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判決言渡平成21年1月20日
平成20年(行ケ)第10214号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年12月24日
判決
原告株式会社日立製作所
訴訟代理人弁護士飯田秀郷
同井坂光明
同隈部泰正
訴訟代理人弁理士沼形義彰
同西川正俊
被告株式会社安川電機
訴訟代理人弁護士松尾和子
訴訟代理人弁理士大塚文昭
同竹内英人
同近藤直樹
訴訟代理人弁護士高石秀樹
訴訟代理人弁理士那須威夫
主文
1特許庁が無効2006−80260号事件について平成20年5月
8日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,原告が特許権者である特許第3231553号(発明の名称「イン
バータ制御装置の制御定数設定方法,原出願日昭和61年5月9日〔特願昭」
61−106469号,分割出願日平成6年7月25日〔特願平6−172〕
269号,発明者A及びB,発明の数2,訂正認容審決平成17年11月〕
18日〔訂正2005−39192号,以下「本件特許」という)の特許請〕
求の範囲第1項,第2項に記載された発明について被告から特許無効審判請求
がなされたところ,特許庁が平成20年5月8日,原告からの平成20年1月
16日付け訂正請求を認めた上,上記各発明についての特許を無効とする旨の
審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記訂正後の各発明が下記甲7文献に記載された発明(引用発明)
との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項,である。)

・甲7文献:ベクトル制御のオートチューニング(A,B,C,D〔日立「」
製作所日立研究所,E,F〔同大みか工場「電気学会研究〕〕
会資料回転機研究会RM−85−20∼30」のうちRM
85−26,61頁∼70頁,社団法人電気学会,1985年
〔昭和60年〕7月17日。以下これに記載された発明を「引
用発明」という)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア原告は,昭和61年5月9日になした原出願(特願昭61−10646
9号)からの分割出願として,平成6年7月25日,発明の名称を「電圧
制御形ベクトル制御インバータの制御装置」とする特許出願(特願平6−
172269号)をし,その後の補正等を経て,平成13年9月14日に
特許登録を受けた(発明の名称は「インバータ制御装置の制御定数設定方
法」と変更,発明の数2。特許第3231553号。)
その後原告は,平成17年10月20日付けで,上記特許につき訂正審
判を請求し(訂正2005−39192号,同年11月18日にその認)
容審決を受け同審決は確定した(甲51。)
イこれに対し被告は,平成18年12月14日付けで,前記訂正前の特許
請求の範囲第1項及び第2項につき無効審判請求(乙1)をしたので,同
請求は特許庁に無効2006−80260号事件として係属し,その中で
原告は,平成20年1月16日付けでも特許請求の範囲1及び2等につき
訂正請求(乙9。以下「本件訂正」という)をしたが,特許庁は,平成2
0年5月8日「訂正を認める。特許第3231553号の請求項1及び,
2に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は。
平成20年5月20日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件訂正後の特許請求の範囲1及び2(以下順に「訂正発明1「訂正発」,
明2」という)の内容は,次のとおりである(乙9,甲24。下線は訂正箇
所。)
・「1.誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて
制御する制御装置の制御定数を,前記制御装置の前記電圧指令を出力す
るコンピュータにより設定する方法において,次のステップを有するこ
とを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定
するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータから
出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより,前記
誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ,
(d)前記所定値に設定された電圧指令,前記所定値に設定された周波
数指令,および前記検出された電流に基づいて,前記コンピュータ
により,前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する,前記制
御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて,周波数指令および電圧指令を前
記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて,前記
誘導電動機を回転させるステップ(訂正発明1)。」
・「2.誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの
(,),電圧指令VVに基づいて制御する制御装置の制御定数を1d1q**
前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する
方法において,次のステップを有することを特徴とするインバータ制
御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定
するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータから
出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより,前記
誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流の,前記電圧指令の1
つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ,
(d)前記所定値に設定された電圧指令,前記所定値に設定された周波
数指令,および前記検出された電流のベクトル成分を用いて,前記
コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算す
るステップ,
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータによ
り前記制御装置の制御定数を演算し,この制御定数を設定するステ
ップ。
(f)前記(b)のステップにおいて,周波数指令および電圧指令を前
記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて,前
記誘導電動機を回転させるステップ(訂正発明2)。」
()審決の内容3
ア審決の詳細は別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件訂
正は適法であるとした上,訂正発明1及び2は前記甲7文献(引用発明)
及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから本件
特許は特許法29条2項に違反してなされた無効なものである,等とした
ものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとお
り認定し,訂正発明2と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおりと
した。
〈引用発明の内容〉
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電流
指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を,前記制御装置の前記
電流指令を出力するための周波数指令を出力するマイコンによりオー
トチューニングする方法において,次のステップを有するインバータ
制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設
定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記定格値に基づいて前記インバータか
ら出力される交流電流を前記誘導電動機に印加することにより,前記
誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機の電圧の,前記電流指令の1つの
ベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ,
(d)前記定格値に設定された電流指令,前記所定値に設定された周
波数指令,および前記検出された電圧のベクトル成分を用いて,前記
マイコンを用い前記誘導電動機の励磁インダクタンスを演算するステ
ップ,
(e)得られた前記励磁インダクタンスに基づき前記マイコンにより
Imの最適設計を行うステップ」*

〈一致点〉
いずれも,
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの第
1の電気量指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を,前記制御
装置の指令を出力するコンピュータにより設定する方法において,次
のステップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記第1の電気量指令および前記誘導電動機の周波数指令の所
定値を設定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータか
ら出力される第1の電気量を前記誘導電動機に印加することにより,
前記誘導電動機を回転させるステップ,
(c)前記回転している誘導電動機の第2の電気量の,前記第1の電
気量指令の1つのベクトル成分に対応する成分を検出するステップ,
(d)前記所定値に設定された第1の電気量指令,前記所定値に設定
された周波数指令,及び前記検出された第2の電気量のベクトル成分
を用いて,前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタ
ンスを演算するステップ。
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータに
より前記制御装置の制御定数を演算し,この制御定数を設定するステ
ップ」である点で一致する。。
〈相違点〉
ア第1の電気量が訂正発明2では直交するベクトルの指令電()「」,「
()」「」圧V・V及びインバータから出力される交流電圧1d1q
**
であるのに対し,引用発明では直交するベクトルの指令「電流」
及びインバータから出力される「交流電流」であり「回転して,
いる誘導電動機の第2の電気量」が,訂正発明2では「回転して
いる誘導電動機に流れる電流であるのに対し引用発明では回」,「
転している誘導電動機の電圧」である点。
(),「」イコンピュータの出力が訂正発明2では制御装置の電圧指令
であるのに対し,引用発明では「制御装置の電流指令を出力する
ための周波数指令」である点。
(ウ)訂正発明2では「b)のステップにおいて,周波数指令およ(
び電圧指令を設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加
させて,誘導電動機を回転させるステップ」を有するのに対し,
引用発明ではそのようなステップが明確にされていない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べる誤りがあるので,違法として取り
消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点についての認定
の誤り)
(ア)審決は,訂正発明2と引用発明との一致点の認定に関し「本件訂,
『』正発明2と引用発明とを対比すると…後者の直交するベクトルの電流
指令及び,インバータから出力される『交流電流』と,前者の直交する
ベクトルの『電圧』指令及び,インバータから出力される『交流電圧』
とは,指令され印加される値である点で共通するので『第1の電気量』
との概念で一致し,後者の『回転している誘導電動機の電圧』と,前者
の『回転している誘導電動機に流れる電流』とは,検出される値である
点で共通するので『回転している誘導電動機の第2の電気量』との概念
で一致する(19頁16行∼28行)とした。。」
,,しかし引用発明の励磁インダクタンスと2次時定数の測定の項には
指令信号としての回転座標系におけるd軸電流成分Iという記載があm

,「」。,,るのみであり電気量との概念を使用していないまた検出され
qインバータから出力される電圧の回転座標系におけるq軸電圧成分V
,「」。という記載があるだけで第2の電気量との概念も使用していない
引用発明には,以下に述べるとおり,このような上位概念は記載されて
おらず,審決の引用発明の認定は誤りである。
(イ)引用発明の動作原理
引用発明では,電動機定数の測定には,甲7文献の図2の構成のベク
トル制御インバータを適用している。引用発明の誘導電動機(IM)の
無負荷運転は,同図2の回路を用いてベクトル制御下で行われる。電流
指令値として先ず適宜の値として初期値Iが設定されインバー,,,m
**
タに設定した回転周波数指令ωからωを得て,これに基づき誘導電r
**

動機(IM)をベクトル制御下で無負荷運転する。その上で,前記適宜
設定された初期値IをAERからの出力ΔIで順次補正しながら,mm
**
検出電圧eqと周波数指令ωに基づく電圧値とが等しくなったとき無1

負荷電流の定格値Iが得られる。このときの,周波数指令値ω,検m
**

出電圧のq軸ベクトル成分Vに基づき,1次インダクタンスを演算すq
ることが記載されている。
次に,引用発明の図2の回路の動作を詳述する。
AERは,検出した誘起電圧eq(モータの固定座標系上の3相誘起
電圧V,V,Vとその周波数,位相を検出し,これを2相に数学uvw
的に変換し,さらに回転座標系上のV,Vに座標変換して,eqを得dq
る)と,同図2には記載が省略されているV/f曲線より導かれる前記
設定した周波数指令ωに基づく電圧値とを比較し,その比較結果が1

誘起電圧eqの方が小さいときは無負荷電流値を上げる補正をし,逆に
大きいときは下げる補正をしていき(ΔIを加減算する補正,その比m)
較結果が零に近づくまでその動作を続ける。そして,最終的にこの比較
結果が零となったとき,無負荷電流の定格値Iが出力されていることm

になる。
しかしながら,上記のAERに無負荷電流の正常な定格値を出力させ
るようにするためには,同図2に示されるAFR(周波数調節器)を動
作させることが不可欠である。このAFRは誘導電動機をベクトル制御
するときに,回転座標系(d−q)上の制御軸d軸とモータ軸(回転磁
界の磁束方向の軸)とを一致させる(軸ずれ抑制)制御をするためのも
ので,この制御(ベクトル制御)がなされないと先のAERに入力され
るeqに誤差(元となる誘起電圧Vに誤差が生じる)が発生してしまq
う。
AFRの上記動作をさらに説明すると,検出した誘導電動機の誘起電
圧(固定座標系上)から,回転座標系上のd軸成分であるVより誘導d
電動機の1次抵抗と漏れインダクタンス(ℓℓ)の電圧降下分を差r+'112
し引いたedが零(すなわちd軸と回転磁束の方向とが一致するように
して無負荷運転をすると,磁束のトルク分成分であるφは0,ed=q
0である)になるように周波数ωを補正する。換言すると,このよう1
にedが零になるように制御することによって,無負荷運転の場合に前
記d軸と回転磁束の方向とを一致させることができる。このedの演算
には正確なと(ℓℓ)が必要であり,引用発明ではそのために図7r+'112
のフローに記載されるように無負荷運転で励磁インダクタンスLを測1
定する前にこれら定数を測定演算しなければならない。
以上のように,誘導電動機の回転磁界の方向にこのd軸を合わせるよ
うに制御したとき,d軸電流成分は励磁電流成分Iとなる。ベクトルm

制御を行わないときは,d軸と回転磁界の方向は一致せず,d軸電流成
分には励磁電流成分及びトルク分電流成分が含まれ,q軸電流成分にも
励磁電流成分及びトルク分電流成分が含まれるから,d軸電流成分は励
磁電流成分Iとなることはない。また,ベクトル制御下で,誘導電動m

機を無負荷運転すると,トルクは発生しないからI≒0である。t
(ウ)上記によれば,引用発明の内容は以下のとおりとすべきである。
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの回転座
標系上の電流指令(I,I)を3相の固定座標系上の電流指令に座mt
**
標変換し,ACRを介して得られる3相の固定座標系上の電圧指令(V
,V,V)に基づいてベクトル制御する制御装置の制御定数を,uvw
***
前記制御装置の周波数指令を出力するマイコンにより自動設定する方法
において,次のステップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方
法。
(a)誘導電動機の回転磁束の方向及びこれに直交するベクトルの回転
座標系上の電流指令値(I)を適宜設定し,前記誘導電動機の周波数m

指令に定格値を設定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記インバータ制御装置によりベクトル制
御をしながら前記適宜設定された電流指令値(I)および前記周波数m

指令値に基づく電流を前記誘導電動機に供給し,無負荷定格電流指令値
に至るまでこれを補正しながら(ベクトル制御下において,検出した電
圧Vより起電力eqを求め,検出電圧eqと周波数指令ωに基づくq1

電圧値とが等しくなるように電流指令値(I)を加減算する補正をしm

ながら最終的にこれが等しくなったときの補正された電流指令値が無負
荷定格電流値となる,これにより誘導電動機を回転させるステップ,)
(c)前記無負荷定格電流値となった電流指令値(I)に基づき回転m

している誘導電動機の電圧の,前記電流指令の1つのベクトル成分(q
軸〔回転磁束の方向に直交する軸〕のベクトル成分)に対応するベクト
ル成分(V)を検出するステップ,q
(d)前記無負荷定格電流値となった電流指令値(I)と,前記所定m

値に設定された周波数指令値,および前記検出された電圧のベクトル成
分(V)を用いて,前記マイコンを用い前記誘導電動機の1次インダq
クタンスを演算するステップ,
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記マイコンにより前
,」記制御装置の制御定数Lを演算しこの制御定数を設定するステップ1
(エ)訂正発明2と引用発明との一致点と相違点の認定の誤り
以上によれば,訂正発明2と引用発明との一致点と相違点は次のよう
に認定されるべきであるにもかかわらず,審決はこれを誤った違法があ
る。少なくとも,引用発明には,審決が認定するように「前記電流指,
令を前記誘導電動機の周波数指令とともに定格値に設定するステップ」
が記載されているとすることはできない。
電動機定数である励磁インダクタンスを測定演算するために行われる
引用発明のベクトル制御では,誘導電動機の回転磁束の方向と一致する
電流指令(I)及びこれに直交するベクトルの電流指令(I)がmt
**
2相→3相変換されてACRに入力されてその出力からの電圧指令V,(
,V,V)に基づいてPWM制御されるように制御装置がインuvw
***
バータを制御するものである。したがって,制御装置は,最終的に電圧
指令に基づいてインバータを制御はするものの,その電圧指令は3相の
電圧指令であって,直交する(誘導電動機の回転磁束の方向及びこれに
直交するわけではない)ベクトルの電圧指令(V,V)に基づい1d1q
**
て制御するものではない。
これに基づき両者を対比すると,訂正発明2と引用発明とは,次の点
で一致し,次の点で相違する。
【一致点】
「誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制
御する制御装置の制御定数を自動設定する方法において,次のステ
ップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記誘導電動機の周波数指令に所定値を設定するステップ,
(b)無負荷状態において,前記所定値に設定された周波数指令など
に基づいて前記誘導電動機を回転させるステップ,
(d)前記所定値に設定された周波数指令,およびその他の量を用い
て,前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記制御定数を演算
しこの制御定数を設定するステップ」
【相違点】
・相違点ア
インバータに対する電圧指令について,訂正発明2は,直交する
ベクトルの電圧指令(V,V)であるのに対し,引用発明で1d1q
**
は,誘導電動機の回転磁束の方向及びこれに直交するベクトルの電
流指令(I,I)がAER及びASRから出力されるものの,mt
**
これが3相変換後,ACRによって3相の電圧指令(V,V,uv
**
V)となって制御されるものである点。w

・相違点イ
電圧指令の設定値について,訂正発明2は,所定値を設定するも
のであるのに対し,引用発明は,電圧指令として所定値を設定する
ことなく,電流指令値を適宜設定(I)し,誘導電動機のベクm
**
,()トル制御下での回転に伴いこれが順次補正したがって変化する
されて無負荷定格電流指令値(検出した電圧Vより起電力eqをq
求め,eqとωを入力とするAERによって適宜設定された電流1

()),指令値は順次補正されて無負荷定格電流値Iとなるとなりm

このような補正が行われる電流指令値が順次3相変換されてACR
を介することによりそれぞれの時点での電圧指令値となるものであ
る点。
・相違点ウ
無負荷状態において誘導電動機を回転させる点について,訂正発
明2は,所定値に設定された電圧指令及び周波数指令に基づいて回
転させるのに対し,引用発明は,ベクトル制御をしながら前記適宜
定められた電流指令値(I)および前記周波数指令値に基づく電m

流(電流指令値は3相変換されて電圧指令値となり,インバータに
電圧とともに電流が供給される)を前記誘導電動機に供給して前記
誘導電動機を回転させるものであり,前記無負荷定格電流指令値に
至るまで電流指令値を補正しながら(検出した電圧Vより起電力q
eを求め,eとωを入力とするAERによって適宜設定されたqq1

電流指令は順次補正されて定格電流となる)誘導電動機を回転させ
るものである点。
・相違点エ
検出の対象について,訂正発明2は,前記回転している誘導電動
機に流れる電流の,前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応する
ベクトル成分を検出するものであるのに対し,引用発明は,前記回
転している誘導電動機から出力される電圧の,電動機電流の1つの
ベクトル成分に対応するベクトル成分(V)を検出するものであq
る点。
・相違点オ
前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算する変数について,
訂正発明2は,前記所定値に設定された電圧指令,周波数指令およ
び前記検出された電流のベクトル成分を用いるものであるのに対
し,引用発明は,前記無負荷定格電流値となった電流指令値,前記
所定値に設定された周波数指令値,および前記検出された電圧のq
軸成分値を用いるものである点。
・相違点カ
所定値の周波数指令および電圧指令に従って誘導電動機を回転さ
せるまでの間の回転指令について,訂正発明2は(b)のステッ,
プにおいて,周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで
徐々に且つ一定レートにて増加させて,前記誘導電動機を回転させ
,,。るものであるのに対し引用発明はこのような構成を有しない点
,,,以上の次第であるから審決は引用発明の記載の認定を誤りさらに
その記載を上位概念化して抽象化する誤りをし,そのため,引用発明の
認定を誤り,訂正発明2と引用発明との一致点と相違点の認定を誤った
違法がある。
この誤りは,訂正発明2及び訂正発明1の進歩性欠如に関する結論に
重大な影響を与えることは明らかであるから,審決は取り消されるべき
である。
イ取消事由2(進歩性についての判断の誤り)
以下,上記取消事由1で原告の主張する相違点アないしカに基づき審決
の進歩性判断の誤りについて主張するとともに,原告主張の相違点の中に
も含まれる審決認定の相違点についてその判断の誤りを主張する。
(ア)相違点アについて
訂正発明2のインバータは,電圧指令によって動作する電圧形イン
バータである。これに対し引用発明のインバータは,直交するベクトル
の電流指令がAER及びASRから出力されるが,3相変換の後ACR
によって3相の電圧指令V,V,Vが出力され,この電圧指()uvw
***
令によって動作する電圧形インバータである。
すなわち,両者は,電圧形インバータを用いる点では共通する。しか
し,訂正発明2では,直交するベクトルの電圧指令を直接3相変換して
いるのに対し,引用発明では,直交するベクトルの指令は電流指令であ
り,この電流指令を3相変換後,ACRで電圧指令に変換している。し
,。たがって引用発明の電圧指令は直交するベクトルの電圧指令ではない
引用発明では,この直交するベクトルの電流指令を適宜与え,無負荷

運転しながら無負荷電流を探って動作点に於ける無負荷電流指令値Im
を見出すものである。したがって,引用発明の電圧指令は,所定値が与
えられることなく,適宜定められた直交するベクトルの電流指令に基づ
き3相の電圧指令として与えられ,電流指令が補正されるのに伴い順次
これに応じた電圧指令となるものである。
この点に関し審決は,電流と電圧をいずれも「電気量」であると一般
化し,これをあたかも相互に入れ替えるように構成することにより引用
発明から訂正発明2が容易に得られるとするものであるが,電流と電圧
は,それぞれ電力の要素をなすものであって,それぞれ別の量であるか
ら,審決にいうほど単純ではない。
すなわち,前記のように,引用発明においても電圧形インバータに対
,,してはACRを介して電圧指令が出力されるから引用発明においては
ACRに対して入力される指令は電流指令でなければならず,審決がい
うように電流と電圧を入れ替えると,ACRに対して電圧指令を入力す
ることになり,ACRは動作せず,電圧形インバータに対して電圧指令
が出力できないことは明らかである。審決の認定は誤りである。
(イ)相違点イについて
訂正発明2の原理は,その動作点における汎用モータの定格値の磁束
を発生させるようにインバータに電圧指令及び周波数指令の所定値(例
えば両者の定格値)を設定し汎用モータを無負荷運転することである。
誘導電動機の電圧方程式に基づき一般的に成立する訂正明細書甲,(
24)の(9)式及び(10)式に,例えば定格のような周波数が高
い状態で無負荷運転をする場合,すなわち,この条件として,
v=0,ω≒0,r≪ω(ℓ+L)1ds1111
を与えて式の変形をした結果である訂正明細書の(18)式も,同様
にd軸及びq軸をどのように設定するかにかかわらず,定常状態におい
(,,て一般的に成立するなお訂正明細書ではωをwで表記しているので
以下訂正明細書を引用する場合「w」については「ω」の意である。,)
したがって,誘導電動機の出力電流i(直交するベクトルの電圧指1d
令V1dのベクトル成分に対応する電流成分)を検出しさえすればよい
ことが理解できる。
上記の通り,訂正発明2では,直交するベクトルの電圧指令及び周波
数指令として所定値を設定することが原理上から重要である。そして,
訂正明細書の(18)式が,d軸及びq軸をどのように設定するかにか
かわらず,定常状態において一般的に成立することから,誘導電動機を
ベクトル制御により,d軸と磁束の方向とを一致させる制御を行う必要
もない。
これに対して引用発明の原理は,インバータの無負荷電流指令には,
先ず初期値を適宜設定し,インバータに設定した周波数指令に基づき汎
用モータを無負荷運転する。これにより汎用モータの無負荷時に流れる
電流は設定された初期値の電流が流れる。そして汎用モータにはその電
流によって磁束が発生し,これにより汎用モータの巻線には誘起電圧が
発生するので,その電圧を汎用モータの出力電圧から検出する。
次に,AER制御回路により,検出した誘起電圧とV/f曲線(図2
では省略されている)より導かれる前記設定した周波数指令に基づく電
圧値とを比較し,その比較結果が誘起電圧の方が小さいときは初期設定
した無負荷電流値を上げ,逆に大きいときは下げていき,その比較結果
が零に近づくまでその動作を続ける。そして,最終的にこの比較結果が
零なる時点を上図の動作点に於ける無負荷電流指令値として求める。こ
のように引用発明は,無負荷運転しながら無負荷電流を探って動作点に
於ける無負荷電流指令値Iを見出すものである。したがって,電流指m

。,,令値は所定値として設定できないそもそも無負荷電流指令値Iはm

1次インダクタンスに関係する量であるから,1次インダクタンスが不
明な時点,すなわちこれからその正確な値を測定演算しようとしている
時点では,設定のしようがない。引用発明は,ベクトル制御下でこの無
負荷電流指令値Iを探索するものである。m

このように,相違点イは,1次インダクタンスの測定演算の原理の相
違に基づくものであり,重要な相違点である。この相違点を開示する他
の公知発明はなく,これを示唆するものもない。
ところが,審決は,引用発明が最終的に無負荷電流指令値Iが得らm

れることをもって,所定値の電流指令が与えられると誤った認識をし,
さらに,電流と電圧をいずれも「電気量」であると一般化し,これをあ
たかも相互に入れ替えるように構成することにより引用発明から訂正発
明2が容易に得られるとする。しかし,両者の1次インダクタンスの測
定原理の相違を無視したものであり,審決は誤りである。
(ウ)相違点ウ(審決の相違点(ア)と関連する)について
誘導電動機のベクトル制御装置において引用発明のようにAER起,(
電力調節器)を用いることは,本件特許の原出願日前に広く行われてい
たが,その場合には,前記のとおりAFR(周波数調節器)を動作させ
rることが不可欠である。このAFRの動作のためには,事前に正確な
と(ℓℓ)を得て,これにより回転座標系のd軸の方向を回転磁界の112+'
方向に一致するように制御する必要がある。
引用発明ではこのAER及びAFRを用いているから引用発明甲,,(
7)の図7のフローに記載されるようにと(ℓℓ)を励磁インダクr+'112
タンスLの演算測定に先だって測定演算することが必要である。1
,,引用発明で指令値として与えられるII及び周波数指令ωはmt
***

d軸の方向と回転磁束の方向に一致するように制御した上での指令であ
る。d軸の方向と回転磁束が一致するから,I=I,I=Iとなdmqt
る。だからこそ,引用発明においては,初期値として適宜定めた指令値
ではあるが,Iという励磁電流成分を指令値(下記のとおり最終的にm

AERにより無負荷定格電流となるように設定される)とすることがで
き,これによって,実際にこの指令に応じた励磁電流成分が誘導電動機
に供給され,最終的に励磁電流成分である無負荷電流指令値Iを得るm

に至る。
これに対し,訂正発明2では,AER及びAFRを用いず,したがっ
,),,て事前にと(ℓℓその他の電動機定数を測定演算することなくr+'112
回転座標系のd軸の方向を回転磁界の方向に一致するように制御するこ
,。となく誘導電動機の1次インダクタンスを測定演算することができる
このような訂正発明2を示す公知発明はなく,また,これを示唆するも
のもない。
引用発明において電流指令,周波数指令によって無負荷電流(1次イ
ンダクタンスと関係する制御定数)を測定演算できるのは,誘導電動機
をAFRの作動のもとにベクトル制御下で無負荷運転して初めて得られ
るものであるのに対し,訂正発明2では,そもそもベクトル制御下で無
負荷運転できないにもかかわらず,所定値の電圧指令を設定することに
よって,d軸と回転磁束の方向を一致するように制御しないにもかかわ
らず,1次インダクタンスと関係する制御定数を設定することができる
のであるから,両者は異なるものである。
審決は「…引用発明の設定方法は,引用文献1に記載された,誘導,
電動機の一般式に基づく演算式を用いるものであって,制御回路の指令
値の種類に限らず用いることができるものと認められる(21頁1行」
∼3行)と判断した。
しかし,引用発明の一般式(15)式が引用発明の理論的演算の根拠
であるとしても,引用発明では,ACRによりインバータに3相の電圧
指令を与えるためにACRに対して電流指令を与えなければならず,そ
の与えるべき電流指令が,そもそも無負荷電流そのものである。無負荷
電流そのものが,励磁インダクタンスと関係する量であることから,そ
の探索こそが励磁インダクタンスの測定演算に不可欠である。その探索
前に無負荷定格電流を指令値として設定することは不可能である。審決
は,指令値の種類,すなわち,電圧指令か電流指令かの種類にかかわら
ず,この一般式から容易に励磁インダクタンスを演算できるとするが,
引用発明の無負荷電流の意味を正しく理解していない。
その探索前に無負荷定格電流を指令値として設定することは不可能で
あることから,引用発明では,AFRを用いてd軸と回転磁束の方向を
一致するにように制御しつつ,前記のとおり,AERが,検出した誘起
電圧eqと,設定した周波数指令ωに基づく電圧値とを比較し,その1

比較結果が誘起電圧eqの方が小さいときは無負荷電流値を上げる補正
をし,逆に大きいときは下げる補正をしていき,その比較結果が零に近
づくまでその動作を続けて,最終的にこの比較結果が零となったとき,
無負荷電流の定格値Iが出力されるように構成している。この最終的m

な無負荷電流の定格値Iが出力されることこそが,引用発明では重m

要なのである。その後,最終的な無負荷電流の定格値Iが出力されm

た時点での誘導電動機の電圧を用いて励磁インダクタンスを演算できる
ことを引用発明の一般式(15)が示しているにすぎない。
すなわち,引用発明の一般式(15)は,そもそも公知の事柄である
ところ,この一般式に基づく励磁インダクタンスの具体的な測定演算を
行うためにいかなる回路やシステムを用いるかが技術的課題なのであっ

て引用発明の方法はベクトル制御のもとに無負荷電流の定格値I,,m
を探索することを特徴とするものであって,これを,ベクトル制御をせ
ずに電圧指令に基づいて励磁インダクタンスを測定演算する訂正発明2
に至るように構成することは,単純な指令値の入れ替えで済むものでは
ない。審決の判断は誤りである。
(エ)相違点エ(審決の相違点(ア)と関連する)について
引用発明では,前記のとおり,無負荷電流を探索するために,AFR
を用いてd軸と回転磁束の方向を一致するにように制御しつつ,前記の

とおり,AERが,検出した誘起電圧eqと,設定した周波数指令ω1
に基づく電圧値とを比較し,その比較結果が誘起電圧eqの方が小さい
ときは無負荷電流値を上げる補正をし,逆に大きいときは下げる補正を
していき,その比較結果が零に近づくまでその動作を続けて,最終的に
この比較結果が零となったとき,無負荷電流の定格値Iが出力されるm

ように構成している。引用発明の電流指令が,初期値として適宜の値を
設定し,無負荷電流を探索するために種々の補正を施して変化させるこ
とから,これに対応する誘導電動機の電圧も変化してしまい,最終的に
探索できた無負荷電流の定格値Iが出力されたときの誘導電動機の電m

圧を検出する必要があるため,引用発明では,検出の対象を「電圧」と
しているのである。
引用発明では,この最終的な無負荷電流の定格値Iが出力されるこm

とこそが重要である。その後,最終的な無負荷電流の定格値Iが出力m

された時点での誘導電動機の電圧を用いて励磁インダクタンスを演算で
きることを引用発明の一般式(15)が示しているにすぎない。
一般式に基づく励磁インダクタンスの具体的な測定演算を行うために
いかなる回路やシステムを用いるかが技術的課題なのであって,引用発
明の方法は,ベクトル制御のもとに無負荷電流の定格値Iを探索すm

ることを特徴とするものであって,これを,ベクトル制御をせずに電圧
指令に基づいて励磁インダクタンスを測定演算する訂正発明2に至るよ
うに構成することは,両者の励磁インダクタンスの測定演算の具体的方
式が異なる以上,単純な指令値の入れ替えと,検出対象を入れ替えるこ
とでは済まないことは自明である。
さらに,訂正発明2では,その検出対象が誘導電動機に流れる電流で
あるために,その検出対象が誘導電動機の出力電圧に比較して歪みが少
なく,したがって,1次インダクタンスの測定演算は,精度が向上する
ものであるのに対し,引用発明では,検出対象が,特願昭59−212
543号(公開公報は特開昭61−92185号公報。発明の名称「自
動調整を行うベクトル制御装置,出願人株式会社日立製作所,公開日」
昭和61年5月10日。甲21)と同様に誘導電動機の出力電圧であ
るため,その出力電圧には歪みが多く含まれ,訂正発明1及び2が技術
的課題であるとして課題をそのまま残存するものであり,これを何ら解
決していない。
(オ)相違点オ(審決の相違点(ア)と関連する)について
訂正発明2がベクトル制御を行わずに,所定値に設定された電圧指令
と周波数指令のもとでの無負荷電流を検出して,励磁インダクタンスを
測定演算するのに対し,引用発明が,ベクトル制御下で,無負荷電流を
探索することを目的に,AFRを用いてd軸と回転磁束の方向を一致す
るにように制御しつつ,AERが,検出した誘起電圧eqと,設定した
周波数指令ωに基づく電圧値とを比較し,その比較結果が誘起電圧e1

qの方が小さいときは無負荷電流値を上げる補正をし,逆に大きいとき
は下げる補正をしていき,その比較結果が零に近づくまでその動作を続
けて,最終的にこの比較結果が零となったとき,無負荷電流の定格値I
が出力されるように構成している。引用発明の電流指令が,初期値とm

して適宜の値を設定し,無負荷電流を探索するために種々の補正を施し
て変化させることから,これに対応する誘導電動機の電圧も変化してし
まい,最終的に探索できた無負荷電流の定格値Iが出力されたときのm

誘導電動機の電圧を検出する必要があるため,引用発明では,検出の対
象を「電圧」としている。
このような両者の励磁インダクタンスの測定演算の方式の相違から,
励磁インダクタンスの演算に用いる変数が異なるのであり,その相違点
オは,まさに相違点ウ及び同エに基づく,実質的な相違点と同じく,両
者の測定演算方式の相違に根ざすものであって,審決が前提にするよう
な,演算に使用する電流と電圧が,指令値か検出値かという単純な相違
ではない。
(カ)また,引用発明と訂正発明2との間には,上記のとおり「所定値の
周波数指令および電圧指令に従って誘導電動機を回転させるまでの間の
回転指令について,訂正発明2は(b)のステップにおいて,周波数,
指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートに
て増加させて,前記誘導電動機を回転させるものであるのに対し,引用
発明は,このような構成を有しない点」との相違点カも存する。。
(キ)審決の引用する引用文献2ないし6について
審決は「誘導電動機に所定の値を有する交流電圧を印加して無負荷,
状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと関
係する定数を決定することが引用文献2ないし6に記載されており,周
知技術である(20頁下3行∼末行)とするが,引用文献2ないし6」
の交流電圧及び検出電流はベクトル量ではなく,実効値(スカラー)で
あり,その測定演算は,訂正発明2のように電圧指令を出力するコンピ
ュータが行うのではなく,電流計,電圧計などを使用した手作業による
ものである。
したがって,審決のいうとおりこれが周知技術であったとしても,訂
正発明2における,電圧指令を出力するコンピュータにより直交するベ
クトルの所定値の電圧指令と所定値の周波数指令を設定して誘導電動機
を無負荷運転したときの誘導電動機に流れる電流の電圧指令の1つのベ
クトル成分に対応するベクトル成分を検出して一次インダクタンスを測
定演算するという方法との関係を論じずに,この周知技術が,訂正発明
2と引用発明との間の相違点とどのような関連性をもっているのか審決
は記載していないから,理由不備の違法がある。
そもそも,訂正発明2においては,1次インダクタンスの演算のため
の等価回路や理論式を得ることが技術的課題ではなく,設計値による制
御定数のマニュアル設定の問題点(実測値との誤差,マニュアル設定に
よる煩雑さ)を解決すると共に,上記特願昭59−212543号(甲
21)による制御定数の自動設定方式が有する問題,すなわち定数測定
用として専用に電圧検出器を設ける必要があり,また電圧波形が歪波形
であることから,検出精度が低く,すなわち,定数測定精度が低いとい
う問題を解決することがその技術的課題である。
(ク)電圧指令に基づいて制御する手法を用いた制御装置について
審決はインバータを電圧指令に基づいて制御することはインバー,「,
タ制御の分野で良く知られた手法(20頁下6行∼下5行)であると」
して,特開昭60−255065号公報(甲13,特開昭60−18)
(),()7282号公報甲14特開昭59−169383号公報甲15
を引用する。しかし,これらはいずれもd軸と回転磁束の方向とを一致
させるようにベクトル制御を行っているものであって,訂正発明2のよ
うに,ベクトル制御を行うこと自体ができない状態,すなわち誘導電動
機の電動機定数が不明な状態で,1次インダクタンスを測定演算する方
法に適用することができないものである。
(ケ)以上のとおりであり,訂正発明2と引用発明の相違点として,上記
相違点アないしカが存し,これら相違点について,審決が引用する引用
文献2ないし6(甲16∼20,あるいは広く知られた電圧指令に基)
づいて制御する手法を用いた制御装置(甲13∼15)を参照しても,
これを引用発明に適用して訂正発明2に至るとする論拠を示すものは全
くないから,これらによって,訂正発明2が進歩性を欠くとすることは
できない。
また審決は,訂正発明1について,実質的に訂正発明1の構成要件を
すべて含みさらに他の構成要件を付加したもの相当する訂正発明2が,
引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,訂正発明1も,同様の理由により引用発明及び周
知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,
として無効であるとした。
しかし,訂正発明2が引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたものであるとすることができないのである
から,これらによって,訂正発明1が進歩性を欠くとすることはできな
い。
2請求原因に対する認否
請求の原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
審決の引用発明の認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
ア原告は,引用発明は「a)誘導電動機の回転磁束の方向及びこれに直(
交するベクトルの回転座標系上の電流指令値(I)を適宜設定し,前記m

誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステップ」と認定されなけ,
ればならないと主張する。しかし,引用発明(甲7)には,図2に示され
***
るように電流指令の定格値Iを設定する構成正確には電流指令I,(mm
の初期値Iを設定し,そこから定格値となるように設定する構成)がm
**
記載されており,この構成は訂正発明2の「電圧指令」を「所定値に設定す
る」構成との対比の上で必要なものであるにもかかわらず,原告は甲7文献
のこの構成を無視し,対比の上で意味がない「電流指令値(電流指令)を適
宜設定」する構成を認定すべきものとしている。
しかし審決は,対比の上で必要な電流指令の定格値を設定する構成を認
定しているので,審決の引用発明の認定に誤りはない。
甲7文献において「測定においては周波数指令ωを定格に設定し,そのと1

きの電流指令値I(AERにより定格電流となるように設定される)と電圧検m

()。」,出信号Vqより15式の演算でLが求まると記載されているように1
電流指令値(I)は,初期値(I)から開始して励磁インダクタンスmm
***
Lを測定する際には定格電流値となるようにAERにより予め設定されてい1
ることが認められる。したがって,審決の認定に誤りはない。
他方,訂正発明2の「a)前記電圧指令…の所定値を設定するステッ(
プ」においても「f)前記(b)のステップにおいて,周波数指令およ,(
,び電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて
前記誘導電動機を回転させるステップ」とあるとおり,初期値から開始し
て最終的に(1次インダクタンスを測定する際には)ステップ(a)で設
定した所定値となるように予めの設定がなされているから,原告が主張す
る相違は存在しない。
イ原告はb無負荷状態において前記所定値に基づいて前記インバー,「(),
タから出力される交流電流を前記誘導電動機に印加することにより,前記
誘導電動機を回転させるステップ」との認定は誤りであると主張する。,
しかし甲7文献には図2に示されるように電流指令の定格値I正,,,(m
**
確には電流指令Iは,初期値Iから開始して定格値となるように設mm
***
定されている)及び周波数指令の定格値ωが記載されており,これらの定1

格値は訂正発明2の「(電圧指令および周波数指令の)所定値」との対比の上
で必要なものであるにもかかわらず,原告は甲7文献のこれらの定格値を看
過し,代わりに上記対比の上で意味がない「適宜設定された電流指令値(電
流指令)および周波数指令値(周波数指令)」を認定されるべきであるとして
いる。
さらに,原告は訂正発明2との対比において必要のない「無負荷定格電
流指令値に至るまでこれを補正しながら(ベクトル制御下において,検出した
電圧Vqより起電力eqを求め,起電力eqと周波数指令ωに基づく電圧1

値とが等しくなるように電流指令値を加減算する補正をしながら最終的に
これが等しくなったときの補正された電流指令値が無負荷定格電流値とな
る)」なる構成も認定すべきであるとする。
これに対し,審決においては,訂正発明2の「(電圧指令および周波数指
令の)所定値」との対比の上で必要な電流指令の定格値及び周波数指令の定
格値を認定しているのであって,審決の引用発明の認定に誤りはない。
甲7文献には「本測定法は,IMをベクトル制御で無負荷運転した条件で
励磁インダクタンスLを求める」とする記載があり,また「測定におい1。
ては周波数指令ωを定格に設定し,そのときの電流指令値I(AER1m
**
により定格電流となるように設定される)と電圧検出信号Vqより(15)
式の演算でLが求まる」と記載されており,AERにより定格電流とな1。
るように設定された所定値である定格電流値(I)に基づいて交流電流をm

印加してIM(誘導電動機)を無負荷運転(回転)させるのであるから,審決
の認定に誤りはない。
ウ原告は,引用発明につき「c)前記無負荷定格電流値となった電流指,(
令値(I)に基づき回転している誘導電動機の電圧の,前記電流指令のm

1つのベクトル成分(q軸(回転磁束の方向に直交する軸)のベクトル成
分)に対応するベクトル成分(Ⅴq)を検出するステップ」と認定され,
なければならないと主張する。
原告は,甲7文献の「回転している誘導電動機」を「無負荷定格電流値
となった電流指令値に基づき回転している誘導電動機」と認定すべきであ
るとしているが,これは「回転している誘導電動機」である訂正発明2と
の対比において,特に意味のあることではない。
原告の認定は審決の認定の上に,重ねて限定事項を付加しただけのもの
であるから,審決の認定事項が甲7文献に記載されていることに変わりは
ない。原告が付加した事項は,対比する上では関係のないことであり,引
用発明の認定に不要な事項である。
エ原告は「d)前記無負荷定格電流値となった電流指令値(I)と,,(m

前記所定値に設定された周波数指令値,および前記検出された電圧のベク
トル成分(Ⅴq)を用いて,前記マイコンを用い前記誘導電動機の1次イ
ンダクタンスを演算するステップ」と認定されなければならないと主張,
する。
甲7文献には,図2に示されるように,定格値Iに設定(正確にはm
**
,)電流指令Iの初期値Iを設定しそこから定格値となるように設定mm
***
された電流指令が記載されており,この定格値に設定された電流指令は訂
正発明2の「所定値に設定された電圧指令」との対比の上で必要なもので
あるにもかかわらず,原告は甲7文献のこの定格値に設定された電流指令
を看過し,代わりに上記対比の上で意味がない「無負荷定格電流となった
電流指令値(電流指令)」を認定している(無負荷定格電流となった電流「
指令」ではなく,電流指令Iの初期値Iを設定してそこから定格値mm
***
となるように設定された電流指令なのである。)
しかも,原告は甲7文献に記載のない「1次インダクタンス」なる用語
で認定しているので,原告の認定は,誤りである。一方,審決においては
上記対比の上で必要な定格値に設定された電流指令を認定しており,審決
の引用発明の認定に誤りはない。
また,上記のとおりAERにより,励磁インダクタンスL1を測定する
際には所定値である定格電流値(I)となるように設定がなされた電流m

指令,所定値である定格に設定された周波数指令ω,および検出された電1

圧のベクトル成分である電圧検出信号Vqを用いた(15)式の演算で励磁イ
ンダクタンス(L)を求めるのであるから,審決の認定に誤りはない。1
オ原告は「e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記マイコン,(
により前記制御装置の制御定数Lを演算し,この制御定数を設定するス1
テップ」と認定されなければならないと主張する。
甲7文献には,制御定数Lを演算することは記載されている。しかし,1
甲7文献には「1次インダクタンス」に基づいて制御定数Lを演算するこ1
とは記載されていないので,原告の上記主張は前提を欠く。
カ以上のとおり原告主張は誤りであり,審決に引用発明の認定の誤りがな
い以上,訂正発明2と引用発明との相違点は審決が認定した相違点(ア)
ないし(ウ)であり,これに関する審決の認定,判断にも誤りはない。
(2)取消事由2に対し
ア引用発明と訂正発明2との相違点は,審決が認定した「相違点(ア)ない
し(ウ)」であり,両発明の相違点を「相違点ア」ないし「相違点カ」とす
る原告の主張が誤りであることは上記のとおりであるから,原告の主張は
前提を欠く。
もっとも原告も相違点ウないし相違点オは審決が認定した相,「」「」「
」,,「」違点(ア)に関係があると主張していることもあり念のため相違点ア
ないし「相違点オ」に関する原告の主張について反論する。
イ審決が正しく判断したとおり,相違点(ア)に係る構成は,当業者が任
意になし得るものである。この点について,以下に要約する。
引用発明の(15)式及び訂正明細書の(18)式のどちらの測定演算式
も,誘導電動機が無負荷(i≒0,W≒0)かつ定常状態(引用発明では1qS
P=0であり,訂正明細書では(10)式の成立要件)で回転していれば成
立するものである。また定常状態での回転であるから,その際の出力周波
数,出力電圧及び出力電流は,いずれも一定の値である。
したがって引用発明と訂正明細書に記載された1次インダクタンス引,(
用発明では励磁インダクタンス)の測定方法は,インバータ制御装置を用
いて誘導電動機を無負荷かつ定常状態の回転をさせることにつき,電流指
令に基づいてベクトル制御する運転によって定常回転させるか,電圧指令
に基づいて制御する運転によって定常回転させるかという点で相違するに
すぎず,制御回路の指令値の種類に限らず誘導電動機を定常回転させて,
前記測定演算式を用いることができるものである。しかも誘導電動機を定
常回転させる運転方法として,どちらもインバータ制御の分野で良く知ら
れた手法であるから,引用発明において誘導電動機を無負荷かつ定常状態
の回転をさせることにつき,電流指令に基づいてベクトル制御する運転に
代えて,電圧指令に基づいて制御する運転を適用することは,当業者が任
意になし得るものである。
また,無負荷で定常状態の回転をさせることにつき,電圧指令に基づい
て制御する運転の方を適用すれば,該運転を行うために「電圧指令」及び
「周波数指令」を所定値(一定値)に設定する必要があることは,当業者
にとって技術常識である。そして,電圧指令に基づいて制御する運転の方
を適用すれば,そのことのみをもって,引用発明における「第1の電気量
指令」は直交するベクトルの指令「電圧」及び所定値を設定する指令「電
圧」に代わり「第1の電気量」はインバータから出力される「交流電圧」,
に代わり,しかも全てが同時に一括して代わるものであることは,当業者
にとって技術常識である。
したがって「…引用発明において,制御装置を,インバータ制御装置を,
電流指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御するものに換えて,
インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制
御するものを用い,それに伴って前記交流電圧を印加(審決21頁8行∼」
11行)することは,引用発明及び周知技術(または技術常識)に基づい
て当業者が任意になし得る。
また引用発明と訂正明細書記載の測定方法とは1次インダクタンス引,(
用発明では励磁インダクタンス)の測定演算に用いる電気量につき,検出
される回転している誘導電動機の第2の電気量が訂正発明2では回「」,「
転している誘導電動機に流れる電流」であるのに対し,引用発明では「回
」,「」,転している誘導電動機の電圧である点で相違し第1の電気量指令が
訂正発明2では指令「電圧」であるのに対し,引用発明では指令「電流」
である点で相違する。
しかしながら,前記の相違は,結局のところ,現に出力されている出力
電流のd軸成分及び出力電圧のq軸成分との関係を表わす1次インダクタ
ンス(引用発明では励磁インダクタンス)の測定演算式において,出力電
流のd軸成分に対して指令値を用いるか検出値を用いるか,及び出力電圧
。のq軸成分に対して検出値を用いるか指令値を用いるかの相違にすぎない
しかも,引用発明の,現に出力されている出力電流のd軸成分及び出力電
圧のq軸成分との関係を表わした(15)式において,指令電流のd軸成
分に代えて,現に出力されている電流を表わす検出電流のd軸成分を用い
ることは,当業者にとって自明の選択事項である。また,現に出力されて
いる出力電圧は指令電圧に基づいて制御されたものであり,特に引用発明
におけるような,定格周波数に近い運転状態では制御誤差が少なくなるこ
とは当該分野の技術常識であるから,出力電圧のq軸成分に対して,検出
値を用いるか指令値を用いるかは設計上の選択事項にすぎない。
したがって,検出電圧に代えて指令電圧を用い,指令電流に代えて検出
電流を用いること,換言すれば「指令電気量を電圧とすると共に検出電気,
量を電流とすること(審決21頁12行∼13行)も当業者が任意になし」
得るところである。
また,電圧指令に基づいて制御する運転方法において電圧指令をコンピ
ュータから出力する構成とすることは通常用いられる手法であるから(甲
13,14,電圧指令に基づいて制御する運転方法を適用し,電圧指令)
をコンピュータから出力する構成(相違点(イ)に係る訂正発明2の構成)
とすることも当業者が任意になし得るところである。
これらのことを踏まえて,審決が,相違点(ア)及び(イ)は当業者が
任意になし得るものであるから,引用発明において,制御装置を,インバー
タ制御装置を電流指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御するものに
換えて,インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧を印加してベク
トル制御するものを用い,それに伴って前記交流電圧を印加し,その際の
検出電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定する周知技
術のもとに,指令電気量を電圧とすると共に検出電気量を電流とすること
で相違点(ア)に係る訂正発明2の構成とすることは当業者が任意になし得
るところであると認定したのである(審決20頁下7行∼21頁22行。)
したがって,進歩性判断にかかる審決の認定に誤りはなく,訂正発明
1及び2は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受
けることができないものに対してなされたものである。
ウ両発明の相違点が「相違点ア」ないし「相違点オ」であることを前提とす
る原告の主張は失当であるから反論する必要はないが,念のため,以下の
とおり言及する。
(ア)原告主張の「相違点ア」について
,,,原告は引用発明ではこの直交するベクトルの電流指令を適宜与え
無負荷運転しながら無負荷電流を探って動作点に於ける無負荷電流指令
値Iを見出すものである。したがって,引用発明の電圧指令は,所定値m

が与えられることなく,適宜定められた直交するベクトルの電流指令に
基づき3相の電圧指令として与えられ,電流指令が補正されるのに伴い
,。順次これに応じた電圧指令となるものであると主張するが理由がない
引用発明の電流指令は,所定の初期値(I)から開始して,励磁イm
**
ンダクタンスLを測定する際には所定値である定格電流値(I)が与1m

えられるようにAERにより予め設定されている。他方,訂正発明の電
圧指令も,ステップ(a)において所定値として与えるのは電圧指令の
(),,目標値であるから審決11頁7行∼9行所定の初期値から開始して
1次インダクタンスLを測定する際には所定値である目標値が与えられ1
るように予め設定されている。したがって,所定値を与えることについ
て引用発明と訂正発明との間に格別の相違はない。
また,引用発明では,測定の際には電流指令値(I)に基づく定常m

状態の回転をしているので,出力電流及び出力電圧は一定の値であり,
電圧指令にも一定の値が与えられている。しかも電流指令値(I)m

に基づく制御運転なので出力電流(Id)は電流指令値(I)と一致1m

し,制御誤差の少ない定格周波数による運転状態なので出力電圧は電圧
指令値と一致する他方訂正発明2も測定の際には電圧指令値ス。,,,(
テップ(a)で設定した目標値)に基づく定常状態の回転をしているの
で,出力電流及び出力電圧は一定の値であり,電圧指令にも一定の値が与
えられている。したがって測定の際における電圧指令について,引用発明
と訂正発明2との間に格別の相違はない。
また原告は,引用発明においても電圧形インバータに対してはACRを
介して電圧指令が出力されるから,引用発明においては,ACRに対して
入力される指令は電流指令でなければならず,審決がいうように電流と
電圧を入れ替えると,ACRに対して電圧指令を入力することになり,
ACRは動作せず,電圧形インバータに対して電圧指令が出力できないこと
は明らかである旨も主張するが,審決を理解していないものである。
審決は「…引用発明において,制御装置を,インバータ制御装置を電
流指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御するものに換えて,
インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル
制御するものを用い,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンス
と関係する定数を決定する周知技術のもとに,…とすることで相違点
(ア)に係る訂正発明2の構成とすることは当業者が任意になし得ると
ころである(21頁8行∼14行)とし,制御装置を換えて訂正発明。」
2の構成とすることは当業者が任意になし得ると認定したのであり,制
御装置をそのままにして訂正発明2の構成とすることを述べたものでは
ない。
ここで「インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧を印加して
ベクトル制御するものを用い」とは「インバータを電圧指令に基づいて,
制御することは,インバータ制御の分野で良く知られた手法(特開昭6
0−255065号公報,特開昭60−187282号公報,特開昭5
9−169383号公報等参照)であり(審決20頁下6行∼下4行)」
及びインバータ制御の分野で良く知られた手法である電圧指令V*「,(1d
・V*)に基づいて制御する手法を用いた制御装置(審決21頁5行1q」
∼7行)に相当する制御装置を用いることである。また「その際の検出電
流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定する周知技術の
もとに」とは「誘導電動機に所定の値を有する交流電圧を印加して無負,
荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと
関係する定数を決定することが…周知技術である(審決20頁下3行。」
∼末行)のことである。これらのことを換言すれば,電圧指令に基づい
て制御する該制御装置を用い,誘導電動機に所定の値を有する交流電圧
を印加して無負荷状態で回転させることである。また審決21頁19行
∼21行にも「その際,上記『相違点(ア)について』に示す周知技術,
のもとに電圧指令を出力する構成とすることで…」との同様の認定があ
る。
以上のように,引用発明において,制御装置を,インバータ制御装置を
電流指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御するものに換えて,電
圧指令に基づいてベクトル制御するものを用い,訂正発明2の構成とする
ことは,当業者が任意になし得るところであると審決は認定したもので
ある。
(イ)原告主張の「相違点イ」について
原告は,訂正発明2の原理は,その動作における汎用モータの定格値の
磁束を発生させるようにインバータに電圧指令及び周波数指令の所定値を
,。設定し汎用モータを無負荷運転することである旨を主張するが失当である
1次インダクタンスを測定する際の「電圧指令」及び「周波数指令」に
ついて,訂正発明1及び訂正発明2では「所定値を設定する」とのみ規定し
ており,所定値の具体値は任意としているから,その際の「磁束」の値も任
意となる。したがって「その動作における汎用モータの定格値の磁束を発
生させるように」との原告の主張は,訂正発明1及び訂正発明2とは何の
関係もない。
また,周波数指令について,訂正発明1及び訂正発明2では「所定値を
設定する」とのみ規定しており「r1≪(l+L」の条件を具備,)ω111
していないので,前記原告の主張は訂正発明1及び訂正発明2に基づくも
のではない「電圧指令」についても,訂正発明1及び訂正発明2では「所。
定値を設定する」とのみ規定しており「V=0」の条件を具備してい,1d
,。ないので原告の主張は訂正発明1及び訂正発明2に基づくものではない
なお「V=0,ωs≒0,r1≪ω(l+L」という条件を設定する,)1d111
こと自体が,d軸を励磁電流軸に一致させ,q軸をトルク電流軸に一致さ
せることに他ならず,訂正明細書の(18)式が,d軸及びq軸をどのよう
に設定するかにかかわらず(定常状態において)一般的に成立するとの原告
の主張には理由がない。
また,訂正発明2では,直交するベクトルの電圧指令及び周波数指令として
所定値を設定することが原理上から重要である。そして,…誘導電動機をベク
トル制御により,d軸と磁束の方向とを一致させる制御を行う必要もない
旨の原告主張も,インバータ制御装置を用いて誘導電動機を無負荷かつ定
常状態の回転をさせることにつき,電圧指令に基づいて制御する運転によ
って定常回転させるという,インバータ制御の分野で良く知られた手法の
特徴をそのまま述べたものにすぎない。
また,引用発明において,AERにより定格電流となるように設定され
た電流指令値(I)とは,単なる無負荷電流(単に無負荷で回転していm

る際の出力電流)ではなく,電動機の定格値の磁束を発生させる励磁電流
値のことであり,一方,励磁インダクタンスを測定演算する(15)式にお
けるIdは単に無負荷時の出力電流(単に無負荷電流)でありさえすれば1
それで足りるものである。甲7文献には,無負荷運転による定常状態にお
1d1q1d1q1いて,その際の単なる無負荷電流(=I+I≒I,∵I≒0)とV
及びωとを(15)式に代入すれば励磁インダクタンスが得られるといq1
う測定演算の原理(訂正明細書の(18)式も同様)が開示されているの
であり,このこととは別に,さらに,電流指令値を電動機の定格値の磁束
状態に設定して測定することまでも付加的に開示されているのである。
したがって,原告が主張する相違点イは付加的な事項にすぎず「相違点,
イは,1次インダクタンスの測定演算の原理の相違に基づくもの」との主張
は誤りである。
(ウ)原告主張の「相違点ウ」について
原告は,訂正発明2では,AER及びAFRを用いず,したがって,事
前にrと(l+l,その他の電動機定数を測定演算することなく,回転112’)
,座標系のd軸の方向を回転磁界の方向に一致するように制御することなく
,誘導電動機の1次インダクタンスを測定演算することができる旨主張するが
理由がない。
このような相違は,誘導電動機が無負荷かつ定常回転していれば成立する
測定演算式を用いるに際して,定常回転をさせることにつき,電圧指令に基
づいて制御する運転によって定常回転させるという,インバータ制御の分野
で良く知られた手法の特徴をそのまま述べたものにすぎない。
また,訂正発明1及び訂正発明2には「事前にrと(l+l,…の電112’)
動機定数を測定演算する」場合を技術的範囲から除外する旨の規定はなく,か
かる事項は訂正発明の要件にはなっていないので,前記の原告主張は,訂
正発明1及び訂正発明2に基づくものではない。
なお,訂正発明1及び2はベクトル制御に必要な制御定数(1次インダ
クタンスと関係する制御定数)の設定方法に関するものであるが,ベクト
ル制御を行うためには1次インダクタンスと関係する制御定数の設定だけ
では足りず「rと(l+l,その他の電動機定数」と関係する制御,’)112
定数の設定も必須となる。このため,1次インダクタンスを測定する前(あ
るいはその後)には,必ず「rと(l+l,その他の電動機定数」も112’)
。「(’),測定しておくことが必須となるしたがって事前にrとl+l112
その他の電動機定数を測定演算することなく」1次インダクタンスを測定
演算できたとしても,その前後において「rと(l+l,その他の112’)
電動機定数」も測定しておくことが必須なのであるから,かかる事項につ
いて格別の意義はない。
また,特許請求の範囲には記載のない「V=0,ωs≒0,r1≪ω(l1d1
+L」という条件を設定することで「d軸と回転磁束の方向を一致する」11),
ことができ,1次インダクタンスの測定演算式である(18)式が成立し
て「1次インダクタンスと関係する制御定数を設定することができる」ので
あり,単に「所定値の電圧指令を設定する」ことで「1次インダクタンス
と関係する制御定数を設定することができる」のではない。
(エ)原告主張の「相違点エ」について
原告は,引用発明の電流指令が,初期値として適宜の値を設定し,無負
荷電流を探索するために種々の補正を施して変化させることから,これに
対応する誘導電動機の電圧も変化してしまい,最終的に探索できた無負荷電
流の定格値Iが出力されたときの誘導電動機の電圧を検出する必要があm

るため,引用発明では,検出の対象を「電圧」としていると主張する。
しかし,引用発明では「電圧」を検出対象とする必要はなく,例えば甲7文,
献の図2において「2/3相変換」器に入力されている出力電圧の検出信,
号(Vu,Vv,Vw)に代えて指令信号(Vu,Vv,Vw)を入力***
することも可能であり,かかる指令信号を入力した場合にも検出信号の場
合と同様に励磁インダクタンスを測定演算できることは自明である。定格
周波数のような運転領域においては,特に,電圧指令と出力電圧との誤差
が少なくなることは当業者には技術常識であるから,かかる置き換えは当
業者が任意になし得るところである。
また甲7文献の一般式(15)は,無負荷運転による定常回転状態にお
いてその際の出力電流=無負荷電流≒I出力電圧のq軸成分V,(),(1d
)及び出力周波数(ω)との間には一般式(15)が成立することを示1q1
したものである。すなわち,一般式(15)は,無負荷かつ定常回転であ
りさえすれば成立することを示したものであり,無負荷電流の値は,出力
電圧のq軸成分(V)及び出力周波数(ω)との関係(一般式(15)1q1
の関係)で具体的に決まるものであるから(例えば,Vの値は固定して1q
ωを変える,あるいはωの値は固定してVを変えると,無負荷電流の111q
値は変わる,無負荷電流の値は任意である。したがって「引用発明の一般)
式(15」に対する原告の主張は誤りである。)
また訂正発明1では「d)前記所定値に設定された電圧指令,…に基(
づいて」とあり(訂正発明2では「d)前記所定値に設定された電圧指(
,」),。令…を用いてとあるが指令電圧を用いることを明記してはいない
原告は,電圧指令値及び周波数指令値を用いなくても,それらが所定値に
制御されている条件下において,検出電流に基づいて無負荷電流を測定す
る方法は,当該用語に係る発明の技術的範囲に含まれると主張しているの
である。そうすると,訂正発明1では,前記技術的課題を何ら解決できて
いないことになる。
また,甲7文献には「この電圧検出法では,基本波成分が直流に変換さ
れるため高調波分と分離し易く,検出精度が高いという特徴がある」と。
明記されており「引用発明では,検出対象が,…誘導電動機の出力電圧,
であるため,その出力電圧には歪みが多く含まれ,訂正発明1及び2が技
術的課題であるとして課題をそのまま残存するものであり,これを何ら解
決していない」との原告主張も誤りである。。
(オ)原告主張の「相違点オ」について
原告は,両者の励磁インダクタンスの測定演算の方式の相違から,励磁
インダクタンスの演算に用いる変数が異なるのであり,その相違点オは,
まさに相違点ウ及び同エに基づく,実質的な相違点と同じく,両者の測定
演算方式の相違に根ざすものであって,審決が前提にするような,演算に
使用する電流と電圧が,指令値か検出値かという単純な相違ではない旨主
張する。
しかし,かかる相違は測定演算式において,出力電流のd軸成分に対し
て指令値を用いるか検出値を用いるか,及び出力電圧のq軸成分に対して
検出値を用いるか指令値を用いるかの相違でしかなく,検出電圧に代えて
指令電圧を用い,指令電流に代えて検出電流を用いること,換言すれば,
「指令電気量を電圧とすると共に検出電気量を電流とすること(審決2」
1頁12行∼13行)は,当業者が任意になし得るところである。
(カ)引用文献2∼6について
原告は,引用文献2ないし6(引用文献4は除く)に対して「引用文献
2ないし6の交流電圧及び検出電流はベクトル量ではなく,実効値(スカ
ラ−)であると主張するが,理由がない。引用文献2ないし6(甲16な
いし20)において「交流電圧及び検出電流はベクトル量ではなく,実効
値(スカラ−」であることは,訂正発明2との相違ではない。なお,引)
用文献4(甲18)における交流電圧及び検出電流はベクトル量として示
されている。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点についての認定の誤
り)について
(1)原告は,審決の引用発明の認定には誤りがあり,これに基づく訂正発明
2との一致点,相違点の認定も誤りであると主張するので,以下検討する。
ア訂正発明2の記載された明細書(甲24〔全文訂正明細書。なお,図〕
については甲1の1〔特許公報〕による。以下これらを「訂正明細書」と
いう)には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲(甲24)
その第1項及び第2項は,前記第3,1,(2)のとおり
(イ)発明の詳細な説明(甲24)
・「産業上の利用分野】【
本発明は,インバータ制御装置の制御定数設定方法に係り,特に誘
導電動機の電動機定数を演算し,演算された電動機定数に基づいて制
御装置の制御定数を設定するインバータ制御装置の制御定数設定方法
に関する(段落【0001)。」】
・「従来の技術】【
一般にベクトル制御装置においては,電動機定数,例えば励磁イン
。」ダンタンス及び2次時定数などに基づいて各制御定数が設定される
(段落【0002)】
・「例えば,特願昭−号及び特願昭−号に示される591737135839434
ベクトル制御装置においては,電圧指令信号を演算する際の制御定数
は,電動機定数の1次抵抗,漏れインダクタンス,1次インダクタン
ス及び2次抵抗に応じて設定する必要がある(段落【0003)。」】
・「発明が解決しようとする課題】【
従来は,電動機定数の設定値に基づいてそれらをマニュアル設定し
ている。そのため,使用する電動機毎に制御定数を変更する必要があ
,,,,り煩雑となりまた電動機定数の設計値と実際値の不一致により
制御演算誤差を生じトルクが変動するなどの問題がある(段落【0。」
004)】
・「一方,上記問題に対処するものとしては特願昭−号があ59212543
るこれはインバータ装置を用いてその電流指令に基づいてインバー。,
タより電動機に電圧を印加し,そのときの電圧を検出し,該検出電圧
値と電流指令値との関係より電動機定数を測定し,その結果に基づき
制御定数を設定するものである。しかし,この特願昭−号に59212543
示される例では定数測定用として専用に電圧検出器を設ける必要があ
り,また,電圧波形が歪波形であることから,検出精度が低く,すな
わち,定数測定精度が低いという問題がある(段落【0005)。」】
・本発明の目的は制御装置の制御定数の精度を向上できるインバー「,
タ制御装置の制御定数設定方法を提供することにある(段落【00。」
06)】
・「作用】【
第1の発明では,制御装置の制御定数の設定に用いる電流を,無負
荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出している。無負荷
状態において誘導電動機を回転させる,すなわち周波数指令を与える
と,回転停止状態に比べて,誘導電動機内で発生する誘導起電力が大
。,,きくなるこのため電圧指令値と誘導起電力との誤差が小さくなり
検出電流に対する前記誤差の影響が少なくなる。従って,検出された
電流に基づいて設定される,1次インダクタンスと関係する制御定数
の精度が向上する。
第2の発明では,無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態
で検出した電流の,電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクト
ル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため,1次インダクタ
ンスの精度が向上し,1次インダクタンスに基づいて演算される制御
定数の精度も向上する。更に,無負荷状態において誘導電動機を回転
させた状態で検出した電流の,電圧指令の1つのベクトル成分に対応
したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため,この
演算に要する時間が短縮され,インバータを制御するコンピュータの
負荷率が低減される。
好ましくは,周波数指令および電圧指令を設定された所定値まで徐
々にかつ一定レートにて増加させて,誘導電動機を回転させる。周波
数指令および電圧指令を設定された所定値まで徐々に且つ一定レート
にて増加させることにより,始動時に発生する突入電流を防止でき
る(段落【0008)。」】
一方,電動機電流i,i(回転磁界座標)は図1に示す電流検・「1d1q
(段落【0出器7及び座標変換器8を用いて次式に従い検出される。」
020)】
・「数4】【
」(【】)段落0021
・「i∼i:電動機各相電流uw
図1のPWM電圧制御方式の場合においては,電動機相電流の歪は
小さく正弦波に近い。そして,この電流を(4)式に従ってd軸成分
iとq軸成分iに分けて検出する本方式は,基本波成分w)が直1d1q1(
流信号で検出でき,その検出精度は高い(段落【0022)。」】
ところで,定常時における誘導電動機の電圧方程式をd,qの2・「
(段落【0023)軸理論に基づいて表わすと次式で与えられる。」】
数5】・「【
(段落v=rid−w(l+L)i−wMi…(51d111111q12q)」
【0024)】
数6】・「【
v=w(l+L)i+ri+wMi…(6)1q1111d11q12d
ここに,i,i:2次電流のd軸及びq軸成分2d2q
r:1次抵抗1
l:1次漏れインダクタンス1
L:1次有効インダクタンス1
M:相互インダクタンス
ここで,2次電流はかご形誘導機の場合測定できないのでこれを以
下のようにして消去する。2次電流と1次電流の関係は回転子2次回
(【】)路に関する電圧方程式に基づいて次式で示される。」段落0025
数7】・「【
(段落w・Mi=rid−w(l+L)i…(7s1q22s222q)」
【0026)】
数8】・「【
−w・Mi=w(l+L)i+ri…(8)s1ds222d22d
ここに,w:すべり角周波数s
r:2次抵抗2
l:2次漏れインダクタンス2
L:2次有効インダクタンス2
」(7(8)式を用いて(5(6)式のi,iを消去すれば),),2d2q
(段落【0027)】
数9】・「【
(段落【0028)」】
数10】・「【
」(【】)段落0029
l+Lの測定法〕・「〔11
v=v*=0,v=v*∝w*,w=w*,w≒01d1d1q1q111s
すなわち,無負荷状態においてv*とw*を所定値に設定し,いわ1q1
ゆるV/F一定制御運転(磁束一定条件)を行う。ここで(10),
,()式において無負荷条件である故i≒0となりしたがってl+L1q11
(段落【0042)は次式より測定演算できる。」】
数18】・「【
」(【】)段落0043
Tの測定法〕・「〔2
(段落【0044)2次時定数Tは次式で与えられる2。」】
数19】・「【
」(【】)段落0045
図6では,先ず,ブロック61にて,w*とv*を電動機定格値・「11q
に設定し運転する。なお始動時の突入電流を避けるため,w*とv*11q
は一定レートにて立上げ加速終了後,ブロック62にてi,iの1d1q
信号取込み,ブロック63にて(18)式よりl+Lを演算する。11
さらにこの結果を基にブロック64にてTを2
T=l+L/r′2112
(段落【0055)より演算する。」】
(ウ)図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である。甲1の1)
・図1(本発明の一実施例を示すインバータ装置の構成図)。
・図6(本発明における演算内容のフローチャート)。
イまた,訂正明細書(甲24)の引用する特願昭59−212543号の
公開公報である特開昭61−92185号公報(発明の名称「自動調整を
行うベクトル制御装置,出願人株式会社日立製作所,公開日昭和61」
年5月10日。甲21)には,以下の記載がある。
・「発明の概要〕〔
本発明の特徴とするところは,ベクトル制御装置を用いて,電動
機電流及び周波数を所定値に制御し,該電流の指令信号あるいは検
出信号と電動機電圧検出信号を用いて電動機定数を測定し,その結
果に基づき制御定数を設定し,各電動機に対して常に最適な制御が
行えるようにしたことにある(2頁左上欄1行∼8行)。」
・「…14は電動機電圧のd軸及びq軸成分を検出する電圧成分検出
器…(2頁右上欄10行∼12行)」
ウ以上によれば,訂正発明2は,従来の電流指令に基づきインバータに電
圧を印可し,そのときの電圧を検出して電動機定数を測定する方法におい
ては,専用に電圧検出器を設ける必要があり(上記イ,電圧波形が歪波)
形であることから検出精度が低いという問題があったことから(訂正明細
書段落【0005,制御定数の精度を向上できるインバータ制御装置の】)
制御定数設定方法を提供することを目的とするものである(段落【000
6。】)
具体的には,訂正発明2は,誘導電動機に電力を供給するインバータを
直交するベクトルの電圧指令(V,V)に基づいて制御する電圧指1d1q
**
令型ベクトル制御装置である(特許請求の範囲の記載。その制御定数を)
設定するに当たっては,ベクトル制御を使用せず,従来から利用されてい
た誘導電動機のV/F一定制御運転を利用して所望のデータを取得し(段
落0042所定の演算式を利用してコンピュータにより制御定数特【】),(
に,1次インダクタンス)を設定する方法である。訂正発明1は,上記訂
正発明2の電圧指令につき「直交するベクトルの」との限定をせず,1次
,,インダクタンスと関係する制御定数を設定するものであり訂正発明2は
1次インダクタンスを用いて設定される2次時定数(T)の演算も含ま2
れるものである(特許請求の範囲の記載。)
訂正発明2における電動機定数の測定においては,まず,電圧と周波数
の指令値を所定値(例えば,1次インダクタンス測定に適した定格値)と
して設定する(特許請求の範囲2,ステップ(a。))
次いで,無負荷状態において,インバータから出力される交流電圧を誘
,(())。,導電動機に印加して誘導電動機を回転させるステップbその際
電圧と周波数を,設定した周波数指令値ω及び電圧指令値Vまで小さ11**
い値から徐々に且つ一定レートにて増加させて,前記誘導電動機を回転さ
せる(ステップ(e。これにより,無負荷定常運転状態となる。この運))
転はV/F一定制御運転(インバータの周波数指令〔F〕に対応した電圧
指令〔V〕を設定し出力電圧を制御する方式)であって,電圧・周波数・
負荷(ここでは無負荷運転である)に応じた状態で,自然に電動機の回転
が安定し定常状態となる(段落【0042。そこで,回転している誘導】)
電動機に流れる電流を測定する(ステップ(c。そして,無負荷状態で))
あるから電圧はV=0となり,所定値に設定されたV,ωと,検1d1q1***
出された電流のベクトル成分(I)を用いて,コンピュータを用い誘1d*
()(【】,導電動機の1次インダクタンスを演算する段落0042l+L11
【0055。】)
式は,以下のとおりである(段落【0043。】)
またこれにより得られたLをrで除してTを求める段落0,’,(【122
049。】)
エ一方,引用発明の記載された甲7文献には,以下の記載がある(判決注
:各摘記の前の番号は整理の便宜のため判決で付記。)
1−①「1.まえがき
速度やトルクの高速応答,高精度制御が要求されるFA機器等の駆
動システムでは,これまでの直流電動機に替ってメンテナンスや耐環境
性に勝れたベクトル制御を採用したかご形誘導電動機ドライブが適用さ
れている。周知のように誘導電動機(以下,IMと略す)のベクトル制
御においては,IMの等価回路を制御モデルとして制御するため,制御
装置には前もって適用するIMの等価回路定数に基づく制御定数を設定
する。また,速度制御系においてはIMとこれに直結する負荷を含めた
慣性モーメントに応じて制御ゲインを設定する必要がある。上記設定に
は一般に電動機定数の設計値が用いられるが,モデルと実機の定数に差
異があると制御誤差を生じる。また,制御定数は使用するIM毎に設定
する必要があり,その設定が複雑であることから多大な調整時間を費や
す。さらに,電動機定数の不明な例えば既設のIMにはベクトル制御が
適用できないといった問題があった(61頁4行∼16行)。」
1−②「本論文では,ベクトル制御装置に電動機定数測定機能を持たせ,
実運転前に電動機定数や慣性モーメントを高精度に自動測定し,これに
基づき制御定数を自動設定することを目的に,電動機定数の測定法とこ
れをディジタルインバータ装置に適用するときのオートチューニング方
式について報告する(61頁17行∼20行)。」
2−①「2.ベクトル制御におけるオートチューニングの必要性
先に開発した速度センサレス・ベクトル制御を例に,オートチューニ
ングの必要性について述べる。…ベクトル制御は電動機モデルを基準と
して,インバータ出力電流の大きさと位相及び周波数を制御するため,
モデルの定数を電動機定数に応じて予め設定する必要がある。以下に各
制御部におけるチューニングの必要性を列記する(61頁21行∼2。」
6行)
2−②「1)起電力検出器は磁束に関係した誘導起電力ed,eqを検出す
るもので,次式に従いIM端子電圧Vd,Vqから内部インピーダンス
降下を差し引き演算する。
ed=−ω・Φq1


=Vd−{r・I−ω・+')I・・・()112m1t
***
(}••1
eq=ω・Φd1


=Vq−(r・I+ω・・I)・・・()(611t1m
***
•2」
1頁27行∼33行)
2−③「2)励磁電流の調節には電動機電圧を定格値に設定するために励
磁インダクタンスLが必要であり,従来は電動機の設計値に基づいて1
設定しているが,設計誤差により電圧が定格値から変動する(61頁。」
下2行∼62頁2行)

2−④3速度センサレス方式においてはインバータ出力周波数ω「),1
からすべり周波数演算器からのすべり推定値を差し引いて回転速
度を演算する。このとき,すべり周波数は次式に従って演算する
ため2次時定数Tが必要である。2
=・・・()(62頁3行∼10行)3」
2−⑤「4)速度制御部では速度応答を目標値に設定するため,慣性モー
メントJに応じて制御ゲインを調節する必要がある。しかし,慣性モー
メントは機械負荷により変り,その測定には通常速度センサをトルクセ
ンサを用いて行うが煩雑である。
このようにベクトル制御は調整が複雑であることからオートチューニ
ングの必要性が出てくる。以下,今回立案検討したインバータを用いた
電動機定数の測定法と,それをディジタル装置に適用して制御定数を
。」()オートチューニングする方式について述べる62頁11行∼20行
3−①「3.電動機定数の測定法
3.1測定法の原理
三相かご形IMの電圧方程式を2軸(d,q)理論で表わすと次式とな
る。2)3)
ここで,V,V及びI,Iは角周波数ωで回転する座標上の1d1q1d1q1
,,,,,電圧電流成分でありVVは後述するように検出可能またI1d1q1d
Iはベクトル制御の制御信号から間接的に検出可能であるため,これら1q
を与えて()式を解くことができる。さらに,特定の条件を与えれば定数4
や変数を消去できるので測定すべき定数を簡単に求めることができる。す
1なわち,定常状態ではP(d/dt)=0とおけ,また直流励磁ではω
=0,回転停止状態ではω=ω,さらにI=0又はI=0の条件1s1d1q
を設定すると定数及び変数が消去でき,測定すべき定数に関する電圧方程
式が導びける。以上が測定原理である(62頁23行∼63頁2行)。」
3−②「図2は今回電動機定数の測定に適用した速度センサレス・ベクト
1d1ル制御インバータの構成図である。電流指令信号I,IはI,Imt
**
を各々指令する信号であり,電圧検出信号V,VはV,Vに相当qdq1d1q
する信号である。これらの信号を用いて後述するように電動機定数を測定
。,,。」()するなお印は指令値をは推定値を表す63頁3行∼7行*
3−③「次に,本装置において今回の測定に関係する部分,すなわち電流
,。指令信号IIから電圧検出信号が得られるまでの動作を説明するmt
**
まず,電流指令信号I,Iと周波数指令ωに比例した周波数のmt
***

2相発振器の信号を座標変換器に入力すると()式の演算を行い,固定子5
座標における2相の電流指令I,Iが出力され,さらに2相−3相αβ
**
変換器で3相の電流指令I(I,I,I)が()式に従って出1uvw
****
力される。

,,,,(,一方dq軸電圧検出信号VdVqはインバータ出力電圧Vu
Vv,Vw)より(),()式の演算を行う3相−2相変換器,座標変換器78
で検出される(63頁8行∼22行)。」
3−④「この電圧検出法では,基本波成分が直流に変換されるため高調波
分と分離し易く,検出精度が高いという特徴がある(63頁26行∼2。」
7行)
3−⑤「図2.ベクトル制御装置の構成

(63頁)
3−⑥「3.3励磁インダクタンスと2次時定数の測定
当初,IMを回転停止させた状態で励磁電流Iをステップ変化さm

せ,そのときの磁束変化に伴って発生する電圧の検出信号から,励磁イン
ダクタンスLと2次定数Tを測定する方法を試みたが,精度的に問題が12
あり,また積分演算が介入するため演算が複雑になることから,積分の入
らない以下の測定方法で検討した(66頁7行∼12行)。」
3−⑦「本測定法は,IMをベクトル制御で無負荷運転した条件で励磁イ
ンダクタンスLを求める。この条件では(4)式において定常状態P1,
=0,ω≒0,I≒0とおけ,次式が成立する。S1q
V=(+L・ω・I+M・ω・I…(14)1q1111d12d•)
22d0=r・I
さらに,≪Lとすれば,Lは次式より求められる。•111
…(15)
測定においては周波数指令ωを定格に設定し,そのときの電流指令1

値I(AERにより定格電流となるよう設定される)と電圧検出信号m

Vより(15)式の演算でLが求まる。本測定値は従来のJEC規格q1
による測定値に比べて+6%の誤差であった(66頁13行∼23行)。」
「,,.3−⑧次に2次時定数Tの測定にあたってはここで求めたLと321
2.2項で求めたr'より,簡略的に次式より演算できる。今回の測定で2
は,+12%の精度であった。
T≒L/r'…()(66頁24行∼221216」
7行)
4−①「4.ベクトル制御のオートチューニング
速度センサレス,ディジタルベクトル制御に前章で述べた電動機定数の
測定法を適用し,その自動測定と測定結果に基づく制御定数のオートチ
ューニング法について述べる。
4.1オートチューニング法
図7は,今回開発したオートチューニング法のフローチャートである。
オートチューニングに先立ち,IM定格,定格回転数,極数及び目標応答
はイニシャル設定し,これよりチューニングの動作に入る。
先ず,図2に示す周波数制御(AFR,起電力制御(AER,速度制))
(),,,御ASRを休止させIMが回転停止状態において入力指令Im

ωに所定値を設定し,IMを交流励磁する。そのときの電圧検出信号1

dq1212V,Vにより,3.2節で述べた方法で(r+r')及び(+••
')を演算する(68頁下12行∼下1行)。」
4−②「次に,ω=0でIに所定値を入力し,IMに直流電流を流1m
**
す。そのときの相電圧指令Vと相電流信号Iより,3.2.1項で述UU

べた方法でrを測定する(69頁1行∼5行)1。」
4−③「以上の測定によりr,r'及び+'を正規化演算し,起電1212••
力検出器の内部インピーダンスを設定する。これによりベクトル制御が行
える条件が確立できたので,次に全制御を活し,速度入力指令ωに定r

格値を設定し,IMを無負荷運転する。そのときのI,ωとVの信m1q
**
号より,3.3節の方法で励磁インダクタンスLを測定する(69頁1。」
6行∼15行)
「,。4−④なお2次時定数TはこのLと先に求めたr'より演算する221
このTとLに基づきすべり演算器とIの最適設定を行う(69頁21m

。」
16行∼19行)
5−①「5.むすび
ベクトル制御インバータの調整自動化を目的に検討した結果,以下の結
論を得た。
1)速度センサやトルクセンサを用いることなくベクトル制御装置の制
,,御信号より電動機定数及び慣性モーメントを測定する方法を明らかにし
,。さらにその実験検証を行った結果所要の精度が得られることを確認した
2)速度センサレス・ディジタルベクトル制御インバータに上記電動機
定数測定機構を付加し,電動機定数が不明な状態から制御定数を自動設定
するオートチューニング方式を開発し,その効果を加減速性能及び速度精
度より実証した(70頁16行∼25行)。」
5−②「図7オートチューニング方法のフローチャート
(69頁)」
オ以上によれば,甲7文献は,誘導電動機(IM)をベクトル制御をする
につき必要な電動機定数を実運転前に高精度に自動測定する方法に関する
論文であり(摘記1−①,②,5−①,最終的に必要な電動機定数であ)
る励磁インダクタンスL(3−⑦,2次時定数T(3−⑧)を求める12)
ものである。なお,甲7文献のうち,慣性モーメントを求め制御ゲインを
設定する部分は本件とは直接関連しない(訂正明細書の段落【0061】
ASRのゲインは機械系の慣性モーメントJに応じて決定されるにも「…
…」と記が,Jは例えば特願昭59−212543号記載の方法にて測定できる。
載されている。)
引用発明は,励磁電流の調節には電動機電圧を定格値に設定するために
励磁インダクタンスLが必要であり(2−③,また速度センサを用いな1)
い速度センサレス方式においてはすべり周波数を演算するために2次時定
数Tが予め必要である(2−④)との知見のもとに,ベクトル制御イン2
バータにおいてこれらを自動測定・設定するオートチューニング方式に関
するものである(2−⑤,5−①。当初,インバータを回転停止させた)
状態で励磁電流Iをステップ変化させた場合の電圧検出信号から上記m

L,Tを測定したが精度に問題があり,積分演算が必要で複雑であるこ12
とから,これを克服するための方法を提供しようとするものである(3−
⑥。)
そして引用発明における測定法は以下の<ア>∼<オ>のとおりである。
<ア>引用発明においては,まずベクトル制御を行う前提としての必要
な制御定数(r,r',+'。各定義は3−①)については,1212••
事前に測定してこれを設定する必要がある(4−①∼③,5−②。)
<イ>上記制御定数が得られることにより,ベクトル制御を行う前提条
件が備わったので(4−③,5−②,まず電動機の銘板に与えられ)
〔〕(,た定格値に設定した回転周波数指令速度入力指令ω3−⑦r

4−③)からこれと同じ所定値であるωを得て,インバータをベ1

クトル制御下で無負荷運転する(4−③,5−②。)
<ウ>そして適宜(任意)の値として電流の初期値Iが与えられるm
**
(3−⑤。このIは実際の1次インダクタンスLの測定に用い)m
**

られる電流指令信号(指令値)であり,無負荷運転時の定格磁束を形

成する励磁電流(以下「定格電流」という場合がある)であるIm
となるまでΔImを加算することにより補正される(3−⑤,3−⑦
中の「電流指令値I(AERにより定格電流となるよう設定されm

る」との記載。すなわち,無負荷運転時における定格電流であるI))
は事前に銘板等により知り得ないところ,まず任意の値としてIm

が与えられ,これをAER(起電力制御)において,周波数指令m
**
ωに基づく電圧値(3−②の図2におけるAERの左横の「+」1

記号)と,検出された誘起電圧であるeq(3−②の図2におけるA
ERの左横の「−」記号。なおその算出式は2−②の()式)とを加2
減算し,無負荷運転時の定格電流であるIを得る。この点の詳細m

については,上記「電流指令値I(AERにより定格電流となるm

よう設定される」との記載(摘記3−⑦)しかない。)
<エ>上記で得られた無負荷運転の状態において誘導電動機に印可され
る電圧を検出し(4−③,無負荷運転時の定格電流であるIをI)m

とし,定格周波数指令ωをωと,そのとき検出される電圧信号1d11

Vをそれぞれ()式(摘記3−⑦記載)に代入し,これにより励磁1q15
インダクタンスLを得る。1
<オ>上<エ>により求めたLと既に<ア>で求めてあるr’により,こ12
れらを()式(摘記3−⑧記載)に代入し,2次時定数であるTを162
求める。
以上の方法による引用発明の電圧検出法は,基本波成分が直流に変換
される(3−③にあるとおり座標変換を行い)ため高調波成分と分離し
易く,検出精度が高いという特徴があるとしている(3−④。)
カ上記引用発明における電動機定数の検出方法につき検討すると,引用発
,(),明においては適宜任意の値として電流指令の初期値Iを設定しm
**
その後,ベクトル制御運転を行うことにより,自動的にIが無負荷運転m

時の定格電流となるよう調整される。これによれば,電流指令値Iはベm

クトル制御運転により次第に定格電流に収束していくものであり,その定
格電流は,駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスLによって異なる1
ものであって,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Iの具体的m

,。,,数値は誘導電動機の回転前には知り得ないしたがって引用発明では
誘導電動機の回転前に予め電流指令値Iを定格電流となるよう設定したm

ものではない。そうすると,審決が,引用発明の内容として,無負荷状態
(()),「()において誘導電動機を回転させるステップステップbの前にa
前記電流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステ
ップ(18頁8行∼9行)を備えるものと認定したことは誤りである。」
また,引用発明では,予め定格電流,すなわち,電流指令の定格値を具
体的に知ることができないから,無負荷定常回転状態に至るまでは「定,
格値に基づいて」運転することができない。したがって,この意味におい
て審決が引用発明の内容として「b)無負荷状態において,前記定格値(
に基づいて前記インバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に印
加することにより,前記誘導電動機を回転させるステップ(18頁10」
行∼12行)を備えると認定したこともまた誤りである。
キそして,①(a)のステップにおいて,第1の電気量指令を設定する際
に,訂正発明2は,電圧指令の所定値を設定するのに対して,引用発明で
は,その後に補正される電流指令の初期値(I)を設定する点,②無m
**
負荷状態において誘導電動機を回転させるステップについて,訂正発明2
は,所定値に設定された電圧指令及び周波数指令に基づいて回転させるの
に対し,引用発明は,ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電
流指令値および定格値に設定された周波数指令値に基づいてインバータか
ら出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し,無負荷定格電流指令値
に至るまでこれを補正しながら,誘導電動機を回転させるものである点,
の2点については,引用発明と訂正発明2との相違点として認定されるべ
きである(原告の主張する相違点イの一部,及び同ウに当たる。なお,)
訂正発明1は,訂正発明2の電圧指令につき「直交するベクトルの」との
限定をせず,1次インダクタンスと関係する制御定数を設定するものであ
るから,上記訂正発明2に関するものと同様である。
ク審決は,上記のとおり引用発明の認定を誤り,訂正発明2との相違点を
看過したものであるが,次にこの相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼ
すものであるかにつき検討する。
(ア)まず,上記キの認定すべき相違点の①の点について検討すると,既
に上記で検討したとおり,引用発明は,電流指令値Iがベクトル制御m

,,運転により次第に定格電流に収束していくものでありその定格電流は
駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスLによって異なるものであ1
るから,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Iの具体的数値m

は,誘導電動機の回転前には知り得ず,引用発明において電流指令値を
予め所定値に設定することは原理的にできない。
一方,訂正発明2は,電圧指令を選択することにより,特許請求の範
囲記載の(c)のステップである電流検出を行うための無負荷定常回転
状態の電圧指令値を予め設定することが可能である。そして,定格電圧
での無負荷定常回転状態で上記(c)のステップを行う場合には,電動
機の銘板に記載された定格電圧と定格周波数を各指令の所定値として選
,。択できる等条件設定が簡便になる作用効果があることが明らかである
(イ)なお審決は,訂正発明2が電圧指令に基づいてインバータを制御し
ている点に関し,相違点(ア)の判断において「インバータを電圧指,
令に基づいて制御することは,インバータ制御の分野で良く知られた手
法」である(20頁下6行∼下5行)として,特開昭60−25506
(「」,,5号公報発明の名称PWMインバータ出願人三菱電機株式会社
公開日昭和60年12月16日,甲13,特開昭60−187282)
号公報(発明の名称「誘導電動機のベクトル制御装置,出願人株式会」
社日立製作所,公開日昭和60年9月24日,甲14,特開昭59−)
169383号公報(発明の名称「ベクトル制御方式におけるインバー
タ出力電圧制御装置,出願人株式会社明電舎,公開日昭和59年9」
月25日,甲15)を挙げているので検討する。
a甲13には以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「(1)基本波信号に第3調波信号を重畳して被変調波信号を作成する
PWMインバータにおいて,上記第3調波信号の最大振幅を可変と
し,インバータ出力電圧指令に対応して増減する上記基本波信号の
最大振幅の増減に応じて上記第3調波信号の重畳率を増減すること
を特徴とするPWMインバータ」。
(b)発明の詳細な説明
・「3.発明の詳細な説明
〔発明の技術分野〕
この発明は可変電圧可変周波数電源として用いられるPWMイ
ンバータに関する(1頁右下欄1行∼4行)。」
・「発明の実施例〕〔
以下,この発明の一実施例を図について説明する。
第5図において,12は第3調波振幅変調用関数発生器であっ
て,インバータ出力電圧指令Vrが入力され…(2頁右下欄6」
行∼11行)
(c)図面(かっこ内は「4.図面の簡単な説明」中の記載である)
・第5図(この発明の一実施例を示す回路図)
b甲14には以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「1.誘導電動機に交流に供給するPWMインバータと,該PWM
インバータに速度指令を基に形成した制御信号を供給して該誘導電
動機をベクトル制御する制御回路とを備え,該誘導電動機を可変速
制御できるようにした誘導電動機のベクトル制御装置において,前
記制御回路は,電流検出器からの電流検出信号より得た励磁成分電
流帰還値と速度指令を基に形成した励磁成分電流信号との偏差より
d軸成分電圧指令を演算し,速度指令を基に形成したトルク成分電
流指令と該電流検出器からのトルク成分電流帰還値との偏差よりq
軸成分電圧指令を演算し,それら演算結果のd軸及びq軸成分電圧
指令値より誘導電動機に印加するPWM電圧指令をベクトル演算し
,,て制御信号を形成しこれをPWMインバータに供給できると共に
上記d軸成分電圧指令値により,すべりを補償するように構成した
ことを特徴とする誘導電動機のベクトル制御装置」。
(b)発明の詳細な説明
・「発明の利用分野〕〔
本発明は速度検出器無し誘導電動機のベクトル制御装置に係
り,特に速度制御用の電圧検出器を省略して全てデジタル化を図
。」るに好適な誘導電動機のベクトル制御装置に関するものである
(1頁右下欄18行∼2頁左上欄2行」)
・「発明の背景〕〔
この種の速度検出器無し誘導電動機のベクトル制御装置は,ベ
クトル演算の直交性を補償するすべり補償と,電圧及び周波数の
比を一定にする励磁補償とを,パルス幅変調(PWMと呼ぶ)さ
れた電圧を電圧検出器で検出し,その検出電圧から検出されたd
軸成分電圧(以下,Eと略称する)及びq軸成分電圧(以下,d
Eと略称する)により行なうと共に,Eを速度帰還信号に使用qq
していた。そのため,かかるベクトル制御装置では,電圧検出器
を介しての電圧検出が必須の要素であった(2頁左上欄3行∼。」
14行)
・「発明の目的〕〔
本発明の目的は,トルク成分,励磁成分電流を各々制御し,そ
の演算結果をd軸成分E,q軸成分Eの電圧指令とし,PWdq
**
**
Mパルス信号をこの電圧指令値より作成すると共に,E,Edq
をすべり補償,励磁補償に用いることにより,PWM電圧を検出
する必要をなくした誘導電動機のベクトル制御装置を提供するこ
とにある(3頁左上欄2行∼9行)。」
・「発明の実施例〕〔
以下,本発明の実施例を第3図以下の図面に基づいて詳細に説
明する。
第3図は本発明に得る誘導電動機のベクトル制御装置の一実施
例を示すブロック図である。

次に本実施例の動作について説明する。
速度指令ωrが与えられると誘導電動機2の速度をωrにす**
るように,まず,演算器37により速度指令ωrと実速度ωr*
,,の偏差を演算しωr=ωrと制御する電流指令Itを作成し**
演算器34によりトルク電流指令Itとトルク電流Itの偏差*
,。」を演算しIt=Itと制御する電圧指令Eを作成する…**

(3頁右上欄1行∼左下欄2行)
(c)図面(かっこ内は「図面の簡単な説明」中の記載である)
・第3図(本発明の実施例の構成を示すブロック図)
c甲15には以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「(1)誘導電動機を電圧形インバータで駆動し,誘導電動機の
磁束分を設定するα相一次電圧eと二次電流分を設定するβ1α
相一次電圧eから相電圧演算によって上記インバータの3相1β
電圧設定値e,e,eを得るベクトル制御方式において,abc
***
上記電圧e及びeを夫々同期回転座標−固定座標変換した1α1β
電圧e及びeは夫々上記インバータの直流検出電圧Eと1d1qdc
その基準直流電圧Eとの比E/Eで割算し,この割算結果NdcN
を2相/3相変換して上記3相電圧設定値e,e,eとabc
***
することを特徴とするベクトル制御方式におけるインバータ出
力電圧制御装置」。
(b)発明の詳細な説明
「…第1図において,誘導電動機1にPWM方式インバータ2か
ら電圧制御による一次電圧を供給して該電動機1に磁束と二次電
流とが互いに直交するよう制御するのに,電動機1の磁束を一定
に制御するためのα相一次電流設定値iと二次電流を制御す1α

るためのβ相一次電流設定値iと電源角周波数ωとを入力す1β0

る補正演算回路3によってα,β相一次電圧e,eを得,こ1α1β
の電圧e,eは相電圧演算回路4によって2相−3相変換し1α1β
てインバータ2の3相電圧設定値e,e,eを得る。…」abc
***
(2頁右上欄1行∼11行)
(ウ)上記によれば,甲13∼15は,いずれもインバータを電圧指令に
基づき制御する構成を示すものであるものの,甲13には,インバータ
出力電圧指令Vrをどのように設定するかにつき上記摘記の記載のみで

十分な開示がなく,甲14には,演算器34によりトルク電流指令It
とトルク電流Iの偏差を演算して電圧指令Eを作成し,演算器33tq

で励磁電流指令Iと検出値Iの偏差を演算して電圧指令Eを作成mmd
**
することが開示されているが,ベクトル制御運転における偏差の演算を
用いることなく直接E,Eを所定値に設定することは開示されていdq
**
ない。甲15には,電動機の磁束を一定に制御するためのα相一次電流
設定値iと二次電流を制御するためのβ相一次電流設定値iと電1α1β
**
源角周波数ωとを入力する補正演算回路3によってα,β相一次電圧0
e,eを得ることが開示されているが,ベクトル制御装置の制御定1α1β
数設定前にα,β相一次電圧e,eを設定することは記載されてい1α1β
ない。
したがって,甲13∼15には,訂正発明2における無負荷定常回転
状態の電圧指令を電動機の回転開始前に設定することについては何ら開
示がなく,インバータを電圧指令に基づき制御することに関する周知技
術によっても,引用発明と訂正発明2との相違点とすべき上記①につい
て,容易想到と認めることはできない。
ケ次に,上記キの認定すべき相違点の②の点について検討する。
(ア)訂正発明2における「無負荷状態において,前記所定値に基づいて
前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加するこ
とにより,前記誘導電動機を回転させる(ステップ(b)と記載され」)
た運転について,その具体的な運転制御方法は特許請求の範囲からは一
義的に明らかとはいえない。そこで訂正明細書(甲24)の発明の詳細

な説明を参酌すると,段落【0042】に「無負荷状態においてV1q
,()とWを所定値に設定しいわゆるV/F一定制御運転磁束一定条件1

を行う」と記載されており,誘導電動機の運転制御において既に知ら。
れたV/F一定制御運転を想定したものと解される。
ここで引用発明は,無負荷電流の定格値を求める前提としてベクトル
制御運転を行う必要があり,そのため,AER(起電力制御)及びAF
R(周波数制御)を用いることから,既に検討したようにと(llr+11
)を励磁インダクタンスLの演算測定に先だって測定演算すること21'
が必要である。一方,訂正発明2は,上記のとおりV/F一定制御運転
を行うことにより,引用発明のようにAER及びAFRを必要とせず,
事前にと(ll)等の他の電動機定数を測定演算することなく,r+'112
誘導電動機の1次インダクタンスを測定演算することができるものであ
る。
(イ)インバータを電圧指令に基づき制御することに関する周知技術であ
る上記甲14には,電圧指令に基づいてインバータを制御し,誘導電動
機をベクトル制御する制御装置であって,指令値と実測値の偏差を演算
し,それを補償するように指令を調整する制御手段を利用したベクトル
制御運転についての記載がある(特許請求の範囲の記載。しかし,ベ)
クトル制御装置における偏差を調整する制御手段を利用せずに,特定の
電圧指令と周波数指令によりインバータを制御し,誘導電動機に交流電
圧を印加することは,上記甲14には何ら開示されていない。
コ以上の検討によれば,審決の引用発明の認定の誤り・訂正発明2との相
違点の看過は,審決の結論に影響を与えることが明らかである。よって,
原告の主張する取消事由1は理由がある。
()被告の主張に対する補足的判断2
,,,被告は引用発明においても無負荷定常回転となって安定した段階では
(「」)電流指令値Iは安定した特定の値定格電流となるよう設定された値m

となっており,その時点においては,定格値のIとωを指令値として設m1
**
定し,当該指令値に基づいてインバータから出力される電力を誘導電動機に
印加し,誘導電動機の無負荷定常回転をしているとみなすことができ,訂正
発明2と同様である旨を主張する。
しかし,訂正発明2は「f)前記(b)のステップにおいて,周波数指,(
令および電圧指令を前記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増
加させて,前記誘導電動機を回転させるステップ」を備えており,この記載
に基づけば(b)のステップは,誘導電動機の回転開始時から,各指令が,
設定された所定値となって安定した無負荷定常回転状態となるまでの期間を
意味するステップであると解される。そうすると,訂正発明2は(b)の,
ステップ前に「a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所(
定値を設定するステップ」を行うのであるから,電圧指令の設定は,誘導電
動機の回転開始前に行うものである。
したがって,訂正発明2の「a)前記電圧指令および前記誘導電動機の(
周波数指令の所定値を設定するステップ」は,誘導電動機の回転開始前に行
うステップであると位置付けられるのに対し,引用発明は,電流指令の定格
値を誘導電動機の回転開始前に設定することはできないから,最終的に電流
指令が定格値が設定されるとしても,引用発明が「a)前記電流指令およ(
び前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステップ」を備えている
ということはできない。被告の上記主張は採用することができない。
3取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について
原告は取消事由2として審決の進歩性判断の誤りを主張するところ,原告の
主張は取消事由1における原告主張の相違点ア∼カに基づき進歩性判断の誤り
を主張するものであって直ちには採用の限りではない。しかし,原告の相違点
オに関する主張において,審決が認定した相違点(ア)についての進歩性判断
について審決の誤りを主張するので,以下この点につき検討する。
まず審決が相違点(ア)について「…引用発明において,制御装置を,イ,
ンバータ制御装置を電流指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御する
ものに換えて,インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧を印加して
ベクトル制御するものを用い,それに伴って前記交流電圧を印加し,その際の
検出電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定する周知技術の
もとに,指令電気量を電圧とすると共に検出電気量を電流とすることで相違点
(ア)に係る本件訂正発明2の構成とすることは当業者が任意になし得るとこ
ろである(21頁8行∼14行)と判断した点について検討する。」
()引用発明の()式(摘記3−⑦)は,誘導電動機の電圧方程式に基づい115
て導かれ,無負荷運転の定常状態という前提の下に定められた幾つかの近似
条件(ω≒0,I≒0等)を満足する限りにおいて成立する,励磁インS1q
ダクタンスLと各物理量の関係を表した理論式である。したがって,誘導1
電動機が無負荷かつ定常状態の回転をしていれば,上記()式は成立するか15
ら,()式に代入する各物理量を,指令値とするか検出値とするかは,当業15
者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜選
択し得ることのようにも考えられる。
しかし,電動機の運転において,指令値と出力値(検出値)が正確に一致
しない場合があることは良く知られたことであり,検出値が測定誤差を生じ
る可能性があることも知られている訂正発明に関しても訂正明細書甲,。,(
24)には以下のとおり,その課題が記載されている。
「,。一方上記問題に対処するものとしては特願昭−号がある59212543
これはインバータ装置を用いて,その電流指令に基づいてインバータよ
り電動機に電圧を印加し,そのときの電圧を検出し,該検出電圧値と電
流指令値との関係より電動機定数を測定し,その結果に基づき制御定数
を設定するものである。しかし,この特願昭−号に示される59212543
例では定数測定用として専用に電圧検出器を設ける必要があり,また,
電圧波形が歪波形であることから,検出精度が低く,すなわち,定数測
定精度が低いという問題がある(段落【0005)。」】
「本発明の目的は,制御装置の制御定数の精度を向上できるインバータ
。」(【】)制御装置の制御定数設定方法を提供することにある段落0006
したがって訂正発明2は,電圧の検出は検出精度が低いことを技術課題と
し,これを解決するために,歪みの少ない電流を検出値として,各電動機定
数を測定したものである。
一方,引用発明(甲7)には「この電圧検出法では,基本波成分が直流,
に変換されるため高調波分と分離し易く,検出精度が高いという特徴があ
る(摘記3−④)と記載されているものの,その前の記載である摘記3−。」
③の記載から明らかなように,引用発明における検出精度の高さは,α−β
軸からd−q軸への座標変換を行うことによるもので,この点に関する検出
精度向上については,同じくα−β軸からd−q軸への座標変換を行って,
電流の基本波成分を直流信号で検出する訂正発明2においても全く同様であ
る(段落【0021【0022。】,】)
したがって,引用発明に訂正発明2の技術課題に対する開示がないばかり
か,引用発明において採用する電圧検出法の検出精度が高いという利点を前
提として,電流指令によるベクトル制御装置及びそのオートチューニング方
式を構成しているから,電圧検出を電流検出に変更することは想定していな
いというべきである。
()また審決は,相違点(ア)に関し「誘導電動機に所定の値を有する交流2,
電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次イ
ンダクタンスと関係する定数を決定することが引用文献2ないし6に記載さ
れており,周知技術である(20頁下3行∼末行)と認定,判断した。。」
そこで上記引用文献2∼6である甲16∼20について検討する。
ア甲16(誘導機の特性算定のための定数決定法」G,H,電気学会雑「
誌Vol.87−1,No.940,昭和42年1月〔January,
1967,173頁∼180頁,電気学会。審決の引用文献2)には,〕
以下の記載がある。
「4.定数の決定法
まずrは一次抵抗測定によって決定できる。次に無負荷試験につい1
て考えてみると,このときs0とみなされるので,このときの等価回º
路は第11図のようになる。したがって,無負荷試験のときの電圧,電
流,入力を測定すれば,rとXとは容易に決定できる(177頁右M1。」
欄18行∼24行)
「5.特性算定のための試験と計算法
この特性算定を行なうには,一次抵抗測定,無負荷試験および低周波
,。拘束試験を行ないその結果から次のような手順により定数を決定する

()無負荷試験定格周波数に保って,定格電圧より少し高い電圧2
からしだいに電圧を変化し,ほぼ同期速度を保つ最低値までの各点で,
電圧,電流,入力を測定する(178頁右欄19行∼32行)。」
イ甲17(電気学会大学講座電気機器工学I」執筆委員Iら,昭和5「
0年6月25日18版発行,249頁∼250頁,電気学会。引用文献
3)には「3.10電動機定数の測定(249頁1行)として,以,」
下の記載がある。
「3.10.2無負荷試験
電動機に定格電圧を加えて無負荷運転をし,1相当たりの電圧V,電0
流I,電力Pを測定する(249頁10行∼13行)00。」
ウ甲18(大学講義最新電気機器学改訂増補」宮入庄太著,昭和5「
5年3月20日第3刷発行,172頁∼173頁,丸善株式会社。引用
文献4)には,以下の記載がある。
「例題10.2〕…の定格をもつかご形三相誘導電動機がある。〔
()無負荷試験1
定格電圧を加えて無負荷(加」は誤り)運転したところ「
入力電流:3.9〔A,入力250〔W〕〕

であった。
この電動機の等価回路を求めよ(172頁8行∼17行)。」
エ甲19(三相誘導電動機特性の直接算定法」J,K,昭和53年電「
〔〕(),。気学会全国大会講演論文集5電気機器I506頁∼507頁
引用文献5)には,以下の記載がある。
「2.特性式三相誘導電動機の1相を電源から見た場合のインピーダン
スZは(1)式で与えられる(506頁左欄7行∼8行)。」
「X(判決注:リアクタンス)定格電圧V,無負荷時の電流Iとす100
ればX=V/√3I…()10019
である。この値は1次抵抗や無負荷損の影響をほとんど受けない(5。」
06頁右欄下5行∼下1行)
オ甲20(普通かご形誘導電動機の運転特性算定のためのT形等価回路「
定数決定法」L,M「電気学会研究会資料回転機研究会RM−86,
−13∼17」社団法人電気学会,昭和61年〔1986年〕4月18
日,引用文献6)には,以下の記載がある。
「…定格電圧無負荷試験を行ない,定格電圧に対応する…および励磁リア
クタンスxを求める(26頁10∼11行)m。」
()以上によれば,甲16∼20には,誘導電動機に所定の値を有する交流3
電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の電流に基づいて一次インダ
クタンスと関係する定数を決定することが記載されており,これは審決が周
知技術の内容として認定したとおりである加えて甲18の図109無。,.(
負荷試験時の等価回路)中の電流I,電圧Vの記号の上には,これらがベ01
クトル量であることを示す「・(ドット)が記載されており,被告が主張」
するとおり,甲18においては電流及び電圧をベクトル値として取り扱い,
定数の計算をしていることがみてとれる。
しかし,甲16∼20で用いられている電流・電圧は,インバータから出
力されたものではないから,インバータから出力される電力を誘導電動機に
印加した場合の電流や電圧の歪みに関する知見を与えるものではない。
,,,「」(4)そうすると周知技術を参照しても引用発明において第1の電気量
を「電流」から「電圧」に代えるとともに「第2の電気量」を「電圧」か,
ら「電流」に換えることは,当業者が容易になし得ることではない。また,
訂正発明2は,直交するベクトルの指令が「電圧(V・V」指令で1d1q
**

あり,ベクトル成分を検出する対象が「回転している誘導電動機に流れる電
流」であって,検出された「電流」のベクトル成分を用いて演算することに
より,訂正明細書記載の作用・効果を奏するものと認められる。
()以上の検討によれば,審決の引用発明と訂正発明2との相違点(ア)に5
,,関する判断も誤りでありこの点は訂正発明1との関係でも同様であるから
原告主張の取消事由2についても理由があることになる。
4結語
以上によれば,原告主張の取消事由1,2は理由があり,これが審決の結論
に影響を及ぼすことは明らかである。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官今井弘晃

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