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主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1原告らの請求
被告は,平成14年9月24日に締結したα生涯学習施設建設業務委託契約に
基づき,津幡町の公金を支出してはならない。
第2事案の概要
1本件は,石川県河北郡αの町民である原告らが,津幡町長が随意契約の形式
で訴外株式会社五井建築設計研究所と締結したα生涯学習施設建設実施設計業
務委託契約(以下「本件実施設計委託契約」という。)は,随意契約によるこ
とが許されていない違法,無効なものであるとして,地方自治法242条の2
第1項1号に基づき,津幡町の執行機関である被告に対し,同契約に基づく公
金支出の差止めを請求する住民訴訟である。
2前提事実(争いがないか,証拠[甲1,3,6,7,11,乙3ないし9]
及び弁論の全趣旨により明らかに認められる)
(1)当事者等
ア原告らは,石川県河北郡α内に居住する住民である。
イ被告は,津幡町の執行機関である。
(2)本件実施設計委託契約締結の経緯
ア津幡町は,「プロポーザル方式による建築設計業務委託者選定要領」を
定め,同要領は平成14年1月25日から施行された。同要領は,建築設
計業務を委託する設計者をプロポーザル(技術提案)方式で選定する場合
の手続きについて必要な事項を定めたものである。
イ津幡町は,町内に建設を計画した福祉文教施設(図書館,生涯学習セン
ター,ホール等を備える複合文教施設である。その後,「α生涯学習施
設」と命名された。以下「本件施設」という。)の基本設計業務の受託者
をプロポーザル方式で選定することとした。
ウ津幡町は,平成14年2月4日,財団法人建設業情報管理センターの経
営事項審査の総合評価における石川県内の上位8社及びαで実績のある2
社の合計10社を指名し,本件施設建設に係る基本設計策定業務について
の説明会を開催した。同説明会において,津幡町は,本件施設は,図書館
棟,生涯学習センター棟,ホール棟及びその他駐車スペース等からなる複
合文教施設であって,総面積は約1万3200㎡ないし1万5600㎡,
総事業費は約30億円,立地場所はβ地区及びγ地区であり,αのシンボ
ル的建築物として,地域住民が親しみやすく,賑わいがあり,施設全体が
町民のオアシスとなるような施設とする予定であること等を説明し,各業
者に対し,同施設の基本設計策定業務について,同月28日を提出期限と
して技術提案書(プロポーザル)の作成,提出を求めた。
エ同年3月5日,津幡町のプロポーザル審査委員会は,提出期限までに技
術提案書を提出した9社に対しヒアリングを実施した上,同日,株式会社
五井建築設計研究所(以下「五井建築」という。)のプロポーザルが最も
優れていると評価し,津幡町長に報告した。
オ同月20日,津幡町長は,随意契約の方法により,五井建築との間で,
履行期間を同日から同月29日まで,業務委託料を1890万円(消費税
90万円を含む)とする本件施設の建設基本設計策定業務委託契約(以下
「本件基本設計委託契約」という。)を締結した。その後,同契約の履行
期限は同年6月28日まで延長された。
カ同年9月24日,被告は,随意契約の方法により,五井建築との間で,
履行期間を同日から平成15年3月25日まで,業務委託料を7770万
円(消費税370万円を含む)とする本件実施設計委託契約を締結した。
(3)本件訴訟に至る経緯
ア原告らは,津幡町情報公開条例に基づいて,平成14年9月19日付の
津幡町生涯学習課係長A起案に係る「α生涯学習施設建設実施設計業務委
託契約の締結について」と題する起案文書を入手した。これは,本件実施
設計委託契約締結の可否を伺う内容の文書であったが,これには,委託期
日として,平成15年3月25日と記載されていた。
イそこで原告らは,本件実施設計委託契約は未だ締結されていないものと
認識し,平成15年1月20日付けで,津幡町監査委員に対し,本件実施
設計委託契約は違法な随意契約であるから,その締結を取りやめるよう町
長と関係職員に勧告することを求める旨の住民監査請求をした(以下「本
件監査請求」という。)。
ウこれに対し,津幡町監査委員は,同年2月7日,本件実施設計委託契約
は既に締結済みであるから,監査請求の趣旨にそった監査ができないとし
て,本件監査請求を却下する旨の決定をした(以下「本件却下決定」とい
う。)。
エ原告らは,同年3月5日,本件訴訟を提起した。
第3争点及びそれに対する当事者の主張
1主要な争点
(1)本件訴訟は,地方自治法242条の2の監査請求前置の要件を満たして
いるか
(2)本件実施設計委託契約を随意契約により締結した点について,契約担当
者の裁量権を逸脱した違法があるか
(3)本件実施設計委託契約締結が違法である場合に,同契約は無効となるか
2争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)について
(原告の主張)
本件監査請求は,本件実施設計委託契約の締結の取りやめの勧告を求めた
もので,同契約に基づく公金支出の差し止めを求めたものではない。しかし
ながら,次のとおり,本件訴訟は,監査請求前置の要件を満たしているとい
うべきである。
ア請求と訴訟の同一性
住民監査請求制度の趣旨が,自治体の財務会計事項に関する違法又は不
当な処理を予防し,是正し,それに起因する損害の回復等を図るために,
監査委員の監査権限の発動を求める点にあることに鑑みれば,原告らが,
本件監査請求において,直接的には本件実施設計委託契約の締結を監査の
対象としていたとしても,仮に同契約が締結されていた場合には,同契約
の締結に後続し密接に関連する公金の支出をも監査請求の対象とする趣旨
であることは明白であって,本件において,本件実施設計委託契約に基づ
く公金の支出についても実質的に監査請求を経ているものと解すべきであ
る。
また,最高裁判所は,「財務会計上の行為又は怠る事実」が同一である
限り,監査請求において求めた具体的措置の内容・相手方を問わずに,住
民訴訟を提起できるという見解を示しているところ(平成10年7月3日
最高裁判所第二小法廷判決・裁判所時報1223号1頁。以下「平成10
年最高裁判決」という。),本件監査請求においては,財務会計上の行為
として津幡町長による本件実施設計委託契約の締結が明示されており,本
件訴訟においても,その点に何ら変わりがないのであるから,本件訴訟に
おける請求内容が本件監査請求において求められた具体的措置の内容と異
なるからといって,監査請求前置の要件に欠けるということはできない。
イ本件監査請求の適法性
平成10年最高裁判決は,「住民は,監査請求をする際,監査の対象で
ある財務会計上の行為又は怠る事実を特定して,必要な措置を講ずべきこ
とを請求すれば足り,措置の内容及び相手方を具体的に明示することは必
須ではなく,仮に,執るべき措置内容等が具体的に明示されている場合で
も,監査委員は,監査請求に理由があると認めるときは,明示された措置
内容に拘束されずに必要な措置を講ずることができる。」と判示している。
そうすると,本件監査請求において,津幡町監査委員は,請求人が求めた
「本件実施設計委託契約締結の取りやめ」に拘束されることなく,「本件
実施設計委託契約に基づく公金支出の差し止め」に関しても広く監査し是
正の勧告等を行うことができるし,そうすべきであった。そうすると,津
幡町監査委員が,「請求の趣旨にそった監査ができない」ことを理由とし
て,本件監査請求を却下したことは不適法な措置といわざるを得ない。
したがって,本件却下決定は,適法な住民監査請求を不適法に却下する
ものであり,本件は,地方自治法242条の2第1項に規定する「監査委
員が監査を行わないとき」に該当する。
ウ被告は,本件監査請求自体が「理由があると認められる」ものではない
から,監査委員が明示的に求められた措置内容を無視して監査を行う必要
はない旨主張する。しかし,監査請求に理由があると認められるかどうか
は監査をしなければ判断できないのであるから,平成10年最高裁判決は,
「理由があると認められる」かどうかが,監査の必要性や受理・不受理の
判断基準になるなどと述べているわけではなく,被告の主張は,独自の解
釈に過ぎない。
(被告の主張)
ア原告らが求めた本件監査請求は,既に締結されている契約の締結を取り
やめるよう町長等に勧告するという,明らかに実現不可能な措置を求める
ものであり,監査委員がこれを却下したことは違法ではない。
すなわち,平成10年最高裁判決は,住民監査請求において「執るべき
措置内容等が具体的に明示されている場合でも,監査委員は,監査請求に
理由があると認められるときは,明示された措置内容に拘束されずに必要
な措置を溝ずることができる」とするものであり,執るべき措置内容が具
体的に明示されており,その措置内容が実現不可能である時に,監査請求
を不適法として却下すること自体を認めないものではなく,むしろ,明示
された措置内容に拘束されないことも「できる」と表現している以上,明
示された措置内容に拘束されることを原則としているものである。
イとりわけ,本件では,後記のとおり,原告らの求めた監査請求自体「理
由があると認められる」ものではないから,監査委員が請求にかかる明示
された措置内容を無視して監査を行う必要はなく,監査委員が本件監査請
求を却下した措置は,適切であった。
よって,原告等の本件請求は住民監査請求を経ていないというべきであ
り,「監査委員が監査を行わないとき」にも当たらないから,原告らの本
件請求は不適法として却下されるべきである。
(2)争点(2)について
(原告の主張)
ア本件実施設計委託契約締結時,既に本件施設の基本設計は完了していた。
本件施設は,基本設計によれば,芸術性・創造性において何ら特殊性を有
しない,よくある公共建築物の一つにすぎないのであって,本件実施設計
委託契約は.かかる基本設計を実施・具体化する業務を委託する契約にす
ぎない。そうすると,本件実施設計委託契約は,地方自治法234条2項,
同法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適
しないもの」に該当せず,競争入札によるべきであって,随意契約による
ことはできない。
イなお,被告は,実施設計は基本設計を受託した業者に委託するのが望ま
しいと主張するが,基本設計と実施設計を異なる業者が受託した事例は相
当数あるから,被告の主張は理由がない。仮に,実施設計は基本設計を受
託した業者に委託するのが望ましいとしても,次の(ア)ないし(エ)の事情
を総合して勘案すると,津幡町の担当者において,本件実施設計委託契約
が「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断した
のは,その裁量権を逸脱したもので,違法である。
(ア)本件基本設計受託契約の受託者を選定するのにプロポーザル方式を
採用したのは違法であるか,少なくとも相当ではなかった。
a本件基本設計受託契約は,上記の「その性質又は目的が競争入札に
適しないもの」に該当しないから,プロポーザルを経たとしても,随
意契約によることは許されない。
b仮に設計業務委託契約の受託者の選定においては,価格の有利性の
みならず,技術力その他の要素を評価すべきであるとすれば,本件基
本設計委託契約は,総合評価競争入札の方法によって締結されるべき
であった。総合評価競争入札とは,平成11年の地方自治法の改正に
よって,普通公共団体において採用できることとなった方式であって,
価格と価格以外の要素とを総合的に評価して落札者を決定することが
できる。
被告は,後記のとおり,昭和62年3月20日最高裁判所第二小法
廷判決(民集41巻2号189頁。以下「昭和62年第二小法廷判
決」という。)を引用して,本件実施設計委託契約は上記の「その性
質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当する旨主張する。確か
に,同判決当時,地方自治法では,総合評価競争入札が認められてい
なかったので,この判決には妥当性があったといえるが,平成11年
の同法改正により,総合評価競争入札が可能となったから,現時点に
おいては,同判決の理論をそのまま用いることはできない。
(イ)本件基本設計の受託者選定の際に採用されたプロポーザル(以下
「本件プロポーザル」という。)の手続は,不適切であり,これによっ
て適切な業者が選定されたとはいえず,本件基本設計の受託者に本件実
施設計を委託することの合理性がない。すなわち,一般に,プロポーザ
ル方式においては,提案書提出者への通知から提案書の提出までの期間
(以下「提案書提出期間」という。)は,少なくとも40日間とされて
いるところ,本件プロポーザルにおいては,上記期間は24日間しか与
えられなかった。このような短期間では,各設計業者は満足な技術提案
を行うことが出来ないから,本件の基本設計の委託業者は,不十分な資
料に基づき,不十分な審査の結果選定されたものといわざるを得ない。
仮に,40日間以上の提案書提出期間をおけば,五井建築よりも優れた
別の設計者が現れた可能性がある。したがって,本件プロポーザルは,
真の意味での「プロホーザル方式」とは似て非なる手続であり,これに
よって,本件施設の基本設計において,適切な設計業者が選定されたと
はいえず,本件実施設計を本件基本設計の受託者に委託することに合理
性がない。
(ウ)本件においては,基本設計と実施設計を区別して発注しているが,
この方法では,基本設計と実施設計とを別個の委託業務として報酬価格
を定めることになり,これを区別せずに発注する場合よりも割高になる
ことが明らかである。
(エ)以上を総合すると,本件施設の設計業務の委託業者の選定手続は,
設計業者にとってみれば,①プロポーザルが基本設計についてのみ行わ
れたので,実施設計を含めたプロポーザルよりも負担が著しく少ない,
②提案書提出期間が短期間であるため,短期間では充分な対応ができな
い業者やプロポーザルに慣れない業者を事実上排除する結果となる,③
基本設計のプロポーザルで選定された業者は,言い値で実施設計を請け
負うことができ,巨大な利益を得ることができる,④基本設計と実施設
計とを別個の委託業務として請負代金を算定することができる等のうま
みがあるのに対し,津幡町にとっては,①基本設計のプロポーザルにお
いて優れた設計者が選出されるとは限らない,②実施設計業務の委託契
約は業者の言い値で契約せざるを得ない,③基本設計と実施設計を一体
として契約していれば負担しなくて済んだ金額について負担せざるを得
ない等の不利益があり,本件実施設計委託契約の随意契約による締結は,
一方で業者の利益を増進し,他方で津幡町の不利益を増進させること甚
だしく,公費の浪費以外の何ものでもなく,契約担当者の判断に裁量権
の逸脱,濫用が認められること明らかである。
(被告の主張)
ア次の(ア)及び(イ)のとおり,本件実施設計委託契約は,本件施設の基本
設計をした五井建築との間で締結するのが相当であり,本件実施設計委託
契約は,「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当する。
(ア)基本設計が完成した後に実施設計を発注する場合,実施設計は基本
設計の受託業者に発注するのが相当である。
基本設計とは,設計者が発注者の意図を理解し,発注者との間の意思
の疎通を図った上で,基本構想に基づいて,建築物の全体像を確立する
建築設計・工事監理の基本となる業務であり,次の実施設計での各分野
の業務が支障なく進められるように,建築物の空間構成を具体化する段
階である。一方,実施設計とは,基本設計に基づいて,工事の実施に必
要であり,施工者が工事費内訳明細書,施工図を作成するについて必要
で十分な設計図書を作成することをいうから,基本設計と実施設計を明
確に分けるのは適当でなく,両者は本質的に一つの設計における段階を
区別するために便宜的に用いられる概念にすぎない。基本設計と実施設
計を別の設計業者が行うことは通常考えられず,実際上も,基本設計を
行った業者は,町と詳細な打合せを行い,町の意向を熟知しているのに
対し,実施設計の段階で別の業者を選定するとすれば,新たに,最初か
ら打合せを行うこととなり,費用も高くなりかねず不合理である。
とりわけ本件においては,本件施設が芸術性,創造性が高い建造物で
あるため,津幡町は,基本設計を受託した五井建築との間で,通常の場
合以上に細かな打合せをし,五井建築は実施設計を考慮に入れつつ基本
設計を行ったから,新たな業者に実施設計を行わせることは,通常の場
合以上に不合理であった。
(イ)なお,津幡町が本件施設の基本設計と実施設計を一括して委託せず,
別個の委託契約を締結したのは,それぞれが別年度にわたり,予算の上
で分けざるを得なかったためにすぎない。津幡町は,当初から,プロポ
ーザル方式で選定された基本設計の受託業者に実施設計をも委託する意
思であり,その前提でプロポーザルの審査を行ったし,プロポーザルに
参加した各業者に対してもその旨を説明した。
イ原告が裁量権逸脱事由として主張する点についての反論は次のとおりで
ある。
(ア)本件基本設計委託契約の受託者をプロポーザル方式で選定したこと
について
a地方自治法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が
競争入札に適しないもの」とは,競争入札の方法による契約の締結が
不可能又は著しく困難な場合に限られるものではなく,「不特定多数
の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが
必ずしも適当ではなく,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠
牲にする結果になるとしても,普通地方公共団体において当該契約の
目的,内容に照らし,それに相応する資力,信用,技術,経験などを
有する相手方を選定し,その者との間で契約の締結をするという方法
をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する
上でより妥当である」場合も含むと解するべきである(昭和62年第
二小法廷判決参照)。
b設計者の創造性,技術力,経験等を要する場合の官公庁建築物の設
計委託契約は,競争入札によることは妥当でなく,プロポーザル方式
等を用いた上,随意契約によって締結すべきである。すなわち,建築
設計は,発注者がこれを委託する時点では,設計対象施設の用途,規
模,敷地状況等の概括的な設計条件を示すにとどまり,当該施設のデ
ザイン,構造,その他成果物の詳細まで確定するものではなく,概括
的な設計条件をもとに設計者が創意工夫を持って施設の空間構成を具
体化するものであって,建設される建築物の質や経済性等は,同じ設
計料で委託しても設計者の選定により大きく左右されるから,建築物
の設計委託契約の目的を達成し高品質な建築物を建築するためには,
競争入札により設計料の多寡により設計者を選定するのではなく,設
計者の創造性,技術力,経験等により設計者を選定する必要がある。
本件施設は,αのシンボル的建築物として,地域住民が親しみやす
く,施設全体が町民のオアシスとなるような施設であり,αでも類を
見ないほど大型の複合施設であるから,その設計者については,通常
の建築設計の場合以上に創造性,技術力,経験等が必要とされるので
あって,設計料の多寡のみによって設計者を選定することはできない
のである。
したがって,本件基本設計委託契約は,「その性質又は目的が競争
入札に適さないもの」に該当し,その受託者をプロポーザル方式で選
定したことは相当であった。
cところで原告らは,本件基本設計の受託者の選定について,総合評
価競争入札を実施すべきであったと主張するが,次のとおり,設計業
務の委託契約においては総合評価競争入札は適当でない。
(a)一般に総合評価競争入札が採用されるのは,単なる建築設計の
業務委託の場合ではなく,工事の請負契約又は設計,施工の一括発
注を含んだ工事に係る請負契約を締結するときである。
(b)総合評価競争入札では,評価方式を事前に公表しなくてはなら
ないため,どんなにすばらしい提案が出ても,それが事前に考えら
れた評価項目に該当しない場合には,受け入れられない可能性があ
り,民間の創造性を十分に発揮させることができない。また,総合
評価競争入札では設計者の質に着目するのが困難であり,安くて質
の悪い設計者を選ぶか,高くて質の善い設計者を選ぶかという選択
となってしまう。設計者の質の善し悪しと,値段とを総合的に評価
することは極めて困難なのである。
(イ)本件プロポーザルの提案書提出期間について
本件プロポーザルにおいては,提案書提出期間は24日間であったが,
これについては説明会において各設計事務所に対し十分説明をして了解
を得ている。津幡町は,各設計業者から十分に検討された技術提案を受
け,ヒアリングの際には各設計業者から熱意ある説明を受けた上で設計
業者を選定したものであり,その手続に何らの問題はない。
(ウ)その他,原告は津幡町の担当者に裁量権の逸脱があるとして,るる
主張するが,その主張は理由がない。
(3)争点(3)について
(原告の主張)
昭和62年5月19日最高裁判所第三小法廷判決(民集41巻4号687
頁。以下「昭和62年第三小法廷判決」という。)は,随意契約の制限に関
する法令に違反して締結された契約の効力について,随意契約によることが
できない場合であることが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方に
おいて随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知
り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締
結に制限を加える地方自治法及び同法施行令の規定の趣旨を没却する結果と
なる特段の事情が認められる場合に限り無効となる旨判示しているところ,
本件施設は,本件実施設計委託契約締結時において,基本設計が既に完了し
ており,その基本設計によれば,芸術性・創造性において何ら特殊性を有し
ない,よくある公共建築物の一つにすぎないこと,本件実施設計委託契約が
「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当しないことは誰の目
にも明らかであること,本件実施設計委託契約の相手方である五井建築は,
津幡町が競争入札の可能性や他の業者との比較検討を全く行っていないこと
を知り又は知ることができたこと等の事情によれば,本件においては,上記
「特段の事情」が認められるから,本件実施設計委託契約は私法上無効であ
る。
(被告の主張)
本件実施設計委託契約を随意契約によることが許されないことが何人の目
にも明らかであるとは到底言えず,また,五井建築において,本件実施設計
委託契約を随意契約によることが許されないことを知り又は知り得べきであ
ったとも言えないから,本件において,上記「特段の事情」が存在するとは
いえない。
よって,仮に,本件実施設計委託契約を随意契約により締結したことが違
法であったとしても,本件実施設計委託契約は私法上無効とはならない。
第4争点に対する当裁判所の判断
1争点(1)について
(1)住民監査請求がなされた場合,その監査請求が違法である場合を除き,
監査委員は監査をする義務がある。適法な監査請求が違法であるとして却下
された場合には,地方自治法242条の2第1項の「監査委員が242条4
項の規定による監査若しくは勧告を同条5項の期間内に行わないとき」に該
当すると解される。
(2)本件監査請求は,本件実施設計委託契約の締結が違法であることを理由
として,本件実施設計委託契約締結の取りやめ勧告を行うことを求めてなさ
れたものであるところ,津幡町監査委員は,本件実施設計委託契約が既に締
結済みであり,取りやめ勧告を行うことはできないことを理由として本件監
査請求を却下した。
ところで,住民は,監査請求をする際,監査の対象である財務会計上の行
為又は怠る事実を特定して必要な措置を講ずべきことを請求すれば足り,措
置の内容及び相手方を具体的に明示することは必須ではなく,仮に,執るべ
き措置内容等が具体的に明示されている場合でも,監査委員は,監査請求に
理由があると認めるときは,明示された措置内容に拘束されずに必要な措置
を講ずることができると解される(平成10年最高裁判決参照)。したがっ
て,本件実施設計委託契約が既に締結済みであっても,これが違法であれば,
津幡町監査委員は,津幡町の執行機関に対して本件実施設計委託契約に基づ
く公金の支出の中止を勧告する等,必要な措置を講ずることができるのであ
るから,本件監査請求に基づき必要な措置を講ずることができないものでは
なく,本件監査請求は適法というべきである。
そうすると,本件却下決定は,適法な住民監査請求を違法として却下した
ものであるから,本件は,地方自治法242条の2第1項の「監査委員が2
42条4項の規定による監査若しくは勧告を同条5項の期間内に行わないと
き」に該当するというべきである。
(3)ところで,被告は,本件監査請求自体が「理由があると認められる」も
のではないから,監査委員が監査請求書に明示された請求にかかる措置内容
を無視して監査をする義務はなく,本件却下決定は相当であって,本件にお
いては監査請求が前置されていない旨主張するが,監査委員は,財務会計上
の行為又は怠る事実を特定した監査請求がなされれば,監査をすることがで
きるのであって,これをしなかった監査委員の措置が違法と解すべきか否か
はさておき,監査請求前置主義の要請は満たしているというべきであって,
被告の主張は採用できない。なお,平成10年最高裁判決に「監査請求に理
由があると認めるとき」との一節があるが,これは,必要な措置を講ずるこ
とができる条件として述べられているのであって,監査をする条件として述
べられているのではないと解せられる。
(4)以上のとおり,本件監査請求は,本件実施設計委託契約締結行為を対象
として適法になされたが,監査委員がこれを却下して地方自治法242条5
項の期間内に監査をしなかったものであり,本件訴訟は,本件実施設計委託
契約締結が違法であることを理由として,本件実施設計委託契約に基づく公
金支出の差止めを求めているものであるから,本件訴訟は,地方自治法24
2条の2の監査請求前置の要件を満たし適法というべきである。
2争点(2)について
(1)前提事実に証拠(甲3,12,13,19,乙1ないし3,4の1,2,
乙14ないし18)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア本件施設について
本件施設は,図書館棟,生涯学習センター棟,ホール棟及び200台以
上の駐車スペース等からなる複合文教施設であって,五井建築が作成した
基本設計図によると,敷地面積が1万5667平方メートル,建物は地下
1階,地上3階建で,総床面積は9148平方メートルに及び,事業費と
しては,外構工事を含め約30億円が予定されている。津幡町は,町のシ
ンボル的建築物として,地域住民が親しみやすく賑わいがあり,施設全体
が町民のオアシスとなるような施設を建設したいと考えていた。
イプロポーザル方式について
(ア)プロポーザル方式とは,建築の設計に係る業務(昭和54年7月1
0日付建設省告1206号別表第2に定める設計の業務[以下「設計業
務」という。])の設計者を選定する場合において,一定の条件を満足
する候補者から,当該設計業務に係る実施体制,実施方針,プロジェク
トに対する提案等(設計案又はそれに類するものは含まないとする)に
関するプロポーザルの提出を受け,必要な場合にヒアリングを実施した
上で,当該プロポーザルの評価を行い,当該設計業務に最も適した者を
選定する方式をいう。
(イ)平成3年3月第39回建築審議会の答申「官公庁施設の設計業務委
託方式の在り方」において,設計者選定の在り方として,設計料の多寡
によらず,設計者の創造性,技術力,経験等を適正に審査し決めるべき
であることが指摘され,選定の方式として,「設計競技方式」「プロポ
ーザル方式」「書類審査方式」の3方式が提言された。これを受けて建
設省や設計者団体等を構成員とする公共建築設計懇談会は,「プロポー
ザル方式に基づく設計者選定要領」を取りまとめた。政府は,平成6年
1月18日付けの「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画
について」と題する閣議了解案において,国及び一定の政府関係機関の
公共工事にかかる設計,コンサルティング業務で45万SDR以上のも
のの調達については,公募型プロポーザル方式ないし公募型競争入札方
式を採用することとした。なお,公募型プロポーザル方式においては,
提案書提出期間を少なくとも40日以上と定めた。その後,国のみなら
ず地方公共団体でも設計者選定にプロポーザル方式を採用するケースが
増えているが,その割合は未だに大きくはなく,その大部分は,競争入
札方式で実施されている。
(ウ)設計者の創造性,技術力等を審査する選定方式として採用されてい
るものには,プロポーザル方式の外に,設計競技方式(いわゆるコンペ
方式)がある。コンペ方式は,発注者が明確な設計委託条件を整え,こ
れに基づいて作成された設計案を評価の対象とするものである。いわば,
コンペ方式は設計案を選ぶものであり,プロポーザル方式は,設計者を
選ぶものと理解されている。
(エ)プロポーザル方式には,指名した業者にプロポーザルの提出を求め
る指名型と,提出者を公募する公募型がある。
ウ総合評価競争入札について
(ア)平成11年の地方自治法の改正により,総合評価競争入札が可能に
なった。総合評価競争入札とは,競争入札において,当該契約がその性
質又は目的から,最低価格の申込をした者を相手方とすることが妥当で
ない場合に,あらかじめ,価格その他の条件が当該普通地方公共団体に
とって最も有利なものを決定するための基準(落札者決定基準)を学識
経験者の意見を聴いた上で定め,同基準の公告を行った上で競争入札を
実施し,価格その他の条件が当該普通地方公共団体にとって最も有利な
ものをもって申込をした者を落札者とすることができるものである(地
方自治法施行令167条の10の2)。
(イ)総合評価一般入札は,主として,設計・施工一括発注を含んだ工事
に係る請負契約において,入札者が提示する性能等によって,工事に関
連して生ずる補償費等の支出額やライフサイクルコストに差異が生ずる
工事等について採用されている。
(ウ)東京都は,平成14年7月8日付けで,「東京都設計等業務委託契
約に係る総合評価競争入札実施要綱」を策定し,東京都が設計等の業務
を発注する際に,設計等技術に係る技術面における提案,企業の技術者
の能力に関する提案等を募集して,価格以外の技術的な要素を考慮して
落札者を決定する場合の手続を定めた。これによると,設計業務の質を
高めるために,価格面のほか入札者の有する技術提案の内容や技術的能
力を重視することが有効な場合を対象とし,評価項目,評価基準,評価
の配点等を公表した上,入札者に技術提案書等の提案を求め,審査委員
会において審査を行い,その結果得られた技術点と価格点の合計点が最
も高い者を落札者とすることと定められている。
エ社団法人建築業協会等は,平成15年9月30日に「公共建築の設計者
選定方法の改善についての提言」を発表した。これは,我が国においては,
公共建築の設計者の選定にあたって,設計入札が圧倒的に多く採用されて
きた(1980年代には随意契約が多かったが,最近では85パーセント
が入札を採用している)こと,設計者選定にあたっては,設計者の優れた
デザイン力や技術力が適正に評価される制度が必要であることを訴え,設
計入札以外の選定方法としては,①選定委員会の推薦方式(選定委員が候
補者を推薦し,委員会の協議で決定する),②コンペ方式,③プロポーザ
ル方式,④資質評価方式(設計担当者の資質,人格,実績等を審査し,ヒ
アリングを行い,プロジェクトに相応しい組織と人を選定する方式),⑤
総合評価システム(設計,施工,施設のメンテナンス,建設資金のファイ
ナンス等,すべてにわたる提案を求め,総合的な評価により最も優れた提
案チームを特定する方法)があることを紹介し,スケジュールに余裕がな
いときは①が,施設の内容を発注者側で詳細に決めている場合は②が,市
民参加等により設計のための条件づくりと設計を同時に進める場合は③が,
個人ないしチームの信頼性の評価に重きを置くときは④が,範囲が設計に
限らない時は⑤が望ましいこと等を説明するものであった。
オ津幡町においては,全国的に採用が広がってきているプロポーザル方式
を採用すべく,「プロポーザル方式による建築設計業務委託者選定要領」
を定めたが,これによると,対象業務は,「①統合性,効率性を必要とす
る計画,施設の設計,②文化性,芸術性,創造性を必要とする施設の設計,
③地域のまちづくり,景観形成上重要な施設の設計,④高度な専門知識,
技術を必要とする施設の設計」とされている。津幡町は,本件施設は施設
内容が複雑で芸術性が高く,同要領のプロポーザル方式の対象業務に該当
すると考え,設計業務委託者の選定にプロポーザル方式を採用することと
した。なお,プロポーザルの対象は,本件施設の基本設計としたが,これ
は,会計年度が基本設計の受託費は平成14年度,実施設計の受託費は平
成15年度となるためであって,津幡町としては,当初からプロポーザル
で選定された業者に基本設計のみならず,実施設計も委託する意図であり,
指名業者に対してもその旨説明した。そして,選定された五井建設に対し,
予定どおり,随意契約によって実施設計も委託した。
カ基本設計と実施設計について
(ア)一般に,基本設計とは,注文者の基本構想に基づいて建築物の全体
像を確立する建築設計,工事監理の基本となる業務であり,次の実施設
計で各分野の業務が支障なく勧められるように建築物の空間構成を具体
化する段階をいい,具体的には,敷地の測量,地盤調査,基本設計図
(仕上表,配置図,平面図,立面図,断面図等)の作成業務が含まれる。
(イ)一般に,実施設計とは,基本設計に基づいて,工事の実施に必要で
あり,施工者が工事費内訳明細書,施工図の作成に必要で十分な設計図
書を作成することをいう。これらの設計図書には,実施設計図(仕様書,
仕上表,敷地案内図,配置図,各階平面図,立面図,断面図,展開図,
詳細図等),構造図(伏図,軸組図,各部材断面表等の構造設計図及び
構造計算書),設備図(電気,給排水衛生,空調換気,その他所要の設
備設計図及び計算書)等がある。また,建築確認申請の代理業務も実施
設計業者が行うことが多い。
(2)以上の事実に基づいて検討する。
ア地方自治法234条1項,2項は,地方公共団体が締結する契約は一般
競争入札の方法によることを原則とし,随意契約は,政令で定める場合に
該当するときに限りこれによることができるものとし,同施行令167条
の2は随意契約によることができる場合を列挙し,その2号は,「その性
質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」と定めている。
そして,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」と
は,競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難な場合に限
られるものではなく,「不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて
契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約自体では
多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,普通地方公共団
体において当該契約の目的,内容に照らし,それに相応する資力,信用,
技術,経験などを有する相手方を選定し,その者との間で契約の締結をす
るという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に
達成する上でより妥当である」場合も含むと解するのが相当である(昭和
62年第二小法廷判決参照)。
イところで,その設計において創造性や芸術性が要求される建物(以下
「特殊建築物」という。)の基本設計をするについては,発注者と万全の
意思疎通を図って,その意図を十分理解する必要がある。そして,基本設
計に基づいて行われる実施設計は,機械的な作業ではなく,これをするに
ついても,同様に発注者の意図を十分理解する必要がある。そうすると,
基本設計を委託した業者に対して実施設計を委託すれば,改めて発注者の
意図を理解するための作業を省略でき,それだけ安価に委託できるはずで
ある。
また,実施設計業者は,基本設計の設計思想を理解し,これを具体化す
る作業を行うことになるが,実施設計業者が基本設計業者と同一であれば,
設計思想の理解の齟齬を防ぐことができる。
ウこれらの事情に照らせば,特殊建築物の基本設計が完了した後に行われ
る実施設計の受託契約は,競争原理に基づいて契約の相手方を決定するこ
とが必ずしも適当ではなく,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠
牲にする結果になるとしても,基本設計の受託者との間で契約の締結をす
るのがその性質に照らし又はその目的を達成する上でより妥当であり,ひ
いては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断され
る場合にあたり,上記の「その性質又は目的が競争入札に適しないものを
するとき」に当たるのではないかと考える十分な理由があるというべきで
ある。原告は,基本設計と実施設計を異なる業者が受託した事例が存在す
る事実を指摘するが,証拠(甲14,16)によれば,原告が指摘する事
例は,民間の,しかも実施設計と施工管理を同一業者が請け負うという公
共工事では取り得ない形式で行われていることが認められるから,上記指
摘は,上記判断を左右するに足りない。
エ(1)のアの事実によれば,本件施設は,特殊建築物に当たるというべき
である。そうすると,津幡町の担当者において,本件実施設計委託契約を
本件基本設計委託契約の受託者である五井建築との間で締結するのが妥当
であると考えたことについては首肯するに足る理由があるというべきであ
るから,特段の事情のない限り,津幡町の担当者が,本件実施設計委託契
約をもって「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると
判断したことに裁量の逸脱があるということはできない。
(3)そこで,原告が担当者の裁量逸脱事由として主張する点について検討す
る。
ア本件基本設計委託契約の受託者をプロポーザル方式で選定した点につい

(ア)建設工事のように,完成すべき工事の内容が特定されており,どの
業者がこれを施工しても結果の同一性が保証されている場合には,競争
入札によって最低価格でこれを調達することが適切であるのはいうまで
もない。しかし,建築設計の場合,委託契約締結の時点では,設計の内
容や結果は判らず,設計者によってその結果にばらつきが生じるもので
ある。したがって,設計料の多寡もさることながら,設計者の創造性,
技術力,経験等を適切に判断して設計者を選定することが重要である。
我が国で,かつては随意契約が多かったのは,そのことが理由であると
思われるが,随意契約に随伴する不透明性や癒着等の問題から,競争入
札が増える一方,それでは適切な設計者の選定ができないとして,それ
に代わる様々な方法が提案,実施されているのが現状であるということ
ができる。プロポーザル方式は,そのために編み出された有力な方法の
一つであり,また,総合評価競争入札方式も,同様の機能を果たすこと
が可能であろう。しかし,建築設計受託者の選定方式としていかなる方
式が相当であるかは,個々の建築物の規模,機能,目的等によっても異
なるし,そのことも含め,どのような種類の建築物についてどのような
選定方式が相当であるかは,各地方公共団体で試行錯誤されている段階
であって,統一的,支配的な考え方が確立しているとは言い難い(公知
の事実と言ってよいと思われる)。
(イ)総合評価競争入札がプロポーザル方式に期待されている機能を果た
しうるのであれば,基本的に価格を考慮の対象としないプロポーザル方
式よりも,これを評価の対象とする総合評価競争入札の方がより望まし
いということはできる。しかし,価格を評価の対象とすることによって,
安価ではあるが技術力の低い業者が選定される結果になることが,建物
によっては好ましくない場合もあるだろうし,プロポーザル後の随意契
約において発注者側が適切な委託料を算定することが可能かという問題
も含め,如何なる場合においても,総合評価競争入札の方がプロポーザ
ル方式よりも優れていると断ずることはできない。
(ウ)ところで,本件施設は,通常の建築物を設計する場合以上に創造性,
技術力,経験等が要求される特殊建築物である。そうすると,本件施設
の基本設計の受託者の選定が,「当該契約の目的,内容に照らしそれに
相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定しその者との
間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又
はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通
地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合」に該
当するとみる余地は十分あるし,仮にそうでないとしても,建築設計業
務の受託者の選定方法を巡る上記の如き全国的状況の中で,プロポーザ
ル方式の導入を決めた津幡町において,その適用事例として本件施設の
設計業務を選んだ担当者の判断が,相当でなかったと断ずるのは困難で
ある。
イ本件プロポーザルにおける提案書提出期間について
上記の閣議了解案において提案書提出期間が40日以上と定められてい
るから,本件プロポーザルにおける提案書提出期間が一般よりも短期間で
あったと推認することができる。しかし,24日間という提案書提出期間
が本件施設の基本設計のプロポーザルを提出するのに不相当に短期間であ
ったと認めるに足る証拠はないし,本件プロポーザルによって選定された
五井建築が適切な設計業者でなかったと認めるに足る証拠もない。
ウその他,原告がるる主張する事情を考慮しても,津幡町の担当者が,本
件実施設計委託契約をもって「その性質又は目的が競争入札に適しないも
の」に該当すると判断したことに裁量の逸脱があったということはできず,
これが違法であるということはできない。
3以上によれば,争点(3)について検討するまでもなく,本件実施設計委託契
約が無効であるということはできないから,本件実施設計委託契約が無効であ
ることを前提とする原告らの本訴請求は理由がなく,棄却するべきである。
金沢地方裁判所第二部
裁判長裁判官井戸謙一
裁判官野村賢
裁判官村山智英

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