弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人石原俊一の上告理由一について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 同二1について
 自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書し
た上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺
言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「
指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。けだし、同条項が
自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の
自書とあいまつて遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書につい
ては作成者が署名した上その名下に押印することによつて文書の作成を完結させる
という我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解
されるところ、右押印について指印をもつて足りると解したとしても、遺言者が遺
言の全文、日附、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠け
るとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、
通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めてい
る我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠
けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、か
えつて遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである。
もつとも、指印については、通常、押印者の死亡後は対照すべき印影がないために、
遺言者本人の指印であるか否かが争われても、これを印影の対照によつて確認する
ことはできないが、もともと自筆証書遺言に使用すべき印章には何らの制限もない
のであるから、印章による押印であつても、印影の対照のみによつては遺言者本人
の押印であることを確認しえない場合があるのであり、印影の対照以外の方法によ
つて本人の押印であることを立証しうる場合は少なくないと考えられるから、対照
すべき印影のないことは前記解釈の妨げとなるものではない。そうすると、自筆証
書遺言の方式として要求される押印は拇印をもつて足りるとした原審の判断は正当
として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することが
できない。
 同二2について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、所論の抹消部分に訂正印を欠い
ていることは本件遺言の効力に影響を及ぼさないとした原審の判断は正当として是
認することができ(最高裁昭和五六年(オ)第三六〇号同年一二月一八日第二小法
廷判決・裁判集民事一三四号五八三頁参照)、原判決に所論の違法はない。論旨は、
採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一

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