弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人忽那隆治、同伊東すみ子の上告理由第一点から第三点までについて
 原審が確定したところによれば、(一) 被上告会社は、アメリカ合衆国ニユーヨ
ーク市所在のDインコーポレイテツドから一四四面カツトの本件ダイヤモンド九石
(合計九・三六カラツト)を買い受け、Dインコーポレイテツドは、昭和四二年三
月一七日、航空運送人である上告会社に対し、被上告会社を荷受人として、右ダイ
ヤモンドが在中する葉書大で厚さ一〇センチメートルの本件木箱の東京までの航空
運送を有償で委託し、上告会社はそれを承諾した、(二) Dインコーポレイテツド
は、上告会社との右運送契約に基づき、上告会社の代理人であるEインコーポレイ
テツド(F)に対し、本件木箱を引き渡した、(三) 上告会社は、Eインコーポレ
イテツドから本件木箱を受け取り、本件旅客機のマニフエスト(積荷目録)に所要
事項を記載し、右木箱に貴重品であることを示すレツド・スクエアー(赤い四角形
のマーク)を印し、本件運送契約の航空運送状を添付した上、これをオニオン・サ
ツク(赤色の網袋)に入れ、それに行先札を付して本件旅客機のフロント・ペリー
(前部貨物室)に積載した、(四) フロント・ペリーには、飛行中は何びとも立ち
入ることはできず、本件旅客機が寄航したシカゴ、シアトルの空港においても上告
会社の従業員以外の者が近づき得る機会はなかつた、(五) 本件旅客機が同月一九
日午後零時五〇分東京空港に到達し、緊急を要する荷下ろし貨物を専門に取り扱う
上告会社の従業員二名がフロント・ペリーへ行き、貨物を受け取り、上告会社事務
所の仕訳場へ運び、本件旅客機の事務長が持参したマニフエストと対照したところ、
本件木箱がオニオン・サツクごと存在していないことが判明した、(六) 上告会社
がニユーヨーク、シカゴ、シアトル及び本件旅客機が東京から直行したソウルの各
空港に照会し、更に、東京空港警察署及びアメリカ合衆国連邦捜査局に捜査を依頼
したが、本件木箱は発見されず、本件木箱の滅失は、上告会社の従業員が職務を行
うに当たつて窃取したことによるか、又は手違いによる積残し若しくは荷下ろしに
よるものであるというのであり、右認定は、原判決挙示の証拠に照らして是認する
ことができ、その過程に所論の違法はない。
 右事実によれば、本件木箱の運送契約は、一九二九年一〇月一二日にワルソーで
署名された「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(昭和二八年
条約第一七号。右条約を改正する議定書(昭和四二年条約第一一号)による改正前
のもの。以下「ワルソー条約」という。)の締約国であるアメリカ合衆国の領域に
ある地を出発地とし、同じく締約国である日本国の領域にある地を到達地とする航
空機による貨物の国際運送契約であるから、その法律関係については、ワルソー条
約が適用されることは明らかである(同条約一条)。
 ところで、ワルソー条約一三条、一八条、二〇条及び二二条の規定によれば、運
送の委託を受けた貨物が運送人又はその使用人の過失により滅失した場合は、運送
人は、荷受人に対し損害賠償の責任を負い、その責任は、貨物一キログラムについ
て二五〇フランの額を限度とされるが、同条約二五条は、損害が運送人又はその使
用人がその職務を行うに当たり、その故意により生じたとき、又は訴えが係属する
裁判所の属する国の法律(法廷地法)によれば故意に相当すると認められる過失に
より生じたときは、運送人は、運送人の責任を排除し又は制限するこの条約の規定
を援用する権利を有しない旨を規定している。
 右のとおり、同条約二五条所定の「故意に相当すると認められる過失」の意義に
ついて、同条は、法廷地法にその決定を委ねているのであるが、航空機による貨物
の運送が船舶による貨物の運送に類似することを考えると、同条約二五条は、我が
国の商法五八一条を準用する同法七六六条、国際海上物品運送法二〇条二項の規定
と同趣旨の規定であると解され、したがつて、「故意に相当すると認められる過失」
とは、我が国の法律上「重大な過失」を意味するものと解するのが相当であり、運
送人は、その使用人が職務を行うに当たつて重大な過失により貨物を滅失させたと
きは、同条約二五条により有限責任に関する規定の適用が排除される結果、荷受人
に対し、その滅失によつて生じた全損害額を賠償すべき義務があるものといわなけ
ればならない。なお、同条の規定は、運送の委託を受けた貨物が高価品で、荷送人
がその価額を特に申告せず、かつ、必要とされる増料金を支払わない場合でも、適
用されるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、本件木箱の
減失は、上告会社の従業員が職務を行うに当たつて、窃取したことによるか、又は
手違いによる積残し若しくは荷下ろしによるものであるというものであり、前者に
よるものであれば、上告会社は、被上告会社に対し、本件木箱の滅失によつて被上
告会社が被つた全損害額を賠償すべき義務があるのは、当然である。また、後者に
よるものであつても、本件木箱は、一見して到達地が東京であり、荷受人が被上告
会社であることが認識できる状態で、オニオン・サツクごと滅失したのであるから、
手違いによつて本件木箱を積み残し又は荷下ろしした上告会社の従業員において、
わずかな注意をしさえすれば、たやすく手違いであることが分かつたはずであり、
そのような手違いがあれば、本件木箱が滅失するであろうという違法有害な結果の
発生を予見することができた場合であるのに、著しく注意を欠如した結果、これを
見過ごしたものであるということができ、したがつて、本件木箱の滅失は、上告会
社の使用人が職務を行うに当たつての重大な過失により生じたものであるといわな
ければならず、上告会社は、被上告会社に対し、本件木箱の滅失によつて被上告会
社が被つた全損害額を賠償すべき義務がある。
 右と同趣旨の原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所
論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第四点について
 原審が適法に確定した事実関係の下においては、本件ダイヤモンドの卸売に要す
る費用を被上告会社が被つた損害額から控除しなかつた原審の判断は、正当として
是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       讓

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