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判決 平成14年4月26日 神戸地方裁判所 平成14年(わ)第84号 建造
物侵入,窃盗被告事件
主       文
被告人を懲役10月に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,病院内から向精神薬「リタリン」を窃取する目的で,平成14年1月
1日午後4時ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号fビルg階所在のAが看守する
B神経科クリニック内に,情を知らない錠前技師Cをして,同クリニックの出入口
ドアを開錠させて侵入した上,同所において,上記A所有にかかる向精神薬「リタ
リン」約500錠(時価合計約5640円相当)を窃取したものである。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
 被告人の判示所為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の点は同
法235条にそれぞれ該当するが,この建造物侵入と窃盗との間には手段結果の関
係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処
断することとし,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役10月に処し,同法21
条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入し,情状により同法25条1項
を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,
刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,被告人が,本件犯行当時,向精神薬「リタリン」の大量服用による中
毒症状のため,「リタリン」なしではいられなくなって,「リタリン」を入手する
ためには自己の行動を抑制・制御する能力が著しく減退した状態,すなわち心神耗
弱の状態にあった旨主張する。
 なるほど,前掲各証拠,被告人の検察官調書(乙8)及び警察官調書(乙1),
Dの警察官調書(甲26),警察官作成の捜査復命書(甲27ないし32)等によ
れば,被告人が,本件犯行当時,「リタリン」の過剰服用による中毒のため,「リ
タリン」依存症に陥っていたことは間違いないと認められる。
 しかしながら,前記各証拠によれば,被告人の本件犯行についての記憶は詳細か
つ正確であって,意識は清明に保たれており,そこに意識混濁,もうろう状態等の
意識障害の徴候は窺えないし,被告人の行為自体にも,見当識障害,外界認知の障
害,行為の動機の了解不可能性などの存在を示唆するものはなく,むしろ,被告人
は,本件犯行を含む一連の犯行において,名札やファックス送信の書面を用いるな
どしながら,錠前技師を言葉巧みに欺き,自分が病院関係者であると誤信させ開錠
させるなど,その犯行には計画的で巧妙なところが認められるのであるから,本件
犯行当時,被告人の「リタリン」依存症による情動が被告人の理性や意思を著しく
制約するまでには至っておらず,被告人は,行為の是非善悪を弁識しこれに従って
自己の行動を抑制・
制御する能力を著しく減退した状態には陥っていなかったことが明らかである。
 以上のとおりであるから,弁護人の上記主張は採用できない。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,向精神薬「リタリン」欲しさに,錠前技師を欺いて自分が病
院関係者であると誤信させ,開錠させて病院内に侵入した上,目当ての薬物を窃取
した事案であるが,犯行の動機は,過剰服用により依存症に陥っていた薬物を多量
に入手したいという短絡的なものであること,犯行態様は,様々な手段を用い錠前
技師を欺いて,病院関係者であると誤信させ,開錠させて病院内に侵入するという
計画的で巧妙なものであること,窃取した向精神薬の数量は相当に多量であること
などを併せ考えると,被告人の刑事責任は軽くないというべきである。
 しかしながら,本件は,被告人が「リタリン」依存症のため不安な精神状態の下
で犯したものであること,被害金額は約5640円相当と多額ではなく,被害弁償
もなされていること,本件は,被告人が,犯行後自ら錠前技師に本件犯行を打ち明
けるなどしたことから発覚したものであること,被告人が現在では反省しているこ
と,被告人にはこれまで前科・前歴が全くないこと,被告人が本件で既に3か月以
上の期間身柄拘束を受けていることなどの,被告人のために酌むべき事情もあるの
で,今回はその刑の執行を猶予することとする。
(検察官の科刑意見・懲役1年)
 よって,主文のとおり判決する。
平成14年4月26日
神戸地方裁判所第12刑事係甲
裁判官    森岡安廣

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