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平成26年5月21日判決言渡
平成25年(行ケ)第10215号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年4月23日
判決
原告ヘルベルト・カンネギーサー・
ゲー・エム・ベー・ハー
訴訟代理人弁理士北村修一郎
太田隆司
宮地正浩
中条均
被告特許庁長官
指定代理人森川元嗣
島田信一
窪田治彦
堀内仁子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定
める。
事実及び理由
第1原告が求めた判決
特許庁が不服2012-1728号事件について平成25年3月26日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判不成立審決の取消訴訟である。争点
は,①後記引用発明2の認定誤りの有無及び②後記本願発明の進歩性判断(動機付
け,容易想到性,阻害要因,作用効果)の誤りの有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「洗濯物を湿潤処理するための方法および装置」とする発明につ
き,平成18年1月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成17年2
月11日・ドイツ国,平成17年8月12日・ドイツ国,平成17年11月4日・
ドイツ国)を国際出願日とする特許出願をしたが(特願2007-554455号,
国際公開日・平成18年8月17日(WO2006/084548),国内公表・平
成20年8月7日(特表2008-529619号),請求項の数19),平成23
年9月21日付けで拒絶査定を受けたので,平成24年1月30日,不服審判請求
をし(不服2012-1728号),同日,手続の補正をし(請求項の数13),さ
らに,平成25年1月25日,手続の補正をした(請求項の数14)。
特許庁は,平成25年3月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本は,同年4月11日に原告に送達された。
(甲1,12ないし14,24,27)
2本願発明の要旨
上記平成25年1月25日付け手続補正書による補正後の請求項10の発明(本
願発明)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。(甲24)
「洗濯をするため,トンネル式洗濯装置(10)と,少なくとも1つの脱水装置と
を備えた洗濯物を湿潤処理するための装置において,
前記トンネル式洗濯装置(10)が,前洗いゾーン(15)および主洗いゾーン(1
7)のみを備え,前記洗濯物は少なくとも1つの脱水装置にて濯がれ,
前記脱水装置は回転乾燥機(18)として構成されていることを特徴とする装
置。」
なお,後記当事者の主張の理解の参考として,ここに甲27(国内公表公報)の図1を掲記
する。
3審決の理由の要点
(1)引用発明1
特開昭52-154266号公報(引用例1〔甲4,8,16,21〕)には,次
の発明(引用発明1)が記載されている。
「円筒状のバスケット3を有する複数の洗滌ユニット1A,1B,1C…が連結
されて洗滌物を連続的に洗滌処理する連続洗滌装置Dと,脱水機E,乾燥機F,
とを備えた洗滌物を処理するための装置において,
前記連続洗滌装置Dが,複数の洗滌ユニット1A,1B,1C…を備えており,
順次洗滌から濯ぎまで行う装置。」
上記記述の参考として,甲21の図1を掲記する。
(2)引用発明2
実公昭40-34786号公報(引用例2〔甲22〕)には,次の発明(引用発明
2)が記載されている。
「洗濯機で洗剤液によつて洗濯した洗濯物を内胴3内に入れ,内胴3の高速回転
により洗濯物より洗剤液の除脱を終った後,内胴3の低速回転によりすすぎ洗い
を行い,すすぎ洗いを終つた後,内胴3の高速回転によりすすぎ洗い液を除脱し,
内胴3の回転による乾燥が行われるすすぎ洗い兼脱液装置。」
上記記述の参考として,甲22の第2図を掲記する。
(3)一致点
本願発明と引用発明1との一致点は,次のとおりである。
「洗濯をするため,トンネル式洗濯装置と,少なくとも1つの脱水装置とを備え
た洗濯物を湿潤処理するための装置。」
(4)相違点
本願発明と引用発明1との相違点は,次のとおりである。
【相違点1】本願発明では,トンネル式洗濯装置が前洗いゾーン(15)及び主洗
いゾーン(17)のみを備え,洗濯物は少なくとも1つの脱水装置にてすすがれるの
に対して,引用発明1では,連続洗滌装置Dは複数の洗滌ユニット1A,1B,1
C…を備えており,順次洗滌からすすぎまでを行うものである点。
【相違点2】本願発明では,脱水装置は回転乾燥機(18)として構成されている
のに対して,引用発明1では,脱水機Eと乾燥機Fを備えている点。
(5)相違点の判断
①複数の洗滌ユニットで順次洗滌処理をする連続洗滌装置においては,通常,
洗滌(洗濯)はその上流側から前洗い(予洗い),主洗い(本洗い),すすぎを行う領
域に分けて行われるものであり,引用発明1の複数の洗滌ユニットを前洗い,主洗
い,すすぎのユニットとすることは,当業者が適宜設定できることである。
②引用発明2は,洗濯物のすすぎと脱水を行う脱水装置である。
③作業を能率的に行うという一般的な課題に従った当業者は,引用発明1の脱
水装置に引用発明2の洗濯物のすすぎと脱水を行う脱水装置の適用を試みる。
④③の際,引用発明1の連続洗滌装置で行っていたすすぎは,脱水装置で行う
ことになるから,連続洗滌装置は洗いのみを行うことになり,また,引用発明2の
脱水装置は,回転乾燥を行う装置であるから,回転乾燥機ということができる。
⑤①~④のとおり,引用発明1に引用発明2を適用することで,相違点1及び
相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得た。
⑥本願発明の奏する効果は,引用発明1及び引用発明2から当業者が予測でき
た効果の範囲内のものである。
(6)審決判断のまとめ
本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることが
できない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(引用発明2の認定誤り)
引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置は,家庭用装置であるから,進歩性判断の前
提として,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を事業所用装置であると認定した審
決(6頁30~33行目)には,引用発明2の認定誤りがある。
すなわち,引用例2中には引用発明2が事業所用装置であることを明らかにでき
る記載はなく,むしろ,引用発明2が,外胴(1),外胴(1)内に収容され上下方向
の回転軸(5)周りで回転する内胴(3),内胴(3)を回転駆動させる電動機(12)並
びに弁及び管類等を備えているなど家庭用洗濯機についての先行技術で用いられる
構成と同様の構成を備えていることにかんがみれば,引用発明2は,数十年前から
知られている家庭用のすすぎ洗い兼脱液装置であると認定すべきである。
仮に,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置が家庭用装置であるといえないとして
も,引用例2に事業用装置であるとの明記がない以上は,事業用装置であるか否か
不明なままであるにすぎず,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を事業用装置と認
定した審決の判断には,やはり誤りがある。
2取消事由2(進歩性判断の誤り)
(1)取消事由2-1(動機付け)
引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはない。
すなわち,引用発明1は,大量の洗濯物を一度に処理するための複数の連続する
チャンバを備えた大型業務用トンネル式洗濯装置の技術分野に属する発明であり,
最適な設置数とされた洗滌ユニットにより洗濯物の連続的処理を行うことで洗滌処
理能力や洗滌効率を向上させることを課題としており,一方,引用発明2は,少量
の洗濯物を単一のチャンバによりすすぎ洗いと脱水をする小型家庭用洗濯機の技術
分野に属する発明であり,小規模な設備により能率的に二浴式洗濯を行うことを課
題としている。両発明は,技術分野及び課題を異にするのであり,両発明が洗濯機
の技術分野に属するという抽象的な技術分野で一致し,作業の能率の向上という一
般的な課題で共通するからといって,当業者が引用発明1の課題の解決のために引
用発明2を検討の対象にすることはない。
(2)取消事由2-2(容易想到性)
引用発明1の脱水装置を引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置に置き換えても,相
違点1及び相違点2に係る構成にはならない。
引用発明1に引用発明2を適用しただけでは,引用発明1の連続洗滌装置Dの下
流に引用発明2のすすぎ洗い装置兼脱液装置が配置された構成となり,すすぎ洗い
が,引用発明1の連続洗滌装置と引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置とで行われる
だけであり,直ちに,引用発明1の連続洗滌装置の複数の洗滌ユニットを,前洗い
のみを行う洗滌ユニットと主洗いのみを行う洗滌ユニットだけで構成することには
ならない。
(3)取消事由2-3(阻害要因)
引用発明1に引用発明2を適用することで相違点1及び2に係る構成とすること
には,阻害要因がある。
複数の洗滌ユニットにより洗濯物の洗滌からすすぎまでの全工程を連続的に行う
引用発明1の連続洗滌装置の下流側に配置された脱水装置に,単一のチャンバ内で
洗濯物のすすぎと脱水をバッチ式に行う引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置の適用
すると,バッチ式のすすぎ洗い兼脱液装置における洗濯物のすすぎと脱水を完了し
た後でなければ,連続洗滌装置にて連続的に処理された洗濯物をすすぎ洗い兼脱液
装置に投入することができない。そうすると,連続洗滌装置で連続的に処理される
各洗滌ユニット当たりの洗滌処理時間よりも,バッチ式のすすぎ洗い兼脱液装置に
おけるすすぎ時間と脱水時間の合計の方が長い場合,連続洗滌装置から連続的に順
次送られてくる洗濯物が,すすぎ洗い兼脱液装置の手前で滞留することになり,連
続洗滌装置の洗滌処理能力の低下を招来することが予想される。したがって,連続
洗滌装置の下流側にバッチ式のすすぎ洗い兼脱液装置を配置することは,洗滌処理
能力の向上及び洗滌効率の向上を図ることができるとする連続洗滌処理装置の利点
を損なうものである。
したがって,引用発明1の連続洗滌装置は,洗滌からすすぎまでの全工程を完了
する構成でなければならならず,引用発明1の連続洗滌装置からすすぎのみを行う
洗滌ユニットを省略することは全く想定されていないし,引用発明2のすすぎ洗い
兼脱液装置の上流側に,連続洗滌装置を配置することも全く想定されていない。
そうすると,引用発明1の脱水装置を引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置に置き
換えることによって,引用発明1の連続洗滌装置の複数の洗滌ユニットを前洗いの
みを行う洗滌ユニット及び主洗いのみを行う洗滌ユニットだけの構成とすることに
は,阻害要因がある。
(4)取消事由2-4(作用効果)
本願発明は,引用発明1及び引用発明2からは予測することのできない効果を奏
する。
すなわち,本願発明の構成によれば,脱水装置の構成を特別に変更することなく,
トンネル式洗濯装置に前洗いゾーン及び主洗いゾーンのみを配置するという非常に
簡単な改変で,トンネル式洗濯装置における前洗い及び主洗いの各処理性能及び脱
水装置におけるすすぎ及び脱水の各処理性能を低下させることなく,トンネル式洗
濯装置の装置全体の全長を確実に短縮化することができる。
第4取消事由に対する被告の反論
1取消事由1(引用発明2の認定誤り)に対して
引用例2には,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置が,配管機構,タンク,ポン
プという装置を設けた設備であることを明示した記載があり(1頁左欄19~24
行目),さらに,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置が,洗剤汚液タンクやすすぎ洗
い液タンクのように家庭用では普通は用いないような液タンクを有する点,プリコ
ートが必要なすすぎ液の圧力濾過機を有する点からみると,引用発明の2のすすぎ
洗い兼脱液装置は,事業所用装置と考えるのが自然である。
したがって,審決が引用発明2を事業所用装置であると認定した点には,誤りは
ない。
2取消事由2(進歩性判断の誤り)に対して
(1)取消事由2-1(動機付け)
上記1のとおり,引用発明2は事業所用装置とみるのが自然であるから,引用発
明1と引用発明2とは,事業所用洗濯装置という技術分野で一致する。
また,引用発明1は,洗滌ユニットの数を増減することができるものであるから,
装置の全長を最適な長さにし,装置の稼働効率を上げること,すなわち,装置を小
規模にすることや装置の効率を上げることを課題としているといえるところ(引用
例の1頁左下欄17行~1頁右下蘭1行目,2頁右下欄2行~3頁右上欄2行目),
引用発明2も,引用例2の「比較的簡単且つ小規模な装置で,しかも比較的容易な
操作で,上記一連の作業を能率的に行えるようにする」(1頁左欄19~24行目)
「小規模な設備により能率的に二浴式洗濯を行い得るものでありながら,作業能率
も良好である。」(2頁右欄14~16行目)との記載からみて,装置を小規模にす
ることや装置の効率を上げることを課題としているといえる。したがって,両発明
は,課題も共通する。
そうすると,両発明は,技術分野が一致し,かつ,共通の課題を有するものであ
るから,当業者は,引用発明1において,装置の効率を上げ,かつ,作業を能率的
に行うべく引用発明2の適用を試みるといえる。
したがって,審決の判断には,誤りはない。
(2)取消事由2-2(容易想到性)
引用例1には,引用発明1の連続洗滌装置の洗滌ユニットを,任意所要数連結で
きることが記載されているところ,機能を兼用し,複合化することで装置を小規模
にするといったことは,いわば常套手段であるから,複数の洗滌ユニットが連結さ
れた連続洗滌装置に引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を適用する際には,引用発
明2のすすぎ洗い兼脱液装置ですすぎがされている以上,引用発明1の連続洗滌装
置から不要な洗滌ユニットを省き,前洗い及び主洗いのみを行う洗滌ユニットを連
結したものとして連続洗滌装置を構成することになり,このようなことは,当業者
の通常の創作能力の範囲内である。そして,このようにして引用発明1に引用発明
2を適用したものは,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置がすすぎと脱水と内胴の
回転による乾燥を行う装置として構成されるのであるから,相違点1及び相違点2
に係る構成となる。
したがって,審決の判断には,誤りはない。
(3)取消事由2-3(阻害要因)
上記(2)のとおり。
(4)取消事由2-4(作用効果)に対して
連続洗滌装置で行っていたすすぎを,脱水装置で行うようにしたものは,連続洗
滌装置のすすぎを行う洗滌ユニットをなくすことができるのであるから,その分だ
け連続洗滌装置の長さを短くでき,ひいては装置全体を短く形成できることは明ら
かである。そうすると,原告が主張するトンネル式洗濯装置の装置全体の全長を短
縮化できるという効果は,引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できた効果
にすぎないものである。
したがって,審決の判断には,誤りはない。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本願発明
ア本願明細書の記載
本願発明は,前記第2,2のとおりであるところ,平成25年1月25日付け手
続補正書による補正後の明細書及び図面(本願明細書)には,次の記載がある。(甲
2,14,24,27)
「【背景技術】
【0002】洗濯物の湿潤処理,具体的には洗濯物の洗浄と濯ぎのためには液体が使用され
るが,この液体は,濯ぎの場合には実質的には清浄水である。濯ぎの結果は,使用される清浄
水の量にも依存する。しかしながら,環境上の理由により,清浄水の必要量を可能な限り減ら
すことが望ましい。
【0003】回転駆動可能であるとともにその内部に複数のチャンバが連続形成された長手
ドラムを備えた所謂トンネル式洗濯装置(Durchlaufwaschmaschine)が,洗濯物の洗浄と濯ぎと
に有利なことが判っている。公知のトンネル式洗濯装置では,少なくとも3つのゾーン,即ち
前洗いゾーン,主洗いゾーンおよび濯ぎゾーンが連続して配置されている。濯ぎゾーンでは向
い流の自由液(freieFlotte)が必要であり,この理由により,前記ドラムに追加の外側チャンバ
を連動させる必要がある。その結果,公知のトンネル式洗濯装置は,比較的構造が複雑になる
ため,多量の洗濯物を処理する必要がある場合にのみ用いられている。また,少なくとも前記
3つの連続したゾーンがあることから,ドラムは比較的大きな長さのも(の)にしなければな
らず,その結果,公知のトンネル式洗濯装置は洗濯施設において大きなスペースを占めるもの
となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】本発明の目的は,洗濯物を経済的に湿潤処理するための方法と装置であって,
少量の洗濯物にも好適なものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】この目的を達成する1つの方法は,請求項1記載の解決手段を有する。個々の
脱水装置が洗濯物からの脱水だけでなく洗濯物の濯ぎも行うので,濯ぎプロセスをトンネル式
洗濯装置から脱水装置へと移すことができる。その結果,トンネル式洗濯装置から濯ぎゾーン
を省略することができ,それによってトンネル式洗濯装置をより簡素なものとすることができ,
特に,占有スペースが少なくなる。洗濯物を更に濯ぐ目的で脱水装置を替える必要がないので,
本発明の方法によれば,全体としてコンパクトな直列式洗濯装置が提供される。更に,驚くべ
きことに,トンネル式洗濯装置においてよりも脱水装置においての方が洗濯物を遥かに効率的
に濯ぐことが可能であることが判った。このようにして,濯ぎ性能が改善され,これによって
清浄水が節約される。」
「【0008】更に,洗濯物はトンネル式洗濯装置から,1つの脱水装置に直接移すように構
成することも,2つ以上の脱水装置に直接移すように構成することも可能である。トンネル式
洗濯装置のサイクル時間が脱水装置のサイクル時間にほぼ対応している場合は,1つの脱水装
置で十分である。本発明では濯ぎ段階も脱水装置で行われることに鑑み,脱水装置における洗
濯物の滞留時間の方がトンネル式洗濯装置における滞留時間よりも長くなる場合には,複数の
脱水装置を使用し,これらの脱水装置にトンネル式洗濯装置から洗濯物を交互に投入するよう
に構成する。
【0009】これに代えて,洗濯物を,脱水装置に移す前に一時的に貯留させることも可能
である。これによってもトンネル式洗濯装置と脱水装置とのサイクル時間の違いを相殺するこ
とが可能であり,それにより,トンネル式洗濯装置と脱水装置との間でサイクルがずれていて
も脱水装置が使用可能となるまで洗濯物を一時的に貯留して,トンネル式洗濯装置に1台の脱
水装置を連動させるだけでも十分となる。その結果,トンネル式洗濯装置を脱水装置から完全
に独立して運転することができる。必要であれば,複数の一時貯留手段を設けることもできる。」
「【0014】導入部に記載した目的を達成するための装置は,請求項10の特徴構成を有す
る。従って,この装置は,前洗いゾーンと主洗いゾーンとのみを備えたトンネル式洗濯装置と
して構成される。従って,公知のトンネル式洗濯装置においては一般的である濯ぎゾーンは省
略される。その結果,トンネル式洗濯装置はより簡素な構造とすることが可能である。特に,
トンネル式洗濯装置は濯ぎゾーンが省略されたために短いものとなり,占有空間が比較的小さ
いものとなる。
【0015】トンネル式洗濯装置は,好適には,回転駆動可能であるとともにその内部に複
数のチャンバが連続形成されたドラムを有する。少なくとも1つのチャンバは前洗いゾーンを
形成し,少なくとも1つの他のチャンバは主洗いゾーンのために設けられる。更に,ドラムは
循環式に回転駆動可能である。その結果,ドラム内の洗濯物は,ドラムの連続する完全な回転
によって回転式に洗濯される。特定の回数の完全回転の後にはドラムを逆転させることが可能
であり,それにより,反対方向のドラム回転で洗濯が行われる。これに代えて,少なくとも数
回,ドラムが正逆方向に部分円形運動するように構成することも,即ち,所謂「揺動」するよ
うに駆動されるように構成することも可能である。
【0016】更に,脱水装置は,回転乾燥機として構成される。これにより,従来式脱水装
置をその脱水装置の構造を変えることなく使用しながら,洗濯物を濯ぎ,洗濯物から脱水をす
ることが可能となる。
【0017】好適な装置においては,回転乾燥機は,少なくとも回転乾燥中,洗濯物に対し
て重力による加速度の600倍以上の遠心力を加えることが可能な高出力回転乾燥機である。
これにより,洗濯物からは水が迅速かつ効果的に除去され,その結果,回転乾燥機内における
洗濯物の滞留時間は,濯ぎプロセスの追加にもかかわらず,実質的に,洗濯物がトンネル式洗
濯装置を通過する時間に対応するものとなるか,又はそれよりも大幅に長くはなることはない。
このようにして,一方でのトンネル式洗濯装置のサイクル時間が,他方での回転乾燥機のサイ
クル時間とほぼ等しいものとなるか,又は少なくとも大幅に異ならないものとなる。」
「【発明を実施するための最良の形態】…
【0027】トンネル式洗濯装置10は,ドラム12を備え,これは,好適には水平な回転
軸心11回りで回転駆動可能である。横断方向の隔壁13によって,ドラム12内には,洗濯
物(図示せず)のこのドラム12の通過方向16に前後に複数のチャンバ14が形成されてい
る。
【0028】トンネル式洗濯装置10のドラム12は,このドラム12内の洗濯物の通過方
向16において,実質的に2つの処理ゾーン,具体的には前洗いゾーン15とこの前洗いゾー
ン15に続く主洗いゾーン17と,のみを含む。…」
「【0029】図1に示されている装置においては,トンネル式洗濯装置10の下流側に1つ
の脱水装置が設けられており,この脱水装置は,好適には,回転乾燥機(Wascheschleuder)1
8である。…」
「【0030】回転乾燥機18はトンネル式洗濯装置10の直ぐ下流側に配設されており,正
確には,完全に洗濯された洗濯物を,通過方向16後部にあるトンネル式洗濯装置10のドラ
ム12端部の排出シュート23から,開口部22を通して回転乾燥機18に直接渡すことが可
能に配設されている。
【0031】図2は,第2実施形態に係る装置を示している。…【0032】ここに図示さ
れている実施形態においては,複数の脱水装置が,正確には2つの,好適には同一の脱水装置
が,トンネル式洗濯装置10の出口端部に,具体的には前記排出シュート23の後方に配設さ
れている。但し,トンネル式洗濯装置10の下流側には3つ以上の脱水装置を配設することも
可能である。」
「【0036】図3の装置においては,トンネル式洗濯装置10と回転乾燥機18との間には
洗濯物貯留手段25が1つ配置されている。…【0037】洗濯物貯留手段25は,好適には,
トンネル式洗濯装置10での洗濯プロセスにおいて洗濯される少なくとも1バッチの洗濯物を
収納するように構成された,チルト可能な容器26を備える。…」
「【0040】図1の装置の場合,洗濯物は,トンネル式洗濯装置10内において前洗いと主
洗いのみが行われる。その際には洗濯物は,前記通過方向16に沿って,トンネル式洗濯装置
10の前洗いゾーン15と主洗いゾーン17とを通って搬送される。洗濯物の各バッチは,先
ず前洗いゾーン15において前洗いされ,次に主洗いゾーン17において主洗いされる。」
「【0042】各バッチの洗濯物は,主洗いゾーン17において洗濯された後,結合液(gebu
ndeneFlotte)のみを含む状態で,即ち,自由液(freieFlotte)のない状態でトンネル式洗濯装
置10から出る。各バッチの洗濯物は結合液と共に,下流側の回転乾燥機18に移される。即
ち回転乾燥機18には洗い済み洗濯物が,その内部に結合した洗濯液(結合液)を少なくとも
大半まだ含んだ状態で,前記排出シュート23を介して投入される。
【0043】洗濯物は,先ず,回転乾燥機18において濯がれる。次に初めて洗濯物は回転
乾燥機18において回転乾燥されるのであり,具体的には,洗濯物に付着してまだその内部に
結合したままの液体のうち少なくとも大部分が分離除去される。
【0044】好適には,前記脱水装置,具体的には前記回転乾燥機18,において洗濯物が
濯がれる前に,予備回転乾燥作業によって,洗濯物からは結合液のうち少なくとも一部が除去
される。その後,洗濯物は,洗濯処理からの結合液無く,又はトンネル式洗濯装置10からの
結合液の一部のみを含む状態で,濯ぐことができる。」
「【0046】図2の装置は,原則として上述した装置と同じ方法で作動する。唯一の相違点
は,洗い済み洗濯物バッチが結合液とともにトンネル式洗濯装置10から出る都度,トンネル
式洗濯装置10の下流側に配設された2つの回転乾燥機18のうち一方に選択的に搬送される
ことにある。従って,2つの回転乾燥機18のいずれかに交互に洗濯物バッチが投入され,回
転乾燥が行われる。」
「【0049】図2の装置を使用した方法は,トンネル式洗濯装置10のサイクル時間が回転
乾燥機18のサイクル時間よりも短い洗濯プロセスに特に適している。この場合,2つの回転
乾燥機18のいずれかに交互に投入することが可能であるので,回転乾燥機18に洗い済み洗
濯物を投入するために,回転乾燥機18において先のバッチの洗濯物の濯ぎと回転乾燥が完了
するまで待つ必要はもはや無くなる。…」
「【0051】ここでも,2つの回転乾燥機18がトンネル式洗濯装置10の下流側に配設さ
れている。但し,これらの回転乾燥機18はトンネル式洗濯装置10の直ぐ後には配設されて
いない。これに代え,トンネル式洗濯装置10と回転乾燥機18との間には洗濯物貯留手段2
5が設けられている。この洗濯物貯留手段25はトンネル式洗濯装置10のドラム12の回転
軸心11を横切って移動可能であり,これにより,洗濯物貯留手段25の容器26は常にトン
ネル式洗濯装置10の排出シュート23の近傍に位置する。各バッチの洗濯物は,トンネル式
洗濯装置10から排出シュート23を介して洗濯物貯留手段25の容器26内に直接に荷降ろ
しされる。洗濯物貯留手段25の容器26から,洗濯物のバッチは,各空いている回転乾燥機
18に投入される。このようにして,トンネル式洗濯装置10の荷降ろしと,回転乾燥機18
の投入を互いに分離することが可能である。その結果,トンネル式洗濯装置10における洗濯
物の処理サイクルと回転乾燥機18における洗濯物の処理サイクルとの違いを相殺することが
できる。
「【図2】

「【図3】

イ本願発明の特徴
上記記載によれば,本願発明は,清浄水の必要量を減らすとの環境上の理由や,
すすぎ洗いを担う装置が複雑であったり,公知のトンネル式洗濯装置では少なくと
も3つの連続したゾーン(前洗いゾーン,主洗いゾーン及びすすぎゾーン)があっ
て洗濯施設において大きなスペースを占めたりする問題があったことから(【000
2】~【0003】),少量の洗濯物にも好適な洗濯物を経済的に湿潤処理するため
の装置を提供することを目的とし(【0004】),上記第2,2のとおりのトンネル
式洗濯装置として構成し,公知のトンネル式洗濯装置においては一般的であるすす
ぎゾーンを省略することにより,トンネル式洗濯装置をより簡素な構造とするとと
もに,洗濯物の通過方向の長さを短縮することによって占有空間を比較的小さいも
のとし(【0014】),洗濯物のすすぎと脱水は回転乾燥機により行うこととした(【0
016】)ものである。なお,洗濯物がトンネル式洗濯装置を通過する時間と,すす
ぎの工程を追加された回転乾燥機内における洗濯物の滞留時間とのサイクル時間の
相違は,高出力回転乾燥機を用いてその差を可及的に縮めるか(【0017】),又は
複数の回転乾燥機若しくは複数の洗濯物貯留手段を用いて解消することが開示され
ている(【0031】【0032】【0036】【0051】)。
(2)引用発明1
引用例1(甲4,8,16,21)には,次の記載がある。
「本発明は,洗滌物を連続的に洗滌処理する連続洗滌装置に関するものであつて,洗滌処理
能力を向上し得ると共に,洗滌物を効率良く処理することができる連続洗滌装置を提供せんと
するものである。」(1頁左下欄17行~同右下欄1行目)
「第1図は,本発明の連続洗滌装置を使用した連続洗滌処理設備の一例を示した概略図であ
る。
図中,Aは洗滌物,Bは洗滌物運搬機,Cは洗滌物投入シユート,Dは洗滌ユニツト1を任
意所要数連結した本発明の連続洗滌装置,Eは脱水機,Fは乾燥機である。
しかして,前記洗滌機ユニツト1は外筒胴2と,円筒状のバスケツト3とからなり,前記外
筒胴2の前面板および後面板に透孔を設けると共に,前記外筒胴2中に受ローラー4を前記バ
スケツト3の同心円周上に3箇所設置し,一方前記バスケツト3の前面板および後面板に前記
外筒胴2の透孔に挿入し得る洗滌物投入口部5および洗滌物吐出口部6を突設すると共に,バ
スケツト3の外周側にガイドレール7を敷設し,前記バスケツト3の吐出口部6を外筒胴2の
透孔より突出させると共に,受ローラー4にガイドレール7を係合させて外筒胴2中にバスケ
ツト3を回動自在に支持し,そのバスケツト3を駆動機構8により回動し得るようにする。」(1
頁右上欄3行~2頁左上欄2行目)
「洗滌物Aを投入シユートCより1番目の洗滌ユニツト1Aのバスケツト3中に投入し,駆
動機構8により前記バスケツト3を実線矢印方向に回転させてバスケツト3中の洗滌物を上昇
落下を繰返させながら攪拌して洗滌処理する。そして,1番目の洗滌ユニツト1Aにおける一
定時間の洗滌処理時間が終了したならば,バスケツト3を逆に破線矢印方向に数回転させると,
バスケツト3中の洗滌物が仕切板13により掬い上げられて1番目の洗滌ユニツト1Aの吐出
口6および2番目の洗滌ユニツト1Bの投入口5からバスケツト3中に投入される。次に,1
番目の洗滌ユニツト1Aのバスケツト3中に新たな洗滌物を投入し,1番目および2番目の洗
滌ユニツト1A,1Bのバスケツト3,3を実線矢印方向に回転させて一定洗滌板処理時間終
了後逆に破線矢印方向に回転させ,2番目の洗滌ユニツト1B中の洗滌物を3番目の洗滌ユニ
ツト1Cに,1番目の洗滌ユニツト1A中の洗滌物を2番目の洗滌ユニツト1Bにそれぞれ移
送し,1番目の洗滌ユニツト1A中に新たな洗滌物を投入し,以下同様にして洗滌物を各洗滌
ユニツト1A,1B,1C…において連続的に洗滌処理する。…そして,洗滌処理された洗滌
物は最後の洗滌ユニツトの吐出口6より脱水機Eに移送されて脱水され,次に乾燥機Fにおい
て乾燥される。
このように,本発明においては,洗滌ユニツトを任意所要数連結して洗滌物を連続的に洗滌
処理するようにしたものであるから,洗滌処理能力が向上し,しかも洗滌ユニツトを洗滌物の
汚れの度合に応じて増減することができると共に,各洗滌ユニツトが個々に駆動させることが
できるので,洗滌効率が良く,かつ洗滌ユニツトの空回りを防ぐことができる。」(2頁右下欄
2行~3頁右上欄2行目)
(3)引用発明2
引用例2(甲22)には,次の記載がある。
「本案は二浴式洗濯方式において,洗濯物より洗剤汚液の除脱,すすぎ洗い及びすすぎ洗い
液の洗濯物よりの除脱を一つの装置で行えるようにしたものである。」(1頁左欄15~18行
目)
「本案の目的とする所は,従来の脱液機に小規模の改造を加え,これに適当な配管機構と,
タンク,ポンプなどを設けることにより,比較的簡単且つ小規模な装置で,しかも比較的容易
な操作で,上記一連の作業を能率的に行えるようにすることにある。」(1頁左欄19~24行
目)
「本案を図面について説明する。機台11に固定され,上方を開放した外胴1内に,上方を
開放し,周壁に通液用の小孔2多数を穿つた内胴3を配設する。内胴3の底31の中心に,略
内胴3の上端まで上方に突出した略円錐状の突出部4を設け,該部4に回転軸5を取付ける。
突出部4の外側に之と小間隔を設けて略平行に,多数の噴液小孔7を有する噴液筒6を固定し,
該筒6の上端部に,噴液筒6が回転出来,且つ液密を保つように導液管8の先端部を嵌合させ
る。
外胴1の底に排液管9の一端を開口させる。回転軸5を速度切換機構を介して電動機12で
回転出来るようにする。排液管9を弁13を介して,洗剤汚液タンク14に連通させ,且つ該
タンク14を送液ポンプ15を有する送液管16で,図示しない洗濯機の洗剤汚液タンクと連
通させる。又上記弁13より外胴1側で排液管9より分岐した分岐管17を弁18を介して,
すすぎ洗い液タンク19と連通させる。導液管8の基端をすすぎ洗い液タンク19に連通させ
ると共に,導液管8の基端より先端間に基端側より弁20,送液ポンプ21,圧力濾過機22,
開閉弁23,流量調節装置24を,この順序で設けると共に導液管8の弁20と送液ポンプ2
1との間に一端を開口させた,プリコート用管25の他端を導液管8の圧力濾過機22と開閉
弁23との間に開口させる。プリコート用管25に粉末箱26及びその両側に弁27,28を
設けてなる。」(1頁左欄25行~1頁右欄11行目)
「洗濯機で洗剤液によつて洗濯した洗濯物を内胴3内に入れ,電動機12により内胴3を高
速回転させる。この際排液管9の弁13を開放し,分岐管17の弁18,導液管8の開閉弁2
3は閉鎖しておく。内胴3の高速回転により,洗濯物に含まれた洗剤液は遠心力で振り切られ,
洗濯物より除脱される。除脱された洗剤液は排液管9より洗剤汚液タンク14に導かれる。該
タンク14に洗剤液が溜つた場含には,適宜送液ポンプ15を作動させて洗剤液を排出する。

洗濯物より洗剤液の除脱を終つた後,弁27,28,13を閉じ,弁20,開閉弁23を開
放して,送液ポンプ21により,すすぎ洗い液タンク19内のすすぎ洗い液を,導液管8を介
して噴液筒6に導く。これと共に内胴3の回転を低速回転に切換え,すすぎ洗い液を遠心力に
より噴液筒6の噴液小孔7より放射状に噴出させ,洗濯物を透過させると共に,外胴11にす
すぎ洗い液を貯溜してすすぎ洗を行う。
すすぎ洗いを終つた後,送液ポンプ21の作動を停止し,開閉弁23を閉じ,すすぎ洗いの
液の内胴3内への導入を停止する。これと同時に内胴3を高速回転させると共に,分岐管17
の弁18を開き,排液管9,分岐管17を経て,外胴1内のすすぎ洗い液をすすぎ洗い液タン
ク19に回収しつつ,内胴3の回転による遠心力で洗濯物よりすすぎ洗い液を除脱するもので
ある。洗濯物の乾燥後,内胴3の回転を停止し,洗濯物を内胴3より取出す。」(1頁右欄12
行~2頁左欄3行目)
「従って従来の脱液機に小規模の改造を加え,これに上述したような配管機構,タンク,ポ
ンプなどを設けることにより,二浴式洗濯方式において洗濯物から洗剤汚液の除脱,すすぎ洗
い及びすすぎ洗い液の除脱を一連の工程として内胴に洗濯物を入れたまゝ行うことができ,し
かも洗剤液の除脱作業中にすすぎ液による圧力濾過機のプリコートが行える。このため小規検
な設備により能率的に二浴式洗濯を行い得るものでありながら,作業能率も良好である。」(2
頁右欄7~16行目)
2取消事由1(引用発明2の認定誤り)について
原告は,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置が事業用装置であると認定した審決
には,誤りがある旨を主張する。
引用例2には,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置が,事業所用又は家庭用のい
ずれの装置であるかについての明示的記載はないが,引用例2には,引用発明2の
すすぎ洗い兼脱液装置が,配管機構を有し,タンクやポンプを設置された装置であ
ること(1頁左欄19~24行目,2頁右欄7行~16行目),洗剤汚液タンクやす
すぎ洗い液タンクのように家庭用装置では普通は用いないような液タンクを有し,
ドライクリーニングに係る工程の一部であるプリコート工程を有する装置であって,
このプリコートが必要なすすぎ液の圧力濾過機を有しているから(1頁左欄25行
~1頁右欄11行目,1頁右欄12~2頁左欄3行目),引用発明2のすすぎ洗い兼
脱液装置が事業用装置であることは明らかである。
したがって,進歩性判断の前提として,引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を事
業用装置と認定した審決には,誤りはない。
原告の上記主張は,採用することができない。
3取消事由2(進歩性判断の誤り)について
(1)取消事由2-1(動機付け)につき
原告は,引用発明1と引用発明2とは技術分野及び課題を異にするので,当業者
は引用発明1に引用発明2を適用しようと試みない旨を主張する。
しかしながら,大量の洗濯物を処理する連続洗滌装置に係る引用発明1が,事業
用装置に係る発明であることは明らかであり,上記2に認定判断のとおり,引用発
明2のすすぎ洗い兼脱液装置も事業用装置に係る発明と認められるから,両発明は,
事業用の洗濯装置という点で技術分野を同じくするものである。
また,引用例1の記載によれば,引用発明1は,洗浄処理能力を向上し得るとと
もに洗滌物を効率良く処理することができる連続洗滌装置を提供することを目的と
し(1頁左下欄7行~右上欄1行目),このために,洗滌ユニットの数を増減し,装
置の全長を最適な長さにし,装置の稼働効率を上げることとしたものであり(2頁
右下欄2行~3頁右上欄2行目),装置を小規模にすることや装置の効率を上げるこ
とを課題としていると認められる。さらに,引用例2の記載によれば,引用発明2
は,従来の脱液機に小規模な改造を加えた簡単かつ小規模な装置で,比較的容易な
操作で,すすぎ洗いとすすぎ洗い液の洗濯物からの脱液という一連の作業を能率的
にできることを目的とし(1頁左欄19~24行目),このために,洗濯物からの洗
剤汚液の除脱,すすぎ洗い及びすすぎ洗い液の洗濯物よりの除脱を一つの装置で行
えるようにして,小規模な設備により能率的に二浴式洗濯を行い得るとものとした
ものであり(1頁左欄15~18行目,2頁右欄7~16行目),装置を小規模にす
ることや装置の効率を上げることを課題としていることが認められる。したがって,
両発明は,装置を小規模にする,装置の効率を上げるという点で課題が共通するも
のである。
以上からすると,引用発明1と引用発明2とは,事業用の洗濯装置という点で技
術分野を同じくするとともに,装置を小規模にする,装置の効率を上げるという点
で課題も共通する。
そして,①洗い,②すすぎ,③脱水,④乾燥からなる洗濯工程のうち,引用発明
1の装置は,複数の洗滌ユニットが連結された連続洗滌装置Dが①洗いと②すすぎ
を,脱水機Eが③脱水を,乾燥機Fが④乾燥とを処理する装置であるところ,引用
発明2は,洗剤液の除脱,すすぎ洗い及びすすぎ洗い液の除脱と乾燥(②~④)が
行われるすすぎ洗い兼脱液装置であることから,当業者であれば,引用発明1に引
用発明2を用いようとする動機があると認められる。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)取消事由2-2(容易想到性)について
原告は,引用発明1の脱水装置を引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置に置き換え
ても,相違点1及び相違点2に係る構成にはならない旨を主張する。
引用発明1の装置は,連続洗滌装置Dが,複数の洗滌ユニット1A,1B,1C
…を備えており,順次,洗滌からすすぎまで行うものであるところ,引用例1には,
洗いやすすぎの各工程をどのユニットで行うのかについて明示的な記載はない。し
かしながら,特開平7-144084号公報(乙3),特開平7-674号公報(乙
4)及び特公昭55-26880号公報(乙5)によれば,複数の洗滌ユニットで
順次洗滌処理をする連続洗滌装置においては,洗滌(洗濯)がその上流側から前洗
い(予洗い),主洗い(本洗い),すすぎと領域を分けて行われることは周知技術と
いえ,引用発明1の複数の洗滌ユニットを,順に,前洗いのみ,主洗いのみ,すす
ぎのみを行う洗滌ユニットとして,機能を分担して構成することは,当業者であれ
ば適宜設定できると認められ,この場合,すすぎのみを行う洗滌ユニットは,その
性質上,連続洗滌装置の後側の部分に配置されることとなる。
また,引用例1には,洗滌ユニットを洗滌物の汚れの度合に応じて増減すること
ができるととともに,それら各洗滌ユニツトを個々に駆動させることができると記
載されているから(2頁右下蘭2行~3頁右上欄2行目),引用発明1の各洗滌ユニ
ットは必要に応じて増減できるものと認められる。一方,引用発明2は,すすぎ洗
い兼脱液装置であるから,引用発明2の前工程には,必ず洗いのみを行う装置が存
在していることとなる。
したがって,装置を小規模にすることや装置の効率を上げるとの課題に従って,
引用発明1の連続洗滌装置の後側に適宜設定し得るすすぎのみを行う洗滌ユニット
に着目し,引用例1の各洗滌ユニットが必要に応じて増減できるとの開示事項に基
づき,引用発明1の連続洗滌装置に引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を適用し,
この際,より機能が多く装置効率の良い引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置にすす
ぎを担わせ,これに伴い,引用発明1の連続洗滌装置のすすぎを行う洗滌ユニット
を廃止することは,当業者としてごく自然な創作である。そして,引用発明2のす
すぎ洗い兼脱液装置は,すすぎと脱水と内胴の回転による乾燥を行う装置として構
成されているのであるから(1頁右欄12行~2頁左欄3行目),回転乾燥機といえ
る。したがって,引用発明1に引用発明2を適用すれば,自ずと相違点1及び相違
点2に係る構成となるのであって,そのように構成することも当業者にとって容易
想到であると認められる。
以上から,上記原告の主張は,採用することができない。
(3)取消事由2-3(阻害要因)について
原告は,引用発明1に引用発明2を適用すると,連続洗滌装置により連続的に処
理され順次送られてくる洗濯物が,すすぎ洗い兼脱液装置の手前で滞留してしまう
から,当業者が引用発明1の連続洗滌装置に引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を
適用することには,阻害要因がある旨の主張をする。
前記1(2)の引用例1の記載によれば,引用発明1は,洗滌処理能力を向上し洗滌
物を効率的に処理する連続洗滌装置を提供するものであり(1頁左下欄17行~同
右下欄1行目),所要数の任意の数の洗滌ユニットを連結し,複数の洗滌ユニットを
各々駆動し,所定の洗滌処理時間終了後に,順次,下流側の洗浄ユニットに洗濯物
を移送することによって洗濯物を連続的に洗滌処理し,最後の洗滌ユニットから洗
濯物が脱水機Eに移送されて脱水され,次に乾燥機Fにおいて乾燥されるとの構成
をとるものである(2頁右下欄2行~3頁右上欄2行目)。
そして,ここにいう連続的な洗滌処理とは,各洗滌ユニットが連結されて適宜の
ユニットにおいて洗濯物の洗滌からすすぎ洗いまでの処理を行うことであり,その
後,脱水及び乾燥までの一連の処理が行われるものであると解されるが,当該洗濯
物が,洗滌,すすぎ洗い,脱水及び乾燥と間断なく移送されることを意味するもの
と解すべき根拠はない。また,引用発明1において,洗滌,すすぎ洗い,脱水及び
乾燥の各所要時間は,洗濯物や洗滌液,各工程の必要性等に応じて適宜設定できる
ことが明らかである。
そうすると,引用発明1において,洗滌,すすぎ洗い,脱水などの工程の終了後,
洗濯物が一時的に滞留することが必ずしも排除されているわけではなく,また,引
用発明2を適用した結果,洗滌の終了後,洗濯物が一時的に滞留される事態を軽減
しようと考えれば,洗滌に要する時間とすすぎ洗い及び脱水に要する時間を適時調
整すればよいことであって,当業者にとってそのような操作は容易なことといえる。
したがって,引用発明1に引用発明2を適用した場合に,洗いの工程とすすぎの
工程の間に洗濯物の滞留時間が生じることがあるとしても,それゆえに引用発明1
に引用発明2を適用することに阻害要因があるとはいえない。
以上から,原告の上記主張は,採用することができない。
(4)取消事由2-4(作用効果)について
原告は,本願発明には引用発明1及び引用発明2から予測することのできない効
果がある旨を主張するが,上記(2)に認定判断のとおり,引用発明1へ引用発明2を
適用したものは,引用発明1のすすぎを行う洗滌ユニットが省略されたものであり,
その分連続洗滌装置の長さを短縮することができ,ひいては装置全体を短く形成で
きることは明らかである。そうすると,原告が主張するトンネル式洗濯装置の装置
全体の全長を短縮化できるという効果は,引用発明1に引用発明2を適用すること
により当業者が予測できた効果にすぎないものである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
4まとめ
以上のとおりであるから,取消事由1及び2はいずれも理由がない。
第6結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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