弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大熊裕起ほかの上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法13条,31条,
36条違反をいう点は,死刑制度がその執行方法を含め憲法に違反しないことは当
裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・
刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大
法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年
7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理
由がなく,被告人の自白に関して憲法38条1項,2項違反をいう点は,記録を調
査しても被告人の自白の任意性を疑うべき証跡は認められないから,前提を欠き,
その余は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当
の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは
認められない。
付言すると,本件は,被告人が,(1)自己の経済的な苦境や勤務先に対する不満
や悩みなどによるうっぷんを晴らすため,平成10年2月11日午前4時40分こ
ろ,現住建造物を非現住建造物と誤信して放火し,同建物の一部及び物置を焼損さ
せた非現住建造物等放火の事案,(2)上記(1)の犯行により建物内で就寝していた
1名が焼死したことを知り,罪悪感から放火行為をしばらくやめていたものの,平
成15年9月18日午前2時30分ころ,前日夜にスナックで男性客からば倒され
たことに対する怒りや,自己の経済的苦境等に対する不満や悩みなどによるうっぷ
んを晴らすため,現住建造物2棟を全焼させて焼損した現住建造物等放火の事案,
(3)同年12月18日午前3時15分ころ,収入の減少や消費者金融からの督促等
によるうっぷんを晴らすため,民家に放火してそれを含む現住建造物等7棟を全焼
させて焼損した上,同民家において就寝中の家人4名を焼死させて殺害した現住建
造物等放火,殺人の事案,(4)同日午前3時25分ころ,ホテル浴場の保温チュー
ブに放火しこれを損壊した器物損壊の事案,(5)同日午前3時45分ころ,スーパ
ーマーケットの建物の一部を焼損した非現住建造物等放火の事案,(6)同日午前4
時5分ころ,民家に放火しようとしたが,未遂に終わった現住建造物等放火未遂の
事案,(7)同日午前4時10分ころ,民家の一部を焼損した現住建造物等放火の事
案である。
被告人は,経済的苦境等に対する不満や悩みなどによるうっぷんを晴らすため,
放火のスリルと快感を求めて無差別に火を付け,他人の生命や財産を奪うことも何
ら意に介さず本件各犯行に及んでおり,その犯行動機に酌むべき点はない。本件各
犯行は,深夜,建物密集地等で無差別に火を放ったという危険極まりないものであ
る。被告人は,(1)の放火により焼死者1名を出すなどし,放火が重大な結果を招く
危険のあることを十分認識したにもかかわらず,やがて罪悪感が薄れるにつれて,
(2)ないし(7)の無差別の連続放火を敢行したものである。取り分け,(3)の犯行につ
いては,民家等が立ち並ぶ住宅街で,犯行当時は相当強い浜風が吹くなどしていた
ことから,放火して建物に火が燃え移れば折からの浜風にあおられて急速に燃え広
がり就寝中の家人が逃げ遅れて焼死する高い可能性があることを十分認識しながら,
あえて放火行為に及んだものであって,人の生命を軽視した極めて危険かつ悪質な
犯行といえる。4名もの尊い生命を奪った結果は,極めて重大であり,遺族らの処
罰感情はしゅん烈である上,本件各犯行による財産的被害も大きく,店舗,住居等
を失った建物所有者,店舗経営者らの処罰感情も厳しい。本件各犯行は,無差別放
火事件であって,このような犯行が地域社会に与えた不安や恐怖は大きい。
以上のような事情に照らすと,被告人の刑事責任は,極めて重大であるといわざ
るを得ず,殺意は未必的なものに止まること,捜査段階においては,事実を認め,
詳細な供述を積極的,自発的に行い,真しに反省しようとする態度が認められたこ
と,罰金以外に前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮して
も,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,当裁判所もこれを是認せざるを
得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官高木和哉公判出席
(裁判長裁判官横田尤孝裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官白木勇)

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