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判決言渡平成21年1月20日
平成20年(行ケ)第10140号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年12月24日
判決
原告株式会社日立製作所
訴訟代理人弁護士飯田秀郷
同井坂光明
同隈部泰正
訴訟代理人弁理士沼形義彰
同西川正俊
訴訟代理人弁護士辻本恵太
被告特許庁長官
指定代理人田良島潔
同山本章裕
同仁木浩
同酒井福造
被告補助参加人株式会社安川電機
訴訟代理人弁護士松尾和子
訴訟代理人弁理士大塚文昭
同竹内英人
同近藤直樹
訴訟代理人弁護士高石秀樹
同奥村直樹
訴訟代理人弁理士那須威夫
主文
1特許庁が訂正2007−390134号事件について平成20年3
月14日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,参加によって生じた分は被告補助参加人の負担とし,
その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1本件は,原告が特許権者である特許第3231553号(発明の名称「イン
バータ制御装置の制御定数設定方法,原出願日昭和61年5月9日,分割出」
願日平成6年7月25日,発明の数2,その後平成17年11月18日付け
の訂正認容審決あり,以下「本件特許」という)について原告が平成19年1
1月16日付けで訂正審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をし
たことから,原告がその取消しを求めた事案である。
なお,被告補助参加人は,本件特許につき無効審判請求をし特許庁からこれ
を無効とする審決を受けている(係争中)こともあって,被告のため補助参加
をしたものである。
2争点は,訂正審判請求に係る発明が平成6年法律第116号による改正前の
特許法126条3項にいう独立特許要件を満たすか,である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア原告は,昭和61年5月9日になした原出願(特願昭61−10646
9号)からの分割出願として,平成6年7月25日,名称を「電圧制御形
ベクトル制御インバータの制御装置」とする発明につき特許出願(特願平
6−172269号)をし,平成13年9月14日に特許第323155
3号として設定登録を受けた(発明の名称は「インバータ制御装置の制御
定数設定方法」と変更,発明の数2。甲1〔特許公報。〕)
その後原告は,平成17年10月20日,本件特許の特許請求の範囲第
1項,第2項記載の発明につき訂正審判請求(訂正2005−39192
号)を行い,平成17年11月18日に訂正認容審決を受け確定した(甲
46。)
イその後原告は,平成19年11月16日付けで本件特許につき訂正審判
請求(以下「本件訂正審判請求」という)をし,同請求は訂正2007−
390134号として特許庁に係属したが,特許庁は,平成20年3月1
4日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平,。
成20年3月26日原告に送達された。
(2)訂正審判請求の内容
本件訂正審判請求の内容は,平成17年11月18日付け訂正認容審決後
の特許請求の範囲第1,2項及び関連箇所を,以下のとおり訂正しようとす
るものである(下線は訂正部分。)
【特許請求の範囲】
・1.誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制「
御する制御装置の制御定数を,前記制御装置の前記電圧指令を出力する
コンピュータにより設定する方法において,次のステップを有すること
を特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定
するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータから
出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより,前記
誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ,
(d)前記所定値に設定された電圧指令,前記所定値に設定された周波
数指令,および前記検出された電流に基づいて,前記コンピュータ
により,前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する,前記制
御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて,周波数指令および電圧指令を前
記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて,前記
誘導電動機を回転させるステップ(訂正発明1)。」
・2.誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電「
圧指令(V,V)に基づいて制御する制御装置の制御定数を,前1d1q**
記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法
において,次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置
の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定
するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータから
出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより,前記
誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流の,前記電圧指令の1
つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ,
(d)前記所定値に設定された電圧指令,前記所定値に設定された周波
数指令,および前記検出された電流のベクトル成分を用いて,前記
コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算す
るステップ,
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータによ
り前記制御装置の制御定数を演算し,この制御定数を設定するステ
ップ。
(f)前記(b)のステップにおいて,周波数指令および電圧指令を前
記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて,前
記誘導電動機を回転させるステップ(訂正発明2)。」
(3)審決の内容
ア審決の詳細は別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,訂正発
明1・2は,下記甲5文献に記載された発明(引用発明)と周知技術から
容易想到で特許法29条2項の規定に反し独立して特許を受けることがで
きないから平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の
規定に適合しない,というものである。
・甲5文献:ベクトル制御のオートチューニング(A,B,C,D〔日「」
立製作所日立研究所,E,F〔同大みか工場「電気学会〕〕
研究会資料回転機研究会RM−85−20∼30」のう
ちRM85−26,61頁∼70頁,社団法人電気学会,1
985年〔昭和60年〕7月17日)
イなお審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとおり
,。認定し訂正発明2と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした
〈引用発明の内容〉
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電
流指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を,前記制御装置の
前記電流指令を出力するための周波数指令を出力するマイコンによ
りオートチューニングする方法において,次のステップを有するイ
ンバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設
定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記定格値に基づいて前記インバータか
ら出力される交流電流を前記誘導電動機に印加することにより,前
記誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機の電圧の,前記電流指令の1つの
ベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ,
(d)前記定格値に設定された電流指令,前記所定値に設定された周
波数指令,および前記検出された電圧のベクトル成分を用いて,前
記マイコンを用い前記誘導電動機の励磁インダクタンスを演算する
ステップ,
(e)得られた前記励磁インダクタンスに基づき前記マイコンにより
Imの最適設計を行うステップ」*

〈一致点〉
いずれも,
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの
第1の電気量指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を,前記
制御装置の指令を出力するコンピュータにより設定する方法におい
,。て次のステップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方法
(a)前記第1の電気量指令および前記誘導電動機の周波数指令の所
定値を設定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータか
,ら出力される第1の電気量を前記誘導電動機に印加することにより
前記誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機の第2の電気量の,前記第1の電
,気量指令の1つのベクトル成分に対応する成分を検出するステップ
(d)前記所定値に設定された第1の電気量指令,前記所定値に設定
された周波数指令,及び前記検出された第2の電気量のベクトル成
分を用いて,前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダ
クタンスを演算するステップ。
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータに
より前記制御装置の制御定数を演算し,この制御定数を設定するス
テップ」である点で一致する。。
〈相違点〉
ア第1の電気量が訂正発明2では直交するベクトルの指令電()「」,「
」「」,圧及びインバータから出力される交流電圧であるのに対し
引用発明では直交するベクトルの指令「電流」及びインバータか
ら出力される「交流電流」であり「回転している誘導電動機の,
第2の電気量」が,訂正発明2では「回転している誘導電動機に
流れる電流」であるのに対し,引用発明では「回転している誘導
電動機の電圧」である点。
(),「」イコンピュータの出力が訂正発明2では制御装置の電圧指令
であるのに対し,引用発明では「制御装置の電流指令を出力する
ための周波数指令」である点。
(ウ)訂正発明2では「b)のステップにおいて,周波数指令および(
電圧指令を設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加さ
せて,誘導電動機を回転させるステップ」を有するのに対し,引
用発明ではそのようなステップが明確にされていない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べる誤りがあるので,違法として取り
消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点についての認定
の誤り)
(ア)審決は,訂正発明2と引用発明との一致点の認定に関し「本件訂,
『』正発明2と引用発明とを対比すると…後者の直交するベクトルの電流
指令及び,インバータから出力される『交流電流』と,前者の直交する
ベクトルの『電圧』指令及び,インバータから出力される『交流電圧』
とは,指令され印加される値である点で共通するので『第1の電気量』
との概念で一致し,後者の『回転している誘導電動機の電圧』と,前者
の『回転している誘導電動機に流れる電流』とは,検出される値である
点で共通するので『回転している誘導電動機の第2の電気量』との概念
で一致する(8頁末行∼9頁12行)とした。。」
しかし,引用発明の記載された甲5文献には,回転座標系におけるd
軸電流成分I及びq軸電流成分Iという記載があるのみであり「電11q,
気量」との概念を使用していない。また,検出される電圧の回転座標系
におけるd軸電圧成分V及びq軸電圧成分Vという記載があるだけ1d1q
で「第2の電気量」との概念も使用していない。引用発明には,以下,
に述べるとおり,このような上位概念は記載されておらず,審決の引用
発明の認定は誤りである。
(イ)引用発明の動作原理
引用発明では,電動機定数の測定には,甲5文献の図2の構成のベク
トル制御インバータを適用している。引用発明の誘導電動機(IM)の
無負荷運転は,同図2の回路を用いてベクトル制御下で行われる。電流
指令値として,先ず適宜の値として,初期値Iが設定され,インバm
**
ータに設定した回転周波数指令ωからωを得て,これに基づき誘導r
**

電動機(IM)をベクトル制御下で無負荷運転する。その上で,前記適
宜設定された初期値IをAERからの出力ΔIで順次補正しながmm
**
ら,検出電圧eqと周波数指令ωに基づく電圧値とが等しくなったと1

。,,き無負荷電流の定格値Iが得られるこのときの周波数指令値ωm
**

検出電圧のq軸ベクトル成分Vに基づき,1次インダクタンスを演算q
することが記載されている。
次に,引用発明(甲5)の図2の回路の動作を詳述する。
AERは,検出した誘起電圧eq(モータの固定座標系上の3相誘起
電圧V,V,Vとその周波数,位相を検出し,これを2相に数学uvw
的に変換し,さらに回転座標系上のV,Vに座標変換して,eqを得dq
る)と,同図2には記載が省略されているV/f曲線より導かれる前記
設定した周波数指令ωに基づく電圧値とを比較し,その比較結果が1

誘起電圧eqの方が小さいときは無負荷電流値を上げる補正をし,逆に
大きいときは下げる補正をしていき(ΔIを加減算する補正,その比m)
較結果が零に近づくまでその動作を続ける。そして,最終的にこの比較
結果が零となったとき,無負荷電流の定格値Iが出力されていることm

になる。
しかしながら,上記のAERに無負荷電流の正常な定格値を出力させ
るようにするためには,同図2に示されるAFR(周波数調節器)を動
作させることが不可欠である。このAFRは誘導電動機をベクトル制御
するときに,回転座標系(d−q)上の制御軸d軸とモータ軸(回転磁
界の磁束方向の軸)とを一致させる(軸ずれ抑制)制御をするためのも
ので,この制御(ベクトル制御)がなされないと先のAERに入力され
るeqに誤差(元となる誘起電圧Vに誤差が生じる)が発生してしまq
う。
AFRの上記動作をさらに説明すると,検出した誘導電動機の誘起電
圧(固定座標系上)から,回転座標系上のd軸成分であるVより誘導d
電動機の1次抵抗と漏れインダクタンス(ℓℓ)の電圧降下分を差r+'112
し引いたedが零(すなわちd軸と回転磁束の方向とが一致するように
して無負荷運転をすると,磁束のトルク分成分であるφは0,ed=q
0である)になるように周波数ωを補正する。換言すると,このよう1
にedが零になるように制御することによって,無負荷運転の場合に前
記d軸と回転磁束の方向とを一致させることができる。このedの演算
には正確なと(ℓℓ)が必要であり,引用発明ではそのために図7r+'112
のフローに記載されるように無負荷運転で励磁インダクタンスLを測1
定する前にこれら定数を測定演算しなければならない。
(ウ)上記によれば,引用発明の内容は以下のとおりとすべきである。
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの回転座
標系上の電流指令(I,I)を3相の固定座標系上の電流指令に座mt
**
標変換し,ACRを介して得られる3相の固定座標系上の電圧指令(V
,V,V)に基づいてベクトル制御する制御装置の制御定数を,uvw
***
前記制御装置の周波数指令を出力するマイコンにより自動設定する方法
において,次のステップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方
法。
(a)電流指令値を適宜設定し,前記誘導電動機の周波数指令に定格値
を設定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記インバータ制御装置によりベクトル制
御をしながら前記適宜設定された電流指令値および前記周波数指令値に
基づく電流を前記誘導電動機に供給し,無負荷定格電流指令値に至るま
でこれを補正しながら(ベクトル制御下において,検出した電圧Vよq
り起電力eqを求め,eqと周波数指令ωに基づく電圧値とが等しく1

なるように電流指令値を加減算する補正をしながら最終的にこれが等し
くなったときの補正された電流指令値が無負荷定格電流値となる,こ)
れにより誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記無負荷定格電流値となった電流指令値に基づき回転している
誘導電動機の電圧の,前記電流指令の1つのベクトル成分(q軸のベク
トル成分)に対応するベクトル成分(V)を検出するステップ,q
(d)前記無負荷定格電流値となった電流指令値と,前記所定値に設定
,()された周波数指令値および前記検出された電圧のベクトル成分Vq
を用いて,前記マイコンを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを
演算するステップ,
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記マイコンにより前
,」記制御装置の制御定数Lを演算しこの制御定数を設定するステップ1
(エ)訂正発明2と引用発明との一致点と相違点の認定の誤り
以上によれば,訂正発明2と引用発明との一致点と相違点は次のよう
に認定されるべきであるにもかかわらず,審決はこれを誤った違法があ
る。少なくとも,引用発明には,審決が認定するように「前記電流指,
令を前記誘導電動機の周波数指令とともに定格値に設定するステップ」
が記載されているとすることはできない。
引用発明のベクトル制御は,直交するベクトルの電流指令(I,Im

)が2相→3相変換されてACRに入力されて,電圧指令(V,Vtu
**
,V)に基づいてPWM制御されるように制御装置が制御するものvw
**
である。したがって,制御装置は,最終的に電圧指令に基づいて制御さ
れはするものの,その電圧指令は3相の電圧指令であって,直交するベ
クトルの電圧指令(V,V)に基づいて制御するものではない。1d1q
**
これに基づき両者を対比すると,訂正発明2と引用発明とは,次の点
で一致し,次の点で相違する。
【一致点】
「誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制
御する制御装置の制御定数を自動設定する方法において,次のステ
ップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記誘導電動機の周波数指令に所定値を設定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に設定された周波数指令など
に基づいて前記誘導電動機を回転させるステップ,
(d)前記所定値に設定された周波数指令,およびその他の量を用い
て,前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記制御定数を演算
しこの制御定数を設定するステップ」
【相違点】
・相違点ア
インバータに対する電圧指令について,訂正発明2は,直交する
ベクトルの電圧指令(V,V)であるのに対し,引用発明で1d1q
**
は,直交するベクトルの電流指令(I,I)がAER及びASmt
**
Rから出力されるものの,これが3相変換後,ACRによって3相
の電圧指令(V,V,V)となって制御されるものであるuvw
***
点。
・相違点イ
電圧指令の設定値について,訂正発明2は,変化しない所定値を
設定するものであるのに対し,引用発明は,電圧指令として所定値
を設定することなく,電流指令値を適宜設定(I)し,誘導電m
**
動機のベクトル制御下での回転に伴い,これが順次補正(したがっ
て変化する)されて無負荷定格電流指令値(検出した電圧Vよりq
起電力eqを求め,eqとωを入力とするAERによって適宜設1

定された電流指令値は順次補正されて無負荷定格電流値〔I〕とm

なる)となり,このような補正が行われる電流指令値が順次3相変
換されてACRを介することによりそれぞれの時点での電圧指令値
となるものである点。
・相違点ウ
無負荷状態において誘導電動機を回転させる点について,訂正発
明2は,所定値に設定された電圧指令及び周波数指令に基づいて回
転させるのに対し,引用発明は,ベクトル制御をしながら前記適宜
定められた電流指令値(I)および前記周波数指令値に基づく電m

流(電流指令値は3相変換されて電圧指令値となり,インバータに
電圧とともに電流が供給される)を前記誘導電動機に供給して前記
誘導電動機を回転させるものであり,前記無負荷定格電流指令値に
至るまで電流指令値を補正しながら(検出した電圧Vより起電力q
eを求め,eとωを入力とするAERによって適宜設定されたqq1

電流指令は順次補正されて定格電流となる)誘導電動機を回転させ
るものである点。
・相違点エ
検出の対象について,訂正発明2は,前記回転している誘導電動
機に流れる電流の,前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応する
ベクトル成分を検出するものであるのに対し,引用発明は,前記回
転している誘導電動機から出力される電圧の,電動機電流の1つの
ベクトル成分に対応するベクトル成分(V)を検出するものであq
る点。
・相違点オ
前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算する変数について,
訂正発明2は,前記所定値に設定された電圧指令,周波数指令およ
び前記検出された電流のベクトル成分を用いるものであるのに対
し,引用発明は,前記無負荷定格電流値となった電流指令値,前記
所定値に設定された周波数指令値,および前記検出された電圧のq
軸成分値を用いるものである点。
・相違点カ
所定値による誘導電動機を回転させるまでの間の回転指令につい
て,訂正発明2は(b)のステップにおいて,周波数指令および,
電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加
させて,前記誘導電動機を回転させるものであるのに対し,引用発
明は,このような構成を有しない点。
以上の次第であるから,審決は,引用文献の記載を上位概念化して抽
象化する誤りをし,そのため,引用発明の認定を誤り,訂正発明2と引
用発明との一致点と相違点の認定を誤った違法がある。
この誤りは,訂正発明2及び訂正発明1の独立特許要件に関する結論
に重大な影響を与えることは明らかであるから,審決は取り消されるべ
きである。
()イ取消事由2進歩性についての判断の誤り
(ア)原告主張の相違点ウ審決の相違点アと関連について(())
誘導電動機のベクトル制御装置において,AERを用いることは,本
件特許の原出願日前に広く行われていたが,その場合には,AFR(周
波数調節器)を動作させることが不可欠である。このAFRの動作のた
めには,事前に正確なrと(ℓ+ℓ')を得て,これにより回転座標系の112
d軸の方向を回転磁界の方向に一致するように制御する必要がある。
引用発明(甲5)では,このAERを用いているから,図7のフロー
に記載されるようにrと(ℓ+ℓ')を事前に測定演算することが,1次112
インダクタンスの測定演算を行う場合には必要である。
これに対し訂正発明2では,例えば電動機定格値のような所定値を,
電圧指令および周波数指令として設定すれば,定格値による誘導電動機
の運転状態における定格磁束のもとでの1次インダクタンスを測定演算
することができるのであって,必ずしも,事前に正確なrと(ℓ+ℓ')112
を得て,これにより回転座標系のd軸の方向を回転磁界の方向に一致す
るように制御する必要はないのである。ちなみに,本件特許発明の明細
書には,AERを用いる実施例は記載されていない。
引用発明のように,AERを用いる場合,所望の電流指令Iと周波1

数指令ωが与えられると,AFRの作動とともに最適なIが出力さ11
**
れるのであって,これが電流指令としてACRに供給されて,PWM制
御のための電圧指令(v,v,V)として出力される。従って,uvw
***
甲5文献の図2の回路において,所望の電圧指令をAERから直接出力
するように構成することはできない審決は電流と電圧をいずれも電。,「
気量」であると一般化し,これをあたかも相互に入れ替えるように構成
することにより引用発明から訂正発明2が容易に得られるとするもので
あるが,電流と電圧は,それぞれ電力の要素をなすものであって(電流
が流れれば,電圧が存在するという関係がある,それぞれ別の量であ)
るから,審決が述べるほど単純な話ではないし,誘導電動機をベクトル
制御下で無負荷運転しなければならない引用発明を,必ずしもベクトル
制御下で無負荷運転しなくてもよい訂正発明2に容易に至るとすること
はできない。
電圧指令に基づいて制御する手法を用いた制御装置がインバータ分野
でよく知られているとして,審決は,特開昭60−255065号公報
(発明の名称「PWMインバータ,出願人三菱電機株式会社,公開日」
昭和60年12月16日,甲11,特開昭60−187282号公報)
(発明の名称「誘導電動機のベクトル制御装置,出願人株式会社日立」
製作所,公開日昭和60年9月24日,甲12,特開昭59−169)
383号公報(発明の名称「ベクトル制御方法におけるインバータ出力
電圧制御装置,出願人株式会社明電舎,公開日昭和59年9月25」
日,甲13)を引用している。
甲12に記載されたインバータの制御装置(実施例は第3図)は,誘
導電動機の励磁電流とトルク電流を独立に制御して誘導電動機をベクト
**
ル制御するために,所望の周波数指令ωが与えられると電流指令I11
(トルク電流成分Iと励磁電流成分iからなる電流指令である)tm
**
を作成し,この電流指令Iと検出電流Iの偏差から電流指令のベクt1

トル成分にそれぞれ対応する電圧指令(E,E)を作成してインバdq
**
ータを制御するものである。この電圧指令(E,E)が存することdq
**
をもって,審決はインバータを電圧指令で制御している,と評価してい
るのである。
甲13に記載されたインバータの制御装置(実施例は第1図)は,電
動機の磁束を一定に制御するためのα相一次電流設定値iと二次電1α

1β0流を制御するためのβ相一次電流設定値iを得て電気角周波数ω*
とからα,β相一次電圧e,eを得てインバータを制御するもの1α1β
である。この電圧指令(e,e)が存することをもって,審決は1α1β
インバータを電圧指令で制御している,と評価しているのである。
なお,甲11は,PWMインバータに関するものであり,電圧指令が
どのように作成されるかを明示しておらず,甲5文献においても,電圧
形インバータに対して最終的には電圧指令が与えられるから,審決が甲
11のものを電圧指令に基づいて制御する手法を用いた制御装置である
とする論拠は不明である。そしてこれらの電圧指令に基づいて制御する
手法を用いた制御装置においては,甲5文献記載のような電流指令に基
づいて制御する手法を用いた制御装置に用いられるAFRもAERも存
在しない。
そもそも,甲11,12のような電圧指令に基づいて制御する手法を
用いた制御装置においても,その電圧指令は電流指令から作成されるの
であって,無負荷電流の定格値I自体が不明であるときに(この値をm

求める方法を構築しているのが引用発明〔甲5〕である,不明な電流)
指令からどのように電圧指令を作出できるのかを明らかにせずに当業者
,。が任意に適用できるとするもので審決は実質的な理由を示していない
引用発明(甲5)の1次インダクタンスの測定演算法をこのよく知ら
れた電圧指令に基づいて制御する制御装置(たとえば甲12の第3図の
回路,甲13の第1図の回路)に適用するということは,AFRもAE
Rも存在しない回路であるところの電圧指令に基づいて制御する制御装
置において,無負荷電流の定格値Iに基づきベクトル制御下で無負荷m

運転をすることを意味する。しかしながら,正確なrと(ℓ+ℓ')を予112
め得て,ベクトル制御下で無負荷運転する方法は,甲5文献の図2の回
路を用いた場合の他,一般には知られておらず,また,無負荷電流の定
格値Iを求めることは,AFR及びAERを欠く回路ではできないかm

ら,無負荷電流の定格値Iからインバータを制御するための電圧指令m

を得ることは不可能であり,甲5文献記載の発明方法は実施できなくな
ってしまう。
(イ)原告主張の相違点エ(審決の相違点(ア)と実質的に同じ)につい

1次インダクタンスの測定演算に関する原理式が,訂正発明2と引用
発明との間で類似していることから審決は電流と電圧をいずれも電,,「
気量」であると一般化し,これをあたかも相互に入れ替えるように構成
することにより引用発明から訂正発明2が容易に得られるとするもので
あるが,これが誤りであることは上記のとおりである。
ところで,審決は,審決にいう引用文献2ないし6(順に甲6ないし
甲10)に「誘導電動機に所定の値を有する交流電圧を印加して無負,
荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと
関係する定数を決定する」ことが記載されているとするが,事実誤認が
ある。
(「」審決が引用する引用文献2誘導機の特性算定のための定数決定法
G・H,電気学会雑誌Vol.87−1,No.940,Januar
y・1967,173頁∼180頁,電気学会,甲6)には「…X’,1
の値は無負荷試験を電圧を変えて行なうことにより容易に決定できるも
のである(178頁左欄4行∼5行)との記載があるが,X’は,。」1
X(一次巻線1相の全自己リアクタンス)の未飽和値を意味し,同文1
献には,これに先立ち「…Xに含まれるxは,主磁路の磁気飽和に,1M
よってその値が変化し,一般に定格電圧のもとでは飽和値であるが,拘
束試験は低電圧で行われるので未飽和値をとる必要がある(177頁。」
右下欄1行∼178頁左欄4行)と記載されているものである。定格電
圧は,ベクトル量ではなく,無負荷時の電流は実効値であって同じくベ
クトル量ではないしたがって同文献には審決が認定するような誘。,,「
導電動機に所定の値を有する交流電圧を印加して無負荷状態で回転さ
せ,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を
決定する」ことが記載されているわけではない。また,所定値に設定さ
れた電圧指令(ベクトル成分)を用いて1次インダクタンスと関係する
定数を決定するものでもない。さらに,同文献の検出電流は,ベクトル
成分でもない。
審決が引用する引用文献3(電気学会大学講座電気機器工学I」「
,,,執筆委員Iら昭和50年6月25日18版発行249頁∼250頁
電気学会,甲7)には「電動機定数の測定法」と題して「電動機に定,,
格電圧を加えて無負荷運転をし,1相当たりの電圧V,電流I,電力00
Pを測定する(249頁中段)との記載があるが,電圧V,電流I00。」
は電動機の出力である交流の実効電圧及び実効電流であるにすぎず,0
いずれも訂正発明2のようなベクトル量ではない。したがって,同文献
には,審決が認定するような「誘導電動機に所定の値を有する交流電圧
を印加して無負荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次イ
ンダクタンスと関係する定数を決定する」ことが記載されているわけで
はない。また,訂正発明2のように,周波数指令値を所定値に設定する
ものではないし,また,所定値に設定された電圧指令(ベクトル成分)
と,検出した電流のベクトル成分とを用いて1次インダクタンスと関係
する定数を決定するものでもない。
(「」審決が引用する引用文献4大学講義最新電気機器学改訂増補
宮入庄太著,昭和55年3月20日第3刷発行,172頁∼173頁,
丸善株式会社,甲8)には「例題10.2」が記載されているが,2,
〔kW,200〔V,4〔極,50〔c/s〕の定格をもつかご形〕〕〕
三相誘導電動機に定格電圧を加えて無負荷運転し,入力電流(実効値)
と入力電力(実効電力)から,1次抵抗値を得,さらに,定格電圧,入
b力電圧実効値及び1次抵抗値から1次巻線の誘導性リアクタンス()(
)。,,0を求める解が記載されているにすぎないしたがって同文献には
審決が認定するような「誘導電動機に所定の値を有する交流電圧を印加
して無負荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次インダク
」。タンスと関係する定数を決定することが記載されているわけではない
また,訂正発明2のように,周波数指令値を所定値に設定するものでは
ないし,また,所定値に設定された電圧指令(ベクトル成分)と,検出
した電流のベクトル成分とを用いて1次インダクタンスと関係する定数
を決定するものでもない。
(「」,審決が引用する引用文献5三相誘導電動機特性の直接算定法J
,〔〕(),K昭和53年電気学会全国大会講演論文集5電気機器I
506頁∼507頁,甲9)には,リアクタンスXを定格電圧と無負1
荷時の電流から求める旨が記載されているが(506頁右欄下5行∼下
1行,定格電圧は,ベクトル量ではなく,無負荷時の電流は実効値で)
あって同じくベクトル量ではない。同文献のこの記載は,訂正発明2の
ように,周波数指令値を所定値に設定するものではないし,また,所定
値に設定された電圧指令(ベクトル成分)と,検出した電流のベクトル
成分とを用いて1次インダクタンスと関係する定数を決定するものでも
ない。
審決が引用する引用文献6(普通かご形誘導電動機の運転特性算定「
のためのT形等価回路定数決定法」L,M「電気学会研究会資料回,
転機研究会RM−86−13∼17」社団法人電気学会,昭和61
年〔1986年〕4月18日,21頁∼33頁,甲10)には「定格,
電圧無負荷試験を行ない,定格電圧に対する…および励磁リアクタンス
xを求める(26頁10行∼11行)と記載があるが,S−5のスm。」
,(),(),(),テップでの測定値は線間電圧V線電流I入力Wononon
一次巻線抵抗(r)であり,xは計算式により求められることが1tonm
示されている(同25頁s−5のステップ欄。そして,定格電圧は,)
ベクトル量ではなく,無負荷時の電流は実効値であって同じくベクトル
量ではない。
したがって,同文献には,審決が認定するような「誘導電動機に所定
の値を有する交流電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の検出
電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定する」ことが
記載されているわけではない。また,訂正発明2のように,周波数指令
値を所定値に設定するものではないし,また,所定値に設定された電圧
指令(ベクトル成分)と,検出した電流のベクトル成分とを用いて1次
インダクタンスと関係する定数を決定するものでもない。
審決は「引用文献1に記載された,誘導電動機の一般式に基づく演,
算式を用いて制御定数を設定する方法(10頁24行∼25行)と述」
べて,引用文献1(甲5文献)に記載された方法が誘導電動機の一般式
を単純に用いた方法であるとしているが,誤りである。
甲5文献に記載された演算式は(15)式であり,その測定演算の,
条件として「本測定法は,IMをベクトル制御で無負荷運転した条件,
で励磁インダクタンスLを求める(66頁13行∼14行)という1。」
条件を設定しているのであって,審決はこの特別の条件を見落としてい
る。
引用発明(甲5)では,図2の回路を用いた測定法が開示されている
のであって,同図2の回路はAFRを不可欠としており,AFRは,検
出した誘導電動機の誘起電圧(固定座標系上)から,回転座標系上のd
11軸成分であるVより誘導電動機の1次抵抗rと漏れインダクタンス(ℓd
+ℓ')の電圧降下分を差し引いたedが零になるように周波数ωを補21
正して無負荷運転することによりd軸と回転磁束の方向とを一致させる
ように動作する。このAFRの動作が存在して初めて,AERは,検出
した誘起電圧eqと,V/f曲線より導かれる前記設定した周波数指令
ωに基づく電圧値とを比較し,その比較結果が誘起電圧eqの方が小1

さいときは無負荷電流値を上げる補正をし,逆に大きいときは下げる補
正をしていき(ΔIを加減算する補正,その比較結果が零に近づくまm)
でその動作を続けて,最終的にこの比較結果が零となったときの無負荷
mm1q電流の定格値Iを得て,このI,ωと検出した電圧から得たV***
を(15)式に代入して励磁インダクタンスLを演算するのである。1
そうすると,電圧指令に基づいて制御する手法を用いた制御装置がイ
ンバータ分野でよく知られていたとしても,引用発明の1次インダクタ
ンスの測定演算法をこのよく知られた電圧指令に基づいて制御する制御
装置に適用するということは,AFRもAERも存在しない回路である
ところの電圧指令に基づいて制御する制御装置において,無負荷電流の
定格値Iに基づきベクトル制御下で無負荷運転をすることを意味すm

る。しかしながら,正確なrと(ℓ+ℓ')を予め得て,ベクトル制御下112
で無負荷運転する方法は,甲5文献の図2の回路を用いた場合の他,一
,,,般には知られておらずまた無負荷電流の定格値Iを求めることはm

,()AFR及びAERを欠く回路ではできないから引用文献1甲5文献
記載の発明方法は実施できなくなってしまう。
審決は,この認定を誤ったものであり,その結果,相違点エ(審決で
は相違点(ア)に相当)を有する前記引用文献1(甲5文献)に引用文
献2ないし6から容易に想到できると誤った判断をしたものであって,
この点で違法である。
(ウ)原告主張の相違点オ(審決の相違点(ア)に包含されている)につ
いて
引用発明(甲5)の1次インダクタンスの測定演算は,AFRによる
ベクトル制御下での無負荷運転をAFRで実現しつつ,AERにより適
宜設定した電流指令値を,検出した誘起電圧eqと,V/f曲線より導
かれる前記設定した周波数指令ωに基づく電圧値との差が零になるよ1

うに順次補正しながらこれが零になったときの電流を無負荷定格電流値
Iと(d軸成分Iであり,回転磁束の方向とd軸が一致しているかmd

,,),()らすなわち励磁電流Iに等しいその時のed=0となった時m
の検出電圧のベクトル成分Vと,ベクトル制御下の無負荷運転時でのq
周波数指令ωとから1次インダクタンスを演算するものであるから,1

相違点エを有する訂正発明2に至るためには,AFRによるベクトル制
御下での無負荷運転をし,かつ,AERにより適宜設定した電圧指令値
を補正して無負荷定格電圧なるものを想定しなければならないが,かか
る動作をAFRもAERも行うことはできない。
審決は,甲5文献の(15)式の指令電流(無負荷定格電流値Iすm

d1なわちd軸成分I)及び検出電圧のベクトル成分Vを,指令電圧Vq
及び検出電流のベクトル成分にそれぞれ入れ替えればよいと,演算式q
上の変数の入れ替えを論じるにすぎず,1次インダクタンスの測定演算
のための指令電流(無負荷定格電流値Iすなわちd軸成分I)及びmd

検出電圧のベクトル成分Vの取得に関する特定の具体的方法を開示すq
るにすぎない引用発明の1次インダクタンスの測定演算を一般化してし
まっているものであって,この点で判断の誤りがある。このような判断
の誤りの原因は,審決が「電気量」という上位概念を用いて上記変数を
いずれも「電気量」であるから両者は何ら異なるところはないとした点
にある。
(エ)審決は,訂正発明2と引用発明の一致点と相違点の認定を誤った結
果,上記相違点ウないしオの存在を認定することができず,そのような
相違点が存在する引用発明から,訂正発明2に容易に想到することがで
きるとする独立特許要件の判断を誤った違法がある。
そして,上記相違点ウは,引用発明と訂正発明2との実質的な相違点
であり,引用発明が開示する具体的な測定方法の前提条件であるベクト
ル制御下での無負荷運転が不可欠である点を,これを要しない構成であ
る訂正発明2に至る論理を示せないから,審決には独立特許要件の判断
を誤った違法がある。
さらに,相違点エ(審決の認定する相違点(ア)について,引用発)
,,明がベクトル制御下での無負荷運転により適宜設定された電流指令が
AERによって最終的に無負荷定格電流になるように制御されることを
看過し,さらに「電気量」という抽象的な上位概念からみると,電流も
電圧もいずれも「電気量」であるから,一般に成立する誘導電動機の電
圧方程式を適用する場面において,同式における指令電流及び検出電圧
(いずれもベクトル成分)を指令電圧及び検出電圧(いずれもベクトル
成分)にそれぞれ入れ替えることは容易であると誤って判断をした違法
があり,その判断の違法は,独立特許要件の判断に重大な影響を及ぼす
ことが明らかであるから,審決は取り消されるべきである。
2請求原因に対する認否(被告及び被告補助参加人)
請求の原因()ないし()の各事実はいずれも認めるが,同()は争う。134
3被告の反論
()取消事由1に対し1
ア原告が主張するとおり,審決は訂正発明2と引用発明を上位概念化した
記載がある。しかし,この上位概念化は両発明の共通する概念を抽出する
ために行うものであって,両発明の共通点を明確に把握するためのもので
しかなく,しかも,両発明の下位概念の構成は,両発明の間の相違点とし
て審決の9頁35行∼10頁12行に明確に抽出されているから,上位概
念化により,訂正発明2の要旨が認定できなくなることはなく,また,両
発明の間の一致点と相違点が不明になることもない。
イまた原告は,引用発明の認定は原告主張のとおりとすべきであり審決は
引用発明の認定を誤ったものであると主張する。
しかし原告の主張する引用発明として認定すべき部分のうちの頭書ス,(
テップ(a)以前の部分)について,原告は「電圧指令(V,V,Vuv
**
)に基づいてベクトル制御する制御装置」とすべきとするが,電圧(Vw

,V,V)は図2に示されるとおり電流指令(I,I)を2/uvwmt
*****
3相変換した値と検出電流の偏差から作られたインバータ出力電圧指令信
号に過ぎないのであるから制御装置に与える指令電気量ではないし,引用
発明において制御装置に与える指令電気量は図2に示されるとおり直交す
るベクトルの電流指令(I,I)であるから,原告の主張は誤りであmt
**
る。そして,審決においては「電流指令に基づいてベクトル制御する制,
御装置」とあるように,指令電気量を電流指令として認定しているので,
審決の引用発明の認定に誤りはない。
原告が引用発明として認定すべきとするステップ(a)については,甲
5文献には,図2に示されるように,電流指令の定格値Iを設定する構m

成が記載されており,この構成は訂正発明2の「電圧指令」を「所定値に
設定する」構成との対比の上で必要なものであるにもかかわらず,原告は
引用発明のこの構成を看過し,代わりに上記対比の上で意味がない「電流
指令値(電流指令)を適宜設定」する構成を認定している。一方,審決に
おいては,上記対比の上で必要な電流指令の定格値を設定する構成を認定
しているので,審決の引用発明の認定に誤りはない。
ステップ(b)については,甲5文献には,図2に示されるように,電
流指令の定格値I及び周波数指令の定格値ωが記載されており,これmr
**
らの定格値は訂正発明2の「電圧指令および周波数指令の)所定値」と(
の対比の上で必要なものであるにもかかわらず,原告は引用発明のこれら
の定格値を看過し,代わりに上記対比の上で意味がない「適宜設定された
電流指令値(電流指令)および周波数指令値(周波数指令」を認定して)
いる。さらに,原告は訂正発明2との対比において必要ない「無負荷定格
電流指令値に至るまでこれを補正しながら(ベクトル制御下において,検
出した電圧Vより起電力eqを求め,eqと周波数指令ωに基づく電q1

圧値とが等しくなるように電流指令値を加減算する補正をしながら最終的
にこれが等しくなったときの補正された電流指令値が無負荷定格電流値と
なる」なる構成も認定している。一方,審決においては,訂正発明2の)
「電圧指令および周波数指令の)所定値」との対比の上で必要な電流指(
令の定格値及び周波数指令の定格値を認定しており,審決の引用発明の認
定に誤りはない。
ステップ(c)については,原告は,引用発明の「回転している誘導電
動機」を下位概念で捉えて「無負荷定格電流値となった電流指令値に基づ
き回転している誘導電動機」と認定しているが「回転している誘導電動,
機」を下位概念で捉えることは単に「回転している誘導電動機」である訂
正発明2との対比において,意味のあることではない。
ステップ(d)については,原告は甲5文献に記載のない「1次インダ
」,。,クタンスなる用語で認定しているので原告の認定は誤りである一方
審決においては上記対比の上で必要な定格値に設定された電流指令を認定
しており,審決の引用発明の認定に誤りはない。
ステップ(e)については,甲5文献の66頁13行∼19行の記載に
あるように,甲5文献において,制御定数Lを演算することは記載され1
ている。しかし,甲5文献に原告主張のステップ(e)で規定されるよう
な「1次インダクタンス」に基づいて制御定数Lを演算することは記載1
されていないので,原告の認定は誤りである。
以上のとおり,原告の主張する引用発明の認定は,訂正発明2との対比
において意味のない構成及び甲5文献に記載のない構成を含むものである
から,原告主張のとおりに認定する理由はない。そして,審決において引
用発明の認定に何ら誤りはない。なお,審決の引用発明の認定において,
7頁29行∼30行の「a)前記電流指令および前記誘導電動機の周波(
数指令に定格値を設定するステップ」は甲5文献の記載内容及び審決の9
頁21行∼22行の記載より「a)前記電流指令および前記誘導電動機(
の周波数指令の定格値を設定するステップ(下線は判決で付記)の誤記」
であることは明らかである。
ウまた原告は,電流指令を誘導電動機の周波数指令とともに定格値設定す
るステップが甲5文献に記載されていない旨主張する。しかし,甲5文献
***
の66頁20行∼21行,及び図2には,電流指令(I,I)のImtm
が定格値として設定されることが記載されているし,69頁11行∼12
行,図1及び図2には周波数指令ωに定格値を設定することが記載され*

ているので,甲5文献には上記ステップが記載されているというべきであ
り,審決の認定に誤りはない。
エ上記のとおり,審決の引用発明の認定に誤りはなく,一致点を抽出する
上での引用発明の構成の上位概念化は妥当なものであり,訂正発明2と引
用発明の間の一致点の認定及び相違点の認定に誤りもない。したがって,
訂正発明2の独立特許要件に関する結論も正しいので審決は維持されるべ
きである。
()取消事由2に対し2
ア原告は,引用発明においてAERから電圧指令を直接出力する構成とす
ることができないことを主張する。しかし,甲5文献(引用発明)のAE
Rの存在が,訂正発明2と引用発明との間の一致点にも相違点にもなるこ
とはないから,原告の主張はそもそも考慮する必要のないAERに関する
構成を引用発明の構成であるとするもので,失当である。また原告は,電
流と電圧の入れ替えは単純に行えるものでないので,引用発明から必ずし
もベクトル制御下で無負荷運転をしなくてもよい訂正発明2に容易に至る
とすることはできないと主張する。しかし,訂正発明2は,特許請求の範
囲第2項の「ベクトルの電圧指令(V,V)に基づいて制御する,1d1q
**

「電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出する」及
び「無負荷状態において…誘導電動機を回転させる」の記載のようにベク
トル制御下で無負荷運転しなければならないものであるから,訂正発明2
が必ずしもベクトル制御下で無負荷運転をしなくてもよいことを前提とす
る原告の主張は,訂正発明2の誤認に基づくものであり,失当である。
イまた原告は,甲5文献に記載の1次インダクタンスの測定演算法を前記
甲12や甲13にあるような電圧指令値に基づいて制御する測定装置に適
用することの技術的困難性を述べている。これは審決の「引用文献1に記
載された,誘導電動機の一般式に基づく演算式を用いて制御定数を設定す
る方法を,上記インバータ制御の分野で良く知られた手法である,電圧指
令に基づいて制御する手法を用いた制御装置に適用することは当業者が任
意になし得るものである(10頁24行∼27行)との点に対する反論と」
考えられるが,審決の上記記載は甲5文献の誘導電動機の一般式に基づく
演算式(15)が,制御回路の指令値が電流から電圧に換わったとしても
有効であることを示したものである。原告の主張は,審決の上記記載を,
甲5文献の測定演算法自体を電圧指令に基づいて制御する制御装置に適用
することが任意であると誤認したことに基づくものであるから,失当であ
る。
ウまた原告は,前記引用文献2∼6に「誘導電動機に所定の値を有する交
流電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一
次インダクタンスと関係する定数を決定すること」という技術事項が記載
されていないと主張するが,上記技術事項は,引用文献2(甲6)の17
8頁右欄18行∼179右欄下5行,引用文献3(甲7)の249頁10
行∼250頁2行引用文献4甲8の例題102引用文献5甲,()〔.〕,(
9)の506頁左欄1行∼507頁左欄下3行及び引用文献6(甲10)
の24頁8行∼26頁末行に記載されているから,原告の主張は失当であ
る。
エ原告は引用発明を相違点オに係る訂正発明2の構成にするためには,A
ERにより適宜設定した電圧指令値を補正した無負荷定格電圧を想定しな
ければならないが,かかる動作をAFRもAERも行うことはできないこ
とを主張している。しかし,甲5文献において,適宜設定した電圧指令値
を補正した無負荷定格電圧を想定しなければならないことは,そもそも訂
正発明2と引用発明の間で一致点にも相違点にもならない構成から導き出
されたものであるから,考慮する必要がないし,かかる動作をAFRやA
ERが行い得るか否かについても当然に考慮する必要がないので,原告の
主張は失当である。
また原告は,変数をいずれも「電気量」として異なるところがないとし
て,甲5文献に記載の演算式(15)の指令電流(無負荷定格電流Iすm

なわちd軸成分I)及び検出電圧のベクトル成分Vを,指令電圧V及dq1q
び検出電流のベクトル成分にそれぞれ入れ替えることが誤りである旨主張
する。しかし,審決は,電圧検出値を電圧指令値に入れ替え,また,電流
指令値を電流検出値に入れ替えることが容易である,即ち,検出値と指令
値を入れ替えることが容易であるとしているのであって,原告主張のよう
に電流と電圧を入れ替えるように構成することを容易といっているわけで
はない。したがって,原告の主張は審決を正解しないものである。
オ以上のとおり,審決における訂正発明2が特許出願の際独立して特許を
受けることができないとした判断に誤りはないから,審決は取り消される
べきとの原告の主張は誤りである。
また訂正発明1が独立して特許を受けることができないとした点につい
ても,審決に何ら誤りはない。
4被告補助参加人の反論
被告補助参加人の反論は,上記3(被告の反論)と同じであるからこれを援
用するほか,以下のとおり敷衍する。
()取消事由1に対し1
原告は「第1の電気量に基づいて制御する制御装置「指令電気量と検,」,
出電気量」という用語が引用文献1(甲5文献)に記載されていないことを
理由に,これらが同文献に開示されている旨の審決の認定は不当な上位概念
化であり,誤りであると主張する。
しかし審決は,技術的な見地から,訂正発明2の構成要件に相当する構成
が引用文献1(甲5文献)に記載されていることを判断したに過ぎず,一致
点・相違点が不明になることはない。
()取消事由2に対し2
引用発明においては,測定の際には電流指令が定格値となるように予めの
設定がなされており,該設定による電流指令の定格値に基づいて交流電流を
印加して電動機を回転させるのであるから,審決による「前記定格値に基づ
いて…交流電流を前記誘導電動機に印加することにより,…回転させるステ
」。,「」ップとの認定に誤りはない他方訂正発明2も測定の際には電圧指令
が所定値となるように予めの設定がなされており,該設定による電圧指令の
所定値に基づいて交流電圧を印加して電動機を回転させており,引用発明と
同じである。
また,訂正発明1及び訂正発明2には「rと(l+l)を事前に測定演,’112
算する」場合を技術的範囲から除外する旨の規定はなく,かかる事項は訂正発
明1,2の要件ではない。
甲11第2図または第5図には電圧指令Vr及び周波数指令f(),()(
r)を設定して運転を行うことが記載されており,電圧指令(Vr)及び周
波数指令(fr)を所定値にして運転することは通常行われている運転の一
形態であるから,電圧指令に基づいて制御する甲11の制御装置を用いた通
常運転がそのまま訂正明細書記載の1次インダクタンスの測定条件となるか
ら,審決に誤りはない。
甲12,13についても審決が例示する箇所は,甲12では,第3図全体
ではなく直交するベクトルの電圧指令であるE及びE以降の電圧制御のdq
**
構成部分(第3図においてE及びEから右側部分)のことであり,甲13dq
**
では,第1図全体ではなくて直交するベクトルの電圧指令であるe及びEe1α
以降の電圧制御の構成部分(第1図においてe及びeから右側部分)1β1α1β
のことである審決は甲1213においてかかるEE及びωま。,,,(dq1
***
たはe,e及びω)を所定値に設定し,あるいは甲11のVr及びfr1α1β0
を所定値に設定し(甲11の第2図または第5図,該所定値に設定された)
電圧指令及び周波数指令に基づいて制御するように用い,交流電圧を誘導電
動機に印加することは,当業者が任意になし得るところであると認定したの
である。原告の主張は誤った前提に基づくものである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)特許庁における手続の経緯(2)訂正審判請求の内容(3)(),(),
(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点についての認定の誤
り)について
(1)原告は,審決の引用発明の認定には誤りがあり,これに基づく訂正発明
との一致点及び相違点についての認定も誤りであると主張するので,以下検
討する。
ア訂正発明の記載された明細書(甲2〔全文訂正明細書。なお,図につ〕
いては甲1〔特許公報〕による。以下これらを「訂正明細書」ということ
がある)には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲(甲2)
その第1項及び第2項は,前記第3,1,(2)のとおり
(イ)発明の詳細な説明(甲2)
・「産業上の利用分野】【
本発明は,インバータ制御装置の制御定数設定方法に係り,特に誘
導電動機の電動機定数を演算し,演算された電動機定数に基づいて制
御装置の制御定数を設定するインバータ制御装置の制御定数設定方法
に関する(段落【0001)。」】
・「従来の技術】【
一般にベクトル制御装置においては,電動機定数,例えば励磁イン
。」ダンタンス及び2次時定数などに基づいて各制御定数が設定される
(段落【0002)】
・「例えば,特願昭−号及び特願昭−号に示される591737135839434
ベクトル制御装置においては,電圧指令信号を演算する際の制御定数
は,電動機定数の1次抵抗,漏れインダクタンス,1次インダクタン
ス及び2次抵抗に応じて設定する必要がある(段落【0003)。」】
・「発明が解決しようとする課題】【
従来は,電動機定数の設定値に基づいてそれらをマニュアル設定し
ている。そのため,使用する電動機毎に制御定数を変更する必要があ
,,,,り煩雑となりまた電動機定数の設計値と実際値の不一致により
制御演算誤差を生じトルクが変動するなどの問題がある(段落【0。」
004)】
・「一方,上記問題に対処するものとしては特願昭−号があ59212543
る。これはインバータ装置を用いて,その電流指令に基づいてインバ
ータより電動機に電圧を印加し,そのときの電圧を検出し,該検出電
圧値と電流指令値との関係より電動機定数を測定し,その結果に基づ
き制御定数を設定するものである。しかし,この特願昭−号59212543
に示される例では定数測定用として専用に電圧検出器を設ける必要が
あり,また,電圧波形が歪波形であることから,検出精度が低く,す
,。」(【】)なわち定数測定精度が低いという問題がある段落0005
・「本発明の目的は,制御装置の制御定数の精度を向上できるインバ
ータ制御装置の制御定数設定方法を提供することにある(段落【0。」
006)】
・「作用】【
第1の発明では,制御装置の制御定数の設定に用いる電流を,無負
荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出している。無負荷
状態において誘導電動機を回転させる,すなわち周波数指令を与える
と,回転停止状態に比べて,誘導電動機内で発生する誘導起電力が大
。,,きくなるこのため電圧指令値と誘導起電力との誤差が小さくなり
検出電流に対する前記誤差の影響が少なくなる。従って,検出された
電流に基づいて設定される,1次インダクタンスと関係する制御定数
の精度が向上する。
第2の発明では,無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態
で検出した電流の,電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクト
ル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため,1次インダクタ
ンスの精度が向上し,1次インダクタンスに基づいて演算される制御
定数の精度も向上する。更に,無負荷状態において誘導電動機を回転
させた状態で検出した電流の,電圧指令の1つのベクトル成分に対応
したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため,この
演算に要する時間が短縮され,インバータを制御するコンピュータの
負荷率が低減される。
好ましくは,周波数指令および電圧指令を設定された所定値まで徐
々にかつ一定レートにて増加させて,誘導電動機を回転させる。周波
数指令および電圧指令を設定された所定値まで徐々に且つ一定レート
にて増加させることにより,始動時に発生する突入電流を防止でき
る(段落【0008)。」】
一方,電動機電流i,i(回転磁界座標)は図1に示す電流検・「1d1q
(段落【0出器7及び座標変換器8を用いて次式に従い検出される。」
020)】
・「数4】【
」(【】)段落0021
・「i∼i:電動機各相電流uw
図1のPWM電圧制御方式の場合においては,電動機相電流の歪は
小さく正弦波に近い。そして,この電流を(4)式に従ってd軸成分
iとq軸成分iに分けて検出する本方式は,基本波成分w)が直1d1q1(
流信号で検出でき,その検出精度は高い(段落【0022)。」】
ところで,定常時における誘導電動機の電圧方程式をd,qの2・「
(段落【0023)軸理論に基づいて表わすと次式で与えられる。」】
数5】・「【
(段落v=rid−w(l+L)i−wMi…(51d111111q12q)」
【0024)】
数6】・「【
v=w(l+L)i+ri+wMi…(6)1q1111d11q12d
ここに,i,i:2次電流のd軸及びq軸成分2d2q
r:1次抵抗1
l:1次漏れインダクタンス1
L:1次有効インダクタンス1
M:相互インダクタンス
ここで,2次電流はかご形誘導機の場合測定できないのでこれを以
下のようにして消去する。2次電流と1次電流の関係は回転子2次回
(【】)路に関する電圧方程式に基づいて次式で示される。」段落0025
数7】・「【
(段落w・Mi=rid−w(l+L)i…(7s1q22s222q)」
【0026)】
数8】・「【
−w・Mi=w(l+L)i+ri…(8)s1ds222d22d
ここに,w:すべり角周波数s
r:2次抵抗2
l:2次漏れインダクタンス2
L:2次有効インダクタンス2
」(7(8)式を用いて(5(6)式のi,iを消去すれば),),2d2q
(段落【0027)】
数9】・「【
(段落【0028)」】
数10】・「【
」(【】)段落0029
l+Lの測定法〕・「〔11
v=v*=0,v=v*∝w*,w=w*,w≒01d1d1q1q111s
すなわち,無負荷状態においてv*とw*を所定値に設定し,いわ1q1
ゆるV/F一定制御運転(磁束一定条件)を行う。ここで(10),
,()式において無負荷条件である故i≒0となりしたがってl+L1q11
(段落【0042)は次式より測定演算できる。」】
数18】「【
」(【】)段落0043
Tの測定法〕・「〔2
(段落【0044)2次時定数Tは次式で与えられる2。」】
数19】・「【
」(【】)段落0045
図6では,先ず,ブロック61にて,w*とv*を電動機定格値・「11q
に設定し運転する。なお始動時の突入電流を避けるため,w*とv*11q
は一定レートにて立上げ加速終了後,ブロック62にてi,iの1d1q
信号取込み,ブロック63にて(18)式よりl+Lを演算する。11
さらにこの結果を基にブロック64にてTを2
T=l+L/r′2112
(段落【0055)より演算する。」】
(ウ)図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である。甲1)
・図1(本発明の一実施例を示すインバータ装置の構成図)。
・図6(本発明における演算内容のフローチャート)。
イまた,訂正明細書(甲2)の引用する特願昭59−212543号の公
開公報である特開昭61−92185号公報(発明の名称「自動調整を行
うベクトル制御装置,出願人株式会社日立製作所,公開日昭和61年」
5月10日。甲14)には,以下の記載がある。
・「発明の概要〕〔
本発明の特徴とするところは,ベクトル制御装置を用いて,電動
機電流及び周波数を所定値に制御し,該電流の指令信号あるいは検
出信号と電動機電圧検出信号を用いて電動機定数を測定し,その結
果に基づき制御定数を設定し,各電動機に対して常に最適な制御が
行えるようにしたことにある(2頁左上欄1行∼8行)。」
・「…14は電動機電圧のd軸及びq軸成分を検出する電圧成分検出
器…(2頁右上欄10行∼12行)」
ウ以上によれば,訂正発明2は,従来の電流指令に基づきインバータに電
圧を印可し,そのときの電圧を検出して電動機定数を測定する方法におい
ては,専用に電圧検出器を設ける必要があり(上記イ,電圧波形が歪波)
形であることから検出精度が低いという問題があったことから(訂正明細
書段落【0005,制御定数の精度を向上できるインバータ制御装置の】)
制御定数設定方法を提供することを目的とするものである(段落【000
6。】)
具体的には,訂正発明2は,誘導電動機に電力を供給するインバータを
直交するベクトルの電圧指令(V,V)に基づいて制御する電圧指1d1q
**
令型ベクトル制御装置である(特許請求の範囲の記載。その制御定数を)
設定するに当たっては,ベクトル制御を使用せず,従来から利用されてい
た誘導電動機のV/F一定制御運転を利用して所望のデータを取得し(段
落0042所定の演算式を利用してコンピュータにより制御定数特【】),(
に,1次インダクタンス)を設定する方法である。訂正発明1は,上記訂
正発明2の電圧指令につき「直交するベクトルの」との限定をせず,1次
,,インダクタンスと関係する制御定数を設定するものであり訂正発明2は
1次インダクタンスを用いて設定される2次時定数(T)の演算も含ま2
れるものである(特許請求の範囲の記載。)
訂正発明2における電動機定数の測定においては,まず,電圧と周波数
の指令値を所定値(例えば,1次インダクタンス測定に適した定格値)と
して設定する(特許請求の範囲2,ステップ(a。))
次いで,無負荷状態において,インバータから出力される交流電圧を誘
,(())。,導電動機に印加して誘導電動機を回転させるステップbその際
電圧と周波数を,設定した周波数指令値ω及び電圧指令値Vまで小さ11**
い値から徐々に且つ一定レートにて増加させて,前記誘導電動機を回転さ
せる(ステップ(e。これにより,無負荷定常運転状態となる。この運))
転はV/F一定制御運転(インバータの周波数指令〔F〕に対応した電圧
指令〔V〕を設定し出力電圧を制御する方式)であって,電圧・周波数・
負荷(ここでは無負荷運転である)に応じた状態で,自然に電動機の回転
が安定し定常状態となる(段落【0042。そこで,回転している誘導】)
電動機に流れる電流を測定する(ステップ(c。そして,無負荷状態で))
あるから電圧はV=0となり,所定値に設定されたV,ωと,検1d1q1***
出された電流のベクトル成分(I)を用いて,コンピュータを用い誘1d*
()(【】,導電動機の1次インダクタンスを演算する段落0042l+L11
【0055。】)
式は,以下のとおりである(段落【0043。】)
またこれにより得られたLをrで除してTを求める段落0,’,(【122
049。】)
エ一方,引用発明の記載された甲5文献には,以下の記載がある(判決注
:各摘記の前の番号は整理の便宜のため判決で付記。)
1−①「1.まえがき
速度やトルクの高速応答,高精度制御が要求されるFA機器等の駆
動システムでは,これまでの直流電動機に替ってメンテナンスや耐環境
性に勝れたベクトル制御を採用したかご形誘導電動機ドライブが適用さ
れている。周知のように誘導電動機(以下,IMと略す)のベクトル制
御においては,IMの等価回路を制御モデルとして制御するため,制御
装置には前もって適用するIMの等価回路定数に基づく制御定数を設定
する。また,速度制御系においてはIMとこれに直結する負荷を含めた
慣性モーメントに応じて制御ゲインを設定する必要がある。上記設定に
は一般に電動機定数の設計値が用いられるが,モデルと実機の定数に差
異があると制御誤差を生じる。また,制御定数は使用するIM毎に設定
する必要があり,その設定が複雑であることから多大な調整時間を費や
す。さらに,電動機定数の不明な例えば既設のIMにはベクトル制御が
適用できないといった問題があった(61頁4行∼16行)。」
1−②「本論文では,ベクトル制御装置に電動機定数測定機能を持たせ,
実運転前に電動機定数や慣性モーメントを高精度に自動測定し,これに
基づき制御定数を自動設定することを目的に,電動機定数測定法とこれ
をディジタルインバータ装置に適用するときのオートチューニング方式
について報告する(61頁17行∼20行)。」
2−①「2.ベクトル制御におけるオートチューニングの必要性
先に開発した速度センサレス・ベクトル制御を例に,オートチューニ
ングの必要性について述べる。…ベクトル制御は電動機モデルを基準と
して,インバータ出力電流の大きさと位相及び周波数を制御するため,
モデルの定数を電動機定数に応じて予め設定する必要がある。以下に各
制御部におけるチューニングの必要性を列記する(61頁21行∼2。」
6行)
2−②「1)起電力検出器は磁束に関係した誘導起電力ed,eqを検出す
るもので,次式に従いIM端子電圧Vd,Vqから内部インピーダンス
降下を差し引き演算する。
ed=−ω・Φq1


=Vd−{r・I−ω・+')I・・・()112m1t
***
(}••1
eq=ω・Φd1


=Vq−(r・I+ω・・I)・・・()(611t1m
***
•2」
1頁27行∼33行)
2−③「2)励磁電流の調節には電動機電圧を定格値に設定するために励
磁インダクタンスLが必要であり,従来は電動機の設計値に基づいて1
設定しているが,設計誤差により電圧が定格値から変動する(61頁。」
下2行∼62頁2行)

2−④3速度センサレス方式においてはインバータ出力周波数ω「),1
からすべり周波数演算器からのすべり推定値を差し引いて回転
速度を演算する。このとき,すべり周波数は次式に従って演算する
ため2次時定数Tが必要である。2
=・・・()(62頁3行∼10行)3」
2−⑤「4)速度制御部では速度応答を目標値に設定するため,慣性モー
メントJに応じて制御ゲインを調節する必要がある。しかし,慣性モー
メントは機械負荷により変り,その測定には通常速度センサをトルクセ
ンサを用いて行うが煩雑である。
このようにベクトル制御は調整が複雑であることからオートチューニ
ングの必要性が出てくる。以下,今回立案検討したインバータを用いた
電動機定数の測定法と,それをディジタル装置に適用して制御定数をオ
ートチューニングする方式について述べる(62頁11行∼20行)。」
3−①「3.電動機定数の測定法
3.1測定法の原理
三相かご形IMの電圧方程式を2軸(d,q)理論で表わすと次式とな
る。2)3)
ここで,V,V及びI,Iは角周波数ωで回転する座標上の1d1q1d1q1
,,,,,電圧電流成分でありVVは後述するように検出可能またI1d1q1d
Iはベクトル制御の制御信号から間接的に検出可能であるため,これら1q
を与えて()式を解くことができる。さらに,特定の条件を与えれば定数4
や変数を消去できるので測定すべき定数を簡単に求めることができる。す
1なわち,定常状態ではP(d/dt)=0とおけ,また直流励磁ではω
=0,回転停止状態ではω=ω,さらにI=0又はI=0の条件1s1d1q
を設定すると定数及び変数が消去でき,測定すべき定数に関する電圧方程
式が導びける。以上が測定原理である(62頁23行∼63頁2行)。」
3−②「図2は今回電動機定数の測定に適用した速度センサレス・ベクト
1d1ル制御インバータの構成図である。電流指令信号I,IはI,Imt
**
を各々指令する信号であり,電圧検出信号V,VはV,Vに相当qdq1d1q
する信号である。これらの信号を用いて後述するように電動機定数を測定
。,,。」()するなお印は指令値をは推定値を表す63頁3行∼7行*
3−③「次に,本装置において今回の測定に関係する部分,すなわち電流
,。指令信号IIから電圧検出信号が得られるまでの動作を説明するmt
**
まず,電流指令信号I,Iと周波数指令ωに比例した周波数のmt
***

2相発振器の信号を座標変換器に入力すると()式の演算を行い,固定子5
座標における2相の電流指令I,Iが出力され,さらに2相−3相αβ
**
変換器で3相の電流指令I(I,I,I)が()式に従って出1uvw
****
力される。

,,,,(,一方dq軸電圧検出信号VdVqはインバータ出力電圧Vu
Vv,Vw)より(),()式の演算を行う3相−2相変換器,座標変換器78
で検出される(63頁8行∼22行)。」
3−④「この電圧検出法では,基本波成分が直流に変換されるため高調波
分と分離し易く,検出精度が高いという特徴がある(63頁26行∼2。」
7行)
3−⑤「図2.ベクトル制御装置の構成

(63頁)
3−⑥「3.3励磁インダクタンスと2次時定数の測定
当初,IMを回転停止させた状態で励磁電流Iをステップ変化さm

せ,そのときの磁束変化に伴って発生する電圧の検出信号から,励磁イン
ダクタンスLと2次定数Tを測定する方法を試みたが,精度的に問題が12
あり,また積分演算が介入するため演算が複雑になることから,積分の入
らない以下の測定方法で検討した(66頁7行∼12行)。」
3−⑦「本測定法は,IMをベクトル制御で無負荷運転した条件で励磁イ
ンダクタンスLを求める。この条件では(4)式において定常状態P1,
=0,ω≒0,I≒0とおけ,次式が成立する。S1q
V=(+L・ω・I+M・ω・I…(14)1q1111d12d•)
22d0=r・I
さらに,≪Lとすれば,Lは次式より求められる。•111
…(15)
測定においては周波数指令ωを定格に設定し,そのときの電流指令値1

I(AERにより定格電流となるよう設定される)と電圧検出信号Vm

より(15)式の演算でLが求まる。本測定値は従来のJEC規格にq1
よる測定値に比べて+6%の誤差であった(66頁13行∼23行)。」
「,,.3−⑧次に2次時定数Tの測定にあたってはここで求めたLと321
2.2項で求めたr'より,簡略的に次式より演算できる。今回の測定で2
は,+12%の精度であった。
T≒L/r'…()(66頁24行∼221216」
7行)
4−①「4.ベクトル制御のオートチューニング
速度センサレス,ディジタルベクトル制御に前章で述べた電動機定数の
測定法を適用し,その自動測定と測定結果に基づく制御定数のオートチュ
ーニング法について述べる。
4.1オートチューニング法
図7は,今回開発したオートチューニング法のフローチャートである。
オートチューニングに先立ち,IM定格,定格回転数,極数及び目標応答
はイニシャル設定し,これよりチューニングの動作に入る。
先ず,図2に示す周波数制御(AFR,起電力制御(AER,速度制))
(),,,御ASRを休止させIMが回転停止状態において入力指令Im

ωに所定値を設定し,IMを交流励磁する。そのときの電圧検出信号1

dq1212V,Vにより,3.2節で述べた方法で(r+r')及び(+••
')を演算する(68頁下12行∼下1行)。」
4−②「次に,ω=0でIに所定値を入力し,IMに直流電流を流1m
**
す。そのときの相電圧指令Vと相電流信号Iより,3.2.1項で述UU

べた方法でrを測定する(69頁1行∼5行)1。」
4−③「以上の測定によりr,r'及び+'を正規化演算し,起電1212••
力検出器の内部インピーダンスを設定する。これによりベクトル制御が行
える条件が確立できたので,次に全制御を活し,速度入力指令ωに定r

格値を設定し,IMを無負荷運転する。そのときのI,ωとVの信m1q
**
号より,3.3節の方法で励磁インダクタンスLを測定する(69頁1。」
6行∼15行)
「,。4−④なお2次時定数TはこのLと先に求めたr'より演算する221
このTとLに基づきすべり演算器とIの最適設定を行う(69頁21m

。」
16行∼19行)
5−①「5.むすび
ベクトル制御インバータの調整自動化を目的に検討した結果,以下の結
論を得た。
1)速度センサやトルクセンサを用いることなくベクトル制御装置の制
,,御信号より電動機定数及び慣性モーメントを測定する方法を明らかにし
,。さらにその実験検証を行った結果所要の精度が得られることを確認した
2)速度センサレス・ディジタルベクトル制御インバータに上記電動機
定数測定機構を付加し,電動機定数が不明な状態から制御定数を自動設定
するオートチューニング方式を開発し,その効果を加減速性能及び速度精
度より実証した(70頁16行∼25行)。」
5−②「図7オートチューニング方法のフローチャート
(69頁)」
オ以上によれば,甲5文献は,誘導電動機(IM)をベクトル制御をする
につき必要な電動機定数を実運転前に高精度に自動測定する方法に関する
論文であり(摘記1−①,②,5−①,最終的に必要な電動機定数であ)
る励磁インダクタンスL(3−⑦,2次時定数T(3−⑧)を求める12)
ものである。なお,甲5文献のうち,慣性モーメントを求め制御ゲインを
設定する部分は本件とは直接関連しない(訂正明細書〔甲2〕の段落【0
ASRのゲインは機械系の慣性モーメントJに応じて決061】にも「…
定されるが,Jは例えば特願昭59−212543号記載の方法にて測定できる。
…」と記載されている。)
引用発明〔甲5〕は,励磁電流の調節には電動機電圧を定格値に設定す
るために励磁インダクタンスLが必要であり(2−③,また速度センサ1)
を用いない速度センサレス方式においてはすべり周波数を演算するために
2次時定数Tが予め必要である(2−④)との知見のもとに,ベクトル2
制御インバータにおいてこれらを自動測定・設定するオートチューニング
方式に関するものである(2−⑤,5−①。当初,インバータを回転停)
止させた状態で励磁電流Iをステップ変化させた場合の電圧検出信号m

から上記L,Tを測定したが精度に問題があり,積分演算が必要で複雑12
であることから,これを克服するための方法を提供しようとするものであ
る(3−⑥。)
そして,引用発明における測定法は以下の<ア>∼<オ>のとおりである。
<ア>引用発明においては,まずベクトル制御を行う前提としての必要
な制御定数(r,r',+'。各定義は3−①)については,1212••
事前に測定してこれを設定する必要がある(4−①∼③,5−②。)
<イ>上記制御定数が得られることにより,ベクトル制御を行う前提条
件が備わったので(4−③,5−②,まず電動機の銘板に与えられ)
〔〕(,た定格値に設定した回転周波数指令速度入力指令ω3−⑦r

4−③)からこれと同じ所定値であるωを得て,インバータをベ1

クトル制御下で無負荷運転する(4−③,5−②。)
<ウ>そして適宜(任意)の値として電流の初期値Iが与えられるm
**
(3−⑤。このIは実際の1次インダクタンスLの測定に用い)m
**

られる電流指令信号(指令値)であり,無負荷運転時の定格磁束を形

成する励磁電流(以下「定格電流」という場合がある)であるIm
となるまでΔImを加算することにより補正される(3−⑤,3−⑦
中の「電流指令値I(AERにより定格電流となるよう設定されm

る」との記載。すなわち,無負荷運転時における定格電流であるI))
は事前に銘板等により知り得ないところ,まず任意の値としてIm

が与えられ,これをAER(起電力制御)において,周波数指令m
**
ωに基づく電圧値(3−②の図2におけるAERの左横の「+」1

記号)と,検出された誘起電圧であるeq(3−②の図2におけるA
ERの左横の「−」記号。なおその算出式は2−②の()式)とを加2
減算し,無負荷運転時の定格電流であるIを得る。この点の詳細m

については,上記「電流指令値I(AERにより定格電流となるm

よう設定される」との記載(摘記3−⑦)しかない。)
<エ>上記で得られた無負荷運転の状態において誘導電動機に印可され
る電圧を検出し(4−③,無負荷運転時の定格電流であるIをI)m

とし,定格周波数指令ωをωと,そのとき検出される電圧信号1d11

Vをそれぞれ()式(摘記3−⑦記載)に代入し,これにより励磁1q15
インダクタンスLを得る。1
<オ>上<エ>により求めたLと既に<ア>で求めてあるr’により,こ12
れらを()式(摘記3−⑧記載)に代入し,2次時定数であるTを162
求める。
以上の方法による引用発明の電圧検出法は,基本波成分が直流に変換
される(3−③にあるとおり座標変換を行い)ため高調波成分と分離し
易く,検出精度が高いという特徴があるとしている(3−④。)
カ上記引用発明における電動機定数の検出方法につき検討すると,引用発
,(),明においては適宜任意の値として電流指令の初期値Iを設定しm
**
その後,ベクトル制御運転を行うことにより,自動的にIが無負荷運転m

時の定格電流となるよう調整される。これによれば,電流指令値Iはベm

クトル制御運転により次第に定格電流に収束していくものであり,その定
格電流は,駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスLによって異なる1
ものであって,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Iの具体的m

,。,,数値は誘導電動機の回転前には知り得ないしたがって引用発明では
誘導電動機の回転前に予め電流指令値Iを定格電流となるよう設定したm

ものではない。そうすると,審決が,引用発明の内容として,無負荷状態
(()),「()において誘導電動機を回転させるステップステップbの前にa
前記電流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステ
ップ(7頁29行∼30行。なお「周波数指令に」が「周波数指令の」」,
の誤記であるとしても同様である)を備えるものと認定したことは誤りで
ある。
また,引用発明では,予め定格電流,すなわち,電流指令の定格値を具
体的に知ることができないから,無負荷定常回転状態に至るまでは「定,
格値に基づいて」運転することができない。したがって,この意味におい
て審決が引用発明の内容として「b)無負荷状態において,前記定格値(
に基づいて前記インバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に印
加することにより,前記誘導電動機を回転させるステップ(7頁31行」
∼33行)を備えると認定したこともまた誤りである。
キそして,①(a)のステップにおいて,第1の電気量指令を設定する際
に,訂正発明2は,電圧指令の所定値を設定するのに対して,引用発明で
は,その後に補正される電流指令の初期値(I)を設定する点,②無m
**
負荷状態において誘導電動機を回転させるステップについて,訂正発明2
は,所定値に設定された電圧指令及び周波数指令に基づいて回転させるの
に対し,引用発明は,ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電
流指令値および定格値に設定された周波数指令値に基づいてインバータか
ら出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し,無負荷定格電流指令値
に至るまでこれを補正しながら,誘導電動機を回転させるものである点,
の2点については,引用発明と訂正発明2との相違点として認定されるべ
きである(原告の主張する相違点イの一部,及び同ウに当たる。なお,)
訂正発明1は,訂正発明2の電圧指令につき「直交するベクトルの」との
限定をせず,1次インダクタンスと関係する制御定数を設定するものであ
るから,上記訂正発明2に関するものと同様である。
ク審決は,上記のとおり引用発明の認定を誤り,訂正発明2との相違点を
看過したものであるが,次にこの相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼ
すものであるかにつき検討する。
(ア)まず,上記キの認定すべき相違点の①の点について検討すると,既
に上記で検討したとおり,引用発明は,電流指令値Iがベクトル制御m

,,運転により次第に定格電流に収束していくものでありその定格電流は
駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスLによって異なるものであ1
るから,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Iの具体的数値m

は,誘導電動機の回転前には知り得ず,引用発明において電流指令値を
予め所定値に設定することは原理的にできない。
一方,訂正発明2は,電圧指令を選択することにより,特許請求の範
囲記載の(c)のステップである電流検出を行うための無負荷定常回転
状態の電圧指令値を予め設定することが可能である。そして,定格電圧
での無負荷定常回転状態で上記(c)のステップを行う場合には,電動
機の銘板に記載された定格電圧と定格周波数を各指令の所定値として選
,。択できる等条件設定が簡便になる作用効果があることが明らかである
(イ)なお審決は,訂正発明2が電圧指令に基づいてインバータを制御し
ている点に関し,相違点(ア)の判断において「インバータを電圧指,
令に基づいて制御することは,インバータ制御の分野で良く知られた手
法」である(10頁15行∼16行)として,特開昭60−25506
(「」,,5号公報発明の名称PWMインバータ出願人三菱電機株式会社
公開日昭和60年12月16日,甲11,特開昭60−187282)
号公報(発明の名称「誘導電動機のベクトル制御装置,出願人株式会」
社日立製作所,公開日昭和60年9月24日,甲12,特開昭59−)
169383号公報(発明の名称「ベクトル制御方式におけるインバー
タ出力電圧制御装置,出願人株式会社明電舎,公開日昭和59年9」
月25日,甲13)を挙げているので検討する。
a甲11には以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「(1)基本波信号に第3調波信号を重畳して被変調波信号を作成する
PWMインバータにおいて,上記第3調波信号の最大振幅を可変と
し,インバータ出力電圧指令に対応して増減する上記基本波信号の
最大振幅の増減に応じて上記第3調波信号の重畳率を増減すること
を特徴とするPWMインバータ」。
(b)発明の詳細な説明
・発明の技術分野
「この発明は可変電圧可変周波数電源として用いられるPWMイ
ンバータに関する(1頁右下欄1行∼4行)。」
・発明の実施例
「以下,この発明の一実施例を図について説明する。
第5図において,12は第3調波振幅変調用関数発生器であっ
て,インバータ出力電圧指令Vrが入力され…(2頁右下欄6」
行∼11行)
(c)図面(かっこ内は「4.図面の簡単な説明」中の記載である)
・第5図(この発明の一実施例を示す回路図)
b甲12には以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「1.誘導電動機に交流に供給するPWMインバータと,該PWM
インバータに速度指令を基に形成した制御信号を供給して該誘導電
動機をベクトル制御する制御回路とを備え,該誘導電動機を可変速
制御できるようにした誘導電動機のベクトル制御装置において,前
記制御回路は,電流検出器からの電流検出信号より得た励磁成分電
流帰還値と速度指令を基に形成した励磁成分電流信号との偏差より
d軸成分電圧指令を演算し,速度指令を基に形成したトルク成分電
流指令と該電流検出器からのトルク成分電流帰還値との偏差よりq
軸成分電圧指令を演算し,それら演算結果のd軸及びq軸成分電圧
指令値より誘導電動機に印加するPWM電圧指令をベクトル演算し
,,て制御信号を形成しこれをPWMインバータに供給できると共に
上記d軸成分電圧指令値により,すべりを補償するように構成した
ことを特徴とする誘導電動機のベクトル制御装置」。
(b)発明の詳細な説明
・「発明の利用分野〕〔
本発明は速度検出器無し誘導電動機のベクトル制御装置に係
り,特に速度制御用の電圧検出器を省略して全てデジタル化を図
。」るに好適な誘導電動機のベクトル制御装置に関するものである
(1頁右下欄18行∼2頁左上欄2行」)
・「発明の背景〕〔
この種の速度検出器無し誘導電動機のベクトル制御装置は,ベ
クトル演算の直交性を補償するすべり補償と,電圧及び周波数の
比を一定にする励磁補償とを,パルス幅変調(PWMと呼ぶ)さ
れた電圧を電圧検出器で検出し,その検出電圧から検出されたd
軸成分電圧(以下,Eと略称する)及びq軸成分電圧(以下,d
Eと略称する)により行なうと共に,Eを速度帰還信号に使用qq
していた。そのため,かかるベクトル制御装置では,電圧検出器
を介しての電圧検出が必須の要素であった(2頁左上欄3行∼。」
14行)
・「発明の目的〕〔
本発明の目的は,トルク成分,励磁成分電流を各々制御し,そ
の演算結果をd軸成分E,q軸成分Eの電圧指令とし,PWdq
**
**
Mパルス信号をこの電圧指令値より作成すると共に,E,Edq
をすべり補償,励磁補償に用いることにより,PWM電圧を検出
する必要をなくした誘導電動機のベクトル制御装置を提供するこ
とにある(3頁左上欄2行∼9行)。」
・「発明の実施例〕〔
以下,本発明の実施例を第3図以下の図面に基づいて詳細に説
明する。
第3図は本発明に得る誘導電動機のベクトル制御装置の一実施
例を示すブロック図である。

次に本実施例の動作について説明する。
速度指令ωrが与えられると誘導電動機2の速度をωrに**
するように,まず,演算器37により速度指令ωrと実速度*
ωrの偏差を演算し,ωr=ωrと制御する電流指令Itを**
作成し,演算器34によりトルク電流指令Itとトルク電流*
Itの偏差を演算し,It=Itと制御する電圧指令Eを**

作成する。…(3頁右上欄1行∼左下欄2行)」
(c)図面(かっこ内は「図面の簡単な説明」中の記載である)
・第3図(本発明の実施例の構成を示すブロック図)
c甲13には以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「(1)誘導電動機を電圧形インバータで駆動し,誘導電動機の
磁束分を設定するα相一次電圧eと二次電流分を設定するβ1α
相一次電圧eから相電圧演算によって上記インバータの3相1β
電圧設定値e,e,eを得るベクトル制御方式において,abc
***
上記電圧e及びeを夫々同期回転座標−固定座標変換した1α1β
電圧e及びeは夫々上記インバータの直流検出電圧Eと1d1qdc
その基準直流電圧Eとの比E/Eで割算し,この割算結果NdcN
を2相/3相変換して上記3相電圧設定値e,e,eとabc
***
することを特徴とするベクトル制御方式におけるインバータ出
力電圧制御装置」。
(b)発明の詳細な説明
「…第1図において,誘導電動機1にPWM方式インバータ2か
ら電圧制御による一次電圧を供給して該電動機1に磁束と二次電
流とが互いに直交するよう制御するのに,電動機1の磁束を一定
に制御するためのα相一次電流設定値iと二次電流を制御す1α

るためのβ相一次電流設定値iと電源角周波数ωとを入力す1β0

る補正演算回路3によってα,β相一次電圧e,eを得,こ1α1β
の電圧e,eは相電圧演算回路4によって2相−3相変換し1α1β
てインバータ2の3相電圧設定値e,e,eを得る。…」abc
***
(2頁右上欄1行∼11行)
(ウ)上記によれば,甲11∼13は,いずれもインバータを電圧指令に
基づき制御する構成を示すものであるものの,甲11には,インバータ
出力電圧指令Vrをどのように設定するかにつき上記摘記の記載のみで

十分な開示がなく,甲12には,演算器34によりトルク電流指令It
とトルク電流Iの偏差を演算して電圧指令Eを作成し,演算器33tq

で励磁電流指令Iと検出値Iの偏差を演算して電圧指令Eを作成mmd
**
することが開示されているが,ベクトル制御運転における偏差の演算を
用いることなく直接E,Eを所定値に設定することは開示されていdq
**
ない。甲13には,電動機の磁束を一定に制御するためのα相一次電流
設定値iと二次電流を制御するためのβ相一次電流設定値iと電1α1β
**
源角周波数ωとを入力する補正演算回路3によってα,β相一次電圧0
e,eを得ることが開示されているが,ベクトル制御装置の制御定1α1β
数設定前にα,β相一次電圧e,eを設定することは記載されてい1α1β
ない。
したがって,甲11∼13には,訂正発明2における無負荷定常回転
状態の電圧指令を電動機の回転開始前に設定することについては何ら開
示がなく,インバータを電圧指令に基づき制御することに関する周知技
術によっても,引用発明と訂正発明2との相違点とすべき上記①につい
て,容易想到と認めることはできない。
ケ次に,上記キの認定すべき相違点②の点について検討する。
(ア)訂正発明2における「無負荷状態において,前記所定値に基づいて
前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加するこ
とにより,前記誘導電動機を回転させる(ステップ(b)と記載され」)
た運転について,その具体的な運転制御方法は特許請求の範囲からは一
義的に明らかとはいえない。そこで訂正明細書(甲2)の発明の詳細な
説明を参酌すると,段落【0042】に「無負荷状態においてVと1q

Wを所定値に設定し,いわゆるV/F一定制御運転(磁束一定条件)1

を行う」と記載されており,誘導電動機の運転制御において既に知ら。
れたV/F一定制御運転を想定したものと解される。
ここで引用発明は,無負荷電流の定格値を求める前提としてベクトル
制御運転を行う必要があり,そのため,AER(起電力制御)及びAF
R(周波数制御)を用いることから,既に検討したようにと(llr+11
)を励磁インダクタンスLの演算測定に先だって測定演算すること21'
が必要である。一方,訂正発明2は,上記のとおりV/F一定制御運転
を行うことにより,引用発明のようにAER及びAFRを必要とせず,
事前にと(ll)等の他の電動機定数を測定演算することなく,r+'112
誘導電動機の1次インダクタンスを測定演算することができるものであ
る。
(イ)インバータを電圧指令に基づき制御することに関する周知技術であ
る上記甲12には,電圧指令に基づいてインバータを制御し,誘導電動
機をベクトル制御する制御装置であって,指令値と実測値の偏差を演算
し,それを補償するように指令を調整する制御手段を利用したベクトル
制御運転についての記載がある(特許請求の範囲の記載。しかし,ベ)
クトル制御装置における偏差を調整する制御手段を利用せずに,特定の
電圧指令と周波数指令によりインバータを制御し,誘導電動機に交流電
圧を印加することは,上記甲12には何ら開示されていない。
コ以上の検討によれば,審決の引用発明の認定の誤り・訂正発明2との相
違点の看過は,審決の結論に影響を与えることが明らかである。よって,
原告の主張する取消事由1は理由がある。
()被告及び被告補助参加人の反論に対する補足的判断2
ア被告及び被告補助参加人は,引用発明においても,電流指令値Iが定m

格値として設定されることとされ,この点は訂正発明2と同様であり,引
用発明も電流指令の定格値を設定するステップを有している旨主張する。
しかし,訂正発明2は「f)前記(b)のステップにおいて,周波数,(
指令および電圧指令を前記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートに
て増加させて,前記誘導電動機を回転させるステップ」を備えており,こ
の記載に基づけば(b)のステップは,誘導電動機の回転開始時から,,
各指令が設定された所定値となって安定した無負荷定常回転状態となるま
での期間を意味するステップであると解される。そうすると,訂正発明2
は(b)のステップの前に「a)前記電圧指令および前記誘導電動機の,(
周波数指令の所定値を設定するステップ」を行うのであるから,電圧指令
の設定は,誘導電動機の回転開始前に行うものである。
したがって,訂正発明2の「a)前記電圧指令および前記誘導電動機(
の周波数指令の所定値を設定するステップ」は,誘導電動機の回転開始前
に行うステップであると位置付けられるのに対し,引用発明は,電流指令
の定格値を誘導電動機の回転開始前に設定することはできないから,最終
的に電流指令が定格値が設定されるとしても,引用発明が「a)前記電(
流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステップ」
を備えているということはできない。被告らの上記主張は採用することが
できない。
イまた被告及び被告補助参加人は,訂正発明2は,ベクトル制御下で無負
荷運転をしなければならないものである旨も主張するが,前記()ウ記載1
のとおり,訂正発明2はベクトル制御を使用せずに制御定数を設定するも
のであるから,被告らの主張は採用することができない。
なお,被告及び被告補助参加人は「ベクトル」は「直交するベクトル,
の電圧指令に基づいて制御する」の「ベクトル」と同じ意味であって,こ
の点で訂正発明2と引用発明は相違しない旨も主張するが「ベクトル制,
御」とは,一般に,固定子巻線に流れる電流等を磁束形成成分とトルク出
力成分とに分解し,それぞれの成分を独立に制御する制御法のことであっ
て,この意味で訂正発明2はベクトル制御を行っていないから,引用発明
と異なるものである。
3取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について
審決が相違点(ア)に関する進歩性について「…引用発明において,制御,
装置を,インバータ制御装置を電流指令に基づいて交流電圧を印加してベクト
ル制御するものに換えて,インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧
,,を印加してベクトル制御するものを用いそれに伴って前記交流電圧を印加し
その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定する周
知技術のもとに,指令電気量を電圧とすると共に検出電気量を電流とすること
で相違点(ア)に係る本件訂正発明2の構成とすることは当業者が任意になし
」()。得るところである10頁25行∼34行と判断した点について検討する
()引用発明の()式(摘記3−⑦)は,誘導電動機の電圧方程式に基づい115
て導かれ,無負荷運転の定常状態という前提の下に定められた幾つかの近似
条件(ω≒0,I≒0等)を満足する限りにおいて成立する,励磁インS1q
ダクタンスLと各物理量の関係を表した理論式である。したがって,誘導1
電動機が無負荷かつ定常状態の回転をしていれば,上記()式は成立するか15
ら,()式に代入する各物理量を,指令値とするか検出値とするかは,当業15
者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜選
択し得ることのようにも考えられる。
しかし,電動機の運転において,指令値と出力値(検出値)が正確に一致
しない場合があることは良く知られたことであり,検出値が測定誤差を生じ
る可能性があることも知られている。訂正発明に関しても,訂正明細書(甲
2)には以下のとおり,その課題が記載されている。
「,。一方上記問題に対処するものとしては特願昭−号がある59212543
これはインバータ装置を用いて,その電流指令に基づいてインバータよ
り電動機に電圧を印加し,そのときの電圧を検出し,該検出電圧値と電
流指令値との関係より電動機定数を測定し,その結果に基づき制御定数
を設定するものである。しかし,この特願昭−号に示される59212543
例では定数測定用として専用に電圧検出器を設ける必要があり,また,
電圧波形が歪波形であることから,検出精度が低く,すなわち,定数測
定精度が低いという問題がある(段落【0005)。」】
「本発明の目的は,制御装置の制御定数の精度を向上できるインバータ
。」(【】)制御装置の制御定数設定方法を提供することにある段落0006
したがって訂正発明2は,電圧の検出は検出精度が低いことを技術課題と
し,これを解決するために,歪みの少ない電流を検出値として,各電動機定
数を測定したものである。
一方,引用発明(甲5)には「この電圧検出法では,基本波成分が直流,
に変換されるため高調波分と分離し易く,検出精度が高いという特徴があ
る(摘記3−④)と記載されているものの,その前の記載である摘記3−。」
③の記載から明らかなように,引用発明における検出精度の高さは,α−β
軸からd−q軸への座標変換を行うことによるもので,この点に関する検出
精度向上については,同じくα−β軸からd−q軸への座標変換を行って,
電流の基本波成分を直流信号で検出する訂正発明2においても全く同様であ
る(段落【0021【0022。】,】)
したがって,引用発明には訂正発明2の技術課題に対する開示がないばか
りか,引用発明において採用する電圧検出法の検出精度が高いという利点を
前提として,電流指令によるベクトル制御装置及びそのオートチューニング
方式を構成しているから,電圧検出を電流検出に変更することは想定してい
ないというべきである。
()次に審決は,相違点(ア)に関し「誘導電動機に所定の値を有する交流2,
電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次イ
ンダクタンスと関係する定数を決定することが引用文献2ないし6に記載さ
れており,周知技術である(10頁18行∼20行)と認定判断した。。」
そこで上記引用文献2∼6である甲6∼10について検討する。
ア甲6(誘導機の特性算定のための定数決定法」Gほか)には,以下の「
記載がある。
「4.定数の決定法
まずrは一次抵抗測定によって決定できる。次に無負荷試験につい1
て考えてみると,このときs0とみなされるので,このときの等価回º
路は第11図のようになる。したがって,無負荷試験のときの電圧,電
流,入力を測定すれば,rとXとは容易に決定できる(177頁右M1。」
欄18行∼24行)
「5.特性算定のための試験と計算法
この特性算定を行なうには,一次抵抗測定,無負荷試験および低周波
,。拘束試験を行ないその結果から次のような手順により定数を決定する

()無負荷試験定格周波数に保って,定格電圧より少し高い電圧2
からしだいに電圧を変化し,ほぼ同期速度を保つ最低値までの各点で,
電圧,電流,入力を測定する(178頁右欄19行∼32行)。」
(「」),「.イ甲7電気学会大学講座電気機器工学I執筆委員Iらには3
10電動機定数の測定(249頁1行)として,以下の記載がある。」
「3.10.2無負荷試験
電動機に定格電圧を加えて無負荷運転をし,1相当たりの電圧V,電0
流I,電力Pを測定する(249頁10行∼13行)00。」
ウ甲8(大学講義最新電気機器学改訂増補」宮入庄太著)には,以「
下の記載がある。
「例題10.2〕…の定格をもつかご形三相誘導電動機がある。〔
()無負荷試験1
定格電圧を加えて無負荷(加」は誤り)運転したところ「
入力電流:3.9〔A,入力250〔W〕〕

であった。
この電動機の等価回路を求めよ(172頁8行∼17行)。」
エ甲9(三相誘導電動機特性の直接算定法」Jほか)には,以下の記載「
がある。
「2.特性式三相誘導電動機の1相を電源から見た場合のインピーダン
スZは(1)式で与えられる(506頁左欄7行∼8行)。」
「X(判決注:リアクタンス)定格電圧V,無負荷時の電流Iとす100
ればX=V/√3I…()10019
である。この値は1次抵抗や無負荷損の影響をほとんど受けない(5。」
06頁右欄下5行∼下1行)
オ甲10(普通かご形誘導電動機の運転特性算定のためのT形等価回路「
定数決定法」L,M)には,以下の記載がある。
「…定格電圧無負荷試験を行ない,定格電圧に対応する…および励磁リア
クタンスxを求める(26頁10∼11行)m。」
()以上によれば,甲6∼10には,誘導電動機に所定の値を有する交流電3
圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の電流に基づいて一次インダク
タンスと関係する定数を決定することが記載されており,これは審決が周知
技術の内容として認定したとおりである。
しかし,甲6∼10で用いられている電流・電圧は,インバータから出力
されたものではないから,インバータから出力される電力を誘導電動機に印
加した場合の電流や電圧の歪みに関する知見を与えるものではない。
,,,「」(4)そうすると周知技術を参照しても引用発明において第1の電気量
を「電流」から「電圧」に換えるとともに「第2の電気量」を「電圧」か,
ら「電流」に換えることは,当業者が容易になし得ることではない。また,
訂正発明2は,直交するベクトルの指令が「電圧(V・V」指令で1d1q
**

あり,ベクトル成分を検出する対象が「回転している誘導電動機に流れる電
流」であって,検出された「電流」のベクトル成分を用いて演算することに
より,訂正明細書記載の作用・効果を奏するものと認められる。
()被告及び被告補助参加人は,引用発明の誘導電動機で検出されるものを5
,,電圧から電流とすることは当業者が任意になし得るところでありその場合
歪みを少なくする課題を解決し得ることは明らかである旨主張するが,上記
検討によれば採用することができない。
()以上のとおり,審決の引用発明と訂正発明2との相違点(ア)に関する6
判断も誤りであり,この点は訂正発明1との関係でも同様であるから,原告
主張の取消事由2についても理由があることになる。
4結語
以上によれば,原告主張の取消事由1,2はいずれも理由があり,これが審
決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官今井弘晃

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