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平成12年(行ケ)第221号特許取消決定取消請求事件(平成13年10月23
日口頭弁論終結)
判    決
原      告  株式会社 平和
訴訟代理人弁理士  萼   経 夫
同         宮 崎 嘉 夫
同         小野塚   薫
被      告  特許庁長官 及 川 耕 造
指定代理人     吉 村   尚、山 口 由 木 
同         藤 井 俊 二、茂 木 静 代
同平 瀬 博 通   
              主    文
 特許庁が平成11年異議第71194号事件について平成12年5月8日にした
決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
              事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
   主文と同旨の判決
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和63年2月8日にした特許出願(昭和63年特許願第27259
号)を原出願とし、これに基づく分割出願として、平成9年4月25日、名称を
「パチンコ機の制御装置」とする発明につき特許出願をした。この出願は、平成1
0年5月27日付けで特許査定を受け、同年7月24日、特許第2805295号
として登録された。その後、平成11年3月30日に異議の申立てがあり、平成1
1年6月7日付けで取消理由通知があったので、原告は、平成11年8月11日付
けで特許異議意見書を提出するとともに訂正請求をしたが、訂正拒絶理由通知がな
され、平成12年5月8日付けで「特許第2805295号の特許を取り消す。」
旨の決定があり、その謄本は同年5月27日に原告に送達された。
 2 特許請求の範囲
  (1) 登録時の特許請求の範囲
 「初期化用のリセット端子を備えると共に、予め定められたパチンコ機の制御手
順を順次実行する演算処理手段を設けているパチンコ機の制御装置において、前記
制御手段が正常に実行されない場合、前記演算処理手段に対する初期化命令を実行
させるためのリセット信号を前記リセット端子に入力する演算監視手段と、前記パ
チンコ機への電源投入時に、前記リセット信号を前記リセット端子に入力するパワ
ーオンリセット回路とを設けていることを特徴とするパチンコ機の制御装置。」
  (2) 前記訂正請求に係る特許請求の範囲(注、訂正部分に下線を付した。)
 「初期化用のリセット端子を備えると共に、予め定められたパチンコ機の制御手
順を順次実行する演算処理手段を設けているパチンコ機の制御装置において、前記
制御手段が正常に実行されない場合の否信号に基づき、前記演算処理手段に対する
初期化命令を実行させるためのリセット信号を前記リセット端子に入力する演算監
視手段と、前記パチンコ機への電源投入時に、前記リセット信号を前記リセット端
子に入力するパワーオンリセット回路とを設けていることを特徴とするパチンコ機
の制御装置。」
 3 決定の理由の要点
 決定は、別紙異議の決定の理由写しのとおり、(1)「前記制御手順が正常に実行さ
れない場合の否信号に基づき、前記演算処理手段に対する初期化命令を実行させる
ためのリセット信号を前記リセット端子に入力する演算監視手段」の構成は、特許
明細書又は図面に記載されておらず、かつこれらから、直接的かつ一義的に導き出
せる事項ともいえないから、訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事
項の範囲内においてされたものではなく、特許法120条の4第3項で準用する同
法126条2項の規定に適合しないので、認められない、(2)本件発明は、特開昭6
3-11185号公報(刊行物1)及び特開昭62-14878号公報(刊行物
2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから、特許法29条2項に規定により特許を受けることができず、本件発明の特
許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める、と判
断した。
第3 原告主張の取消事由
 決定は、原告が平成11年8月11日付け訂正請求書で請求した訂正(以下「本
件訂正」という。)が新規事項を含むと誤って判断し(取消事由1)、本件訂正を
認めないことにより、本件発明の要旨の認定を誤り、仮に本件訂正が認められない
としても、本件発明と刊行物1に記載された発明(以下「刊行物発明1」とい
う。)との相違点の判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り
消されるべきである。
 1 取消事由1(新規事項についての判断の誤り)
 決定は、「『前記制御手段が正常に実行されない場合の否信号に基づき、前記演
算処理手段に対する初期化命令を実行させるためのリセット信号を前記リセット端
子に入力する演算監視手段』の構成は、特許明細書又は図面に記載されておらず、
かつこれらから、直接的かつ一義的に導き出せる事項ともいえないから、訂正は、
願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではな
い」と判断したが、誤りである。
 本件特許明細書(以下単に「特許明細書」という。甲第10号証)には、「アド
レスデコーダ8はアドレスポートから正しいアドレスデータが出力されたときに、
演算処理が正しいことを表わす正否信号を発生させて演算監視手段4に入力する」
(段落【0016】)」、「・・・制御手順(制御プログラム)が正常に実行され
なかった場合には演算監視手段4によって、リセット信号が演算処理手段2に入力
され、これにより演算処理手段2は初期化される。」(段落【0012】)、
「・・・アドレスデコーダ8は演算監視手段4に前記正否信号を入力するので、演
算監視手段4は演算処理手段2の演算処理を正常と判定し、リセット信号を発生さ
せない。」(段落【0024】)、「演算監視手段4は前記正否信号が10msよ
り長い時間入力されないときのみ、演算処理手段2を初期化させるリセット信号を
演算処理手段2のリセット端子11に入力するものである。」(段落【001
7】)、及び、「他方、演算監視手段4は前記正否信号が10msより長い時間入
力されないときに、演算処理手段2の演算処理を異常と判断し、リセット信号をリ
セット端子11に入力する。」(段落【0025】)、と記載されている。
 これらの記載から分かるように、演算処理が正常のときと、異常のときとがあ
り、演算監視手段4に一定時間以内に信号が入力されるときはリセット信号が発生
されず、一定時間以内に信号が入力されないときにリセット信号が発生するので、
アドレスデコーダ8が発生する信号を受ける演算監視手段4は、2通りの信号があ
るものと認識する。したがって、演算監視手段4でリセット信号を発生させない場
合の入力信号(正常のとき)を「正信号」、リセット信号を発生させる場合の入力
信号(異常のとき)を「否信号」として、両者を使い分けていることは明らかであ
る。
 すなわち、特許明細書では、正信号と否信号を、パルス信号の有無という二つの
状態によって使い分けており、その信号の状態によって演算監視手段4は、演算処
理が正常であるか、異常であるかの判定を行っている。
 そして、「正否信号」は、二つの状態を表す「正信号」と「否信号」の両者をま
とめて表現しただけであるから、「正否信号」を「正信号」と「否信号」とに分
け、制御手段と否信号との関係を「前記制御手段が実行されない場合の否信号に基
づき、」と訂正して限定することは、特許明細書に記載されていた事項の範囲内に
おける訂正である。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
 決定は、刊行物1には「前記制御手段が正常に実行されない場合、前記演算処理
手段に対する初期化命令を実行させるためのリセット信号を前記リセット端子に入
力する演算監視手段」の構成が記載されてないと認定し、これを相違点としたうえ
で、刊行物2には上記相違点に関する構成(演算監視手段)が記載されており、刊
行物1及び同2に記載された発明を寄せ集めて本件発明の構成に至ることに格別の
困難性はないと判断したが、誤りである。
  (1) 決定は、「刊行物2・・・には、『暴走防止回路114からは暴走防止信
号が与えられる。暴走防止回路114は、マイクロコンピュータ96の制御の暴走
を、ハード面から防止するための回路である。パワーオンリセット回路116から
は電源投入時のパワーオンリセット信号が与えられる。暴走リセット回路118か
らは暴走リセット信号が与えられる。』と記載され、これらの記載からみて、この
暴走防止回路114は、『マイクロコンピュータ、つまり、演算処理手段に対する
初期化命令を実行させるためのリセット信号を演算処理手段のリセット端子に入力
する演算監視手段』であると認められる」(決定書3頁29行から38行)と認定
したが、誤りである。
 本件発明の演算監視手段は、アドレスデコーダの信号が正常か否かを判定するも
のである。これに対し、刊行物2に記載された発明(以下、「刊行物発明2」とい
う。)では、暴走防止回路114とアドレスデコード回路112が設置されている
ものの、両者は無関係に設けられているから、暴走防止回路114は本件発明の
「演算監視手段」に当たるものではない。
  (2) 被告は、刊行物発明2の「暴走防止回路114」は「所定のサイクルで、
前記記憶手段に記憶された制御データの異常を検出する手段、前記検出手段の検出
結果に基づいて、前記制御データを強制的に初期化する異常制御防止手段」(刊行
物2の特許請求の範囲)であると主張する。しかし、「暴走防止回路114」に関
して、刊行物2には、「暴走防止回路114からは暴走防止信号が与えられる。暴
走防止回路は、マイクロコンピュータ96の制御の暴走を、ハード面から防止する
回路である。」(5頁右上欄7行から10行)という説明及び第4図の図示がある
のみである。他方、「異常制御防止手段」は、マイクロコンピュータの中でソフト
ウェアにより行われる手段であるから、「暴走防止回路114」とは無関係であ
る。
  (3) 以上に加えて、被告が主張する「異常制御防止手段」も本件発明の「演算
監視手段」とは異なる。
 刊行物2の「記憶手段に記憶された制御データの異常を検出する手段」の「制御
データ」とは、RAM100に記憶された制御データであり、プログラムの記憶さ
れるROM98に記憶されたデータではない。したがって、刊行物発明2におい
て、制御プログラムが記憶されているROM98の暴走防止(すなわち、プログラ
ムの暴走チェック)は行われていないから、本件発明でいう制御手段が正常に実行
されない場合を検出しているのではない。
 刊行物発明2は、RAM上の誤データの書き込みチェックを行う場合であり、本
件発明はこの欠点を課題として記憶手段に記憶された制御データとは無関係に異常
検出を行う発明としたものであって、刊行物2とは発明の課題が相違する。
 さらに、刊行物発明2の「異常制御防止手段」は「リセット信号」をリセット端
子に入力するものではないから、この点においても、本件発明の「マイクロコンピ
ュータ、つまり、演算処理手段に対する初期化命令を実行させるためのリセット信
号を演算処理手段のリセット端子に入力する演算監視手段」(決定書3頁36行か
ら38行)とは異なるものである。
  (4) なお、被告は、「刊行物発明1及び刊行物発明2は、パチンコ機の制御装
置の技術分野において、リセット信号を制御装置に入力することによって該制御装
置の暴走を防止しようとする共通の課題を有する発明である」と主張するが、刊行
物発明1は暴走が起きても起きなくてもリセット信号が発生してリセット信号端子
に入力するように構成されており、その趣旨は、暴走の予防であるから、暴走発生
後の事後処理対策である本件発明とは、リセット信号の果たす役割が異なる。被告
の主張は失当である。
  (5) 以上のことから、「刊行物2には、前記相違点の構成を備えた発明が記載
されているものと認められ、かつ、刊行物1および刊行物2に記載された発明は、
パチンコ機の制御装置の技術分野で共通する発明であることから、刊行物1と刊行
物2に記載された発明を寄せ集めて、本件発明を構成することは、当業者であれば
格別な困難性はないものと認める。」とした決定の判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
 1 取消事由1について
 原告が摘示した特許明細書の記載(段落【0012】、【0016】、【001
7】、【0024】、【0025】)によれば、特許明細書には、演算処理が正常
の時と異常のときとがあり、アドレスデコーダ8から演算処理が正しいことを表す
正否信号が演算監視手段4に入力され、演算監視手段4は、正否信号が10ms以
内に入力されるときは、演算処理手段2の演算処理を正常と判定し、10ms以内
に入力されないときは、演算処理手段2の演算処理を異常と判定し、リセット信号
をリセット端子11に入力することが記載されている。
 すなわち、特許明細書においては、「正否信号」という1種類(単一)の信号が
演算監視手段4に入力され、演算監視手段4は、その正否信号が一定時間以内に入
力されている状態か、一定時間以内に入力されていない状態かという、単一信号に
おける2つの状態によって、演算処理が正常であるか異常であるかを判定している
のであり、演算監視手段に演算処理が正常であることを示す「正信号」と演算処理
が異常であることを示す「否信号」という2種類の信号が入力されているわけでは
ない。
 他方、訂正明細書においては、「正否信号」を、演算処理が正常に実行されてい
る状態を示す「正信号」と、演算処理が正常に実行されていない状態を示す「否信
号」の2種類に分けて記載したことにより、訂正後の発明は、例えば、高電圧の
「正信号」と低電圧の「否信号」のような2種類の信号を用いるものもをも含むこ
ととなる。しかし、このような態様は、特許明細書には何ら記載されていない。
 以上のとおり、「正否信号」を「正信号」と「否信号」との2種類の信号に分け
ることは、特許明細書又は図面に記載されておらず、かつ、これらから直接的かつ
一義的に導き出される事項ともいえないから、「『前記制御手順が正常に実行され
ない場合の否信号に基づき、前記演算処理手段に対する初期化命令を実行させるた
めのリセット信号を前記リセット端子に入力する演算監視手段』の構成は、特許明
細書又は図面に記載されておらず、かつこれらから直接的かつ一義的に導き出され
る事項ともいえない。」(決定書2頁26行から30行)とした決定の判断に誤り
はない。
 2 取消事由2について
  (1) 刊行物2には、「暴走防止回路114からは暴走防止信号が与えられる。
暴走防止回路114は、マイクロコンピュータ96の制御の暴走を、ハード面から
防止するための回路である。パワーオンリセット回路116からは電源投入時のパ
ワーオンリセット信号が与えられる。暴走リセット回路118からは暴走リセット
信号が与えられる。」(5頁右上欄7行から14行)という記載、「(1) 電気的に
制御される弾球遊技機であって、制御データが記憶された記憶手段、前記記憶手段
に記憶された前記制御データに基づいて、前記弾球球技機を制御する制御手段、所
定のサイクルで、前記記憶手段に記憶された制御データの異常を検出する手段、前
記検出手段の検出結果に基づいて、前記制御データを強制的に初期化する異常制御
防止手段を含む、弾球遊技機。・・・(4)前記異常検出手段は、所定のサイクルで、
前記制御手段から暴走による異常出力があるか否かを検出する手段である、特許請
求の範囲第1項記載の弾球遊技機。」(特許請求の範囲)という記載があり、「暴
走防止回路114」と「異常制御防止手段」とは同一の手段である。
 そして、「マイクロコンピュータ96の制御の暴走」とは、マイクロコンピュー
タ96の制御手順が正常に実行されない状態ということができるから、制御手順が
正常に実行されない場合を検出するという点では本件発明との構成の差異があると
は認められない。
 したがって、「刊行物2において、制御プログラムが記憶されているROM98
の暴走防止(すなわち、プログラムの暴走チェック)は行われていないから、本件
発明でいう制御手順が正常に実行されない場合を検出しているのではない」という
原告の主張は理由がなく、刊行物2に、「制御手順が正常に実行されない場合、前
記演算処理手段に対する初期化命令を実行させるためのリセット信号を前記リセッ
ト端子に入力する演算監視手段」が記載されているということができる。
  (2) また、原告は、本件発明と刊行物発明1ではリセット信号の果たす役割が
異なっていると主張するが、刊行物発明1において、CPUは定期的にリセットさ
れるものではあるが、このリセットは、仮にCPUが正常に実行されなかった場合
に、その異常が持続あるいは拡大すること、すなわち、CPUが暴走する異常を防
止するためのものであり、刊行物発明1と刊行物発明2は、リセット信号を制御装
置に入力することによって、制御装置の暴走を防止しようとする共通の課題を有す
るものであるから、刊行物発明1に刊行物発明2を適用することが格別困難である
ということはできない。
  (3) したがって、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした決定の判断に誤りは
ない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(新規事項についての判断の誤り)について
  (1) 甲第10号証によると、特許明細書には、「正しいアドレスデータが出力
されたときに、演算処理が正しいことを表わす正否信号を発生させて演算監視手段
4に入力する。」(段落)【0016】)、及び「演算監視手段4は前記正否信号
が10msより長い時間入力されないときのみ、演算処理手段2を初期化させるリ
セット信号を演算処理手段2のリセット端子11に入力する」(段落【001
7】)という記載があることが認められる。この「正否信号」は、「正しいアドレ
スデータが出力されたとき」に発生される信号であるから、訂正明細書(甲第13
号証の2)の段落【0016】に「正しいアドレスデータが出力されたときに、演
算処理が正しいことを表す正信号を発生させて演算監視手段に入力する。」と記載
された「正信号」に相当する信号であると認められる。そして、特許明細書の前記
箇所に記載された「正否信号が10msより長い時間入力されないときのみ」リセ
ット信号をリセット端子に入力するということは、「正否信号」のない状態、すな
わち無信号状態が10msより長い時間持続することがリセット信号発生の要件と
されていることを意味する。
  (2) 他方、甲第13号証の2によれば、訂正明細書の特許請求の範囲には、
「制御手順が正常に実行されない場合の否信号に基づき、前記演算処理手段に対す
る初期化命令を実行させるためのリセット信号を前記リセット端子に入力する演算
監視手段」と記載されており、この構成においては「否信号」に基づくことがリセ
ット信号発生の要件とされていると認められる。この場合の「否信号」は、訂正明
細書中にその意義を明らかにした記載がなく、「誤ったアドレスデータが出力され
たときは否信号を演算監視手段に入力する。」(段落【0016】)との記載及び
「制御手順が正常に実行されない場合の否信号に基づき、・・・」(特許請求の範
囲)という記載があるのみであるところから、「制御手段が正常に実行されないこ
とを表す信号」一般を意味すると解釈せざるを得ない。そうすると、「否信号」に
基づくことをリセット信号発生の要件として記載した訂正明細書の特許請求の範囲
は、「正否信号のない状態が一定時間持続した場合」だけでなく、正否信号とは異
なる「否信号」が演算監視手段に入力された場合にリセット信号を発生させるもの
をも包含することになる。後者の場合、演算監視手段は、「10msより長い時
間」といった時間間隔と無信号状態との関係を処理する必要がない。
  (3) そうすると、本件訂正に係る構成は、無信号状態とは異なる「否信号」を
演算処理手段に入力し、演算処理手段が否信号を受信することのみによってリセッ
ト信号を発生するものを包含する点において、特許明細書に記載された事項の範囲
を超えるものと認められる。
 したがって、「前記制御手段が正常に実行されない場合の否信号に基づき、前記
演算処理手段い対する初期化命令を実行させるためのリセット信号を前記リセット
端子に入力する演算監視手段」の構成を新規事項であるとして本件訂正を認めなか
った審決の判断に誤りはない。
  (4) 原告は、ある時間間隔において演算監視手段4に入力される信号に2種類
の状態があり、その信号の状態によって演算監視手段4は演算処理が正常であるか
異常であるかの判定を行っているのであるから、その2つの状態を「正信号」と
「否信号」に分けて呼ぶことは特許明細書に記載された事項の範囲内であると主張
する。しかし、原告の上記主張は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された「否
信号」とは「演算監視手段に一定時間信号が入力されない状態」を意味するという
解釈を前提にして初めて成り立つものであるところ、訂正明細書を検討しても、そ
の特許請求の範囲に記載された「否信号」を上記のような限定された意味に解釈す
べき理由は見出すことができない。したがって、原告の上記主張は、その前提を欠
くものであって、採ることができない。
  (5) 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
決定は、刊行物2の暴走防止回路114は本件発明の「マイクロコンピュータ、
つまり、演算処理手段に対する初期化命令を実行させるためのリセット信号を演算
処理手段のリセット端子に入力する演算監視手段」であると認定し、これを前提と
して、刊行物発明1と刊行物発明2を寄せ集めて本件発明の構成とすることは容易
であると判断しているので、刊行物2の暴走防止回路114と本件発明の「・・・
リセット信号を演算処理手段のリセット端子に入力する演算監視手段」との関係を
検討する。
  (1) 甲第11号証の2によれば、刊行物2について、以下の事項が認められ
る。
   ア 刊行物2の第4図には、「暴走防止回路114」からマイクロコンピュ
ータに向けて、暴走防止信号が入力されること、「割込みクロック回路」からマイ
クロコンピュータに向けて、割込みクロック信号が入力されること、並びに「暴走
Reset回路118」及び「PoweronReset回路116」からマイクロコンピュータ
に向けて、それぞれ暴走Reset信号及びPoweronReset信号が入力されることが示
されている。この暴走Reset信号及びPoweronReset信号が入力される位置は、リ
セット端子と称し得るものといえる。
   イ 刊行物2には、特許請求の範囲に「所定のサイクルで、前記記憶手段に
記憶された制御データの異常を検出する手段、前記検出手段の検出結果に基づい
て、前記制御データを強制的に初期化する異常制御防止手段」との記載があり、発
明の詳細な説明には、①「マイクロコンピュータ96は、・・・リードオンリメモ
リ(ROM)98と・・・ランダムアクセスメモリ(RAM)100とを含む。」
(4頁左下欄3行から6行)、②「制御回路に電源が投入されることにより、マイ
クロコンピュータ96は、ROM98に書込まれた制御プログラムに基づいて動作を
開始する」(5頁右下欄10行から13行)、及び③「4msごとに与えられる割
込クロック信号に基づいて、・・・RAM100に設定されたデータに異常がない
かどうかが判定される。そして、異常が発見された時点で、RAM100に設定さ
れたすべてのデータを書換えるための初期設定ルーチンへジャンプするようにされ
ている。」(7頁左上欄4行から11行)との記載がある。
 上記③の記載における「RAM100に設定されたデータに異常がないかどうか
の判定」が「制御データの異常を検出する手段」(特許請求の範囲)に当たり、
「異常が発見された時点で、RAM100に設定されたすべてのデータを書換える
ための初期設定ルーチンへジャンプするようにされている」ことが「前記制御デー
タを強制的に初期化する異常制御防止手段」(特許請求の範囲)に当たることは明
らかである。
  (2) 以上のとおり、刊行物2における「制御データの異常」とは、マイクロコ
ンピュータ96がROM98に書き込まれた制御プログラムに基づいて動作を開始し
た後、RAM100に書き込まれたデータに異常があることであるから、本件発明
における「制御手順が正常に実行されない場合」に相当すると認められる。
 そうすると、刊行物発明2の「異常制御防止手段」は、その信号が第4図のリセ
ット端子(暴走Reset信号及びPoweronReset信号が入力される位置)に入力され
るものでない点を除いては、本件発明の「演算監視手段」と異ならないものと認め
られる。
  (3) しかし、刊行物発明2の「異常制御防止手段」は、前記認定のとおり、
「RAM100に設定されたデータに異常がないかどうかの判定」に基づいて動作
するものであるから、ROM98に書き込まれた制御プログラムの一環としてマイク
ロコンピュータ96の内部に設けられた手段と解するべきであり、この点から「マ
イクロコンピュータ96」の外部の「暴走防止回路114」は、「異常制御防止手
段」と認めることができない。「暴走防止回路114」が「異常制御防止手段」と
異なるものであることは、第4図で、暴走防止回路114からマイクロコンピュー
タ96に向けた矢線は示されているものの、その逆の矢線が示されておらず、した
がって、暴走防止回路114においてRAM100のデータを検出し得ないことか
らも明らかである。
 なお、刊行物発明2の「暴走防止回路114」については、決定に摘示された
「暴走防止回路114からは暴走防止信号が与えられる。暴走防止回路114は、
マイクロコンピュータ96の制御の暴走を、ハード面から防止するための回路であ
る。」との記載しかなく、「ハード面から防止するための回路」であること以外は
その詳細が不明である。
 いずれにしても、刊行物2発明においては、本件発明の「演算監視手段」と同一
の機能を有すると認められる「異常制御防止手段」が別途設けられているのである
から、「暴走防止回路114」を本件発明の「演算監視手段」に相当するものとみ
る余地はない。
  (4) 以上によれば、「暴走防止回路114は、『マイクロコンピュータ、つま
り、演算処理手段に対する初期化命令を実行させるためのリセット信号を演算処理
手段のリセット端子に入力する演算監視手段』であると認められる」との決定の認
定は誤りであり、これに基づく「刊行物1および刊行物2に記載された発明は、パ
チンコ機の制御装置の技術分野で共通する発明であることから、刊行物1と刊行物
2に記載された発明を寄せ集めて、本件発明を構成することは、当業者であれば格
別な困難性がないものと認める。」という決定の判断も誤りである可能性があると
いわざるを得ない。
 よって、取消事由2には理由がある。 
  (5) なお、以上検討したところによれば、刊行物発明2の「異常制御防止手
段」と本件発明の「演算監視手段」との間には、リセット端子に入力するか否かの
点を除いて相違がないから、刊行物発明1に刊行物発明2を組み合わせ、その際に
「異常制御防止手段」からの信号をリセット端子に入力することにより本件発明の
構成に至る可能性はあるが、そのことが当業者に想到容易であるか否かは特許庁に
おいて判断されていない事項であるから、改めて審判において審理することが相当
である。
第6 結論
 以上のとおり、取消事由2は理由があり、決定は本件発明と刊行物発明1との相
違点についての判断の前提となる認定を誤ったものというべきである。この誤り
は、決定の結論に影響を及ぼし得るものであるから、決定を取り消すこととし、主
文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第18民事部
        裁判長裁判官 永  井  紀  昭
           裁判官塩  月  秀  平
     
           裁判官  古  城  春  実

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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