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裁判例


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平成14年(行ケ)第259号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年6月22日
判       決
原      告    日本ビシエイ株式会社
訴訟代理人弁理士    大熊考一
同           木内光春
被      告    アルファ・エレクトロニクス株式会社
訴訟代理人弁理士    山田文雄
同           山田洋資
主       文
1 特許庁が無効2001-35083号事件について平成14年4月1
1日にした審決中「本件審判の請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文と同旨
2 被告
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯
  被告は,発明の名称を「金属箔抵抗器」とする特許第1623720号の特
許(昭和61年5月6日出願(以下「本件出願」という。同出願に係る願書に添付
された明細書及び図面を併せて,「訂正前明細書」という。甲第15号証は,公告
時のその内容を示す特許公報である。),平成3年11月18日設定登録。以下
「本件特許」という。請求項の数は1である。なお,登録後,後記本件訂正によ
り,請求項の訂正及びこれに伴う発明の詳細な説明の記載の訂正がなされてい
る。)の特許権者である。
  原告は,平成13年2月28日,本件特許を無効にすることについて,審判
を請求した。特許庁は,これを無効2001-35083号事件として審理した。
被告は,審理の過程で,平成13年6月18日,請求項の文言の訂正を含む,訂正
前明細書の訂正(以下「本件訂正」という。本件訂正の内容は,甲第16号証(訂
正請求書)記載のとおりである。以下,これによる訂正後のものを,「訂正明細
書」という。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成14年4月11日,「訂
正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月22
日,その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の特許請求の範囲(別紙1,2参照)
 「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を樹脂で外装した金属箔抵抗
器において,
  一端部が前記外装樹脂内で前記絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に
亘る幅で密着しこの一辺に直交する方向に伸びて他端部が前記外装樹脂外へ延出し
た複数の板状外部接続端子と,前記金属箔抵抗体をこれら外部接続端子に前記外装
樹脂内で接続するリード線とを備えることを特徴とする金属箔抵抗器。」
(判決注・下線部が本件訂正請求による付加訂正部分である。)
3 審決の理由
  審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正
を認めた上で,訂正明細書の特許請求の範囲によって特定される発明(以下「本件
発明」という。)は,「BULLETINR-700bVISHAYV53&M53/55SERIESBULKMETAL
TM
VALUEENGINEEREDPRECISIONRESISTORS」(審判手続の甲第1号証・本訴甲第1
号証,以下,これを「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明
1」という。),並びに特開昭59-200448号公報(審判手続の甲第2号
証・本訴甲第2号証,以下,これを「甲2公報」という。)に記載された発明(以
下「甲2発明」という。),「BULLETINR-800AAnnouncingVishay'snew
"Super-S"precisionresistor-ModelS102C」(審判手続の甲第3号証・本訴甲第
3号証,以下,これを「甲3文献」という。)に記載された発明(以下「甲3発
明」という。),特開昭60-86849号公報(審判手続の甲第4号証・本訴甲
第4号証,以下,これを「甲4公報」という。)に記載された発明,特開昭60-
160639号公報(審判手続の甲第5号証・本訴甲第5号証,以下,これを「甲
5公報」という。)に記載された発明,特開昭60-81877号公報(審判手続
の甲第6号証・本訴甲第6号証,以下,これを「甲6公報」という。)に記載され
た発明,実願昭47-14317号(実開昭48-90147号公報)のマイクロ
フィルム(審判手続の甲第7号証・本訴甲第7号証,以下,これを「甲7公報」と
いう。)に記載された発明(以下「甲7発明」という。),特開昭59-6115
4号公報(審判手続の甲第8号証・本訴甲第8号証,以下,これを「甲8公報」と
いう。)に記載された発明及び特開昭59-208756号公報(審判手続の甲第
9号証・本訴甲第9号証,以下,これを「甲9公報」という。)に記載された発明
に基づき,「BULLETINR-700dVISHAYV53&M53/55SERIESBULKMETALVALUE
ENGINEEREDPRECISIONRESISTORS」(審判手続の甲第10号証・本訴甲第10号
証,以下,これを「甲10文献」という。)及び米国特許第3718883号明細
書(審判甲第11号証・本訴甲第11号証,以下「甲11明細書」という。)を参
酌しても,当業者が容易に発明することができたとは認められない,というもので
ある。
4 審決が認定した,引用例1の開示内容,本件発明と引用発明1との一致点・
相違点
(1)引用例1の開示内容(別紙3参照)
 「甲第1号証(判決注・引用例1)における第3頁上段中央及び右欄に
は,「VSERIES」との表題の下に,以下に示す形状と構成(DESIGNAND
COSTRUCTION(判決注・CONSTRUCTIONの誤記と認める。)からなるものが記載乃至開
示されている。
(a)防湿用のエポキシ樹脂コーティング(Moisture-proofepoxy
coating)
(b)シリコーンゴムの封止材(SiliconeRubberencapsulation)
(c)エッチング処理により形成されたバルクメタル(Etchedbulkmetal)
(d)接合されたフレキシブル細線(Flexibleweldedribbonleads)
(e)セラミック基板(Ceramicsubstrate)
(f)すずめっき銅リード(Tinnedcopperleads)
  また,甲第1号証の第2頁第2段左欄第8行~第10行(第2パラグラフ
冒頭)には,甲第1号証の抵抗器の製造の際に,半導体と同様の技術を適用できる
旨が,次のように記載されている。
  半導体製造の際のプロセス技術と同様のバッチハンドリング技術を用いる
ことによって,均一な品質を確保している(Batchhandling,similartothe
processusedinsemi-conductormanufacture,ensuresuniformquality)。」
(甲第12号証17頁28行目~18頁9行目)
(2)本件発明と引用発明1との一致点
 「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を樹脂で外装した金属箔抵
抗器において,一端部が前記外装樹脂内で前記絶縁性基板の他側面に密着し他端部
が前記外装樹脂外へ延出した複数の外部接続端子と,前記金属箔抵抗体をこれら外
部接続端子に前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えることを特徴とする金属
箔抵抗器である点」(甲第12号証20頁31行目~35行目)
(3)本件発明と引用発明1の相違点
 「甲第1号証(判決注・引用例1)に記載された発明は,外部接続端子が本
件発明のように「板状」ではなく,また,外部接続端子の一端部が外装樹脂内で絶
縁性基板の他側面に密着する幅が「その一辺のほぼ全長に亘る幅で」あり,かつ
「この一辺に直交する方向に伸びて」いるという本件発明の構成を具備するもので
はな」い点(甲第12号証20頁36行目~21頁1行目)
(以下,「外部接続端子が本発明のように「板状」ではなく」との点を「相違
点1」といい,その余の相違点を「相違点2」という。)
第3 原告の主張の要点
  審決は,相違点2についての判断を誤っているなど,違法であり,取り消さ
れるべきである。
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)
(1)審決は,引用例1並びに甲2公報,甲3文献,甲4公報ないし甲9公報,
甲10文献及び甲11明細書に,外部接続端子が絶縁性基板の一辺のほぼ全長にわ
たる幅で貼着され,その一辺に対して直交する方向に延びている,との構成(相違
点2に係る構成)は開示も示唆もされていない,としている。
  しかし,この判断は誤っている。
(2)相違点2に係る構成,すなわち,外部接続端子が,絶縁性基板の一辺のほ
ぼ全長にわたる幅で貼着され,その一辺に対して直交する方向に延びているという
構成は,甲7公報に開示されている。
ア 甲7公報の第1図及び第2図には,モールド樹脂の一辺の幅よりも,わ
ずかに小さい幅を有する端子2,5が開示されている(別紙4参照)。
  甲7発明の端子2,5において,幅の広いものが要求されることについ
ては,甲7公報の「この欠点即ち端子からの熱伝導を避けることは,端子を細くす
ることで或る程度小さくすることはできるが,細くしたときは電子部品製造中端子
上への部品素子の装着,接触が不安定不完全となり易く,また電子部品を印刷配線
基板上へ装着するときの位置合せがしにくくなり,且つ基板上へ装着した後での端
子強度が不足するなど別の欠点が生じた。」(甲第7号証3頁11行目~18行
目)との記載から明らかである。
  他方,絶縁性基板は,モールド樹脂の内部に封止される部材であるか
ら,必然的に,モールド樹脂よりも小さい幅を有することは当然である(甲第1号
証ないし第4号証,第10号証及び第11号証)。
  したがって,甲7発明において,金属箔抵抗体を貼着した絶縁性基板を
樹脂モールドで封止した場合,その端子2,5は,絶縁性基板の一辺の全長に亘る
幅で貼着されるのに十分な幅を有している。
イ 端子2,5が,絶縁性基板の一辺に対して直交する方向に延びているこ
とは,甲7公報の第1図ないし第3図に開示されている。
ウ 被告は,甲7発明は,固体電解コンデンサに関するものであり,本件発
明のチップ抵抗器とは異なる,と主張する。しかし,甲7発明は,チップ状の電子
部品に関する発明であり,固体電解コンデンサに限定されていない。
  本件発明と同一の技術分野に属するチップ抵抗器(絶縁基板上に抵抗素
子が形成され,この抵抗素子と外部の部品とを電気的に接続するための複数の電極
(外部接続端子)が形成されているもの)に関して,外部接続端子が絶縁性基板の
一辺のほぼ全長に亘る幅で密着され,かつ,この一辺に直交する方向に延びている
構成は,甲第23ないし第30号証にも開示されている。
(3)外部接続端子を介して放熱すること,部材の接触面積が大きくなれば熱伝
導が向上することは,いずれも,電子部品に関する技術分野において,よく知られ
た自明の技術である(甲第2号証,甲第6号証)。
  例えば,甲2公報には,
 「かかる集積回路において,直流電力,あるいはパルス電力を印加した場
合,内部発熱の熱放散径路としては半導体素子が発熱後熱が金属板を通り,金属板
と外部リード線が対向する部分の封止樹脂を通り,外部引出しリード線を介し熱放
散される部分と,外部引出しリード線を介さずに外部引出しリード線と対向してい
ない封止樹脂より外部へ熱放散される部分がある。しかしながら封止樹脂は金属
板,外部引出しリード線に比べ熱伝導が悪い為,前者が支配的である。」(甲第2
号証1頁右欄6行目~15行目),
 「本発明による半導体装置は,金属板の半導体素子と反対の面に熱伝導の
良い絶縁体基板を接着し,各々の外部引出しリード線の先端を絶縁体基板に接着さ
せる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行うことができ,過渡
熱抵抗を小さくすることが可能となる。・・・かかる集積回路において,直流電
力,あるいはパルス電力を印加した場合,熱放散径路は,金属板33,熱伝導の良
好な絶縁体基板66,外部引出しリード線44となり封止樹脂11を通さずに熱を
逃がすことができ,過渡熱,抵抗,さらには熱抵抗を小さくすることができる半導
体装置が得られる。」(甲第2号証2頁左欄3行目~右欄5行目,第4図)
 として,外部接続端子を介して熱放散効果を高めることが開示されている。
甲第6号証,第29号証及び第30号証も,このことを開示している。
  本件審判と併合審判された無効2001-35096号事件の審決も,
「接触面積が大きくなれば熱伝導が向上することは,当該技術分野において良く知
られた技術的なに(判決注・原文ママ)自明な事項であり」(甲第14号証30頁
21行目~23行目),と説示しており,接触面積が大きいほど熱伝導が高くなる
ことが,昭和61年5月6日当時(上記無効審判事件における特許第165862
0号の出願日でもある。),すなわち,本件出願当時,当業者の技術常識であった
ことは明らかである。
  以上の技術常識によれば,放熱効果を高めるために,引用発明2の端子
2,5の幅を,絶縁性基板の一辺の全長にわたる幅で貼着することは,当業者が容
易に想到できることである。あえて端子2,5の幅を,それより狭くすることは,
むしろ不合理な設計というべきである。
(4)引用発明1と,甲2公報等記載の周知技術とを組み合わせることは容易で
あり,本件発明は,これらの発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到
できたものである。
(5)顕著な作用効果の存在についての認定の誤り
ア 被告は,審判手続において,「本件発明ではリードを板状として絶縁基
板にできるだけ広い面積で接触するように貼り付け,熱をこの板状のリードを通し
て外へ導くという着想を得たものである。」(甲第12号証17頁8行目~10行
目),と主張した。
イ しかし、このような作用効果は,訂正前明細書にも,訂正明細書にも全
く記載されていない新規な事項であり,そもそも審判手続において考慮すべきもの
ではない。
  しかも,この作用効果は,外部接続端子が板状であり,絶縁性基板にで
きるだけ広い面積で貼着されているということに基づくものと解される。そして,
そのような構成及びこれにより放熱が効果的に行われることは,甲2公報に開示さ
れている(甲第2号証2頁左欄19行目~右欄5行目,第3図,第4図)(別紙5
参照)。
  したがって,上記作用効果は,当業者が当然に予想できるものであっ
て,顕著なものとはいえない。
2 取消事由2(本件発明に係る特許請求の範囲の文言の不明確性)
 「絶縁性基板の一辺のほぼ全長」という語は,不明確であいまいなものであ
る。どの程度の幅が,「ほぼ」といえるのか,「ほぼ全長」である場合とそうでな
い場合とにおいて,作用効果に相違があるか否かについて,訂正明細書には記載が
なく,審決も明らかにしていない。
  訂正前明細書の第1図及び第2図には,絶縁性基板の一辺と,板状外部接続
端子との幅とが一致しているもののみが開示されている。板状外部端子の幅が,絶
縁性基板の一辺より狭いものや,広いものは開示されていない。
  したがって,「ほぼ全長」とは,板状外部端子の幅が,絶縁性基板の一辺と
一致する場合のみを意味すると解するべきである。しかし,「ほぼ」というあいま
いな表現が含まれているため,本件発明の内容があいまいになってしまうのであ
る。
3 以上のとおり,本件発明は,進歩性(特許法29条2項)を欠くか,特許請
求の範囲の文言が明確でない(同法36条6項2号)から,無効とされるべきであ
る。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)に対して
(1)引用例1,甲3文献及び甲10文献は,現実に頒布されたものか否か不明
であり,「刊行物」とはいえない。
  「printed」という語は,単に,印刷された,ということを意味するにすぎ
ず,当該印刷物が頒布されたことまで表すものではない。
  政府機関や出版会社の印刷物であれば,現実に頒布された蓋然性も高いと
いえるものの,単なる民間の一企業である原告の親会社の印刷物が,印刷された以
上当然に頒布もされている,と認めることはできない。
(2)審決は,「甲第1号証(判決注・引用例1)の第3頁上段中央欄の図面に
記載された,絶縁性基板にエッチングにより施されているバルクメタルすなわち抵
抗体が「金属箔抵抗体」であることは,当業者にとって明らかである。」とする。
(甲第12号証20頁9行目~11行目)
 と説示している。
  しかし,「bulkmetal」は,直訳すると,大きなかさばった金属,という
意味である。しかも,「TM」という表示があることから,VISHAY社の商標である
と理解される。これを,金属箔抵抗体であると解する理由が不明である。
  引用例1に記載された「isappliedtoaspecialceramicsubstrate」
の「applied」は,貼り付けるという意味であるとは限らず,適用する,という意味
も有する。同じく,「Itissetonthesubstrate」は,バルクメタルは基板に施
される,という程度の意味である。貼り付ける,という意味に限定して解する理由
はない
(3)甲7公報は,固体電解コンデンサ,具体的には焼結型固体タンタルコンデ
ンサに関する発明を,実施例として開示するものである。
  この種のコンデンサは,タンタル焼結体の一端からタンタル線(陽極)を
進入させ,焼結体の他端側の端面及びその外周をメッキして陰極にする,という構
造のものである。それには,本件発明における絶縁性基板はない。また,焼結体か
ら外に延びる陽極は線状であるから,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着
された複数の板状外部端子も備えていない。なお,甲第17ないし第22号証も,
同じく固体電解コンデンサに関するものであって,本件発明の構成を開示するもの
ではない。
(4)甲第23ないし第30号証に開示されているチップ抵抗器も,本件発明の
進歩性を判断するにおいて,何ら参考になるものではない。
  すなわち,甲第23ないし第30号証の電極は,本件発明の外部接続端子
とは異なり,基板の表面(端面,裏面を含む)に形成され,基板によって支持され
ているもので,電極だけが,基板から分離して突出しているものではないし,その
形成方法も本件発明とは異なるのであって,甲第23ないし第30号証において,
電極が基板の一辺のほぼ全長に亘る幅であるからといって,本件発明の容易推考性
を根拠付けるための周知技術とすることはできない。また,それらの電極は,基板
の端部を包むように基板に密着するものであるから,基板の一辺に直交する方向に
延びることは不可能である。
(5)板状の外部接続端子と,絶縁性基板との接触面積を増やす方法は,前者
を,後者の一辺の全長に近い幅で貼着するものだけではなく,外部接続端子を絶縁
性基板の長さ方向に長くするものもある。例えば,引用発明1と甲2発明とを組み
合わせると,外部接続端子の幅が,絶縁性基板の一辺の半分程度にしかならないも
のに想到するものである(別紙6参照)。
  甲7公報には,外部接続端子を,絶縁性基板の一辺の幅にほぼ等しい幅で
貼着することは記載されていない。
  引用例1,甲2公報,甲3文献,甲4公報ないし甲6公報,甲8公報及び
甲9公報にも,そのような構成は記載も示唆もされていない(外部接続端子が,そ
の貼着される絶縁性基板の一辺に直交する方向にのびている構成についても,同様
である。)。
  引用発明1から,本件発明に想到するためには,板状の外部接続端子を用
いることと,この外部接続端子の幅を拡大する,という2つの変更を経る必要があ
る。それらは,いずれも困難であり,これら2つを一度にすることには,なおさら
困難が伴う。
(6)顕著な作用効果の存在の認定の誤りに対して
ア 本件発明は,本件訂正により付加された構成により,より高い放熱効果
が得られ,精度が一層向上する。これは,格別の効果である。
イ 本件発明のチップ抵抗器は,抵抗温度係数が数ppm/℃程度の,極め
て高い精度の抵抗器に関するものである。この精度を保つためには,厳しい温度管
理が必要となってくる。
  このことは,訂正前明細書の「この種の抵抗器では,基板の線膨張係数
と抵抗体の抵抗温度係数とを適合させることにより,抵抗値の温度に対する変動を
抑制し,高精度な抵抗器を得ることができる。すなわち温度上昇に伴なう抵抗体の
抵抗値の変化を,基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることにより相殺
し,抵抗温度係数を小さくするものである。」(甲第15号証1頁1欄22行目~
2欄4行目。なお,訂正明細書にも同一の記載がある。)との記載にあらわれてい
る。
  このような技術思想は,引用例1には開示されていない。
2 取消事由2(本件発明に係る特許請求の範囲(請求項の文言)の不明確性)
に対して
  原告は,審判において,特許請求の範囲の文言の不明確性の主張をしていな
いから,訴訟において,新たにこの主張をすることは許されない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)について
(1)引用例1,甲3文献及び甲10文献の頒布の有無について
ア 引用例1,甲3文献及び甲10文献の作成時期は,次のとおりであると
認められる(甲第1,第3,第10号証)。
(ア)甲10文献は,VishayIntertechnology,inc(以下「Vishay社」とい
う。)のVISHAYRESISTIVESYSTEMSGROUP(以下「Vishayシステム」という。)の
作成した印刷物であると認められる。
  甲10文献の1枚目の末尾には,「1975 Vishay AllRights
ReservedPrintedinU.S.A.」との記載がある。この記載から,甲10文献は,
1975年(昭和50年)に印刷されたものと認められる。
  同じく,Vishayシステムが作成したと認められる甲3文献にも,その
2枚目の末尾に,「Copyright1977VishayResistiveSystemsGroup.Allrights
reserved.PrintedinU.S.A.」と記載されており,1977年(昭和52年)に
印刷されたものと認められる。
(イ)甲10文献の4枚目の末尾には,「10M10/75AN  Printedin
U.S.A.」との記載がある。この記載のうち「75」は,前記のとおり,甲10文献
が1975年に印刷されたと認められること,「AN」には,「intheyear」の意味
があること(研究社 リーダーズ英和辞典初版)から,1975年を意味するもの
と認められる。
  そうすると,引用例1の4枚目の末尾の「5M11/74AN  Printedin
U.S.A」との記載も,1974年(昭和49年)に印刷されたことを意味するものと
認めることができる。
イ 頒布の有無について
(ア)引用例1,甲3文献及び甲10文献には,それぞれその一枚目の右上
部に「BULLETIN」の語が,同枚目の末尾には,Vishayシステムの住所と電話番号等
が記載されている(甲第1,第3,第10号証)。「BULLETIN」とは,「公報,会
報,小新聞」という意味である(前記辞典)。
(イ)引用例1,甲3文献及び甲10文献は,その表題などから見て,例え
ば開発に関する文書のように,限られた特定の範囲において配布され,閲覧される
性質のものではなく,また,Vishayシステムの連絡先が明記され,その製品の特徴
を強調する内容となっていることからすると,社外,例えば顧客等に向けて頒布さ
れることを予定して印刷されたものであると認めることができる。そうすると,こ
れらの文書は,特段の事情が認められない限り,その取引先等に頒布されたと推認
するのが相当であり,本件においては,それらの頒布の事実を否定すべき特段の事
情は認められない。
(ウ)以上のとおりであるから,引用例1,甲3文献及び甲10文献は,そ
の印刷後間もない時期,遅くとも本件出願時まで(おおよそ9年ないし12年の期
間がある。)には,頒布されていたと認めることができる。
(2)引用発明1のバルクメタル(EtchedBulkMetal)が,金属箔抵抗体である
か否かについて
ア 被告は,引用例1の「EtchedBulkMetal」は,本件発明の「金属箔抵抗
体」ではない,と主張する。
イ 訂正明細書によれば、本件発明の金属箔抵抗体は,次のようなものと説
明されている(甲第16号証)。
(ア)「アルミナやガラス等の絶縁性基板に,ニッケル,クロームなどを含
む金属箔抵抗体を粘着し,この金属箔抵抗体にフォトエッチングなどにより抵抗パ
ターンを形成し,リード線をこの抵抗体に接続した後,全体を樹脂で外装した金属
箔抵抗器・・・」(訂正明細書1頁17行目~20行目)
(イ)「12は金属箔抵抗体であり,ニッケル,クローム,銅,アルミニウ
ム等を含む合金を圧延して箔に仕上げ,さらに真空中(約10-6
Torr)で熱処理し
て圧延に伴なう加工ひずみを除去し所望の抵抗温度特性を得ている。」(訂正明細
書2頁18行目~21行目)
  以上の記載からは,本件発明における金属箔抵抗体は,ニッケル,クロ
ームなどの合金からなる箔であり,絶縁性基板に貼着され,フォトエッチングなど
により抵抗パターンが形成されて抵抗チップとなり,リード線が接続されるもので
あると認められる。
ウ 引用例1に開示されている「EtchedBulkMetal」とは,次のようなもの
と説明されている。
(ア)「その特性が知られ,制御可能な専有の「バルクメタル」は,特別な
セラミック基板に貼り付けられる。その抵抗パターンは,ビシェイ社によって開発
された超精密技術に基づくフォトエッチングによって形成される。(Aproprietary
BULKMETALofknownandcontrollablepropertiesisappliedtoaspecial
ceramicsubstrate.Aresistivepatternisthenphotoetchedbyanultra-fine
techniquedevelopedbyVishay.)。」(引用例1の2枚目上段左欄3行目~8行
目・「外国文献(甲第1,3,10及び11号証)翻訳文(抄訳)」と題する書面
(以下「訳文」という。)1頁7行目~9行目)
(イ)「バルクメタル(登録商標)としては,その電気的,機械的,温度的
特性を得るために特別な合金が選択される。」(同2枚目上段中欄1行目~3行
目・訳文1頁11行目~12行目)
(ウ)「バルクメタルは,特別の専有の過程によって,基板に取り付けられ
る。この過程においてビシェイ社の抵抗体に生じる冶金学的変化は,巻線を巻く過
程,蒸着過程といった他の種類の精密抵抗器の製造過程におけるものとは異なって
いる。ビシェイ社の抵抗器の合金は,その製造過程において,引っ張り,巻き付
け,加工硬化やストレスを受けることがないため,抵抗体は本来の外形的,物理
的,電気的特性を維持している。(Itissetonthesubstrate
・・・characteristics.)。」(同2枚目上段中欄3行目~右欄3行目・訳文1頁
12行目~18行目)
(エ)引用例1の3枚目の上段には,「VSERIES」の製品の図があり,その
うちの中央図には,「EtchedBulkMetal」が,「Ceramicsubstrate」(セラミッ
クの基板)に取りつけられ,この「EtchedBulkMetal」に「Flexiblewelded
ribbonleads」(柔軟性のあるリード線)が溶接され,このリード線が「Tinned
copperleads」(錫メッキをされた銅線)に接続されている図が示されている(訳
文2頁2行目~14行目)。
エ 以上からは,引用発明1にいう「EtchedBulkMetal」も,合金からなる
箔であり(フォトエッチングにより抵抗パターンが作成されることと,前記引用例
1の3枚目上段中央の図から,この「EtchedBulkMetal」は,箔といえるほど薄い
ものと認められる。),フォトエッチングにより抵抗パターンが形成されて抵抗チ
ップとなり,絶縁性基板に貼着され,リード線が接続されるものであると認められ
る。
  したがって,「bulk」,「metal」という語の辞書的な意味がどうであ
れ,引用発明1の「EtchedBulkMetal」が,本件発明の金属箔抵抗体に該当するこ
とは明らかである(被告は,上記引用例1の記載中「isappliedto」は適用すると
の意味であり,「Itissetonthesubstrate」は,基板に施す,との意味である
と主張するが、仮にそのように翻訳したとしても,「EtchedBulkMetal」が,本件
発明の金属箔抵抗体に該当するとの結論が左右されるものではない。)。
(3)相違点1についての判断について
ア 甲7公報には,次のとおりの記載がある。
 「本考案は合成樹脂被膜モールドされたチツプ状電子部品の電極引出用
端子の改良に関するものである。
  混成集積回路等の印刷回路基板に直接取付けるコンデンサ,抵抗等の
電子部品は一般に第1図に示す如くフエイスボンデングに適するようにリード線端
子に代つて板状端子2が用いられている。
  この板状端子2は平板状で一般に部品の相対する二面から引出され第
1図に示す如く端子2の先端即ち基板等との接続部3が本体底面に近接するように
鍵状に曲げ加工されている。」(甲第7号証1頁13行目~2頁5行目)
「・・・この欠点即ち端子(判決注・板状端子2)からの熱伝導を避ける
ことは端子を細くすることで或る程度小さくすることはできるが,細くしたときは
電子部品製造中端子上への部品素子の装着,接触が不安定不完全となり易く,また
電子部品を印刷配線基板上へ装着するときの位置合せがしにくくなり,且つ基板上
へ装着した後での端子強度が不足するなど別の欠点が生じた。」(甲第7号証3頁
11行目~18行目)
イ 以上のとおり,チップ状電子部品において,外部接続端子が,ある程度
幅のある板状であり,それらが同部品の相対する二面から引出され,同端子の先端
が本体底面に近接するように鍵状(L字状)に折り曲げられている構成は,周知な
ものであり,しかも,この構成は,チップ状電子部品を,プリント基板等に,安定
して確実に接続することを容易にする,という効果を発揮するものと理解される。
  したがって,この周知技術を,同じチップ状の電子部品である引用発明
1に適用して,外部接続端子を板状にすることは,この外部接続端子の外部突出端
を,本体底面に近接するように鍵状に折り曲げて,チップ状電子部品をプリント基
板等に安定して確実に取り付けるための前提となる構成(本件発明の構成要件にな
っていないものである。)として,当業者が容易に推考できるものである,と認め
られる。
ウ 甲7発明が,チップ状電子部品に係るものであり,チップ状抵抗器を含
むとしても,そこに具体例として開示されているのは,固体電解コンデンサに関す
るものであり,被告が指摘するとおり,本件発明の金属箔抵抗体を貼着した絶縁性
基板を有するチップ状電子部品について,具体的に記載されているものではない。
  しかし,甲7発明から抽出し,引用発明1に適用するのは,外部接続端
子を板状にすること(及びそれを前提として,部品の相対する二面から引出され,
同端子の先端が本体底面に近接するように鍵状(L字状)に折り曲げること),で
ある。そして,甲7発明のこの部分の構成は,それ自体意味を持つものであり,そ
れだけを独立して認識し,抽出することに何ら困難はなく,さらに,チップ抵抗器
である引用発明1にとっても好ましい性質(基板への安定した取付)を備えさせる
ものなのである。
エ 引用発明1において,その棒状の外部接続端子を板状にすることが,困
難なものであるとは認められない。かえって,引用発明1と同じ構造の抵抗器であ
る甲3発明では,この外部接続端子は「NEWUNITCONSTRUCTION("PADDLE
LEADS")(幅広のリード)」となっていることからは,引用発明1の外部接続端子
を,板状とすることが可能である,と認められるのである(甲第3号証)。
オ チップ状電子部品の相対する二面から外部接続端子が引出される構成に
ついても,引用発明1がそれを採用することを阻害する事由の存在は見当たらな
い。このことは,引用発明1と同じ構造のチップ状抵抗器を開示する甲11明細書
で,その第6図AないしDにおいて,外部接続端子が相対する方向から引き出され
る構成が開示されていることから,明らかである(甲第11号証)(別紙7,8参
照)。
(4)相違点2についての判断について
ア 審決は,外部接続端子の一端部が外装樹脂内で絶縁性基板の他側面に密
着する幅がその一辺のほぼ全長に亘る幅であり,かつこの一辺に直交する方向に延
びている,という構成が,審判手続で提出された甲第1ないし第11号証(本訴甲
第1ないし第11号証)のいずれにも記載も開示もされていない,とした上で,
 「甲第1号証に記載されたものに甲第2号証~甲第9号証に記載された
ものを組み合わせても,甲第1号証に記載された発明において外部接続端子を板状
とすることは導出されるとしても,外部接続端子の一端部が外装樹脂内で絶縁性基
板の他側面に密着する幅が「その一辺のほぼ全長に亘る幅で」あり,かつ「この一
辺に直交する方向に伸びて」いるという本件発明の構成を導くことはできない。」
(甲第12号証21頁26行目~31行目)
 として,相違点2に係る構成の容易推考性を否定している。
イ 甲7公報には,「この欠点即ち端子(判決注・板状端子2)からの熱伝
導を避けることは,端子を細くすることで或る程度小さくすることはできる」(甲
第7号証3頁11行目~13行目),との記載があり,板状端子の幅と熱伝導との
関連が示され,板状端子の幅を広いものにすれば,これを介する熱伝導が高くなる
ことが開示されているといえる。
ウ 甲3発明は,引用発明1と同じ構造のチップ抵抗器(ただし,前記のと
おり,幅広(PADDLE)の外部接続端子を採用している。)であり,甲3文献は,甲
3発明の特徴として,「ビシェイ社は,その有名なS102の改良型を進歩させて
きました。このS102は,世界で最も精密な抵抗器として,工業及び軍事の全体
に亘って,長く知られております。」(甲第3号証1枚目左欄本文1行目~3行
目・訳文3頁10行目~12行目),「長期的な安定-S102C抵抗器の顕著な
特徴は,ビシェイのバルクメタルの技術を基礎としています。特別な合金から成る
固体層は,その電気的特性,機械的特性及び熱応力特性の組み合わせに応じて選択
されます。そして,不要な冶金学的又は構造的変化を導かない独特の工程によっ
て,注意深くセラミックの基板に貼り合わされます。その後,「幅広のリード」
が,抵抗器チップに溶接されます。セラミック基板と,より一層放熱効率に優れた
特性を持つリード部材との組み合わせが,S102C(抵抗器)の優れた耐湿性及
び耐高温放置特性と,負荷寿命耐性の向上の大きな要因となっています。」(甲第
3号証1枚目左欄本文7行目~18行目・訳文3頁16行目~23行目),と述べ
ている。
  すなわち,幅広のリードを用いることにより,より効率的な熱放散がで
き,耐熱性が高まる,としている。
エ 甲2公報には,「本発明による半導体装置は,金属板の半導体素子と反
対の面に熱伝導の良い絶縁性基板を接着し,各々の外部引出しリード線の先端を絶
縁体基板に装着させる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行う
ことができ,過渡熱抵抗を小さくすることが可能となる。」(甲第2号証2頁目左
欄3行目~8行目)(別紙5参照),と記載されている。
オ 上記の甲2公報,甲3文献及び甲7公報からは,熱伝導の良い絶縁性基
板に貼着されたリード(引用発明1の「Tinnedcopperlead」,本件発明の外部接
続端子に該当)が,熱放散効果を上げ得ること,この熱放散効果は,リードの幅が
広いほど高くなることが,本件出願当時周知の技術であり,かつ,そのような熱放
散効果は,引用発明1と同構造で,棒状のリードの代わりに幅広のリードを採用す
る甲3発明において,好ましい性質(高い耐熱性、負荷寿命特性)をもたらすと考
えられていたこと,を認めることができる。
  引用発明1において,板状の外部接続端子を採用し,かつ,チップ抵抗
器の相対する二面から,それぞれ端子を引き出す構成とすることを,当業者が容易
に推考できることは,前記のとおりである。そして,当業者であれば,そのような
構成を採用する場合,なるべく広い面積で絶縁性基板に接合させるため,板状の外
部接続端子の幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長にわたる幅とすることは,熱放散が
最も高くなる基本的な態様の一つとして,容易に推考できる,設計的な事項であ
る,というべきである(それ以上幅を広くしても,接触面積を増やすという観点か
らは無意味であり,むしろ,部品の小型化という観点からは有害となるといえ
る。)。そして,その場合,外部接続端子が,絶縁性基板の一辺に直交する方向に
延びている構成となることは,ごく自然なことである。
カ 被告は,引用発明1と甲2発明とを組み合せると,別紙6のような構成
が想到されるにすぎない,と主張する。しかし,外部接続端子を,チップ抵抗器の
相対する二面から引き出す構成を採用する以上,必ずしも別紙6の(C)のような
引出し方を採用する必然性は全くない。
  また,被告が主張するように,絶縁性基板と外部接続端子の接触面積を
増やす方法としては,例えば,外部接続端子の幅ではなく,長さを,絶縁性基板の
一辺のほぼ全長にわたる態様とすることも考えられることは事実である。しかし,
可能な複数の方法が存在するとしても,上記相違点2に係る構成は,それら複数の
方法のうちの最も基本的なものの一つであることはいうまでもないから(前記のと
おり,周知の技術思想である,接触面積を最大にし,かつ,部品の小型化に抵触し
ないという要請にかない,かつ,部品の安定取付にも寄与するものである。),当
該構成を採用することは,当業者が容易に推考し得る設計事項の一つである,とす
る上記判断の妨げとなるものではない。
キ 以上のとおりであるから,相違点2に係る構成,すなわち,外部接続端
子が,絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に
直交する方向に延びているという本件発明の構成に,本件出願当時,甲2公報,甲
3文献及び甲7公報の周知技術に基づいて,当業者が想到することは容易であっ
た,というべきであり,この点に関する審決の前記判断は誤りであって,この誤り
が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(5)顕著な作用効果の存在の認定の誤りについて
ア 被告は,本件訂正により付加された構成(外部接続端子が,絶縁性基板
の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に直交する方向に延
びている,との構成)により,より高い放熱効果が得られ,精度が一層向上する,
と主張する。
  しかし,既に述べたとおり,上記構成は容易に推考できるものであり,
これにより高い放熱効果が得られることは,周知技術であって,当業者が当然に予
測できるものであるから,上記作用効果を特許性の根拠とすることはできない。
イ 被告は,本件発明は,引用例1には開示されていない,温度上昇に伴う
抵抗体の抵抗値の変化を,基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることによ
り相殺し,抵抗温度係数を小さくするという技術思想を有している,と主張する。
  引用発明1に,甲2公報,甲3文献,甲7公報に記載の周知技術を適用
して,本件発明の構成に容易に想到することができることは,既に述べたとおりで
ある。被告が主張する上記技術思想を要することなく,本件発明の構成に至ること
ができる以上,上記技術思想が,引用例1(ないし他の引用文献等)に開示されて
いないとしても,そのことは,本件発明の特許性の判断に何ら影響するものではな
い。
2 結論
  以上のとおりであるから,原告が主張する取消事由1は理由があり,その余
の点について判断するまでもなく,審決は取消を免れない。そこで,原告の本訴請
求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟
法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
 裁判長裁判官     佐  藤  久  夫
 裁判官     設  樂  隆  一
 裁判官     高  瀬  順  久
(別紙)
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