年間の鳥類調査結果に基づき(二五五頁)、主要生息期間における毎月の観
察で、種の確認回数が観察回数の半数以上に及ぶ区域と定義している(二六三頁脚
注)。
(8) 悪臭の発生について
 アオサについては、本件埋立てが竣功した後も、海水が停滞する水域は生じない
こと、水質は現状よりも改善されると予測されることから、アオサの発生及び干潟
への集積は抑制される(五六九頁)。
 したがって、それによる腐臭も抑制される。
(9) 景観への配慮について
 建物等の適切な配置、デザイン、色彩などを十分検討するとともに、親水緑地を
配するなど、周辺の景観との調和を図るとともに、環境の保全に十分配慮した博多
湾に相応しい良好な全体景観を創出することから、景観の変化の影響は小さい。ま
た、福岡市は、専門家等の意見を聴いて景観形成ガイドラインを策定し、良好な景
観の創造に努めるなど、景観への十分な配慮を行うことにより、環境変化の最小化
に努めることとしている(五三六、五三七、五九一及び六〇五頁)。
(三) 前記(二)のような本件評価書の記述に対し、原告らは、事実欄第二の第
一五号事件の五及び第一四号事件の請求原因4(三)(1)記載のとおり、多岐に
わたる批判を展開している。
 そこで、原告らの批判(第一五号事件については請求原因も含む。)について検
討すると、後記(1)のとおり、当を得ないか、或いは少なくとも直ちには採用し
難いものもあるが、後記(2)の諸点は、それなりに首肯すべき内容が含まれてい
るものといわなければならない。なお、そのうちハは、本件評価書の内容に関する
直接的な批判ではないが、本件評価書の基本的な姿勢の在りようを問うものとして
看過することができない。
(1)イ 第一五号事件の五1(一)及び第一四号事件の請求原因4(三)(1)
イの③について
 博多湾のように植物プランクトンによる有機物の内部生産が多い海域では、水質
予測の上で内部生産の再現を行うことが重要である(原告h)が、水理模型実験で
はこれができない(証人i)から、内部生産の再現ができ、一般にも広く用いられ
ている数理モデルが用いられたことを不当であるとはいえない。
 また、本件評価書においては、上層のみの計算となる水域についても、海底摩擦
係数を設定して、これを用いた計算式で予測している(前記(二)(4)ロ)。
 さらに、年平均的な潮流の予測において吹送流や密度流を考慮しなかった理由と
して掲げるところを不当とはいえないし、潮汐残差流については、本件評価書が恒
流として計算しているとの見解を示している(乙五の五六三頁)。
ロ 第一五号事件の五2について
 漂砂現象の現況メカニズムを把握した上で、本件人工島が建設されることによる
汀線の変化を予測する必要があるとの批判については、本件人工島予定地の周辺海
域は静穏であり、本件人工島が存在する場合と存在しない場合とで海岸付近の流速
変化は小さいから、そこまで予測する必要はないものとしたことを不当とはいえな
い。
 また、航路、泊地等の浚渫が地形変化に及ぼす影響を予測、評価すべきであると
の批判についても、浚渫によって水深が最大一〇メートル程度深くなることを考慮
して地形変化の予測をしている(前記(二)(6)ロ)というのであるから、右批
判は当たらない。
ハ 第一五号事件の五3(一)(1)及び(3)について
 まず、自然を生態系として扱った調査が行われていないとの批判については、前
記(二)(7)イのとおり、指針の掲げる調査項目に従った本件評価書の調査方法
を不当とはいえない。
 また、基礎データが殆ど示されていないとか、記載内容が著しく分かり難いなど
とする点は、前者については、環境影響評価において、あらゆる項目について基礎
データまで示すべき合理的な根拠は見出せないし、後者については、そもそも環境
影響評価自体が専門性・技術性の高いものであるという内在的な要因に由来する面
も否定することができず、それ以上に本件評価書が他の評価書と比較して特に分か
り難いということを示す証拠はない。
ニ 第一四号事件の請求原因4(三)(1)ロの前段について
 証拠(乙一三、一五)によれば、福岡県知事が、平成五年四月二二日、本件準備
書について、「評価書において記載又は補充すべき事項」の一つとして、「和白干
潟及びその前面海域の渡り鳥の渡来地、野鳥の生息域としての重要性にかんがみ、
事業実施の鳥類の生息状況に与える影響予測に際し、次に掲げる調査・予測をする
こと。ア 精度の向上した生息種、数の調査及び生息密度の把握、イ 鳥類の主要
生息域と餌生物生息状況の関係、ウ 餌生物の生息状況が埋立地の出現により受け
る影響予測」と指摘したのを受けて、福岡市は、本件評価書に、右アについては、
平成三年一二月から平成四年二月に掛けて毎月、本件人工島予定地周辺の終日調査
を行った結果や、シギ・チドリ類、陸ガモ類、海ガモ類及びカンムリカイツブリの
生息密度を記載し、右イ及びウについては、平成五年一月に調査された底生生物及
び海ガモ類の分布状況の図を記載するなどしていることが認められるが、準備書の
縦覧によって指摘された事項につき既に調査済みであったとすれば、右調査結果を
評価書に記載すれば足り、その時点で改めて同じ調査をすべきであるとまではいえ
ない。
ホ 第一四号事件の請求原因4(三)(1)ロの後段について
 本件評価書によれば、前記(二)(7)ロのとおり、海生生物の生息地が消滅す
ることの影響についても一応の調査が行われている。
ヘ 第一五号事件の請求原因4(三)(4)について
 本件埋立てによって景観が変化することは明らかといってよいが、福岡市として
もこの点については一応の配慮をしている(前記(二)(9))。
(2)イ リンの高度処理だけを問題にしていることについて(第一五号事件の五
1(二)及び第一四号事件の請求原因4(三)(1)イの②)
① リン濃度の算定方法
 博多湾の底質には相当量のリンが含まれているから、水中の全リン濃度を算出す
るためには、陸側から流入するリンの量だけでなく、底質から水中に溶出するリン
を計算に入れる必要があるが、リンの溶出速度は底質に接する海水のリン濃度によ
って変化する。すなわち、陸側から流入するリンの量が減り、海水中のリンの濃度
が減少すれば、底質から海水に溶出するリンの量は増加し、水中のリン濃度の減少
を抑える要因になる筈である。
 しかし、本件評価書が採用した計算式(乙五の四三二頁)からすれば、底質から
のリンの溶出速度は陸側から流入するリンの量が減少しても増加しないという立場
を採ったとしか考えられない。
(以上につき原告h)
② 窒素
 本件評価書がリンを抑える必要性に着目したことは相当である。しかし、リンさ
え抑えれば窒素がいくら多くても水質に影響しないという考え方には疑問がある。
植物プランクトンにおける窒素とリンの比率が約七・二四対一であるというのは、
あくまでも全体の平均であって、実際の比率は植物プランクトンの種類によって異
なる(原告h)。水質改善のためには脱リン処理が必要であることに加え、窒素対
策が有効であることは明らかである。既に我が国では、平成五年に港湾等の窒素・
リンの環境基準が定められ、博多湾についても平成八年六月に右基準が設定されて
いる(甲ロ一七七)が、右基準の設定を答申した中央公害対策審議会の「海域の窒
素及びリンに係る環境基準等の設定について」(甲ロ二一)によれば、「海域の場
合は、海水の窒素とリンの構成比が同じ水域内においても季節的・場所的に変動し
ており、植物プランクトンの構成比との間に一定の大小関係を見出すことはできな
いことから、窒素又はリンのいずれか一方のみが植物プランクトンの増殖に影響し
ているとは言えない。また、海水の構成比が通常の値から大きくはずれた場合に
は、健全な海域の生態系の維持という観点から支障を生じるおそれがあり、これら
のことを考慮すれば、環境基準は窒素又はリンの両者について設定することが適当
である」とされているところである。本件免許に際して述べられた環境庁長官の意
見も、「博多湾の汚濁機構の解析として、COD、リン・窒素の陸域からの負荷、
底泥からの溶出、内部生産等に関する検討を進めるとともに、発生源対策、湾内の
有機物削減対策等を検討し、実施すること」と、窒素についての検討及びその対策
を求めている(乙一四)。
ロ 下水の高度処理の導入を前提にしていることについて(第一五号事件の五1
(三)及び第一四号事件の請求原因4(三)(1)イの①)
 この点について、指針は、「6 評価 (1) 基本的考え方」において、「評
価に当たっては、必要に応じ、当該対象行為等以外の事業活動等によりもたらされ
る地域の将来の環境の状態を勘案するものとする。また、国又は地方公共団体等が
実施する公害の防止及び自然環境の保全のための施策を勘案することができる。」
としている(乙四)から、福岡市としては、一つのケースとして、福岡県が高度処
理を導入した場合について、本件環境影響評価を実施したものと認められるが、環
境影響評価ができる限り正確なものであるためには、右に勘案した施策が将来にお
いて実施される蓋然性が相当高いことが求められるものというべきである。それ
故、前記環境庁長官の意見も、水質保全に万全を期するため、「(1) 水質予測
の前提となっている博多湾の流域内の下水道の整備を計画的かつ確実に実施するこ
と。(2) 博多湾の流域内の下水道のすべての終末処理場で、水質予測の前提と
なっている高度処理を計画的かつ確実に導入すること。」といった措置を講じるこ
とを求めている(乙一四)。ところが、前段に関しては、博多湾の水質汚濁を徐々
に進行させている多々良川の流域下水道計画は、平成四年においては、平成一二年
度に完成する予定であったが、平成七年になると、完成予定が平成二二年度と一〇
年も延びているのであり(甲ロ六九、七〇)、幹線管きょ延長距離が延長された
り、計画区域が広がっていることなどを考慮したとしても、下水道整備が計画的か
つ確実に実施されるかについては疑問が残る。また、後段に関しても、福岡市自身
が高度処理の導入を予定している市内の下水処理場のうち、東部及び西部の二か所
については導入の可能性はあるものの、現在、全体の半分を処理している中部につ
いては、返流水対策として効果の高いMAP法(乙六三)の採用が予定されておら
ず(甲ロ五二)、嫌気好気活性汚泥法の採用のみで高度処理が導入されたと見てよ
いかは疑問が残る(原告h)し、和白下水処理場において高度処理施設の運転が開
始されたのも、本件環境影響評価が実施された時点からすると相当後のことであ
る。さらに、証拠(甲ロ一七七、証人i)によれば、本件環境影響評価実施時にお
いて、福岡県には高度処理を導入する計画はなかったこと、平成八年においても、
計画策定中にとどまっていることが認められ、そうだとすれば、本件環境影響評価
が想定した前記ケースは、余りに実現不確実な計画を前提としたものであるといわ
ざるを得ない。
 さらに、東部海域におけるCOD七五パーセント値については、ケース1ないし
3のいずれの場合も、本件人工島の建設によって消滅するE―5において、一リッ
トル当たり三ミリグラムという環境基準を上回ることが予測されている(乙五の四
四二頁の表6-1-9)のであるから、前記4のような和白干潟等の自然環境とし
ての重要性に思いを致せば、福岡市としても、単にE―5以外の環境基準点である
E―2及びE―6においていずれも環境基準を下回るものと予測されることで事足
れりとせずに、より湾奥部にあり和白干潟の前面浅海域に位置するE―AやE―E
(乙五の一六八頁の図3-2-14参照)において環境基準をクリアするのかにつ
いても予測した上で、博多湾全体にわたって水質が保全されるのかどうか更に検討
を尽くすべきではなかったかという不満が残る。そして、右の点は、ひいては本件
評価書における水質予測の姿勢そのものについても疑念を生じさせかねないもので
ある(ただし、右E―2及びE―6などの環境基準点は福岡県知事により設定され
たものである(証人i)から、福岡市がこれらの環境基準点について水質予測をし
たこと自体をもって恣意的であるとの非難をすることはできない。)。
ハ 過去の環境影響評価について(第一五号事件の五1(四)及び第一四号事件の
請求原因4(三)(1)ハ)
① 西部地区の埋立ての際の環境影響評価
 昭和五六年に福岡市が地行・百道地区の埋立て(「シーサイドももち」)及び小
戸・姪浜地区の埋立てに際し行った環境影響評価における平成二年の博多湾のCO
D七五パーセント値の推計値と同年に実際に測定された実測値とを比較すると、ほ
ぼ全ての地点において、後者が前者を上回っている。そして、西部及び中部海域に
おいては、推計値が殆ど全て二以下であるのに対し、大多数の実測値が二以上であ
り、東部海域においては、推計値が全て三以下であるのに対し、実測値が全て三以
上である(甲ロ三〇)。西部及び中部海域の環境基準は二以下であるのに対し、東
部海域のそれは三以下である(甲ロ六九、証人i)から、平成二年には博多湾内の
全ての測定点における水質が環境基準を満たすとの福岡市の予測に反し、実際には
殆ど全ての測定点において環境基準を超える汚染が観測されたことになる。
② 香椎パークポートの環境影響評価
 昭和六一年に福岡市が香椎パークポートの埋立てに際し行った環境影響評価にお
ける平成七年の博多湾のCOD七五パーセント値の推計値と平成五年に実際に測定
された実測値とを比較すると、全ての地点において、後者が前者を上回っている
(甲ロ三〇)。
 このように、これまで福岡市が行ってきた環境影響評価は、少なくとも水質の点
においては信頼するに足りるものであるとは言い難い。そうとすると、本件環境影
響評価についても、水質の調査及び予測方法に特段改善された事情が見当たらない
以上、COD七五パーセント値の推計値を額面どおり受けとめるわけにはゆかな
い。
ニ データの意図的操作について(第一五号事件の五3(一)(2))
 本件整備事業が和白干潟の面している東部海域に生息する生物に対しいかなる影
響を及ぼすかを正確に把握するためには、まず、東部海域の特徴をつかむことが必
要であり、それには同海域と博多湾の他の海域とを比較すべきであって、東部海域
と博多湾全域との比較では不十分であることは多言を要しない。
 しかるに、本件評価書では、後者の比較を行っている(乙五の二一八頁の表3-
2-45など)。
 また、後記ホのとおり、異なった年度の調査結果をもって地域間の比較をした
り、鳥類についてのみ、追加で平成三年一二月から平成四年二月にかけて終日調査
を行っている(乙五の二五五頁)。これらは、データを意図的に操作しようとした
ものとまで断じることはできないものの、計画的な調査であったとはいい難いこと
は確かである。
ホ 各生物への影響について(第一五号事件の五3(二))
① プランクトン
 各調査地点の調査時期が全く異なっている。すなわち、P―1ないし11の各地
点の調査時期は、昭和六二年(春、夏、秋季)及び昭和六三年(冬季)であるのに
対し、P―12は平成元年、P―13及び14は平成元年(夏、秋季)及び平成二
年(冬、春季)である。また、同じ季節であっても調査月が異なっている。
(乙五の二一五及び二三二頁)。
② 魚卵・稚仔魚
 この種の調査は、表層、中層及び底層に分けて網を引いてなされるべきである
(甲ロ七)のに、表層に生息するものに対してしかなされていない。
③ 遊泳生物
 調査は、春夏秋冬各一回ずつの四回しか行われていないため、偶然の要素に左右
されやすく(証人e)、また、各調査地点における調査時期も、U―1ないし6と
U―7ないし10とで異なっている(乙五の二二八頁)ので、正確性が担保されな
い嫌いがある。
④ 底生生物
 まず、各調査地点の調査時期が全く異なっている。すなわち、T―1ないし15
の各地点の調査時期は、昭和六二年(春、夏、秋季)及び昭和六三年(冬季)であ
るのに対し、T―16は平成元年、T―17ないし20は平成元年(夏、秋季)及
び平成二年(冬、春季)である。また、同じ季節であっても調査月が異なってい
る。(乙五の二三二頁)。
 また、調査地点も、和白干潟に限れば、T―17の僅か一か所にすぎず(右頁の
図3―2―53)、eらが平成五年五月に行った調査が六〇か所であること(甲ロ
五七)に比較すると、不十分といわざるを得ない。
⑤ 潮間帯付着生物及び干潟生物
 いずれの調査においても、各調査地点における調査時期がバラバラである(乙五
の二三六、二四〇及び二四三頁)。
⑥ 鳥類
 本件埋立てによって直接的に生息地を失うことになる鳥類の将来を予測するため
には、なぜ右鳥類が博多湾東部海域に集中し、何を餌にしているのか、本件人工島
の建設によってどこに移動させられ、その環境と元の環境とはどのように異なるの
かなど、その生態について詳細な調査を実施して、条件の変化によって鳥類がどの
ような影響を受けるのかを推測することが必要不可欠である(甲ロ七)のに、本件
環境影響評価ではこのような調査・分析がされていない。
(四) 以上検討してきたところによれば、本件評価書には、その内容において決
して軽視することができない問題点があるものといわざるを得ない。前記(三)
(2)のうち、イ、ニ及びホは単にいささか杜撰な調査・予測であるという域を出
ないともいえるが、ロは重要であり、特にハのような先例があることをも加味して
考えるならば、厳しい批判を免れない。これは、環境影響評価として本来備えてい
なければならない筈の科学的で客観的な性格とはやや異質なものを感じさせさえす
るのである。
 そうであれば、本件評価書をもってしても、前記(一)の危惧が完全に払拭され
るまでには至らないものというべく、むしろ、本件評価書は、博多湾の東部海域が
四〇〇ヘクタール余も埋め立てられてしまうことによる自然環境への重大かつ深刻
な影響を軽視している嫌いがありはしないかということが懸念される。
 しかしながら、本件環境影響評価及び本件評価書はおよそ環境影響評価の名に値
しないものというべきかといえば、そこまで決め付けることはできないし、それ
故、福岡市が一応の環境影響評価の義務を果たしていることを否定することもでき
ない。
 そうすると、本件整備事業が埋立法四条一項二号に違反しているとか、福岡市民
の人格権・環境権を侵害するとは未だいえず、結局この点に関する原告らの主張は
採用することができないことに帰する。
7 第一五号事件の請求原因4(四)(埋立法四条一項三号違反)について
 一般に、行政処分が違法であるかどうかは、当該行政処分がなされた時点を基準
時として判断されるべきことであって、右時点後に生じた新たな事情を参酌すべき
ではない(最高裁昭和二八年一〇月三〇日行裁集四巻一〇号二三一六頁参照)か
ら、本件免許の違法性の有無についても、本件免許時を基準時として判断されるべ
きである。
 ところで、環境基本法一五条に基づく環境基本計画は平成六年一二月一六日に策
定されたものであり(甲ロ二〇三)、生物の多様性に関する条約に基づく生物多様
性国家戦略が策定されたのは平成七年一〇月である(甲ロ二〇四)から、いずれも
本件免許時においては存在しなかったのであり、本件免許がこれらに違反するかど
うかを論ずべき理由がない。
 そうすると、第一五号事件の請求原因4(四)の主張は失当である。
8 第一五号事件の請求原因4(五)(埋立法四条一項違反(自然保護に関する条
約違反))について
 埋立法四条一項各号の基準は、これに適合しないと免許することができない最小
限度のものであり、右基準の全てに適合している場合であっても免許の拒否はあり
得るのである(甲ロ二〇三)から、当該埋立てが条約に違反することが認められる
場合には、免許権者は免許を拒否すべきであるということができる。
 しかし、本件埋立事業が自然保護に関する条約に違反しているとはいえないか
ら、第一五号事件の請求原因4(五)の主張を採用することはできない。すなわ
ち、ラムサール条約においては、まず、締約国がその領域内の適当な湿地を指定す
ることにより国際的に重要な湿地に係る登録簿に掲げられる(二条一項)、締約国
は、右登録湿地の保全を促進し、及びその領域内の湿地をできる限り適正に利用す
ることを促進するため、計画を作成し、実施する(三条一項)、また、各締約国
は、湿地が登録簿に掲げられているかどうかにかかわらず、湿地に自然保護区を設
けることにより湿地及び水鳥の保全を促進し、かつ、その自然保護区の監視を十分
に行う(四条一項)ものとされているが、和白干潟がラムサール条約の登録湿地に
なっていないことは当事者間に争いがなく、また、既に見たところからしても、福
岡市としては、本件埋立事業の実施において、湿地及び水鳥の保全に一応留意して
いることが認められるから、本件埋立事業が右条約に違反しているとはいえない。
 また、各二国間渡り鳥条約については、いずれも、渡り鳥の保護のため保護区を
設定するなど適正な措置を採るように努める旨の努力義務規定しか置いておらず、
そもそも条約違反を云々することはできない。
9 第一五号事件の請求原因4(六)(適正手続(憲法三一条)違反)及び第一六
号事件の請求原因2のうち第一四号事件の請求原因4(三)(2)ないし(4)に
同じ部分(地方自治法一三八条の二違反)について
(一) 合意形成の欠如について
(1) 第一五号事件原告らの主張する「合意形成」については、つまるところ、
事業者たる福岡市は、法令等に定められた住民等の関係者の意見を聴くべき手続を
適正に遵守していないとの主張と理解することができる。
 そこで、この点を検討すると、まず、実施要綱などに基づく環境影響評価の手続
においては、事業者は準備書を一か月間縦覧に供するとともに、説明会を開催して
関係住民の意見の把握に努める一方、関係都道府県知事の意見も聴いた上で、評価
書を作成し、これを改めて一か月間縦覧に供すること、次に、埋立法に基づく免許
取得の手続においては、免許権者は埋立願書を三週間縦覧に供するとともに、地元
市町村長の意見を徴しなければならず、また、埋立てに関し利害関係を有する者は
意見書を提出することができる(埋立法三条一項、三項及び四項)ものと、それぞ
れ定められているところ、前者については、証拠(乙一三、一五、三七ないし四
二、五二)によれば、本件準備書は平成四年一一月二五日から同年一二月二五日ま
で縦覧に供され、関係地域である東区以外の住民も含めてのべ四七六名が実際に縦
覧したこと、説明会は右期間内に異なる場所で四回開催され、やはり東区以外の住
民も含めてのべ八〇二名が説明会に参加したこと、福岡県知事が平成五年四月二二
日本件準備書に対し意見を述べたこと、そして、関係住民及び福岡県知事の各意見
を踏まえて本件評価書が作成されていること、本件評価書が平成五年四月三〇日か
ら同年五月三一日まで縦覧に供されたことが認められるし、また、後者について
は、証拠(乙五四、五五)によれば、地元市町村長である被告市長が、平成五年第
三回福岡市議会定例会に本件埋立てについて異議はない旨の議案を提出し、同議会
の議決に基づいて意見を述べていること、本件埋立てに関し利害関係を有する者が
意見書を提出していることが認められる。
(2) もっとも、公有水面の埋立ては地元住民の生活に少なからぬ影響を与える
ことが考えられるから、出願者としては地元住民に埋立てについて理解を求める努
力をすることが重要であり、とりわけ出願者が市町村である場合にはその必要性は
一層大きいものといわなければならない。特に、平成四年三月九日、本件整備事業
の実施に反対する約一一万八四〇〇人分の署名が福岡市議会に提出された(甲ロ六
五、六七)というような状況下にあっては、なおさらのことである。
 しかし、証拠(乙四八ないし五二)によれば、福岡市は、平成四年五月一一日午
前一〇時から午後五時までの予定で、東市民センターにおいて、本件人工島の土地
利用案等に対するアイデア・提案などを聴く機会として、意見発表会を開催したこ
と、また、そこで発表された意見を参考にして作成したアイランドシティ基本計画
(乙一一)を、同年一〇月一日から、各区役所市民相談室、各区民センター、市民
図書館、情報公開室及び情報プラザにおいて、市民の閲覧に供したことが認めら
れ、福岡市としてもそれなりの努力を払ってきたものということができる。
(3) 以上の諸事情を考慮するならば、福岡市は法に従った手続は適正に履践し
ているということができるから、この点に関する右事件原告らの主張は理由がな
い。
(二) 適正な環境影響評価手続の欠如について
(1) まず、第一五号事件原告らは、本件環境影響評価は、国際的に確立された
環境影響評価に関する準則を満たしていないから、適正な環境影響評価とはいえな
いと主張する(請求原因4(六)(2)イ)。右主張は、確かに傾聴に値するとこ
ろではあるが、結局のところ、実施要綱に対する批判的な立法政策論というほかな
いものである。
 もっとも、福岡市が、真に和白干潟等の自然環境の保全を重視し、それと本件整
備事業との調和ということを目指しているのであれば、右事件原告らの主張するよ
うな環境影響評価の手法を採用することも決して不可能なことではないのであるか
ら、その限りでは、右事件原告らの批判を単なる立法政策論にすぎないとして簡単
に切り捨ててしまうのも適当とはいえない。しかしながら、本件整備事業の実施の
時点においては、環境影響評価の実施の具体的な拠り所となるのは実施要綱しかな
かったのであり、しかも実施要綱自体が閣議決定といういわば行政機関内部の取決
めにすぎないため、実施要綱に基づく環境影響評価も、あくまでも法的拘束力を有
しない行政指導として、事業者の任意の協力があって初めて実施されるにとどまる
(乙二六)という状況にあったことも事実である。
 そうすると、福岡市が実施要綱に規定されたところ以上の環境影響評価を実施す
べき法的義務を負うものとすることはできず、したがって、右事件原告らの主張
は、結局のところ、本件整備事業ないしは本件免許の違法性を根拠付けるものたり
得ない。
(2) 次に、第一五号事件原告らは、本件環境影響評価につき、①その調査・予
測が科学的に適正でないと批判し、さらに、②本件準備書の縦覧期間の定め方や説
明会の運営の仕方、関係地域の設定などからして、真に住民の意見を聴取しようと
いう姿勢に欠けているとか、③現に再調査等を求める住民や福岡県知事の意見を無
視したとか、被告市長が本件環境影響評価等に対する否定的な発言をしたなどと主
張している(請求原因4(六)(2)ロ)。また、第一六号事件原告らも、右②及
び③とほぼ同旨の主張をしている(第一四号事件の請求原因4(三)(2)イ、ロ
及びハ)。
 しかしながら、①については、一部、不適切な調査や予測があったことは認めら
れるものの、その全体が科学的でないとまではいえないことは、既に前記6(四)
において判断したとおりである。
 また、②については、確かに、本件準備書の縦覧期間は平成四年一一月二五日か
ら同年一二月二五日までのいわば年末の期間に設定されている(乙三七)が、そう
であるからといって、一概に不当とはいえないし、縦覧期間が右のとおり一か月間
とされたのも、実施要綱の定め(第2の2(1))に従ったもの(乙四)である。
また、説明会について見ても、四回にわたり(特にそのうち二回は住民の参加が比
較的得られやすい土曜日の午後に行われている。)各約二時間半を掛けて開催され
ている(乙三七ないし四二)。関係地域が福岡市東区に限定された点については、
実施要領第3の2(1)が関係地域を「対象事業の実施が環境に影響を及ぼす地域
であって、当該地域の住民に対し準備書の内容を周知することが適当と認められる
地域」と定義しており(乙四)、また、実施要領の実施に必要な事項について、運
輸省運輸政策局長から重要港湾の管理者である各市長ほかに宛てた通達である「運
輸省所管の大規模事業に係る環境影響評価の実施について」が、右関係地域に関し
て「これを定めるに当たっては、対象事業の実施が環境に及ぼす影響の予測結果、
対象事業が実施される地域の実情及び関係地方公共団体の長の意見を踏まえ…るも
のとする。」としていること(乙二九)及び本件整備事業の実施地域を考慮すれ
ば、福岡市の裁量権の範囲内にあるものというべきである。
 なお、東区以外の地域に住所を有する福岡市民は本件準備書に対する意見書を提
出する資格はないものの、本件準備書の縦覧及び説明会の実施の公告は福岡市民に
配布される「福岡市公報」や新聞になされている(乙三七、三八)から、右東区以
外の住民においても、本件準備書を縦覧し、説明会に参加することは十分可能であ
ったものであり、実際、少なからぬ者が本件準備書を縦覧し、説明会に参加してい
る(乙四二)。
 さらに、③については、証拠(乙五、一三、一五)によれば、本件準備書につい
て、関係住民から新たな調査・予測を求める意見が寄せられたこと、また、福岡県
知事が、汚濁負荷量に関して現段階で予想される複数の条件に基づいた将来の水質
予測を行うこと、化学的酸素要求量(COD)の予測・評価については本件人工島
存在時及び利用時の両方で実施すべきであること、本件整備事業の実施が鳥類の生
息状況に与える影響予測に際し、精度の向上した生息種、数の調査及び生息密度の
把握などの調査・予測をすることなどを求める意見を述べていることが認められる
が、同時に、福岡市は、右意見に対する事業者の見解を本件評価書に記載して、必
要があると考えられる点については、本件準備書の記載を補充していることも認め
られるから、福岡市がこれらの意見を無視したものとまでいうことはできない。ま
た、被告市長の発言を批判する点については、その前提となる事実を認めるに足り
る的確な証拠がない。
 もっとも、証拠によれば、財団法人世界自然保護基金日本委員会や財団法人日本
野鳥の会、日本湿地ネットワークなどの自然保護団体から、本件整備事業に対する
消極意見が寄せられ、日本生態学会や日本鳥学会などの研究団体の総会等において
も、本件整備事業の見直しなどの要望や決議が採択されていること、さらには、バ
ードライフ・インターナショナルや福岡市の姉妹都市であるニュージーランドのオ
ークランド市の議会から被告市長宛の書簡が寄せられるなど、海外からも同様の反
響があったこと(以上につき、甲ロ七、九ないし一一、一四の1・2、一五、一五
六、証人j)、これに対し、福岡市は、港湾局長名でオークランド市議会に対し返
書を送ったが、その中には、第一五号事件原告らが所属する「博多湾の豊かな自然
を未来に伝える市民の会」が本件整備事業に反対していることを捉えて、同会を
「一部の政治的背景をもった人達による反対運動団体」であるとし、さらに、福岡
市議会で本件整備事業に反対の立場を取っているのは日本共産党などの五名の議員
だけであるとした上で、「彼らが、政治的な不利を挽回するために、海外の自然保
護団体や市民に一方的な情報を流して支援を求めている」などと述べられているこ
と(以上につき、甲イ三〇、甲ロ一一七の1ないし6、一一八、証人k、同j)が
認められ、このような福岡市の対応に照らすと、同市は、本件整備事業の推進に急
な余り、反対意見に真摯に耳を傾ける姿勢に欠けるところがあったものと見ないわ
けにはゆかない。
(3) また、第一五号事件原告らは、被告市長の環境影響評価条例制定に対する
消極的な態度を批判する(請求原因4(六)(2)ハ)。
 乙第二七号証によれば、昭和五六年九月の福岡市議会に制定請求されて付議され
た「福岡市環境影響評価条例案」について、被告市長が、現行法制度との整合性を
保持しながら効果的に環境保全を図るためには、全国的に統一された手続等を定め
た環境影響評価制度が確立されなければならず、政府から国会に提出された環境影
響評価法案の成立により、同法に基づいて対処する考えであるから、条例を制定す
る必要はないと考える旨意見を述べたことが認められる。また、条例の制定は普通
地方公共団体の議会の議決を経ることを要する(地方自治法九六条一項一号)が、
長には議案提案権がある(同法一四九条一号)から、被告市長としても、右環境影
響評価法案が廃案になった後、改めて福岡市環境影響評価条例案を作成した上でこ
れを福岡市議会に上程することは可能であったのであり、本件整備事業の実施に至
るまで右条例が制定されていないということは、少なくとも被告市長の政治的立場
として、環境影響評価条例の制定に消極的であったものといわれてもやむを得ない
側面があったということができる。
 しかしながら、地方公共団体の長がある条例案を上程するかどうかは、その政治
的裁量に委ねられているものというべく、被告市長に右条例案を上程する法的義務
があったものとまでは解することができないから、右不作為が違法であるというこ
とにはならない。
(4) さらに、第一五号事件原告らは、①博多湾が順次埋めてられ、その都度細
切れ的に環境影響評価が実施され、しかも、後続の埋立事業がないことを前提に評
価書が作成されていると批判し、また、②本件整備事業では、当初予定されていた
人工島方式が環境悪化を理由に陸続き方式に変更された経緯があるのに、突如とし
て人工島方式が復活しているなどと主張する(請求原因4(六)(2)ニ)。
 まず、①については、いくつかの事業が全体的に関連付けられてある一定の範囲
の地域において実施されることが予定されている場合には、できる限り全部の事業
を一体として環境影響評価が行われるべきである。まして、事業者にとって不利な
予測結果が出ることを回避するために、敢えて個別の事業ごとに環境影響評価を実
施するというようなことが許されないのはいうまでもない。しかしながら、個々の
事業を実施する時点において、将来実施される予定の事業まで視野に入れた上で環
境影響評価を実施することは、不確定要素も多くなるため、事実上は相当な困難を
伴うものであるから、個別に環境影響評価を実施したこと自体をもって直ちに違法
視することはできないし、また、福岡市に右のような許すべからざる意図があった
とまで認めることもできない。
 次に、②については、証拠(甲ロ二二、三三、一一六)によれば、昭和四七年に
改訂された博多港港湾計画では、和白地区における二七〇ヘクタールの陸続きの埋
立てとともに、新たに香椎地区沖合の人工島方式による海上流通ターミナルの建設
を目的とした三八〇ヘクタールの埋立てが計画されたが、昭和五三年に改訂された
博多港港湾計画においては、陸続き方式の埋立てに変更されるに至ったこと、その
理由は、右人工島方式では、潮流の流速が大きく低下して人工島の背後水域が停滞
水域となり、拡散についてもそれによる影響が出て、水質保全が問題となるなどと
いうものであったこと、ところが、本件港湾計画において再び人工島方式に転換さ
れたこと、以上の事実が認められる。そして、福岡市は、本件港湾計画に基づく人
工島方式では本件人工島の背後水域が停滞水域化することはなく、水質保全を図る
ことができるものと予測していることが認められる(乙二の3)。
 しかしながら、昭和四七年に改訂された博多港港湾計画は、右のとおり、人工島
のほかに、雁の巣と牧の鼻を結ぶ線と既存の海岸で囲まれる和白干潟等をも埋め立
てるというものであったから、本件港湾計画における人工島方式とは相当大きく異
なっており、これを大差がないかのようにいう原告らの主張はその点において適切
でないことは確かであるが、右両計画における正反対ともいえるような水質の予測
に関する相違が本件準備書又は本件評価書において説得的に説明されているかとい
えば、疑問を呈さないわけにはゆかない。
 したがって、この点は多分に問題なしとしないが、そうであるからといって、直
ちに本件環境影響評価そのものを違法視することはできない。
(5) 第一六号事件原告らは、本件準備書に対する福岡県知事の意見が出されて
後余りに短期間で本件評価書が縦覧に供されたこと、右意見の作成に関与した専門
委員の顔触れと本件評価書の作成に関与したそれとが殆ど変わらないことなどを理
由に、本件評価書の作成過程に疑問を呈している(第一四号事件の請求原因4
(三)(2)ニ)。
 証拠(乙四、一三、五二)によれば、福岡県知事が本件準備書に対して意見を述
べたのは平成五年四月二二日であるところ、本件評価書が実施要綱の定めに従って
縦覧に供されたのは同月三〇日以降であること、また、評価書は、関係都道府県知
事の意見及びこれについての事業者の見解等を記載して作成しなければならないこ
ととされていることが認められるから、本件評価書は右知事の意見が述べられてか
らわずか八日間で作成されたことになり、確かに、いかにも短時間で作成されたも
のといわなければならないが、補充された内容を見ても明らかなように、既に調査
しておいた資料を記載したものばかりであるから、さほど時間を要しなかったとし
てもあながち不思議なことではない。
 また、福岡県知事が本件準備書について意見を述べる際に環境影響評価審査委員
会の検討を経ること及び本件評価書作成につき専門委員が関与することになってい
ることが認められるが(証人i)、証拠(乙四四、四五)によれば、両者の専門委
員のメンバーが一部重複していることは認められるとはいえ、殆ど変わらないとま
ではいえない。
 そうすると、右事件原告らの主張を採用することはできない。
(6) また、第一六号事件原告らは、潮流予測の方法につき財団法人海洋科学技
術センターに調査委託しなかったのは不利な予測が出るのを避けたものであると非
難する(第一四号事件の請求原因4(三)(2)ホ)が、直ちにそのようなことは
いえない。
(三) 交通問題についての第一六号事件原告らの主張(第一四号事件の請求原因
4(三)(3))は、前記5(四)のとおり、一つの推測の域を出ず、採用の限り
でない。
(四) 財政面における問題点(第一四号事件の請求原因4(三)(4))につい

(1) 予算審議の過程について
 第一六号事件原告らの問題視する資金計画書は、埋立法二条三項三号により、公
有水面の埋立免許出願の際に願書に添付すべき図書の一つとして規定されており、
これには「埋立てに関する工事に要する費用の額及びその明細並びに当該費用に充
てる資金の調達方法を記載すること」が要求されている(埋立法施行規則二条三
号)が、右は、免許権者が、埋立法四条一項六号の「出願人ガ其ノ埋立ヲ遂行スル
ニ足ル資力及信用ヲ有スルコト」という免許基準について審査するための資料とし
て要求されたものである(甲イ二一)。
 他方、埋立法は、免許に際しては地元市長村長の意見を徴しなければならず、市
町村長が意見を述べようとするときは、議会の議決を経ることを要するものと規定
している(三条一項本文、四項)が、これは、埋立地が将来行政区域に編入され、
それに伴って各種の公共サービスの提供が必要になるという利害関係を有する当該
市町村の立場に配慮したもの(乙六〇、証人j)と解される。
 そうだとすれば、地元市町村議会において、当該市町村長が出願された埋立免許
についていかなる意見を述べるかを審議する際には、埋立区域や埋立地の用途、工
事の施行期間などがその資料として供される必要はあるものの、専ら免許権者が審
査すべきことが予定されている資金計画書まで提出されるべき義務はないものとい
うべきである(証人j)。したがって、本件免許に係る出願に対して地元市町村長
である福岡市長が意見を述べる前提として要求される福岡市議会の議決に関し、平
成五年六月一八日から同月三〇日まで開かれた平成五年第三回福岡市議会定例会に
おいて、同市長から「議案第一四八号 公有水面埋立てに関する意見について」が
提出されたが、そこには埋立願書は資料として記載されているものの、願書の添付
図書(資金計画書を含む。)は全て省略されていることが認められる(甲イ二一、
乙五五)が、これをもって違法ということはできない。ちなみに、右定例会におい
て右議案について質問に立ったk議員(当時)が資料要求をして入手した右資金計
画書(甲イ二六)には、「埋立てに関する工事に要する費用の額」は一〇九三億六
二〇〇万円と記載されているが、「その明細」については、「年次別事業費明細
書」として「表2―1~2―6のとおり」とされているものの、右表には具体的な
金額が一切明示されていないこと、また、「当該費用に充てる資金の調達方法」に
ついても、起債による調達額は記載してあるものの、起債償還内容の詳細は省略さ
れ、起債の償還計画にしても、「表3―1、表3―2のとおり」となっているもの
の、同様に、具体的な金額は一切省略されている。しかしながら、これは、仮に詳
細を公にすると、個々の工事の設計単価が容易に推算され、その結果として、談合
が行われて競争入札が無意味になり、事業の公正な執行に支障が生じる危険性もあ
ったのであり(甲イ二一、証人j)、やむを得ない措置であるということができ
る。
 なお、付言すれば、本件のように地方自治体が埋立事業者となる場合にあって
は、その財政負担の是非については、当該地方公共団体の議会において当該事業に
係る予算を審議する際に議論を尽くすべき筋合いのものであり(右事件原告らは、
前記議案をもって「予算審議」と主張するが、前記議案は埋立法三条四項に定めら
れた議会の意見を聴くためのものであることは明らかである。)、証拠 (甲ロ四
四、四七ないし五〇)によれば、福岡市長が意見を述べる前提としての福岡市議会
での審議が本件整備事業関係予算を審議する最後の場であるとする証人kの証言は
採用することができない。
(2) 資金計画の内容について
 証拠(甲イ二一、二四、甲ロ二五、乙五六)によれば、本件整備事業の総事業費
は約四五八八億円で、そのうち国の直轄事業及び補助事業の事業費が約一〇三四億
円であり、残りの福岡市及び博多港開発株式会社が施行する事業約三五五四億円
は、借入金で賄うこととされていること、そのうち約六〇〇億円が本件人工島に建
設される港湾の利用料収入によって、また、約三〇〇〇億円が分譲地の売却によっ
てそれぞれ償還される予定とされていることが認められる。
 ところで、昨今の我が国の経済情勢が一時期の勢いを失っていることは当裁判所
に顕著な事実ではあるが、そうであるからといって、福岡市が右のような資金計画
の見直しをしないことの一事をもって本件整備事業自体を違法とすべきことにはな
らない。
 さらに、第一六号事件原告らは、福岡市が本件整備事業に市税を使わない旨喧伝
し、市民を欺こうとしていた旨主張するところ、確かに、「アイランドシティなん
でもQ&A」(甲イ二四)には、本件整備事業について、「市税を使わない、いわ
ゆる独立採算性の事業として実施するもの」とあるが、右は、国の直轄事業及び補
助事業以外の事業については、すべて借入金で賄うことにしているということを述
べたものであって、やや誤解を招きかねない表現であることは否めないとはいえ、
福岡市に市民を欺こうとするまでの意図があったことを認めるに足りる証拠はない
から、右事件原告らの主張は採用することができない。
10 結論
(一) 以上によれば、本件免許が著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正
確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまでは認められないから、その余の点に
ついて判断するまでもなく、第一五号事件原告らの請求及び第一六号事件原告らの
被告市長に対する請求はいずれも理由がないことに帰する。
(二) もっとも、近年、自然環境が地球規模で危機に晒されているとの認識が急
速に高まるとともに、環境保全の重要性が強調されるようになったこと、その結
果、開発を筆頭にした社会経済活動と自然環境保全の調和を図るべく、持続的発展
が可能な社会の構築が目指されるべきであるとの理念が定着しつつあることは、平
成五年に制定された環境基本法が右を基本理念に掲げていることからも明らかであ
る。
 埋立法四条一項一号に関して証人三上が提唱する二つの要件(前記5(一)参
照)なども、この見地に根ざしたものであって、右要件に照らして本件埋立ての必
要性の有無を検討するときは、その結論は必ずしも明確であるとはいえないし、ま
た、本件環境影響評価の在り方についても、決して軽視し得ない問題点があること
は前記6において見たとおりである。しかも、本件整備事業に対しては、福岡市民
はもとより相当広範に根強い反対意見があることも既に見たところから明らかであ
るのに、福岡市としては右意見に真摯に耳を傾ける姿勢に欠ける嫌いがなかったと
はいえないのである(前記9(二)(2))。
 これらの諸事情を踏まえるならば、この際、本件整備事業を抜本的に見直すとい
うようなことさえ一つの政治的な決断として考えられないではない。
(三) しかしながら、前記のような法的な判断が導かれる以上、当裁判所が、本
判決において、進んで右のような対応に結び付く結論を選択する余地はないものと
いうほかはない。
二 第一六号事件原告らの被告cに対する訴え
1 請求原因1(一)の事実は、原告a及び同bを除くその余の原告らについては
当事者間に争いがなく、同(二)の事実並びに同2のうち第一四号事件の請求原因
2(一)及び(三)並びに3に同じ部分も同様に争いがない。
2 請求原因2のうち第一四号事件の請求原因4に同じ部分について
(一) 違法性の判断基準について
 本件訴えは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づくものであるところ、第
一六号事件原告らは、別紙平成四年度分人工島埋立計画関係出費一覧表及び別紙平
成五年度分人工島埋立計画関係出費一覧表記載の公金支出行為そのものが具体的に
違法である旨の主張はせずに、専らその原因行為に当たる本件整備事業には重大か
つ明白な違法性がある旨の主張しかしておらず、その点で第一五号事件の訴えと同
様の側面を有するから、原因行為の違法性が財務会計行為の違法性にどのように影
響を及ぼすかについて判断する必要があるが、その判断基準としては、同項一号に
基づく訴えと別異に解すべき理由はなく、結局は、本件免許が著しく合理性を欠き
そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるか否かに従
って判断すべきである。
(二) そこで、右基準に従って検討すると、前記一6及び9において判断したと
おり、埋立法四条一項二号違反、憲法一三条・二五条違反及び地方自治法一三八条
の二違反のいずれの主張も採用することができない。
3 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、右事件原告らの被告c
に対する請求も理由がない。
第三 結論
 以上の次第であるから、第一四号事件の訴え並びに第一六号事件の訴えのうち原
告a及び同bの各訴えをいずれも却下し、その余の第一六号事件原告らの請求及び
第一五号事件原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行
政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決
する。
 福岡地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 西理
裁判官 神山隆一
裁判官 森剛
別紙 原告目録(一)
福岡市<以下略>
原告 h
福岡市<以下略>
原告 l
福岡市<以下略>
原告 m
福岡市<以下略>
原告 n
福岡市<以下略>
原告 o
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原告 p
福岡市<以下略>
原告 q
福岡市<以下略>
原告 r
福岡市<以下略>
原告 s
福岡市<以下略>
原告 t
福岡市<以下略>
原告 u
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原告 v
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原告 w
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原告 x
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原告 y
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原告 z
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原告 P1
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原告 P2
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原告 P3
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原告 P4
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原告 P5
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原告 P6
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原告 P7
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原告 P8
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原告 P9
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原告 P10
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原告 P11
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原告 P12
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原告 P13
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原告 P14
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原告 P15
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原告 P16
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原告 P17
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原告 P18
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原告 P19
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原告 P20
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原告 P21
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原告 P23
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原告 P30
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原告 P34
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原告 P43
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原告 P44
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原告 P45
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原告 P46
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原告 P47
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原告 P48
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原告 P49
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原告 P50
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原告 P51
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原告 P52
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原告 P53
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原告 P54
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原告 P55
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原告 P57
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原告 P60
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原告 P69
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原告 P70
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原告 P71
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原告 P72
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原告 P73
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原告 P74
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原告 P75
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原告 P76
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原告 P77
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原告 P78
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原告 P79
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原告 P80
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原告 P81
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原告 P82
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原告 P83
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原告 P85
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原告 P86
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原告 P87
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原告 P88
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原告 P89
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原告 P90
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原告 P91
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原告 P92
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原告 P93
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原告 P94
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原告 P95
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原告 P96
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原告 P97
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原告 P98
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原告 P99
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原告 P100
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原告 P101
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福岡市<以下略>
原告 P104
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原告 P109
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原告 P110
福岡市<以下略>
原告 P111
福岡市<以下略>
原告 P112
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原告 P113
福岡市<以下略>
原告 P114
福岡市<以下略>
原告 P115
福岡市<以下略>
原告 P116
福岡市<以下略>
原告 P117
福岡市<以下略>
原告 P118
福岡市<以下略>
原告 P119
福岡市<以下略>
原告 P120
福岡市<以下略>
原告 P121
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原告 P122
福岡市<以下略>
原告 P123
福岡市<以下略>
原告 P124
福岡市<以下略>
原告 P125
福岡市<以下略>
原告 P126
福岡市<以下略>
原告 P127
福岡市<以下略>
原告 P128
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原告 P129
福岡市<以下略>
原告 P130
福岡市<以下略>
原告 P131
福岡市<以下略>
原告 P132
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原告 P133
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原告 P134
福岡市<以下略>
原告 P135
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原告 P136
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原告 P137
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原告 P138
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原告 P139
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原告 P140
福岡市<以下略>
原告 P141
福岡市<以下略>
原告 P142
福岡市<以下略>
原告 P143
福岡市<以下略>
原告 P144
福岡市<以下略>
原告 P145
福岡市<以下略>
原告 P146
福岡市<以下略>
原告 P147
福岡市<以下略>
原告 P148
福岡市<以下略>
原告 P149
福岡市<以下略>
原告 P150
福岡市<以下略>
原告 P151
福岡市<以下略>
原告 P152
別紙 原告目録(二)
福岡市<以下略>
原告 a
同市<以下略>
同 b
同市<以下略>
同 P153
同市<以下略>
同 P154
同市<以下略>
同 P155
同市<以下略>
同 d
同市<以下略>
同 P156
同市<以下略>
同 P157
同市<以下略>
同 P158
同市<以下略>
同 P159
別紙埋立区域目録(一)
1.位置
 福岡市東区香椎浜<以下略>、御島崎<以下略>、御島崎二丁目698番2から
697番12前面の護岸敷を経て697番16前面の護岸敷まで、香住ケ丘七丁目
5番4から4番3を経て4番2まで、香住ケ丘六丁目30番、香住ケ丘五丁目16
番から15番8を経て13番13前面の無番地まで、香住ケ丘四丁目25番226
前面の無番地から26番14前面の無番地を経て25番135前面の無番地まで、
唐原二丁目916番27前面の無番地から775番を経て773番1まで並びに和
白四丁目1551番56から1551番1を経て1623番1までの地先公有水面
2.区域
 次の①の地点から④の地点までを順次直線で結んだ線、④の地点から⑥の地点ま
でを順次結ぶ昭和62年11月27日付け港湾第731号の免許に係る埋立ての埋
立区域と公有水面との境界線(C.D.L.+1.88mにより決定)、⑥の地点
と⑦の地点を結ぶ平成4年7月30日付け福岡市告示第166号で竣功認可の告示
がされた埋立地と公有水面との境界線(C.D.L.+1.88mにより決定)及
び①の地点と⑦の地点を結ぶ昭和62年11月27日付け福港湾第1730号の承
認に係る埋立ての埋立区域と公有水面との境界線(C.D.L.+1.88mによ
り決定)により囲まれた区域並びに⑧の地点から●の地点までを順次直線で結んだ
線、●の地点から64度11分00秒196.90m地点を円心とする半径19
6.90mの円周で●の地点と●の地点とを結ぶ西則の円弧、●の地点から●の地
点までを順次直線で結んだ線、●の地点から226度53分00秒630.00m
地点を円心とする半径630.00mの円周で●の地点と●の地点とを結ぶ東側の
円弧及び⑧の地点と●の地点を直線で結んだ線により囲まれた区域
①の地点 九州大学工学部四等三角点(北緯33度37分9.961秒、東経13
0度25分39.730秒。以下「基点」という。)から339度28分42秒
3,761.58mの地点
②の地点 ①の地点から64度11分00秒 190.00mの地点
③の地点 ②の地点から334度11分00秒 19.80mの地点
④の地点 ③の地点から64度11分00秒 415.00mの地点
⑤の地点 ④の地点から154度11分00秒 119.80mの地点
⑥の地点 ⑤の地点から244度11分00秒 605.00mの地点
⑦の地点 ⑥の地点から334度11分00秒 95.45mの地点
⑧の地点 基点から 351度07分12秒 4,040.79mの地点
⑨の地点 ⑧の地点から244度11分00秒 90.00mの地点
⑩の地点 ⑨の地点から334度11分00秒 230.00mの地点
⑪の地点 ⑩の地点から244度11分00秒 131.70mの地点
⑫の地点 ⑪の地点から334度11分00秒 223.30mの地点
⑬の地点 ⑫の地点から244度11分00秒 28.30mの地点
⑭の地点 ⑬の地点から154度11分00秒 3.10mの地点
⑮の地点 ⑭の地点から244度11分00秒 390.00mの地点
⑯の地点 ⑮の地点から334度11分00秒 19.80mの地点
⑰の地点 ⑯の地点から244度11分00秒 190.00mの地点
⑱の地点 ⑰の地点から334度11分00秒 41.00mの地点
⑲の地点 ⑱の地点から244度11分00秒 930.00mの地点
⑳の地点 ⑲の地点から154度11分00秒 32.50mの地点
●の地点 ⑳の地点から244度11分00秒 30.00mの地点
●の地点 ●の地点から154度11分00秒 12.50mの地点
●の地点 ●の地点から244度11分00秒 44.80mの地点
●の地点 ●の地点から334度11分00秒 334.00mの地点
●の地点 ●の地点から244度11分00秒 2.10mの地点
●の地点 ●の地点から334度11分00秒 545.00mの地点
別紙埋立区域目録(二)
1.位置
 福岡市東区香住ケ丘七丁目5番4から4番3を経て4番2まで、香住ケ丘六丁目
30番、香住ケ丘五丁目16番から15番8を経て13番13前面の無番地まで、
香住ケ丘四丁目25番226前面の無番地から26番14前面の無番地を経て25
番135前面の無番地まで、唐原二丁目916番27前面の無番地から775番を
経て773番1まで及び和白四丁目1551番56から1551番1を経て162
3番1までの地先公有水面
2.区域
 次の①の地点と②の地点を直線で結んだ線、②の地点から244度11分00秒
630.00m地点を円心とする半径630.00mの円周で②の地点と③の地点
とを結ぶ東側の円弧、③の地点から⑤の地点までを順次直線で結んだ線、⑤の地点
から146度47分03秒250.00m地点を円心とする半径250.00mの
円周で⑤の地点と⑥の地点とを結ぶ北側の円弧、⑥の地点と⑦の地点を直線で結ん
だ線、⑦の地点から178度55分37秒250.00m地点を円心とする半径2
50.00mの円周で⑦の地点と⑧の地点とを結ぶ東側の円弧、⑧の地点と⑨の地
点を直線で結んだ線、⑨の地点から231度42分52秒300.00m地点を円
心とする半径300.00mの円周で⑨の地点と⑩の地点とを結ぶ東側の円弧、⑩
の地点と⑪の地点を直線で結んだ線、⑪の地点から249度19分12秒150.
00m地点を円心とする半径150.00mの円周で⑪の地点と⑫の地点とを結ぶ
東側の円弧、⑫の地点と⑬の地点を直線で結んだ線、⑬の地点から300度19分
44秒150.00m地点を円心とする半径150.00mの円周で⑬の地点と⑭
の地点とを結ぶ南側の円弧及び①の地点と⑭の地点を直線で結んだ線により囲まれ
た区域
①の地点 九州大学工学部四等三角点(北緯33度37分9.961秒、東経13
0度25分39.730秒。以下「基点」という。)から351度07分12秒
4,040.79mの地点
②の地点 ①の地点から334度11分00秒1,229.07mの地点
③の地点 ②の地点から325度32分00秒 189.50mの地点
④の地点 ③の地点から316度53分00秒 251.49mの地点
⑤の地点 ④の地点から 56度47分03秒 667.10mの地点
⑥の地点 ⑤の地点から 72度51分24秒 138.42mの地点
⑦の地点 ⑥の地点から 88度55分37秒 300.81mの地点
⑧の地点 ⑦の地点から115度19分15秒 222.27mの地点
⑨の地点 ⑧の地点から141度42分52秒 383.67mの地点
⑩の地点 ⑨の地点から150度31分02秒 91.82mの地点
⑪の地点 ⑩の地点から159度19分12秒 700.33mの地点
⑫の地点 ⑪の地点から184度49分28秒 129.17mの地点
⑬の地点 ⑫の地点から210度19分44秒 219.45mの地点
⑭の地点 ⑬の地点から227度15分22秒 87.35mの地点
3.面積
 約191.8ヘクタール (別紙図面斜線部分)
別紙埋立区域目録(三)
1.位置
 福岡市東区御島崎二丁目697番7前面の護岸敷及び697番16前面の護岸敷
並びに香住ケ丘六丁目30番地先公有水面
2.区域
 次の①の地点から⑤の地点までを順次直線で結んだ線及び①の地点と⑤の地点を
結ぶ昭和62年11月27日付け福港湾第1730号の承認に係る埋立ての埋立区
域と公有水面との境界線(C.D.L.+1.88mにより決定)により囲まれた
区域並びに⑥の地点から⑮の地点までを順次直線で結んだ線及び⑥の地点と⑮の地
点を直線で結んだ線により囲まれた区域
①の地点 九州大学工学部四等三角点(北緯33度37分9.961秒、東経13
0度25分39.730秒。以下「基点」という。)から339度28分17秒
3,766.56mの地点
②の地点 ①の地点から334度11分00秒 14.80mの地点
③の地点 ②の地点から 64度11分00秒 190.00mの地点
④の地点 ③の地点から154度11分00秒 19.80mの地点
⑤の地点 ④の地点から244度11分00秒 190.00mの地点
⑥の地点 基点から 341度16分40秒 4,349.03mの地点
⑦の地点 ⑥の地点から244度11分00秒 190.00mの地点
⑧の地点 ⑦の地点から334度11分00秒 15.80mの地点
⑨の地点 ⑧の地点から244度11分00秒 960.00mの地点
⑩の地点 ⑨の地点から334度11分00秒 12.50mの地点
⑪の地点 ⑩の地点から 64度11分00秒 30.00mの地点
⑫の地点 ⑪の地点から334度11分00秒 32.50mの地点
⑬の地点 ⑫の地点から 64度11分00秒 930.00mの地点
⑭の地点 ⑬の地点から154度11分00秒 41.00mの地点
⑮の地点 ⑭の地点から 64度11分00秒 190.00mの地点
3.面積
 約5ヘクタール (別紙図面斜線部分)
略語表

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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