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判決 平成14年4月30日 神戸地方裁判所 平成5年(ワ)第399号の5 損
害賠償請求事件
            主         文
 1 被告は,原告Aに対し,157万8727円及びこれに対する平成5年3月
25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告Bに対し,337万3704円及びこれに対する平成2年1月
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負
担とする。
 5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。
            事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告Aに対し,453万2106円及びこれに対する平成5年3月
25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告Bに対し,674万7409円及びこれに対する平成2年1月
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,被告の違法行為ないしその従業員の違法な勧誘によりワ
ラント取引を行った結果,損害を被ったとして,被告に対し,不法行為に基づき,
損害賠償を求めるとともに,原告Bが,被告の従業員がワラントの無断売買をした
として,予備的に預託金の返還を求める事案である。
 1 争いのない事実等(証拠等を摘示した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告ら
(ア) 原告Aは,平成3年10月16日当時50歳(昭和16年9月30
日生)の男性であり,昭和39年3月,大阪経済大学経済学部を卒業し,同年4
月,自衛隊に入隊した。昭和40年,自衛隊を除隊し,兄が経営していた個人営業
の「C印刷」を引き継ぎ,昭和46年,有限会社浅原印刷を設立した。また,同
年,町会議員に就任した。そして,本件当時も,印刷業を経営するとともに,町会
議員の地位にあった。
(甲C1,証人D,原告A本人,弁論の全趣旨)
本件当時,同社の年商は約5000万円,原告Aの年収は約1000
万円,貯金は約3000万円であった(甲C1,原告A本人)。
(イ) 原告Bは,平成元年5月23日当時58歳(昭和5年6月1日生)
の男性であり,兵庫県揖保郡a村立a高等小学校を卒業後,約2年間国鉄太市駅に
勤務し,その後両親の営んでいた農業を手伝い,昭和22年ころからは大工として
稼働し,本件当時も,大工をしていた(甲D1,原告B本人,弁論の全趣旨)。
昭和61年3月当時,原告Bの手持資産は,約2000万円であった
(乙D9の2)。
イ 被告
被告は,有価証券の売買等を行う総合証券会社である。被告は,平成1
1年4月26日,商号を「大和証券株式会社」から「株式会社大和証券グループ本
社」に変更した(弁論の全趣旨)。
(2) ワラントの意義
ワラントとは,新株引受権付社債(ワラント債)の社債部分から切り離さ
れ,それ自体で独自に取引の対象とされる新株引受権ないしこれを表章する証券の
ことであり,発行会社の株式をあらかじめ定められた期間(権利行使期間)内に,
あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で,決まった数量を購入(引受)でき
る権利又はこの権利が表章された証券のことをいう。
(3) ワラントの特徴
ア ワラント価格は,理論的価値(パリティ)と株価値上がりへの期待(プ
レミアム)からなる。
ワラントの理論的価格は,原則として,株価に連動するが,その変動幅
は,株価のそれより大きい(ギアリング効果)し,また,プレミアム部分も不安定
である(価格変動リスク)。
イ ワラントは,発行時に定められた権利行使期限を経過すると,権利行使
ができなくなり,その価値がなくなる(権利失効リスク)。
また,権利行使期限経過前でも,株価が権利行使価格を超える見込みが
ない場合には価値がなくなり,その可能性は,権利行使期限が近づくにつれて高く
なる。
ウ 外貨建てワラントの価格は,為替変動の影響を受ける。
エ ワラントは,平成元年ないし平成3年当時,比較的新しく,周知性の低
い商品であり,また,外貨建てワラントの取引形態は,証券会社と顧客との相対取
引であり,価格形成の不明朗,価格情報の不足,売却が困難な場合があることなど
が指摘されている。
(4) 原告らの本件ワラント取引
ア 原告Aについて
原告Aは,被告担当者Dの勧誘を受け,被告との間で,平成3年10月
16日以降,別紙1記載のとおりのワラント取引(ウシオ電機ワラントの売却につ
き,乙C7)を行い,そのうちゼンチクワラントについては,売却しないまま権利
行使期限が経過した(以下,上記取引にかかる各ワラントを一括して「本件ワラン
ト(A)」ともいう。)。
イ 原告Bについて
原告Bは,被告担当者Eの勧誘を受け,被告との間で,平成元年5月2
6日以降,別紙2記載のとおりのワラント取引を行い(ただし,これらが無断売買
であるか否かについては別途検討する。),そのうち日清食品ワラント,東芝セラ
ミックワラント及び伊藤忠ワラントについては,いずれも売却しないまま権利行使
期限が経過した(以下,上記取引にかかる各ワラントを一括して「本件ワラント
(B)」ともいう。)。
(乙D4,D13)
 2 主要な争点
(1) ワラント取引自体の公序良俗違反の有無
(2) 本件具体的勧誘行為の違法性の有無
ア 適合性の原則違反の有無
イ 説明義務違反の有無
(3) 無断売買の有無(原告Bにつき)
(4) 損害額
(5) 過失相殺の可否
 3 当事者の主張
(1) ワラント取引自体の公序良俗違反の有無について
(原告らの主張)
ア ワラント取引の違法性
(ア) 証券会社の優越的地位
証券会社は免許制であり,必要な基準や条件を満たして免許を受けた
証券会社は,その存立の根本からして専門的基盤を有しており,証券取引について
の知識,経験,情報の収集,利用,判断というすべての面において,一般投資家に
比してはるかに優越した地位にある。証券会社がその優越的地位を利用して,一般
投資家の損失において自己の利益を図ることを行ってきた事実があり,本件のワラ
ント取引における一般投資家の被害も,まさにそのような証券会社の優越的地位の
濫用によるものである。
(イ) 顧客の証券会社に対する信頼の悪用
一般投資家は,公的な免許を取得して証券業を営む証券会社は公正か
つ誠実な業務遂行を行うものと信頼しており,本件のワラント取引は,このような
信頼を悪用してされたものである。
(ウ) ワラントの新規性,非周知性
ワラントは,株式や社債などの旧来の金融商品とは全く異なる新規性
を有するものであり,しかも市場そのものにとって未経験の商品で周知性の全くな
い商品である。まして,一般投資家にとっては,ワラントの危険性について新聞等
に掲載されるようになった平成2年ころまで,一般投資家が目にし得る雑誌,新聞
等にはワラントに関する記事はほとんどなく,まさに未知の商品であったから,仮
に購入者がそれまで通常の株式取引,信用取引を繰り返していたような場合であっ
ても,そのことによってワラントについての理解が可能であったと推認することは
できず,その新規性,非周知性から,一般投資家に対する勧誘対象として適格性を
欠く商品であった。
(エ) ワラントの超ハイリスク性,難解性
ワラントは,現在株価がワラントの権利行使価格を上回らない場合に
は,その価値はほとんどなく,紙屑同然のものとなり,そのまま権利行使期限を経
過すれば,紙屑となる。しかも,ワラントは,価格変動は基本的に株価に連動する
ものの,その数倍の値幅で変動する性質(ギアリング効果)を有し,ギアリング効
果による紙屑化の危険性も大きい。
また,ワラントの商品構造は,非常に難解かつ複雑であり,これを一
般投資家に理解させるのは容易ではない。
(オ) 証券会社にとっての構造的うま味
証券会社は,第一に,ワラント債発行に際して,幹事会社として発行
業務を主宰することによって,莫大な発行手数料を,第二に,その発行により引き
受けた外貨建てワラントを一般投資家に売りつけることによって,莫大な売買益
を,第三に,証券市場に還流してきた調達資金によって,証券投資に際しての売買
手数料をそれぞれ手にすることができる。
(カ) 公正な価格形成が制度的に保障されていないこと
外貨建てワラント取引は,顧客と証券会社との相対売買であって,そ
の価格形成過程は不透明であり,公正な価格が形成される制度的保障が全くないど
ころか,顧客を犠牲にして証券会社が利益を得るという利益相反の関係にある。
(キ) 価格の周知方法が講じられていないこと
外貨建てワラントの価格情報は,平成元年4月末までは新聞紙上一切
公表されておらず,平成2年9月24日までは日本経済新聞等に限定された銘柄の
気配値がポイントで表示される程度で,一般投資家の投資判断材料としては全く不
足していた。
(ク) 証券の内容が一般投資家には全く理解不能であること
外貨建てワラントは,その原券自体入手困難であるうえ,その証券券
面は,全文が専門的英語で記載されており,一般投資家が自ら読解することは不可
能であった。
(ケ) 実質的な国内募集・売出しであること
本件の外貨建てワラントは,形式的にはヨーロッパ市場で発行された
ものであるが,その全部又はほとんどが計画的に直ちにわが国で消化されており,
実質的には国内で募集・売出しされているにもかかわらず,大蔵大臣への届出や目
論見書の作成等の証券取引法上の規制に服するものとはされていないから,これを
潜脱するものである。
イ 公序良俗違反
このように,外貨建てワラントは,欠陥商品と言っても過言ではない証
券であるにもかかわらず,証券会社は,その構造的うま味に目を付け,証券取引法
を潜脱し,証券会社と一般投資家との証券取引の知識,情報量の圧倒的差異を最大
限利用して,一般投資家の利益を顧みずに外貨建てワラントを大量かつ強引に売り
さばいたのである。
このような勧誘・販売行為は,社会的に許容された相当性をはるかに逸
脱し,公序良俗に反する違法な行為といわざるを得ない。
(被告の主張)
ア ワラントは,株式投資に比較して投資資金が少なくて済むから,余資金
の有効活用も可能となる利点が生ずる。ワラントは,株価の上昇時には,通常,い
わゆる「ギアリング効果」により,株式投資以上の投資効率を享受することができ
る。ワラントのリスクは投資金額に限定されており,それが少額で足りることと相
まって,株価が下落した場合でも,株式投資と比較してその損失金額は小さい。ワ
ラントの権利行使期間は,4年ないし6年(最長のものは8年)と比較的長期間で
あるから,時間的余裕をもって投資に臨むことが可能であり,この点で,最大限で
も6か月のうちに決済しなければならない株式の信用取引よりも株価変動の推移を
見る期間が長く,有利である。
イ ワラントは,新しい投資商品で,その取引には上記のような特質がある
が,他の投資商品と全くかけ離れた異質なものというわけではなく,他の投資商品
と類似する点も認められるのであって,ワラントの商品性やリスク等を理解し,そ
の投資の是非につき判断することは十分に可能である。
(2) 本件具体的勧誘行為の違法性の有無について
ア 適合性の原則違反の有無について
(原告らの主張)
(ア) 証券会社は,顧客の資力,能力,意向に適合した投資勧誘を行うべ
きである(適合性の原則)。
ワラント取引の危険性やワラントという商品の欠陥性に照らし,ワラ
ント,とりわけ外貨建てワラントについては,自らワラント取引の仕組みとリス
ク,適正価格等について積極的に研究するだけの能力と意向を有し,ハイリスクに
耐え得るだけの資金的余力を有するような投資家,すなわち,機関投資家や大手会
社の財務部門,特殊な個人投資家など投資のプロのみが取引適格者といえるのであ
り,原告らのような一般投資家にワラント,特に外貨建てワラントの取引を勧誘す
ることは,適合性の原則に違反する違法な行為である。
(イ) 原告Aについて
a 「適合性原則」には,顧客の中にはそもそも証券取引に全くかかわ
らせてはならない者がいるとの意味での「絶対的適合性原則」と,それぞれの顧客
に対し,顧客の属性や資金の性質等にかんがみて最も妥当な証券取引を勧誘し,そ
れぞれの顧客が投資判断について自己決定できるよう十分な説明をすべきであると
の意味での「相対的適合性原則」の二つの側面があって,後者の「相対的適合性原
則」は,説明義務の前提ないし基本条件となる。
すなわち,「絶対的適合性原則」に違反しているとはいえないこと
から,証券会社の外務員の証券勧誘行為そのものがすでに違法であるとまで評価さ
れないとしても,上記の「相対的適合性原則」に照らして証券会社が不適切な勧誘
行為をしたとみられる場合には,説明義務についても一般の場合に比して更に加重
されるか,あるいは説明義務違反が推定されると解すべきである。
b 原告Aは,本件ワラント(A)取引当時50歳で,地方の印刷業者
であり,株式取引については経験が全くなかったというほどではないものの,かつ
て野村證券において知人に勧められて興味本位で始めただけで,取引回数も1年に
1回程度と少なく,その後にトラブル(取引注文を担当者が無断で執行しなかった
というもの,甲C1)が生じて被告に取引先を変えたものの,その後も本件ワラン
ト(A)取引を始めるまで約3年間で,現物株式取引を4回ほどと転換社債取引を
1回しただけであり,これらの取引銘柄にしても地場関連産業ばかりで,株式保有
が目的であり,短期間に他に売却して利益を得るなどという投機目的などなく,こ
れらの証券取引の頻度・経験等からみても,証券取引について特段知識も経験もほ
とんどない一般顧客の域を出ないし,投資傾向としても「分からないものは手を出
さない。ハイリスクは望まない。」という属性であった。
原告Aは,現物取引に関してであれば「適合性の原則」に背馳しな
いといえるが,ワラント取引については,原告の属性なかんずく資力・知識経験・
投資意向にかんがみると,到底適合性の原則に合致するとはいえない。ワラント取
引の危険性からみると,「相対的適合性原則に違背したもの」と推認され,したが
って,被告の説明義務違反もまた推認されるべきものである。
(ウ) 原告Bについて
原告Bは,昭和5年生まれで,高等小学校しか卒業しておらず,以
後,一貫して大工として稼働してきた。証券取引の経験は長いが,大工仕事の片手
間に証券取引を行っていたもので,自ら証券情報を積極的に収集することはなく,
ほとんどの取引は証券会社の担当者が勧めるものを売り買いする受動的な取引であ
った。
また,原告Bが被告に預けている金員や購入有価証券は,老後の資金
としての預金代わりという性格のものにすぎず,余資を証券取引に充てるという余
裕のある資力状態ではなかった。それゆえ,原告Bの取引は,一部上場の比較的安
全な株式への投資に終始しており,信用取引や先物取引など投機性の高い取引をし
たことは一切なかったものである。
特にワラントについては,被告以外の証券会社の担当者から「危険だ
から絶対に手を出さないように。」とのアドバイスを受けたことがあったため,被
告担当者から何回か勧誘された際も,これを明確に拒絶してきた。
このように,原告Bは,資力・能力・意向のいずれの面からみても,
ワラント取引のように仕組みが難解で,かつ,投資額全額を失うおそれのあるハイ
リスクな取引に耐えられるだけの適性を有していたとは到底いえない。
(被告の主張)
(ア) 投資の適合性は,第一次的には投資者自身が判断すべきであり,証
券会社の投資勧誘においてこれが問題となるのは,証券会社がそれまでに認識して
いた事実に基づき判断したとしても,明らかに適合性を欠く取引を積極的に勧誘し
たと認められる場合に限られるべきである。
投資者に適した投資が行われることは証券会社にとっても望ましいこ
とではあるが,これを証券会社の法的義務として認めるにはその根拠があまりにも
薄弱である。
(イ) 原告Aについて
原告Aは,昭和16年9月生まれで,かねてより有限会社C印刷の代
表者として自社の経営に当たっていたほか,地元の青年会議所会員や,昭和46年
以降町会議員として活動していた。また,原告Aは,被告との取引前である昭和5
5年ころから野村證券と取引を行っていて,証券取引の経験も有していた。なお,
同社との取引は,原告Aの主張によれば,自らの売却指示を同社が実行しなかった
ことから中止に至ったとのことで,上記事実からも判断されるとおり,原告Aは自
らの判断で取引を行っていた。
このような点からしても,原告Aが,その社会的地位,経験,資力等
からして,証券取引について十分の資格,経験を有する者であることは明らかであ
る。
(ウ) 原告Bについて
原告Bは,昭和30年ころから株式取引を始め,日本角丸証券,大阪
屋証券などで取引をしていたが,昭和59年12月から野村證券で(乙D12),
昭和61年3月から播陽証券でも取引を始めた(乙D11)。なお,播陽証券の保
護預り口座設定申込書(乙D9の2)には,原告Bの手持ち資産として2000万
円との金額が記入されている。
また,原告Bは,NTTの公募株に応募するため,昭和62年10
月,被告姫路支店で原告B名義の取引口座を開設した(乙D1の1)が,その後,
方針を変更し,同年11月10日,原告Bの妻であるF名義でNTTの公募株に応
募した(乙D7)。なお,F名義の総合取引申込書(乙D6)が同支店に提出され
たのは,同年12月初めころであった。
原告Bは,播陽証券との取引開始後4日目には,信用取引口座を開設
し(乙D9の3),その後は,播陽証券で現物取引及び信用取引で多数の株式を売
買していたが,昭和63年以降は,現物取引よりも信用取引の方が多くなった(乙
D9の5)。原告Bが売買した株式には,仕手性が強く,値動きが大きい銘柄が多
数含まれている(証人E)。
原告Bは,被告姫路支店では,主にF名義の口座で株式取引をし(乙
D7,D19),原告B名義の口座での取引はほとんどなかった(乙D4)。これ
は,当時,株式取引による利益が非課税となる範囲につき売買回数の制限があった
ためである(証人E)。すなわち,原告Bは,播陽証券において原告B名義で多数
の株式を売買していたため,その制限回数を超えないように配慮していたものと考
えられる。
原告Bは,投資情報の収集や売買の注文には熱心で,こまめにEと連
絡を取っていた。
原告Bは,ワラント取引を始めるに当たって,ミノルタカメラの株券
4000株を入庫し,その預り資産額が1000万円以上になっていた。
したがって,本件ワラント(B)の取引が適合性の原則に反すること
はない。
イ 説明義務違反の有無について
(原告らの主張)
(ア) 説明義務違反について
ワラントは,商品構造が複雑で危険性が高く,しかも周知性がない金
融商品であるから,証券会社は,顧客に対してワラント取引を勧誘する際,取引開
始時に説明書を交付し,直接口頭でワラントの商品構造,取引形態や危険性等を本
人に分かるように説明し,本人がそれを理解してリスク等を納得したことを確認す
る作業として確認書を徴求する義務がある。
(イ) 原告Aについて
a 原告Aは,平成3年7月ころ,被告のDから電話で,「住友化学と
タテホ化学の現物株にだいぶ損が出ている。損を取り戻すためにもっと有利な商品
がある。自分を信用してくれ。」として,住友化学の転換社債を勧められ,500
万円を出金した。
原告Aは,同年10月14日又は16日,Dから電話でワラント取
引を勧誘された。このとき,上記転換社債は利益が出ていたところ,原告Aは,D
から「もっといいものがある。任せてくれ。」と言われたので,「お任せしま
す。」と答えた(甲C3,原告A本人)。
その際,Dからは,ワラントの商品説明も,外貨建てのものがある
こととか,権利行使期限の制限がある等の説明も一切なく,ましてや期限が過ぎる
と無価値になってしまうという説明もなかった。ただ,原告Aは,「ワラント債」
という言葉は聞いていた(以上甲C3)。
原告Aは,同月22日,説明書の郵送を受け,初めて「ワラント取
引が危険である。」と気がついた。そこで,原告Aは,Dに対し,「これまで全く
説明がなく,あまりに危険なものなのでやめてくれ。」と言ったが,なお押し切ら
れた(甲C4)。
この間,書類の受渡しのために被告の運転手のGが原告A方を来訪
してきたが,それは前後1度のことであるし,Gからの説明はなかった。Gの来訪
は同月16日ではなく,17日かその後の日であるから,確認書の作成は同月16
日のことではない(甲C5)。
同月25日に取引されたウシオ電機ワラントやゼンチクワラントに
ついては,先に取引をして事後承認をする形であった。原告Aは,「やめてく
れ。」と言ったが,「買ってしまったので取消しできない。」というのでやむなく
これに応じた(甲C7)。このときにも特に説明などなかった。
その後,ウシオ電機ワラントやゼンチクワラントの価格はほぼ一様
に下落を続けたところ,原告Aは,同月26日,Dに問い合わせた際,「大丈
夫。」と言われた(甲C8)。
原告Aは,被告に何度か説明を求めたが,同年12月26日,「説
明に来い。」と強硬に言ったところ,Dは,被告のH支店長を同行して来訪した。
その際,原告Aは,初めてワラントの説明を受けた(甲C9)。
以上によれば,3回のワラント取引については,全く説明義務が尽
くされていないといえる。
b 株価が権利行使価格を下回る場合はパリティ(理論的価値)はゼロ
であり,このようなマイナスパリティのワラントには,株価の上昇率以上にワラン
ト価格が上昇するというギアリング効果は期待できない。その価格形成は,価格形
成要因としてのきわめて不明確な「プレミアム」(その場のムード,人気の程度,
需要と供給,時価価値という4つの要因)によってもたらされるのであるから,こ
の「プレミアム」について取引時の状況を具体的に説明することが必要である。
そして,上記のような加重的説明義務は,単にマイナスパリティの
みにいわれるべきものではなく,ワラント価格のうちプレミアムがほとんどを占め
る「ほとんどゼロパリティワラント」についても同様に課せられるべきものという
べきである。
本件においては,石原産業ワラントは9割以上がプレミアムという
ワラントであった(甲C16の3)。これに引き続くウシオ電機ワラント及びゼン
チクワラントは,いずれもマイナスパリティのワラントであった(甲C16の1,
2)。したがって,Dは,加重的説明義務が課せられるべきところ,原告Aにこの
点についての具体的説明をさほどしている痕跡がないから,すでにこれだけで本件
ワラント(A)の勧誘は説明義務に違反するものである。
(ウ) 原告Bについて
原告Bは,大工として現場を転々とする毎日を送っていたため,その
担当者であるEが原告Bと直接出会うことは稀であり,Eは,Fが勤務する姫路市
内のb保育園を訪れ,Fに証券取引に関連する書類を渡したり,また,原告Bの署
名押印が必要な書類を同保育園に持参し,Fに原告B名義で署名押印させることが
しばしばあった。また,印鑑のみが必要な場合,Fが直接押印することなく,Eが
Fから印鑑を預かり,その場で書類に上記印鑑を押すことも多かった。
F自身は,証券取引を行ったことはなく,証券に関する知識は皆無で
あったが,原告Bが被告において証券取引をしていることは知っており,Eを信頼
して言われるままに原告B名義で署名したり,印鑑をEに預けたりしていたもので
ある。
Fは,乙D第2,3号証の書面を見たこともなく,かかる書面に押印
した記憶もない。したがって,乙D第2,3号証は,Eが同保育園を訪れ,Fに印
鑑を求めた際に,Eにおいて押印したものと思われるが,FはEからワラントにつ
いての説明を受けたことは一切ない(すなわち,Fは,原告Bにおいてワラントと
いう新たな取引を開始することに同意したという認識を全く有していない。)。
そうである以上,Fがワラント取引を開始することに同意したことや
ワラントという商品の内容の説明を受けたことがないことは当然である。
原告Bが自分がワラント取引をしていることを知ったのは平成5年3
月ころであり,それまで,被告からワラントについて何らかの説明を受けたこと
は,Fを通じてでも,一度もなかったものである。
このように,被告は,原告Bに対し,ワラントという商品の危険性
(ハイリスク・ハイリターンの商品であること,権利行使期限があり,これを徒過
すると紙屑となること等)を全く説明していない(Fを原告Bの使者ないし代理人
と考えても,かかる結論に差異はない。)のであるから,被告は,説明義務違反を
理由に原告Bが本件ワラント(B)の取引によって被った損害を賠償する責任があ
る。
(被告の主張)
(ア) 通常の場合,証券会社には投資者の調査や判断を積極的に援助すべ
き義務はなく,したがって,商品内容を説明しなければならない法的義務はない。
ワラントについて商品内容の説明義務を認める場合があるとしても,
それは,ワラントがハイリスク・ハイリターンの証券であることにつき投資者の注
意を促す程度で足りると解するのが相当である(乙27ないし29)。なお,上記
注意を促すための具体的な方法や程度等は,個々の投資者の投資経験や投資目的,
証券取引に関する知識等に応じて,投資者ごと,かつ,取引ごとに個々具体的に判
断すべきであり,画一的に決めるのは相当でない。
そして,ワラントのハイリスクの意味を説明するに当たっては,①権
利行使期限を徒過すると価値を失うこと(期限付き商品であること),②現物株式
よりも値動きが大きいことを説明すれば十分であるというべきである。その説明に
よって,投資判断をする際に必要な情報が十分に得られたかどうか,あるいは,十
分に納得できたかどうかを投資者自身が判断して,説明不十分あるいは理解不十分
と思う点について質問すべきであり,証券会社としてはその質問に答えれば十分で
ある。
(イ) 原告Aについて
Dは,平成3年10月14日,原告Aが住友化学の転換社債を売却し
た際,原告Aに対し,ワラントについて,権利行使期限経過後は無価値となるこ
と,流通価格は原則として株価に連動するが,ワラント自体は株式代金より安価に
購入できるので,同じ金額の投資の場合は,株式よりはるかに利益の幅が大きくな
るが,逆の場合の損失も大きくなること,一般にハイリスク・ハイリターンの商品
と言われていることなどを説明した(乙C5,証人D)。そして,Dは,同月16
日,原告Aに対し,ワラントについて再度説明し,石原産業ワラントの購入を勧誘
したところ,原告Aは同ワラントの買付注文を行った(乙C5,証人D)。
上記説明の際,Dは,原告Aに対し,ワラントについての説明書を届
けさせるので,必要があれば読んでほしいこと,ワラントの取引には外国証券取引
のため取引約諾書に記名押印が必要であること,ワラント取引についてワラントの
説明を知り,自分の責任で取引をしていることを記載した確認書に署名押印のうえ
返還されたいことを伝えた(乙C5,証人D)。原告Aは,上記説明書,上記約諾
書,上記確認書を届けた被告支店のGに対し,これらの書面に記名押印して交付し
た(乙C5,証人D)。
Dは,原告Aに対し,株価やワラント価格の動向,見通し等を述べた
が,必ずもうかるとか,一切を自分に任せてくれとか,絶対大丈夫などと述べたこ
とはなく,また,購入後の証券について取引を止めることを拒んで無理に取引を継
続したような事実はない。また,Dは,各取引後も適宜原告Aに電話して,各証券
の値動きについての報告等も行った。
(ウ) 原告Bについて
原告Bは,平成元年4月下旬ころ,Eに対し,「新発CB(転換社
債)より,もっともうかるものはないか。」と尋ねたので,Eは,当時投資家の間
で人気が高かったワラントの話をしたところ,原告Bがこれに興味を示したので,
その後約1か月にわたり,原告Bに対し,電話ないし面談でワラントの商品内容を
数回説明した。
その際,Eは,権利行使期限までにその権利を行使するか,転売しな
いと,価値がゼロになってしまうこと,値動きは株式の3倍から4倍もあるので,
株式が値上がりした場合には大きな利益を得られるが,逆に値下がりした場合には
大きな損失を被る可能性があり,リスクも高いことなどを説明した。Eは,原告B
の自宅で面談して説明した際には,分離型ワラントのパンフレット(乙5)を示し
ながら,ワラントの仕組み,ユーロドル建てワラントの取引方法,ワラント投資の
特徴やその魅力とリスクについて改めて説明した(乙D18,証人E)。
このように,Eが何回も説明しているうちに,原告Bが「新発でいい
のがあれば教えてほしい。」と述べて,ワラント取引に興味を示したので,Eは,
電話ないし面談で,南海電鉄ワラントの商品内容(乙D17)を説明し,その購入
を提案した(乙D18,証人E)。
その際,Eは,ワラント取引を始めるには,その取引口座の預り資産
が1000万円以上なければならないことを説明したところ,原告Bは,ミノルタ
カメラ株式4000株をF名義の口座から出庫して原告B名義の口座へ入庫した
(乙D5,D8,証人E)。
このようにして,原告Bは,同年5月23日,原告名義の口座で南海
電鉄ワラントを購入した。
Eは,受渡日である同月26日までにワラント取引の確認書を原告B
から必ず徴収するよう管理課から指示されていたため,同月25日ころ,夜間に原
告Bの自宅を訪問して,玄関先で原告Bと面談し,分離型ワラントのパンフレット
(乙5)を示してワラントの商品内容を改めて説明するとともに,同パンフレット
の末尾に綴じられている「ワラント取引に関する確認書」の用紙を切り取り,原告
Bに署名押印を求めたが,原告Bは届出印で押印したものの,「後はお前が書いと
け。」と言って署名しなかったので,Eは,やむなく,同パンフレットの残りの部
分を玄関先に残し,原告Bが押印した「ワラント取引に関する確認書」を持ち帰
り,原告Bの指示に従って住所・氏名欄を自分で書いたうえ,その確認書(乙D
3)を管理課に提出した(乙D18,証人E)。
(3) 無断売買の有無について
(原告Bの主張)
ア 上記(2)イ(ウ)のとおり,Eは,Fにも原告Bにも全く何らの説明もせず
に本件ワラント(B)の取引を行っており,これが無断売買であることは明白であ
る。
イ 主位的請求
原告Bは,被告に対し,不法行為に基づき,後記(4)イの損害の賠償を求
める。
被告は,無断売買を理由に不法行為責任を追及するのは,最高裁平成4
年2月28日判決(判例時報1417号64頁)に違背する旨主張する。
しかし,本件において,Eがワラントの勧誘をしたことには間違いな
く,また,その手法はともかく,Fを通じてワラント取引に関する確認書も徴求さ
れていること,更に,原告Bは,ワラントの購入を依頼したことはないものの,ワ
ラントとして購入されている銘柄の現株の取引は依頼した可能性があることを考慮
すれば,純然たる無断売買がされているとはいい難い。原告Bは,説明義務違反の
主張を補強する事情として無断売買に言及しているにすぎないものである(無断売
買ということになれば,当然に説明はなかったことになる。)。
したがって,無断売買に言及していることが不法行為責任を追及するこ
とと矛盾するものではない。
ウ 予備的請求
原告Bは,平成元年5月26日ころから平成2年1月11日ころまでの
間に,合計2612万0218円を被告に預託していたところ,被告は,上記預託
金のうち,合計1937万2809円については原告Bに返還したが,その差額で
ある674万7409円については返還しない。
よって,原告Bは,被告に対し,預託金返還請求権に基づき,上記預託
金の残額合計674万7409円の支払を求める。
(被告の主張)
原告Bは,本件ワラント(B)の取引はいずれも無断売買であったと主張
するが,それが事実であるとすれば,当該取引による効果は原告Bに帰属せず,原
告Bは,本件ワラント(B)の取引による利益も損害も取得できないことになる
(前掲最高裁平成4年2月28日判決)。
しかるに,原告Bは,本件ワラント(B)の取引によって生じた差引損益
をもって損害賠償金として請求しており,これは,本件ワラント(B)の取引の効
果が原告Bに帰属することを前提とするものである。
このように,本件訴訟における原告Bの主張は首尾一貫していない。
(4) 損害について
(原告らの主張)
ア 原告Aについて
(ア) ウシオ電機ワラント及びゼンチクワラントの購入代金額合計561
万1693円から石原産業ワラントについての利益107万9587円と平成4年
10月29日に本件ワラント(A)に関して被告から原告Aに返金された67万6
794円を差し引いた385万5312円が原告Aの損害である。
(イ) 弁護士費用は,請求額の1割に相当する45万3210円である。
イ 原告Bについて
原告Bは,日清食品ワラント,東芝セラミックワラント及び伊藤忠ワラ
ントの各購入代金並びに長谷工ワラントの損失の合計814万4261円と南海電
鉄ワラント,日産ディーゼルワラント,住友不動産ワラント,大和証券ワラント,
鹿島建設ワラント,三菱商事ワラント及びニチメンワラントの利益の合計139万
6852円の差額である674万7409円の損失を被った。
(被告の主張)
 原告Aについて
ウシオ電機ワラントついては,本訴提起後である平成5年7月20日,被
告において,原告Aの損害をできるだけ少なくするため,原告Aに連絡のうえ,代
金99万7857円で売却され,原告Aにおいて,同金員を受領した(乙C7,証
人D)。
したがって,原告Aの差引損失額は,上記損益を考慮した353万424
9円である(乙C7,証人D)。
(5) 過失相殺の可否について
(原告らの主張)
ア 原告Aについて
(ア) 被告の勧誘の違法性は強いのに対し,原告Aの過失は少ない。加害
者の悪性ないし違法性がきわめて大きい場合は,被害者に若干の過失ないし落ち度
があったとしても,過失相殺は排除されるべきものである。
(イ) 交通事故などの事実的不法行為の場合には常に被害者側の過失が入
り込む余地があるのに対し,取引的不法行為の場合は,被害者の弱みにつけ込んだ
業者側の行為によって生じるという特質を有しており,交通事故とは異なり,そも
そも加害者の行為の中に被害者側の落ち度があらかじめ取り込まれているという被
害構造が存在するのである。にもかかわらず,業者側の違法行為と切り離して,こ
の被害者の「落ち度」なるものを被害者に不利益に評価することは,かえって当事
者間の公平に反する。
投資家の地位が会社経営者であるとか,地方議会の議員であるとして
も,到底証券会社の違法行為を跳ね返すことを期待できるほどに証券取引に精通し
ていたことにはならないし,また,資力があるから損をしても我慢すべきだなどと
いうのはとんでもない論法である。
(ウ) 過失相殺を認めると,その範囲内で加害者が被害者を欺罔すること
によって得た利益を反射的にそのまま加害者に存続させてしまうという状況を残す
との意味においても不当である。
イ 原告Bについて
本件は,一応の説明がされ,正確な資料が提供され,それを読めば当該
商品のリスク性が理解できるような状況にあった場合と異なり,担当者であるEが
自ら積極的に証券取引法の禁止する虚偽表示,無断売買を行い,まさに詐欺的な手
法によって原告Bはワラント取引に巻き込まれたのであり,また,原告Bは説明書
やパンフレットの交付も受けていないのであって,自己責任の原則は,その前提を
欠き,妥当しないというべきであるから,本件において過失相殺は認めるべきでな
い。
原告Bは,送付されてきた取引報告書によってワラント取引がされてい
ることを知り,直ちに被告姫路支店に抗議に行ったが,すでに手遅れとなっていた
のであって,この点からしても,過失相殺をする事情は存しないといわなければな
らない。
第3 当裁判所の判断
 1 ワラント取引自体の公序良俗違反の有無について
ワラントは,前記第2の1(2)(3)記載の意義・特徴を有し,大きな危険を伴
うものではあるが,商法が分離型新株引受権付社債の発行を認め,証券取引法上も
ワラントの取引が予定されていること,少ない投資額で大きな利益を得る可能性が
あり,生じ得る損失も最大限で投資額にとどまるという点で金融商品としての合理
性を有すること,前記のようなワラントの特徴も説明を受けることなどにより一般
投資家にとって理解可能であると考えられることからすると,一般的に,証券会社
が一般投資家を対象として行うワラント取引それ自体が公序良俗に反するものとは
いえない。
そして,本件全証拠によっても,他に被告のワラント取引それ自体につい
て,これを公序良俗に反する行為と解すべき事由を見出すことはできない。
2 本件ワラントの取引経過等について
(1) 原告Aについて
ア 前記争いのない事実等,後掲各証拠(なお,甲C第1号証,甲C第3な
いし第5号証,甲C第7,8号証,甲C第9号証の左上の書体の異なる部分,甲C
第11号証の1,2,甲C第12号証,甲C第13号証の書き込み部分及び甲C第
14号証は,原告A本人の供述により,いずれも真正に成立したものと認められ
る。甲C第16号証の1ないし3,乙第5号証及び乙C第4号証は,弁論の全趣旨
により,いずれも真正に成立したものと認められる。乙C第3号証は,原告A名下
の印影が同人の印章によるものであることは当事者間に争いがないので,上記の印
影は同人の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから,真正に成立したもの
と推定すべきである。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告Aの取引経験,態様等
原告Aは,昭和55年ころから年1回程度,野村證券において,主に
農協の専務を通じて株式の取引(1回当たり300万円ないし500万円程度)を
していた(甲C1,証人D,原告A本人)。しかし,昭和63年ころ,野村證券が
原告Aの指示どおりに住友金属工業の株式を売却しなかったことでトラブルとな
り,原告Aは,野村證券との取引をやめた(甲C1,証人D,原告A本人)。
      原告Aは,同年6月9日から,被告明石支店において,株式(5銘
柄)の取引をしていた(甲C1,乙C4,C5,証人D,原告A本人)。原告A
は,自分に何らかの関係がある会社の株式を購入していた(原告A本人)。
      被告の担当者はIであったが,平成3年7月ころ,Dに交代した(甲
C1,乙C5,証人D,原告A本人)。Dは,原告Aに対し,同じ姓ということ
で,自分を信用してほしい,住友化学工業とタテホの株式で損が出ているので,住
友化学工業の転換社債を買ってはどうか,損を取り戻すなどと電話で勧誘したとこ
ろ,原告Aは,同月10日,同転換社債を購入した(甲C1,C15,乙C4,C
5,証人D,原告A本人)。原告Aは,同年10月14日,同転換社債を売却し,
21万8170円の利益を得た(乙C4,C5)。
(イ) 本件ワラント(A)取引の勧誘等
Dは,平成3年10月14日,同転換社債を売却して利益が出た旨を
電話で連絡した際,原告Aに対し,ワラントの購入を勧誘し,更に,同月16日,
電話で数分間勧誘したところ,原告Aは,同日,石原産業ワラントを購入した(甲
C1,乙C5,証人D,原告A本人)。
      Dは,同日の電話の際,ワラントのことを「ワラント債」と説明する
とともに,同ワラントを21ポイントで買ってもいいかなどと言ったところ,原告
Aは,ワラントのことはよく分からなかったが,転換社債で利益を得たことからD
を信頼し,「お任せします。」と言った(甲C1,C3,C4,証人D,原告A本
人)。その際,Dは,ワラントの値動きが大きいことや権利行使期限が経過すれば
ワラントが無価値になることの説明はしなかった(甲C1,原告A本人)。
      その後同月21日までの間に,被告明石支店の運転手兼受渡要員のG
は,原告Aの事務所を訪問し,原告Aに対し,分離型ワラントのパンフレット(乙
5)と同じものを交付した(甲C1,C3,C5,C6,乙5,C5,証人D,原
告A本人)。その際,原告Aは,「私は,貴社から受領した「外国新株引受権証券
取引説明書」の内容を確認し,私の判断と責任において下記の取引(外国新株引受
権証券の取引)を行います。」と記載された国内新株引受権証券及び外国新株引受
権証券の取引に関する確認書(乙C3)に記名押印した(甲C1,乙C3,C5,
証人D,原告A本人)。
      原告Aは,同説明書を読むなどしてワラントが危険であると認識し,
同月22日の朝,Dに対し,ワラントはあまりにも危険なので,こういうものは止
めてくれ,ワラントについては説明もないなどと電話で抗議した(甲C4,原告A
本人)。
      Dは,同月25日,石原産業ワラントを原告A名義で売却し,原告A
は,107万9587円の利益を得た。また,Dは,同日にウシオ電機ワラント
を,同月28日にゼンチクワラントをそれぞれ原告A名義で購入した。ウシオ電機
ワラント及びゼンチクワラントは,原告Aの購入当時,いずれも株式の時価が権利
行使価格を下回っていた(甲C12,C15,C16の1,2)。
      Dは,同月30日ころの午前9時10分ころ,原告Aに電話をかけ,
石原産業ワラントを売却して利益が出たこと,ウシオ電機ワラント及びゼンチクワ
ラントを購入したことなどを報告したところ,原告Aは,事後承認の形はだめだと
言った(甲C1,C7,証人D,原告A本人)。原告Aは,同日ころ,石原産業ワ
ラントの預り証(乙C6の1)を被告明石支店側に交付した(乙C4,C6の1,
原告A本人)。なお,本件ワラント(A)の各預り証には,いずれも権利行使最終
日が記載され,「(以降無効)」という文言が記載されていた(乙C6の1,2,
弁論の全趣旨)。
      原告Aは,同年11月26日午後6時10分ころ,Dに電話をかけ,
ワラントをまだ放っておいていいのか,金額はどうなっているかと聞いたところ,
Dは,金額を答えず,長期の発行をしたものである,戻る公算が強いので大丈夫,
四,五年先あり大丈夫,低いときなのでちょっと待っていてくださいなどと答えた
(甲C1,C8,証人D,原告A本人)。
      原告AがDに対して説明しにくるように何度も求めたところ,Dは,
同年12月16日午後4時30分ころ,被告明石支店長Hを伴って原告Aの自宅を
訪問した(甲C9,C10の1,2,証人D,原告A本人)。その際,Hは,原告
Aに対し,説明不足があったことを認め,価格が下がったことについて謝罪した
(甲C9,証人D,原告A本人)。そして,Dは,その後同日午後6時35分ころ
までの間,原告Aに対し,ワラントの仕組み等について,転換社債と比較しつつ,
図を書きながら説明したが,権利行使期限が経過すればワラントが無価値になるこ
との説明はしなかった(甲C9,証人D,原告A本人)。
      平成4年7月29日午後4時ころ,Dが原告Aに電話をかけた際,原
告AがDに対し,ワラントを勝手に買ったなどと言うと,Dは,「買ってもいいか
どうか了解を取っている。」と答え,また,ワラントの裁判に関する新聞記事につ
いて,婦人とか老人には理解しにくいので勧めてはいけないというのが会社の方針
である旨答えたのに対し,原告Aが「じゃ僕は若いが理解していないのに買い付け
たということについてはどうか。」と問い詰めると,Dは,「今は一番悪い時です
ので,しばらく待っていてください。」の一点張りで,現在の価格については,
「約1割(約50万円)になっている。」と答えるにとどまった(甲C11の1,
2,原告A本人)。
      原告Aは,同年10月29日,被告から,本件ワラント(A)に関
し,67万6794円の返金を受けた(弁論の全趣旨)。
    Dは,本訴提起後である平成5年7月20日,ウシオ電機ワラントの
価格が値上がりしてきたため,原告Aの妻に電話で連絡したうえで,同ワラントを
原告A名義で売却した(甲C1,C13,証人D,原告A本人)。原告Aは,同日
はゴルフで不在であったため,同月21日午後4時15分ころ,Dに電話をかけ,
「今回も勝手にした。」などと言って責めると,Dは,同日午後7時ころ,原告A
の自宅を訪問し,原告Aの妻に対し,同ワラントの売却を取り消すかどうかを原告
Aに確認するように求めたところ,同月22日,原告Aの妻からそれで結構だとの
電話があったので,原告Aの妻から同ワラントの預り証(乙C6の2)を回収し,
被告明石支店は,同月29日,原告Aに対し,99万7857円を振り込んだ(甲
C13,C14,乙C6の2,C7,証人D,原告A本人)。
      ゼンチクワラントは,結局売却されることなく,権利行使期限が経過
して無価値となった。
   イ 証人Dの証言等
 証人Dは,原告Aに対し,権利行使期限があって,期限内に権利行使を
しなければ零になること,少ないお金で4倍から5倍の値動きをし,ハイリスク・
ハイリターンであることなどを説明した旨証言し,これと同旨のD作成の陳述書
(乙C5)がある。
しかしながら,原告Aはこれを否定する供述をするところ,前記のとお
り,原告AがDに対してワラントについては説明もないなどと電話で抗議していた
こと,原告AがDに対して説明しにくるように何度も求めたところ,被告明石支店
長Hが説明不足があったことを認め,Dが原告Aに対し,ワラントの仕組み等につ
いて,転換社債と比較しつつ,図を書きながら説明したことが認められ,これを覆
すに足りる的確な証拠はない。これらの事実によれば,証人Dの供述する説明を受
けていない旨の原告Aの上記供述は信用することができる。
そうであるとすれば,Dは,原告Aに対し,ワラントの危険性について
は説明しなかったものと認められる。
したがって,これに反する証人Dの上記証言及び上記陳述書は,いずれ
も採用することができない。
  (2) 原告Bについて
   ア 前記争いのない事実等,後掲各証拠(なお,乙D第3号証の原告B名義
の作成部分は,乙D第18号証及び証人Eの証言によれば,Eが原告Bの意思に基
づいて署名を代行したものと認められるから,真正に成立したものと推定すべきで
ある。乙第5号証及び乙D第4号証は,弁論の全趣旨により,いずれも真正に成立
したものと認められる。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
    (ア) 原告Bの取引経験,態様等
      原告Bは,昭和30年ころ,株式取引を開始し,勧業角丸証券,大阪
屋證券株式会社,神栄石野証券株式会社などにおいて,株式等の取引をしていた
(甲D1,D2,原告B本人,弁論の全趣旨)。また,原告Bは,昭和59年12
月ころから野村證券株式会社姫路支店において,昭和61年3月ころから播陽証券
株式会社において,本件ワラント(B)の取引に至るまで,株式等の取引をしてい
た(甲D1,D2,乙D9の2ないし5,D10の2ないし5,D11,D12,
原告B本人)。
      原告Bは,昭和61年3月26日から本件ワラント(B)の取引に至
るまで,播陽証券において,株式の信用取引を多数回していた(甲D1,乙D9の
3ないし5,D11,D18,証人E,原告B本人)。
      原告Bは,昭和62年10月15日,日本電信電話(NTT)株式の
第二次公募に応募するため,被告姫路支店に原告B名義の取引口座を開設したが,
実際には,同年11月10日,F名義でこれに応募した(甲D1,D4,乙D1の
1,D7,D18,証人E,原告B本人)。原告Bは,同年12月2日,F名義の
取引口座を開設した(乙D6)。
      原告Bは,その後本件ワラント(B)の取引に至るまで,被告姫路支
店において,原告B名義及びF名義で株式,転換社債,投資信託等の取引をしてい
た(甲D3,D4,乙D4,D7,D13,D18,D19,証人E,証人F)。
      原告Bは,産経新聞の株価欄や会社四季報,株に関する書籍などを読
んだり,毎朝短波放送を聞いたりして情報を収集し,Eにほぼ毎日のように電話を
かけて,問い合わせをしたり,取引の注文をしたりしていた(甲D1,乙D18,
証人E,証人F,原告B本人)。
      原告Bは,自ら銘柄を選択することが多く,また,Eが提案した商品
の取引を断ることもあった(甲D1,乙D18,証人E,原告B本人)。原告B
は,仕手性が強く,短期的に値動きの大きい銘柄に興味を示していた(証人E)。
原告Bは,必要書類の提出が遅れることがあったことや,日中は現場
にいるため現金の受渡しができなかったことから,Fが代わりに書類に署名押印し
てEに渡したり,現金の入出金手続をしたりすることがあった(甲D2,乙D1
8,証人E,証人F)。
    (イ) 本件ワラント(B)取引の勧誘等
原告Bは,平成元年5月23日,南海電鉄ワラントを購入した。
      Eは,原告Bにワラントに関する本を持参して,「これを読んで研究
してください。」と言うなどして,ワラント取引を勧誘した(甲D1,乙D18,
証人E,原告B本人)。その際,Eは,ワラントの値動きが大きいことや権利行使
期限が経過すればワラントが無価値になることの説明はしなかった(甲D1,原告
B本人)。原告Bは,ワラントを購入したとの認識はなかった(甲D1,原告B本
人)。
      Eは,同月25日,原告Bの自宅を訪問し,原告Bに対し,分離型ワ
ラントのパンフレット(乙5)と同じものを交付した(乙5,D3,D18,証人
E)。その際,原告Bは,「私は,貴社作成のワラント取引についての説明書の内
容を理解し,私自身の判断と責任においてワラント取引を行うことを確認しま
す。」と記載されたワラント取引に関する確認書(乙D3,上記パンフレットから
切り取られたもの)に押印したが,「後はお前が書いとけ。」と言って署名を拒ん
だので,Eが代わりに原告Bの署名を代署した(乙D3,D18,証人E)。原告
Bは,上記パンフレットを読まなかった(原告B本人)。
ワラント取引を開始するためには,取引口座に預り資産が1000万
円以上あることが必要であったことから,原告Bは,同日,ミノルタカメラ株式4
000株をF名義の取引口座から出庫して,原告B名義の取引口座に入庫した(乙
D5,D8,D18,D21,証人E)。また,原告Bは,同月26日,同ワラン
トの購入代金135万8025円を原告B名義の取引口座に入金した(乙D4,D
13,D18)。
      原告Bは,その後,別紙2記載のとおり,各ワラントの売買をした。
これらのワラント(なお,南海電鉄ワラントを含まない。)は,原告Bの購入当
時,いずれも株式の時価が権利行使価格を下回っていた(弁論の全趣旨)。
      原告Bは,同年9月20日に南海電鉄ワラントを売却して日清食品ワ
ラントを購入した後である同月21日,日清食品ワラントの購入代金の不足分及び
日産ディーゼルワラントの購入代金として,320万9657円を原告B名義の取
引口座に入金した(乙D4,D13,弁論の全趣旨)。また,原告Bは,同年11
月17日に東芝セラミックワラントを購入した後である同月29日,その購入代金
に充てるため,三井建設と松下電工の転換社債各100万円分を売却し,更に,同
年12月4日,その購入代金の不足分として,23万9975円を原告B名義の取
引口座に入金した(乙D4,D13,弁論の全趣旨)。
      原告Bは,同年9月25日,南海電鉄ワラントの預り証(乙D14の
1)を被告側に交付し,日清食品ワラントの預り証を被告側から受領した(乙D
4,D5,D13,D14の1,弁論の全趣旨)。また,原告Bは,同年12月2
6日,長谷工コーポレーションの預り証(乙D14の2)を被告側から受領し,平
成2年2月7日,これを被告側に交付した(乙D4,D5,D13,D14の2,
弁論の全趣旨)。なお,本件ワラント(B)の各預り証には,いずれも権利行使最
終日が記載されていた(乙D14の1,2,弁論の全趣旨)。
      被告は,平成元年10月中旬ころ,原告Bに対し,外国新株引受権証
券(外貨建ワラント)取引説明書(乙6)と同じものを送付した(乙6,25)。
また,被告は,平成2年9月28日,平成3年9月30日,平成4年9月30日,
平成5年9月30日及び平成6年9月30日,原告Bに対し,それぞれ国内新株引
受権証券(国内ワラント)取引説明書(乙7)と同じものを送付した(乙7,D2
2)。原告Bは,これらをいずれも読まなかった(原告B本人)。
      原告Bは,Eが被告上野支店に転勤した平成4年1月の約1年後であ
る平成5年ころ,被告から郵送されてきた書面を見て,初めてワラントを購入した
ことを知り,日清食品ワラントの価値がほとんどなくなっていることを知った(甲
D1,乙D18,証人E,原告B本人)。そこで,原告Bは,被告姫路支店に抗議
をしに行き,J課長から株式取引メモ(甲D3,D4)及び公社債・証書売買注文
伝票(甲D5の1ないし19)を受領した(甲D1,D3,D4,D5の1ないし
19,証人E,原告B本人)。その後,被告姫路支店長やEが原告Bの自宅を訪問
した際,原告Bは,ワラントなど買った覚えはないのに,なぜこんなことになって
いるのかなどと言って抗議した(甲D1,D2,証人E,原告B本人)。
      日清食品ワラント,東芝セラミックワラント及び伊藤忠ワラントは,
いずれも結局売却されることなく,権利行使期限が経過して無価値となった。
   イ 当事者の供述等
(ア) 原告Bの供述等
原告Bは,分離型ワラントのパンフレット(乙5)を見たことがない
旨供述する。
しかしながら,前記のとおり,ワラント取引に関する確認書(乙D
3)は,分離型ワラントのパンフレット(乙5)と同じものから切り取られたもの
であること,上記確認書には原告Bの押印があることからすると,上記確認書を切
り取った後の上記パンフレットを原告Bの自宅に置いてきた旨の証人Eの証言は信
用することができる。
これによれば,原告Bは,上記パンフレットを受領したものと認めら
れ,これを覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,これに反する原告Bの上記供述は,採用することができ
ない。
(イ) 証人Eの証言等
証人Eは,原告Bに対し,権利行使期限があって,その期限内に権利
行使するか,転売しなければワラントが無価値になること,株式に対して三,四倍
程度の大きな値動きをし,リスクが高いことなどを説明した旨証言し,これと同旨
のEの陳述書(乙D18)がある。
しかしながら,原告Bは,ワラントの取引をしたことを全然知らなか
った旨供述するところ,前記認定のとおり,原告Bが,平成5年ころ,Eらに対
し,ワラントなど買った覚えはないのに,なぜこんなことになっているのかなどと
言って抗議したことからすると,原告Bの上記供述は信用することができる。
これによれば,原告Bは,本件ワラント(B)を購入した際,ワラン
トを購入したとの認識はなかったものと認められ,これを覆すに足りる的確な証拠
はない。そうであるとすれば,原告Bは,本件ワラント(B)の取引当時,ワラン
トの価格は値動きが大きいことや権利行使期限が経過するとワラントが無価値にな
ることなど,ワラントの意義・特徴や危険性を理解していなかったことが推認さ
れ,Eからワラントについて説明を受けたことがない旨の原告Bの供述は信用する
ことができる。
これによれば,Eは,原告Bに対し,ワラントの危険性については説
明しなかったものと認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はな
い。
したがって,これに反する証人Eの上記証言及び上記陳述書は,いず
れも採用することができない。
3 本件具体的勧誘行為の違法性の有無について
(1) 自己責任原則と証券会社の義務
証券取引は,本来危険を伴うものであって,証券会社が投資者に提供する
情報も将来の経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含み,予測や見通しの域を出
ないのが実情であるから,投資者は,上記のような情報を参考にしつつも自ら投資
判断に必要な情報を収集し,自らの判断と責任において証券取引を行うのが原則で
あり,このことはワラント取引においても妥当する。
しかしながら,証券会社は,公的な免許を受けて証券業を営む者であっ
て,証券取引及び当該商品に関する高度の専門的知識,豊富な経験,証券発行会社
の業績や財務状況等の情報,それらに基づく優れた分析・判断力を有するのみなら
ず,政治,経済情勢等,あらゆる面において情報的優位にあり,それゆえに多数の
一般投資家は,証券会社の推奨,助言等にはそれなりの合理性があるものと信頼し
て証券市場に参加し,その信頼を保護することにより市場秩序が維持されていると
いう現在の状況下では,前記第2の1(2)(3)記載のワラントの特質にかんがみ,証
券会社は,具体的にワラント取引を勧誘するに際し,信義則上,顧客がその危険性
について的確な認識形成を行い,自己の判断と責任で取引し得る状態を確保するた
めの配慮義務を負うことがあり,これに違反する勧誘行為は違法と評価されること
があるというべきである。
(2) 適合性の原則違反の有無について
ア 証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護
の要請のもと,証券取引法や公正慣習規則等が,証券会社に対し,顧客に対する投
資勧誘に際しては,顧客の投資経験,意向及び資力等に最も適合した取引がされる
よう配慮することを要請していることからすると,証券会社又はその従業員が行っ
た顧客への投資勧誘が,当該投資者の投資意向ないし目的に反し,その投資経験,
資産等に照らして過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものである場合には,
当該勧誘行為は違法なものというべきである。
イ 原告Aについて
原告Aは,前記のとおり,本件当時,印刷業を経営するとともに,町会
議員の地位にあり,年収が約1000万円,貯金が約3000万円であったとこ
ろ,昭和55年ころから約8年間,野村證券において株式取引をしていたうえ,そ
の後本件ワラント(A)の取引に至るまで約3年間,被告明石支店において株式及
び転換社債の取引をしていたことからすると,Dの勧誘行為が,原告Aの投資意向
ないし目的に反し,その投資経験,資産等に照らして過大な危険を伴う取引の勧誘
とまで評価することはできず,適合性の原則に反して違法であるということはでき
ない。
ウ 原告Bについて
原告Bは,前記のとおり,本件当時,大工をしていたところ,昭和30
年ころから本件ワラント(B)の取引に至るまで30年以上もの間,株式等の取引
をしていたうえ,昭和61年3月26日から本件ワラント(B)の取引に至るまで
約3年間,株式の信用取引を多数回していたこと,産経新聞の株価欄や会社四季
報,株に関する書籍などを読んだり,毎朝短波放送を聞いたりして情報を収集し,
仕手性が強く,短期的に値動きの大きい銘柄等を自ら選択するなど,証券取引に対
する積極的な姿勢が窺われること,昭和61年3月当時,原告Bの手持資産は約2
000万円であり,本件ワラント(B)の取引を開始するに当たり,ミノルタカメ
ラ株式4000株を入庫して,預り資産を1000万円以上にしたことからする
と,本件ワラント(B)の取引開始当時,相応の資力を有していたと推認すること
ができること,以上の事情を総合勘案すると,Eの勧誘行為が,原告Bの投資意向
ないし目的に反し,その投資経験,資産等に照らして過大な危険を伴う取引の勧誘
とまで評価することはできず,適合性の原則に反して違法であるということはでき
ない。
(3) 説明義務違反の有無について
ア 前記のとおり,ワラントは,比較的新しい金融商品で,その仕組みも複
雑であるうえ,ハイリスク・ハイリターンという特徴や権利行使期限経過後は無価
値になるという危険性を有すること,証券会社の情報的優位の状況における顧客の
証券会社に対する信頼保護の要請のもと,公正慣習規則等の日本証券業協会の自主
規制においても,証券会社がワラント取引をする際には,顧客に対してあらかじめ
説明書を交付し,取引内容や危険性について十分説明し,自己の判断と責任におい
て当該取引を行う旨を理解させ,確認を得るように要請されていることからする
と,顧客が的確な認識形成をしたうえで投資決定をするための前提として,証券会
社あるいはその従業員は,ワラント取引に際し,顧客の年齢,職業,投資経験,能
力,資産状況等に応じて,ワラントの価格は株価と連動して株価の数倍の値動きを
すること,権利行使期限経過後は無価値になることの2点を中心に,ワラントの特
徴,仕組み及び危険性についての説明をすべき信義則上の義務を負うものと解さ
れ,これに違反する勧誘行為は違法なものというべきである。
イ 原告Aについて
前記認定のとおり,Dは,原告Aに対し,本件ワラント(A)の取引に
際し,ワラントのことを「ワラント債」と説明して,ワラントを債券と誤解させか
ねなかったうえ,ワラントの価格の値動きが大きいことや権利行使期限が経過すれ
ばワラントが無価値になることなどの危険性を十分に説明しなかったものであり,
この不正確かつ不十分な説明のために,原告Aは,ワラントの危険性を十分に理解
することができないままに本件ワラント(A)の取引を開始するに至ったものと解
される。
また,ウシオ電機ワラント及びゼンチクワラントは,いずれも株式の時
価が権利行使価格を下回るといういわゆるマイナスパリティの状態にあったとこ
ろ,このような場合には,ワラントの価格がほぼプレミアムのみで形成されている
ため,必ずしもギアリング効果が働かないうえ,その後株価が上昇して権利行使価
格を上回る見込みが相当程度高くない限り,ワラントの価格が下落してその売却が
困難になる危険性が高いことが,その仕組みからして経験則上明らかであるのに,
Dが原告Aに対し,その点の危険性を指摘して説明したことを窺わせる証拠はな
い。
したがって,Dは,原告Aに本件ワラント(A)の取引を勧誘するに当
たって,証券会社の従業員として尽くすべき信義則上の説明義務に違反したものと
いうべきであり,上記勧誘行為は不法行為を構成するから,Dの使用者である被告
は,民法709条,715条1項に基づき,上記不法行為により原告Aに生じた損
害を賠償すべき責任を負う。
ウ 原告Bについて
前記認定のとおり,Eは,原告Bに対し,本件ワラント(B)の取引に
際し,ワラントの価格の値動きが大きいことや権利行使期限が経過すればワラント
が無価値になることなどの危険性を十分に説明しなかったものであり,この説明不
足のために,原告Bは,ワラントの危険性を十分に理解することができないままに
本件ワラント(B)の取引を開始するに至ったものと解される。
また,南海電鉄ワラントを除く本件ワラント(B)は,いずれも株式の
時価が権利行使価格を下回るといういわゆるマイナスパリティの状態にあったとこ
ろ,このような場合には,前記のとおり,ワラントの価格がほぼプレミアムのみで
形成されているため,必ずしもギアリング効果が働かないうえ,その後株価が上昇
して権利行使価格を上回る見込みが相当程度高くない限り,ワラントの価格が下落
してその売却が困難になる危険性が高いのに,Eが原告Bに対し,その点の危険性
を指摘して説明したことを窺わせる証拠はない。
したがって,Eは,原告Bに本件ワラント(B)の取引を勧誘するに当
たって,証券会社の従業員として尽くすべき信義則上の説明義務に違反したものと
いうべきであり,上記勧誘行為は不法行為を構成するから,Eの使用者である被告
は,民法709条,715条1項に基づき,上記不法行為により原告Bに生じた損
害を賠償すべき責任を負う。
4 無断売買の有無について
原告Bは,Eは,Fにも原告Bにも全く何らの説明もせずに本件ワラント
(B)の取引を行っており,これが無断売買であることは明白であると主張する。
確かに,前記認定のとおり,原告Bは,本件ワラント(B)を購入した際,
ワラントを購入したとの認識はなかったが,他方,前記認定のとおり,本件ワラン
ト(B)の取引に当たって,その購入代金を入金したり,預り証を授受したりして
いたこと,原告Bが日清食品の株式を購入したと認識していたこと(甲D1,原告
B本人)からすると,原告Bは,本件ワラント(B)の取引を株式の取引と誤信し
ていたものとみるのが相当であり,そうであるとすれば,原告Bが購入した商品を
株式と誤信し,ワラントを購入したとの認識がなかったからといって,直ちに無断
売買であったということはできない。
したがって,原告Bの上記主張は理由がない。
5 損害額について
(1) 原告Aについて
ア 基礎となる損害額
原告Aは,別紙1記載のとおり,本件ワラント(A)の取引を行ったも
のであるところ,その購入代金の合計1040万3893円から,一部のワラント
を売却して得た利益の合計686万9644円と平成4年10月29日に本件ワラ
ント(A)に関して被告から原告Aに返金されたという67万6794円を損益相
殺した285万7455円をもって,上記不法行為と相当因果関係のある原告Aの
損害と認めるのが相当である。
イ 過失相殺
(ア) 前記のとおり,Dの勧誘行為は,ワラントの危険性についての説明
が不十分であった点において違法なものであるうえ,ワラントのことを「ワラント
債」と説明して,ワラントを債券と誤解させかねなかった点においても違法なもの
であること,事前に原告Aの承諾を得ることなく,事後承諾を得る形でワラントの
取引をしたこともあったことからすると,その過失ないし違法性の程度は大きいも
のというべきである。
他方,原告Aは,前記のとおり,石原産業ワラントを購入した直後に
受領した分離型ワラントのパンフレット(乙5)と同じものを読むなどしてワラン
トの危険性を認識したにもかかわらず,速やかにワラントを売却処分するなど,な
んら損害の軽減措置を講ずることなく,これを保持し続けた結果,その損害が拡大
したものである。
そうすると,原告Aにも相応の過失があったものというべきであり,
その過失割合は,前記の諸事情のほか,Dがワラントを売却するのを待つように言
ったことがウシオ電機ワラント及びゼンチクワラントの売却を妨げた一因となった
こと,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,これを5割と認めるのが相当
である。
したがって,被告は,原告Aに対し,前記アの損害額285万745
5円の5割に当たる142万8727円(1円未満切捨て,以下同じ。)の賠償責
任を負うものというべきである。
(イ) これに対し,原告Aは,本件において過失相殺をすべきではないと
主張する。
確かに,前記認定説示のとおり,Dがワラントの危険性を十分に説明
しなかったために,原告Aは,ワラントの危険性を十分に理解することができない
ままに本件ワラント(A)の取引を開始するに至ったものと解されるうえ,ウシオ
電機ワラント及びゼンチクワラントは,Dが事後承諾を得る形で購入したものであ
るから,本件ワラント(A)の購入時においては,原告Aに自己責任を問う前提を
欠くものというべきであり,本件ワラント(A)の購入による損害の発生について
は原告Aの過失を認めるのは相当でない。
しかしながら,原告Aがワラントの危険性を認識した後においては,
自らの判断により速やかにワラントを売却して,発生した損害の拡大を防止するこ
とができたのであるから,原告Aの自己責任のもとに速やかにワラントを売却する
ことなく,これを保持し続けた結果,その損害が拡大した以上,その点について原
告Aの過失は免れないものというべきであって,過失相殺をするのが相当である。
したがって,原告Aの上記主張は理由がない。
ウ 弁護士費用
前記イの過失相殺後の損害認容額及び本件訴訟の経過等に照らすと,上
記不法行為と相当因果関係のある原告Aの弁護士費用相当の損害は,これを15万
円と認めるのが相当である。
エ 結論
したがって,被告は,原告Aに対し,損害金合計157万8727円及
びこれに対する不法行為が終了した日の後であり,かつ,訴状送達の日の翌日であ
ることが記録上明らかな平成5年3月25日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の賠償責任を負うものというべきである。
  (2) 原告Bについて
ア 基礎となる損害額
原告Bは,別紙2記載のとおり,本件ワラント(B)の取引を行ったも
のであるところ,その購入代金の合計2612万0218円から,一部のワラント
を売却して得た利益の合計1937万2809円を損益相殺した674万7409
円をもって,上記不法行為と相当因果関係のある原告Bの損害と認めるのが相当で
ある。
イ 過失相殺
(ア) 前記のとおり,Eの勧誘行為は,ワラントの危険性についての説明
が不十分であった点において違法なものであること,原告Bは,ワラントの危険性
を理解していなかったばかりか,ワラントを購入したとの認識はなかったにもかか
わらず,Eの関与のもとに短期間のうちにワラントの売買が多数回繰り返され,損
失が生じたことからすると,Eの過失ないし違法性の程度は軽視することができな
い。
他方,原告Bは,前記のとおり,投資経験が豊富で,株式の信用取引
も行い,証券取引に関し,相応の知識,能力を有していたことからすると,ワラン
トの危険性を理解することはさほど困難ではなかったと考えられる。また,原告B
は,南海電鉄ワラントの購入直後,分離型ワラントのパンフレット(乙5)と同じ
ものを受け取ったのであるから,その内容を子細に検討することにより,ワラント
の危険性を認識することができたのに,これを読むことなく放置した結果,ワラン
トの売買が繰り返され,その損害が拡大したものである。
そうすると,原告Bにも相応の過失があったものというべきであり,
その過失割合は,前記の諸事情のほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,こ
れを5割と認めるのが相当である。
したがって,被告は,原告Bに対し,前記アの損害額674万740
9円の5割に当たる337万3704円の賠償責任を負うものというべきである。
(イ) これに対し,原告Bは,本件において過失相殺は認めるべきでない
と主張する。
確かに,前記認定説示のとおり,Eがワラントの危険性を十分に説明
しなかったために,原告Bは,ワラントの危険性を十分に理解することができない
ままに本件ワラント(B)の取引を開始するに至ったものと解されるうえ,原告B
は,ワラントを購入したとの認識はなかったのであるから,本件ワラント(B)の
購入時においては,原告Bに自己責任を問う前提を欠くものというべきであり,本
件ワラント(B)の購入による損害の発生については原告Bの過失を認めるのは相
当でない。
しかしながら,原告Bは,証券取引に関し,相応の知識,能力を有し
ていたうえ,南海電鉄ワラントの購入直後,分離型ワラントのパンフレット(乙
5)と同じものを受け取ったのであるから,その内容を子細に検討することによ
り,ワラントの危険性を認識することができたのであり,それを認識した後におい
ては,自らの判断により速やかにワラントを売却して,発生した損害の拡大を防止
することができたのであるから,上記パンフレットを読むことなく放置した結果,
その損害が拡大した以上,その点について原告Bの過失は免れないものというべき
であって,過失相殺をするのが相当である。
したがって,原告Bの上記主張は理由がない。
ウ 結論
したがって,被告は,原告Bに対し,損害金合計337万3704円及
びこれに対する不法行為が終了した日である平成2年1月8日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の賠償責任を負うものというべきである。
第4 結語
   よって,原告らの本訴請求は,本判決主文第1,2項に掲記の限度でいずれ
も理由があるからこれらを認容することとし,その余の請求はいずれも理由がない
からこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条本
文,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用
し,なお,仮執行免脱宣言の申立ては相当でないからこれを却下することとして,
主文のとおり判決する。
   神戸地方裁判所第六民事部
       裁 判 長 裁 判 官     松   村   雅   司
   裁 判 官水   野   有   子
   裁 判 官増   田   純   平

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