弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

令和3年1月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成30年(ワ)第36690号特許権侵害損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和2年10月19日
判決
原告株式会社DAPリアライズ
被告シャープ株式会社
同訴訟代理人弁護士生田哲郎10
佐野辰巳
名越秀夫
高橋隆二
吉浦洋一
主文
1原告の主位的請求を棄却する。
2被告は,原告に対し,980万1770円及びこれに対する令和元年5月1
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の予備的請求を棄却する。20
4訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
(目次)25
第1請求...............................................................6
第2事案の概要.........................................................6
1事案の要旨.........................................................6
2前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(以下,書証番号は
特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)7
(1)当事者..........................................................75
(2)本件特許........................................................7
(3)特許請求の範囲..................................................8
(4)本件発明の構成要件の分説........................................8
(5)被告各製品の構成...............................................10
(6)被告による被告各製品の製造販売.................................1010
(7)原告による別件訴訟.............................................11
(8)不法行為に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の援用.........11
3争点..............................................................12
第3争点に関する当事者の主張..........................................12
1争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びH15
の充足性))について...................................................12
(原告の主張)......................................................12
(1)構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」につ
いて..............................................................12
(2)構成要件D及びHの「単一のVRAM」について.................1520
(3)小括.........................................................17
(被告の主張)......................................................18
(1)構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」につ
いて..............................................................18
(2)構成要件D及びHの「単一のVRAM」について.................2025
(3)小括.........................................................23
2争点2-1(甲11公報を主引用例とする進歩性欠如)について........24
(被告の主張)......................................................24
(1)本件発明と甲11公報に記載された発明との対比.................24
(2)相違点に係る構成の容易想到性.................................29
(3)原告主張の相違点について.....................................315
(4)小括.........................................................33
(原告の主張)......................................................33
(1)本件発明と甲11発明の対比について...........................33
(2)相違点甲に係る構成の容易想到性について.......................35
3争点2-2(乙4公報を主引用例とする進歩性欠如)について..........3710
(被告の主張)......................................................37
(1)本件発明と乙4公報に記載された発明との対比...................37
(2)相違点に係る構成の容易想到性.................................41
(3)原告主張の相違点について.....................................42
(原告の主張)......................................................4215
(1)本件発明と乙4発明の対比について.............................42
(2)相違点乙に係る構成の容易想到性について.......................43
4争点2-3(サポート要件違反)について............................43
(被告の主張)......................................................43
(原告の主張)......................................................4420
5争点2-4(本件訂正についての訂正要件違反)について..............44
(被告の主張)......................................................44
(原告の主張)......................................................45
6争点3(特許権侵害の不法行為による損害の発生の有無及びその額)につい
て....................................................................4625
(原告の主張)......................................................46
(1)本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額...........46
(2)被告の主張する実施料率について...............................50
(被告の主張)......................................................51
(1)本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額について...51
(2)原告の主張する実施料率について...............................515
7争点4(本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき
利得の額)について....................................................53
(原告の主張)......................................................53
(被告の主張)......................................................53
8争点5(不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の抗弁の成否)に10
ついて................................................................54
(被告の主張)......................................................54
(原告の主張)......................................................55
第4当裁判所の判断....................................................56
1本件明細書の記載事項等............................................5615
2争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びH
の充足性))について...................................................82
(1)被告各製品は,構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演
算回路」を備えるか..................................................82
(2)被告各製品は,構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備えるか...8820
(3)被告各製品の構成要件D及びHの充足性について...................93
3争点2-1(甲11公報を主引用例とする進歩性欠如)について........93
(1)甲11公報の記載事項等.........................................93
(2)乙4公報の記載事項等...........................................98
(3)甲11発明と本件発明との対比..................................10525
(4)相違点③について..............................................107
(5)小括..........................................................109
4争点2-2(乙4公報を主引用例とする進歩性欠如)について.........110
(1)乙4発明と本件発明との対比....................................110
(2)相違点⑤について..............................................110
(3)小括..........................................................1115
5争点2-3(サポート要件違反)について...........................111
6争点2-4(本件訂正についての訂正要件違反)について.............112
7争点5(不法行為に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否)につ
いて.................................................................114
(1)消滅時効の成否................................................11410
(2)原告の主張について............................................115
(3)小括..........................................................116
8争点4(本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき
利得の額)について...................................................116
(1)不当利得返還義務の発生について................................11615
(2)実施料相当額について..........................................116
9結論.............................................................123
別紙一覧...............................................................125
別紙1特許請求の範囲.................................................126
別紙2被告製品目録...................................................12820
別紙3被告各製品の構成要素...........................................129
別紙4被告各製品の本件発明に対応する構成(原告の主張)...............131
別紙5被告各製品の販売状況...........................................134
別紙6本件明細書の図面...............................................135
別紙7別件発明の構成要件.............................................13625
別紙8甲11公報の図面...............................................138
別紙9乙4公報の図面.................................................139
別紙10本件訂正前の特許請求の範囲...................................141
第1請求
1主位的請求5
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成30年12月4日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2予備的請求
被告は,原告に対し,1億円並びにうち3000万円に対する令和元年5月
14日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち7000万円に対す10
る令和2年7月9日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「携帯情報通信装置及び携帯情報通信装置を使用した
パーソナルコンピュータシステム」とする特許第4555901号の特許(以15
下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)の特許
権者である原告が,別紙2「被告製品目録」記載の各製品(以下,併せて「被
告各製品」という。)が本件特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下
「本件発明」という。)の技術的範囲に属するものであり,被告による被告各製
品の製造,販売が本件特許権の実施に当たると主張して,以下の金員の支払を20
求める事案である。
(1)主位的請求
本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づく,損害金1億円
(特許法102条3項による損害金の一部請求)及びこれに対する不法行為
後の日である平成30年12月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みま25
での平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」とい
う。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求。
(2)予備的請求
本件発明の実施料相当額の支払を免れたことによる不当利得返還請求権に
基づく,利得金の一部として1億円並びにうち3000万円に対する返還請
求の翌日である令和元年5月14日(令和元年5月13日付け訴えの変更申5
立書の直送の日の翌日)から支払済みまでの改正前民法所定の年5分の割合
による遅延損害金及びうち7000万円に対する返還請求の翌日である令和
2年7月9日(令和2年7月8日付け訴えの変更申立書の送達の日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求。
2前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(以下,書証番号は10
特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア原告
原告は,各種情報処理・通信システムの考案・開発等を目的とする株式
会社である(甲50)。15
イ被告
被告は,電機メーカーであり,スマートフォンを始めとする携帯情報通
信装置の企画,製造,販売等を行っている株式会社である。
(2)本件特許
ア原告は,平成17年12月21日(優先日平成16年12月24日及び20
平成17年7月28日,優先権主張国日本)を出願日とする特許出願(特
願2005-367373号)の一部を分割して出願した特許出願(特願
2006-277062号)の一部を更に分割して,平成20年6月23
日,新たに本件特許の特許出願(特願2008-162678号。以下
「本件出願」という。)をし,平成22年7月30日,本件特許権の設定25
登録(請求項の数4)を受けた(甲1ないし3)。
イ原告は,平成28年5月19日,本件出願の願書に添付した特許請求の
範囲を訂正することを求める旨の訂正審判請求(訂正2016-3900
69号事件)をし,同年10月17日,上記特許請求の範囲の請求項2な
いし4について訂正することを認め,同請求項1に係る訂正についての審
判請求は成り立たない旨の審決がされたため,これに対し,同年11月25
9日,審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第1025
7号事件)を提起したが,平成29年10月19日,原告の請求を棄却す
る判決がされ,同判決は同年11月7日確定し,上記審決も同日確定した
(甲1,3,32)。
ウ原告は,平成30年4月9日,前記イの特許請求の範囲を本件特許の特10
許請求の範囲のとおり訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求め
る旨の訂正審判請求(訂正2018-390070号事件)をし,同年7
月25日,本件訂正を認める旨の審決がされ,同審決は,同年8月2日確
定した(審決確定後の請求項の数1。甲1,3)。
(3)特許請求の範囲15
本件特許の特許請求の範囲の請求項1(本件訂正後のもの)は,別紙1
「特許請求の範囲」記載のとおりである。
(4)本件発明の構成要件の分説
本件発明は,次のとおり,構成要件に分説することができる(以下,分説
に係る各構成要件については頭書の符号に対応させて「構成要件A」などと20
いう。)。
Aユーザーがマニュアル操作によってデータを入力し,該入力データを後
記中央演算回路へ送信する入力手段と;
B無線信号を受信してデジタル信号に変換の上,後記中央演算回路に送信
するとともに,後記中央演算回路から受信したデジタル信号を無線信号に25
変換して送信する無線通信手段と;
C後記中央演算回路を動作させるプログラムと後記中央演算回路で処理可
能なデータファイルとを格納する記憶手段と;
D前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログラ
ムとに基づき,前記無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な処理
を行い,リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか,又は,自らが処5
理可能なデータファイルとして前記記憶手段に一旦格納し,その後読み出
した上で処理する中央演算回路と,該中央演算回路の処理結果に基づき,
単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い,
「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成
し,該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は後記インターフ10
ェース手段に送信するグラフィックコントローラと,から構成されるデー
タ処理手段と;
E画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するディ
スプレイパネルと,前記グラフィックコントローラから受信したデジタル
表示信号に基づき前記ディスプレイパネルの各々の画素を駆動するディス15
プレイ制御手段とから構成されるディスプレイ手段と;
F外部ディスプレイ手段を備えるか,又は,外部ディスプレイ手段を接続
するかする周辺装置を接続し,該周辺装置に対して,前記グラフィックコ
ントローラから受信したデジタル表示信号に基づき,外部表示信号を送信
するインターフェース手段と;20
Gを備える携帯情報通信装置において,
H前記グラフィックコントローラは,前記携帯情報通信装置が「本来解像
度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して
画像を表示する場合に,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネ
ルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み25
出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を
生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能
と,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より
大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出
したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジ
タル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,を実現し,5
I前記インターフェース手段は,前記グラフィックコントローラから受信
した「ビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を,デジタルR
GB,TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれか
の伝送方式で伝送されるデジタル外部表示信号に変換して,該デジタル外
部表示信号を前記周辺装置に送信する機能を有する,10
Jことにより,
前記外部ディスプレイ手段に,「前記ディスプレイパネルの画面解像度より
大きい解像度を有する画像」を表示できるようにした,
Kことを特徴とする携帯情報通信装置。
(5)被告各製品の構成15
ア被告各製品は,別紙3「被告各製品の構成要素」のとおりの構成要素を
有している(弁論の全趣旨)。
イ被告各製品は,別紙4「被告各製品の本件発明に対応する構成(原告の
主張)」記載の構成(以下,符号に対応させて「構成a」などという。)の
うち,構成a,b,c,e,f,g(「以上を備える」の部分を除く。),i,20
j(「以上により」の部分を除く。),kを備えており,構成要件A,B,C,
E,F,G(「を備える」の部分を除く。),I,J(「ことにより」の部分
を除く。),Kを充足する(弁論の全趣旨)。
(6)被告による被告各製品の製造販売
被告は,遅くとも平成22年12月以降,被告各製品を製造,販売してお25
り,被告各製品それぞれの発売日,販売台数,売上高は,別紙5「被告各製
品の販売状況」のとおりである(乙6,弁論の全趣旨)。
被告による,被告各製品の製造,販売は,遅くとも平成23年9月30日
には終了していた。
(7)原告による別件訴訟
原告は,平成24年1月9日頃,被告を共同被告の一部として,発明の名5
称を「携帯情報通信装置,携帯情報通信装置を使用したパーソナルコンピュ
ータシステム及び携帯情報通信装置用外部入出力ユニット」とする特許第3
872502号の特許(以下「別件特許」という。)に係る特許権(以下「別
件特許権」という。)に基づいて,被告各製品が別件特許の特許請求の範囲の
請求項3記載の発明(以下「別件発明」という。その構成要件は別紙7「別10
件発明の構成要件」記載のとおり。)の技術的範囲に属するものであり,被告
による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等として,特許
権侵害の不法行為による損害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成24年
(ワ)第237号特許権侵害損害賠償請求事件。以下,「別件訴訟」という。)
を提起した(甲4,9)。15
別件訴訟においては,平成25年8月2日,被告各製品はいずれも別件発
明の技術的範囲に属さず,また,別件発明及びその訂正後の発明はいずれも
進歩性を欠くために特許無効審判によって無効にされるべきものであるとし
て,原告の請求をいずれも棄却するとの判決(以下「別件判決」という。)が
され,同判決は確定した(乙1,5,弁論の全趣旨)。20
(8)不法行為に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の援用
原告は,平成30年11月25日に本件訴訟を提起したところ,被告は,
平成31年4月19日の第1回弁論準備手続期日において,原告の主位的請
求に係る本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき,消滅時
効を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。25
なお,被告は,原告の予備的請求に係る不当利得返還請求権については消
滅時効の主張をしていない。
3争点
(1)被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びHの充足
性)(争点1)
(2)無効の抗弁(特許法104条の3第1項)の成否(争点2)5
ア特開2004-214766号公報(甲11。以下「甲11公報」とい
う。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-1)
イ特開2000-66649号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)を
主引用例とする進歩性欠如(争点2-2)
ウサポート要件違反(争点2-3)10
エ本件訂正についての訂正要件違反(争点2-4)
(3)特許権侵害の不法行為による損害の発生の有無及びその額(争点3)
(4)本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき利得の
額(争点4)
(5)不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の抗弁の成否(争点5)15
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びH
の充足性))について
(原告の主張)
(1)構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」につい20

ア「処理」の意義
(ア)一般的に,コンピュータによる電算処理において,「処理」とは「信
号処理」又は「データ処理」を指し,「信号処理」は「信号を別の信号へ
と変換すること」,「データ処理」は「データを別の形式のデータに変換25
すること」を意味する。
このような「信号処理」及び「データ処理」の一般的な語義から,構
成要件D中の中央演算回路が行う「必要な処理」又は「処理」の意義は
「信号を別の信号へと変換する信号処理,又は,データの別の形式のデ
ータへと変換するデータ処理」(以下,この処理を「広義の処理」という
ことがある。)であると解される。5
(イ)前記(ア)の理解は構成要件Dの記載と整合的である。
すなわち,構成要件Dにおいて,中央演算回路は,「前記無線通信手段
から受信したデジタル信号に必要な処理を行」って「デジタル表示信号
を生成する」と特定されているが,ここで行われる「必要な処理」とは,
「前記無線通信手段から受信したデジタル信号」を別の信号である「デ10
ジタル表示信号」に変換することに他ならない。
また,構成要件Dにおいて,中央演算回路は,「前記記憶手段」から
「読み出した」「データファイル」に含まれるデータを「処理する」とも
されており,グラフィックコントローラは,「該中央演算回路の処理結果
に基づき,単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読15
み出しを行い,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表
示信号」を生成し」とされ,ここでいう「該中央演算回路の処理結果」
には,「中央演算回路」が「前記記憶手段」から「読み出した」「データ
ファイル」に含まれるデータを「処理」した結果も含まれることは明ら
かである。そして,中央演算回路からグラフィックコントローラに送信20
されるデジタル信号は「デジタル表示信号」であるから,中央演算回路
は,「前記記憶手段」から「読み出した」「データファイル」に含まれる
データを「処理する」ことによって,「デジタル表示信号」によって「伝
達」されるデータを生成するのであり,これは,「前記記憶手段」から
「読み出した」「データファイル」に含まれるデータを,別の形式のデー25
タである「デジタル表示信号」によって「伝達」されるデータに変換す
ることに他ならない。
(ウ)さらに,本件出願の願書に添付した明細書(甲2。以下,図面を含め
て「本件明細書」といい,明細書の発明の詳細な説明に記載された段落
番号及び図面については,単に【0001】,【図1】などと記載する。)
の中央演算回路が行う処理に係る記載(【0114】ないし【0116】,5
【0118】,【0120】,【0132】,【0145】)においても,「処
理」という語は,信号を別の信号へと変換する信号処理又はデータを別
の形式のデータへと変換するデータ処理という意義で使用されている。
(エ)被告は,中央演算回路が行う「処理」について,「適切な処理」に限
定されると主張するが,本件明細書の記載(【0032】)によれば,「適10
切に処理する」主体は,「ディスプレイ手段」又は「データ処理手段及び
ディスプレイ手段」であるとされ,「適切に処理する」主体には,必ず
「ディスプレイ手段」が含まれており,そのことに対応して,「適切な処
理」の結果としては,「ディスプレイ手段の画面を構成する物理的な画素
の色表示として過不足なく現実化する」ことが特定されている。一方,15
「中央演算回路」は,データ処理手段の一構成要素であってディスプレ
イ手段ではなく,「画面」や「物理的な画素」を有さない。したがって,
本件明細書における「適切に処理する」の定義においては,中央演算回
路が「適切に処理する」ことは想定されていない。
また,被告の上記主張は,「処理する」の解釈に係る別件判決の判示に20
依拠するものであるが,別件発明と本件発明では構成要件が異なるから,
その判示は,本件発明における中央演算回路が行う「処理」には当ては
まらない。
さらに,被告の主張は,本件明細書に記載された「付属ディスプレイ
パネルにおいては,その画面解像度に相当する部分だけを切り出した部25
分画像しか表示できなかったり,画素を間引くことによって画質を落と
した全体画像しか表示できなかったりしたような画像を,高解像度外部
ディスプレイ手段においては,その本来の解像度のままの全体画像とし
て表示できるようになる」(【0078】第2文)との作用効果が本件発
明の作用効果の一つであることを前提とするものであるが,本件明細書
において上記の作用効果を奏しない構成が複数記載されていることに照5
らし,そのような作用効果は,本件発明に係る携帯情報通信装置が必ず
奏すべき作用効果とはいえない。
イ被告各製品が「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」を備
えていること
被告自身も,被告各製品における,中央演算回路に当たるモバイルプロ10
セッサ(MSM8255又はMSM8655)の機能について,「タッチパ
ネルから受信したデータと内部メモリに格納されたプログラムに基づき,
無線通信手段から受信したデジタル信号(画像データ)を処理(広義の処
理を指す)して,内蔵ディスプレイ表示用ビットマップデータ(内蔵用デ
ータ)と,画像解像度がHD(1280×720画素)である外部表示用15
ビットマップデータ(外部用データ)を生成する。」旨の説明をしており,
広義の処理を行うことは認めている。
したがって,被告各製品は,構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」
を行う「中央演算回路」を備えている。
(2)構成要件D及びHの「単一のVRAM」について20
ア構成要件D及びHの「単一のVRAM」の意義
(ア)「単一のVRAM」の意義の解釈に際しては,本件明細書中の「VR
AM」に付された「符号」や,図面中の「符号」に対応した図形に着目
すべきである。
本件明細書の記載(【0115】,【0117】及び【0127】)にお25
いて,「VRAM」には,「VRAM(VideoRAM)1_10C」又は「V
RAM1_10C」などと,「10C」という符号が一貫して付されている。ま
た,本件発明の携帯情報通信装置の構成を説明するブロック図である【図
1】には,「10C」という符号が付された「VRAM1」という図形が,
一つだけ記されている。
これらの記載から,「単一のVRAM」とは,「VRAMが,物理的に5
分離した複数の部品から構成されていない」ことと解される。
なお,【図1】にいう「構成」については,「部品構成」を意味すると
解するのが通常であるが,これは,「本発明の第1の実施形態に係る携帯
情報通信装置の部品構成」(【0170】)を説明するものであり,「本件
発明の構成」は,【図1】で示されている構成に限定される訳ではない。10
そもそも本件発明の構成要件では,VRAMと液晶コントローラICが
別部品であるか否かについては全く特定していないから,【図1】におい
てVRAMと液晶コントローラICが別部品であったとしても,本件発
明においてVRAMと液晶コントローラICが別部品である必要はない。
(イ)被告は,「IT用語辞典バイナリ」と題するウェブページ(乙2)の15
記載に基づき,「VRAM」を「メモリ領域」と解釈するが,そのような
解釈は一般的なものではない。
また,被告は,本件明細書の記載(【0115】,【0117】,【012
7】)から,本件発明の「携帯情報通信装置」の動作を抽出,要約した上
で,「単一のVRAM」について,一つの仮想画面のビットマップデータ20
を書き込むメモリ領域が単一であるとの解釈を示しているが,情報携帯
端末の働きについての被告の理解は正確ではなく,正しくは以下のとお
り要約されるべきである。
①LCDパネル(内蔵ディスプレイ)に画像を表示させる場合,グラ
フィックコントローラが仮想画面におけるビットマップデータ(3825
40×2400画素)を生成し,VRAMに書き込み,LCDパネル
の画面解像度と同じ解像度(240×320画素)のビットマップデ
ータをVRAMから切り出しLCDドライバに送信する(【0115】,
【0117】)
②外部ディスプレイ装置に画像を表示させる場合,グラフィックコン
トローラが仮想画面におけるビットマップデータ(3840×2405
0画素)を生成し,VRAMに書き込み,外部ディスプレイの画面解
像度と同じ解像度(640×480画素)のビットマップデータをV
RAMから切り出してTMDSトランスミッタに送信する(【012
7】)。
そして,本件明細書では,上記①の動作において書き込まれる仮想画10
面のビットマップデータと上記②の動作において書き込まれる仮想画面
のビットマップデータとが共通であるとは限定されておらず,また,V
RAM内部のメモリ領域に関して何らの記載もない。
したがって,上記①の動作によって切り出されるLCDパネル(内蔵
ディスプレイ)用ビットマップデータと上記②の動作によって切り出さ15
れる外部ディスプレイ用ビットマップデータが,同一のメモリ領域から
読み出されるということはできず,被告の上記主張は理由がない。
イ被告各製品が「単一のVRAM」を備えていること
被告各製品の液晶コントローラICに内蔵されるVRAMが物理的に分
離した複数の部品から構成されないことを被告は認めているから,被告各20
製品は構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備えている。
(3)小括
以上のとおり,被告各製品は,構成要件Dの「処理」する「中央演算回路」
を備えており,構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備えているから,
別紙4「被告各製品の本件発明に対応する構成(原告の主張)」記載d及びh25
の構成を有しており,構成要件D及びHを充足する。
(被告の主張)
(1)構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」につい

ア「処理する」の意義
(ア)別件訴訟における判断5
別件判決(乙1)は,別件発明の構成要件Iの「処理する」の意義に
ついて,別件発明に係る明細書記載の「適切に処理する」(【0032】)
であると解し,さらに,「適切に処理する」の意義を同明細書の【003
2】の記載から解釈して,「構成要件Iの「処理する」とは,データ処理
手段が画像データファイルについて,物理的な現実化にあたって画素数10
を間引いて表示画像の解像度を小さくしたり,画素を補間して表示画像
の解像度を大きくしたりといったことをしない処理をすることをいうも
の」と判示した。
そして,本件発明の構成要件Dの「前記無線通信手段から受信したデ
ジタル信号に必要な処理を行い,リアルタイムでデジタル表示信号を生15
成するか,又は,自らが処理可能なデータファイルとして前記記憶手段
に一旦格納し,その後読み出した上で処理する」との構成は,別件発明
の構成要件Iの「前記画像データファイルをリアルタイムで処理するこ
とによって,及び/又は,前記画像データファイルを前記記憶手段に一
旦格納し,その後読み出した上で処理することによって…デジタル表示20
信号を生成する」との構成と,実質的に同一である。また,別件発明に
係る明細書の【0032】は,本件明細書の【0032】と同一である。
したがって,本件発明の構成要件Dの「処理する」の意義は,別件訴
訟における別件発明の構成要件Iにおける「処理する」の意義と同一と
解されるべきである。25
すなわち,本件発明の構成要件Dの「処理する」とは,「適切に処理す
る」(【0032】)ことであり,その意義は,より具体的には,「データ
処理手段が画像データファイルについて,物理的な現実化にあたって画
素数を間引いて表示画像の解像度を小さくしたり,画素を補間して表示
画像の解像度を大きくしたりといったことをしない処理をすることをい
うもの」と解される。5
(イ)本件発明の作用効果との関係
本件発明の作用効果の一つは,「付属ディスプレイパネルにおいては,
その画面解像度に相当する部分だけを切り出した部分画像しか表示でき
なかったり,画素を間引くことによって画質を落とした全体画像しか表
示できなかったりしたような画像を,高解像度外部ディスプレイ手段に10
おいては,その本来の解像度のままの全体画像として表示できるように
なる」(【0078】第2文)というものである。
そして,この作用効果を奏するためには,「適切な処理」(【0032】)
が行われる必要があるから,構成要件Dにおける中央演算回路の「処理」
については,前記(ア)のとおり,「適切な処理」と解すべきである。15
イ被告各製品が「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」を備
えていないこと
被告各製品で使用されているモバイルプロセッサ(MSM8255又は
MSM8655)は,タッチパネルから受信したデータと内部メモリに格
納されたプログラムに基づき,無線通信手段から受信したデジタル信号20
(画像データ)を処理して,別紙3「被告各製品の構成要素」の一覧表に
おける「内蔵ディスプレイの解像度」に記載の解像度の内蔵ディスプレイ
表示用ビットマップデータ(内蔵用データ)と,画像解像度がHD(12
80×720画素)である外部表示用ビットマップデータ(外部用データ)
を生成する。そして,当該モバイルプロセッサから液晶コントローラIC25
を経由してインターフェース手段であるHDMI送信ICに送信される表
示信号の画素数は常に一律にHD(1280×720画素又は720p)
となるように設計されている。
したがって,上記モバイルプロセッサは,ウェブサーバからダウンロー
ドした画像データファイルの画素数(本来画像度)がHD未満の場合(低
解像度の場合)には,画素を補間してHDの表示信号を生成し,同画像デ5
ータファイルの画素数がHDを超える場合(高解像度の場合)には,画素
を間引いて表示画像の解像度を小さくしてHDの表示信号を生成している。
このように,被告各製品のモバイルプロセッサは,画素の補間処理及び
画素の間引き処理をしていることから,「適切な処理」をするものではない
ので,被告各製品は,本件発明の構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」10
を行う「中央演算回路」を備えていない。
(2)構成要件D及びHの「単一のVRAM」について
ア「単一のVRAM」の意義
(ア)「VRAM」とは,ディスプレイに画像を表示するために必要なデー
タを保持するメモリ領域を意味することから(乙2),構成要件D及びH15
の「単一のVRAM」とは,一つの仮想画面のビットマップデータを書
き込むメモリ領域が単一であると解釈できる。
(イ)a「単一のVRAM」という語句は,本件訂正により特許請求の範囲
の記載に追加されたものであるが,本件訂正に係る審決(甲3)では,
新規事項の追加の有無の判断において,本件明細書の記載(【01120
2】,【0115】,【0117】,【0122】,【0127】)が引用され
ているところ,それらの記載を要約すれば,次のようになる。
①まず,グラフィックコントローラが仮想画面におけるビットマッ
プデータ(3840×2400画素)を生成し,VRAMに書き込
みを行う(【0115】)。25
②次に,LCDパネルの画面解像度と同じ解像度(240×320
画素)のビットマップデータをVRAMから切り出しLCDドライ
バに送信する(【0117】)。
③また,外部ディスプレイの画面解像度と同じ解像度(640×4
80画素)のビットマップデータをVRAMから切り出してTMD
Sトランスミッタに送信する(【0127】)。5
このように,本件発明では,VRAM,すなわち「ディスプレイに
画像を表示するために必要なデータを保持するメモリ領域」にデータ
サイズの大きい仮想画面のビットマップデータを書き込み(例として
3840×2400画素),このメモリ領域に書き込まれた該仮想画面
のビットマップデータから内蔵ディスプレイ用ビットマップデータ10
(例として240×320画素)や外部ディスプレイ用ビットマップ
データ(例として640×480画素)を切り出している。
この動作では,一つの仮想画面(3840×2400画素)のビッ
トマップデータが書き込まれるメモリ領域と,内蔵ディスプレイ用ビ
ットマップデータ(240×320画素)及び外部ディスプレイ用ビ15
ットマップデータ(640×480画素)が切り出されるメモリ領域
が同一であるので,「単一のVRAMに対してビットマップデータの書
き込み/読み出しを行」っていることになる。
このような本件明細書の記載は,一つの仮想画面のビットマップデ
ータを書き込むメモリ領域が単一であることを示すものである。20
b原告は,上記動作の理解について,内蔵ディスプレイに画像を表示
させる場合(【0117】)と,外部ディスプレイに画像を表示させる
場合(【0127】)とで,書き込まれる仮想画面のビットマップデー
タが共通であるとは限定されていないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,これを異なるものとしなければな25
らない理由が記載されていないことから,それぞれの動作によって書
き込まれる仮想画面のビットマップデータは同一と考えるのが当業者
の通常の理解である。
したがって,本件明細書の【0117】と【0127】に記載され
た各切り出し動作の元となる仮想画面のビットマップデータが共通の
ものに限定されていないとする原告の上記主張は誤りである。5
(ウ)原告は,本件明細書の記載(【0115】,【0117】,【0127】,
【図1】)を根拠として,「単一のVRAM」とは,「VRAMが,物理的
に分離した複数の部品から構成されていない」ことを意味すると主張す
るが,本件明細書において,そのような記載はない。
また,原告は,上記主張の根拠として,本件発明の携帯情報通信装置10
の構成を説明するブロック図である【図1】において「10C」という符号
が付された「VRAM1」という図形が一つだけ記されていることを挙
げる。しかしながら,【図1】は,部品単位で符号が付された図面ではな
く,機能単位で符号が付された図面であると解すべきである。したがっ
て,【図1】に10Cの符号が付された「VRAM1」が一つしか描かれ15
ていないからといって,符号10Cに相当する物理的に分離した部品が
一つであるということにはならない。この点,仮に,【図1】の符号が物
理的に分離された部品単位に付されているとすれば,符号10Bの付さ
れた「グラフィックコントローラ1」と符号10Cの付された「VRA
M1」とは物理的に分離した別の部品ということになる。そのように解20
釈した場合,被告各製品は,液晶コントローラIC内にVRAMが内蔵
されており,VRAMと液晶コントローラICとが物理的に分離された
部品ではないから,後記イ(イ)のとおり,「単一のVRAM」の要件を満
たさないことになり,原告の主張と矛盾する。
したがって,原告の上記主張は理由がない。25
イ被告各製品が「単一のVRAM」を備えていないこと
(ア)前記アのとおり,本件発明の構成要件D及びHにおける「単一のVR
AM」とは,一つの仮想画面のビットマップデータを書き込むメモリ領
域が単一であるという意義である。
これに対し,被告各製品は,内蔵ディスプレイに画像を表示するため
に必要なデータを保持するメモリ領域として,内蔵ディスプレイの解像5
度(960×540など)のビットマップデータを書き込む第1のグラ
フィックメモリ領域と,外部ディスプレイに画像を表示するために必要
なデータを保持するメモリ領域として,HDの解像度(1280×72
0)のビットマップデータを書き込む第2のグラフィックメモリ領域が
別個に設けられている。10
したがって,被告各製品は,構成要件D及びHの「単一のVRAM」
を備えていない。
(イ)原告は,前記ア(ウ)のとおり,「単一のVRAM」の意義が,物理的に
単一の電子部品であるVRAMと解釈できると主張するが,同主張を前
提とすると,「VRAM1」には「10C」という符号が付され,「グラフィ15
ックコントローラ1」には「10B」という別の符号が付されていることか
ら,「VRAM」と「グラフィックコントローラ」とは物理的に別の電子
部品と解釈される。
これに対し,被告各製品では,VRAMは液晶コントローラICに内
蔵されており,「VRAM」と「グラフィックコントローラ」が物理的に20
別の電子部品となっているわけではない。
したがって,原告の上記主張を前提とする場合,被告各製品は「単一
のVRAM」を備えていない。
(3)小括
以上のとおり,被告各製品は,構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」25
を行う「中央演算回路」並びに構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備
えていないから,構成要件D及びHを充足するとは認められない。
2争点2-1(甲11公報を主引用例とする進歩性欠如)について
(被告の主張)
(1)本件発明と甲11公報に記載された発明との対比
本件発明と優先日前に頒布された刊行物である甲11公報に記載された発5
明(以下「甲11発明」という。)を本件発明の構成要件ごとに対比すると,
次のようになる。
ア構成要件Aとの対比
甲11発明は,ダイヤルキーやブラウザ操作キー等を備えた入力デバイ
スである操作部14を備え,CPU等からなる制御部10を備えている10
(甲11公報【0016】)。また,操作部14と制御部10が結ばれてい
るから,操作部14で入力されたデータが,制御部10に送信されている
(甲11公報【図1】)。
したがって,甲11発明の操作部14は本件発明の入力手段に相当し,
甲11発明の制御部10は甲11発明の中央演算回路に相当するから,構15
成要件Aについて,本件発明と甲11発明は一致する。
イ構成要件Bとの対比
甲11発明は,アンテナ11aを介して電波を送受信する送受信部11
を備えている(甲11公報【0016】)。また,送受信部11と制御部1
0は結ばれているから,送受信部11で受信した信号が制御部10に送信20
され,制御部10からの信号が送受信部11に送信されている。さらに,
アンテナ11aで受信する信号は無線信号で,CPU等からなる制御部に
送受信される信号はデジタル信号であることは技術常識であるから,送受
信部11は,受信した無線信号をデジタル信号に変換して制御部10に送
信し,制御部10から受信したデジタル信号を無線信号に変換してアンテ25
ナ11aから送信している。
したがって,甲11発明の送受信部11は本件発明の無線通信手段に相
当するから,構成要件Bについて,本件発明と甲11発明は一致する。
ウ構成要件Cとの対比
甲11発明は,ROMやRAMから成る情報格納手段である記憶部16
を備えている(甲11公報【0016】)。制御部を動作させるプログラム5
をROM(readonlymemory)に格納することは技術常識
に照らして自明であるから,記憶部16は制御部10を動作させるプログ
ラムを格納していることが自明である。
また,制御部10は,記憶部16から所望の情報を読み出して画像出力
部17に送出し,該情報を外部出力するように要求するのであるから(甲10
11公報【0018】),制御部10で処理可能なデータファイルを記憶部
16が格納することが明らかである。
したがって,甲11発明の記憶部16は,本件発明の記憶手段に相当す
るから,構成要件Cについて,本件発明と甲11発明は一致する。
エ構成要件Dとの対比15
甲11発明では,表示部12(内部表示装置)及び外部表示装置2にデ
ジタル表示信号を送信する主体につき,単に「制御部10」としか記載さ
れていないのに対し,本件発明では,中央演算回路の処理結果に基づき,
グラフィックコントローラが,単一のVRAMに対してビットマップデー
タの書き込み/読み出しを行い,読み出したビットマップデータを伝達す20
るデジタル表示信号を生成し,当該デジタル表示信号をディスプレイ制御
手段(内部表示装置用の制御手段)とインターフェース手段(外部表示装
置用のデータ送信手段)に送信すると具体的に記載されている点で,両者
は相違する。(相違点1)
オ構成要件Eとの対比25
甲11発明は,液晶ディスプレイ等から成る情報表示手段である表示部
12を備えている(甲11公報【0016】)。液晶ディスプレイが,画面
を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示する液晶パネル
と,前記液晶パネルの画面を構成している各々の画素を駆動する制御手段
とから構成されていることは技術常識であるから,本件発明と甲11発明
とは,「画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示する5
ディスプレイパネルと,…受信したデジタル表示信号に基づき前記ディス
プレイパネルの各々の画素を駆動するディスプレイ制御手段とから構成さ
れるディスプレイ手段」の点で一致する。
他方で,本件発明では,デジタル表示信号の受信につき,「グラフィック
コントローラから」と特定されているのに対し,甲11発明では単に「制10
御部10」と記載されている点で,両者は相違する。(相違点2)
カ構成要件Fとの対比
甲11発明は,入力された情報を外部表示装置2で読取可能な画像信号
形式に変換して出力するインターフェース部である画像出力部17を備え
る(甲11公報【0016】)。15
甲11発明の画像出力部17は,本件発明のインターフェース手段に相
当するから,構成要件Fについて,本件発明と甲11発明は一致する。
キ構成要件Gとの対比
甲11発明は携帯電話機であり,携帯情報通信装置の一種であるから,
構成要件Gについて,本件発明と甲11発明は一致する。20
ク構成要件Hとの対比
甲11発明は,「制御部10は,送受信部11を介して指定サーバから所
望のWebコンテンツ情報を取得して画像出力部17に送出し,該情報を
外部出力するように要求する。該要求を受けた画像出力部17は,制御部
10からの入力情報に所定の信号処理を施して外部表示装置2に出力する。25
このような動作により,外部表示装置2には,閲覧中のWebコンテンツ
情報が表示されることになる。…また,携帯電話機での閲覧が意図されて
いないWebコンテンツについても,表示部12のサイズや解像度に依存
することなく正常に表示することが可能となる」(甲11公報【0020】)
という構成及び機能を備えている。したがって,甲11発明は,制御部1
0が,ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像の5
デジタル表示信号を生成し,インターフェース手段に送信する機能を実現
する点で,本件発明と一致する。
他方で,本件発明は,グラフィックコントローラが,単一のVRAMか
ら,ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビット
マップデータを読み出して,デジタル表示信号を生成してディスプレイ制10
御手段に送信する機能と,ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解
像度を有する画像のビットマップデータを読み出して,デジタル表示信号
を生成してインターフェース手段に送信する機能とを有するのに対し,甲
11発明では,制御部10と表示部12が接続されていること(甲11公
報【図1】)及び制御部10が所望のWebコンテンツ情報を取得して画像15
出力部17に送出すること(甲11公報【0020】)が記載されているに
留まる点で,両者は相違する。(相違点3)
ケ構成要件Iとの対比
甲11発明では,「画像出力部17は,制御部10からの入力情報に所定
の信号処理を施して外部表示装置2に出力する」(甲11公報【0020】)20
から,甲11発明の画像出力部17は本件発明のインターフェース手段に
相当する。
他方で,本件発明では,デジタル外部表示信号の伝送方式が「デジタル
RGB,TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれ
か」に限定されているのに対し,甲11発明では限定されていない点で,25
両者は相違する。(相違点4)
コ構成要件Jとの対比
甲11発明は,「携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテン
ツについても,表示部12のサイズや解像度に依存することなく正常に表
示することが可能となる」(甲11公報【0020】)のであるから,構成
要件Jについて,本件発明と甲11発明は一致する。5
サ構成要件Kとの対比
本件発明と甲11発明はいずれも携帯情報通信装置であるから,構成要
件Kについて,本件発明と甲11発明は一致する。
シ小括
以上のとおり,本件発明と甲11発明の構成は,次の点で相違し,その10
余は一致する。
(相違点1)
本件発明では,中央演算回路の処理結果に基づき,グラフィックコント
ローラが,単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み
出しを行い,読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号15
を生成し,当該デジタル表示信号をディスプレイ制御手段(内部表示装置
用の制御手段)とインターフェース手段(外部表示装置用のデータ送信手
段)に送信すると具体的に記載されているのに対し,甲11発明では,表
示部12(内部表示装置)及び外部表示装置2にデジタル表示信号を送信
する主体につき,単に「制御部10」としか記載されていない点。20
(相違点2)
本件発明では,デジタル表示信号の受信につき,「グラフィックコントロ
ーラから」と特定されているのに対し,甲11発明では単に「制御部10」
と記載されている点。
(相違点3)25
本件発明は,グラフィックコントローラが,単一のVRAMから,ディ
スプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデ
ータを読み出して,デジタル表示信号を生成してディスプレイ制御手段に
送信する機能と,ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有
する画像のビットマップデータを読み出して,デジタル表示信号を生成し
てインターフェース手段に送信する機能とを有するのに対し,甲11発明5
では,制御部10と表示部12が接続されていること(甲11公報【図1】)
及び制御部10が所望のWebコンテンツ情報を取得して画像出力部17
に送出すること(甲11公報【0020】)が記載されているに留まる点。
(相違点4)
本件発明では,デジタル外部表示信号の伝送方式が「デジタルRGB,10
TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれか」に限
定されているのに対し,甲11発明では限定されていない点。
(2)相違点に係る構成の容易想到性
ア相違点1について
(ア)乙4公報には,「表示メモリ(VRAM)」に,「内部・外部共有表示15
エリア」と「外部表示エリア」を設けることが記載されている(乙4公
報【図7】(a))。そして,本件発明の「単一のVRAM」は,「ディス
プレイに画像を表示するための必要なデータを保持するメモリ領域」が
「単一」であるという意義である。この点,上記の【図7】(a)では,
表示メモリ(VRAM)内に「内部・外部共有表示エリア」があり,そ20
こにおいて「共有」という語が使われていることから,内部ディスプレ
イに画像を表示するための必要なデータを保持するメモリ領域と外部デ
ィスプレイに画像を表示するための必要なデータを保持するメモリ領域
が「共有」されて一つになっている。さらに,この「内部・外部共有表
示エリア」に連続して「外部表示エリア」が設けられていることから,25
両者が一体となって一つのメモリ領域を形成している。そうすると,乙
4公報においては,本件発明の「単一のVRAM」に相当する「内部・
外部共有表示エリア」と「外部表示エリア」が連続して形成されている
一つのメモリ領域(乙4公報【図7】(a))に表示イメージを書き込み
/読み出しをすることが記載されているといえる。また,ビットマップ
データが表示イメージの代表的なデータ形式であることは技術常識であ5
る。
したがって,乙4公報には,次の技術的事項が記載されている。
「表示コントローラ20が,単一のVRAMに対し,ビットマップデ
ータなどの表示イメージを書き込み/読み出しを行い,その表示イメー
ジに応じて内部表示装置22及び外部表示装置24に描画イメージを表10
示させる」
(イ)甲11発明の構成要件Dにおいては,「制御部10」が内部表示装置
及び外部表示装置に表示させることしか記載されておらず,その具体的
な制御機構が限定されていないが,当業者であれば,甲11発明の実施
を試みる際,甲11発明の「制御部10」に乙4公報に記載された内部15
表示装置及び外部表示装置に表示させる機構に係る前記(ア)の技術的事項
を適用し,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到でき
たといえる。
イ相違点2について
相違点2は,本件発明の構成要件Eにおいては「グラフィックコントロ20
ーラ」と具体的に記載されているのに対し,甲11発明においては「制御
部10」としか記載されていない点であり,相違点1と同様,「制御部10」
に係るものである。
したがって,前記アのとおり,当業者であれば,甲11発明の実施を試
みる際,甲11発明の「制御部10」に乙4公報に記載された「表示コン25
トローラ20」(本件発明の「グラフィックコントローラ」に相当する。)
に係る前記ア(ア)の技術事項を適用し,相違点2に係る本件発明の構成とす
ることを容易に想到できたといえる。
ウ相違点3について
本件発明の構成要件Hに係る相違点3は,実質的に相違点2と同様であ
る。5
したがって,前記イと同様に,相違点3は,甲11発明の「制御部10」
に乙4公報に記載された「表示コントローラ20」に係る技術的事項を適
用することによって,当業者が容易に想到できたことである。
エ相違点4について
本件発明の構成要件Iでは,「デジタル外部表示信号」の「伝送方式」が10
「デジタルRGB,TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのう
ちのいずれか」に限定されているが,これらは,優先日当時の周知技術で
ある伝送方式が列挙されているにすぎない。
したがって,当業者であれば,甲11発明の実施を試みる際,甲11発
明の「外部表示装置2に出力する」方式に上記の周知技術を適用し,相違15
点4に係る本件発明の構成とすることを容易に想到できたといえる。
(3)原告主張の相違点について
ア相違点甲の認定について
原告は,訂正2012-390058号事件の審決(甲31)における
認定に基づき,本件発明と甲11発明との間に相違点甲があると主張する20
が,それは構成要件Hについての相違点3をより正確に認定するとの趣旨
の主張であり,相違点3と異なる新たな相違点を主張するものではないと
いうべきである。
イ相違点甲に係る構成の容易想到性について
(ア)原告は,乙4公報に記載された「携帯情報処理装置」は,構成要件H25
の「画像データを処理して画像を表示する」構成を有していないと主張
する。
しかしながら,乙4公報には,「出力装置として内蔵した表示デバイス
以外に外部表示機器を接続可能な携帯情報処理装置,及び外部表示出力
の制御方法」(乙4公報【0001】)が記載されており,また,「内蔵し
た表示デバイスにおいて表示する描画イメージと同じ描画イメージを外5
部表示機器において表示させる」(乙4公報【0003】)ことが記載さ
れている。さらに,乙4公報の【図7】では,VRAMの「内部」「表示
エリア」の画像データを「内部表示装置」に表示させ,「外部表示エリア」
の画像データを「外部表示装置」に表示させることが示唆されている。
これらのことから,当業者が乙4公報に記載された技術的事項を甲110
1発明に係る携帯情報通信装置に適用する際に,乙4公報に記載された
「描画イメージ」に代えて,携帯情報通信装置で受信した画像イメージ
を表示させることは,当業者が通常行う設計事項の変更にすぎないと解
される。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ)原告は,相違点甲(実質的に相違点3と同じ。)の容易想到性に関し,15
前記アの審決における甲11発明(同審決の引用発明1)の認定に基づ
き,当業者が甲11発明に対して他の技術を適用するならば,当該技術
は,当然,Webコンテンツに類する画像データを入力する機能を有す
る携帯情報処理装置に係る技術であって,乙4公報に記載された携帯情
報処理装置(携帯機器2)は,Webコンテンツを閲覧する機能及び外20
部から画像データを入力するための他の手段を有していないから,甲1
1発明に乙4公報に記載された技術的事項を適用することには阻害要因
が存在すると主張する。
しかしながら,当業者,すなわち,「その発明(携帯情報通信装置の発
明)の属する技術の分野における通常の知識を有する者」(特許法29条25
2項)であれば,携帯情報通信装置の隣接技術分野である携帯情報処理
装置についても十分な知識を有するため,甲11発明に適用する技術的
事項は,Webコンテンツに類する画像データを入力する機能を有する
携帯情報処理装置に係る技術に限定されない。それゆえ,特段の阻害事
由がない限り,甲11発明の要素技術の一部を他の携帯情報処理装置に
係る発明の要素技術の一部に置き換えてみることは,当業者が通常に行5
う設計事項の変更にすぎないと解すべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4)小括
以上のとおり本件発明は,甲11発明並びに乙4公報に記載された技術的
事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたもので10
あるから,進歩性を欠き,無効とされるべきものである(特許法123条1
項2号,29条2項)。
(原告の主張)
(1)本件発明と甲11発明の対比について
被告は,本件発明の進歩性欠如の主張を行うに当たり,引用発明である甲15
11発明の認定を行わないまま,構成要件ごとの対比を行っている結果,本
件発明と甲11発明との間の相違点の認定も不正確なものとなっている。
この点,訂正2012-390058号事件の審決(甲31)においては,
甲11発明(同審決の引用発明1)の内容が次のように認定されている。
「ダイヤルキーやブラウザ操作キー等を備えた入力デバイスである操作部20
14と,
CCDカメラやCMOSカメラから成る画像撮影手段である撮像部15
と,
送信回路と受信回路を有して成り,アンテナを介して電波を送受信する
ことで,基地局との双方向通信を行う送受信部11と,25
ROMやRAMから成る情報格納手段である記憶部16と,
CPU等から成り,装置全体の動作を制御する制御部10と,
液晶ディスプレイ等から成る情報表示手段である表示部12と,
入力された情報(静止画や動画,文字など)を外部表示装置2で読取可
能な画像信号形式(例えば,ビデオ信号形式)に変換して出力するインタ
ーフェイス部である画像出力部17と,5
を備えるとともに,
制御部10は,送受信部11を介して指定サーバから所望のWebコン
テンツ情報を取得して画像出力部17に送出し,該情報を外部出力するよ
うに要求し,
該要求を受けた画像出力部17は,制御部10からの入力情報に所定の10
信号処理を施して外部表示信号2に出力することによって,携帯電話機で
の閲覧が意図されていないWebコンテンツについても,表示部12のサ
イズや解像度に依存することなく正常に表示することが可能となる携帯電
話機1」
そこで,上記の認定に基づき,本件発明と甲11発明とを対比すると,両15
者の間には,少なくとも,構成要件Hについて,次の相違点(相違点甲)が
存在する。
(相違点甲)
本件発明の「携帯情報通信装置」の「グラフィックコントローラ」は,「前
記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より20
大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合に,前記単一のVRAM
から「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビ
ットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達す
るデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制
御手段に送信する機能と,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネ25
ルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読
み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を
生成し,該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,
を実現する」のに対して,
甲11発明の「携帯電話機」(「携帯情報通信装置」に相当する。)は,「携
帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツ」を処理し,「制御部」5
(「グラフィックコントローラ」を構成要素とする「データ処理手段」に相当
する。)は「画像出力部」(「インターフェース手段」に相当する。)に情報を
出力するものの,甲11発明の「制御部」は,「前記携帯情報通信装置が「本
来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理
して画像を表示する場合」に相当する「携帯電話機での閲覧が意図されてい10
ないWebコンテンツ」を処理する場合に,「VRAMから「ビットマップデ
ータ」を読み出す」とも,「「該読み出したビットマップデータを伝達するデ
ジタル表示信号」を生成する」ともされていない点。
(2)相違点甲に係る構成の容易想到性について
被告は,本件発明は,甲11発明並びに乙4公報に記載された技術的事項15
及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである
から,進歩性を欠き,無効とされるべきものであると主張するが,以下のと
おり,当業者は,甲11発明に乙4公報に記載された技術的事項を適用して,
相違点甲に係る構成を容易に想到することはできない。
ア相違点甲は,「前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネ20
ルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合」
におけるグラフィックコントローラの機能に係る相違点であるが,乙4公
報に記載された携帯情報処理装置は,構成要件Hに係る「「本来解像度がデ
ィスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を
表示する」構成はおろか,そもそも「画像データを処理して画像を表示す25
る」構成すら有していない。
したがって,当業者は,乙4公報に記載された技術的事項を考慮したと
しても,本件発明と甲11発明との間の相違点甲に係る構成を容易に想到
することはできない。
イ本件発明の課題は,「大画面外部ディスプレイ手段において,付属ディス
プレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示すること」(【0035
1】)にあり,一方,甲11発明が「付属ディスプレイの画面解像度よりも
解像度が大きい画像を表示する」ことに関して有している機能は,「携帯電
話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツについても,表示部1
2のサイズや解像度に依存することなく正常に表示すること」(甲11公報
【0020】)である。そうすると,本件発明の課題を解決するために,当10
業者が甲11発明に対して他の技術を適用するとするならば,当該技術は,
当然,「Webコンテンツに類する画像データを入力する機能」を有する携
帯情報処理装置に係る技術であるべきである。
しかしながら,乙4公報に記載された携帯情報処理装置(携帯機器2)
は,「Webコンテンツを閲覧する機能」はおろか「通信手段」すら有して15
おらず,さらには,外部から「画像データ」を入力するための手段も一切
有していない。
ここで置き換えるべきは,甲11発明の「制御部10」と乙4公報に記
載された「CPU10,表示コントローラ20及び表示メモリ18」であ
るところ,甲11発明の「制御部10」は,「画像データであるWebコン20
テンツを処理する機能」を基本的な機能とするのに対して,乙4公報に記
載された「CPU10,表示コントローラ20及び表示メモリ18」は,
「Webコンテンツに類する画像データ」を処理する機能を有していない。
このような事情に鑑みると,甲11発明の「制御部10」を乙4公報に
記載された「CPU10,表示コントローラ20及び表示メモリ18」に25
置き換えることには動機付けがなく,むしろ阻害要因が存在するというべ
きである。
ウ外部から「画像データ」を入力する手段を一切有していない乙4公報の
携帯情報処理装置(携帯機器2)において表示される「描画イメージ」に
変えて,甲11発明の携帯通信装置で受信した画像データを処理した画像
イメージを表示させるようにすると,「CPU10」から「表示コントロー5
ラ20」(「グラフィックコントローラ」に対応するとされる。)に送信され
る表示データの種類や大きさも当然変わることになるが,それに対応して
「表示コントローラ20」や「表示メモリ18」(「VRAM」に対応する
とされる。)にいかなる変更を加えればよいのか不明であり,少なくとも,
甲11公報や乙4公報には,その変更の方法について示唆するような記載10
は一切ない。したがって,乙4公報に記載された「描画イメージ」に変え
て,甲11発明の携帯通信装置で受信した画像データを処理した画像イメ
ージを表示させる変更は容易ではなく,被告の主張するような当業者が通
常に行う設計事項の変更ではあり得ない。
3争点2-2(乙4公報を主引用例とする進歩性欠如)について15
(被告の主張)
(1)本件発明と乙4公報に記載された発明との対比
本件発明と優先日前に頒布された刊行物である乙4公報に記載された発明
(以下「乙4発明」という。)を本件発明の構成要件ごとに対比すると,次の
ようになる。20
ア構成要件Aとの対比
乙4発明は,「入力装置16」を備えており(乙4公報【0012】,【図
2】),構成要件Aについて,本件発明と乙4発明は一致する。
イ構成要件Bとの対比
乙4発明には構成要件Bの「無線通信手段」が明示されていない点で,25
これを備えている本件発明と相違する。(相違点5)
ウ構成要件Cとの対比
乙4発明は,「ROM14」を備えており(乙4公報【0012】,【図
2】),構成要件Cについて,本件発明と乙4発明は一致する。
エ構成要件Dとの対比
乙4公報には,次の記載がある。5
「アプリケーションプログラム35の実行により提供される機能によっ
て,ユーザからの指示を入力装置16から指定させる」(乙4公報【003
5】)。
「アプリケーション35によって出力方法の指定が入力されると,OS
38の制御のもとで,内部表示用と外部表示用のそれぞれの描画プログラ10
ム(以下,内部表示ドライバ36,外部表示ドライバ37)に従って,表
示コントローラ20に対してユーザからの指定の設定,すなわち内部表示
と外部表示に用いる表示データ(描画イメージ)を示すアドレスを表示コ
ントローラ20内のレジスタ20bに設定する」(乙4公報【0036】)。
「アプリケーションプログラム35は,内部表示装置22と外部表示装15
置24において描画させるイメージ,すなわち内部表示イメージと外部表
示イメージの2種類を,それぞれの表示装置の解像度に合わせて,表示メ
モリ18上にライトする」(乙4公報【0037】)。
「表示コントローラ20は,アプリケーションプログラム35によって
ライトされた内部表示イメージと外部表示イメージに応じて,内部表示装20
置22と外部表示装置24に対して,それぞれに応じた描画イメージを表
示させる」(乙4公報【0038】)。
そして,乙4発明の「ユーザからの指示」は,本件発明の「入力手段か
ら受信したデータ」に相当し,乙4発明の「アプリケーションプログラム
35」,「描画プログラム」(「内部表示ドライバ36,外部表示ドライバ325
7」)及び「OS38」は,本件発明の「記憶手段に格納されたプログラム」
に相当し,乙4発明の「表示コントローラ20」は,本件発明の「グラフ
ィックコントローラ」に相当するといえる。また,乙4発明の「表示メモ
リ18」は,本件発明の「単一のVRAM」に相当する(乙4公報【図7】
(a)参照)。
したがって,構成要件Dについて,本件発明と乙4発明は一致する。5
オ構成要件Eとの対比
乙4発明の「内部表示装置22」は,予め内蔵されたLCD等によって
構成される表示デバイスであり(乙4公報【0017】),前記2(被告の
主張)(1)オのとおり,LCDすなわち液晶ディスプレイは,本件発明のデ
ィスプレイ手段と同じ構成である。10
したがって,構成要件Eについて,本件発明と乙4発明は一致する。
カ構成要件Fとの対比
乙4発明は,「表示コントローラ20」が,「表示メモリ18に格納され
た表示データに応じて」,「外部表示装置24」に「画面を表示させる」(乙
4公報【0016】)から,構成要件Fについて,本件発明と乙4発明は一15
致する。
キ構成要件Gとの対比
乙4発明は「携帯情報処理装置」であるのに対し,本件発明は「携帯情
報通信装置」である点で,両者は相違する。(相違点6)
ク構成要件Hとの対比20
乙4発明では,「表示コントローラ」が,「前記内部表示装置による内部
表示と,前記外部表示装置による外部表示とをそれぞれ制御して,前記表
示メモリに格納された表示データに応じた画面を表示させる」(乙4公報
【請求項1】)。
そして,乙4発明の「表示メモリ」が前記エのとおり本件発明の「単一25
のVRAM」に相当するほか,乙4発明の「内部表示」は本件発明の「デ
ィスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像」の表示に相当
し,乙4発明の「外部表示」は本件発明の「ディスプレイパネルの画面解
像度より大きい解像度を有する画像」の表示に相当する。
したがって,構成要件Hについて,本件発明と乙4発明は一致する。
ケ構成要件Iとの対比5
乙4発明では,デジタル外部表示信号の伝送方式が限定されていないが,
本件発明では,「デジタルRGB,TMDS,LVDS(又はLDI)及び
GVIFのうちのいずれかの伝送方式」に限定されている点で,両者は相
違する。(相違点7)
コ構成要件Jとの対比10
乙4発明は,「内蔵した表示デバイスの解像度よりも高解像度の外部表示
機器を利用することで生じる,より広い画面表示サイズを有効に利用する
こと」ができるようにしたものである(乙4公報【0006】,【0104】)
から,構成要件Jについて,本件発明と乙4発明は一致する。
サ構成要件Kとの対比15
乙4発明は「携帯情報処理装置」であるのに対し,本件発明は「携帯情
報通信装置」である点で,両者は相違する。(相違点8)
シ小括
以上のとおり,本件発明と乙4発明の構成は,次の点で相違し,その余
は一致する。20
(相違点5)
本件発明は「無線通信手段」を備えているのに対し,乙4発明にはこれ
が明示されていない点。
(相違点6,8)
本件発明は「携帯情報通信装置」であるのに対し,乙4発明は「携帯情25
報処理装置」である点。
(相違点7)
本件発明では,デジタル外部表示信号の伝送方式が「デジタルRGB,
TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれかの伝送
方式」に限定されているのに対し,乙4発明では,これが限定されていな
い点。5
(2)相違点に係る構成の容易想到性
ア相違点5,6及び8について
相違点5,6及び8は,本件発明は通信手段が明示された携帯情報通信
装置であるのに対し,乙4発明は通信手段が明示されていない携帯情報処
理装置であると要約することができる。10
そして,携帯情報通信装置も携帯情報処理装置も,「携帯性を確保するた
めに装置の小型化が要求され,それに伴って出力装置として内蔵した表示
デバイスの表示サイズも小さくなってしまう」(乙4公報【0002】)と
いう解決すべき課題が共通しており,外部表示装置のより広い画面表示サ
イズを有効に利用するという課題も共通することは,いずれも技術常識で15
ある。そうすると,当業者であれば,乙4発明における外部表示出力の制
御方法を携帯情報通信装置に適用することを試みるといえる。
したがって,上記相違点5,6及び8は,乙4発明及び技術常識により
当業者が容易に想到できたものである。
イ相違点7について20
本件発明では,「デジタル外部表示信号」の「伝送方式」が「デジタルR
GB,TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれか」
に限定されているが,これらは,優先日当時の周知技術である伝送方式が
列挙されているだけにすぎない。
したがって,当業者であれば,乙4発明に周知技術を適用することによ25
り相違点7に係る本件発明の構成とすることを容易に想到できたといえる。
(3)原告主張の相違点について
原告は,乙4発明が本件発明の「画像データを処理して画像を表示する」
構成を有していないために,両者には相違点乙があると主張する。
しかしながら,相違点乙は,前記(2)アと同様に,乙4発明を携帯情報通信
装置に適用する際に当業者が通常に行う設計事項の変更にすぎない。5
したがって,相違点乙は,乙4発明及び技術常識により当業者が容易に想
到できたものである。
(原告の主張)
(1)本件発明と乙4発明の対比について
本件発明と乙4発明との間には,少なくとも,構成要件Hについて,以下10
の相違点(相違点乙)が存在する。
(相違点乙)
本件発明の携帯情報通信装置の「グラフィックコントローラ」は,「前記携
帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大き
い画像データ」を処理して画像を表示する場合に,前記単一のVRAMから15
「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビット
マップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデ
ジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手
段に送信する機能と,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの
画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出20
し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成
し,該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,を
実現」するのに対して,
乙4発明の携帯情報処理装置は,「「本来解像度がディスプレイパネルの画
面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する」とされていな25
いだけでなく,そもそも「「画像データ」を処理して画像を表示する」ともさ
れていない点。
(2)相違点乙に係る構成の容易想到性について
被告は,相違点乙について,乙4発明を携帯情報通信装置に適用する際に
当業者が通常に行う設計事項の変更にすぎないと主張する。
しかしながら,相違点乙に係る構成の容易想到性の論理付けに際しては,5
「乙4発明に何らかの技術を適用する」ことによって相違点乙に係る構成が
容易に想到できることを論理付けるべきところ,上記の被告の主張では「携
帯情報通信装置に乙4発明を適用する」ことが前提となっており論理付けと
して相当でない。
仮に,被告が主張するような論理付けが許容されるとしても,前記2(原10
告の主張)(2)のとおり,携帯情報通信装置に乙4発明に係る技術を適用して
構成要件乙に係る構成に想到することは,当業者が通常に行う設計事項の変
更ではあり得ない。
以上のとおり,相違点乙に係る構成が設計事項の変更にすぎないとする被
告の主張は失当であり,相違点乙に係る構成は,当業者が容易に想到できた15
ものではない。
4争点2-3(サポート要件違反)について
(被告の主張)
本件明細書においては,「適切な処理」(【0032】)以外のデータ処理又は
信号処理を行うことによって,「付属ディスプレイパネルにおいては,その画面20
解像度に相当する部分だけを切り出した部分画像しか表示できなかったり,画
素を間引くことによって画質を落とした全体画像しか表示できなかったりした
ような画像を,高解像度外部ディスプレイ手段においては,その本来の解像度
のままの全体画像として表示できるようになる」(【0078】第2文)という
本件発明の作用効果を達成できることについて,記載されていない。25
そうすると,仮に,原告が主張するように,本件発明の構成要件Dの「処理」
が「広義の処理」であるとした場合,本件発明は本件明細書に記載されていな
い発明を包含することになる。
したがって,本件特許は,特許法36条6項1号の要件を満たさず,特許無
効審判により無効とされるべきである。
(原告の主張)5
被告の主張は争う。
本件明細書には,中央演算回路が行う「処理」について,は「適切な処理」
には限定されず,「広義の処理」であることをサポートする数多くの記載がある。
したがって,中央演算回路が「適切な処理」を行う構成のみが本件明細書に
開示されているとの前提自体が誤りである。10
5争点2-4(本件訂正についての訂正要件違反)について
(被告の主張)
本件訂正では,構成要件D及びHに「単一のVRAM」という語句を追加し
ているところ,「単一」という日本語は,「三省堂国語辞典第七版」(乙3)にお
いて「そのものばかりであること」と説明されているように,一つであること15
に積極的な意味を有する言葉である。
しかしながら,VRAMの数に関しては,本件明細書において,発明の第1
の実施形態の説明(【0115】,【0117】,【0127】)では「VRAM1
_10C」と記載され,【図1】,【図8】には符号「10C」が付された「VRAM1」
が描かれているだけであり,VRAMが一つに限定され,他にVRAMがある20
べきでないことは明示されていない。また,本件明細書において,VRAMが
複数ではなく単一であることによって生じる作用効果は全く記載されていない。
すなわち,本件明細書には,VRAMが「単一」であることの積極的な意義は
記載されておらず,「単一」であることによる作用効果も記載されていない。そ
うすると,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の全てを総合しても,V25
RAMが「単一」であることの積極的な意義を見出すことができず,「単一のV
RAM」にするという技術的事項は導き出せないから,請求項1の構成要件D
及びHに「単一のVRAM」との語句を追加する各訂正事項は,本件特許の願
書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内におい
てした訂正ではないというべきである。
したがって,本件訂正は,特許法126条5項の要件を満たさない訂正であ5
り,本件特許は,同法123条1項8号により無効とされるべきものである。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
以下のとおり,本件特許の特許請求の範囲の記載に「単一のVRAM」との
語句を追加することは新規事項の追加に当たらない。10
(1)被告は,「単一」が積極的な意味を有する言葉であるから,「単一のVRA
M」が本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項であると
いえるためには,VRAMが単一であると限定することの積極的な意義(作用
効果等)が本件明細書等に記載されていなければならないと主張する。
しかしながら,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報15
プラットフォームで検索した結果(甲27ないし30)によれば,本件発明
における「VRAM」のような「装置に内蔵される部品や要素」について
「単一」という語が使われる場合,当業者は,何らの積極的な意味も込めず,
ただ単に数が複数ではなく一つであるという意味で使用されている,すなわ
ち,「単数」の代替語として使用されていると理解するというべきである。20
また,被告が引用する「三省堂国語辞典第七版」(乙3)においては,「ひ
とつ」との語義も記載されていることから,上記の当業者の理解は,同辞典
の語義解釈とも矛盾しない。
したがって,「単一」の積極的な意義が本件明細書等に記載されている必要
はなく,被告の上記主張は理由がない。25
(2)本件発明は,構成要件AないしKの構成を採用することで,携帯情報通
信装置に接続される高解像外部ディスプレイ手段に画像を送信するための機
能を,高解像外部ディスプレイ手段向けの専用の表示データ生成手段を別個
に使用することなく実現するとの作用効果を奏する。
そして,VRAMが「単一」ではないとすると,携帯情報通信装置に内蔵
されたディスプレイ向けの表示データを生成するためのVRAMとは別に,5
高解像外部ディスプレイ手段向けの表示データを生成するための専用の手段
であるVRAMを別個に使用することになるのであるから,本件発明の作用
効果を奏さない。すなわち,VRAMが「単一」であることによってはじめ
て本件発明の作用効果を奏するといえる。
以上のとおり,VRAMが単一であることの作用効果は,本件明細書等の10
記載を総合することにより導かれるものであって,仮に「単一」であること
の積極的意義の記載が本件明細書等に求められるとしても,「単一のVRA
M」は,本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項であ
る。
したがって,本件訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内のもので15
あって,特許法126条5項の要件を満たす。
6争点3(特許権侵害の不法行為による損害の発生の有無及びその額)につい

(原告の主張)
(1)本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額20
被告が賠償すべき本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
(特許法102条3項)は,以下のとおり,前記前提事実(6)の被告各製品の
売上高(別紙5「被告各製品の販売状況」の売上欄記載の金額)に本件発明
に係る相当な実施料率を乗じることにより算定される。
ア相当な実施料率認定の考慮要素25
本件発明の相当な実施料率の認定においては,次の(ア)ないし(エ)の事情
を考慮すべきである。
(ア)本件発明の価値(重要性と非代替性)
被告は,被告各製品が発売された時期において,全社的な事業戦略の
一環として,高解像度画像外部表示機能付き携帯電話の販売に注力する
ことで同業他社からの差別化を図ろうとしており,本件発明は,被告に5
とって,携帯電話に特別の価値を付与する重要な特許発明であった。
また,その当時,高解像度外部ディスプレイ手段において,専用の表
示データ生成手段を別個に使用することなく,携帯情報通信装置に付属
するディスプレイパネルの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示
できるという本件発明の作用効果を実現するためには,本件発明を実施10
する以外に選択肢はなかった。
(イ)本件発明を被告各製品に用いることによる売上げ及び利益への貢献
a本件発明の売上げへの貢献
被告各製品は,本件発明を実施することなく製造,販売できなかっ
たものであるから,本件発明の実施は,被告各製品の売上高合計であ15
る980億1770万4000円の全額に貢献したものである。
b本件発明の利益への貢献
本件発明を実施することによって,高解像度画像外部表示を低コス
トで実現できることになる。
被告各製品のように単一のVRAMを内蔵する液晶コントローラI20
Cを一つ使用する構成を取ることによって,このような液晶コントロ
ーラICを二つ使用する場合と比較して少なくとも製品1台当たり9
60円程度のコストが削減できるから,本件発明の実施は,18.5
億円(被告各製品の総販売台数×960円)を下らない利益の全額に
貢献したものである。25
(ウ)業界における実施料率の相場
a文献に記載された実施料率の相場
社団法人発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」(平成15
年発行。甲36)及び株式会社帝国データバンクが作成した「知的財
産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告
書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~5
本編平成22年3月」(甲38。以下「本件報告書」という。)は,
業界における実施料率を示すものとして考慮されるべきである。
本件報告書のうち,本件発明に最も近い,「コンピュータテクノロジ
ー」に関する「2009年11月5日~2010年2月15日」の国
内アンケート結果での実施料率は,平均値3.1%,最大値7.5%,10
最小値0.5%である。
b被告とC社とのライセンス料率について
被告が主張するライセンス実績(乙7)のうち,業界における実施
料の相場を示すものとして考慮し得るのは,一時金方式(一括払い方
式)ではなくランニング契約(継続実施料)の方式を取るC社との契15
約のみである。ただし,被告が主張するC社とのライセンス料率には
疑義があり,また,当該料率はC社とのクロスライセンスによって減
額されたものと考えられるため,C社との契約におけるライセンス料
率とされる●(省略)●%は,あくまで本件発明の実施料率の下限を
示すものとして考慮すべきである。20
(エ)原告の営業方針
原告は,自社が考案・開発した情報処理・通信システムを自社自身で
製造,販売することはせず,自社の特許発明に係る実施権を他社に許諾
し,当該他社が当該特許発明を実施した製品を販売する対価として実施
料を得ることを営業方針としている。25
また,原告は,そのほかの事業からの収入によって運営資金が確保で
きているため,ライセンス料が少額になる傾向のある一時金方式(一括
払い方式)によって,運営資金を獲得する必要もない。
したがって,原告は,自社の特許発明に係る実施権を他社に許諾する
場合には,ランニング方式(継続実施料方式)を採用するとともに,実
施料率としては,安易に妥協することなく,当該特許発明が本来有する5
価値(重要性や付加価値)に応じた適正な値を設定することを方針とす
るものである。
ただし,これまでのところ,原告が保有する特許権については,本件
特許権を含め,ライセンス実績はない。
イ本件発明の相当な実施料率10
前記アのとおり,被告各製品が発売された時期には,本件発明は携帯電
話に特別の付加価値を付与する重要な特許発明であったこと(前記ア(ア)),
1%の実施料率による実施料相当額は,本件発明を被告各製品に用いるこ
とによる売上げや営業利益への貢献を考慮すると,決して高い値ではない
こと(前記ア(イ)),1%の実施料率は,業界における実施料の相場を示す15
文献に記載された実施料率からして,決して高い値ではなく,また,業界
における実施料率の相場の下限を示すものとして考慮すべき被告とC社と
の契約におけるライセンス料率(●(省略)●%)に照らしても,決して
高い値ではないこと(前記ア(ウ)),原告の営業方針は,C社などの製造,
販売企業との間の契約よりも実施料率を引き上げる理由とは考えられても,20
引き下げるべき理由はないことから(前記ア(エ)),本件発明の実施料率は少
なくとも1%が相当である。
ウ被告各製品の製造,販売についての実施料相当額
被告各製品の販売状況は,別紙5「被告各製品の販売状況」記載のとお
りであり,被告各製品における本件発明の実施料率は,前記イのとおり,25
いずれも売上高の1%を下らないから,被告各製品の実施料相当額は,そ
れぞれ次の金額を下らず,その合計は9億8017万7040円を下らな
い。
イ号製品●(省略)●円
ロ号製品●(省略)●円
ハ号製品●(省略)●円5
ニ号製品●(省略)●円
ホ号製品●(省略)●円
ヘ号製品●(省略)●円
ト号製品●(省略)●円
チ号製品●(省略)●円10
リ号製品●(省略)●円
ヌ号製品●(省略)●円
(2)被告の主張する実施料率について
被告は,アプリ特許(標準必須特許以外の特許をいう。以下同じ。)1件当
たりの実施料率を基準とすべきとするが,アプリ特許1件当たりの寄与と本15
件発明の寄与が同じであるとする前提が誤りであり,アプリ特許を一くくり
にして標準必須特許よりも重要性が劣るとするのも相当でない。本件発明は,
前記(1)ア(ア)のとおり,被告にとって重要なものであった。
また,被告は,ライセンス契約の対象となったアプリ特許1件あたりの実
施料率を計算しているが,ライセンス契約における実施料率を考える際には,20
対象となる全ての特許を基準とするのではなく,そのうちの代表的な特許の
数を基準とすべきである。被告従業員作成の陳述書(乙7)に記載された,
被告と各社との契約において,本件発明に係る特許のような重要な価値を有
する特許が複数含まれるとは限らないから,契約の対象となる特許(代表特
許)の数はそれぞれ1件として計算すべきである。25
さらに,上記の被告従業員作成の陳述書(乙7)によれば,C社以外のラ
イセンシーについては,一時金方式(一括払い方式)を使用しているところ,
一時金方式ではランニング方式(継続実施料方式)と比較して実施料が減額
される傾向があるが,上記陳述書においては,その点も考慮されていない。
したがって,被告が主張する本件発明の実施料率は相当でない。
(被告の主張)5
(1)本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額について
ア相当な実施料率について
携帯電話の技術分野の特許には,大別すると,携帯電話事業分野の標準
規格の実施に不可欠な特許(標準必須特許)と,標準必須特許以外の特許
(アプリ特許)があり,本件発明に係る特許は,アプリ特許に該当する。10
また,本件発明は,携帯電話に特別高い価値を付与するアプリ特許発明で
はないから,本件発明の実施料率は,アプリ特許1件あたりの実施料率に
よって推定することができる。
被告は,被告各製品の製造,販売に当たって,アプリ特許等のライセン
ス契約を締結した実績があり,当該実績に基づいてアプリ特許1件当たり15
のライセンス料率を計算すると,パテントファミリー単位で,1件当たり
のライセンス料率は●(省略)●%と算出される。
したがって,被告各製品の製造,販売についての本件発明の実施料率は,
●(省略)●%が相当である。
イ実施料相当額について20
被告各製品の販売状況は,別紙5「被告各製品の販売状況」記載のとお
りであり,被告各製品における本件発明の実施料率は,前記アのとおり,
●(省略)●%であるから,被告各製品の総売上高に対する実施料相当額
は,合計●(省略)●円と推定される。
(2)原告の主張する実施料率について25
ア本件発明の価値(重要性と非代替性)について
被告各製品は,その売上高,販売台数,平均販売価格から見て,被告の
事業戦略上,同時期に発売していた被告の他の携帯電話と比較して格別に
重要な位置付けにあったものとはいえない。
また,被告各製品の販売当時において,HDMIを用いて画像を外部出
力する機能を備えるために本件発明を利用しなければならないものではな5
かったから,その意味でも本件発明が被告各製品にとって重要であったと
はいえない。
イ本件発明を被告各製品に用いることによる売上げ及び利益への貢献につ
いて
画像外部表示機能の有無による携帯電話の販売価格又は販売数量への影10
響は,いずれも存在しないか,軽微なものに留まるから,本件発明の売上
げへの貢献はわずかなものにすぎなかった。
ウ業界における実施料率の相場について
(ア)文献に記載された実施料率の相場について
「実施料率〔第5版〕」(甲36)は,平成4年から10年の統計デー15
タであるが,当時の「電子計算機」では,携帯電話やスマートフォンの
ように極めて多数のアプリ特許を使用することが想定されておらず,参
考にならない。
また,本件報告書に記載された「電気」分野の「コンピュータテクノ
ロジー」も,広範な技術分野をまとめて統計処理しており,被告各製品20
の技術分野と直接対比できる統計データではない。
(イ)被告とC社とのライセンス料率について
被告とC社とのライセンス契約の締結に当たっては,過去分の清算の
ため,形式上はクロスライセンスの形としているが,料率の算定に当た
って実質的にはクロスライセンスの価値は考慮されていない。25
C社とのライセンス料率は,時期によって異なるが,特許権1件あた
りの平均実施料率は●(省略)●%であった。初年度の料率は,リスト
に掲載されていない関連特許や契約後に出願された特許を含めてのライ
センスであったため高くなっていたが,本件発明についてはそのような
事情は存在していないため,本件発明の実施料率は上記アの●(省略)
●%が妥当であり,仮にそれより多いとしても0.01%を超えないと5
解すべきである。
エ原告の営業方針について
原告にはライセンスの実績がないため,この部分の主張は,単なる願望
にすぎず,客観性がない。
オ小括10
したがって,以上の要素に基づく原告主張の実施料率は相当でない。
7争点4(本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき
利得の額)について
(原告の主張)
被告は,本件特許の登録日以降の期間に,特許権者である原告から何らの実15
施許諾を得ないまま,本件発明の技術的範囲に属する被告各製品を製造,販売
した。その結果,本件発明の実施料相当額の支払を免れることで,同額の利益
を得ており,その利益の合計額は前記6(原告の主張)(1)の9億8017万7
040円を下らない。
(被告の主張)20
被告各製品における本件発明の実施についての被告の利益は,被告各製品の
利益のうち本件発明の実施が寄与した利益と解されるが,前記6(被告の主張)
(1)のアプリ特許1件当たりのライセンス料相当額が本件発明の実施が寄与した
利益額と同じと推定することができる。
したがって,被告の現存利益の額は,前記6(被告の主張)(1)の実施料相当25
額である合計●(省略)●円である。
8争点5(不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の抗弁の成否)に
ついて
(被告の主張)
(1)原告は,遅くとも別件訴訟の判決言渡日である平成25年8月2日には,
被告が被告各製品の製造,販売を行っていたことを知っていたし,また,被5
告各製品の本件発明に対応する構成を知っていた。
さらに,原告は,遅くとも同日には,上記の製造,販売による損害につい
ても,別件訴訟の訴状(甲4)に記載した程度に知っていた。
したがって,原告は,遅くとも平成25年8月2日には原告が主張する不
法行為の損害及び加害者を知っていたことになるから,改正前民法724条10
前段の消滅時効は遅くとも同日の翌日から進行し,本訴の訴状提出時(平成
30年11月25日)には既に3年の時効期間が経過していた。
(2)原告の主張に対する反論
訂正審判における訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する
ものであってはならない(特許法126条6項)から,訂正前の特許請求の15
範囲の技術的範囲に属さなかった物が訂正後の特許請求の範囲の技術的範囲
に属するということはない。
このため,被害者(特許権者)は,加害者の製造,販売する物がその時点
に登録されていた特許発明の技術的範囲に属するとの認識を持ったときから
損害賠償請求権を行使できるので,同時点から改正前民法724条前段の消20
滅時効が進行すると解すべきである。
また,訂正審判の請求や訂正審決の確定は,改正前民法の定める時効の中
断事由に該当せず,時効の完成に何ら影響を与えない。
したがって,消滅時効の抗弁が成り立つ余地がないとの原告の主張は理由
がない。25
(原告の主張)
(1)原告が別件訴訟の判決言渡日に被告各製品が本件発明の技術的範囲に属す
ることを認識することは,原理的に不可能である。すなわち,本件特許の訂
正登録日は平成30年8月13日であるから,本件発明の技術的範囲はそれ
以前には確定しておらず,したがって,原告が被告各製品が本件発明の技術5
的範囲に属することを認識できるのは,本件特許の訂正登録日以降になり,
改正前民法724条前段の消滅時効の起算点は本件特許の訂正登録日(平成
30年8月13日)よりも前に遡ることはないから,時効期間は満了してい
ない。
(2)以下のとおり,原告は,本件訂正に係る訂正登録日よりも前には,進歩性10
欠如によって本件特許権を実質的に行使できなかったものであり,この点か
らも,原告が被告各製品の製造,販売による損害を知った時は同訂正登録日
以降であると解釈すべきである。
ア本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下
「本件訂正前発明」という。)は,別件訴訟における訂正後の別件発明より15
も,技術的範囲が広いものであった。そして,別件訴訟において,別件発
明及びその訂正後の発明は進歩性を有しないと判断されているから,より
技術的範囲が広い本件訂正前発明も当然進歩性を有しないものであったと
いえる。
また,本件訂正前発明が進歩性を有しないことは,本件特許について本20
件訂正に係る訂正請求に先立って平成28年5月19日に請求した訂正審
判(訂正2016-390069)における審決(甲32)においても裏
付けられていた。
このように,本件訂正前発明は進歩性を有していないものであったから,
仮に,本件特許権者である原告が,訂正登録日以前に,本件特許権の侵害25
に係る訴訟を提起したとしても,特許法104条の3第1項の抗弁が成立
するとの判断がされることは確実である。
したがって,原告は,本件訂正に係る訂正登録日よりも前には,本件特
許権を実質的に行使できなかったのであり,本件特許権は,訂正登録を待
って初めて行使できるようになったのである。
イ原告は,訂正される以前の本件特許権が実質的に行使できないと認識し5
ている以上,被告が,本件訂正前発明の技術的範囲に属する被告各製品の
製造,販売を行っていることを認識したとしても,本件訂正に係る訂正登
録日よりも前には,その行為によって「賠償を請求することができる損害」
が生じているとは認識しておらず,同訂正登録によって本件特許権が行使
可能になって初めて,損害の発生を現実に認識し得たのである。10
ウ本件訂正に係る訂正登録前の本件特許権のように進歩性欠如によって実
質的に行使することができない特許権の場合には,当該特許権に係る発明
の技術的範囲に属する製品の製造,販売を認識した時点から消滅時効が進
行すると解すると,特許権者は当該認識後の3年以内という短い期間内に,
当該特許権の侵害に係る訴訟を提起することを強いられ,結果として,特15
許法104条の3第1項に基づき,特許権が行使できないとの判決が下さ
れてしまい,訂正請求によって行使可能な特許権とした後であれば賠償さ
れたはずの損害が賠償されないことが確定してしまうことになる。このよ
うな解釈は,特許権者に不利益を与えるものであり不当である。
(3)したがって,被告主張の消滅時効の抗弁は成り立つ余地がない。20
第4当裁判所の判断
1本件明細書の記載事項等
(1)本件明細書(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する
【図1】については,別紙6「本件明細書の図面」参照)。
ア【技術分野】25
【0001】
本発明は,携帯電話機などの携帯情報通信装置,携帯情報通信装置とと
もに用いる接続ユニット,及び携帯情報通信装置とともに用いる外部入出
力ユニットに関する。
イ【背景技術】
【0002】5
最近の電子・情報技術及び通信技術の進歩によって,無線通信によって
データを送受信する機能を有する,PHS(PersonalHandyphoneSystem)
を含む携帯電話用端末装置(以下,「PHSを含む携帯電話用端末装置」を
「携帯電話機」と略記する)やPDA(PersonalDigitalAssistants)を
はじめとする携帯情報通信装置は多機能化し,電子メールの送受信機能は10
もちろん,インターネットに接続したウェブサーバからHTML(Hyper
TextMarkupLanguage),XML(eXtensibleMarkupLanguage)又はそれ
らをベースとするマークアップ言語で記述された文書ファイル(以下,マ
ークアップ文書ファイルと略記する)及びそのリンクファイルを取得し,
適切にレイアウトした上で,通常は液晶ディスプレイである付属ディスプ15
レイに文字や画像を表示することによってウェブページを閲覧するブラウ
ザ機能を標準的に有するようになってきている。
【0003】
また,ウェブサーバからゲームプログラムをダウンロードしてフラッシ
ュメモリ等の記憶手段に格納した上で,付属するキー操作部を操作するこ20
とによって該プログラムを作動させるとともに必要なデータをマニュアル
入力することにより,付属ディスプレイに表示される画像の変化を楽しむ
ゲーム機能についても,多くの携帯電話機が保有するようになってきてい
る。さらに,一部の携帯電話機については,テレビジョン放送の電波信号
(以下,テレビ放送信号と略記する)を受信し,テレビ番組の映像を付属25
ディスプレイに表示するためのテレビチューナ機能をも有するようになっ
ている。特に,テレビチューナ機能については,携帯情報通信装置向けの
地上デジタル放送の開始が予定されており,このデジタルテレビチューナ
機能と上述のブラウザ機能を携帯電話機上で結合することにより,携帯電
話機ユーザーに対して,一斉性のある電波放送と,パーソナル性,インタ
ラクティブ性を持つインターネット通信の双方の特性を活かしたサービス5
を提供することが可能になると期待されている。
【0004】
このような事情により,携帯電話機を中心とする携帯情報通信装置にお
いて,文字や映像を含む画像の表示機能は,今後,ますます重要性を増し
ていくものと考えられる。ところが,携帯電話機をはじめとする携帯情報10
通信装置においては,その携帯性が重視されるため大きいサイズのディス
プレイを付属させることができない。このため,携帯電話機の場合,画面
サイズは最大でも2.5インチ程度であり,また,画面解像度は最大でもQV
GA(QuarterVideoGraphicsArray)サイズ(携帯電話機においては,通
常,縦長画面であるため,水平画素数×垂直画素数=240×320画素)とな15
っている。
【0008】
一方,携帯情報通信装置でゲームを楽しむ場合でも,そのゲームはグラ
フィックスがサイズの小さな付属ディスプレイに表示できる程度の比較的
単純なゲームに限定される。このため,「ケータイ向けサイト」からダウン20
ロードされる,いわゆる「ケータイアプリ」のゲームは,ゲーム専用機向
けやパソコン向けのゲームの世界では一世代から数世代前のゲームが大半
であり,結果として,短時間の暇つぶしに楽しまれるケースがほとんどで
ある。
また,付属ディスプレイの画面解像度が最大でもQVGAである携帯電25
話機でテレビ番組を視聴する場合,できる限り大きな画面で視聴するため
に横置き(水平画素数×垂直画素数=320×240画素)とすることが通常で
あるが,その場合でも,テレビ放送が前提とする有効走査線の数(=垂直
画素数。アナログテレビ放送の場合,480本)は付属ディスプレイの画面垂
直解像度(240画素)より大きいため,画素を間引いて表示する必要がある。
特に,デジタルテレビ放送においては,有効走査線数(垂直画素数)に加5
えて,有効水平画素数も規定されているが,最も解像度の小さい480i方式
の場合でも水平画素数×垂直画素数=720×480画素,いわゆる「フルハイ
ビジョン方式」である1080i方式においては1920×1080画素であって,い
ずれにせよ,付属ディスプレイの画面解像度が最大でもQVGAである携
帯電話機では,十分なテレビチューナ機能及び表示機能を有するテレビジ10
ョン受像機(以下,テレビ受像機と略記する)によってテレビ放送信号を
適切に処理した場合に表示される本来の解像度を有する画像(以下,テレ
ビ放送における本来画像と略記する)を全画面表示することはできず,そ
れより解像度の低い画質の劣った画像しか表示できない。
【0009】15
このような事情から,携帯情報通信装置のユーザーは,携帯情報通信装
置とともにパソコンを所有することも多い。そのような場合には,長いメ
ールを送受信したり,パソコン向けウェブページを閲覧したり,あるいは
グラフィックスが大きなサイズの画面でなければ表示できないような複雑
なゲームを楽しんだりする際にはパソコンを利用し,携帯情報通信装置は,20
短いメールを送受信したり,「ケータイ向けサイト」にアクセスしてウェブ
ページを閲覧したりするためだけに携帯情報通信装置を利用するという使
い分けが行われる。あるいはまた,パソコンと携帯情報通信装置を接続し,
ネットワークへの接続のためだけに携帯情報通信装置の無線通信手段を使
用し,該無線通信手段によって取得されたデータの処理は,もっぱらパソ25
コンによって行うというような使い方がなされる。
また,最近では,テレビチューナを内蔵しディスプレイでテレビ番組が
視聴できる機能を有する,いわゆる「AV(AudioVisual)パソコン」が
販売されるようになってきているが,このようなパソコンとテレビチュー
ナ付き携帯電話機を併用する場合,外出時や移動時にはテレビチューナ付
き携帯電話機でテレビ番組を視聴し,自宅や自室では「AVパソコン」で5
視聴するという使い分けが行われる。
【0010】
ところが,このような方法において使用されるパソコンは,通常は,携
帯情報通信装置で行われる電子メールの送受信やウェブページの閲覧等に
限定されない汎用的な用途に使用できるように設計されているため,携帯10
情報通信装置自体のデータ処理手段よりも高機能であるCPU(Central
ProcessingUnit)等のプロセッサを有している。その上,ハードウェアを
起動させるためには,別途,OS(OperatingSystem)等のソフトウェア
も準備しなければならないため,パソコンを所有するために要するコスト
は,携帯電話機をはじめとする携帯情報通信装置自体を所有するために要15
するコストより,通常は大きい。
このため,データ通信やデータ処理のニーズが電子メールの送受信やウ
ェブページの閲覧等に限られるような多数のユーザーにとって,上記のよ
うに,長文の電子メールを読んだり,パソコン向けウェブページを閲覧し
たりする際の,付属ディスプレイの画面サイズ・解像度が小さいことに起20
因する不便さを解消するためだけに別途パソコンを所有することは,経済
的に不合理である。
一方,携帯情報通信装置のデータ処理手段は,汎用的な用途には必ずし
も向いていないとは言え,付属ディスプレイに画像を表示するための表示
データ処理機能については,表示画面が小さいということを除けば,パソ25
コンにおけるCPU等のプロセッサの機能に匹敵する。それにもかかわら
ず,上記のようなパソコンと携帯情報通信装置との使い分けを行うとすれ
ば,同種のものに二重投資を行うことになり,結果として少なくとも一方
の稼働率の低下をもたらすため,資源の効率的な利用の観点からも好まし
くない。
【0011】5
同様の「不合理な二重投資」と「非効率的な資源利用」という問題は,
携帯情報通信装置がテレビチューナ機能を有する場合についても生じる。
すなわち,テレビ番組の映像や音声を楽しむためには,テレビ放送信号を
受信し,テレビ番組の映像をディスプレイやテレビモニタに表示するため
のテレビチューナ回路を必要とする。一方,通常の携帯情報通信装置のユ10
ーザーは,携帯情報通信装置におけるテレビチューナ回路とテレビ受像機
又は「AVパソコン」におけるテレビチューナ回路の双方を所有すること
を強いられ,結果として少なくとも一方のテレビチューナ回路の稼働率は
低下せざるを得ない。
【0013】15
このような事情から,携帯情報通信装置の携帯性を損なわないために付
属ディスプレイのサイズを現状通りに維持したままで,しかもパソコンを
併用することなく,長文の電子メールやパソコン向けウェブページ,娯楽
性の高いゲーム,さらにはテレビ番組の映像などを大きな画面で表示する
こと,特に,長文の電子メールについては,垂直スクロールを繰り返すこ20
となく読めること,パソコン向けウェブページについては,パソコンでの
画面イメージに近いレイアウトで表示し,しかも水平スクロールを繰り返
すことなく閲覧できること,テレビ番組については,テレビ放送における
本来画像を全画面表示することが課題とされている。
【0014】25
このような課題を解決するため,携帯情報通信装置に,該携帯情報通信
装置の付属ディスプレイよりも画面が大きい外部ディスプレイ装置(以下,
大画面外部ディスプレイ装置と略称する)を接続することにより,大画面
外部ディスプレイ装置で画像を表示する技術がいくつか開示されており,
そして,それらの技術は,以下の3つのタイプに分類される。
第一種:携帯情報通信装置と大画面外部ディスプレイ装置を何らかの接5
続ユニットを介して接続するタイプ
第二種:携帯情報通信装置と大画面外部ディスプレイ装置は直接的に接
続されるが,その代わり,大画面外部ディスプレイ装置としては,携帯情
報通信装置から受信した表示データに各種の処理を施す機能を有する画像
表示装置が使用されるタイプ10
第三種:携帯情報通信装置と大画面外部ディスプレイ装置は直接的に接
続され,しかも,大画面外部ディスプレイ装置としては,携帯情報通信装
置との間での何らかのインターフェース手段は備えていることを除けば,
テレビモニタ等の汎用的なディスプレイが用いられるタイプ
【0015】15
このうち,第一種の技術は,例えば,特許文献1,特許文献2,特許文
献3及び特許文献4において開示されている。これらの特許文献で開示さ
れる技術においては,携帯情報通信装置とは別にパソコンを用いる必要は
ないが,その代わりに,別途,プロセサ(特許文献1の場合),CPU(特
許文献2の場合),読出制御回路(特許文献3の場合),表示制御手段(特20
許文献4の場合)といった,何らかの表示データ処理手段を備えた接続ユ
ニットが必要である。…
【0016】
しかしながら,この場合においても,画像や文字を表示するための表示
データ処理機能に限って考えれば,携帯情報通信装置側と接続ユニット側25
で,表示する画面のサイズが異なるということを除けばほぼ同等の機能を
有する表示データ処理手段を二重に保有することになる。このため,多か
れ少なかれ,パソコンを併用する場合と同様の「不合理な二重投資」と
「非効率的な資源利用」の問題は生じることになる。…
【0017】
一方,第二種の技術は,例えば,特許文献5,特許文献6,特許文献7,5
特許文献8及び特許文献9において開示されている。このタイプの技術に
おいては,パソコンやそれに準ずるような接続ユニットは不要であるが,
今度は,大画面外部ディスプレイ装置として,テレビ受像機のような汎用
的なディスプレイ装置をそのままでは使用できず,制御系(マイクロコン
ピュータ)(特許文献5の場合),制御部15(特許文献6の場合。無線電10
話機側の制御部10とは別),高精細変換部や表示処理部(特許文献7の場
合),拡大回路や表示回路(特許文献8の場合)あるいやCPU(特許文献
9の場合)といった表示データ処理手段を備えた画像表示装置を使用しな
ければならない。
…15
【0018】
さて,上記で説明した通り,第二種の技術においても,携帯情報通信装
置側と大画面外部ディスプレイ装置側でほぼ同等の機能を有する表示デー
タ処理手段を二重に有することになり,結果的に「不合理な二重投資」や
「非効率な資源利用」の問題が生じる。…20
【0019】
それに対して,第三種の技術は,接続ユニットや特殊な画像処理装置を
使用せず,携帯情報通信装置と汎用的な大画面外部ディスプレイ装置だけ
で構成される。このため,一般的にいって,「不合理な二重投資」や「非効
率な資源利用」の問題が,少なくとも第一種の技術や第二種の技術よりは25
少ないと考えられる。
【0020】
この第三種の技術として既に実用化されているものに,いわゆる「テレ
ビ(TV)出力機能」又は「AV出力機能」を有する携帯電話機がある。
このような携帯電話機においては,携帯電話機とテレビモニタを,携帯電
話機側は携帯電話機に固有の接続端子とし,テレビモニタ側はビデオ端子5
とするケーブルで接続することにより,該携帯電話機に付属するデジタル
カメラ機能を用いて撮影した静止画や動画,あるいは一部のゲームを,携
帯電話機の付属ディスプレイよりも大画面であるテレビモニタに表示する
ことができる。しかし,その場合にテレビモニタに表示される画像の解像
度は,付属ディスプレイの画面解像度(最大でもQVGA)と同じである10
ため,該画像は,テレビモニタの中央部に小さく表示されるか,画質の粗
い拡大画像が全画面に表示されるかのいずれかである。
【0021】
現在のところ,「TV出力機能」又は「AV出力機能」によってテレビモ
ニタに表示されるのは,撮影した静止画や動画,又は一部のゲームに限ら15
れているが,仮に,これらの携帯電話機が「フルブラウザ機能」又は「P
Cサイトビュー機能」を有し,閲覧したパソコン向けウェブページをテレ
ビモニタで閲覧できるようになったとしても,それはあくまでも付属ディ
スプレイに表示される画面イメージを拡大表示するだけであって,画面イ
メージの解像度が増えるわけではない。したがって,ウェブページの作成20
者が本来意図したはずの,パソコンの画面イメージとして実現されるレイ
アウトでの表示が,テレビモニタにおいて実現できるわけではない。また,
仮に,これらの携帯電話機がテレビチューナ機能を有し,受信した映像を
テレビモニタに出力できたとしても,テレビ放送における本来画像がテレ
ビモニタに表示されるわけではない。25
【0022】
したがって,上記の課題を解決するためには,「TV出力機能」又は「A
V出力機能」を有する携帯電話機のように,ただ単に付属ディスプレイに
表示される画像を大画面外部ディスプレイ装置に拡大表示するという機能
を有するに留まらず,付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が大き
い画像を大画面外部ディスプレイ装置に表示する機能を有する携帯情報通5
信装置を提供することが必要である。
これにより,付属ディスプレイでは自らの画面解像度に相当する部分だ
けを切り出した部分画像しか表示できなかったり,画素を間引くことによ
って画質を落とした全体画像しか表示できなかったりした画像を,大画面
外部ディスプレイにおいては,その本来の解像度のままの全体画像として10
表示できるようになる。また,特に,水平方向の画素数が付属ディスプレ
イの画面水平解像度より大きい画像を大画面外部ディスプレイ装置に表示
する機能を有する場合には,一行あたりに表示できる文字数を増やすこと
ができ,その結果,長文の電子メールであっても,何行にもわたって表示
され,垂直スクロールを何度も繰り返さなければならないということはな15
くなる。また,それらの効果が総合されることにより,パソコン向けウェ
ブページも,大画面外部ディスプレイ装置において,パソコンの画面イメ
ージとして実現されるレイアウトで閲覧できるようになる。
ウ【発明が解決しようとする課題】
【0031】20
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり,その目的とする
ところは,携帯電話機やPDAをはじめとする携帯情報通信装置に大画面
外部ディスプレイ装置を接続することにより,より一般的には,携帯情報
通信装置に大画面ディスプレイ手段を含む周辺装置,及び/又は,大画面
ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接続することにより,該大画面25
外部ディスプレイ手段において,付属ディスプレイの画面解像度よりも解
像度が大きい画像を表示すること,特に,長文の電子メールについては,
垂直スクロールを繰り返すことなく読めること,パソコン向けウェブペー
ジについては,パソコンでの画面イメージに近いレイアウトで表示し,し
かも水平スクロールを繰り返すことなく閲覧できること,テレビ番組につ
いては,テレビ放送における本来画像を表示することを,該大画面外部デ5
ィスプレイ手段向けの専用の表示データ生成手段を,付属ディスプレイに
画像を表示するためにもともと必要である表示データ生成手段(以下,付
属表示データ生成手段と略記する)とは別個に使用することなく,大画面
ディスプレイ手段を含む周辺装置,及び/又は,大画面ディスプレイ手段
が接続される周辺装置と間のインターフェース手段の追加と,付属表示デ10
ータ生成手段への若干の機能追加だけで実現する携帯情報通信装置を提供
する点にある。また,携帯情報通信装置及び大画面外部ディスプレイ装置
とともに用いられ,該大画面外部ディスプレイ装置の画面に,付属ディス
プレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示するための接続ユニ
ットを提供する点にある。さらに,携帯情報通信装置とともに用いられ,15
自らに付属する大画面外部ディスプレイパネルに,該携帯情報通信装置の
付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示する外部
入出力ユニットを提供する点にある。
エ【課題を解決するための手段】
【0032】20
上記目的を達成するために,携帯情報通信装置に係る第1の発明は,ユ
ーザーがマニュアル操作によって入力したデータを後記データ処理手段に
送信する入力手段と,無線信号を受信してデジタル信号に変換の上,後記
データ処理手段に送信するとともに,後記データ処理手段から受信したデ
ジタル信号を無線信号に変換して送信する無線通信手段と,後記データ処25
理手段を動作させるプログラムと後記データ処理手段で処理可能なデータ
ファイルとを格納する記憶手段と,前記入力手段から送信されたデータ及
び前記記憶手段に格納されたプログラムに基づき,前記無線通信手段から
受信したデジタル信号及び/又は前記記憶手段から読み出したデータに必
要な処理を行って,デジタル表示信号及びその他のデジタル信号を生成し
て送信するデータ処理手段と,画面を構成する各々の画素が駆動されるこ5
とにより画像を表示するディスプレイパネルAと,前記データ処理手段か
ら受信したデジタル表示信号に基づき前記ディスプレイパネルAの各々の
画素を駆動するディスプレイ制御手段Aとから構成されるディスプレイ手
段とを備える携帯情報通信装置であって,外部ディスプレイ手段を含む周
辺装置,又は,外部ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接続し,該10
周辺装置に対して,前記データ処理手段から受信したデジタル表示信号に
基づき,外部表示信号を送信するインターフェース手段A1と,前記デー
タ処理手段で生成されたデジタル表示信号の送信先として,前記ディスプ
レイ制御手段Aと前記インターフェース手段A1の少なくともいずれか一
方を選択して指定する送信先指定手段とを備えるとともに,前記データ処15
理手段と前記インターフェース手段A1とが相俟って,前記送信先指定手
段がデジタル表示信号の送信先として前記インターフェース手段A1を指
定した場合には,該インターフェース手段A1から,高解像度外部表示信
号を送信する機能を実現するようにしたものである。
なお,本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「デジタル表示信号」20
には,後で詳述する「ビットマップデータ」等のデジタル画像データに直
接対応した信号だけでなく,デジタル画像データの生成(描画)を命令す
る描画命令のデジタル信号も含む。
また,本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「外部表示信号」と
は,周辺装置における外部ディスプレイ手段がそれを受信して適切に処理25
することにより画像を表示することが可能であるような信号を意味する。
そして,表示信号,画像データファイル又は動画信号(以下,表示信号等
と略記する)を「適切に処理する」とは,ディスプレイ手段,又は,デー
タ処理手段及びディスプレイ手段が,表示信号等に含まれている画素ごと
の論理的な色情報を,ディスプレイ手段の画面を構成する物理的な画素の
色表示として過不足なく現実化することを意味しており,より具体的には,5
物理的な現実化にあたって画素を間引いて表示画像の解像度を小さくした
り,画素を補間して表示画像の解像度を大きくしたりしないことを意味し
ている。
さらに,本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「高解像度」とは,
表示信号等の本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度(水平10
画素数×垂直画素数)より大きいことを意味し,特に,「高解像度外部表示
信号」とは,本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度より大
きい外部表示信号を意味する。また,表示信号等の「本来画像」とは,十
分な大きさの画面解像度を有するディスプレイ手段,又は,データ処理手
段と十分な大きさの画面解像度を有するディスプレイ手段とが,該表示信15
号等を受信して適切に処理することにより表示される本来の画像を意味し,
「本来解像度」とは「本来画像」の解像度を意味する。
さらに,本「明細書」及び「特許請求の範囲」においては,「周辺装置に
おける~手段」という表記によって,「周辺装置に含まれた~手段又は周辺
装置に接続された~手段」を意味する。20
【0045】
また,携帯情報通信装置に係る第14の発明は,第5乃至第13のいず
れか1つの発明の携帯情報通信装置において,前記インターフェース手段
A1は,前記データ処理手段から受信したビットマップデータ又は自らが
生成したビットマップデータに必要な変換を行うことにより,デジタルR25
GB,TMDS(TransitionMinimizedDifferentialSignaling),LVD
S(LowVoltageDifferentialSignaling)(又はLDI(LVDS
DisplayInterface))及びGVIF(GigabitVideoInterFace)のうちの
いずれかの伝送方式で伝送されるデジタル外部表示信号を生成し送信する
機能を有するようにしたものである。
オ【発明の効果】5
【0078】
第1乃至第15の発明の携帯情報通信装置においては,携帯情報通信装
置のインターフェース手段A1に高解像度外部ディスプレイ手段を含む周
辺装置,及び/又は,外部ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接続
して高解像度外部表示信号を送信することにより,該高解像度外部ディス10
プレイ手段の画面において,携帯情報通信装置に付属するディスプレイパ
ネルの画面解像度より大きい解像度を有する高解像度画像を表示すること
ができる。これにより,付属ディスプレイパネルにおいては,その画面解
像度に相当する部分だけを切り出した部分画像しか表示できなかったり,
画素を間引くことによって画質を落とした全体画像しか表示できなかった15
りしたような画像を,高解像度外部ディスプレイ手段においては,その本
来の解像度のままの全体画像として表示できるようになる。特に,水平方
向の本来の画素数がディスプレイパネルの画面水平解像度より大きい高水
平解像度外部表示信号を送信する機能が実現されることにより,該高解像
度外部ディスプレイ手段の画面における一行あたりの表示文字数を,付属20
ディスプレイパネルにおける表示文字数よりも増やすことができる。これ
により,例えば,長文の電子メールを読むような場合でも,付属ディスプ
レイパネルにおけるように何行にもわたって表示され,垂直スクロールを
何度も繰り返さなければならないため,理解に困難が伴うというようなこ
とはなくなる。25
しかも,そのような高解像度外部表示信号の送信は,付属ディスプレイ
パネルにおいて画像を表示するためにもともと必要であるデータ処理手段
と,外部ディスプレイ手段を含む周辺装置,及び/又は,外部ディスプレ
イ手段が接続される周辺装置を接続するために不可欠のインターフェース
手段だけによって実現されている。このため,従来の技術のように,携帯
情報通信装置に備えられた表示データ処理手段とは別に,外部ディスプレ5
イ手段を含む周辺装置向けの専用の表示データ生成手段を設ける必要はな
く,「不合理な二重投資」や「非効率な資源利用」の問題は回避できる。
カ【発明を実施するための最良の形態】
【0111】
(第1の実施形態)10
図1は,本発明の第1の実施形態に係る携帯情報通信装置,携帯情報通
信装置用接続ユニット,及び両者を接続した上で該接続ユニットに外部デ
ィスプレイ装置及び外部入力装置を接続することによって構成した情報通
信システムの構成及び機能を説明するためのブロック図であり,特に,該
携帯情報通信装置が携帯電話機である場合について説明している。15
【0112】
この実施形態においては,携帯電話機1は,それ単独として,音声通話
用,携帯テレビ電話でのコミュニケーション用,データ通信・処理用,テ
レビ放送番組の視聴用,被写体の撮影用,又は,画像データ及び/又は音
声データの保存・再生用として使用することができ,音声通話以外の用途20
で使用する場合には,各種の画像が,付属ディスプレイパネルであるLC
D(LiquidCrystalDisplay)パネル15Aに表示される。
以下では,LCDパネル15AはQVGAサイズの画面解像度を有し,通常
は縦長画面(水平画素数×垂直画素数=240×320画素)で使用するものと
して説明するが,それ以外の解像度であってもよい。25
【0115】
一方,コミュニケーションの相手先から電波信号(無線動画信号)とし
て公衆ネットワークに送信された画像(動画)データは通信用アンテナ
111Aで受信され,RF送受信部111B及びベースバンドプロセッサ11を経
由することによりデジタル信号に変換された上で,中央演算回路1_10A1に
送信される。中央演算回路1_10A1では,フラッシュメモリ14Aに格納され5
たプログラムに基づいて必要な処理を行い,該デジタル信号に対応した描
画命令をグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。
グラフィックコントローラ1_10Bは,該描画命令に基づき,あらかじめ
十分な大きさ(以下では,QUXGAWide(QuadUltraXGAWide)サイ
ズ(水平画素数×垂直画素数=3840×2400画素)として説明する)の論理10
解像度を有するように設定された仮想画面におけるビットマップデータを
生成し,必要に応じてVRAM(VideoRAM)1_10Cへの書き込み/読
み出しを行いつつ,該ビットマップデータをLCDドライバ15Bに送信す
る。…
LCDドライバ15Bは,該ビットマップデータに基づいて,ソース・ドラ15
イバ部とゲート・ドライバ部とを作動させることによりLCDパネル15Aの
画面を構成する各々の画素を駆動し,最終的にコミュニケーションの相手
からの無線動画信号に対応した画像がLCDパネル15Aに表示される。…
【0116】
次に,携帯電話機1がデータ通信・処理用に使用される場合,…キー操作20
部16Aを操作することによって入力され,キー入力コントローラ16Bでデジ
タル信号に変換されたデータ,及び/又は,インターネットプロトコルに
準拠した電波信号を公衆ネットワークから通信用アンテナ111Aで受信し,
RF送受信部111B及びベースバンドプロセッサ11を経由することによりデ
ジタル信号に変換されたデータが,バス19を経由して中央演算回路1_10A125
に転送される。中央演算回路1_10A1では,フラッシュメモリ14Aに格納さ
れたプログラムに基づいて必要な処理を行い,処理されたデータは,バス
19を経由して,フラッシュメモリ14A及びRAM(RandomAccessMemory)
14Bや,グラフィックコントローラ1_10Bや,ベースバンドプロセッサ11
に転送される。そして,最終的には,LCDパネル15Aに画像が表示された
り,スピーカ18Bから音声が出力されたり,通信用アンテナ111Aから電波5
信号が送信されたり,フラッシュメモリ14Aにデータが保存されたりする。

【0117】
特に,携帯電話機1が,インターネットに接続したウェブサイトにアクセ
スし,該ウェブサイトを構成するウェブページを閲覧している場合には,10
中央演算回路1_10A1は,フラッシュメモリ14Aに格納されたブラウザプロ
グラムに従って,通信用アンテナ111A,RF送受信部111B,ベースバンド
プロセッサ11及びバス19を経由して,ウェブページを構成するマークアッ
プ文書ファイル及びそのリンクファイルを取得し,ウェブページのレイア
ウト形式に応じて以下のように描画命令を生成・送信する。すなわち,ウ15
ェブページがリキッドレイアウト,又はLCDパネル15Aの画面水平解像度
(240画素)よりも狭い固定幅レイアウトを採用していれば,LCDパネル
15Aの画面水平解像度と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を,
ウェブページがLCDパネル15Aの画面水平解像度よりも広い固定幅レイア
ウトを採用していれば,該固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の20
描画命令を,それぞれ生成し,該描画命令をグラフィックコントローラ1
_10Bに送信する。
グラフィックコントローラ1_10Bは,該描画命令に基づき仮想画面にお
けるビットマップデータを生成しVRAM1_10Cに書き込むとともに,L
CDパネル15Aに表示され,LCDパネル15Aの画面解像度と同じ解像度を25
有する画像を記述するビットマップデータをVRAM1_10Cから切り出し
てLCDドライバ15Bに送信する。LCDドライバ15Bは,該ビットマップ
データに基づいてLCDパネル15Aの画面を構成する各々の画素を駆動し,
最終的に前記ウェブページに対応したページ画像の全部又は一部に,必要
に応じて画面の上部・下部に表示されるメニュー表示等を組み合わせた全
画面画像がLCDパネル15Aに表示される。5
この際,ページ画像の解像度がLCDパネル15Aの画面解像度より大きい
場合には,キー操作部16Aにおいて画面スクロール機能を担うキーを操作す
ることによって入力されるデータに応じて,中央演算回路1_10A1が描画命
令を変更することにより,VRAM1_10Cから切り出されるビットマップ
データは仮想画面上を徐々に遷移し,その結果として,LCDパネル15Aに10
おいてページ画像がスクロール表示される。
【0118】
また,携帯電話機1がテレビ番組の視聴用に使用される場合,テレビ受信
用アンテナ112Aで受信したテレビ放送信号は,テレビチューナ112B及びA
D/DA変換部1_112Cでデジタル動画信号及びデジタル音声信号に変換さ15
れ,バス19を経由して中央演算回路1_10A1に送信される。
携帯電話機1においては,テレビ番組の画像を,LCDパネル15Aを縦置
きにして表示する(→縦長画面(水平画素数×垂直画素数=240×320画素))
か,横置きにして表示する(→横長画面(水平画素数×垂直画素数=
320×240画素))かを,キー操作部16Aを操作することによって選択するこ20
とができ,中央演算回路1_10A1は,この選択に対応した入力信号及び前記
デジタル動画信号に基づき,LCDパネル15Aに表示される画面イメージ
(ただし,縦長画面の場合,上部及び/又は下部に非表示領域が生じた画
面イメージ)のビットマップデータを作成する描画命令を生成し,該描画
命令をグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。この際,テレビ放送25
における本来画像の水平・垂直画素数は,縦長画面,横長画面のいずれの
場合でも,LCDパネル15Aの水平・垂直画素数よりも大きいため,描画命
令の生成にあたっては,AD/DA変換部1_112Cから送信されるデジタル
動画信号を一部間引くことによって,解像度の低い画像の全体画像の描画
命令を生成する。
グラフィックコントローラ1_10B,VRAM1_10C及びLCDドライバ5
15Bの動作は,キー操作部16Aの操作に従った画像のスクロールがないこと
を除けば,ウェブページのページ画像を表示する場合と同様であり,結果
として,LCDパネル15Aにテレビ放送の動画がリアルタイムで表示され
る。
…10
【0119】
また,携帯電話機1が被写体の撮影用に使用される場合,被写体から反射
又は放射される光信号は,携帯テレビ電話でのコミュニケーションの場合
と同じ経路でデジタル動画信号に変換され中央演算回路1_10A1に送信され
る。また,中央演算回路1_10A1,グラフィックコントローラ1_10B,VR15
AM1_10C及びLCDドライバ15Bは,テレビ放送番組を視聴する場合と
同様に動作し,結果として,LCDパネル15Aに被写体の映像(動画)がリ
アルタイムで表示される。
この際,CCD12Bによって撮像される本来画像の水平・垂直画素数は,
縦長画面,横長画面のいずれの場合でも,LCDパネル15Aの水平・垂直画20
素数よりも大きいため,中央演算回路1_10A1が描画命令を生成する際には,
AD/DA変換部2_12Cから送信されるデジタル動画信号を一部間引くこ
とによって,解像度の低い画像の全体画像の描画命令を生成する。
【0120】
一方,携帯電話機1においては,上記のように…デジタル動画信号に基25
づいてLCDパネル15Aに動画をリアルタイムに表示したりするだけでな
く,デジタル音声信号及び/又はデジタル動画信号をデータファイルに変
換して保存したり,該保存したデータファイルを読み出して必要な処理を
行うことにより,音声を出力したり,画像を表示したり,あるいは両者を
組み合わせたムービーとして再生することができる。
このような画像データ及び/又は音声データの保存・再生用に使用され5
る場合,中央演算回路1_10A1は,キー操作部16Aを操作することにより入
力されたデータに基づきフラッシュメモリ14Aにアクセスして,デジタル動
画信号を変換したビットマップデータやデジタル音声信号を変換したデジ
タル音声データを必要に応じて圧縮したデータファイルとして書き込んだ
り,逆にデータファイルを読み出して必要な処理を行うことにより,描画10
命令をグラフィックコントローラ1_10Bに出力したり,デジタル音声信号
をベースバンドプロセッサ11経由でCODEC18Cに出力したりする。

【0121】
以上が携帯電話機1をそれ単独として使用する場合の機能の概略である15
が,携帯電話機1は,接続ユニット3と接続するための外部接続端子部A
_13Dを備えており,外部接続端子部A_13Dと,接続ユニット3に備えられ
たインターフェース部B_33を構成する外部接続端子B_33Dとを接続ケーブ
ル2を介して接続することにより,携帯電話機1と接続ユニット3を一体的
な情報通信システムとして動作させることができるようになる。20
【0122】
一方,接続ユニット3は,周辺装置と接続するためのインターフェース部
C1_35とインターフェース部C2_36を備えており,インターフェース部
C1_35には,LCDである外部ディスプレイ装置5が,インターフェース
部C2_36には,フルキーボードである外部キーボード61とマウス62が,25
それぞれ接続されている。…
以下では,原則として,外部ディスプレイ装置5(LCD)の画面解像度
は,VGAサイズ(水平画素数×垂直画素数=640×480画素)であるもの
として説明するが,それ以上の解像度であってもよい。
【0123】
さて,作動中の携帯電話機1と,インターフェース部C1_35に外部ディ5
スプレイ装置5が接続しており作動中の接続ユニット3(以下では,「イン
ターフェース部C1_35に外部ディスプレイ装置5が接続しており作動中」
のことを「作動中」と略記する)を接続した場合,作動中の携帯電話機1を
接続ユニット3に接続し,接続ユニット3を起動させた場合,あるいは携帯
電話機1を作動中の接続ユニット3に接続し,携帯電話機1を起動させた場10
合に,携帯電話機1の中央演算回路1_10A1は,接続ユニット3から,接続
ユニット3が接続していることを検知する信号(以下,接続検知信号と略
記),及び接続ユニット3のインターフェース部C1_35に接続された外部
ディスプレイ装置5の画面解像度データを,外部接続端子部B_33D,接続ケ
ーブル2,外部接続端子部A_13D及びバス19を経由して受信する。15
そして,携帯電話機1の中央演算回路1_10A1が前記接続検知信号を受信
した場合,中央演算回路1_10A1は,LCDパネル15Aの画面水平解像度又
は画面解像度に対応した画像の描画命令に替えて,以下で説明するように,
LCDパネル15Aの画面解像度より大きな解像度を有する画像の描画命令を
生成し,グラフィックコントローラ1_10Bに対して送信する。また,中央20
演算回路1_10A1は,上記の描画命令とともに,VRAM1_10Cから切り出
したビットマップデータを,LCDドライバ15Bに送信する替わりに,TM
DSトランスミッタ13Aに送信するように命令する送信命令を生成し,該送
信命令をグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。
【0124】25
まず,インターネットに接続したウェブサイトにアクセスし,該ウェブ
サイトを構成するウェブページを閲覧している場合には,中央演算回路1
_10A1は,フラッシュメモリ14Aに格納されたブラウザプログラムに従い,
ウェブページのレイアウト形式に応じて以下のように描画命令を生成・送
信する。すなわち,ウェブページがリキッドレイアウト,又は外部ディス
プレイ装置5の画面水平解像度(640画素)よりも狭い固定幅レイアウトを5
採用していれば,外部ディスプレイ装置5の画面水平解像度と同じ水平画素
数を有するページ画像の描画命令を生成・送信し,ウェブページが外部デ
ィスプレイ装置5の画面水平解像度よりも広い固定幅レイアウトを採用して
いれば,該固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を生
成・送信する。10
一方,テレビ放送を視聴している場合及び被写体を撮影している場合に
は,それぞれAD/DA変換部1_112C及びAD/DA変換部2_12Cから送
信されるデジタル動画信号における本来画像の解像度は,外部ディスプレ
イ装置5における画面解像度より依然として大きいため,中央演算回路1
_10A1は,該デジタル動画信号を一部間引くことによって,解像度を外部デ15
ィスプレイ装置5の画面解像度に合わせた低画質の全体画像の描画命令が生
成・送信される。
【0125】
なお,携帯テレビ電話でのコミュニケーションを行っている場合には,
携帯テレビ電話における無線動画信号の本来画像の解像度は,LCDパネ20
ル15Aの画面解像度を上回らないため,携帯電話機1を接続ユニット3と接
続した場合でも,中央演算回路1_10A1からの描画命令が描画を命令する画
像の解像度は変わらない。ただし,フラッシュメモリ14Aが画像の補間プロ
グラムを格納しており,中央演算回路1_10A1がそれに従って作動する場合
には,外部ディスプレイ装置5の画面解像度(無線動画信号の本来画像の解25
像度より大きい)と同じ解像度を有する画像の描画命令を生成・送信する
ことができる。
【0126】
ところで,外部ディスプレイ装置5として,画面解像度がVGAサイズで
あるようなものに替えて,フルハイビジョンテレビモニタ(水平画素数×
垂直画素数=1920×1080画素)のように,画面解像度が十分に大きい(た5
だし,あらかじめ設定された仮想画面の論理解像度(3840×2400画素)よ
りも小さい)ものを使用する場合には,中央演算回路1_10A1が生成・送信
する描画命令は,以下のように変わる。
まず,ウェブページを閲覧している場合には,ほとんどのウェブページ
は,仮に固定幅レイアウトを採用している場合でも該固定幅が外部ディス10
プレイ装置5の画面水平解像度を超えることはないため,中央演算回路1
_10A1においては,外部ディスプレイ装置5の画面水平解像度と同じ水平画
素数を有するページ画像の描画命令が生成・送信される。
次に,テレビ放送を視聴している場合,又は被写体を撮影している場合
にも,デジタル動画信号における本来画像の解像度は,外部ディスプレイ15
装置5の画面解像度を超えることはないため,中央演算回路1_10A1におい
ては,デジタル動画信号における本来画像の描画命令が生成・送信される。
その際,視聴しているテレビ放送がアナログテレビ放送である場合や,
この説明で想定しているようにCCD12Bの解像度(1280×1024画素)がフ
ルハイビジョンサイズ(1920×1080画素)より小さい場合には,描画命令20
が生成される本来画像の解像度は外部ディスプレイ装置5の画面解像度より
小さくなるが,フラッシュメモリ14Aが画像の補間プログラムを格納してお
り,中央演算回路1_10A1がそれに従って作動する場合には,外部ディスプ
レイ装置5の画面解像度(デジタル動画信号の本来画像の解像度より大き
い)と同じ解像度を有する画像の描画命令を生成することができる。25
【0127】
グラフィックコントローラ1_10Bは,中央演算回路1_10A1から受信した
描画命令に基づき,あらかじめ設定された仮想画面上においてビットマッ
プデータを生成し,VRAM1_10Cに書き込む。さらに,グラフィックコ
ントローラ1_10Bは,中央演算回路1_10A1から入手した外部ディスプレイ
装置5の画面解像度データに基づき,外部ディスプレイ装置5の画面解像度5
と同じ解像度を有し,外部ディスプレイ装置5の画面に表示される画像を記
述するビットマップデータをVRAM1_10Cから切り出す。その上で,中
央演算回路1_10A1から受信した送信命令に基づき,該ビットマップデータ
をTMDSトランスミッタ13Aに送信し,TMDSトランスミッタ13Aは,
該ビットマップデータを,外部接続端子部A_13Dを経由して接続ユニット10
3のインターフェース部B_33にTMDS伝送方式で送信する。
【0132】
また,携帯電話機1の中央演算回路1_10A1は,外部キーボード61又は
マウス62を操作することによって入力されたデータに基づき,上記のよう
にフラッシュメモリ14Aにアクセスするかわりに,バス19,外部接続端子15
部A_13D,接続ケーブル2及び接続ユニット3のインターフェース部B_33
を経由してHDD34にアクセスすることにより,ビットマップデータやデ
ジタル音声データを必要に応じて圧縮したデータファイルとして書き込ん
だり,逆にデータファイルを読み出して必要な処理を行うことにより,描
画命令をグラフィックコントローラ1_10Bに出力したり,デジタル音声信20
号をベースバンドプロセッサ11経由でCODEC18Cに出力したりする。
また,中央演算回路1_10A1は,フラッシュメモリ14Aに格納されたデータ
ファイルを読み出して,バス19,外部接続端子部A_13D,及び接続ユニッ
ト3のインターフェース部B_33を経由して,HDD34に保存することがで
きる。25

【0152】
この実施形態においては,携帯電話機1は,音声通話,携帯テレビ電話又
はデータ通信のための電波信号(以下では,通信電波信号と略記する)に
加えてGPS信号を受信し,電気信号に変換する共用アンテナ113A,通信
電波信号を変換した電気信号とGPS信号を変換した電気信号を,それぞ5
れRF送受信部111BとGPSダウンコンバータ113Bに振り分ける共用器
113D,GPS信号を変換した電気信号の周波数を変換するGPSダウンコ
ンバータ113B及び該周波数変換された電気信号をデジタル信号に変換する
AD/DA変換部3_113Cを備えている(一方,CCD等の撮像手段は備え
ていない)。10
中央演算回路1_10A1は,外部入出力ユニット4に備えられたHDD44に
アクセスして格納された画像データファイルを読み出すか,あるいは,共
有アンテナ113Aで受信したインターネットプロトコルに準拠した電波信号
を,共用器113D,RF送受信部111B及びベースバンドプロセッサ11経由
で変換したデジタル信号を受信するかして,地図情報を含む画像データを15
取得する。そして,該地図情報をAD/DA変換部3_113Cからのデジタル
信号とを組み合わせることにより,自らの現在位置情報を含む地図画像を
記述するビットマップデータを,あらかじめ十分な大きさの論理解像度を
有するように設定された仮想画面上で作成するように命令する描画命令を
リアルタイムでグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。20
(2)前記⑴の記載事項及び本件発明に係る特許請求の範囲(別紙1)によれば,
本件明細書には,本件発明に関し,次のとおりの開示があることが認められ
る。
ア携帯電話機をはじめとする携帯情報通信装置においては,その携帯性が
重視され,大きいサイズのディスプレイを付属させることができないこと25
から,携帯情報通信装置のユーザーは,携帯情報通信装置とともにパソコ
ンを所有することも多い(【0002】ないし【0004】,【0008】,
【0009】)。
しかしながら,パソコンは,通常,汎用的な用途に使用できるように設
計されているため,高機能なプロセッサを有している上,ソフトウェアも
準備しなければならず,その所有に要するコストは大きく,上記の不便さ5
を解消するためだけに別途パソコンを所有することは,経済的に不合理で
ある一方,携帯情報通信装置のデータ処理手段は,表示画面が小さいとい
うことを除けば,パソコンにおけるプロセッサの機能に匹敵するから,上
記のようなパソコンと携帯情報通信装置との使い分けを行うとすれば,同
種のものに二重投資を行うことになり,資源の効率的な利用の観点からも10
好ましくない(【0010】,【0011】,【0013】)。
そのため,従来,携帯情報通信装置に,その付属ディスプレイよりも画
面が大きい大画面外部ディスプレイ装置を接続することにより,同装置で
画像を表示する技術がいくつか開示されていたが,いずれも,「不合理な二
重投資」と「非効率な資源利用」という問題を十分に回避できるものでは15
なかった(【0014】ないし【0022】)。
イ本件発明は,前記アの課題を解決するため,別紙1「特許請求の範囲」
(【請求項1】)に記載された構成を採用することで,携帯電話機等の携帯
情報通信装置に大画面ディスプレイ手段を含む周辺装置及び/又は大画面
ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接続することにより,大画面外20
部ディスプレイ手段において,付属ディスプレイの画面解像度よりも解像
度が大きい画像を表示することを,付属ディスプレイに画像を表示するた
めにもともと必要である表示データ生成手段(付属表示データ生成手段)
とは別個に大画面外部ディスプレイ手段向けの専用の表示データ生成手段
を使用することなく,上記のような周辺装置との間のインターフェース手25
段の追加と付属ディスプレイに画像を表示するための付属表示データ生成
手段への若干の機能追加だけで実現するという作用効果を奏する(【003
1】)。
2争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びH
の充足性))について
(1)被告各製品は,構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演5
算回路」を備えるか
ア「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」の意義
(ア)特許請求の範囲の記載について
構成要件Dにおいては,本件発明の「携帯情報通信装置」が,「データ
処理手段」を備え,これが「中央演算回路」及び「グラフィックコント10
ローラ」から構成されると規定されているところ,そのうち,「中央演算
回路」について,「前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格
納されたプログラムとに基づき,前記無線通信手段から受信したデジタ
ル信号に必要な処理を行い,リアルタイムでデジタル表示信号を生成す
るか,又は,自らが処理可能なデータファイルとして前記記憶手段に一15
旦格納し,その後読み出した上で処理する」ものと規定され,また,「グ
ラフィックコントローラ」について,「該中央演算回路の処理結果に基づ
き,単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出し
を行い,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」
を生成し,該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は後記イ20
ンターフェース手段に送信する」ものと規定されている。
これらの記載からは,「中央演算回路」が,入力手段から受信したデー
タと記憶手段に格納されたプログラムとに基づき,受信した「デジタル
信号」に「必要な処理」を行って「デジタル表示信号」を生成する機能,
データファイルとして記憶手段に格納した「デジタル信号」を読み出し25
た上で「処理」する機能及びその「処理結果」に基づき「グラフィック
コントローラ」を動作させる機能を有しているものと理解できる。
(イ)本件明細書の記載について
本件明細書には,「【課題を解決するための手段】」として,「データ処
理手段」が「前記入力手段から送信されたデータ及び前記記憶手段に格
納されたプログラムに基づき,前記無線通信手段から受信したデジタル5
信号及び/又は前記記憶手段から読み出したデータに必要な処理を行っ
て,デジタル表示信号及びその他のデジタル信号を生成して送信する」,
「本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「デジタル表示信号」に
は,…「ビットマップデータ」等のデジタル画像データに直接対応した
信号だけでなく,デジタル画像データの生成(描画)を命令する描画命10
令のデジタル信号も含む」(【0032】)との記載がある。
これらの記載に照らし,前記(ア)の特許請求の範囲の記載を解釈すれば,
構成要件Dの「中央演算回路」及び「グラフィックコントローラ」によ
って構成される「データ処理手段」のうち,特に「データ」と「プログ
ラム」とに基づいて動作する「中央演算回路」が,「必要な処理」又は15
「処理」を行うことで,「ビットマップデータ」等のデジタル画像データ
に直接対応した信号又は描画命令のデジタル信号も含む「デジタル表示
信号」を生成するものと理解できる。
(ウ)被告の主張について
被告は,本件発明の構成要件Dの「処理する」とは,本件明細書にお20
ける「適切に処理する」(【0032】)ことに限定されると主張するので,
以下検討する。
a特許請求の範囲及び本件明細書の各記載について
本件明細書においては,「適切に処理する」の定義として,「表示信
号,画像データファイル又は動画信号(以下,表示信号等と略記する)25
を「適切に処理する」とは,ディスプレイ手段,又は,データ処理手
段及びディスプレイ手段が,表示信号等に含まれている画素ごとの論
理的な色情報を,ディスプレイ手段の画面を構成する物理的な画素の
色表示として過不足なく現実化することを意味しており,より具体的
には,物理的な現実化にあたって画素を間引いて表示画像の解像度を
小さくしたり,画素を補間して表示画像の解像度を大きくしたりしな5
いことを意味している。」と記載されている(【0032】)。
また,上記記載と同じ段落には,「適切に処理する」ことに関連して,
「本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「外部表示信号」とは,
周辺装置における外部ディスプレイ手段がそれを受信して適切に処理
することにより画像を表示することが可能であるような信号を意味す10
る。」,「また,表示信号等の「本来画像」とは,十分な大きさの画面解
像度を有するディスプレイ手段,又は,データ処理手段と十分な大き
さの画面解像度を有するディスプレイ手段とが,該表示信号等を受信
して適切に処理することにより表示される本来の画像を意味し,「本来
解像度」とは「本来画像」の解像度を意味する。」との記載がある。15
これに対し,構成要件Dには「適切に処理する」との記載はなく,
当該記載に関連する「外部表示信号」,「本来画像」及び「本来解像度」
との記載もないから,本件明細書における上記の各記載は,構成要件
Dの「必要な処理」ないし「処理」に係るものとは認められず,それ
らの解釈を左右するものとはいえない。20
b本件発明の作用効果との関係について
被告は,本件明細書に記載されている「付属ディスプレイパネルに
おいては,その画面解像度に相当する部分だけを切り出した部分画像
しか表示できなかったり,画素を間引くことによって画質を落とした
全体画像しか表示できなかったりしたような画像を,高解像度外部デ25
ィスプレイ手段においては,その本来の解像度のままの全体画像とし
て表示できるようになる」(【0078】第2文)という作用効果を奏
するためには,「適切な処理」(【0032】)が行われる必要があるか
ら,構成要件Dにおける「中央演算回路」の「必要な処理」及び「処
理」については「適切な処理」と解すべきであると主張する。
しかしながら,本件明細書の「【発明が解決しようとする課題】」5
(【0031】)の記載においては,外部ディスプレイ手段に表示しよ
うとする,付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像
について,その解像度が本来の解像度のままの全体画像である旨の記
載はない。
むしろ,本件明細書の「【発明を実施するための最良の形態】」にお10
いては,「中央演算回路1_10A1は,…AD/DA変換部1_112Cから送
信されるデジタル動画信号を一部間引くことによって,解像度の低い
画像の全体画像の描画命令を生成する」(【0118】),「テレビ放送を
視聴している場合及び被写体を撮影している場合には,それぞれAD
/DA変換部1_112C及びAD/DA変換部2_12Cから送信されるデジ15
タル動画信号における本来画像の解像度は,外部ディスプレイ装置5に
おける画面解像度より依然として大きいため,中央演算回路1_10A1は,
該デジタル動画信号を一部間引くことによって,解像度を外部ディス
プレイ装置5の画面解像度に合わせた低画質の全体画像の描画命令が生
成・送信される」(【0124】),「フラッシュメモリ14Aが画像の補間20
プログラムを格納しており,中央演算回路1_10A1がそれに従って作動
する場合には,外部ディスプレイ装置5の画面解像度(無線動画信号の
本来画像の解像度より大きい)と同じ解像度を有する画像の描画命令
を生成・送信することができる」(【0125】),「フラッシュメモリ
14Aが画像の補間プログラムを格納しており,中央演算回路1_10A1が25
それに従って作動する場合には,外部ディスプレイ装置5の画面解像度
(デジタル動画信号の本来画像の解像度より大きい)と同じ解像度を
有する画像の描画命令を生成することができる」「(【0126】)との
記載がある。これらの記載からは,外部ディスプレイ手段の解像度と
表示画像の本来の解像度との関係によっては,外部ディスプレイ手段
に画像を表示するに当たり,画素を間引いて表示画像の解像度を小さ5
くしたり,画素を補間して表示画像の解像度を大きくしたりする実施
例が示されていると理解できる。
そうすると,本件発明が解決しようとする課題及び本件発明の作用
効果としては,高解像度外部ディスプレイ手段において,その本来の
解像度のままの全体画像として表示できるという点ではなく,前記110
(2)イのとおり,大画面外部ディスプレイ手段において,付属ディスプ
レイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示することを,付属
表示データ生成手段とは別個に大画面外部ディスプレイ手段向けの専
用の表示データ生成手段を使用することなく,付属表示データ生成手
段への若干の機能追加だけで実現する点にあると認めるのが相当であ15
る。
したがって,外部ディスプレイ手段に表示される画像が,本来の解
像度のままの全体画像でなくとも,付属ディスプレイの画面解像度よ
りも大きい画像であれば,本件発明の作用効果を奏するといえるから,
構成要件D中の「必要な処理を行い」及び「処理する」は,本件明細20
書における「適切に処理する」(【0032】)に限定されるものとは認
められない。
c別件判決における判断との関係について
証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,別件判決においては,別
件発明の構成要件Iに「前記データ処理手段は,前記画像データファ25
イルの本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度より大き
い場合でも,前記画像データファイルをリアルタイムで処理すること
によって,及び/又は,前記データファイルを前記記憶手段に一旦格
納し,その後読み出した上で処理することによって,前記画像データ
ファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成する機能を
有する」とあるところ,そこでの「処理する」は別件特許に係る明細5
書の「適切に処理する」(本件明細書の【0032】と同じ記載。)を
いうとの判断がされたことが認められる。
しかしながら,別件発明の構成要件Iにおける「データ処理手段」
は,上記のとおり,「画像データファイル」を「処理する」ことによっ
て「前記画像データファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信10
号を生成する」と規定されているものであるのに対して,本件発明の
構成要件Dの「中央演算回路」の処理については,前記aのとおり,
「処理」の結果として生成されるものが「本来画像の全体画像」であ
る旨の規定はない。
したがって,別件発明の構成要件Iにおける「処理する」の解釈は,15
本件発明の構成要件Dにおける「処理する」の解釈を左右するもので
はない。
d以上のとおり,被告の指摘する各点を考慮しても,本件発明の構成
要件D中の「必要な処理を行い」ないし「処理する」は,本件明細書
における「適切に処理する」(【0032】)に限定されないというべき20
である。
(エ)小括
以上によれば,構成要件Dにおいて「中央演算回路」が行う「必要な
処理」ないし「処理」は,「適切に処理する」こと,すなわち,画像デー
タファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成することに25
は限定されず,無線通信手段から受信したデジタル信号又は記憶手段か
ら読み出したデータファイルから,ビットマップデータ等のデジタル画
像データに直接対応した信号又はデジタル画像データの生成を命令する
描画命令のデジタル信号を含むデジタル表示信号を生成することである
と認めるのが相当である。
イ「必要な処理」又は「処理」を行う「中央演算回路」該当性5
前記前提事実(5)ア及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品におけるモバ
イルプロセッサは,構成要件Dの「中央演算回路」に該当し,タッチパネ
ルから受信したデータと内部メモリに格納されたプログラムに基づき,無
線通信手段から受信したデジタル信号(画像データ)を処理して,別紙3
「被告各製品の構成要素」の一覧表における「内蔵ディスプレイの解像度」10
に記載された解像度の内蔵ディスプレイ表示用ビットマップデータ(内蔵
用データ)及び画像解像度がHD(1280×720画素)である外部表
示用ビットマップデータ(外部用データ)を生成し,これを伝達する信号
をグラフィックコントローラに送信する機能を有するものと認められる。
したがって,被告各製品におけるモバイルプロセッサの上記の機能は,15
無線通信手段から受信したデジタル信号から,ビットマップデータ等のデ
ジタル画像データに直接対応した信号であるデジタル表示信号を生成する
ものに該当するから,被告各製品は,構成要件Dの「必要な処理」を行う
「中央演算回路」を備えるものと認められる。
(2)被告各製品は,構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備えるか20
ア「単一のVRAM」の意義
(ア)特許請求の範囲の記載について
a構成要件Dにおいては,「グラフィックコントローラ」が,「該中央
演算回路の処理結果に基づき,単一のVRAMに対してビットマップ
データの書き込み/読み出しを行い,「該読み出したビットマップデー25
タを伝達するデジタル表示信号」を生成」すると規定されている。
また,構成要件Hにおいては,「グラフィックコントローラ」が,
「前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と
同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み
出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成」す
ること及び「前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画5
面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読
み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信
号」を生成」することが規定されている。
なお,構成要件Hにおける「前記単一のVRAM」の文言から,構
成要件Dと構成要件Hの「単一のVRAM」は同一の意義を持つもの10
と解される。
これらの記載から,構成要件D及びHの「単一のVRAM」は,「グ
ラフィックコントローラ」により,「ビットマップデータの書き込み/
読み出し」がされるものであって,その「読み出し」においては,携
帯情報通信装置の「ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を15
有する画像のビットマップデータ」又は「ディスプレイパネルの画面
解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」の読み
出しがされるものであると理解できる。
b他方で,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「単一のVR
AM」を定義する記載はないところ,「単一」について,「三省堂国語20
辞典第七版」には,「そのものばかりであること。」,「ひとつ。」等の記
載があり(乙3),また,「VRAM」について,「IT用語がわかる辞
典」の解説には,「「videorandomaccessmemory」の頭文字から。「ビ
デオRAM」「ビデオメモリー」「グラフィックスメモリー」ともいう。」
との記載が,「ASCII.jpデジタル用語辞典」の解説には,「デ25
ィスプレーに表示する画像データを一時的に蓄積するメモリーで,ビ
デオカードなどに搭載されている。」との記載が,「ブリタニカ国際大
百科事典小項目辞典」の解説には,「ディスプレイに表示する画像デー
タを記憶するために使われる半導体RAM。」との記載がある(甲1
5)。
これらの記載から,「単一のVRAM」の一般的な語義については,5
コンピュータのディスプレイに表示する画像データを一時的に蓄積す
るメモリが,一つ存在することを意味するものと理解できる。
c以上によれば,構成要件D及びHの「単一のVRAM」については,
画像のビットマップデータの書き込み及び2種類の解像度を有する画
像のビットマップデータの読み出しがされるメモリが一つ存在するこ10
とを意味すると解するのが相当である。
(イ)本件明細書の記載について
本件明細書においても,「単一のVRAM」の定義規定は置かれていな
いが,「グラフィックコントローラ1_10Bは…必要に応じてVRAM
(VideoRAM)1_10Cへの書き込み/読み出しを行いつつ,該ビット15
マップデータをLCDドライバ15Bに送信する。」(【0115】)との記載
があり,また,【図1】においては,「VRAM1」が,「中央演算回路
1」,「グラフィックコントローラ1_10B」,「LCDドライバ」等と同列
に記載されている。
これらの記載からは,構成要件D及びHの「VRAM」について,中20
央演算回路,グラフィックコントローラ,LCDドライバ等と同様の物
理的に把握可能なハードウェアと理解するのが相当であって,さらに,
前記(ア)の検討結果と総合すれば,「単一のVRAM」とは,ハードウェ
アとしての一つのVRAM(ディスプレイに表示する画像データを一時
的に蓄積するメモリ)をいうものと解することができる。25
(ウ)被告の主張について
被告は,構成要件D及びHの「VRAM」とは,ハードウェアではな
く,ディスプレイに画像を表示するために必要なデータを保持するメモ
リ領域を指し,「単一のVRAM」とは,一つの仮想画面のビットマップ
データを書き込むメモリ領域が単一という意義であると主張するので,
以下検討する。5
a特許請求の範囲の記載について
本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「メモリ領域」ないし
「仮想画面」に係る記載はない。
「VRAM」の語義について,「IT用語辞典バイナリ」と題するウ
ェブページ(乙2)においては,被告が主張するように,「ディスプレ10
イに画像を表示するために必要なデータを保持するメモリ領域」との
記載があるものの,前記(ア)bのとおり,「メモリ領域」との語義につ
いては触れていない解説も複数あり,「VRAM」を「メモリ領域」と
の意義で使用することが一般的であるとは認められない。
b本件明細書の記載について15
被告は,本件明細書において,VRAMにデータサイズの大きい仮
想画面のビットマップデータを書き込み,この仮想画面のビットマッ
プデータから内蔵ディスプレイ用ビットマップデータや外部ディスプ
レイ用ビットマップデータを切り出す動作が記載されており(【011
5】,【0117】,【0127】),この動作では,一つの仮想画面のビ20
ットマップデータが書き込まれるメモリ領域と,内蔵ディスプレイ用
ビットマップデータ及び外部ディスプレイ用ビットマップデータが切
り出されるメモリ領域が同一であることが前提とされているから,本
件明細書の上記の記載は,一つの仮想画面のビットマップデータを書
き込むメモリ領域が単一であることを示すものであると主張する。25
しかしながら,被告が指摘する本件明細書の記載は,「VRAM
(VideoRAM)1_10C」をハードウェアとしてのメモリと理解する
ことと矛盾するものではない。
その他,本件明細書において,構成要件D及びHの「VRAM」が,
ハードウェアではなく,メモリ領域であることを示すような記載は見
当たらない。5
cしたがって,構成要件D及びHの「単一のVRAM」が,一つの仮
想画面のビットマップデータを書き込むメモリ領域が単一であること
を意味するとの被告の前記主張は,採用することができない。
(エ)小括
以上によれば,構成要件D及びHの「単一のVRAM」は,ハードウ10
ェアとしてのVRAM(ディスプレイに表示する画像データを一時的に
蓄積するメモリ)が一つであることを意味するものと認めるのが相当で
ある。
イ「単一のVRAM」該当性
(ア)前記前提事実(5)ア及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品の構成に15
ついて,ハードウェアとしてのVRAMが一つ内蔵されていると認める
のが相当である。
したがって,被告各製品のVRAMは,構成要件D及びHにおける
「単一のVRAM」に該当するから,被告各製品は,これを備えるもの
と認められる。20
(イ)被告は,本件明細書の【図1】では符号10Bの「グラフィックコン
トローラ1」と符号10Cの「VRAM1」とが物理的に分離した別の
部品として記載されているところ,被告各製品においては,VRAMは
グラフィックコントローラに相当する液晶コントローラICに内蔵され
ており,液晶コントローラICとVRAMが物理的に別の部品になって25
いないから,被告各製品は「単一のVRAM」を備えないと主張する。
しかしながら,「グラフィックコントローラ」と「VRAM」とが一体
的に構成されているかどうかは,「VRAM」が単一であるかどうかとは
別の問題であるといえ,「グラフィックコントローラ」と「VRAM」が
一体であるか否かという点については,本件発明のいずれの構成要件に
おいても特定がされていない。5
また,ブロック図である本件明細書の【図1】において符号10Bの
「グラフィックコントローラ1」と符号10Cの「VRAM1」とが別
個に記載されているかどうかによって,本件発明における「VRAM」
と「グラフィックコントローラ」との間の物理的構成が限定されるとも
いえない。10
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3)被告各製品の構成要件D及びHの充足性について
以上のとおり被告各製品が構成要件Dの「必要な処理」又は「処理」を行
う「中央演算回路」並びに構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備える
こと,そして,前記前提事実(5)ア及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,15
いずれも,構成要件D及びHを充足し,本件発明の技術的範囲に属するもの
と認められる。
3争点2-1(甲11公報を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲11公報の記載事項等
ア優先日(甲第1号証,甲第2号証及び弁論の全趣旨から,平成16年120
2月24日を本件発明についての優先日(以下「本件優先日」という。)と
認める。)前に頒布された刊行物である甲11公報には次のような記載があ
る(下記記載中に引用する【図1】については,別紙8「甲11公報の図
面」参照)。
(ア)【0001】25
【発明の属する技術分野】
本発明は,携帯電話機(通信機能搭載のパームトップPCやPDA
[PersonalDigital/DataAssistant]などの携帯電子機器を含む)に関
するものである。
(イ)【0002】
【従来の技術】5
従来より,携帯電話機の多くは,各種情報(静止画や動画,文字など)
を表示する手段として,数インチの表示部(液晶ディスプレイなど)を
有して成る。
(ウ)【0004】
【発明が解決しようとする課題】10
確かに,上記構成から成る携帯電話機は,アドレス帳や電子メールの内
容,或いは携帯電話機での閲覧を目的として作成されたWebコンテン
ツ等を表示部に出力することができるので,ユーザにとって非常に便利
である。
【0005】15
しかしながら,上記構成から成る携帯電話機では,本体の携帯性を考慮
して表示部の設置面積を大きくとれないため,表示内容の視認性や臨場
感が乏しい上,ユーザの視力低下を招くおそれがあった。また,携帯電
話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツについては,正常に
表示することすらできなかった。20
【0007】
本発明は,上記の問題点に鑑み,本体の携帯性を損なうことなく,表示
内容の視認性や臨場感を向上させることが可能な携帯電話機の提供を第
1の目的と…する。
(エ)【0008】25
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明に係る携帯電話機は,入力された情
報を外部表示装置で読取可能な画像信号形式に変換して出力する画像出
力部を有して成り,前記外部表示装置への情報出力を行う構成としてい
る。このような構成とすることにより,本体の携帯性を損なうことなく,
表示内容の視認性や臨場感を向上させることが可能となる。5
【0012】
また,上記構成から成る携帯電話機において,前記外部表示装置に出力
される情報は,サーバから取得されたWebコンテンツ情報とすればよ
い。このような構成とすることにより,外部表示装置には,閲覧中のW
ebコンテンツ情報が表示されることになるので,携帯電話機本体の携10
帯性を損なうことなく,表示内容の視認性を向上させることが可能とな
る上,携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツについ
ても,正常に表示することが可能となる。…
(オ)【0015】
【発明の実施の形態】15
図1は本発明に係る携帯電話機の要部構成を示すブロック図である。本
図に示すように,本発明に係る携帯電話機1は,制御部10と,送受信
部11と,表示部12と,音声部13と,操作部14と,撮像部15と,
記憶部16と,画像出力部17と,を有して成る。
【0016】20
制御部10は,CPU[CentralProcessingUnit]等から成り,上記各
部11~17を含む装置全体の動作を制御する。送受信部11は,送信
回路と受信回路を有して成り,アンテナ11aを介して電波を送受信す
ることで,基地局(不図示)との双方向通信を行う。なお,アンテナ1
1aとしては,携帯性や格納性に優れたロッドアンテナを用いるとよい。25
表示部12は,液晶ディスプレイ等から成る情報表示手段である。音声
部13は,マイク13aやスピーカ13bを制御する音声入出力手段で
ある。操作部14は,ダイヤルキーやブラウザ操作キー等を備えた入力
デバイスである。撮像部15は,CCDカメラやCMOSカメラから成
る画像撮影手段である。記憶部16は,ROMやRAMから成る情報格
納手段である。本発明の特徴部分である画像出力部17は,入力された5
情報(静止画や動画,文字など)を外部表示装置2で読取可能な画像信
号形式(例えば,ビデオ信号形式)に変換して出力するインターフェイ
ス部である。
【0018】
第1の具体例は,記憶部16の格納情報(アドレス帳や電子メールの内10
容等)を外部表示装置2に出力する場合である。この場合,制御部10
は,記憶部16から所望の情報を読み出して画像出力部17に送出し,
該情報を外部出力するように要求する。該要求を受けた画像出力部17
は,制御部10からの入力情報に所定の信号処理を施して外部表示装置
2に出力する。このような動作により,外部表示装置2には,携帯電話15
機1の記憶部16から読み出された情報が表示されることになる。従っ
て,外部表示装置2として表示部12より大型のモニタ装置を用いれば,
携帯電話機1本体の携帯性を損なうことなく,表示内容の視認性を向上
させることが可能となる。
【0020】20
第3の具体例は,閲覧中のWebコンテンツ情報を外部表示装置2に出
力する場合である。この場合,制御部10は,送受信部11を介して指
定サーバから所望のWebコンテンツ情報を取得して画像出力部17に
送出し,該情報を外部出力するように要求する。該要求を受けた画像出
力部17は,制御部10からの入力情報に所定の信号処理を施して外部25
表示装置2に出力する。このような動作により,外部表示装置2には,
閲覧中のWebコンテンツ情報が表示されることになる。従って,外部
表示装置2として表示部12より大型のモニタ装置を用いれば,携帯電
話機1本体の携帯性を損なうことなく,表示内容の視認性を向上させる
ことが可能となる。また,携帯電話機での閲覧が意図されていないWe
bコンテンツについても,表示部12のサイズや解像度に依存すること5
なく正常に表示することが可能となる。
(カ)【0026】
【発明の効果】
上記したように,本発明に係る携帯電話機であれば,本体の携帯性を損
なうことなく,表示内容の視認性や臨場感を向上させることが可能とな10
る。…
イ前記アの記載事項によれば,甲11公報には,甲11発明に関し,次の
ような開示があることが認められる。
(ア)従来より,携帯電話機の多くは,各種情報(静止画や動画,文字など)
を表示する手段として,数インチの表示部(液晶ディスプレイなど)を15
有しており,このような構成から成る携帯電話機は,アドレス帳や電子
メールの内容,或いは携帯電話機での閲覧を目的として作成されたWe
bコンテンツ等を表示部に出力することができるので,ユーザにとって
非常に便利であったが,本体の携帯性を考慮して表示部の設置面積を大
きくとれないため,表示内容の視認性や臨場感が乏しい上,ユーザの視20
力低下を招くおそれがあり,また,携帯電話機での閲覧が意図されてい
ないWebコンテンツについては,正常に表示することすらできなかっ
た(【0002】,【0004】,【0005】)。
(イ)「本発明」は,前記(ア)の問題点に鑑み,本体の携帯性を損なうこと
なく,表示内容の視認性や臨場感を向上させることを目的とし,この目25
的を達成するために,
「ダイヤルキーやブラウザ操作キー等を備えた入力デバイスである操
作部14と,
送信回路と受信回路を有して成り,アンテナを介して電波を送受信す
ることで,基地局との双方向通信を行う送受信部11と,
ROMやRAMから成る情報格納手段である記憶部16と,5
CPU等から成り,装置全体の動作を制御する制御部10と,
液晶ディスプレイ等から成る情報表示手段である表示部12と,
入力された情報(静止画や動画,文字など)を外部表示装置2で読取
可能な画像信号形式(例えば,ビデオ信号形式)に変換して出力するイ
ンターフェース部である画像出力部17と,10
を備えるとともに,
制御部10は,送受信部11を介して指定サーバから所望のWebコ
ンテンツ情報を取得して画像出力部17に送出し,該情報を外部出力す
るように要求し,
該要求を受けた画像出力部17は,制御部10からの入力情報に所定15
の信号処理を施して外部表示装置2に出力することによって,携帯電話
機での閲覧が意図されていないWebコンテンツについても,表示部1
2のサイズや解像度に依存することなく正常に表示することが可能にな
る携帯電話機1」を提供するものである(【0007】,【0008】,【0
015】,【0016】,【0018】,【0020】)。20
このような構成とすることにより,「本発明」に係る携帯電話機は,本
体の携帯性を損なうことなく,表示内容の視認性や臨場感を向上させる
ことが可能となるという作用効果を奏する(【0026】)。
(2)乙4公報の記載事項等
ア本件優先日前に頒布された刊行物である乙4公報には,次のような記載25
がある(下記記載中に引用する【図1】,【図2】,【図6】,【図7】は,別
紙9「乙4公報の図面」参照)。
(ア)【特許請求の範囲】
【請求項1】内蔵された内部表示装置における表示以外に,外部表示装
置を接続して表示させることが可能な携帯情報処理装置において,
前記内部表示装置と,前記内部表示装置よりも高解像度の前記外部表示5
装置に表示させる表示データを格納する表示メモリと,
前記内部表示装置による内部表示と,前記外部表示装置による外部表示
とをそれぞれ制御して,前記表示メモリに格納された表示データに応じ
た画面を表示させる表示コントローラと,
前記前記内部表示装置による内部表示の内容を選択的に前記外部表示装10
置に表示させる表示制御手段とを具備したことを特徴とする携帯情報処
理装置。
(イ)【発明の詳細な説明】
a【0002】
【従来の技術】一般に,携帯情報処理装置は,携帯性を確保するため15
に装置の小型化が要求され,それに伴って出力装置として内蔵した表
示デバイスの表示サイズも小さくなってしまうため,例えば特開平8
-115063号に開示されているように,大きな表示サイズでの表
示を可能とするために外部表示機器であるCRTを接続可能な機能が
設けられている。20
【0003】携帯情報処理装置は,外部表示機器を接続した場合,内
蔵した表示デバイスにおいて表示する描画イメージと同じ描画イメー
ジを外部表示機器において表示させる。
b【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように従来の携帯情報処理装置25
では,外部表示機器を接続した場合には,内蔵した表示デバイスでの
描画イメージと同じ描画イメージを,外部表示機器において表示させ
ていた。
【0005】従って,外部表示機器を用いた場合には,画面の物理的
な表示サイズが大きくなるだけであって,外部表示機器の解像度が内
蔵した表示デバイスの解像度よりも高く,より多くの情報を表示可能5
であったとしても,同じ情報を提供するだけとなっていた。
【0006】つまり,従来の携帯情報処理装置では,内蔵した表示デ
バイスの解像度よりも高解像度の外部表示機器を利用することで生じ
る,より広い画面表示サイズを有効に利用することができなかった。
【0007】本発明は前記のような事情を考慮してなされたもので,10
外部表示機器における表示を有効に活用することが可能な携帯情報処
理装置及び外部表示出力の制御方法を提供することを目的とする。
c【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は,内蔵された内部表示装置に
おける表示以外に,外部表示装置を接続して表示させることが可能な15
携帯情報処理装置において,内部表示装置における内部表示用の表示
データを格納するための領域と,内部表示装置よりも高解像度の外部
表示装置における外部表示用の表示データを格納するための領域を表
示メモリに確保し,内部表示用の表示データを選択的に外部表示用の
領域に格納することで,解像度の違いによる外部表示装置における表20
示領域を有効に利用できるようにしている。
d【0009】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施の形態につ
いて説明する。はじめに,本実施形態における携帯情報処理装置(携
帯機器2)の基本構成,及び動作の概略について説明する。25
【0011】図2は、図1に示す携帯機器2のシステム構成を示すブ
ロック図である。…
【0012】図1に示すように,本実施形態における携帯機器2は,
CPU10,システムメモリ(DRAM)12,ROM14,入力装
置16,表示メモリ18,表示コントローラ20,及び内部表示装置
22を有して構成されている。また,携帯機器2は,表示コントロー5
ラ20を介して,外部表示装置24(図1中に示す外部表示デバイス
4)を接続して表示させることができる。
【0013】CPU10は,システム全体の制御を司るもので,シス
テムメモリ12やROM14に格納されたプログラム,例えば表示制
御に関係するOS(オペレーティングシステム),表示描画プログラム,10
デバイスドライバ等に従って各種の制御を実行する。
【0014】システムメモリ12は,プログラムやデータ等の一時使
用の記憶領域として使用される。ROM14は,プログラム等の本体
の記憶領域として使用される。
【0015】入力装置16は,画面の座標位置等入力するペン(タブ15
レット)やマウス等のポインティングデバイス,文字等を入力するキ
ーボードなどにより構成される。表示メモリ18は,内部表示装置2
2及び外部表示装置24において表示させる表示データの記憶領域と
して使用される。表示メモリ18の記憶領域の制御については後述す
る。20
【0016】表示コントローラ20は,内部表示装置22及び外部表
示装置24における表示を制御するもので,表示メモリ18に格納さ
れた表示データに応じて,内部表示装置22と外部表示装置24に対
して異なる画面を表示させることができる。
【0017】内部表示装置22は,携帯機器2に予め内蔵されたLC25
D等によって構成される表示デバイスであり,携帯機器2の筐体のサ
イズに応じて比較的,表示サイズが小さい表示装置である。…
【0018】外部表示装置24は,携帯機器2にケーブル等(無線等
による接続も可能)を介して任意に接続されるCRT等によって構成
される表示デバイスであり,本実施形態では内部表示装置22よりも
表示サイズが大きく,かつ高解像度であるものが用いられるものとす5
る。
【0033】次に,内部表示装置22及び外部表示装置24における
描画の動作について説明する。図6は,内部表示装置22及び外部表
示装置24で描画を行なうための簡単な流れの仕組みを示す図である。
【0034】ここでは,システムは定常状態であり,通常の表示,す10
なわち内部表示装置22における内部表示が行われているものとし,
さらに外部表示装置24による外部表示を行わせる。
【0035】まず,外部表示装置24において外部表示させるために,
ユーザによって外部表示装置24への表示データ(描画イメージ)の
出力方法を指定させる。この出力方法の指定は,例えばアプリケーシ15
ョンプログラム35の実行により提供される機能によって,ユーザか
らの指示を入力装置16から指定させる。出力方法の指定の内容とし
ては,例えば「内部表示と同じ描画イメージを表示する」,「内部表示
と異なった描画イメージを表示する」といった指定があるものとする。
【0036】アプリケーション35によって出力方法の指定が入力さ20
れると,OS38の制御のもとで,内部表示用と外部表示用のそれぞ
れの描画プログラム(以下,内部表示ドライバ36,外部表示ドライ
バ37)に従って,表示コントローラ20に対してユーザからの指定
の設定,すなわち内部表示と外部表示に用いる表示データ(描画イメ
ージ)を示すアドレスを表示コントローラ20内のレジスタ20bに25
設定する。
【0037】一方,アプリケーションプログラム35は,内部表示装
置22と外部表示装置24において描画させるイメージ,すなわち内
部表示イメージと外部表示イメージの2種類を,それぞれの表示装置
の解像度に合わせて,表示メモリ18上にライトする。
【0038】表示コントローラ20は,アプリケーションプログラム5
35によってライトされた内部表示イメージと外部表示イメージに応
じて,内部表示装置22と外部表示装置24に対して,それぞれに応
じた描画イメージを表示させる。
【0039】図7は,前述のようにして内部表示イメージと外部表示
イメージがライトされる,表示メモリ18の使用方式の一例を示す図10
である。図7(a)に示す例は,解像度の異なる内部表示装置22
(低解像度)と外部表示装置24(高解像度)に対して,表示メモリ
18の表示エリアの一部を共有させることを示している。
e【0104】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば,内部表示装置に15
おける内部表示用の表示データを格納するための領域と,内部表示装
置よりも高解像度の外部表示装置における外部表示用の表示データを
格納するための領域を表示メモリに確保し,内部表示用の表示データ
を選択的に外部表示用の領域に格納することで,解像度の違いによる
外部表示装置における表示領域を有効に利用することが可能となる。20
イ前記アの記載事項によれば,乙4公報には,乙4発明に関し,次のよう
な開示があることが認められる。
(ア)一般に,携帯情報処理装置は,携帯性を確保するために装置の小型化
が要求され,それに伴って出力装置として内蔵した表示デバイスの表示
サイズも小さくなってしまうことから,大きな表示サイズでの表示を可25
能とするために外部表示機器であるCRTを接続可能な機能が設けられ
ているところ,従来の携帯情報処理装置では,外部表示機器を接続した
場合に,内蔵した表示デバイスでの描画イメージと同じ描画イメージを
外部表示機器において表示させていたため,画面の物理的な表示サイズ
が大きくなるだけであって,外部表示機器の解像度が内蔵した表示デバ
イスの解像度よりも高く,より多くの情報を表示可能であったとしても,5
同じ情報を提供するだけとなっており,内蔵した表示デバイスの解像度
よりも高解像度の外部表示機器を利用することで生じる,より広い画面
表示サイズを有効に利用することができなかった(【0002】ないし
【0006】)。
(イ)「本発明」は前記(ア)のような事情を考慮してなされたもので,外部10
表示機器における表示を有効に活用することを目的として,
「画面の座標位置等入力するペン(タブレット)やマウス等のポイン
ティングデバイス,文字等を入力するキーボードなどにより構成される
入力装置16と,
プログラムやデータ等の一時使用の記憶領域として使用されるシステ15
ムメモリ12及びプログラム等の本体の記憶領域として使用されるRO
M14と,
システムメモリ12やROM14に格納されたプログラム等に従って
各種の制御を実行するCPU10と,
内部表示装置22及び外部表示装置24における表示を制御する表示20
コントローラ20と,
携帯機器2に予め内蔵されたLCD等によって構成される表示デバイ
スである内部表示装置22と,
を備えるとともに,
アプリケーションプログラム35によって内部表示装置22と外部表25
示装置24において描画させるイメージ,すなわち内部表示イメージと
外部表示イメージの2種類が,それぞれの表示装置の解像度に合わせて,
表示メモリ18上にライトされ,表示コントローラ20は,表示メモリ
18に格納された表示データ(描画イメージ)に応じて,内部表示装置
22とケーブル等を介して任意に接続される外部表示装置24(CRT
等によって構成される内部表示装置よりも高解像度である表示デバイス)5
に対して異なる画面を表示させることができる携帯情報処理装置である
携帯機器2」を提供するものである(【請求項1】,【0007】,【000
8】,【0012】ないし【0018】,【0034】ないし【0038】)。
このように,内部表示装置における内部表示用の表示データを格納す
るための領域と,内部表示装置よりも高解像度の外部表示装置における10
外部表示用の表示データを格納するための領域を表示メモリに確保し,
内部表示用の表示データを選択的に外部表示用の領域に格納することで,
解像度の違いによる外部表示装置における表示領域を有効に利用するこ
とが可能となるという効果を奏する(【0104】)。
(3)甲11発明と本件発明との対比15
前記(1)イの甲11発明と本件発明とを対比すると,構成要件D,E,H,
Iに対応する構成に関して,以下の各点で相違することが認められ,その余
は一致する。このうち,構成要件Hに係る相違点については,被告が主張す
る相違点3と原告が主張する相違点甲は実質的には同じ点を指摘するものと
いえ,下記の相違点③のとおり認定するのが相当である。20
(相違点①)
構成要件Dに対応する構成として,本件発明では,中央演算回路の処理結
果に基づき,グラフィックコントローラが,単一のVRAMに対してビット
マップデータの書き込み/読み出しを行い,読み出したビットマップデータ
を伝達するデジタル表示信号を生成し,当該デジタル表示信号をディスプレ25
イ制御手段(内部表示装置用の制御手段)とインターフェース手段(外部表
示装置用のデータ送信手段)に送信する,と具体的に特定されているのに対
して,甲11発明では表示部12(内部表示装置)及び外部表示装置2にデ
ジタル表示信号を送信するのが単に「制御部10」としか特定されていない
点。
(相違点②)5
構成要件Eに対応する構成として,本件発明ではグラフィックコントロー
ラから受信したデジタル表示信号に基づき,ディスプレイ手段が制御される
旨の特定がされているのに対し,甲11発明では単に「制御部10」が液晶
ディスプレイ等からなる情報表示手段である表示部12を制御するとしか特
定されていない点。10
(相違点③)
構成要件Hに対応する構成として,本件発明の「グラフィックコントロー
ラ」は,「前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面
解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合」の機能とし
て,「前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ15
解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビッ
トマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信
号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と前記単一のVRAMから
「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビ
ットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達す20
るデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記インターフェー
ス手段に送信する機能」を有すると特定されているのに対して,甲11発明
においては,制御部10が液晶ディスプレイ等からなる表示部12を制御す
ること,「携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツ」を外部
表示装置2に出力して「表示部12のサイズや解像度に依存することなく正25
常に表示する」際に,「制御部10」が,「指定サーバから所望のWebコン
テンツ情報を取得して画像出力部17に送出する」ことが示されるに留まり,
これらの表示の際に「VRAMからビットマップデータを読み出す」とも
「読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号を生成する」
とも特定されていない点。
(相違点④)5
構成要件Iに対応する構成として,本件発明ではインターフェース手段に
よる,デジタル外部表示信号の伝送方式がデジタルRGB,TMDS,LV
DS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれかに限定されているのに対
し,甲11発明では画像出力部17から外部表示装置2への伝送方式が限定
されていない点。10
(4)相違点③について
事案に鑑み,前記(3)の相違点のうち,構成要件Hに係る相違点③について,
まず検討する。
ア本件発明の相違点③に係る構成(構成要件H)と乙4発明の構成との異
同15
(ア)被告は,乙4発明の構成を相違点③(被告主張の相違点3)に係る甲
11発明の構成に適用することにより,本件発明の構成要件Hに至ると
主張する(前記第3の2(被告の主張)(1)ク)。しかしながら,本件発
明において,「携帯情報通信装置」の「グラフィックコントローラ」は,
「前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面解20
像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合に」VRA
Mから「画像のビットマップデータ」を読み出し,「読み出したビットマ
ップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成するのに対して,乙4
発明では,「携帯情報処理装置」である「携帯機器2」が「本来解像度が
ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画25
像を表示するとはされておらず,「表示コントローラ20」は「表示メモ
リ18」に格納された「表示データ(描画イメージ)」を表示するもので
ある。
そうすると,この点において,本件発明の構成要件Hと乙4発明にお
ける構成には上記相違点(原告主張の相違点乙に相当するものであり,
以下「相違点⑤」という。)が存在するものと認められる。5
(イ)被告は,構成要件Hと乙4発明との間に前記(ア)の相違点があるとし
ても,設計事項の変更にすぎないと主張する。
しかしながら,本件発明が「携帯情報通信装置」を提供するものであ
るのに対し,乙4発明は「携帯情報処理装置」を提供するものであって,
本件発明の「無線通信手段」を備えるものではないから,両発明は異な10
る装置に係るものである。
そして,乙4公報には,本件発明の「携帯情報通信装置」のように,
外部から入力された画像を処理することを示唆する記載はなく,内部表
示装置の解像度よりも本来解像度が大きな高解像度画像の処理について
の記載もない。15
そうすると,相違点⑤について,当業者が通常行う設計変更に係る事
項にすぎないということはできない。
(ウ)したがって,本件発明の構成要件Hと乙4発明の構成には相違点⑤が
存在し,これは設計事項とはいえないため,相違点③に係る甲11発明
の構成に乙4発明の構成を適用したとしても,本件発明の構成要件Hに20
至るものではない。
イ乙4発明の適用による相違点③の容易想到性について
甲11発明は,前記(1)イのとおり,「携帯電話機」の発明であり,「送受
信部11」が外部から受信した「携帯電話機での閲覧が意図されていない
Webコンテンツ」に係る情報を「制御部10」が「画像出力部17」に25
送出し,「画像出力部17」がこの情報を外部表示装置2に出力して「表示
部12のサイズや解像度に依存することなく正常に表示する」ものである
ところ,甲11公報には,「制御部10」及び「画像出力部17」が携帯電
話機の「表示部12」の画面解像度よりも大きい解像度を有する「Web
コンテンツ等」を「外部表示装置2」に表示するに当たっての問題点やそ
の具体的な解決の方向を示唆するような記載はない。他方,乙4発明は,5
前記ア(イ)のとおり,「無線通信手段」を備えない「携帯情報処理装置」の
発明であって,乙4公報には,外部から入力された画像を処理することを
示唆する記載はなく,「Webコンテンツ」のように本来解像度が内部表示
装置の解像度より大きな高解像度画像の処理についての記載もない。
そうすると,甲11公報に接した当業者が,乙4発明を認識していたと10
しても,「携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツ」を
「外部表示装置2」に出力して「表示部12」のサイズや解像度に依存す
ることなく正常に表示するための具体的な構成として,乙4発明の構成を
採用する動機付けがあるとは認められない。
したがって,当業者において,甲11発明に乙4発明を組み合わせるこ15
とによって,相違点③に係る構成を容易に想到することができたものとは
認められない。
(5)小括
以上によれば,相違点③に係る甲11発明の構成に乙4発明の構成を適用
しても本件発明の構成要件Hには至らず,また,当業者が相違点③に係る甲20
11発明の構成に乙4発明の構成を適用する動機付けも認められないから,
その余の点について判断するまでもなく,本件発明は,本件優先日前に当業
者が甲11発明に基づいて,容易に発明をすることができたものとはいえな
い。
したがって,本件発明について,甲11公報を主引用例とする進歩性欠如25
の無効理由(特許法123条1項2号,29条2項)は認められない。
4争点2-2(乙4公報を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)乙4発明と本件発明との対比
前記3(2)イの乙4発明と本件発明とを対比すると,前記3(4)アのとおり,
構成要件Hに関して相違点⑤が存在し,また,その他に,少なくとも,構成
要件B,構成要件G,構成要件I及び構成要件Kに関して,以下の各点で相5
違することが認められる。
(相違点⑥)
構成要件Bに対応する構成として,乙4発明には無線通信手段が明示され
ていない点。
(相違点⑦)10
構成要件G及びKに対応する構成として,本件発明は携帯情報通信装置で
あるのに対して,乙4発明は携帯情報処理装置である点。
(相違点⑧)
構成要件Iに対応する構成として,本件発明ではインターフェース手段に
よる,デジタル外部表示信号の伝送方式がデジタルRGB,TMDS,LV15
DS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれかに限定されているのに対
し,乙4発明では,外部表示装置24への伝送方式が限定されていない点。
(2)相違点⑤について
事案に鑑み,前記(1)の相違点のうち,構成要件Hに係る相違点⑤について,
まず検討すると,前記3(4)アで検討したところからすれば,相違点⑤は当業20
者が通常行う設計変更に係る事項とは認められない。
なお,被告において具体的に主張するものではないが,仮に,相違点⑤に
係る乙4発明の構成に甲11発明の「送受信部11を介して指定サーバから
所望のWebコンテンツ情報を取得」するという構成を適用するとしたとし
ても,前記3(4)アで検討したとおり,これによって相違点⑤が解消されるも25
のではない。また,乙4発明は,携帯情報処理装置であって,無線通信手段
を備えるものではなく,乙4公報にも外部から入力された高解像度画像を処
理することを示唆する記載はないから,乙4発明に接した当業者が,外部か
ら入力された高解像度画像を処理するために,乙4発明に甲11発明を組み
合わせる動機付けも認められない。
(3)小括5
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件発明は,本件
優先日前に当業者が乙4発明に基づいて容易に発明をすることができたもの
とはいえないから,本件発明について,乙4公報を主引用例とする進歩性欠
如の無効理由(特許法123条1項2号,29条2項)は認められない。
5争点2-3(サポート要件違反)について10
前記2(1)アのとおり,構成要件Dの「必要な処理を行」う及び「処理する」
は,本件明細書の「適切に処理する」(【0032】)に限定されないとと解され
る。これを前提に,被告は,「適切に処理する」こと以外のデータ処理又は信号
処理を行うことによって,「付属ディスプレイパネルにおいては,その画面解像
度に相当する部分だけを切り出した部分画像しか表示できなかったり,画素を15
間引くことによって画質を落とした全体画像しか表示できなかったりしたよう
な画像を,高解像度外部ディスプレイ手段においては,その本来の解像度のま
まの全体画像として表示できるようになる」(【0078】第2文)という本件
発明の作用効果を達成できることは,本件明細書に記載されていないとして,
本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく,サポー20
ト要件(特許法36条6項1号の要件)を満たさないと主張する。
しかしながら,前記1(1)の本件明細書の記載によれば,本件明細書の発明の
詳細な説明には,被告が主張する上記の作用効果に対応する課題のみならず,
前記1(2)のとおり,外部ディスプレイ手段において,付属ディスプレイの画面
解像度よりも解像度が大きい画像を表示することを,不合理な二重投資や非効25
率な資源利用がないように,外部ディスプレイ手段向けの専用の表示データ生
成手段を,付属ディスプレイに画像を表示するためにもともと必要である表示
データ生成手段(付属表示データ生成手段)とは別個に使用することなく,付
属表示データ生成手段への若干の機能追加だけで実現することに係る課題が開
示されており,前記2(1)ア(ウ)bで検討したところに照らせば,本件発明が解
決しようとする課題は,後者であると認めるのが相当である。5
そして,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,上記のよう
な本件発明の課題について,本件発明の構成を採用することによって解決でき
ることを認識できるというべきである。
そうすると,本件発明に係る特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳
細な説明の記載とを対比すれば,特許請求の範囲に記載された本件発明が,本10
件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,その発明の詳細な説明の記
載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである
といえるから,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したもので
あると認められる。
したがって,被告のサポート要件違反の主張は理由がない。15
6争点2-4(本件訂正についての訂正要件違反)について
(1)本件特許に本件訂正前の特許請求の範囲は,別紙10「本件訂正前の特許
請求の範囲」に記載のとおりである(甲2,3,32)。
すなわち,本件訂正では,訂正後の本件発明における構成要件D及びHに
対応する部分について「単一のVRAM」という語句が追加され,グラフィ20
ックコントローラが「単一のVRAM」に対してビットマップデータの書き
込み/読み出しを行い(構成要件D),グラフィックコントローラが「単一の
VRAM」からディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像
のビットマップデータ及びディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像
度を有する画像のビットマップデータを読み出す(構成要件H)ことが特定25
されている(甲3。本件訂正における訂正事項4及び7)。
(2)被告は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面には
「単一のVRAM」という語句はなく,また,「単一のVRAM」という技術
的事項は上記の明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合する
ことによっても導かれる技術的事項ではないとして,特許請求の範囲の記載
に「単一のVRAM」という語句を追加することは特許法126条5項に違5
反すると主張する。
そこで検討するに,本件明細書には,本件発明における「VRAM」の動
作に対応する記載(【0115】,【0117】,【0127】等)があり,グラ
フィックコントローラが「VRAM」に対してビットマップデータの書き込
み/読み出しを行うこと,グラフィックコントローラが「VRAM」からデ10
ィスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデ
ータ及びディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像の
ビットマップデータを読み出すことが開示されているほか,【図1】にも「V
RAM」の記載が存在する。
そして,前記2(2)アのとおり,本件発明における「単一のVRAM」とは,15
「VRAM」がハードウェアとして一つであることを指すと解すべきところ,
本件明細書においては,「VRAM」のハードウェアとしての個数についての
特定はされていないが,VRAMが物理的に複数であることを必要とするよ
うな記載は見られない。そして,【図1】における「VRAM1」の記載も,
「VRAM」が物理的に一つのハードウェアであることと矛盾するものでは20
ない。
また,本件明細書に開示された本件発明の外部ディスプレイ手段向けの専
用の表示データ生成手段を,付属ディスプレイに画像を表示するためにもと
もと必要である表示データ生成手段とは別個に使用しないという作用効果
(前記1(2)イ)は,「VRAM」をハードウェアとして一つのものとして構25
成することと矛盾しない。
そうすると,特許請求の範囲に「単一のVRAM」との文言を加える訂正
は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した
事項の範囲内での訂正であり,特許法126条5項の要件に適合するものと
いうべきである。
なお,被告は,本件明細書等からは,VRAMが「単一」であることの積5
極的な意義を見出すことができず,「単一のVRAM」にするという技術的事
項は導き出せないことも根拠とするが,仮に,本件発明において,「VRAM」
を一つのハードウェアとして構成すること自体には特段の技術的意義がない
としても,「単一」のものに限定することが新規の技術的事項の追加になるも
のではない。10
したがって,被告の訂正要件違反の主張は理由がない。
7争点5(不法行為に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否)につ
いて
事案に鑑み,争点3に先立って,争点5について判断する。
(1)消滅時効の成否15
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7
月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23
年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日
頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし
て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し,20
平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。
そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月
2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程
度には認識していたものと認められる。25
したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に
ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認
められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し,
平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した
ものと認められる。
(2)原告の主張について5
ア原告は,本件特許に係る訂正登録日が平成30年8月13日であるから,
本件発明の技術的範囲はそれ以前には確定しておらず,したがって,原告
が被告各製品が本件発明の技術的範囲に属することを認識できるのは,本
件特許の訂正登録日以降になると主張する。
しかしながら,証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,本件訂正は,10
いずれも,特許請求の範囲の減縮(特許法126条1項ただし書1号)又
は「明瞭でない記載の釈明」(同3号)を目的としてなされたものであり,
実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,同条6項の
規定に適合するとして許容されたものである。このような事情に照らせば,
前記(1)のとおり被告各製品の構成を認識していた原告は,本件訂正に係る15
訂正登録前から,被告各製品が本件特許に係る発明(本件訂正前発明)の
技術的範囲に属することを認識できたというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,本件訂正前発明は進歩性を有していないものであったから,本
件訂正の訂正登録日以前には,本件特許権を実質的に行使できなかったと20
も主張する。
しかしながら,本件訂正前発明が進歩性欠如の無効理由を含むものであ
ったとしても,無効理由を解消するための訂正請求に係る登録がされる前
に本件特許権に基づく損害賠償請求訴訟を提起することは妨げられない。
そして,当該訴訟の中で本件訂正前発明について特許法104条の3第125
項の無効の抗弁が主張されたとしても,訂正の再抗弁として,訂正によっ
て無効理由が解消することを主張立証することにより,これを争うことは
可能であったものである。
したがって,原告において,本件訂正の訂正登録がされるまで本件特許
権侵害の損害賠償請求権を実質的に行使できなかったとはいえず,原告の
上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。5
(3)小括
以上によれば,原告の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権
は時効によって消滅しているから,その余の点について判断するまでもなく,
原告の主位的請求は理由がない。
8争点4(本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき10
利得の額)について
(1)不当利得返還義務の発生について
前記2のとおり,被告各製品は,いずれも本件発明の技術的範囲に属する
ものであり,前記3ないし6のとおり,本件発明に無効理由が存在するとは
認められないから,前記前提事実(6)の被告による被告各製品の製造,販売は15
本件発明の実施に該当する。
そして,被告は特許権者である原告に対して実施料を支払わずに上記の実
施を行ったものであるから,被告による被告各製品の製造,販売により,被
告はその実施料相当額の利得を得て,原告は同額の損失を被ったものと認め
られる。20
(2)実施料相当額について
ア前記前提事実(6)の被告による被告各製品の製造,販売に係る本件発明の
実施料相当額は,別紙5「被告各製品の販売状況」記載の被告各製品の売
上高を基準とし,そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定するのが
相当である。25
そして,特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては,
①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らか
でない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特
許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる
代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益へ
の貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業5
方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。
イ実施料率認定の考慮要素に係る事情
(ア)原告における特許発明の実施許諾の実績等
本件発明についての実施許諾契約が締結されたことはない(弁論の全
趣旨)。10
原告は,携帯情報通信装置等を製造,販売するメーカーではなく,被
告との競業関係はない。原告は,自社が考案・開発した情報処理・通信
システムについて,自社自身で製造,販売することはせず,他社に実施
許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで原
告が保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至った例はない15
(甲50,弁論の全趣旨)。
(イ)文献に記載された実施料の相場等
a本件発明に関連する実施料の相場等について,以下のような文献の
記載がある。
(a)本件報告書(「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在20
り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤル
ティ料率に関する実態把握~本編平成22年3月」。甲38)に
は,国内企業・団体を対象として,平成21年11月から平成22
年2月に実施されたアンケート結果として,技術分類のうち「電気」
の製品分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が2.9%(最25
大値9.5%,最小値0.5%)であり,「コンピュータテクノロジ
ー」の製品分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が3.1%
(最大値7.5%,最小値0.5%)であることの記載がある。
また,本件報告書では,「電気」の製品分野である,エレクトロニ
クス業界のライセンス交渉実態及びロイヤルティ決定手順について,
次のような記載がされている。5
規格技術に関する特許に係るパテントプールの例では,地デジの
通信規格技術について,特許300件ほどのパテントプールが形成
され,地デジTV一台あたり,200円の特許料が徴収されている
こと,MPEG2ビデオ圧縮技術について,特許100件ほどのパ
テントプールが形成され,DVDなどの製品1台あたり,2米ドル10
の特許料が徴収されていること。
デバイス等の製品は,数百から数千の要素技術で成り立っており,
一つのデバイスが関連する特許は膨大な量となり,1件あたりのロ
イヤルティ料率を定めると100%を超えてしまうため,デバイス
に関する特許は,各社が保有する特許群の中で代表的な特許を選抜15
し,クロスライセンスによる交渉を行うことが主流であり,交渉に
よって得られたロイヤルティの差がロイヤルティ料率又は一時金と
して設定され,その相場は1%未満となること。
(b)発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」(平成15年発行。
甲36)には,電子計算機・その他の電子応用装置の技術分野にお20
いて,「平成4年度~平成10年度」の実施料率の平均値は,イニシ
ャル有りが13.5%,イニシャル無しが33.2%との記載があ
る。
b前記aのとおり,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」には,
電気等の分野の実施料率の平均値等の記載があるものの,本件報告書25
では,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態について,一つの
デバイスが関連する特許が膨大な量となることから,実施料率の定め
に特徴がある旨の記載がされており,そこで例示されている実施料率
は,上記の平均値を大幅に下回るものである。
このような事情は携帯電話機(スマートフォン)である被告各製品
にも当てはまるものと考えられるから,被告各製品に関して,業界に5
おける実施料の相場等として上記の平均値等の記載を採用するのは相
当とはいえない。
(ウ)被告における被告各製品に関する実施許諾契約の実績
a被告従業員作成の陳述書(乙7,10),においては,被告各製品に
関する実施許諾契約の内容について,以下の説明がされている。10
(a)携帯電話に関する特許は,携帯電話の分野における標準規格の実
施に不可欠な特許(標準必須特許)とそれ以外の特許(アプリ特許)
に分けられるところ,被告は,携帯電話メーカー業界の慣行として,
いずれについても,実施許諾地域を全世界として,複数の特許権を
一括でライセンス契約を締結している。15
ライセンス料の方式には,売上高に一定の料率を掛けて算出され
るランニングロイヤルティを支払う「ランニング方式」と,契約締
結時に実施料を一括して支払う「一時金方式」がある。
(b)標準必須特許のライセンスを含めず,被告各製品の製造,販売に
関連する●(省略)●社との間のライセンス契約について,パテン20
トファミリー単位で1件辺りのライセンス料率を算定する(一時金
方式を取るものについてもライセンス期間中の売上高からライセン
ス料率を算定する)と,平均●(省略)●%となる。
(c)前記(b)の●(省略)●社のうち,ランニング方式での契約は1
社(C社)であり,残りは一時金方式であった。このC社との契約25
においては,●(省略)●平成29年までの平均では約●(省略)
●%であった。
(d)平成22年頃の画像処理・外部出力関連の標準規格としてはHD
MI通信規格を含む4規格が存在し,被告は,その当時,被告各製
品の販売に関連し,特許ライセンス料を含むこれらの規格の使用許
諾料として,1台当たり合計●(省略)●米ドルを支払っていた。5
b前記aの陳述書の記載内容は,本件報告書における前記(イ)a(a)の
記載とも整合的であり,前記(ア)のとおり,原告による実施許諾の実績
がないことも踏まえれば,本件発明に関し,業界における実施料の相
場等を示すものとして,上記陳述書の説明内容を参考とするのが相当
である。10
(エ)本件発明の代替可能性,利益への貢献等
a本件発明の課題や作用効果は,前記1(2)のとおりであり,特許請求
の範囲(請求項1)に記載された構成を採用することによって,不合
理な二重投資や非効率な資源利用を避けつつ,携帯電話機等の携帯情
報通信装置に周辺装置を接続することにより,大画面外部ディスプレ15
イ手段において付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が大きい
画像を表示することを実現するというものである。そして,被告各製
品においては,別紙3「被告各製品の構成要素」記載のとおり,HD
MI端子を介した外部表示機能を実現する際に本件発明が実施されて
いるものである。20
そうすると,被告各製品において,本件発明は,不合理な二重投資
や非効率な資源利用を避けるという作用効果を実現するものにすぎな
いといえ,HDMI端子を介した外部表示に係る通信規格等に関する
特許発明のように,外部表示機能の実現自体のために必須のものとま
では認められない。25
また,不合理な二重投資や非効率な資源利用を避けつつ,携帯電話
機に外部表示機能を実施するという作用効果につき,これを本件発明
の構成以外では実現できないことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件発明が他の技術によって代替不可能なほどに重要
なものであるとまではいえないというべきである。
b原告は,本件発明を実施することによって,使用するVRAMない5
し液晶コントローラICの数が少なくなるため,実施しない構成と比
較して少なくとも製品1台当たり960円のコストが削減できると主
張する。
しかしながら,前記aのとおり,不合理な二重投資や非効率な資源
利用を避けつつ,携帯電話機に外部表示機能を実施することが,本件10
発明における構成以外では実現できないとは認められない上,被告に
おいて,本件発明の構成を採用しない場合であっても,製造コストの
低い部品構成を試みること自体は,製造業者として当然のことと考え
られる。
そうすると,他の方法と比較して,本件発明の構成を採用すること15
が被告の利益にどの程度貢献しているかにつき,原告が主張するよう
な具体的な金額によって確定することはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ実施料率の認定
(ア)前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,①実際の実施許諾契約における実施料20
率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで
きる。
本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,
業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率
〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ25
のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場
等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許
諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する
標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位
での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その5
うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン
ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2
2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規
格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当
たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙510
「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出
した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。
なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ
センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ
スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば,15
クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ
るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク
ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。
(イ)前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,②本件発明が被告各製品に
とって代替不可能なものとは認められず,③本件発明を実施することに20
よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,④原
告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での
実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針
としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約
の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発25
明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.
01%と認めるのが相当である。
エ被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売
状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実
施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。5
9結論
以上の次第で,原告の主位的請求に係る不法行為による損害賠償請求につい
ては,理由がないから,これを全部棄却し,予備的請求に係る不当利得返還請
求については,利得金980万1770円及びこれに対する返還請求の日の翌
日である令和元年5月14日(同月13日付け訴えの変更申立書の直送の日の10
翌日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとして,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
國分隆文
裁判官
小川暁25
裁判官
矢野紀夫
別紙一覧
別紙1特許請求の範囲
別紙2被告製品目録
別紙3被告各製品の構成要素
別紙4被告各製品の本件発明に対応する構成(原告の主張)5
別紙5被告各製品の販売状況
別紙6本件明細書の図面
別紙7別件発明の構成要件
別紙8甲11公報の図面
別紙9乙4公報の図面10
別紙10本件訂正前の特許請求の範囲
別紙1特許請求の範囲
【請求項1】
ユーザーがマニュアル操作によってデータを入力し,該入力データを後記中央演算
回路へ送信する入力手段と;5
無線信号を受信してデジタル信号に変換の上,後記中央演算回路に送信するととも
に,後記中央演算回路から受信したデジタル信号を無線信号に変換して送信する無
線通信手段と;
後記中央演算回路を動作させるプログラムと後記中央演算回路で処理可能なデータ
ファイルとを格納する記憶手段と;10
前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログラムとに基づ
き,前記無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な処理を行い,リアルタイ
ムでデジタル表示信号を生成するか,又は,自らが処理可能なデータファイルとし
て前記記憶手段に一旦格納し,その後読み出した上で処理する中央演算回路と,該
中央演算回路の処理結果に基づき,単一のVRAMに対してビットマップデータの15
書き込み/読み出しを行い,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル
表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は後記イ
ンターフェース手段に送信するグラフィックコントローラと,から構成されるデー
タ処理手段と;
画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するディスプレイパ20
ネルと,前記グラフィックコントローラから受信したデジタル表示信号に基づき前
記ディスプレイパネルの各々の画素を駆動するディスプレイ制御手段とから構成さ
れるディスプレイ手段と;
外部ディスプレイ手段を備えるか,又は,外部ディスプレイ手段を接続するかする
周辺装置を接続し,該周辺装置に対して,前記グラフィックコントローラから受信25
したデジタル表示信号に基づき,外部表示信号を送信するインターフェース手段
と;
を備える携帯情報通信装置において,
前記グラフィックコントローラは,前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディス
プレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合
に,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度5
を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデー
タを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレ
イ制御手段に送信する機能と,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネル
の画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,
「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デ10
ジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,を実現し,
前記インターフェース手段は,前記グラフィックコントローラから受信した「ビッ
トマップデータを伝達するデジタル表示信号」を,デジタルRGB,TMDS,L
VDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれかの伝送方式で伝送されるデジ
タル外部表示信号に変換して,該デジタル外部表示信号を前記周辺装置に送信する15
機能を有する,
ことにより,
前記外部ディスプレイ手段に,「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解
像度を有する画像」を表示できるようにした,
ことを特徴とする携帯情報通信装置。20
以上
別紙2被告製品目録
1イ号製品
スマートフォン「docomoNEXTseriesAQUOSPHONESH-12C」
2ロ号製品5
スマートフォン「IS05」
3ハ号製品
スマートフォン「AQUOSPHONEIS12SH」
4ニ号製品
スマートフォン「GALAPAGOSSoftBank003SH」10
5ホ号製品
スマートフォン「GALAPAGOSSoftBank005SH」
6ヘ号製品
スマートフォン「AQUOSPHONESoftBank006SH」
7ト号製品15
スマートフォン「AQUOSPHONETHEHYBRIDSoftBank007SH」
8チ号製品
スマートフォン「AQUOSPHONETHEHYBRIDSoftBank007SHJ」
9リ号製品
スマートフォン「SoftBank007SHKT」20
10ヌ号製品
スマートフォン「DM009SH」
以上
別紙3被告各製品の構成要素
被告各製品は,いずれもスマートフォンであって,以下の構成要素を備えている。
1タッチパネル
2無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3内部メモリ及びmicroSDカード
4モバイルプロセッサ及びVRAMを内蔵する液晶コントローラIC
5液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバIC
6HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
被告各製品の上記の各構成要素は,次の参考図の通りに接続されている(ただし,
参考図におけるモバイルプロセッサの型番及び液晶ディスプレイパネルの解像度は
イ号製品におけるものである。)。
無線送受信用
IC
内部メモリ
microSD
カード
MSM8255
液晶
コントローラ
IC
タッチパネル
液晶
ディスプレイパネル
(960×540画素)
HDMI
送信IC
micro
HDMI端子
無線通信用
メインアンテナ
液晶
ドライバ
IC
VRAM
上記の構成要素は,次の表のとおり,モバイルプロセッサの型番,液晶ディスプレ
イパネルの解像度及び液晶コントローラICの型番が異なる以外は,被告各製品に
おいて共通するものである。
モバイルプロセッサ内蔵ディスプレイの解像度液晶コントローラIC
イ号製品MSM8255960×540LR388J2
ロ号製品MSM8655854×480LR388G7
ハ号製品MSM8655960×540LR388J2
ニ号製品MSM8255800×480LR388G7
ホ号製品MSM8255800×480LR388G7
ヘ号製品MSM8255960×540LR388J2
ト号製品MSM8255854×480LR388J2
チ号製品MSM8255854×480LR388J2
リ号製品MSM8255854×480LR388J2
ヌ号製品MSM8255800×480LR388G7
以上
別紙4被告各製品の本件発明に対応する構成(原告の主張)
被告各製品の構成を,本件発明の構成要件に対応させて表現すれば,次の通りに
なる(本件発明の構成要件における用語を太字で表記する)。
a入力手段としての,タッチパネルを備える。
そして,このタッチパネルは,ユーザーがマニュアル操作によって入力した
データを,中央演算回路であるモバイルプロセッサに送信する。
b無線通信手段としての,無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用ICを
備える。10
そして,この無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用ICは,無線信号
を受信してデジタル信号に変換の上,モバイルプロセッサ(中央演算回路)に
送信するとともに,モバイルプロセッサ(中央演算回路)から受信したデジタ
ル信号を無線信号に変換して送信する。
c記憶手段としての,内部メモリ及び外部メモリであるmicroSDカード15
を備える。
そして,この内部メモリは,モバイルプロセッサ(中央演算回路)を動作さ
せるプログラムを格納する。
また,このmicroSDカードは,モバイルプロセッサ(中央演算回路)
で処理可能なデータファイルを格納する。20
dデータ処理手段としての,モバイルプロセッサ(中央演算回路)及び液晶コ
ントローラIC(グラフィックコントローラ)を備える。
そして,このモバイルプロセッサは,タッチパネル(入力手段)から受信し
たデータと内部メモリ(記憶手段)に格納されたプログラムとに基づき,メイ
ンアンテナ及び無線送受信用IC(無線通信手段)から受信したデジタル信号25
に必要な処理を行い,リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか,又は,
自らが処理可能なデータファイルとしてmicroSDカード(記憶手段)に
一旦格納し,その後読み出した上で処理する。
また,この液晶コントローラICは,単一のVRAMを内蔵しており,モバ
イルプロセッサ(中央演算回路)の処理結果に基づき,前記VRAMに対して
ビットマップデータの書き込み/読み出しを行い,「該読み出したビットマップ5
データを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を,ディ
スプレイ制御手段である液晶ドライバIC又はインターフェース手段であるH
DMI送信ICに送信する。
eディスプレイ手段としての,液晶ディスプレイパネル(ディスプレイパネル)
と液晶ドライバIC(ディスプレイ制御手段)を備える。10
そして,この液晶ディスプレイパネルは,別紙3「被告各製品の構成要素」
の「内蔵ディスプレイの解像度」に記載の解像度であり,画面を構成する各々
の画素が駆動されることにより画像を表示する。また,この液晶ドライバIC
は,液晶コントローラIC(グラフィックコントローラ)から受信したデジタ
ル表示信号に基づき液晶ディスプレイパネル(ディスプレイパネル)の各々の15
画素を駆動する。
fインターフェース手段としての,HDMI送信IC及びmicroHDMI
端子を備える。
そして,このmicroHDMI端子は,外部ディスプレイ手段を備える周
辺装置を接続することができる。20
また,HDMI送信ICは,液晶コントローラIC(グラフィックコントロ
ーラ)から受信したデジタル表示信号に基づき,外部表示信号をmicroH
DMI端子を介して周辺装置に送信する。
g以上を備えるスマートフォン(携帯情報通信装置)である。
h液晶コントローラIC(グラフィックコントローラ)は,被告各製品(携帯25
情報通信装置)が「本来解像度が1280×720画素である(ディスプレイパネル
の画面解像度より大きい)画像データ」を処理して画像を表示する場合に,内
蔵するVRAMから,「別紙3「被告各製品の構成要素」の「内蔵ディスプレイ
の解像度」に記載の解像度である(ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像
度を有する)画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマ
ップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を液5
晶ドライバIC(ディスプレイ制御手段)に送信する機能と,内蔵するVRAM
から「1280×720画素である(ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像
度を有する)画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマ
ップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号をH
DMI送信IC(インターフェース手段)に送信する機能と,を実現する。10
iHDMI送信IC(インターフェース手段)は,液晶コントローラIC(グラフ
ィックコントローラ)から受信したビットマップデータを伝達するデジタル表示
信号を,HDMI信号(TMDS方式で伝送されるデジタル外部表示信号)に変
換し,該HDMI信号をHDMI端子(インターフェース手段)を介して周辺装
置に送信する。15
j以上により,周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に,「1280×720画
素である(ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する)画像」
を表示できるようにした,
kスマートフォン(携帯情報通信装置)である。
以上20
別紙5被告各製品の販売状況
被告各製品の販売開始日,販売台数及び売上高は,それぞれ以下のとおりである。
被告製品発売日販売台数(台)売上(千円)
イ号製品平成23年5月●(省略)●●(省略)●
ロ号製品平成23年3月●(省略)●●(省略)●
ハ号製品平成23年6月●(省略)●●(省略)●
ニ号製品平成22年12月●(省略)●●(省略)●
ホ号製品平成23年2月●(省略)●●(省略)●
へ号製品平成23年6月●(省略)●●(省略)●
ト号製品平成23年6月●(省略)●●(省略)●
チ号製品平成23年6月●(省略)●●(省略)●
リ号製品平成23年6月●(省略)●●(省略)●
ヌ号製品平成23年2月●(省略)●●(省略)●
合計●(省略)●98,017,704
以上
別紙6本件明細書の図面
【図1】
以上
別紙7別件発明の構成要件
Aユーザーがマニュアル操作によって入力したデータを後記データ処理手段に送
信する入力手段と,
B無線信号を受信してデジタル信号に変換の上,後記データ処理手段に送信する5
とともに,後記データ処理手段から受信したデジタル信号を無線信号に変換して
送信する無線通信手段と,
C後記データ処理手段を動作させるプログラムと後記データ処理手段で処理可能
なデータファイルとを格納する記憶手段と,
D前記入力手段から送信されたデータ及び前記記憶手段に格納されたプログラム10
に基づき,前記無線通信手段から受信したデジタル信号及び/又は前記記憶手段
から読み出したデータに必要な処理を行って,デジタル表示信号及びその他のデ
ジタル信号を生成して送信するデータ処理手段と,
E画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するディスプレ
イパネルAと,前記データ処理手段から受信したデジタル表示信号に基づき前記15
ディスプレイパネルAの各々の画素を駆動するディスプレイ制御手段Aとから構
成されるディスプレイ手段と,
F外部ディスプレイ手段を含む周辺装置,又は,外部ディスプレイ手段が接続さ
れる周辺装置を接続し,該周辺装置に対して,前記データ処理手段から受信した
デジタル表示信号に基づき,TMDS方式で伝送されるデジタル外部表示信号を20
送信するインターフェース手段A1と,
Gを備えるとともに,前記データ処理手段と前記インターフェース手段A1とが
相俟って,該インターフェース手段A1から,高解像度デジタル外部表示信号を
送信する機能を実現する携帯情報通信装置であって,
H前記無線通信手段と前記データ処理手段とが相俟って,ユーザーエージェント25
情報を含みインターネットプロトコルに準拠した無線信号を送信する機能と,イ
ンターネットプロトコルに準拠した無線信号を受信することにより,インターネ
ットに接続したウェブサーバからデータファイルを取得する機能と,を実現する
とともに,
I前記データ処理手段は,前記画像データファイルの本来解像度が前記ディスプ
レイパネルAの画面解像度より大きい場合でも,前記画像データファイルをリア5
ルタイムで処理することによって,及び/又は,前記データファイルを前記記憶
手段に一旦格納し,その後読み出した上で処理することによって,前記画像デー
タファイルの本来画像の全体画像のデジタル表示信号を生成する機能を有する
Jことを特徴とする携帯情報通信装置。
以上10
別紙8甲11公報の図面
【図1】
以上
別紙9乙4公報の図面
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
以上
別紙10本件訂正前の特許請求の範囲
【請求項1】
ユーザーがマニュアル操作によってデータを入力し,該入力データを後記データ処
理手段へ送信する入力手段と;5
無線信号を受信してデジタル信号に変換の上,後記データ処理手段に送信するとと
もに,後記データ処理手段から受信したデジタル信号を無線信号に変換して送信す
る無線通信手段と;
後記データ処理手段を動作させるプログラムと後記データ処理手段で処理可能なデ
ータファイルとを格納する記憶手段と;10
前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログラムとに基づ
き,前記無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な処理を行い,リアルタイ
ムでデジタル表示信号を生成するか,又は,自らが処理可能なデータファイルとし
て前記記憶手段に一旦格納し,その後読み出した上で処理することによりデジタル
表示信号を生成するかして,該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は15
後記インターフェース手段に送信するデータ処理手段と;
画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するディスプレイパ
ネルと,前記データ処理手段から受信したデジタル表示信号に基づき前記ディスプ
レイパネルの各々の画素を駆動するディスプレイ制御手段とから構成されるディス
プレイ手段と;20
外部ディスプレイ手段を備えるか,又は,外部ディスプレイ手段を接続するかする
周辺装置を接続し,該周辺装置に対して,前記データ処理手段から受信したデジタ
ル表示信号に
基づき,外部表示信号を送信するインターフェース手段と;
を備える携帯情報通信装置において,25
前記データ処理手段は,前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を
有する画像(以下,高解像度画像と略称する)のビットマップデータを生成して,
該ビットマップデータを前記インターフェース手段に送信する機能を有し,
前記インターフェース手段は,前記データ処理手段から受信したビットマップデー
タを,デジタルRGB,TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちの
いずれかの伝送方式で伝送されるデジタル外部表示信号に変換して,該デジタル外5
部表示信号を前記周辺装置に送信する機能を有する,
ことを特徴とする携帯情報通信装置。
以上

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛