弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年6月28日判決言渡
平成12年(行ウ)第10号 登記協力金支払差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年2月26日
          判         決
          主         文
    1 原告らの請求をいずれも棄却する。
    2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 被告らは,千葉県に対し,各自金160万円の支払をせよ。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
第2 事案の概要
   本件は,原告らが,相続財産管理人選任申立手続費用の支払が違法であると
主張して,地方自治法2
  42条の2第1項4号(住民訴訟)に基づき,被告らに損害賠償を求めた事案
である。なお,立証は,
  証拠目録記載のとおりであるから,これを引用する。
 1 争いのない事実等
  (1)原告千葉県市民オンブズマン連絡会議は,千葉市に主たる事務所を置く権
利能力なき社団であり,
   原告Aは,千葉県の住民である。
    また,(3)の支出当時,被告Bは,千葉県企業庁長((2)の地方公営企業
の管理者)の地位にあっ
   た者,被告Cは,千葉県企業庁ニュータウン整備部用地課長の地位にあった
者である。
  (2)千葉県は,千葉県の船橋市,印西市等2市1町2村にまたがる地域に「千
葉ニュータウン」の建設
   を計画し,これに関する土地造成整備事業を地方公営企業として実施した。
  (3)千葉県印西市a所在の約214ヘクタールの土地は,千葉ニュータウン建
設予定地内にある。とこ
   ろが,千葉県が真実の土地所有者と認めて土地を買収して登記を経由したこ
れらの土地については,
   別人を所有名義人とする登記(旧登記)が併存しているという変則的な状況
にあった。そこで,千葉
   県は,旧登記名義人に謝礼を支払ってこの登記名義を千葉県に移転したう
え,旧登記の方を重複登記
   として抹消することとした。ところが,上記の土地のうち千葉県印西市aほ
か2筆の土地(以下「本
   件土地」という。)については登記名義人の法定相続人のあることが明らか
でなかったため,千葉県
   (企業庁)が千葉家庭裁判所佐倉支部に相続財産管理人の選任の申立てをし
(平成8年(家)第128
   3号ないし第1285号,平成9年(家)第190号),裁判所で選任された
相続財産管理人によって
   登記名義の移転が行われた。千葉県は,これらの事件の予納金160万円を
支出したが,その全額が
   相続財産管理人の報酬とされた(以下「本件支出」という。)。本件支出の
本来的な権限は,被告B
   に属しているが,本件支出については被告Cが専決処理した。
  (4)原告らは,本件支出が違法であるとして,平成11年11月26日,千葉
県監査委員に対して,住
   民監査請求をし,同委員は,平成12年1月20日,同監査請求を棄却する
旨の決定をした。
  (5)原告らは,平成12年2月2日,本件訴えを提起した。
    (以上の事実は,当事者間に争いがないか,証拠〔甲2,乙4,11の1
ないし4,12,13〕
    及び弁論の全趣旨によって認める。)
 2 争点
  (1)本件支出は違法か。すなわち,旧登記名義人は真正な所有者であり,これ
らの登記の抹消は無効で
   あるから,そのような抹消をするための費用の支出も違法となるか。
   ア 原告らの主張
     旧登記名義人は,本件土地の真正な権利者であるから,これらの者に対
する登記名義の抹消は無
    効である。そうすると,本件支出は,無効な登記を行うためになされたも
のであり,不必要なもの
    であって,違法である。
   イ 被告らの主張
     本件土地を含む二重登記状態の土地は,昭和15年に逓信省の航空機乗
員養成所用地として,昭
    和18年ころは陸軍省の飛行場用地としていずれも国に買収されたが,一
部については移転登記が
    されないまま放置された。本件においては,旧登記が実質的権利を反映す
るものではない。一方,
    二重登記状態を解消しなければ土地を処分することができず,事業を遂行
できなかったことから,
    これを抹消する必要が生じた。そこで,千葉県は,一旦千葉県が旧登記名
義人から移転登記を受
    け,新旧の登記簿上の名義人となった上で,旧登記を抹消するのが合理的
であると判断したが,本
    件土地については,旧登記名義人の相続人が存在しなかったので,当該土
地の真正な権利者である
    千葉県が利害関係人として民法952条に基づいて相続財産管理人選任の
申立てを行った。千葉県
    は,これらの手続に要した費用を千葉家庭裁判所佐倉支部の決定により支
払ったもので,何らの違
    法もない。
  (2)被告Bは,被告Cが違法な行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務
に違反したか。
   ア 原告らの主張
     平成5年ころから,多くの地方自治体で税金の不正支出に対する住民の
追求,批判が厳しくな
    り,平成7年8月には自治事務次官から都道府県知事宛に通知が発せられ
て注意が喚起された。そ
    れにもかかわらず,被告Bは,企業庁長として被告Cが財務会計上の違法
行為を行うことを阻止す
    るよう指揮監督するなど適切な対応をせず,指揮監督上の義務に違反して
いる。
   イ 被告らの主張
     被告Bは,補助職員である被告Cを適切に指揮監督しており,被告Bに
賠償責任が生じる余地は
    ない。
第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
   前記争いのない事実等,証拠(甲2,乙6)及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められる。
  (1)本件土地を含む千葉県印西市a周辺の土地は,もともと付近住民が草刈場
として利用する入会地で
   あったが,昭和15年に逓信省がその一部を飛行場用地として取得し,昭和
18年ころには陸軍省が
   買収した。終戦後,本件土地は,国有地として大蔵省,農林省に所管換えさ
れたが,農林省は,昭和
   24年以降,登記簿を閉鎖しないまま,新番地を付して自作農創設特別措置
法(昭和21年法律第4
   3号)に基づくいわゆる農地解放として,個人に売り渡した。このような経
緯により,本件土地は,
   新旧の登記が併存する状態となった。
  (2)千葉県は,総合的な都市づくりを進めると共に,首都圏における住宅・宅
地需要に対応した計画的
   な住宅・宅地用地の供給を目的として,本件土地所在地を含む千葉県船橋市
及び同県印西市等の2市
   1町2村にまたがる地域に千葉ニュータウンの建設を計画し,昭和42年2
月に用地買収を開始し,
   その後都市計画法(昭和43年法律第100号)18条1項による都市計画
決定を受け,昭和45年
   3月には造成工事に着手した。同事業に当たっては,新住宅市街地開発法に
よる不動産登記に関する
   政令(昭和40年政令第330号)第6条に基づき,事業地内の土地の全部
について千葉県が所有権
   を取得した上でその所有権の登記を全て抹消し,同時に8条により新たに土
地の表示の登記を嘱託
   し,新番地を設定しなければならないとされているため,従来の土地登記簿
を全て閉鎖し,これを抹
   消することが必要とされた。
  (3)千葉県は,(1)の経緯から,本件土地の真正な所有者は農地解放による新
登記名義人であると判断
   し,これらの権利者から土地を取得した。一方,旧登記の土地登記簿を閉鎖
するため,旧登記名義人
   から千葉県が千葉県が一旦移転登記を受け,新旧両方の名義人となった上
で,旧登記を抹消すること
   とした。千葉県は,二重登記の抹消を円滑に進めるため,昭和45年から旧
登記名義人に対して抹消
   協力金を支払っていたが,平成2年2月,旧登記を抹消するため協力金を交
付すること,交付対象者
   は旧登記に表示されている所有権にかかる登記名義人及びその包括承継人と
することなどを内容とす
   る「二重登記抹消協力金交付要綱」を定めた。
 2 判断
   同一の土地についていわゆる二重登記がある場合,新登記は二重登記として
効力を有しないから,真
  実の土地権利者が対抗力を具備するには,新登記の移転登記を経由したことで
は足らず,旧登記名義人
  から登記名義を得ることが必要になる(最高裁昭和40年(オ)第992号同4
1年9月29日第一小法
廷判決・訟務月報12巻12号1626頁参照)。したがって,本件土地を取
得した千葉県としては,
  対抗力を具備するため,旧登記名義人から登記名義を取得する必要があり,そ
のために要する費用の支
  出に相応の根拠があるというべきである(なお,前認定の事実に照らせば,旧
土地の登記名義人は,い
  わゆる名義残りのものにほかならず,本件土地の真実の所有者が新登記名義人
であることが明らかであ
  る。)。
   しかも,千葉県が「千葉ニュータウン事業」を進める際,事業地内の土地全
部について所有権の登記
  を全部抹消する必要があることは前認定のとおりであるから,この点からも,
そのために要する費用の
  支出に相応の根拠があるというべきである。
   そして,本件支出が上記の費用に当たることは明らかであり,これが不必要
であるとする原告らの主
  張を採用することはできないから,その余の点について判断するまでもなく,
原告らの本訴請求は理由
  がない。
第4 結論
   以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟
費用の負担につき行政事
  件訴訟法7条,民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。
   千葉地方裁判所民事第三部
         裁判長裁判官    園   部   秀   穂
            裁判官    向   井   邦   生
     裁判官 今泉秀和 は,転補のため,署名押印することができない。
         裁判長裁判官    園   部   秀   穂

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛