弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
 一 被告は、原告らに対し、別紙債権目録中の各原告に対応する認容債権額欄記
載の各金員及びこれらに対する平成一二年一月一日から支払済みまで年六
分の割合による各金員を支払え。
 二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
 四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事     実
第一 当事者の求めた裁判
 一 請求の趣旨
  1 被告は、原告らに対し、別紙債権目録中の各原告に対応する請求債権額欄
記載の各金員及びこれらに対する平成一二年一月一日から支払済みまで
年六分の割合による各金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
 二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
  1    被告は、A(以下「譲渡人」という。)との間で、平成一一年二月一三日、被
告を注文者、譲渡人を請負人として、福岡県前原市大字有田六三〇ー三に
共同住宅(一棟六戸、以下「本件建物」という。)を建築する請負契約を代金
三〇五五万五〇〇〇円で締結した。
       着工は同年三月一六日で、完成予定は同年六月九日だった。ただし、現
実の完成は同年八月であり、完成直後に被告に引き渡された。
       代金支払の方法は契約時三五五万五〇〇〇円、同年三月一六日に一
〇〇〇万円、同月三〇日(建方時)に一〇〇〇万円、完成引渡時に七〇〇
万円を支払うとされていた。
2    被告は譲渡人に対し、平成一一年四月二一日、一〇〇〇万円を支払い、
請 負代金の残額は二〇五五万五〇〇〇円となった。
  3    原告らは、平成一一年七月二八日、譲渡人から、譲渡人の被告に対する
工事代金債権を別紙債権目録中の各原告に対応する請求債権額欄記載の
各金員(合計二〇五五万五〇〇〇円)の譲渡を受け、譲渡人は同年八月六
日までに被告に対してこの譲渡の同月四日付通知をした。
  4    よって、原告らは被告に対し、譲受債権の履行としての別紙債権目録中
の各原告に対応する請求債権額欄記載の各金員及びこれらに対する、弁
済期の後である平成一二年一月一日から支払済みまで商事法定利率年六
分の割合による各金員の支払を求める。
 二 請求原因に対する認否及び反論
  1 請求原因1は認める。
2 同2のうち、一〇〇〇万円の支払は認めるが、残額は否認する。
3 同3は不知。
4 原告らが被告に対して有する工事代金は一〇五五万五〇〇〇円である。
    被告は、譲渡人に対し、平成一一年八月二〇日にも一〇〇〇万円を支払って
いる(以下「八月弁済」という。)。
    この八月弁済は、被告から譲渡人へ直接支払われたのではなく、被告が譲渡
人のために設定していた担保(債権担保)の実行として行われた(被告が譲渡
人の債権者に支払うことで、譲渡人に対する弁済と同視される。)。具体的に
は、被告は、平成一一年四月三〇日、国民金融公庫から同年八月二〇日に融
資されることになっていた一〇〇〇万円を、譲渡人が金融業者から借り受ける
ことになっていた一〇〇〇万円の支払に当てるため、同年四月三〇日、譲渡人
の依頼に基づき、自己の貯蓄総合口座通帳及び通帳用印鑑を右金融業者に
交付していた。譲渡人は、同年六月一二日、被告に対し、残工事代金が一〇五
五万五〇〇〇円であること及びその支払方法につき、書面を差し入れた(以下
「六月書面」という。)。
    右金融業者は、同年四月三〇日に六〇〇万円を、同年六月二六日に三〇〇
万円を譲渡人に貸し渡し、同年八月二〇日、右通帳及び印鑑を使用して、一〇
〇〇万円を被告の口座から引き落とし、自己の譲渡人に対する債権の弁済に
充てた(一〇〇万円は利息)。
 三 抗弁
  1(分割払の約定) 
  (一)     六月書面によれば、一〇五五万五〇〇〇円を平成一一年八月から
同一四年七月までの三年間三六回の分割で次の通り支払うことが約
束されている。
 (1)  一年で元金を三五一万九〇〇〇円、利息を九万一五〇〇円の合
計三六一万〇五〇〇円支払う(一か月当たり三〇万〇九〇〇
円)。
    (2)  ただし、
     ア 譲渡人が本件建物を管理し、家賃集金も代行するという内容の管
理契約
イ 譲渡人が契約時査定家賃総額の八九パーセント相当額(月額二
七万 七六八〇円、一一パーセント相当額は管理費)を被告に支払
うという 内容の一括借上契約があることに照らし、右三〇万〇九
〇〇円から、六戸分の家賃収入の八九パーセント相当額を控除
し、被告が国民金融公庫に返済すべき額一〇万九七七二円を加算
した金額である一か月あたり一三万二九九二円を毎年七月末及び
一二月末毎に、六か月分まとめて支払う。
  (二)     この約定に基づいて、被告が支払うべき金額は右一三万二九九二
円の二四か月分(平成一一年八月分から平成一三年七月分まで)に
当たる三一九万一八〇八円に止まる。
  2(瑕疵による減額)
(一) 各室玄関横のテレビスコープが取り付けられていないから、一六万六
二 〇〇円(二万七七〇〇円の六戸分)を控除すべきである。
(二) 浄化槽に取り付ける換気扇が取り付けられていないから、五万九八
五〇 円も控除すべきである。
(三) 前原市に支払うべき開発負担金一〇万円は譲渡人が負担する約定
だった が、支払われていない。
3(まとめ)
口頭弁論終結時の被告が支払うべき金額は右1の三一九万一八〇八円か
ら 右2の合計額三二万六〇五〇円を控除した二八六万五七五八円である。
 四 抗弁に対する認否 
  1 抗弁1は否認する。六月書面による管理契約及びこれを前提とする分割約定
は成立していない。
  2 同2は否認する(弁論の全趣旨)。
3 同3は争う。
 五 再抗弁(仮定:抗弁1に対して)
     仮に、被告と譲渡人の間に管理契約があったとしても、被告は既に譲渡人以
外の業者に本件建物の管理を委託しているから、譲渡人との管理契約は消滅
しており、これを前提とする分割約定も当初から効力がないというべきである。
 六 再抗弁に対する認否
争う。
第三 証拠
   本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引
用する。
理     由
第一 認定事実
 一 争いのない事実
  1    被告は、譲渡人との間で、平成一一年二月一三日、被告を注文者、譲渡
人を請負人として、本件建物を建築する請負契約を代金三〇五五万五〇〇
〇円で締結した。
       着工は同年三月一六日で、完成予定は同年六月九日だった。ただし、現
実の完成は同年八月であり、完成直後に被告に引き渡された。
       代金支払の方法は契約時三五五万五〇〇〇円、同年三月一六日に一
〇〇〇万円、同月三〇日(建方時)に一〇〇〇万円、完成引渡時に七〇〇
万円を支払うとされていた。
2 被告は譲渡人に対し、平成一一年四月二一日、一〇〇〇万円を支払った。
二 前記争いのない事実、弁論の全趣旨及び各末尾掲記の証拠によれば、以下の
事実を認めることができる。
  1(請負契約の締結)
   (一)      被告は、譲渡人との間で、平成一一年二月一三日、被告を注文
者、譲渡人を請負人として、本件建物を建築する請負契約を代金
三〇五五万五〇〇〇円で締結した。
着工は同年三月一六日で、完成予定は同年六月九日だった。た
だし、現実の完成は同年八月であり、完成直後に被告に引き渡され
た。
代金支払の方法は契約時三五五万五〇〇〇円、同年三月一六
日に一〇〇〇万円、同月三〇日(建方時)に一〇〇〇万円、完成
引渡時に七〇〇万円を支払うとされていたが、現実の支払はこれと
異なる。
   (二)    ただし、本件建物には以下の未完成部分等がある。
(1) 各室玄関横のテレビスコープ未取付(一六万六二〇〇円)
(2) 浄化槽の換気扇未取付(五万九八五〇円)
(3) 前原市に支払うべき開発負担金一〇万円が未払い。
  (甲二、乙一、七、一一、証人B(一部))
2(被告と譲渡人の間の約定) 
   (一) 被告は譲渡人に対し、平成一一年四月二一日、一〇〇〇万円を
支払い、請負代金の残額は二〇五五万五〇〇〇円となった。
   (二) 被告は、平成一一年四月、譲渡人(当時の代表者はCだったが、
同人は平成一一年六月三〇日に死亡)からの依頼に基づき、国民
金融公庫から同年八月二〇日に融資されることになっていた一〇
〇〇万円を、譲渡人が金融業者から同年四月に借り受けた六〇〇
万円及び同年六月に借り受けた三〇〇万円の支払(一〇〇万円は
利息)に当てるため、自己の貯蓄総合口座通帳及び通帳用印鑑を
同年四月二一日の前にCに交付し、Cはこれらを、同月三〇日に右
金融業者に交付していた。
       譲渡人に一〇〇〇万円を貸し付けていた金融業者は、同年八月
二〇日、被告の通帳及び印鑑を使用して、国民金融公庫から振り
込まれた一〇〇〇万円を被告から受領して、自己の譲渡人に対す
る債権の弁済に充てた(八月弁済)。
   (三) 譲渡人は被告に対し、国民金融公庫の他に、銀行からも融資を
受けられるように紹介することを計画していたが、国民金融公庫以
外の金融機関から融資を受けることができなかったので、残代金一
〇五五万五〇〇〇円の回収方法として、同年六月一二日、六月書
面を作成して、被告に示した。
       月書面には、一〇五五万五〇〇〇円を平成一一年八月から同
一四年七月までの三年間三六回の分割で一年に元金を三五一万
九〇〇〇円、利息を九万一五〇〇円の合計三六一万〇五〇〇円
支払う(一か月当たり三〇万〇九〇〇円)と記載されている。
       ただし、実際の支払は、
      (1) 譲渡人が本件建物管理及び家賃集金を代行するという内
容の管理契約
      (2) 譲渡人が契約時査定家賃総額の八九パーセント相当額
(月額二七万七六八〇円、一一パーセント相当額は管理費)を
被告に支払うという内容の一括借上契約があることに照らし、
右三〇万〇九〇〇円から、六戸分の家賃収入の八九パーセン
ト相当額を控除し、被告が国民金融公庫に返済すべき額一〇
万九七七二円を加算した金額である一三万二九九二円を毎年
七月及び一二月毎に、六か月分まとめて支払うとされた。
       被告はこの提案を承諾した。しかし、Cは、この書面を内妻で
譲渡人の経理を担当していたDにも示すことなく同月末に死亡し
た。そのため、Cが一人で運営していた譲渡人は、六月書面記
載の管理契約に基づく本件建物の管理を行うことができなくな
り、被告も約定に従った金銭の支払も供託もしていない。
  (甲三、乙二ないし六、八、一〇、一一、証人B(一部)、証人D(一部)、被告本人
(一部))  
3(債権譲渡) 
    原告らは、平成一一年七月二八日、譲渡人の債権者集会の際に、被告に
対する残工事代金が二〇五五万五〇〇〇円あるとの説明を受け、譲渡人
から、譲渡人の被告に対する工事代金債権を別紙債権目録中の各原告に
対応する請求債権額欄記載の各金員(合計二〇五五万五〇〇〇円)の譲
渡を受け、譲渡人は同年八月六日までに被告に対してこの譲渡の同月四日
付通知をした。
  (甲一、五、八、証人D(一部)、原告E)
4(本件建物の管理状況)
(一) 譲渡人は、平成一一年四月ころ、Fに対し、本件建物の入居者募集
を委託した。Fは、Cの死亡後はこの募集をせず、フュージョンステーシ
ョンに本件建物の各部屋の鍵を引き渡した。フュージョンステーション
もCが懇意にしていた不動産業者で、被告はBからの紹介で本件建物
の管理を委託した。
(二) 被告は、平成一一年一一月には、フュージョンステーションを通じて、
本件建物の入居募集広告を出した。フュージョンステーションは本件
建物の各部屋の鍵を保管し、家賃の集金代行をしている。
(甲四、六、乙一〇、証人G、被告本人)
 三 八月弁済について(請求原因)
   前記二2(二)で認定した事実によれば、譲渡人と被告の間には、平成一一
年四月三〇日の時点で、同年八月二〇日に国民金融公庫から被告の口座に
振り込まれる一〇〇〇万円を譲渡人の金融業者に対する支払に当て、本件建
物の工事代金中一〇〇〇万円が支払われたとの扱いにするという合意が成立
し、これに基づいてCが被告から預かっていた通帳と印鑑を右金融業者に交付
したことが認められる。この合意は、被告の国民金融公庫に対する債権を譲渡
人の金融業者に対する債務の債権質としたもので、その引出しに必要な通帳
と印鑑を担保権者である金融業者が保管することによって、民法三六三条所
定の要件も充足していると判断する。
   したがって、八月弁済は、四月三〇日に設定された債権質の実行であり、こ
の債権質設定が七月の債権譲渡に優先することは明らかだから、原告らの譲
り受けた債権の総額は一〇五五万五〇〇〇円に止まる。
 四 六月書面について(抗弁1及び再抗弁)
   前記二2(三)、4で認定した事実によれば、六月書面(乙六)は被告の合意し
た内容だから分割払いの約定は成立したこと、しかし、Cの死亡によって譲渡
人が負担していた債務は履行不能となり、被告も右約定に従った弁済(の提
供)をせず、最初の弁済期である平成一一年一二月の前に別の不動産業者に
管理を委託するに至ったことが認められる。これらの事情からすると、六月書
面に基づく分割払いの約定は、被告において最初の弁済期前に黙示的に解除
したと評価すべきで、これによって、分割払いの約定は解消されたと判断する
(再抗弁は管理契約の消滅に基づく分割払いの約定の解消を主張している
が、その趣旨は六月書面全体の約定の解消であると善解した。)。
   したがって、原告らの譲り受けた債権には分割払いの約定は付されていなかっ
たことになる。
五 未完成部分について
   前記二1(二)で認定した事実によれば、未完成部分等減額すべき総額は三
二万六〇五〇円となる。したがって、認容額は一〇二二万八九五〇円である。
 六 結論
   原告らの請求は主文第一項の限度で理由がある。訴訟費用の負担につき民
事訴訟法六一条、六四条本文及び六五条一項本文を、仮執行宣言につき同
法二五九条一項をそれぞれ適用する。
(口頭弁論終結日=平成一三年一二月四日)
          福岡地方裁判所第二民事部
                  裁判官  野 村    朗

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