弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     附帯控訴に基き、原判決中附帯控訴人敗訴の部分を次のとおり変更す
る。
     附帯被控訴人は、附帯控訴人に対し、原判決主文第一項に掲げる金四十
七万円の内金二十万円に対する昭和三十二年十月二十三日から右金員支払ずみまで
年六分の割合による金員の支払をせよ。
     附帯控訴に基く被控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
     本判決第三項は仮に執行することができる。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)訴訟代理人は、原判決中控訴
人敗訴の部分を取り消す、被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の
請求を棄却する、附帯控訴を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担
とするとの判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、本件控訴を棄却する、との判決及
び附帯控訴に基き原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す、控訴人は被控訴人に対
し原判決主文第一項に掲げる金四十七万円の内金二十万円に対する昭和三十年九月
三十日から右金員支払ずみまで年六分の割合による金員の支払をせよとの判決を求
めた。
 当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、
 被控訴人訴訟代理人において、
 一、 原判決事実摘示中判決書二枚目裏十行目の「仮りに」以下三枚目表五行目
までの部分に被控訴人主張事実の記載の遺脱があるので、同三枚目表二行目「代理
権」の下に「を与えられていなかつたとしても原告は被告の妻Aが被告に代り本件
手形を振り出す代理権」を挿入する。
 二、 仮に本件各手形の共同振出人としての控訴人名義による振出が訴外A(旧
姓A、振出当時は控訴人の妻。)において控訴人のため手形を振り出す代理権がな
いのにその代理人として振り出した無権代理行為によるものであるとしても、控訴
人は、被控訴人に対し、昭和三十一年一月五日ころその自筆の書簡をもつて自らの
手形債務を認めてその履行の猶予を求め、また同年六月四日ころには控訴人の関係
する国際自動車株式会社の内紛(業界にいわゆる「アロハ事件」)及びこれにつき
控訴人が強力に自己の権益を主張していることが記事として掲載されている業界新
聞を被控訴人に送付しもつて右内紛が控訴人に有利に解決される見込みでありその
解決がなされた節には手形金をまちがいなく支払うから暫時猶予してもらいたい趣
旨を暗示し、そのほか被控訴人から本訴請求を受けるまでの間もつぱら本件手形債
務の履行猶予を求める態度に終始してきたものであるから、控訴人は、その明示又
は黙示の意思表示をもつて、右Aがなした無権代理行為による本件各手形振出を追
認したものである。したがつて、Aが控訴人の代理人として日栄勧業株式会社と共
同してなした本件各手形の振出は、本人たる控訴人につきその効力を生じたものと
いうべきである。
 三、 本件(二)及び(三)の各約束手形の手形金合計金二十万円に対する昭和
三十年九月三十日からその支払ずみまで年六分の割合による金員の請求について
は、手形法所定の利息として請求するものであるとの従前の主張が採用されないな
らば、被控訴人が右各手形を支払のため支払場所に呈示した昭和三十年九月二十三
日の後である同月三十日以降の遅延損害金としてその支払を求める。
 と陳述し、
 控訴人訴訟代理人において、被控訴人の右一の主張の補正に異議はない、同二の
主張事実は否認する、被控訴人は控訴人が自ら書簡や業界新聞を被控訴人に送つて
本件手形債務を認めその履行の猶予を求めたと主張するけれども、控訴人は本件に
つき昭和三十二年十二月十二日に東京地方裁判所で開かれた調停期日においてはじ
めて本件各手形を見たのでありかつそのとき右各手形が控訴人不知の間に訴外Aに
よつて偽造されたものであることを発見した次第であつて、控訴人が書簡や業界新
聞を送つたのは右調停期日以前のことであるからこれによつて本件手形債務を認め
たりその履行の猶予を求めたりしたわけではないと陳述し、
 証拠として、被控訴人訴訟代理人において、新たに甲第五号証の一から三までを
提出し当審における証人Bの証言及び被控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一号
証の成立並びに乙第二号証の一から四まで(写)の原本の存在及び成立は認めるが
その余の乙号各証の成立は不知と述べ、控訴人訴訟代理人において、新たに乙第一
号証、第二号証の一から四まで(写)、第三号証の一から三まで、第四号証の一か
ら四まで、第五号証の一及び二、第六号証の一から五まで、第七号証の一から四ま
で、第八号証の一から四まで並びに第九号証の一及び二を提出し当審における証人
Aの証言及び控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第五号証の一から三までの成立を
認めたほかは、いずれも原判決事実摘示のとおりであるから、その記載をここに引
用する(ただし、原判決事実摘示中判決書三枚目裏四行目「証人B」を「証人B」
に改める。)。
         理    由
 訴外日栄勧業株式会社が控訴人との共同名義により本件各約束手形を振り出した
こと並びに右会社とともに右各手形の共同振出人となつている控訴人の本件(一)
の手形上の署名及び本件(二)、(三)の手形上の記名押印(右押印は控訴人の印
章による。以下同じ。)が右振出当時の控訴人の妻A(A姓は旧姓、現在は離婚し
てA姓。)によつてなされたことは、当事者間に争いがない。
 被控訴人は、Aが控訴人から代理権を授与され該代理権に基きいわゆる署名代理
の方式により本件各手形を前記会社と共同して振り出したものである旨主張するの
で、判断するに、右争いのない事実に成立に争いのない甲第四号証、第五号証の
三、原審及び当審証人B及びAの各証言並びに原審及び当審における被控訴人本人
尋問の結果(右各証人の証言及び本人の本人尋問における供述中後記採用しない部
分を除く。)を総合すれば、被控訴人は、昭和二十一年から国際自動車株式会社の
運転手として勤務していたところ、昭和二十七年暮ころ、当時右会社の経理部長を
していた控訴人から、控訴人は近く社長としてアロハ自動車という会社の経営に乗
り出すことになつているが被控訴人もこの会社に出資をし、また入社してはどう
か、職員待遇としかつ将来は自動車を分けてもいいしまたは株主としてもいい、つ
いては同社の経営に乗り出すまでまだ時日があるから手持の金があるならば妻のA
が営んでいる金融業に回して利殖をはかつてやるが、その金を控訴人に貸すつもり
はないかと誘われたので、これに応ずることとしたこと、そこで被控訴人は当時貯
えていた金五十万円を妻の母Bに持たせて控訴人宅へ遣わしたが、控訴人宅ではそ
の妻Aが応対に出てこれを受け取り、同女は自己が代表取締役となつて貸金業を営
む日栄勧業株式会社に対し被控訴人が右金員を貸し付けるものと解しその弁済のた
め同社が振り出した被控訴人を受取人とする金額金五十万円の約束手形一通をBに
交付したところ、Bは右手形には振出人として控訴人の署名がないが右金員は控訴
人に貸すのであるから右手形に控訴人の署名ももらいたい旨Aに求めたので、Aは
控訴人の承諾を得た上控訴人に代つて右手形の共同振出人としてその記名押印をし
たこと、被控訴人はその後右金五十万円の内金三十万円を一時返してもらつたがア
ロハ自動車経営の資金として後日また金三十万円を控訴人に貸し付けたので、控訴
人に対する貸金額はもとどおり金五十万円となり、一方、控訴人はいよいよアロハ
自動車の経営に乗り出し被控訴人もその職員として採用されたけれどもまもなく経
営不振に陥つたので、被控訴人は将来を案じ昭和三十年ころから何回となく右貸金
五十万円の弁済を控訴人に催告したところ、控訴人は、アロハ自動車の電話加入権
を処分して得た金三万円を右金五十万円の弁済の一部に充て残金についてはその支
払の猶予を求め続けてきたものであつて、その間自己の責任を否定したこともなく
ことに昭和三十一年一月五日ころには右同日附自筆の書簡(甲第四号証)をもつて
被控訴人に対し右弁済が滞つているわけを述べてその弁解をするとともにその猶予
を懇願していること、当初の金五十万円の授受に関し振り出された前記手形は支払
猶予の目的でその後数回書き換えられその間右金三十万円の返済や再度の貸付及び
右金三万円の弁済の都度貸金額に照応するよう額面金額にも変更がありかつ当初一
通の手形がその額面金額の細分された三通の手形となり最後に被控訴人に交付され
たのが本件各手形(その金額合計金四十七万円)であるところ、その間の書換手形
はすべて控訴人と日栄勧業株式会社との共同名義で振り出されていること、控訴人
は右のように被控訴人から貸金債務の履行を催告されその猶予を求めた過程におい
て当初の手形やその後の書換手形が偽造に係るものである旨被控訴人に告げたこと
のなかつたこと等の事実を認めることができる。前記各証人の証言及び被控訴人の
本人尋問における供述中には右認定に一部抵触する部分があるけれども、これらは
いずれも採用しがたく、また控訴人は原審及び当審における本人尋問中で右認定に
反する供述をしているが、これは右認定の資料として採用した前記各証拠に照らし
信用することができない。ほかには、右認定を覆すに足りる証拠はない。
 右に認定した事実に照らして考えると、控訴人は少くとも当初の金五十万円の約
束手形については控訴人の被控訴人に対する金五十万円の消費貸借上の債務の弁済
のためいわゆる署名代理の方式により右金員を実際にその資金として運用する日栄
勧業株式会社と共同してこれを振り出す代理権をAに授与していたことが明らかで
あり、右当初の手形は支払延期のため数回にわたり書き換えられて本件各手形とな
つたものであるところ、その間、控訴人は被控訴人から右消費貸借上の債務の履行
を催告されたのに対し自らその一部を弁済した上残債務についてはもつぱら支払猶
予を求める態度に終始し自己の責任を否定したり手形が偽造であるといつたりした
ことがなかつたのであるから、控訴人は、本件各手形を含む各書換手形について
も、当初の手形におけると同様、妻のAに対しいわゆる署名代理の方式により右会
社と共同してこれを振り出す代理権を授与していたものと認めることができる。こ
の認定に反する原審及び当審証人Aの証言並びに原審及び当審の控訴人の本人尋問
における供述は、右認定に照らし信用することができない。そして、Aが本件各手
形に共同振出人としての控訴人の署名(本件(一)の手形につき)又は記名押印
(本件(二)、(三)の手形につき)をしたことは冒頭説示のとおりであるから、
Aは控訴人から授与された代理権に基きいわゆる署名代理の方式により本件各手形
を日栄勧業株式会社と共同して振り出したものであつて、右振出は本人たる控訴人
に対しその効力を生ずるものといわなければならない。
 次に、第三者の作成に係り当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一号証か
ら第三号証までの符箋部分並びに同第一号証及び第二号証の裏書部分によれば、被
控訴人は、本件(一)の手形をその支払呈示期間内である昭和三十年十月一日支払
のため支払場所たる株式会社第一銀行C支店に呈示し、本件(二)、(三)の手形
についてはそれぞれの受取人Dから同年八月二日裏書譲渡を受けた上これをその支
払呈示期間経過後である同年九月二十三日支払のため支払場所たる同銀行同支店に
呈示したことを認めることができ、この認定に反する<要旨>証拠はない。ところ
で、手形上の支払場所の記載は、支払呈示期間内の支払についてのみ意味があるに
とどまり手形をその支払呈示期間経過後に支払のため支払場所に呈示しても
その呈示は不適法であつて効力がないと解すべきであるから、右に認定した呈示の
うち支払呈示期間経過後支払場所においてなされた本件(二)及び(三)の手形の
右支払のための呈示はその効力がないものといわなければならない。
 そうすると、被控訴人が現に本件各手形の所持人であることは、甲第一号証から
第三号証までが被控訴人の手中に存する事実により明らかであり、本件(一)の手
形の呈示は有効であるから、控訴人に対し、本件各手形金合計金四十七万円並びに
本件(一)の手形金二十七万円に対する右手形満期日たる昭和三十年九月三十日か
ら支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める被控訴人の
本訴請求部分は理由があり、本件(二)及び(三)の手形の右呈示の有効であるこ
とを前提としてその手形金合計金二十万円に対する昭和三十年九月三十日以降の利
息ないし損害金の支払を求める部分は理由がないが手形の裁判上の請求の場合には
訴状の送達によつて振出人は遅滞に陥るものと解すべきところ、右(二)及び
(三)の手形の請求を記載した本件訴状が昭和三十二年十月二十二日控訴人に送達
されていることは記録上明らかであるから右手形金合計二十万円に対する右訴状送
達の翌日である昭和三十二年十月二十三日から支払ずみまで商法所定の年六分の遅
延損害金を請求する限度において被控訴人の右手形に対する損害金の請求はなお理
由がある。
 よつて被控訴人の本訴各請求は、右各金員の支払を求める限度において正当とし
てこれを認容し、その余を失当として棄却すべきである。
 以上説示のとおりであつて、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は相当であ
るから本件控訴を棄却することとし、原判決中右請求を棄却した部分は一部不当で
あるからこれを変更し、民事訴訟法第九十六条、第九十二条、第百九十六条を適用
し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 川喜多正時 裁判官 中田秀慧 裁判官 賀集唱)

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