弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中八〇日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人渡辺明治の上告趣意第一の一は、憲法三七条二項違反をいうが、その実質
は単なる法令違反の主張であり、同第一の二、第二の一、第二の二の(一)は、憲
法三一条違反をいうが、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第
二の二の(二)のうち、憲法三一条違反をいう点の実質は単なる法令違反の主張で
あり、憲法三八条一項違反をいう点は、尿の採取は供述を求めるものではないから、
所論は前提を欠き、その余は事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条
の上告理由にあたらない。
 しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査するに、本件の採尿検査を違
法であるとした原判断は、次の理由により法令に違反したというべきである。
 一 原判決の認定した本件採尿検査の経過は、次のとおりである。(1)昭和五
二年六月二八日午前一〇時ころ、愛知県江南警察署警察官Aらは、被告人を覚せい
剤の譲渡しの被疑事実で逮捕した。(2)右Aは、被告人の両腕に存する静脈注射
痕様のもの、その言語・態度などに照らし、覚せい剤の自己使用の余罪の嫌疑を抱
き、尿の任意提出を再三にわたり求めたが、被告人は拒絶し続けた。(3)翌二九
日午後四時ころ、同署は、強制採尿もやむなしとして身体検査令状及び鑑定処分許
可状の発付を得た。(4)同日夕刻鑑定受託者である医師Bは、強制採尿に着手す
るに先立ち、被告人に自然排尿の機会を与えたのち、同日午後七時ころ、同署医務
室のベツド上において、数人の警察官に身体を押えつけられている被告人から、ゴ
ム製導尿管(カテーテル)を尿道に挿入して約一〇〇CCの尿を採取した。(5)
被告人は、採尿の開始直前まで採尿を拒否して激しく抵抗したが、開始後はあきら
めてさして抵抗しなかつた。(6)同署は、同医師から、採取した尿の任意提出を
受けてこれを領置し、右尿中の覚せい剤含有の有無等につき愛知県警察本部犯罪科
学研究所に対し鑑定の嘱託手続をとつた。
 二 尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いてその身体から尿を採取
することは、身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える
行為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取
する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはい
え、医師等これに習熟した技能者によつて適切に行われる限り、身体上ないし健康
上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあつても
軽微なものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感
等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありう
るのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強
制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存
在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照
らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、
適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、そ
の実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施
されるべきものと解するのが相当である。
 そこで、右の適切な法律上の手続について考えるのに、体内に存在する尿を犯罪
の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべき
であるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべき
である。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・
差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体
検査令状に関する刑訴法二一八条五項が右捜索差押令状に準用されるべきであつて、
令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により
行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。
 三 これを本件についてみるのに、覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九
条に該当する覚せい剤自己使用の罪は一〇年以下の懲役刑に処せられる相当重大な
犯罪であること、被告人には覚せい剤の自己使用の嫌疑が認められたこと、被告人
は犯行を徹底的に否認していたため証拠として被告人の尿を取得する必要性があつ
たこと、被告人は逮捕後尿の任意提出を頑強に拒み続けていたこと、捜査機関は、
従来の捜査実務の例に従い、強制採尿のため、裁判官から身体検査令状及び鑑定処
分許可状の発付を受けたこと、被告人は逮捕後三三時間経過してもなお尿の任意提
出を拒み、他に強制採尿に代わる適当な手段は存在しなかつたこと、捜査機関はや
むなく右身体検査令状及び鑑定処分許可状に基づき、医師に採尿を嘱託し、同医師
により適切な医学上の配慮の下に合理的かつ安全な方法によつて採尿が実施された
こと、右医師による採尿に対し被告人が激しく抵抗したので数人の警察官が被告人
の身体を押えつけたが、右有形力の行使は採尿を安全に実施するにつき必要最小限
度のものであつたことが認められ、本件強制採尿の過程は、令状の種類及び形式の
点については問題があるけれども、それ以外の点では、法の要求する前記の要件を
すべて充足していることが明らかである。
 令状の種類及び形式の点では、本来は前記の適切な条件を付した捜索差押令状が
用いられるべきであるが、本件のように従来の実務の大勢に従い、身体検査令状と
鑑定処分許可状の両者を取得している場合には、医師により適当な方法で採尿が実
施されている以上、法の実質的な要請は十分充たされており、この点の不一致は技
術的な形式的不備であつて、本件採尿検査の適法性をそこなうものではない。
 原判決が本件採尿検査を違法視しているのは前記説示のとおり法令に違反するも
のであるが、原判決は採取した尿を資料とした鑑定書の証拠能力は肯定しているの
で、右違法は判決に影響を及ぼすものとはいえない。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条により、裁判官全員一
致の意見で、主文のとおり決定する。
  昭和五五年一〇月二三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    谷   口   正   孝

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