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裁判例


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       主   文
一 本件訴えのうち、平成四年度ないし平成六年度における記念品料の支給が違法
であることを理由とする損害賠償請求及び不当利得返還請求に係る部分を却下す
る。
二 被告Aは、愛知県に対し、金一一〇万円及びこれに対する平成八年七月六日か
ら支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Bは、愛知県に対し、金二〇万円を支払え。
四 被告Cは、愛知県に対し、金一〇万円を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用のうち、原告らに生じた費用の三〇分の一及び被告Aに生じた費用の
一〇分の一を被告Aの負担とし、原告らに生じた費用の一〇〇分の一及び被告Bに
生じた費用の三分の二を同被告の負担とし、原告らに生じた費用の一〇〇分の一及
び被告Cに生じた費用を同被告の負担とし、その余の費用を原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告A、被告D及び被告Eは、愛知県に対し、各自金二三九万円及びこれに対
する平成八年七月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告A、被告F及び被告Gは、愛知県に対し、各自金五二五万円及びこれに対
する平成八年七月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告A、被告H及び被告Gは、愛知県に対し、各自金八五三万円及びこれに対
する平成八年七月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告Iは、愛知県に対し、金二〇万円を支払え。
五 被告Jは、愛知県に対し、金一〇万円を支払え。
六 被告Kは、愛知県に対し、金四〇万円を支払え。
七 被告Lは、愛知県に対し、金一〇万円を支払え。
八 被告Bは、愛知県に対し、金三〇万円を支払え。
九 被告Cは、愛知県に対し、金一〇万円を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 当事者について
(一) 原告らは、愛知県の住民である。
(二) 被告Aは、愛知県知事(以下「知事」という。)の職にある者である。
(三) 被告Dは、平成五年四月一日まで、被告Fは、同日から平成六年四月一日
まで、被告Hは、同日から平成八年四月一日まで、それぞれ愛知県総務部財政課の
総務予算担当課長補佐の職にあった者である。
 被告Eは、平成五年四月一日まで、被告Gは、同日から平成八年四月一日まで、
それぞれ愛知県出納事務局出納課課長補佐の職にあった者である。
(四) 被告Iは、平成三年一二月から平成四年五月まで、被告Kは、同月から平
成六年五月まで、それぞれ愛知県議会議長(以下「議長」という。)の職にあった
者である。
 被告Jは、平成三年五月から平成四年五月まで、被告Lは、同月から平成五年五
月まで、それぞれ愛知県議会副議長(以下「副議長」という。)の職にあった者で
ある。
 被告Bは、平成五年五月から平成六年五月まで、副議長の職に、同月から平成七
年五月まで、議長の職にあった者である。
 被告Cは、平成六年五月から平成七年五月まで、副議長の職にあった者である。
2 平成七年度における記念品料の支給について
(一) 愛知県は、国家褒章(藍綬褒章)を受賞した愛知県議会議員(以下「議
員」という。)二名に対して各二〇万円を、記念品料として支給した。その支出負
担行為及び支出命令は、平成七年四月二五日に行われ、同年五月二日に支出がされ
た(別紙(一)の決議番号三一一〇一号)。
 愛知県は、平成七年五月に議長を退任した被告Bに対して二〇万円、同月に副議
長を退任した被告Cに対して一〇万円を、記念品料として支給した。その支出負担
行為及び支出命令は、平成七年五月一一日に行われ、同年五月二二日に支出がされ
た(別紙(一)の決議番号四七二〇一号)。
 愛知県は、国家褒章(藍綬褒章)を受賞した議員二名に対して各二〇万円を、記
念品料として支給した。その支出負担行為及び支出命令は、平成七年一〇月三一日
に行われ、同年一一月七日に支出がされた(別紙(一)の決議番号四五五七〇一
号)。
(二) 愛知県は、右(一)の各支給を、地方自治法施行規則一五条、別記歳出予
算に係る節の区分8「報償費」として行った。
 愛知県事務決裁規程(昭和四〇年愛知県訓令第二五号)一〇条及び別表第2によ
り、報償費の支出負担行為及び支出命令は課長補佐専決事項とされており、右
(一)の各支給についての支出負担行為及び支出命令は、愛知県総務部財政課課長
補佐であった被告Hが専決した。
 愛知県行政組織規則一四条及び愛知県出納事務決裁内規九条別表第1により、報
償費の支払の決定に関することは課長補佐専決事項とされており、右(一)の各支
給についての支出は、愛知県出納事務局出納課課長補佐であった被告Gが専決し
た。
3 住民監査請求について
 原告らは、平成八年二月二六日、別紙(一)記載の一五件を含む三八件につい
て、これらは、議員に対する報償費の支給で、法律、条例に基づかないものである
から違法であるとして、住民監査請求をした(以下「本件監査請求」という。)。
 愛知県監査委員は、本件監査請求について、平成八年五月二〇日付けで、一部不
適法であるとして却下したほか、他の部分については理由がないとした。
二 原告らの主張
1 愛知県は、平成四年から平成七年にかけて、議員に対して、別紙(一)記載の
とおり、「報償費」として記念品料の支給をした(このうち、平成七年度分は、右
一2のとおりである。)。
2 右記念品料は、愛知県のいわゆる内規である「自治功労者に対する記念品料及
び弔慰金支給基準(昭和六三年四月一日整理)」(甲3、以下「本件支給基準」と
いう。)に基づき支給されたもので、全国都道府県議長会の自治功労表彰を受章し
た議員、叙勲を受けたり国家褒章を受章した議員、議長や副議長を退任した議員に
対して支給されたものである。
 右記念品料について、法律、条例には、何ら定めがない。
 法律、条例に定めることなく、単なる内規により議員に現金を交付することは、
それが社会通念上の儀礼の範囲にとどまると認められる場合を除き、法律、条例に
基づかずに職員に対して給与その他の給付を行うことを禁止した地方自治法(以下
「法」という。)二〇四条の二に違反することになる。
 本件の場合、議員に支払われた金額は一〇万円から五〇万円であるので、社会通
念上の儀礼の範囲にとどまるものではない。
 したがって、右記念品料の支給は、法二〇四条の二に違反しており、無効であ
る。
3 被告Aは、知事として、右記念品料の支給に係る支出負担行為及び支出命令を
行う権限を法令上本来的に有している者であるところ、右記念品料を直接議員に手
渡していたのであるから、その金額を認識していたものである。また、被告Aは、
右記念品料の支給が法律、条例に定めのないものであることも認識していたと考え
られる。したがって、被告Aは、専決職員を指揮監督して、その支給を阻止する義
務があったにもかかわらず、故意又は過失により、それを怠り、愛知県に右支給金
額全額に相当する額の損害を被らせたということができるから、その損害を愛知県
に対して賠償する責任がある。
4 被告D、被告F及び被告Hは、右記念品料の支給に係る支出負担行為及び支出
命令について専決権限を有しており、現実に専決を行った者であるところ、これら
の被告は、右記念品料の支給が法律、条例に定めのないもので、法二〇四条の二に
違反することを知りながら、右専決を行ったから、これらの被告には故意又は重過
失があり、被告Dは、平成四年度の支給金額に相当する額の損害について、被告F
は、平成五年度の支給金額に相当する額の損害について、被告Hは、平成六年度及
び平成七年度の支給金額に相当する額の損害について、それぞれ愛知県に対して賠
償する責任がある。
5 被告E及び被告Gは、右記念品料の支給に係る支出について専決権限を有して
おり、現実に専決を行った者であるところ、これらの被告は、右記念品料の支給が
法律、条例に定めのないもので、法二〇四条の二に違反することを知りながら、右
専決を行ったから、これらの被告には故意又は重過失があり、被告Eは、平成四年
度の支給金額に相当する額の損害について、被告Gは、平成五年度ないし平成七年
度の支給金額に相当する額の損害について、それぞれ愛知県に対して賠償する責任
がある。
6 被告Iは、議長の退任に当たり二〇万円、被告Jは、副議長の退任に当たり一
〇万円、被告Kは、議長の退任に当たり四〇万円、被告Lは、副議長の退任に当た
り一〇万円、被告Bは、副議長の退任に当たり一〇万円、議長の退任に当たり二〇
万円、被告Cは、副議長の退任に当たり一〇万円を、それぞれ右記念品料として受
領した。これらの被告は、右の受領した金員を愛知県に返還すべき義務がある。
7 よって、原告は、被告A、被告D、被告F、被告H、被告E及び被告Gに対し
ては、法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に対する損害賠償の請求として、
被告I、被告J、被告K、被告L、被告B及び被告Cに対しては、同号の「当該行
為に係る相手方」に対する不当利得返還請求として、第一記載の各金員を支払うこ
とを求める(付帯請求は遅延損害金の請求である。)。
8 なお、本件監査請求及び本件訴訟の対象となっている別紙(一)記載の一五件
のうちには、財務会計行為(支出負担行為、支出命令及び支出)の日から一年を経
過した後に本件監査請求がされたものがあるが、次のとおり、法二四二条第二項た
だし書が規定する「正当な理由」があるから、右監査請求は適法である。
(一) 原告らは、平成七年一二月二五日、愛知県総務部財政課の平成六年度にお
ける報償費の支出金調書の公開を受けた。それには、記念品料が支給されたことが
記載されているのみで、それが、自治功労表彰を受章した議員、叙勲を受けたり国
家褒章を受章した議員、議長や副議長を退任した議員に対して現金が支給されたも
のであることは分からない。
(二) 原告らは、平成七年一二月二六日付けの新聞報道によって、自治功労表彰
を受章した議員、叙勲を受けたり国家褒章を受章した議員に対して、記念品料とし
て現金が支給されていたことを知ったのであり、議長や副議長を退任した議員に対
して記念品料として現金が支給されていたことは、平成八年五月二〇日付けの新聞
報道によって知った。
(三) 自治功労表彰を受章した議員、叙勲を受けたり国家褒章を受章した議員、
議長や副議長を退任した議員に対して、記念品料として現金が支給されていたこと
は、右新聞報道がされるまでは一般に公表されておらず、知事と財政課の担当職
員、支給を受ける議員しか知らなかったものである。また、本件支給基準も、いわ
ゆる内規であるから、その存在は一般に知られていなかった。したがって、本件監
査請求の対象となっている記念品料の支給は、秘密裡に行われていたものである。
(四) 原告らは、右のとおり平成七年一二月二六日付けの新聞報道によって知っ
た後二か月以内に本件監査請求をしたのであるから、当該行為を知ることができた
時期から相当な期間内に住民監査請求をしたということができる。
(五) よって、法二四二条第二項ただし書が規定する「正当な理由」がある。
三 被告ら及び参加人の主張
1 本案前の主張
(一) 本件監査請求及び本件訴訟の対象となっている別紙(一)記載の一五件の
うち、平成四年度から平成六年度までの間にされたもの(以下「本件平成四年度な
いし六年度支給」という。)については、その支給に係る財務会計行為(支出負担
行為、支出命令及び支出)がされた日から一年を経過した後に本件監査請求がされ
た。
(二) 本件平成四年度ないし六年度支給に係る本件監査請求には、次のとおり法
二四二条第二項ただし書が規定する「正当な理由」はない。
(1) 右「正当な理由」があるというためには、当該行為が秘密裡にされたこと
が必要であるところ、本件平成四年度ないし六年度支給は、法及び財務規則に基づ
き、所定の支出負担行為、支出命令等の手続を経て、通常の財務会計行為として支
出がされており、予算の範囲内の支出であり、愛知県議会において決算の認定を得
ているのであるから、秘密裡に行われたものではない。
(2) 仮に、本件平成四年度ないし六年度支給が秘密裡にされたとしても、当該
行為を知ることができたときから相当な期間内に住民監査請求をしないと、右「正
当な理由」があるということはできないが、本件については、右「相当な期間」は
「一か月」と解すべきである。
 本件平成四年度ないし六年度支給に係る公文書は、翌年度の六月一日以降いつで
も公文書公開請求をすることによって見ることができたし、本件支給基準について
も、作成された昭和六三年四月一日以降、公文書公開請求をすることによって見る
ことができたのであるから、原告らは、各支給の翌年度の六月以降は、本件監査請
求を行うことが可能であった。それにもかかわらず、原告らは、翌年度の六月のう
ち最も遅い平成七年六月から八か月も経過した後になって本件監査請求を行ったの
であるから、当該行為を知ることができたときから相当な期間内に住民監査請求を
したということはできない。
 また、原告らは、平成七年一二月二六日付けの新聞報道により前に、自治功労表
彰を受章した議員、叙勲を受けたり国家褒章を受章した議員に対して、記念品料と
して現金が支給されていたことを知っていたのであるが、仮に右新聞報道によって
知り、そこから「相当な期間」を起算するとしても、そのときから二か月後に本件
監査請求をしたのであるから、相当な期間内に住民監査請求をしたとはいえない。
(三) したがって、本件平成四年度ないし六年度支給に係る本件監査請求は、不
適法であり、本件訴訟のうち本件平成四年度ないし六年度支給に係る部分は、適法
な監査請求を経ておらず、不適法である。
2 本案について
(一) 別紙(一)記載の一五件のうち平成七年度の支給(右一2の支給、以下
「本件平成七年度支給」という。)の適法性について
(1) 本件平成七年度支給のうち、決議番号三一一〇一と四五五七〇一の支給
は、当該議員の地方自治への永年の功績等が国家的に認められ、国家褒章(藍綬褒
章)を受章したことに対する祝意を表わす趣旨でされた「祝金」であり、また、決
議番号四七二〇一の支給は、議長、副議長として、各種行事への参加などを通して
本来の職務以外に県政に多大な功労があったことに対する感謝の意を表わす趣旨で
された「謝礼金」である。
(2) 法二〇四条の二が、普通地方公共団体の一般職及び特別職の職員の給与体
系の整備を図った規定であることからすると、同条の「給与その他の給付」は、普
通地方公共団体の一般職及び特別職の職員の職務に対して支給する給与、報酬、費
用弁償、旅費、退職金、その他これらに類する給付を指すものと解すべきである。
 ところで、本件平成七年度支給は、議員全員に対して一律にされたものではな
く、右のとおり、国家褒章を受章した者に対する祝金又は議長、副議長を退任した
者が本来の職務以外に県政に功労があったことに対する謝礼金の趣旨でされたもの
であるから、議員の本来的な職務から発生する報酬、費用弁償、退職金、その他こ
れらに類するものではない。
 したがって、本件平成七年度支給に法二〇四条の二の適用はないというべきであ
る。
(3) 仮に、本件平成七年度支給に法二〇四条の二の適用があるとしても、当該
給付が社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り、同条に反することはない。
 藍綬褒章の受章者は、年齢が五五歳以上六五歳以下であり、都道府県議会議員の
場合は在職年数が二〇年に達していることなどの基準を満たしている者で、多年地
方自治の育成発展に貢献し、功績顕著な者であり、その受章は一生涯に一回限りで
あるから、このような者に対して、祝金として二〇万円を支給することは、社会通
念上儀礼の範囲内のものである。
 また、平成四年度から平成七年度における議長、副議長に対する退任記念品料の
支給対象者である議長、副議長の議員としての平均在職期間は、議長、副議長それ
ぞれにつき一四年余りであり、このような者に対して、謝礼金として二〇万円又は
一〇万円を支給することは、社会通念上儀礼の範囲内である。
 三重県や高知県では、知事が県議会議員として長年在職した者を表彰する際に金
品が授与されている。また、新聞報道によると、全国一二の政令指定都市のうち六
市において、市議会議員として長年在職した者を表彰する際に現金が授与されてお
り、その金額を明らかにしている五市の平均額は、四九万円余りであるし、三重県
では、正副議長や議会選出監査委員の退任時にも、現金が支給されている。さら
に、公的団体においても、団体役員等が叙勲を受けたり国家褒章を受章したときに
祝金を支給したり、役員等を退任したときに謝金を支給したりすることが行われて
いるし(叙勲の記念品料三〇万円、国家褒章の記念品料一〇万円、退職慰労金一五
〇万円といった例が存する。)、民間企業においても、その役員、従業員等に対し
て、それぞれの企業が社会的に相当と考える額の祝金、弔慰金(ある調査による
と、結婚祝金については、最高一二万円、平均四万二五四七円、本人死亡弔慰金に
ついては、最高三〇〇万円、平均三五万五四九四円である。)等を支給している。
愛知県の地方公共団体としての規模からすれば、右の他の団体における支給例に照
らしても、本件平成七年度支給の金額は、社会通念上儀礼の範囲内であるというこ
とができる。
 したがって、本件平成七年度支給が法二〇四条の二に違反することはない。
(二) 損害について
 本件平成七年度支給は、法二三二条一項に基づき愛知県の事務を処理するために
必要な経費として、予算化され適法に支給されたものであるから、右支給により愛
知県に損害はない。
(三) 被告A、被告H及び被告Gの責任について
(1) 被告Aについて
 普通地方公共団体の長たる知事は、その権限に属する行為を補助職員に専決させ
ていた場合には、自ら当該行為を行ったのと同視しうる程度の指揮監督の解怠があ
る場合に限り、損害賠償を負うべきものである。しかるところ、被告Aは、本件平
成七年度支給について被告Hから決裁を求められたことがなかったので、右支給に
係る財務会計行為には全く関与しなかったものであり、右支給に係る記念品料を自
ら議員に手渡しているが、それは、社会通念上の祝意又は謝意の表れとして適法で
あるとの認識の下に手渡していたのであって、被告Aには、自ら行為を行ったのと
同視しうるような指揮監督の解怠はない。
(2) 被告H及び被告Gについて
 被告H及び被告Gは、本件平成七年度支給が、普通地方公共団体の事務を処理す
るために必要な経費であると認識して支給に係る財務会計行為を行ったものであ
り、法二〇四条の二に抵触するとの認識は全く有していなかった。しかも、国家褒
章受章の記念品料や議長、副議長に対する退任の記念品料の支給は、長年にわたり
適法な支給であると認識され継続されてきたものであり、誰からも違法であるとの
指摘を受けたことがなかった。これらのことからすると、被告H及び被告Gには、
故意又は重過失はないものというべきである。
第三 当裁判所の判断
一 本件監査請求の適法性について
1 本件平成四年度ないし六年度支給については、その支給に係る財務会計行為
(支出負担行為、支出命令及び支出)がされた日から一年を経過した後に本件監査
請求がされたのであるから、法二四二条第二項ただし書が規定する「正当な理由」
がない限り、不適法な監査請求であるというべきである。
2 そこで、右「正当な理由」があるかどうかについて判断する。
(一) 法は、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは住民
監査請求をすることができないとしている(法二四二条第二項本文)が、これは、
財務会計行為が違法又は不当なものであったとしても、いつまでも住民監査請求や
住民訴訟の対象となり得るのでは、法的安定を損なうので、行為の時から一年間を
経過した後は、住民の知不知にかかわらず、住民監査請求をすることができないこ
ととしたものである。このような監査請求期間が定められている趣旨に鑑みると、
右「正当な理由」があるということができるためには、単に住民が当該行為を知ら
なかった又は知り得なかったというだけでは足りず、当該行為が秘密裡にされたた
めに住民がその行為を知り得なかったという事情がなければならないというべきで
ある。
(二) そこで、別紙(一)記載の一五件のうち平成四年度から平成六年度までの
間にされたもの(本件平成四年度ないし六年度支給)が秘密裡に行われたかどうか
について判断する。
(1) 証拠(被告H)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
ア 本件平成四年度ないし六年度支給は、「(款)総務費、(項)総務管理費、
(目)一般管理費、(節)報償費」として、各年度の議会において定められた予算
に含まれていたものであり、また、各年度の議会において認定された決算にも含ま
れていたものである(丙11ないし14)。
イ 本件平成四年度ないし六年度支給は、通常の手続に従い、支出負担行為、支出
命令及び支出の各手続を経て支給されたものである(甲4の1ないし4、5の1な
いし5、6の1ないし3)。
 本件支給基準は、自治功労者に対して支給する記念品料等の支給に関して必要な
事項を定めた、いわゆる内規であり、自治功労者が、地方自治功労表彰を受章した
とき、叙勲を受章したとき、国家褒章を受章したとき、死亡したときのいずれかに
該当することとなった場合は、記念品料を支給することができること、その支給基
準額は、自治功労表彰を受けた場合は記念品料一五万円以上、叙勲又は国家褒章を
受けた場合は記念品料二〇万円以内、弔慰金は五〇万円であることが定められてい
る。本件平成四年度ないし六年度支給のうちには、本件支給基準に則って支給され
たものがある。
ウ 愛知県の住民は、公文書公開請求をすることによって、本件平成四年度ないし
六年度支給に係る支出金調書について、特定の個人が識別される部分及び口座番号
を除いて、閲覧するとともに、写しの交付を受けることができた(丙2、3、6、
7)。
 また、愛知県の住民は、本件支給基準について、公文書公開請求をすることによ
って、閲覧するとともに、写しの交付を受けることができた(丙4、5)。
(2) 右(1)認定の事実によると、本件平成四年度ないし六年度支給がことさ
ら隠蔽されていたなどのこれらの行為が秘密裡にされたというべき事情は認められ
ず、他にそのような事情を認めるに足りる証拠もないから、本件平成四年度ないし
六年度支給が秘密裡にされたとは認められない。
(3) 前掲甲4の1ないし4、甲5の1ないし5、甲6の1ないし3、丙11な
いし14、被告Hの供述と弁論の全趣旨によると、予算、決算の書類や支出金調書
の右公開部分のみでは、自治功労表彰を受章した議員、叙勲を受けたり国家褒章を
受章した議員、議長や副議長を退任した議員に対して現金が支給されていたことは
分からず、本件支給基準の存在も一般には知られていなかったものと認められるか
ら、右支給の事実は外部から容易に知ることができたとはいえないが、そうである
からといって、隠蔽行為等が認められない本件においては、本件平成四年度ないし
六年度支給が秘密裡にされたということはできない。
(三) したがって、右「正当な理由」は認められない。
3 よって、本件平成四年度ないし六年度支給に係る本件監査請求は、不適法な監
査請求であるから、本件訴訟のうち本件平成四年度ないし六年度支給に係る部分は
適法な監査請求を経たということができず、不適法である。
二 本案について
1 本件平成七年度支給の趣旨について
(一) 前記第二の一2(一)の事実に証拠(丙22の1、2、被告H)と弁論の
全趣旨を総合すると、本件平成七年度支給について次の事実が認められる。
(1) 本件平成七年度支給のうち、決議番号三一一〇一と四五五七〇一の支給
は、いずれも、国家褒章(藍綬褒章)を受章した議員二名に対して各二〇万円の記
念品料を支給したものである。
 右の藍綬褒章は、年齢が五五歳以上六五歳以下であり、議員としての在職年数が
二〇年に達しており、多年地方自治の育成発展に貢献した議員に対して、褒章条例
に基づいて与えられたものである。
(2) 本件平成七年度支給のうち、決議番号四七二〇一の支給は、平成七年五月
に議長を退任した被告Bに対して二〇万円、同月に副議長を退任した被告Cに対し
て一〇万円を、記念品料として支給したものである。
 議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表
する職務権限を有しており(法一〇四条)、副議長は、議長に事故があるとき、又
は欠けたときは、議長の職務を行う(法一〇六条一項)のであるが、右の平成七年
五月に退任した議長、副議長は、議会において、右のような職務を果たすばかりで
なく、議会外においても、別紙(二)のとおり、行事に出席するなどの活動を行っ
ていた。
(二) 右(一)認定の事実によると、本件平成七年度支給のうち、決議番号三一
一〇一と四五五七〇一の支給は、国家褒章を受章した議員に対する祝金の趣旨で支
給されたものと認められる。
(三) 右(一)認定の事実によると、決議番号四七二〇一の支給は、議長、副議
長が議会の内外においてその職務を果たし、県に貢献したことに対して、退任に当
たってそれを慰労する趣旨で支給されたものと認められる。
 この点について、被告ら及び参加人は、議長、副議長が、各種行事への参加など
を通して本来の職務以外に県政に功労があったことに対する謝礼金の趣旨で支給さ
れたものと主張するが、議長、副議長が別紙(二)の行事に出席したのは、一議員
又は県民としてではなく、議会を代表する者として出席したものと推認することが
できるから、それを議長、副議長の職務外のものであるということはできない上、
議長、副議長には、その退任に際して右支給とは別に退職手当が支払われていると
いう事実も認められないから、右支給の趣旨を本来の職務以外の県政に功労があっ
たことに対する謝礼金であると限定して解することはできない。
2 法二〇四条の二違反について
(一) 法二〇四条の二は、普通地方公共団体の議員、その他の職員に対して、法
律又はこれに基づく条例に基づくことなく、いかなる給与その他の給付も支給する
ことを禁じている。この規定にいう「その他の給付」は、「給与」が例示されてい
ることからすると、職員としての地位に関連して交付されるものでなければならな
いということができる。しかし、この規定は、普通地方公共団体がその職員に対し
て支給する給与その他の給付について、法律又は条例に基づくことを義務づけるこ
とによって、それらの給付の明確化を図り、曖昧な給付がされないようにするとい
う趣旨のものであるから、このような規定の趣旨からすると、右に述べた以上に、
「給与」に類するものでなければならないとして「その他の給付」の意義を限定し
て解する理由はない。
 もっとも、右規定は、普通地方公共団体の職員に対する給付であっても、社会通
念上儀礼の範囲内のものについてまで禁止しているとは解されないから、社会通念
上儀礼の範囲内のものについては、「給与その他の給付」に含まれないものという
べきである。
(二) 本件平成七年度支給のうち、決議番号三一一〇一と四五五七〇一の支給
は、国家褒章を受章した議員に対する祝金の趣旨で支給されたものであって、同様
の祝金が国家褒章を受章した議員でない県民に対しても支給されたとは認められな
いから、議員という地位に関連して支給されたものと認められる。
 本件平成七年度支給のうち、決議番号四七二〇一の支給は、議長、副議長が議会
の内外においてその職務を果たし、県に貢献したことに対して、退任に当たってそ
れを慰労する趣旨で支給されたものであるから、それは、議長、副議長という地位
に関連して支給されたものと認められる。
 したがって、右の各支給は、社会通念上儀礼の範囲内のものと認められない限
り、法二〇四条の二に違反するというべきである。
(三) そこで、右の各支給が社会通念上儀礼の範囲内のものということができる
かどうかについて判断する。
(1) 本件平成七年度支給のうち、決議番号三一一〇一と四五五七〇一の支給
は、現金でされたものである上、金額も一人当たり二〇万円と決して低額ではな
く、国家褒章の受章者に対して地方公共団体が支給する祝金としては、社会通念上
儀礼の範囲内のものということはできない。
 本件平成七年度支給のうち、決議番号四七二〇一の支給は、現金でされたもので
ある上、金額も一人当たり二〇万円、一〇万円と決して低額ではないことからする
と、この支給は、実質的には退職手当に他ならず、社会通念上儀礼の範囲内のもの
ということはできない。
(2) ところで、証拠(被告H)によると、次の事実が認められる。
ア 三重県では、知事が、県議会議員として一〇年以上在職した者や褒章条例その
他国の定めるところにより表彰された者を表彰する制度があり、それに関する規則
では、その際、金品を加授することができるとされている。また、平成八年一一月
二二日付けの朝日新聞には、三重県では、県議会議員一八名に対して、永年勤続表
彰の際及び正副議長や議会選出監査委員の退任の際に報償費として合計三一七万円
が支給された旨の報道がされている(乙10、丙9)。
 高知県では、県議会議員として永年在職した者を表彰する制度があり、それに関
する規則では、その際、金品を授与する旨定められている(丙10)。
イ 平成八年一一月二三日付けの朝日新聞によると、同新聞社が、一二の政令指定
都市において永年在職した市議会議員に表彰の際に現金が支給されているかどうか
について調べたところ、その半数に当たる六市で現金が支給されており、名古屋市
では、一〇年在職の議員に「記念品料」として五〇万円を支給し、以後五年在職ご
とに一〇万円ずつ加算して支給し、それとは別に表彰の際に議長名で一律一八万円
を支給していた。また、他の五市の支給状況は、別紙(三)のとおりであった(乙
11)。
ウ 社団法人愛知県建設業協会では、平成六年度に叙勲した副会長に記念品料とし
て三〇万円、平成七年度に国家褒章を受けた副会長に記念品料として一〇万円を贈
呈し、平成六年度に退任した会長に胸像一体(九八万八五四二円相当)を贈呈した
(丙17の1、社団法人愛知県建設業協会に対する調査嘱託の結果)。
 愛知県医師会では、平成五年度ないし平成七年度において、叙勲を受けた会員等
に対して、記念品(一〇万円相当)を贈呈したほか、平成五年度に退任した理事に
対して退職慰労金として一五〇万円、平成六年度に退任した複数の理事等に対し
て、退職慰労金として、各一〇〇万円(三人)、六〇万円(一人)、五〇万円(一
人)、三〇万円(一人)をそれぞれ支払った(丙17の2、社団法人愛知県医師会
に対する調査嘱託の結果)。
 愛知県歯科医師会では、平成六年度に退任した会長、副会長等に対して、記念品
料として、一五万円から四万円の範囲内の現金を贈呈した(丙17の3、社団法人
愛知県歯科医師会に対する調査嘱託の結果)。
エ 平成八年四月二六日発行の労政時報には、民間企業において、会社が従業員に
対して支給している祝金、弔慰金についての調査結果が掲載されているが、それに
よると、本人結婚祝金の平均額は四万二五四七円、配偶者出産祝金の平均額は七八
五七円である。本人死亡弔慰金の平均額は三五万五四九四円であるが、企業の数と
しては、一〇万円台、二〇万円台の企業が多い。配偶者弔慰金の平均額は五万四三
三五円である(丙15)。
(3) 右(2)ア認定の三重県や高知県において規則上表彰の際に授与すること
ができる又は授与するとされている金品が具体的にどのようなものであるかは、本
件全証拠によるも、明らかではない。また、三重県における報償費の支給に関する
報道も、それのみでは、具体的にどのような内容の給付が各県議会議員にされたか
は明らかではない。
 右(2)イの新聞報道によると、政令指定都市において永年在職議員に対して現
金を支給している例があるが、それでも現金を支給しているのは、調査した一二市
の半数にとどまり、その金額も、名古屋市を除いては、おおむね一〇万円以内であ
るし、証拠(被告H)と弁論の全趣旨によると、名古屋市では、右「記念品料」の
支給を取り消し、その返還を受けたものと認められる。
 右(2)ウの事実によると、愛知県内で公益を目的として設立された団体におい
て、叙勲や国家褒章を受けた会員等に対して記念品料や記念品を贈呈した例や退任
した理事等に対して退職慰労金を支払ったり胸像や記念品料を贈呈した例があるこ
とが認められる。しかしながら、社団法人愛知県建設業協会において国家褒章を受
けた副会長に贈呈された額は一〇万円であり、愛知県医師会では、叙勲を受けた会
員等に対して、記念品が贈呈されたのみであり、必ずしも本件と比べて同等若しく
は高額な現金が支給されているわけではない。もっとも、これらの団体と地方公共
団体では、構成員と運営の費用などの面において、その性格が異なるから、直ちに
同列に論じることはできない。
 また、これらの団体が、退任した理事等に対して、その団体の定める手続に従っ
て退職慰労金等を支給することは違法ではなく、これらの団体における退職慰労金
等の支給と地方自治法上認められていない法律にも条例にも根拠のない退職手当の
支給を同視することはできない。
 右(2)エの事実によると、多くの民間企業において会社が従業員に対して支給
している祝金の額は、本件平成七年度支給の金額よりもはるかに少ない。これに対
し、弔慰金は、金額が大きくなるが、本件平成七年度支給とは、その性格が大きく
異なるものである。
 したがって、右(2)認定の事実は、本件平成七年度支給は、社会通念上儀礼の
範囲内のものということはできないとの右(1)の認定を覆すに足りるものではな
い。
3 被告A、被告H、被告G、被告B及び被告Cの責任等について
(一) 被告Aについて
(1) 証拠(甲3、被告H)によると、次の事実が認められる。
ア 愛知県では、全国都道府県議長会の自治功労表彰を受章した議員、叙勲を受け
たり国家褒章を受章した議員、議長や副議長を退任した議員に対して、記念品料を
支給することを永年にわたって行ってきた。
イ 昭和六三年四月一日に本件支給基準が定められ、全国都道府県議長会の自治功
労表彰を受章した議員及び叙勲を受けたり国家褒章を受章した議員に対する記念品
料の支給は、本件支給基準に従って行われてきた。本件支給基準は、定められた後
に変更されていない。
ウ 議長や副議長を退任した議員に対する記念品料の支給については、定まった支
給基準はないが、毎年過去の例を参考に決定していた。
エ 右の記念品料は、知事が、自ら愛知県を代表して、議員に手渡していた。被告
Aは、知事の職にある期間が長く、その金額を知っていた。
(2) 右(1)の事実に証拠(被告H)と弁論の全趣旨を総合すると、被告A
は、国家褒章を受章した議員や議長、副議長を退任した議員に対して記念品料が支
給されていることを知っていたこと、その支給額は、最近においては、一定してお
り、被告Aは、その額を知っていたこと、本件平成七年度支給における支給額も、
前年までと同額であったこと、以上の各事実が認められる。
 そうすると、被告Aは、本件平成七年度支給がされるより前に、国家褒章を受章
した議員及び議長や副議長を退任した議員に対する記念品料の支給が行われている
事実並びにその支給額を知っていたものと認められる。
 なお、被告Hは、記念品料の支出負担行為について課長補佐の専決事項になって
いたが、前例に倣って支給する場合は別として、額を変更する場合には、上司の決
裁を受ける必要があったと供述し、また、「われわれでも、お金を渡すときにいく
ら入っているか知らないで渡すということはまずないので、被告Aは渡すときいく
ら入っているかを聞くのではないか。」との意見を述べており、これによれば記念
品料の金額については、本来的に権限を有する被告Aの意見が重視されていたこと
がうかがわれる。そして、前記認定のとおり、国家褒章を受章した議員に対する記
念品料は、地方自治体を代表して祝意を表するために支給されたものであり、議長
や副議長を退任した議員に対する記念品料は議長や副議長が議会の内外においてそ
の職務を果たし、県に貢献したことに対して、退任に当たってそれを慰労、感謝す
る趣旨で支給されたものであるが、このような記念品料を支給するに当たっては、
その趣旨にふさわしい金額であって社会的儀礼を失しないことを念頭においてその
金額が決定されることは、容易に推測できるところであり、社会的儀礼を失しない
かについては、事柄の性質上、長である被告Aの意見が重視されるであろうことは
想像に難くない。前記被告Hの意見は、本来的権限者である被告Aの意見を聞くこ
となく、金額や記念品料の支給自体を変更することは困難であったという、専決権
者の現実の関係、金額決定の実際の運用状況を表しているものといえる。
 前記のとおり、本件記念品料の支給は、社会通念上儀礼の範囲内のものとは認め
られないが、社会通念上儀礼の範囲内のものかどうかという判断は、いわば常識的
なもので、特別な知識がないと判断することができないというものではないから、
被告Aは、少なくとも、右支給が社会通念上儀礼の範囲を超える疑いがかなりの程
度あることを知ることができたというべきである。
 したがって、被告Aとしては、専決権者に対して、右記念品料の支給についてい
かなる法的根拠があるか、社会的儀礼の範囲内に含まれるかなど、それが地方自治
法に違反することはないかなどを検討することを指示すべきであったということが
できる。そして、そのような指示があれば、右記念品料の支給が法二〇四条の二に
違反することは比較的容易に判明したものと考えられる。なぜならば、法二〇四条
の二については、最判昭和三九年七月一四日民集一八巻六号一一三三頁が、昭和三
三年に市が市議会議員全員に対して競輪事業開始一〇周年を記念して議員一人当た
り現金一万円を贈呈した事案について、社会通念上儀礼の範囲を超え、法二〇四条
の二に違反するとの判断をしているが、この事案は、本件とは、金員の趣旨や支給
範囲は異なるものの、議員に対する現金の支給という点では同じであり、その後の
物価の変動を考慮しても、本件の金額が右事案の金額を大きく下回るということは
ない。また、証拠(甲16、乙8、9)によると、自治省(庁)は、法二〇四条の
二について、名目上記念品料として支出されたものであっても、当該支出が実質的
に退職手当に類すると認められる限り違法であるとの回答(昭和三二年一月三〇日
自丁行発第一一号)、市長が市議会議員の退職に際し記念品料として現金五万円を
送ることはできないとの回答(昭和三八年五月二二日自治丁行発第四三号)、社会
通念上儀礼的な範囲において記念品を送ることはさしつかえないが、この社会通念
上儀礼の範囲に属するかどうかは、記念品の趣旨、態様、金額について、物価、団
体の規模、財政状況等を総合して判断すべきであるとの回答(昭和四二年八月九日
自治行第七八号)をしていることが認められる。したがって、これらを参考に常識
をもって判断すれば、右記念品料の支給が法二〇四条の二に違反することは比較的
容易に判明したものと考えられるからである。
 それにもかかわらず、被告Aは、右のような指示を行わず、その結果、本件平成
七年度支給について支出負担行為及び支出命令がされたのであるから、被告Aは、
右財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、過失により右違
法行為を阻止しなかったということができる。したがって、被告Aは、本件平成七
年度支給によって愛知県が被った損害を賠償する責任があり、損害額は、本件平成
七年度支給の合計額一一〇万円である。
 なお、本件平成七年度支給は、法二三二条一項に基づき愛知県の事務を処理する
ために必要な経費として、予算化されて支給されたものであるとしても、すでに述
べたとおり、法二〇四条の二に違反する違法な支給である以上、愛知県に損害がな
いということはできない。
(二) 被告Hについて
 証拠(被告H)と弁論の全趣旨によると、被告Hは、国家褒章を受章した議員や
議長、副議長を退任した議員に対する記念品料の支給が長年にわたって行われてき
ており、特にその適法性が問題になったこともなかったことから、本件支給基準や
過去の例を参考に金額を決定して、本件平成七年度支給に係る支出負担行為及び支
出命令を行ったもので、右支給が法二〇四条の二に違反するかどうかを特に意識す
ることはなかったこと、被告Hは、右記念品料の支給が法律にも条例にも基づくこ
となくされていたことを知っていたこと、以上の各事実が認められる。
 ところで、本件平成七年度支給が社会通念上儀礼の範囲内のものかどうかという
判断は、すでに述べたとおり、いわば常識的なものであるから、被告Hは、少なく
とも、右支給が社会通念上儀礼の範囲を超える疑いがかなりの程度あることを知る
ことができたというべきであり、右記念品料の支給が法律にも条例にも基づくこと
なくされていたことを知っていたのであるから、それが地方自治法に違反すること
がないかどうかを検討すれば、右(一)のとおり法二〇四条の二に違反することは
比較的容易に判明したものと考えられる。
 それにもかかわらず、被告Hは、右検討をすることなく、本件平成七年度支給に
係る支出負担行為及び支出命令を行ったのであるが、右(一)認定のとおり、知事
からは支給額を知っていながら何らの指示もなかったのであるから、被告Hが、本
来権限を有する知事が右財務会計行為を是認していると考えたとしても不自然では
ない状況にあったこと、国家褒章を受章した議員や議長、副議長を退任した議員に
対する記念品料の支給は長年にわたって行われてきていて、国家褒章を受章した議
員に対する支給については、支給基準も設けられており、特にそれらの適法性が問
題になったこともなかったことからすると、被告Hが右財務会計行為を行ったこと
に重過失があるとまでいうことはできない。
 被告Hは、支出負担行為及び支出命令を直接補助する職員で普通地方公共団体の
規則で指定する者(愛知県財務規則一八四条)に当たるから、法二四三条の二第一
項により、重過失がない以上、愛知県に対して損害賠償責任を負うことはない。
(三) 被告Gについて
 証拠(被告G)によると、被告Gは、本件平成七年度支給に係る支出をする際
に、支出負担行為の適法性について審査をしたが、国家褒章を受章した議員や議
長、副議長を退任した議員に対する記念品料の支給が長年にわたって行われてきて
おり、特にその適法性が問題になったこともなかったことから、右支給が法二〇四
条の二に違反するかどうかを特に意識することはなく、右支出をしたものと認めら
れる。
 ところで、本件平成七年度支給が社会通念上儀礼の範囲内のものかどうかという
判断は、すでに述べたとおり、いわば常識的なものであるから、被告Gは、少なく
とも、右支給が社会通念上儀礼の範囲を超える疑いがかなりの程度あることを知る
ことができたというべきである。
 したがって、被告Gとしては、右記念品料の支給についていかなる法的根拠があ
るか、それが地方自治法に違反することはないかなどを検討すべきであり、検討し
ていれば、右(一)のとおり右記念品料の支給が法二〇四条の二に違反することは
比較的容易に判明したものと考えられる。
 しかし、証拠(被告G)によると、被告Gは、年間十数万件の支給について審査
をしており、審査は、書面が中心であると認められる上、被告Gが審査したとして
も、本件記念品料の支給が社会通念上儀礼の範囲に属するかは価値判断にかかる部
分がないとはいえず、社会的儀礼の範囲を超えることが明白であったといえないと
きには、重過失があったとは言えないところ、本件においては、記念品料の支給が
長年にわたって行われてきており、特にその適法性が問題になったこともなかった
ことからすると、社会的儀礼の範囲を超えることが明白であったといえず、被告G
には、本件平成七年度支給に係る支出を行ったことに重過失があるとまでいうこと
はできない。
 被告Gは、支出を直接補助する職員で普通地方公共団体の規則で指定する者(愛
知県財務規則一八四条)に当たるから、法二四三条の二第一項により、重過失がな
い以上、愛知県に対して損害賠償責任を負うことはない。
(四) 被告B及び被告Cについて
 本件平成七年度支給は、法二〇四条の二に違反するものであるから、無効であ
り、被告B及び被告Cは、受領した記念品料(被告Bにつき二〇万円、被告Cにつ
き一〇万円)を愛知県に不当利得として返還すべき義務がある。
第四 結語
 以上の次第で、本件訴えのうち、平成四年度ないし平成六年度における記念品料
の支給が違法であることを理由とする損害賠償請求及び不当利得返還請求に係る部
分は、不適法であるので却下することとし、被告Aに対する請求は、愛知県に対
し、一一〇万円及びこれに対する平成八年七月六日から支払済まで年五分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める限度で、被告Bに対する請求は、愛知県に対し、二
〇万円の支払を求める限度で、それぞれ理由があるので、これらの限度で認容する
こととし、被告Cに対する請求は理由があるので認容することとし、その余の請求
は、いずれも理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。
 なお、被告ら及び参加人は、原告らは本訴において手数料として、訴訟物の価額
九五万円に相当する八二〇〇円しか納付していないが、本訴が対象としている財務
会計行為は一五件あるから、九五万の一五件分に相当する手数料を納付すべきであ
り、手数料が不足していると主張するが、手数料の納付は、裁判所と原告らとの間
の問題であって、被告ら及び参加人は、手数料の不足を主張して訴えの却下を求め
ることはできないと解される。また本訴が対象としている財務会計行為は一五件あ
るが、いずれも議員に対する記念品料の支給であって、一連の財務会計行為であ
り、原告らが主張する違法事由も共通しているから、原告らが納付した手数料に不
足はない。
 名古屋地方裁判所民事第九部
裁判長裁判官 野田武明
裁判官 森義之
裁判官 安永武央

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