弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
一原告の請求を棄却する。
二訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告に対して平成16年5月10日付けでした行政文書不開示
決定(東管総発第1077号)を取り消す。
第二事案の概要
一事案の骨子
本件は、原告が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下
「情報公開法」という)3条に基づいて、○拘置所において平成12。
年▲月▲日に撮影された原告の頭部のCT写真(以下「本件文書」とい
う)の開示を請求したところ、被告が、本件文書の存否を答えるだけ。
で、情報公開法5条1号の規定により不開示とすべき個人を識別するこ
とができる情報が開示されるのと同様の結果が生じることを理由に、情
報公開法8条に基づき、本件文書の存否を明らかにしないで不開示とす
る旨の決定をしたため、原告が同決定の取消しを求める事案である。
二関係法令の定め
本件に関連する情報公開法の規定は、次のとおりである。
3条(開示請求権)
、、(()何人もこの法律の定めるところにより行政機関の長…中略
…)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求すること
ができる。
5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文
書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という)のいずれ。
かが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を
開示しなければならない。
1号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を
除く)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記。
述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照
合することにより、特定の個人を識別することができることとなる
ものを含む)又は特定の個人を識別することはできないが、公に。
することにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。
ただし、次に掲げる情報を除く。
イ(省略)
ロ人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすること
が必要であると認められる情報
(以下省略)
8条(行政文書の存否に関する情報)
開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否
かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、行政機
関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を
拒否することができる。
9条(開示請求に対する措置)
1項(省略)
2項行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の全部を開示しない
とき(前条の規定により開示請求を拒否するとき及び開示請求に係
る行政文書を保有していないときを含む)は、開示をしない旨の。
決定をし、開示請求者に対し、その旨を書面により通知しなければ
ならない。
三前提事実
本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の
全趣旨により容易に認めることのできる事実並びに当裁判所に顕著な事
実は、その旨付記しており、それ以外の事実は、当事者間に争いのない
事実である。
1原告は、○、○、○の罪により○判決を受けて、これが確定し、○
拘置所に在監中の者である(甲3、5の2、弁論の全趣旨。)
2原告訴訟代理人堀井準は、平成15年11月13日、東京弁護士会
を通じて、○拘置所長に対し、弁護士法23条の2に基づき「○拘、
」。置所で原告に対して行った頭部CT写真について照会請求を行った
しかし、○拘置所長は、平成15年12月3日付け回答により、理由
を付さずに、照会に応ずることを拒否した(甲5の1から4まで)。
3原告は、被告に対し、平成16年4月12日付けで、情報公開法3
条に基づき、本件文書の開示請求(以下「本件開示請求」という)。
をした(甲1。)
4被告は、原告に対し、平成16年5月10日付けで、本件開示請求
について「開示請求に係る当該文書の存否を答えるだけで、法第5、
条第1号の規定により不開示とすべき個人を識別することができる情
報が開示されるのと同様の結果が生じるため」との理由を付して、。
不開示とする旨の決定以下本件不開示決定というをした甲(「」。)(
2。)
5原告は、平成16年7月3日、本件不開示決定の取消しを求める訴
えを提起した(当裁判所に顕著な事実。)
四当事者の主張の要旨
別紙記載のとおり
第三当裁判所の判断
一争点の確定について
1被告は、本件不開示決定は情報公開法8条に基づく処分であるとこ
ろ、同条に基づく処分は、開示請求に係る行政文書が存在しているか
否かを答えるだけで、情報公開法5条の不開示情報を開示することと
なることが認められれば適法であって、それ以上に、仮に存在してい
れば、当該行政文書に係る情報自体が同条の不開示情報のいずれかに
該当することまでは必要ない旨主張する。
2確かに、情報公開法8条は「開示請求に対し、当該開示請求に係、
る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示
することとなるときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明ら
かにしないで、当該開示請求を拒否することができる」と規定して。
おり、この条文の規定の文言のみからすると、同条の処分を適法とい
うためには、行政文書に記録されている情報自体が情報公開法5条の
不開示情報のいずれかに該当することまでは必要でないかのようにも
見える。
しかし、情報公開法5条柱書きは「行政機関の長は、開示請求が、
あったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(…
(中略)…)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に
対し、当該行政文書を開示しなければならない」と規定していて、。
同条においてすべての不開示情報を定めておく規定ぶりとなってお
り、他に不開示情報を定める規定を設けることを予定していない。ま
た、情報公開法8条も、明文上、情報公開法5条の特則であるとは規
定されていおらず、情報公開法の他の条項から見てみても、そのよう
に解すべき根拠は存しないというべきである。
そうすると、情報公開法8条は、仮に存在するとすれば、開示請求
に係る行政文書に情報公開法5条各号列記の不開示情報が記録されて
いるはずであることを前提として、開示請求に対する特別な拒否の方
法について定めた規定と解すべきである。
また、情報公開法8条は、開示請求に係る行政文書に記録されてい
る情報が情報公開法5条の不開示情報に当たるとき、又は開示請求に
係る行政文書を保有していないときは、当該行政文書の存否を明らか
にした上で拒否することが原則であるが、例えば、特定の個人の病歴
の情報、犯罪の内偵捜査に関する情報等のように、開示請求に係る行
政文書の存否を明らかにするだけで、不開示情報についての規定によ
り保護されるべき利益が害されることとなる場合があり、このような
場合には、その開示請求に対し、当該行政文書は存在するが不開示と
回答したり、又は行政文書は存在しないと回答するだけで、不開示情
報に係る保護利益が害されることとなるので、このような事態に適切
に対処するため規定されたものと解される。
そうすると、情報公開法8条に基づく不開示処分が適法であるとい
うためには、①仮に存在するとすれば、開示請求に係る行政文書に情
報公開法5条各号列記の不開示情報が記録されているはずであるこ
と、②当該行政文書が存在しているか否かを答えるだけで情報公開法
5条各号列記の不開示情報を開示することとなることの両方が必要で
あるということになる。
したがって、被告の前記1の主張は、採用することができない。
3以上によれば、本件の争点は、以下のとおりである。
(一)争点1(情報公開法5条1号本文前段該当性)
仮に存在するとすれば本件文書に記録されているはずの情報以、(
下「本件情報」という)は、情報公開法5条1号本文前段の不開。
示情報に当たるか。特に、開示請求の対象文書に記録されている情
報が、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名等によ
り特定の個人を識別することができるものに当たる場合には、その
「特定の個人」本人による開示請求であっても、当該情報は、情報
公開法5条1号本文前段の不開示情報に当たるか。
(二)争点2(情報公開法5条1号ただし書ロ該当性)
本件情報は、情報公開法5条1号ただし書ロ所定の「人の生命、
健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると
認められる情報」に当たるか。
(三)争点3(文書の存否を答えることの要否)
本件文書の存否を答えるだけで、情報公開法5条各号所定の不開
示情報を開示することとなるか。
なお、被告は、本件情報が情報公開法5条1号本文前段以外の不開
示事由に当たることを主張しておらず、原告も、本件情報が情報公開
法5条1号ただし書ロ以外の不開示事由の例外に当たることを主張し
ていない。
二争点1(情報公開法5条1号本文前段該当性)について
1情報公開法5条1号本文前段は「個人に関する情報(…(中略)、
…)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等に
より特定の個人を識別することができるもの」については、不開示情
報に当たる旨規定している。
本件開示請求は、原告という個人の氏名を具体的に特定して、その
頭部のCT写真(本件文書)の開示請求をするものである。そうする
と、本件文書は、その性質上、個人に関する情報であって、当該情報
に含まれる氏名等により特定の個人を識別することができるものが記
録されている蓋然性があるということができる。
したがって、本件情報は、情報公開法5条1号本文前段の不開示情
報に当たるというべきである。
2(一)これに対し、原告は、本件情報は開示請求者個人に関する情報
であるところ、開示請求の対象文書に記録されている情報が、個人
に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名等により特定の個
人を識別することができるものに当たる場合であっても、その「特
定の個人」本人による開示請求であるときには、当該情報は、情報
公開法5条1号本文前段の不開示情報に当たらない旨主張するの
で、本人による開示請求の場合でも、情報公開法5条1号本文前段
所定の不開示情報に該当し得るかを検討する。
(二)憲法21条は、国民の表現の自由を保障しているが、その実効
性を担保するためには、その基礎となるべき「知る権利」が保障さ
れなくてはならないと考えられる。この権利は、憲法13条の定め
る幸福追求権や憲法19条の定める思想及び良心の自由を確保する
上でも、重要なものであることは言をまたない。
しかしながら、憲法上の「知る権利」は、それ自体では抽象的な
権利にすぎず、特定の情報ないし文書の開示を請求するためには、
これに具体的権利性を付与する実定法上の根拠が必要であると考え
られる。このように、具体的な情報開示請求権が実定法によって創
設されると解する以上、その内容や範囲については、当該実定法の
目的・趣旨を参考にした上で、その文言に即して判断される必要が
ある。不開示事由の解釈についても、基本的にはこのような見解が
妥当するというべきである。
(三)()そこで、情報公開法の規定を検討してみると、情報公開法1
3条は「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の、
長(…(中略)…)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の
開示を請求することができる」と規定し、情報公開法5条柱書。
きは「行政機関の長は、開示請求があったときは、…(中略)、
…不開示情報…(中略)…のいずれかが記録されている場合を除
、、。」き開示請求者に対し当該行政文書を開示しなければならない
と規定している。
これらの規定からすると、情報公開法は、情報の性質や内容に
着目して不開示とすべき情報を定めているものの、開示請求の請
求主体については何らの制約を設けることをせず、開示請求の理
由、目的又は利害関係の有無等を問うことなく、上記の不開示情
報に該当しない限り、行政文書の開示を認める立場に立っている
ことが明らかである。
このことは、情報公開法1条が、行政機関の保有する情報の公
開により、政府の国民に対する説明責任を全うし、国民の理解と
批判の下に公正で民主的な行政の推進に資することを、情報公開
法の目的と規定していることとも合致する。
()また、情報公開法5条1号本文前段は「個人に関する情報2、
(…(中略)…)であって、…(中略)…特定の個人を識別する
ことができるものを不開示情報としており同号本文後段の特」、「
定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、な
お個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは異なった表現
を採用している。このことに照らすと、同号本文前段は、不開示
の根拠として、個人の権利利益を害するおそれの有無を判断基準
とする立場に立たず、類型的に、特定の個人を識別することがで
きる情報を一律に不開示とした上、その例外については、ただし
書で定めるという立場を採用しているものというべきである。
()さらに、仮に、情報公開法が、当該情報から識別され得る者3
本人による開示請求である場合には、個人識別情報であっても開
示を認める趣旨であるのならば、対象となった文書に記載された
情報と請求者との関係を明らかにする手続が必要となるはずであ
る。しかし、情報公開法及び行政機関の保有する情報の公開に関
する法律施行令は、このような手続について何らの手当てをして
おらず、それどころか、情報公開法は、前記のとおり、開示請求
の主体、理由、目的及び利害関係の有無等を問わない制度を採用
している。そうすると、情報公開法は、当該情報から識別され得
る者本人による開示請求を特別なものとして取り扱うことを予定
していないということができる。
()さらに、弁論の全趣旨によると、情報公開法が、行政改革委4
員会の下に設置された行政情報公開部会による、平成8年12月
16日の内閣総理大臣あての「情報公開法要綱案」及び「情報公
開法要綱案の考え方」等の答申が基本となっていることが認めら
れる。
そして「情報公開法要綱案の考え方」八()は「一般的に個、、1
人情報を本人に開示することを認める制度が存しない状況の下
で、情報公開法により個人情報を本人に開示することを認めるこ
、。」、との意見・要望がありその趣旨は理解できるとしながらも
その問題は、基本的には個人情報の保護に関する制度の中で解決
すべきであり、その範囲についてもその中で専門的に検討される
べきものであるとして「本要綱案には個人情報の本人開示を認、
める制度を盛り込まないこととした」と結論付けている。。
そうすると、立法担当者においても、情報公開法が、本人によ
る個人情報の開示請求を特別に扱わない趣旨のものであることで
認識がほぼ一致していたものということができる。
()以上によると、情報公開法は、個人のプライバシーを侵害す5
るおそれを想定し難い本人による個人情報の開示請求の場合であ
っても、当該情報が個人識別情報に該当する以上、原則として不
開示とする立法態度を採っているものといわざるを得ない。
(四)したがって、当該情報から識別され得る個人本人による開示請
求であるか否かは、情報公開法5条1号本文前段の不開示情報に当
たるか否かの判断には関係しないというべきである。
3(一)これに対して、原告は、情報公開制度において個人情報が不開
示情報とされるのは、個人の権利利益を保護するためであると解さ
れるところ、請求者本人の情報については、開示されたとしても、
請求者の権利利益が侵害されるおそれは存しないから、請求者本人
に関する情報が記録されている行政文書について不開示とすること
は許されない旨主張する。
確かに、原告の主張するとおり、情報公開法5条1号本文前段が
個人識別情報を不開示情報と定めたのは、当該個人の権利利益を保
護するためであるということができる。
しかしながら、前記2(三)記載のとおり、情報公開法は、前記2
(三)()に判示したとおりの目的に立つ法律であって、同()以下に12
判示したように、個人識別情報については、個人のプライバシーに
対する侵害のおそれの有無などといった実質的な判断基準を採ら
ず、類型的に一律に不開示とする立法政策を採っているのである。
したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
(二)また、原告は、本件開示請求がされた平成16年4月12日当
時及び本件不開示決定がされた同年5月10日当時には、個人情報
保護法は、公布されていたものの、施行されておらず、自己の個人
情報の開示を求める方法は情報公開法の開示請求に限られていた旨
主張する。
しかし、前記2(二)記載のとおり、特定の情報ないし文書の開示
を請求するためには、このような開示請求に具体的権利性を付与す
る実定法上の根拠が必要であると考えられるのであって、具体的な
、、情報開示請求権が実定法によって創設される以上その内容や範囲
不開示事由の解釈については、当該実定法の目的・趣旨を参考にし
、。た上でその文言に即して判断される必要があるというべきである
そして、この点については、前記2(三)記載のとおり、情報公開法
は、目的・趣旨及びその文言からすると、情報の性質、内容を基準
として、不開示とする場合を定めており、だれが開示請求をしてい
るかによる区別はしていないのであるから、本人による個人情報の
開示請求の場合であっても、当該情報が個人識別情報に該当する以
上、原則として不開示とする立場を採っているものと考えざるを得
ない。
そうすると、原告の上記主張も、採用することができない。
(三)()さらに、原告は、兵庫県条例判決を援用し、本件不開示決1
定がされた当時、個人情報保護法は施行されておらず、かつ、情
報公開法には自己の個人情報の開示を請求することを許さない趣
旨の規定が存在しない状況の下においては、本人からの個人情報
の開示請求を拒否することは許されないものというべきであるな
どと主張する。
()しかし兵庫県条例判決はその8条において個人の…中2、、「(
略)…等に関する情報(…(中略)…)であって、特定の個人が
識別され得るもののうち、通常他人に知られたくないと認められ
るもの」を不開示情報と定める兵庫県条例についての判決である
上、その法令制定の際にいかなる立法政策が採られたかが明らか
でないことを前提として判示されたものと解すべきである。
これに対して、情報公開法においては、前記のとおりの規定ぶ
りとなっている上、立法担当者においては、自己情報を特別に扱
わない趣旨のものであることで認識がほぼ一致しており、規定の
文言も、個人識別情報である限り、だれが開示請求者であるか否
かにかかわらず原則として不開示とする立場と整合すると考えら
れる。したがって、兵庫県条例判決は、情報公開法の場合には妥
当するものではないといわざるを得ない。
()そうすると、原告の前記()の主張は、採用することができな31
い。
4以上によると、本人による個人情報の開示請求であるか否かは、情
報公開法5条1号本文前段の不開示情報の該当性には関係しないとい
うことができる。
そうすると、本件が、当該情報から識別され得る個人本人による開
示請求の事案であるとしても、本件情報は、情報公開法5条1号本文
前段の不開示情報に当たるというべきである。
三争点2(情報公開法5条1号ただし書ロ該当性)について
1情報公開法5条1号ただし書ロは、いわゆる個人識別情報であって
も「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすること、
が必要であると認められる情報」を例外的に公開すべき旨規定してい
る。これは、個人のプライバシーにかかわり得る場合であっても、国
民の生命、健康、生活又は財産を保護するために一般に公開すべき理
由があるときには、比較衡量の上で公開を認めることとした規定と解
することができる。
したがって「必要であると認められる」とは、不開示とすること、
により保護され得る個人の利益と、開示されることにより保護される
国民の利益とを比較衡量し、後者が優越する場合をいうと解すべきで
ある。この比較衡量に当たっては、個人の権利利益にも様々なものが
あり、また、人の生命、健康、生活又は財産の保護にも、保護すべき
権利利益の程度や保護の必要性に差があることから、個別の事案に応
じた検討が必要と考えられる。
2(一)()本件について見ると、本件情報は、個人の医療情報に関す1
るものであり、医療情報は、一般に個人識別情報の中でも特に秘
匿性が要求される性質のものであるから、公に開示されないこと
の利益は大きいというべきである。
()これに対し、原告は、本件文書を不開示とすることにより保2
。、護される利益は存在しない旨主張する原告の主張するところは
要するに、本件文書から識別され得る個人である原告自身がその
開示を請求しているのであるから、原告にとってそれを不開示と
する利益は存在しないとする趣旨であると解される。
しかし、前記二において検討したところからすると、情報公開
法は、その1条所定の目的に即し、また、情報はいったん公開さ
れれば広く公になりうるものであって、その公開目的や使途を限
定するのは困難であることにもかんがみ、各情報の性質、内容を
基準として、その開示、不開示を区別しているのであって、開示
請求者がだれであるかに着目して、当該情報を特別なものとして
取り扱うことは予定していないと解すべきである。したがって、
本件文書を不開示とすることにより保護される利益を検討するに
当たっても、それが当該情報から識別され得る個人本人が開示請
求しているものであって、本人にしか当該情報が知られることは
ないという前提で、判断すべきではなく、通常の開示請求の場合
と同様に判断されることになるのである。
よって、原告の上記主張は、採用することができない。
(二)()また、本件の場合、上記のような開示されないことの利益1
に対し、本件文書を開示することによる利益は、甲第3号証、甲
第5号証の2及び弁論の全趣旨によると、原告の受けた確定した
○判決に対する○地方裁判所○支部への再審請求事件(以下「別
件再審請求事件」という)において、本件文書を、原告が各犯。
行の当時有機溶剤の吸引の影響により心神耗弱の状態にあったこ
との新規証拠として利用するというものである。
()しかし、このような確定判決に対する再審請求をするために2
利用するという利益は、元々「人の生命、健康、生活又は財産、
を保護する」利益にはなじみにくいものである上、原告の主張す
る利益は、当該情報を公に開示することの利益ではなく、開示請
求者のみに限定された極めて個人的な主観的利益であるといわざ
るを得ない。したがって、本件において、原告の主張する本件文
書の開示による利益は、情報公開法5条1号ただし書ロが本来予
定している利益には中々当てはまりにくいものというべきであ
る。しかも、本件では、甲第3号証によると、確定判決において
認定された○行為等は、原告の頭部CT写真が撮影されたという
平成12年▲月▲日より少なくとも9年以上前に行われたとして
原告に対する確定判決の言渡しがされていることが認められる。
そうすると、同号証の内容を勘案しても、本件文書により把握す
ることができるかもしれない平成12年▲月▲日当時の原告の頭
部の状態と、上記○行為等の当時の原告の責任能力とは、直接的
な関連性を認め難いというべきである。したがって、他の証拠と
の関係において本件文書の証拠価値が高いものと評価することは
できないといわざるを得ない。
、、そうすると本件文書を開示することにより保護される利益が
これを不開示とすることにより保護される利益に比して、優越す
るということはできない。
()これに対し、原告は、原告の健康上の観点からも、本件文書3
を確認する必要がある旨主張する。
、、、しかし仮に原告に対する医療行為が必要であったとすれば
原告が拘置されている○拘置所において適切に行われるべきとこ
ろ、○拘置所において原告に対する医療行為が適切に行われてい
なかったと認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の健康
上の観点から、原告の頭部が撮影されたCT写真を開示する必要
性が高いということはできない。
そうすると、原告の主張する上記理由で、本件文書を開示する
ことにより保護される利益が、これを不開示とすることにより保
護される利益に比して、優越するものということはできない。
()また、原告は、頭部CT写真の開示を得て、これを別件再審4
請求事件において利用することを考えており、別件再審請求事件
において、確定判決において認定された○行為等が、有機溶剤に
よる薬物中毒によって誘発されたことを明らかにすることが、ひ
いては薬物中毒の深刻さを社会に対して明らかにすることにもな
るのであり、社会的利益に資する側面もある旨主張する。
しかし、仮に、薬物中毒の深刻さを社会に対して明らかにする
ことや、医学の発展という社会的目的のために利用することが、
情報公開法5条1号ただし書ロにいう「人の生命、健康、生活又
は財産を保護するため」に当たるとしても、前記()記載のとお1
り、平成12年▲月▲日当時の原告の頭部の状態と、前記各犯行
の当時の原告の責任能力とは、直接的な関連性を認め難いという
べきであるから、本件文書により、確定判決において認定された
○行為等が有機溶剤による薬物中毒によって誘発されたことを明
らかにすることは難しいというべきである。また、薬物乱用によ
り犯罪行為に至った事件で、薬物乱用と犯罪行為との関係がより
明確なものがほかにも多数あることは公知の事実であり、そうだ
とすると、本件文書が原告の主張するような社会的目的のために
利用することに適する文書であるということはできない。
そうすると、本件文書を開示することにより保護されると原告
が主張する社会的利益が、これを不開示とすることにより保護さ
れる利益に比して、優越するものということはできない。
3さらに、原告は、本件文書である頭部CT写真は、原告本人の医療
記録であり、診療記録であるところ、本件不開示決定がされた平成1
6年5月10日当時、医療記録については原則開示の流れが定着して
いた旨主張する。
しかし、医療記録の原則開示の流れというのは、医療における医師
と患者との関係の見直し、ないしは自己情報のコントロール等といっ
た観点から、患者本人に対する開示について論じられているものであ
る。これと異なり、情報公開制度は、開示請求者や当該文書の利用目
的等を問うことなく、公に文書の開示をするものであり、上記のよう
な医療記録の公開と関係する制度ではない。したがって、医療記録の
患者本人への開示の問題は、情報公開法5条1号ただし書ロの解釈に
何ら影響しないというべきである。
したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
4以上からすると、本件情報は、情報公開法5条1号ただし書ロに当
たるということはできない。
四争点3(文書の存否を答えることの要否)
1本件では、原告は、原告という個人の氏名を具体的に特定して、平
成12年▲月▲日に○拘置所において撮影された頭部のCT写真の開
示請求をしている。そうすると、仮に、本件文書が存在していること
が明らかにされれば、頭部のCT写真という性質上、原告という個人
の頭部CT写真を撮影したという「個人に関する情報(情報公開法」
5条1号本文前段)を開示してしまうことになる。
そうすると、本件情報は、それが不開示情報に該当するので不開示
であると答えるだけで、当該個人の診療歴の存在等が明らかになって
しまうものということができるから、情報公開法8条が適用されると
いうべきである。
2(一)これに対して、原告は、原告の頭部のCT写真の撮影が行われ
たこと自体は、原告本人には自明の情報であり、また、○拘置所も
原告の頭部のCT写真の撮影を行った事実を認めていることなどか
らすると、本件不開示決定は、極めて形式的に判断したものであっ
て、不当である旨主張する。
しかし、情報公開法8条は、明文上、行政文書の開示請求をした
者自身にとって、当該行政文書の存在が自明であるときや、行政庁
が行政文書の存在を認めているときに、同条の処分をすることがで
きないとは規定していないし、そのように解すべき条文上の根拠も
ないというべきである。
そうすると、原告の上記主張は、採用することができない。
(二)また、原告は、別件再審請求事件の再審事由の証明には、本件
文書に基づく診断が不可欠であるし、原告の健康被害の訴えは深刻
なものであり、健康上の観点からも、本件開示請求は急を要する旨
主張する。
しかし、情報公開法には、明文上、開示請求について緊急性を要
することにより別異に取り扱うべき規定は存しないし、そのように
解すべき条文上の根拠もないというべきである。
そうすると、原告の上記主張も、採用することができない。
五以上によると、被告が、情報公開法8条に基づき、本件文書の存否を
明らかにしないでした本件文書を不開示とする旨の決定は、適法である
ということができる。
六よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴
訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用し
て、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官菅野博之
裁判官市原義孝
裁判官近道暁郎
(別紙)
当事者の主張の要旨
1被告の主張
(一)本件不開示決定の適法性について
()情報公開法8条は、特定個人の病歴に関する行政文書が開示請求1
された場合のように、開示請求に係る行政文書の存否を明らかにする
だけで、情報公開法5条各号の不開示情報を開示することになる場合
があることから、行政文書の存否自体を明確にしないで拒否処分(い
わゆる存否応答拒否)をすることができる旨を規定したものである。
()本件開示請求は、○拘置所が原告に対してした頭部CT写真の開2
示を求めるものであるところ、このような行政文書の存否が明らかに
なると、原告が○拘置所において頭部CT写真を撮影されたか否かが
開示されることになる。
そうすると、原告が○拘置所において頭部CT写真を撮影したか否
かという情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別する
ことができるものであるから、情報公開法5条1号の不開示情報に該
当することは明らかである。
したがって、被告が本件開示請求に対し、開示請求に係る行政文書
の存否を答えることにより、情報公開法5条1号の不開示情報を開示
することになるとして、情報公開法8条に基づく存否応答拒否をした
ことは適法である。
(二)自己情報の本人開示について
()原告は、本件開示請求に係る頭部CT写真(本件文書)は、原告1
自身の自己情報であるから、これを開示したとしても請求者の権利利
益が害されるおそれは全く存在しない旨主張する。
しかし、以下のとおり、情報公開法は、開示請求者本人に対する自
己情報の開示を認めていないことは明らかである。
()ア情報公開法は、国民主権の理念にのっとり、行政機関の保有す2
る情報の一層の公開を図ることにより、政府の諸活動について国民
に対する説明責務が全うされるようにすること等を目的とし(情報
公開法1条、何人も、情報公開法の定めるところにより、行政文)
書の開示を請求することができると規定している(情報公開法3
条。このように、情報公開法の定める開示請求制度は、政府の説)
明責務という観点から、同一の行政情報を広く国民一般に公開され
ることを前提とし、何人に対しても、請求の目的のいかんを問わず
等しく開示請求を認める制度である。
このような制度趣旨からすると、開示・不開示の判断に当たって
は、本人からの自己情報についての開示請求である場合も含め、開
示請求者がだれであるかは考慮されないものである。
、、イまた情報公開法により個人情報を本人に開示することの可否は
行政改革委員会行政情報公開部会においても議論されたが、同部会
は、本人開示は、個人の権利利益の保護のための制度であり、行政
部門のみならず民間部門にも共通する問題であるとして、その保有
機関による収集制限・適正管理等、本人の訂正請求の仕組み等も視
野に入れて制度を構築する必要があり、個人情報保護法制の下で自
己情報開示の問題として処理するのが本筋であると考えられるこ
と、我が国で本人開示の希望が強い分野は、医療情報と教育情報で
あり、これらについては、国立・公立・私立を問わずに共通するシ
ステムを考えるべきであり、また、本人に対してであっても、どこ
まで、また、いかなる方法でかかる情報を開示すべきかについて、
専門家の間でも意見の一致をみていないことにかんがみ、情報公開
法は、個人情報の本人開示を認める制度を盛り込まないとの方針が
採られたのである。
その後、本人に対する自己情報の開示の問題に関しては、行政機
関の保有する個人情報の保護に関する法律が制定され、平成15年
5月30日に、公布された。
このような立法経緯からすると、情報公開法は、本人情報の開示
請求であるという理由によって、特別な取扱いをすることを認めて
いないということができる。
ウ前記ア及びイ記載のように、情報公開法5条1号該当性は、開示
請求者がだれかを考慮せずに、個人に関する情報であるか否か、特
定の個人を識別することができる情報であるか否か、同号ただし書
イないしハの例外的事由があるか否かによって判断されるべきもの
である。
エまた、情報公開法8条の要件は、開示請求者に係る行政文書の存
否を答えることによって明らかになる情報が情報公開法5条各号の
不開示事由に当たることにほかならないから、上記のことは、情報
公開法8条に基づく存否応答拒否の場合でも同様である。
()ア原告は、最高裁平成9年(行ツ)第21号同13年12月183
日第三小法廷判決・民集55巻7号1603頁(以下「兵庫県条例
判決」という)を引用し、本件開示請求において、原告の権利利。
益が侵害されるおそれが存しない以上、本件不開示決定が妥当でな
いことは明らかであるなどと主張する。
イしかし、兵庫県条例判決は、公文書の公開等に関する条例(昭和
61年兵庫県条例3号。以下「兵庫県条例」という)の解釈が争。
われた事案であり、同判決も「地方公共団体が公文書の公開に関す
る条例を制定するに当たり、どのような請求権を認め、その要件や
手続をどのようなものとするかは、基本的には当該地方公共団体の
立法政策にゆだねられているところである」と判示している。そ。
うすると、兵庫県条例判決の射程は、兵庫県条例が本人開示につい
てどのような立法政策を採っているかという点に限られるものであ
り、情報公開法の解釈に何ら影響を及ぼすものではない。
ウまた、兵庫県条例判決は、個人情報保護制度が採用されていない
状況においては、情報公開制度に基づいてされた自己の個人情報の
開示請求を拒否することができないと判示しているが、これは、兵
庫県では、非公開決定がされた平成5年当時に個人情報保護条例は
全く存在せず、公の情報の開示を実現するための制度としては情報
公開条例しか存在しておらず、個人情報保護制度と情報公開制度と
が別個の法制度として分化していなかったという状態を前提とした
判断である。
これに対し、国においては、昭和63年に制定された行政機関の
保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(以下
「電算機個人情報保護法」という)が存在しており、行政機関の。
保有する電子計算機処理に係る個人情報については、一部の不開示
情報を除き、本人からの開示請求が認められていた(電算機個人情
報保護法13条、14条。さらに、平成15年5月30日には、)
本人情報の開示制度について規定した行政機関の保有する個人情報
の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という)が公布さ。
れている。このように、国においては、個人の権利利益の保護を図
ることを目的とする個人情報保護制度と、公正で民主的な行政運営
を確保することを目的とする情報公開制度とが、別個の法制度とし
て既に分化しているのであるから、情報公開制度を一時的に適宜利
用して個人情報の本人への開示を認めることは、法体系の混乱を来
すものであって、およそ制度の予定外のことであるというべきであ
る。
エさらに、情報公開法の場合には、兵庫県条例判決が判示するよう
な一時的な便宜利用が検討されながらも、早急に個人情報保護制度
を完備することを前提に、情報公開制度を一時的に便宜利用して本
人開示を行うことはしないという立法政策が採られたという経緯が
ある。
すなわち、行政改革委員会情報公開部会の「情報公開法要綱案の
考え方」八()は「他方、個人情報の保護に関する制度が整備さ1、
れるまでの措置として、情報公開法の中にも本人開示を認める制度
を盛り込むという意見もある」としながらも、様々な観点からの検
討の結果、本人開示は認めないこととし、その代わりとして「し、
かしながら、国民からは医療、教育関係情報等を中心として本人開
示を求める意見・要望等が強いことを踏まえ、関係省庁において、
個人の権利利益の保護の観点から、本人開示の問題について早急に
専門的な検討を進め、その解決を図る必要があると考える」との。
提言を行った。
上記「情報公開法要綱案の考え方」を受けて、政府は、個人情報
保護制度の整備作業に速やかに着手し、総務省に置かれた行政機関
等個人情報法制研究会において、平成13年10月26日「行政、
機関等の保有する個人情報の保護に関する法制の充実強化について
-電子政府の個人情報保護-」の報告書を取りまとめた。さらに、
平成14年3月15日には、電算機個人情報保護法を全部改正する
「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」案が国会に提
出され、平成15年3月には、同法案が再提出され、同年5月30
日、個人情報保護法が公布されたものである。
このように、情報公開法については、早急に個人情報保護制度を
完備することを前提に、情報公開法を本人開示に利用させることは
しないとの立法政策が採られ、実際にも個人情報保護制度の完備が
進められているのであるから、兵庫県条例判決とは明らかに事案が
異なる。
(三)本件文書の存否の情報が情報公開法5条1項ただし書ロに該当しな
いことについて
、「()()ア原告は本件文書に記録されている情報が人の生命…中略1
…を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」
(情報公開法5条1号ただし書ロ)に該当する旨主張する。
しかし、被告は、本件開示請求に対し、○拘置所が原告に対し頭
部CT写真を撮影したか否かという情報が情報公開法5条1号に該
当することを理由として、存否応答拒否処分をしたのであるから、
「原告のCT写真の撮影の有無」という情報が情報公開法5条1号
ただし書ロに該当するか否かが問題とされるべきであって、本件文
書の記載内容は問題とならない。
イ情報公開法5条1号ただし書ロにいう「人の生命、健康、生活又
は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情
報」については、同号に該当することを理由としては不開示とする
ことができない旨定めているところ、その趣旨は、開示することの
利益と開示されないことの利益の調和を図ることにあるから、個人
情報については、公にすることにより害されるおそれがある当該情
報に係る個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性
が上回るときに、当該情報を開示しなければならないとするもので
ある。
これを本件について見ると、情報公開法5条1項ただし書ロに該
当するというためには、原告の再審請求の立証に用いるために、特
定の個人の頭部CT写真保有の有無を一般に公にする必要が認めな
ければならないところ、そのような必要性があるとは到底考えられ
ない。
()また、情報公開法5条1号ただし書ロにいう「公にすることが必2
要であると認められる」とは、その文言からして、当該情報を一般に
公開する必要性をいうものであって、請求者個人に開示する必要性を
指すものではないと解すべきである。そうすると、通常、特定の個人
が頭部CT写真撮影を受けたか否かという情報を一般に公開する必要
はないと考えられる。
()原告は、頭部CT写真の開示を得て、これを原告に係る刑事事件3
についての再審請求において利用することを考えており、そのことが
薬物事案を解明するという意味で社会的利益に資する側面がある旨主
張する。
しかし、原告の主張の実質は、原告の個人的必要性をいうものであ
る上、本件で公にする必要性の有無を検討すべき情報は、原告の頭部
CT写真の撮影の有無であるから、原告の主張を前提としても、この
ような事実の有無が薬物事案の解明に役立つとは到底考えられない。
()また、原告は、医療記録の開示等についてもるる主張するが、医4
療記録の開示は患者本人に対するものであって、医療記録を公にする
制度ではないから、この点は、情報公開法5条1号ただし書ロと何ら
関係しない。
(四)本件文書に記録されている情報自体も情報公開法5条1号本文前段
の個人識別情報に該当する。また、本件文書に記録されている情報が情
報公開法5条1号ただし書ロに該当することも争う。
2原告の主張
(一)本件文書に記録されている情報が情報公開法5条1号本文前段に該
当しないことについて
()以下に述べるとおり、本件不開示決定当時、情報公開法による自1
己情報の本人開示請求は認められるべきであり、本件文書に記録され
ている情報は情報公開法5条1号本文前段に該当しない。
ア情報公開制度において個人情報が不開示情報とされるのは、個人
情報保護制度の保護の対象と同じ個人の権利利益を保護するためで
あると解されるところ、請求者の自己情報については、開示された
としても、請求者の権利利益が侵害されるおそれが存しない。そう
すると、情報公開制度において、本人情報の不開示決定は認められ
ないというべきである。
イ自己情報の開示請求制度を定める法律として、個人情報保護法が
制定されているが、個人情報保護法の施行は、平成17年4月1日
である。本件不開示決定当時、自己の個人情報の開示を求める方法
は、情報公開法に基づく開示請求に限られていたものである。
ウ原告が、本件開示請求をした平成16年4月12日当時、原告が
本件文書の開示を求めるためには、情報公開法に基づく請求しかで
きなかった。
、、、すなわちこの時点では個人情報保護法は成立していたものの
施行はされていなかった。また、電算機個人情報保護法は存在して
いたが、開示される情報が電子計算機処理に係る個人情報に限られ
ていたので、本件文書であるCT写真は開示対象に該当していなか
ったのである。このような状況は、兵庫県条例判決の指摘する、情
報公開法制はあるが、個人情報保護法制が完備されていない、いわ
ば「跛行状態」と全く同一である。
なお、別件再審請求事件の請求人弁護人でもある原告訴訟代理人
らは、○拘置所長に対し、平成15年11月13日、弁護士法23
、、条の2に基づき本件開示請求と同様の内容の照会請求を行ったが
○拘置所長は、平成15年12月3日付け回答により、理由を付さ
ずに、本件文書の開示を拒否している。
()ア兵庫県条例判決においても、個人情報保護制度の施行に先立っ2
てされた情報公開制度に基づく自己情報の公開請求に対し、行政機
関は請求に答えて公開すべきこととされている。
イ兵庫県条例判決は、判断の前提として、①情報公開条例が先に制
、、定されいまだ個人情報保護条例が制定されていない状態の下では
公文書の開示を求める方法は情報公開条例において認められている
請求を行う方法に限られていること、②情報公開制度と個人情報保
護制度は異なる目的を有する別個の制度ではあるものの、共に公の
情報の開示を実現するための制度であること、③情報公開制度にお
いて個人情報が非公開とすべき情報とされているのは、個人情報保
護制度と共通の理由によるものであること、④情報公開制度は限定
列挙された非公開情報に該当する場合にのみ例外的に公開請求を拒
否することができるものであることを指摘しているところ、上記①
ないし④の状況は本件の場合と全く同様である。
ウまた、兵庫県条例判決は、①自己の個人情報であること、②情報
の本人による公開請求であることが公開請求それ自体により明らか
であること、③兵庫県条例には自己情報の開示請求を許さない趣旨
の規定等は存在しないこと、④個人情報保護制度が採用されていな
かったことを理由として、本人からの分べんに関する診療報酬明細
書を非公開とした兵庫県の処分を違法としたところ、この理由は本
件にも妥当する。
エ兵庫県条例判決は、いわゆる個人識別型非公開事由を定めた兵庫
県条例について「自己の個人情報を開示することが許されない趣、
旨の規定」ではなく、本人請求を許すか否か明確でない旨判断して
いる。情報公開法5条1号の規定も、いわゆる個人識別型の非公開
事由を定めており、兵庫県条例と同様の規定方法である。
したがって、単なる個人識別型非公開規定を定めた情報公開法5
条1号は、本人が請求する個人情報の公開を許容する余地があるも
のというべきである。
これに対し、東京都個人情報の保護に関する条例30条1項は、
「個人情報に係る本人からの開示請求については、この条例による
ものとし、情報公開条例は適用しない」と規定しているから、東京
都においては、情報公開条例に基づく本人請求は認められないこと
は明らかである。本件の場合には、個人情報保護法はいまだ施行さ
、。れていなかったのであるから東京都の条例の場合とは全く異なる
()ア被告は、情報公開法の立法過程を挙げて「個人識別情報」は3、
本人請求の場合を含めて非公開である旨主張する。
しかし、立法者の意思は、一律に本人開示を認める考え方を採ら
なかったというにとどまる。立法者の意思が、本件のように、弊害
の全くない状況において、情報公開法による開示請求のほかに手段
のない時期に、しかも極めて緊急性の高い状況下の本人による開示
請求をも、個人識別情報であるからといって開示を認めないもので
あったということはできない。
イ被告は、個人情報保護制度と情報公開制度とは別個の法制度であ
るから、情報公開制度を一時的に便宜利用して本人開示を認めるこ
とは、法体系の混乱を来す旨主張する。
しかし、個人情報保護法の施行は平成17年4月1日であり、さ
らに、被告は、医療記録が原則開示されることになっているにもか
かわらず、開示しなかったのであるから、原告としては、情報公開
法による開示を求めるしかなかったのであって「混乱を来す」原、
因を作ったのは、むしろ被告である。
ウ被告は、情報公開法5条1号の制度趣旨及び立法趣旨から、本人
情報の開示請求に対する不開示決定が適法である旨主張する。
しかし、そもそも同条は「開示義務」を定めた規定である。そし
て、情報公開法5条1号の「不開示情報」は、個人の権利利益を守
るために規定されているものであることも明らかである。
(二)本件文書に記録されている情報が情報公開法5条1項ただし書ロに
該当することについて
()情報公開法5条1号ただし書ロは「人の生命、健康、生活又は1、
財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」
の開示を義務付けている。そこで、情報公開請求に係る文書が情報公
開法5条1号の不開示事由に該当する場合であっても、個々の事例に
おける特殊な事情によっては、不開示によって保護される利益よりも
開示によって保護される利益の方が優越する場合が認められるのであ
り、開示・不開示の判断に際し、それぞれの利益の具体的性格を慎重
に検討する必要性が求められている。
()ア原告は、2名に対する○罪及び1名に対する○罪につき○判決2
が確定しており、現在、○の実行行為の有無及び態様並びに責任能
力の有無等を理由に再審を請求中である(別件再審請求事件。原)
告は少年期からシンナーを常習的に吸引しており、シンナーの影響
により原告の大脳に不可逆的損傷を被っていることが容易に推察さ
れるから、再審請求理由の証明には、専門家による頭部CT写真に
基づく診断が不可欠である。
また、本件において「不開示により保護される利益」は存在せ、
ず、一方、不開示による不利益は、原告の再審請求理由の証明が阻
、。害され原告の生命という法益が侵害されるおそれに直結している
よって、本件開示請求の対象とする本件文書である原告の頭部C
T写真に記録されている情報は「人の生命…(中略)…を保護す、
るため、公に明らかにすることが必要であると認められる情報」に
該当する。
イさらに、別件再審請求において、前記確定判決の罪に問われてい
る○行為等が有機溶剤による薬物中毒によって誘発されたことを明
らかにすることが、ひいては薬物中毒の深刻さを社会に対して明ら
かにすることにもなるのであり、別件再審請求には、薬物事案を解
明するという意味で社会的利益に資する側面もある。そのような意
味で、原告の頭部CT写真は、自己情報でありながら「公」の意味
合いを持つものである。
ウ原告の健康上の観点からも、本件文書を確認する必要がある。す
なわち、原告の言うところによれば、長期にわたる有機溶剤中毒に
よる精神病である可能性もあることから、原告の頭部CT写真の開
示を得て、精神科の医師に意見、判断を求める必要がある。なお、
原告訴訟代理人堀井準は、平成15年7月22日付けで、○拘置所
長に対して、弁護士法23条の2に基づく照会をしたが、これに対
する○拘置所長からの平成15年8月13日付け回答には「平成、
12年▲月▲日、頭部CT施行し、異常所見は認められなかった」
との記載がある。
エ加えて、医療情報は、医学の発展という社会的目的のために提供
する場合もある。
()ア以下で述べるとおり、本件文書である頭部CT写真は、原告本3
人の医療記録であり、診療記録であるところ、本件不開示決定がさ
れた平成16年5月10日当時、医療記録の原則開示の流れが定着
していたということができる。
イすなわち、①厚生省の「カルテ等の診療情報の活用に関する検討
」、、、、会は平成10年6月に報告書を作成したがその中で法律上
開示請求権及び開示義務を定めることには大きな意義があり、今後
これを実現する方向で進むべきなどと記載していた。
②日本医師会が平成11年4月に制定した「診療情報の提供に関
する指針」においては、診療記録の閲覧・謄写請求に対しては、原
則としてこれに応じるべきことが定められた。
③日本医師会では、平成12年1月「診療情報の提供に関す、『
る指針』に基づき、患者に対する適切な診療情報提供を実践するに
、、」あたりこれからの望ましい診療録診療記録のあり方を検討する
ものとして、日本医師会医事法関係検討委員会が「診療録のあり方
について-適切な診療情報の提供を促進するために」を答申した。
④上記の動きと前後して、平成11年2月には「国立大学付属病
院における診療情報の提供に関する指針」が、同年10月には「都
立病院における診療情報の提供に関する指針」が、平成12年7月
には「国立病院等における診療情報の提供に関する指針」が、それ
ぞれ定められた。それらの中では、開示の対象として、診療録のみ
ならず、看護記録、検査記録、エックス線写真等が広く定められ、
開示請求をし得るもの者として、患者本人、法定代理人等が掲げら
れ、医療側の判断により、又は請求者の求めにより、要約書を交付
することができるとされており、また、紛争処理のための機関を設
けたり、難しい事例の判断等のために委員会の設置を定めたりして
いる。
⑤日本医師会が平成14年10月に制定した「診療情報の提供に
関する指針(第2版」においては「医師および医療施設の管理)、
者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求
めた場合には、原則としてこれに応ずるものとする」と定められて
いた。
⑥厚生労働省が平成15年9月に策定した「診療情報の提供等に
関する指針」においては「医療従事者等は、患者等が患者の診療、
記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければなら
ない」と定められていた。。
なお、これらの指針においては、医療側が開示を拒むことができ
る場合としては、①患者本人に対する悪影響が予測される場合、②
第三者の利益が損なわれることが予測される場合が共通して定めら
れている。
、、ウ原告訴訟代理人が○拘置所長に対し平成15年11月13日に
弁護士法23条の2に基づき、本件開示請求と同様の内容の照会請
求を行ったところ、○拘置所長から本件文書の開示を拒否された当
時、医療記録の原則開示の流れは定着しており、同年5月30日に
は、個人情報保護法も公布されていた。
すなわち、被告が主張するとおり、行政改革委員会情報公開部会
は「情報公開法要綱案の考え方」八()において「国民からは医、、1
療、教育関係情報等を中心として本人開示を求める意見・要望等が
強いことを踏まえ、関係省庁において、個人の権利利益の保護の観
点から、本人開示の問題について早急に専門的な検討を進め、その
解決を図る必要があると考える」との提言を行っていたが、その。
経過を受けて、関係省庁等において「専門的な検討」が進められた
結果、様々な指針が策定され、医療記録について、原則開示の流れ
が定着したのである。
(三)事態の切迫性等について
()原告の頭部のCT写真の撮影が行われたこと自体は、原告本人に1
は自明の情報であり、また、○拘置所も原告の頭部CT写真の撮影を
行った事実を認めていること、前記のとおり、やむを得ず、被告に対
し情報公開請求をするに至ったことに照らすと、被告の本件不開示決
定は、極めて形式的に判断したもので、不当である。
()前記のとおり、原告は、再審を請求中であり、再審請求理由の証2
明には、専門家による頭部CT写真に基づく診断が不可欠である。○
拘置所における原告に対する頭部CT写真の撮影は、心身に異常を来
しているとの原告からの度重なる訴えがあったことから行われたので
ある。原告は、平成14年3月に、原告訴訟代理人らに対し、自らの
心身の異常症状を記録し、異常症状を訴えてきたが、その後、頭部C
T写真の撮影が行われた後も、原告訴訟代理人らに対して、心身の異
常を訴えている。原告の健康被害の訴えは深刻なものであり、健康上
の観点からも、実施されたことの明らかな頭部CT写真撮影の結果を
早急に入手する必要があった。
以上の観点から、本件開示請求は急を要するものであった。

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