弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
「特許庁が、昭和四二年審判第三二七号事件、同年審判第三一二号事件、同年審判
第三一四号事件、同年審判第三一六号事件、同年審判第三一八号事件、同年審判第
三二〇号事件、同年審判第三二二号事件、同年審判第三二五号事件、同年審判第三
二八号事件、同年審判第三三〇号事件、同年審判第三三二号事件、同年審判第三五
一号事件、同年審判第三五三号事件、同年審判第三五五号事件、同年審判第三五七
号事件、同年審判第三五九号事件、同年審判第一五五二号事件、同年審判第一五五
四号事件についていずれも昭和五五年三月二八日に、同年審判第四五六九号事件に
ついて同月二七日に、それぞれした各審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とす
る。」との判決。
二 被告
 主文同旨の判決。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告両名は共同して、特許庁に対し、「特許建築学博士」など別紙一覧表(以下
単に「別表」という。)商標欄記載の文字をいずれも楷書体で左横書きしてなり、
それぞれ第二六類「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写
真、これらの附属品」(ただし、別表の(12)、(13)、(14)、(1
6)、(17)、(19)の各商標については、「写真」を除く。)を指定商品と
する各商標(以下これらを総称して「本願各商標」という。)につき、別表出願日
欄記載の日にそれぞれ商標登録出願をしたところ、別表拒絶査定日欄記載の日に拒
絶査定を受けたので、右拒絶査定に対し、別表審判請求日欄記載の日に審判を請求
し、それぞれ別表審判事件番号欄記載の事件として審理されたが、昭和四二年審判
第四五六九号事件については、昭和五五年三月二七日に、その余の右各事件につい
ては、いずれも同月二八日に、それぞれ「本件審判の請求は成り立たない。」との
審決があり、右各審決の謄本は、別表審決謄本送達日欄記載の日に原告両名にそれ
ぞれ送達された。
二 審決の理由の要点
1 昭和四二年審判第三二七号事件
 本願商標は、「特許建築学博士」の文字を左横書きしてなり、その指定商品、登
録出願日は前項に記載のとおりである。
 商標法第四条第一項第七号の規定は、商標自体が矯激な文字や卑猥な図形等秩序
又は風俗をみだすおそれのある文字、図形、記号又はその結合などから構成されて
いる場合及び商標自体はそのようなものでなくとも、これを指定商品に商標として
使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するよう
な場合には、その登録を拒絶すべきことを定めているものと解される。
 ところで、学校教育法第六八条第一項には、大学院を置く大学は、監督庁の定め
るところにより、博士、修士その他の学位を授与することができる旨規定されてお
り、この規定に基づいて定められた学位規則には、学位は博士及び修士とするこ
と、博士の種類として、「学術博士」、「文学博士」などその末尾に博士の文字を
含む一九の名称が定められており、博士の学位は、学術の専攻分野について研究者
として自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな
学識を有する者に授与されるものであり、大学院の博士課程を修了した者又は大学
の定めるところにより、大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博
士過程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者であることを要
件として授与されることも定められている。また、博士の学位は、右のように学術
上すぐれた者に授与されるものであることが一般世人の間に広く認識されており、
社会的にもこの学位授与の制度の秩序が維持されている。
 したがつて、博士の学位を授与された者は、その名誉が得られ、その者が博士の
名称を用いるときは、その学位の名称は、その者の名誉を表彰する。
 ところで、本願商標である「特許建築学博士」が商標として使用された場合、こ
れに接する一般世人は、学位規則に定められている博士の種類、名称のすべてを具
体的に認識していないから、本願商標が、博士の種類を表わす名称の一つを表示し
たものと誤認する場合も少なくないと考えられる。
 そうすると、本願商標を商標として使用することは、一般世人に博士の種類につ
いて誤認を生じさせるおそれがあるばかりでなく、博士の学位を授与された者の名
誉を稀釈させ、低下させることになり、ひいては、前記の学位授与の制度の秩序を
乱すおそれがあるから、社会公共の利益に反するとともに、社会の一般的道徳観念
にも反するといわざるを得ない。
 よつて、本願商標は、商標法第四条第一項第七号の規定に該当し、登録をするこ
とができない。
2 別表の(2)ないし(19)の審判事件番号欄記載の各審判事件
 1の「特許建築学博士」を別表の(2)ないし(19)の商標欄記載のとおりに
読み替えるほか、1と同一である。
三 審決の取消事由
 審決は、本願各商標が商標として使用された場合には、一般世人に博士の種類に
ついて誤認を生じさせるおそれがあるばかりでなく、博士の学位を授与された者の
名誉を稀釈させ、低下させることになり、ひいては、前記の学位授与の制度の秩序
を乱すおそれがある、とするが、これは、以下に述べるとおり誤つており、このよ
うな誤認に基づいて、本願各商標を商標として使用することが、社会公共の利益に
反するとともに、社会の一般的道徳観念にも反するとした審決の判断は、誤つてい
るから、審決は違法であつて取消されるべきである。
1 本願各商標を、その指定商品に商標として使用しても、次に述べるとおり、一
般世人に博士の種類について誤認を生じさせるおそれはありえない。
(一) 審決にいう博士の種類とは、学位規則所定の博士の名称を指すものと解さ
れるが、「博士」の語は、単に学位規則所定の博士を指すばかりでなく、一般に
「学問や芸道などでその道に深く通じた人、深い知識や高い識見などをもつている
人、人を教えるだけの力を持つている人。」などの意味を有し、この意味におい
て、たとえば、「野球博士」、「相撲博士」、「水泳博士」、「昆虫博士」などの
語が用いられることがある。また、歴史上の官職名としても、(ア)中国にはじま
り、朝鮮にとり入れられた官名として、「五経博士」、「医博士」、「易博士」、
「暦博士」など、(イ)大化の改新の際の国政の顧問たる「国の博士」、(ウ)大
宝令制で整備された大学寮の官職のひとつである「大博士」、「大学博士」、「明
経博士」など、(エ)古代、中世の朝廷の官制で、特定の学術、技芸に専門的に従
事し、かつ、その分野の教育を担当する職の総称として、大学寮に「明経」「紀伝
(文章)」「明法」「算」「音」「書」の各博士、陰陽寮に「陰陽」「暦」「天
文」「漏刻」の各博士、典薬寮に「医」「女医」「針」「按摩」「咒禁」の各博士
などが存するのである。そうすると、博士の語を含む名称が学位規則のものに限ら
れないものであることは明らかである。
(二) 更に、本願各商標にあつては、後記のとおりこれを名刺又はその他の印刷
物などに記載された個人の氏名の肩書として表示するのではなく、その指定商品で
ある印刷物などの商品識別標識として表示することが問題とされているのである。
そして、このような場合、実際には存在しない仮空のものの名称が採択されること
も少なくないのである。
 本願各商標の使用が、学位規則所定の博士の種類について誤認を生じないもので
あることは、後述の本願各商標の具体的使用態様を考慮に入れて考えれば、一層明
らかである。
(三) したがつて、本願各商標をその指定商品に商標として使用したからといつ
て、本願各商標にいずれも「博士」の文字を含むことから直ちに、一般世人に学位
規則所定の博士の種類について誤認を生じさせるおそれがあるということはできな
い。
2 仮に、審決がいうように、本願各商標を商標として使用する場合に、博士の種
類について誤認を生じさせるとしても、次に述べるとおり、そのことから、学位授
与制度の秩序を乱すおそれがあるものということはできない。
(一) 本願各商標は、その指定商品に商標として使用され、その識別標識として
機能するにすぎず、学位規則所定の資格を欠く者の声望を表彰するものでないこと
はいうまでもない。すなわち、本願各商標をその指定商品に商標として使用するこ
とと、学位授与の制度とはいかなる点においても相交わることがないのである。
 このことを、本願各商標の使用態様に関連させて更に敷衍すると、次のとおりで
ある。すなわち、本願各商標のように少なくとも「印刷物」を指定商品とする文字
商標においては、出版者名を表示するものを除き、雑誌、新聞などの定期刊行物の
題号として使用されるのが、実際上、その最も重要な機能領域である。また、他の
印刷物、たとえば、商標法施行規則別表の第二六類「印刷物」の項に例示されてい
る「書籍」、「年鑑」、「時刻表」、「カレンダー」、「暦」、「地図」、「パン
フレツト」、「日記帳」などの大部分についても、出版者名を表示するもの以外の
文字商標が商品の識別標章として機能するのは、主として、定期刊行物の題号と機
能において同等な、辞典などの特殊な題名又はシリーズ名としてである(たとえ
ば、「エツセンシヤル英和辞典」、「国語自由日記」、「読売年鑑」、「カツパブ
ツクス」、「朝日文化手帳」、「角川新書」など)。このような使用態様を考慮に
入れて考えると、たとえば、週刊誌の題号に本願各商標が使用され、それが書店の
店頭などに販売のため展示されたところで、それは、単に商品自体の識別標識とし
て認識されるにすぎないから、学位授与制度の秩序を乱すおそれはない。
(二) したがつてまた、本願各商標を指定商品に商標として使用した場合、これ
によつて、博士の学位を授与された者の名誉を稀釈させ低下させることもありえな
いというべきである。審決の判断は、学位規則所定の資格を欠く者が、本願各商標
に係る文字を、自己の肩書として使用することを慮つてのことと思われるが、もし
もそうであるとすれば、上述のとおり、何ら関係のない二種の行為を混同するもの
といわざるをえない。学位規則所定の資格を欠く者が、自己の肩書として本願各商
標に係る文字を表示することと、本願各商標をその指定商品に商標として使用する
こととは、別個の事柄であり、前者の当、不当いかんは、そもそも商標法の領域外
のことだからである。
(三) 因みに、特許庁における商標の登録例においても、「博士」の語を含む登
録商標として、「料理博士」、「探偵博士」、「アイデア博士」、「靴学博士」な
どがあり、これらの例に鑑みても、本願各商標のみ登録を拒否することは、特許庁
の取扱いとして一貫性を欠くのみならず、右のような登録例の存することは、本願
各商標の使用が学位授与制度自体に混乱を生じさせないことの証左にほかならな
い。
第三 被告の答弁
一 請求の原因一、二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。次に述べるとおり、審決に誤りはない。
1 本願各商標が、その構成に照らし、これを指定商品に商標として使用した場合
に、一般世人に学位規則に定められている博士の種類を表わす名称の一つを表示し
たものであるかのように誤認を生じさせるおそれのあるものであることは、審決の
理由に示すとおりである。そして、学位規則によつて博士の種類が定められている
ことは学位授与制度の一環であることからしても、博士の種類について誤認を生じ
させることは、とりも直さず、一般世人の博士の種類に対する認識を混乱させるこ
とであり、学位授与の制度の秩序を乱すことにほかならない。
 また、本願各商標を指定商品に使用することにより、右のような誤認を生じさせ
ることは、一般世人に本願各商標と同一の名称に係る正規の博士の学位を授与され
た者が存在するように誤つて認識させることになるから、実際に博士の学位を授与
された者以外にも更に博士の学位を授与された者がいるように誤つて認識されるこ
とになる。しかして、このことを、博士の学位を授与された者に対する社会の一般
的評価の面からみると、博士の学位を授与された者の名誉(社会における稀少価値
的評価を含めたところの博士の学位を授与された者に対する優れた者としての社会
の一般的評価)を稀釈させ、低下させることとなる。
 なお、本願各商標は、前記のとおりたとえば「特許建築学博士」のような構成か
らなるものであつて、学位規則に定められた博士の称号と類似しており、したがつ
て、単に料理のことについての物知りである人を指す代替的実現としか認識されな
い「料理博士」なる名称とは異なる。
2 本願各商標を指定商品に商標として使用した場合とは、本願各商標と同一の標
章(文字)を単に紙片等に書き表わすようなこととは異なり、たとえば、「週刊朝
日」の文字からなる題号(商標)を表示した週刊雑誌を書店の店頭などに販売のた
め展示している事例があるように、本願各商標のうち「特許建築学博士」について
いえば、右商標を題号として表示した主として建築に関する記事を内容とする雑誌
(定期刊行物)を書店の店頭などに販売のために展示する場合などが考えられる。
 このような本願商標の使用態様を考慮すれば、右1に述べたところが正当である
ことは一層明らかである。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の有無について検討する。
1 まず、わが国の学位制度について通覧する。
(一) わが国の学位制度は、明治二〇年に制定された学位令にさかのぼるが、右
学位令によると、博士の学位の種類は、「法学博士」、「医学博士」など五種とさ
れ、大学院に在学して所定の試験を経た者に対し、帝国大学総長の具申に基づいて
文部大臣が帝国大学評議会の議を経て授与するものとされ(なお、当時は、このほ
かに「大博士」の制度もあつた。)、その後、右学位令は、明治三一年に改正さ
れ、これにより、学位は、博士のみとされ、その種類は、前記五種のほかに新たに
「農学博士」、「獣医学博士」など四種が加えられて九種となり、右学位授与の要
件は、①大学院に入学し所定の試験を経た者、②論文を提出して学位を請求し各分
科大学教授会で前記のものと同等以上の学力ありと認めた者、③博士会において学
位を授与すべき学力ありと認めた者、④帝国大学教授にして当該大学総長の推薦し
た者とされ、文部大臣から授与された。次いで、大正九年大学令の制定に伴う大学
制度の改革に応じ学位制度も改められ、この結果、博士の種類については特に規定
されず、それぞれの大学が文部大臣の認可を得て定めることとされ、博士の学位の
種類は、国立、公立、私立の大学の学部の種類、学術分野の進歩発展を反映して、
前記九種のほか、新たに「経済学博士」、「経営学博士」などが加えられて一四種
となり、博士の学位の授与要件は、①研究科において二年以上研究に従事し、論文
を提出して学部教員会の審査に合格した者、②論文を提出して学位を請求し、学部
教員会においてこれと同等以上の学力ありと認められた者とされ、博士会及び大学
総長の推薦によるものは廃止された。
(二) ところで、現行の学位制度は、昭和二二年四月に施行された学校教育法第
六八条の規定に基礎をおくものであり、同条には、「大学院を置く大学は、監督庁
の定めるところにより、博士、修士その他の学位を授与することができる。博士、
修士その他の学位に関する事項を定めるについては、監督庁は、大学設置審議会に
諮問しなければならない。」と規定され、この規定と、これに基づいて定められた
学位規則(昭和二八年文部省令第九号)によれば、学位として、博士のほかに修士
が新たに加えられたが、博士は修士の上位に位置するもの(第一学位)とされ、そ
の種類は、今日では、学術博士、文学博士、教育学博士、神学博士、社会学博士、
法学博士、政治学博士、経済学博士、商学博士、経営学博士、理学博士、医学博
士、歯学博士、薬学博士、保健学博士、工学博士、農学博士、獣医学博士、水産学
博士の一九種とされるに至つた。
 そして、このような博士の学位は、専攻分野について研究者として自立して研究
活動を行うに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を有する者に授
与するものとされ(学位規則第三条)、博士の学位授与の具体的要件は、①大学院
の博士課程を修了した者、②大学の定めるところにより大学院の行う博士論文の審
査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有すること
を確認された者である(同規則第五条)。
(三) 以上(一)、(二)に述べた学位制度の沿革に徴して明らかなとおり、わ
が国における博士の学位は、明治二〇年以来の長い歴史に支えられており、学術の
進歩発展に対応して、その名称(種類)も逐次増加し、今日では、一九種の多くを
数えるまでに至つているが、現行学位規則において新たに加えられた「学術博士」
を除き、これらはすべて文学、教育学、神学などそれぞれの学術分野を示す「……
…学」の語の後に博士の語が連なる形式のものとして、当初から今日まで統一一貫
しており、また、その資格要件には多少の変遷がみられるけれども、当該学術分野
において高度の研究能力を有するとともに、豊かな学殖、識見を備えた者に授与さ
れる名誉ある称号である点において共通である。そして、このような長年にわたる
一貫した制度の施行、定着により、国民の多くもまた学位令及び学位規則に定めら
れた「……学博士」と指称される博士の称号に対しては、これを尊敬すべきものと
して認識するとともに、博士の学位取得者に対しては、その学術分野における右の
ような優れた能力、識見を有する者として相応の敬意と信頼の念をもつて遇してお
り、このような多くの国民の定着した認識、行動がまた、学位制度の目的と相まつ
て学術の進歩発展に寄与しておりこれらのことが、学位制度という公の秩序の一環
を形成しているものであることは、疑いを容れないところである。
2(一) ところで、本願各商標が、(1)特許建築学博士、(2)特許医学博
士、(3)特許理学博士、(4)特許経営学博士、(5)特許理容学博士、(6)
特許工機学博士、(7)特許医術学博士、(8)特許栄養学博士、(9)特許証券
学博士、(10)特許経済学博士、(11)特許法学博士、(12)特許教育学博
士、(13)特許管理学博士、(14)防衛学博士、(15)警察学博士、(1
6)特許文学博士、(17)特許農学博士、(18)特許文学博士、(19)特許
体育学博士の各文字をいずれも楷書体で左横書きしてなるものであることは、当事
者間に争いがない。
 そうすると、本願各商標と学位規則に定められている前記各博士の名称とを対比
してみるに、本願各商標中(2)、(3)、(4)、(10)、(11)、(1
2)、(17)、(18)のものは、「特許」の文字を語頭に付加されている点
で、またその余のものは、「特許」の文字の有無の二様のものがあるが、そこに表
示された各「……学」の語が、学位規則所定の博士の名称中には存在しない点で、
いずれも異なつている。したがつて、本願各商標は、学位規則所定の博士の名称と
すべてが同一のものではない。
(二) しかして、右「特許」の語は、学位規則に定められた、たとえば「医学博
士」の上にこれと一連一体に記載表示され、「特許医学博士」のように用いられる
と、「特に許された」又は「特別の」のような意味にも観念され、その結果、「特
許医学博士」の標章ないし語に接する指定商品の需要者を含む一般世人の中には、
これを学位規則に定められた医学博士のうち特別なものないしはその上位のものの
ように認識する者も少なくないと考えられる。このことは、本願各商標中の右
(3)、(4)、(10)、(11)、(12)、(17)、(18)のものにつ
いても全く同様である。
 次に、本願各商標中学位規則に定めのない「特許建築学博士」における「建築
学」など、その余のものについて考えるに、今日のように、学術の進歩発展に応
じ、学術分野が多方面にわたつて広範囲に拡大、分化し、従来は一般には余り知ら
れなかつた学術分野についてそれに応ずる名称が用いられるにいたりつつある事実
が顕著であることに鑑みると、右の各商標に表示されている「建築学」その他の語
も、これら学術分野の一部門を示すものとしてその大部分のものは現に広く用いら
れているのであり、中には、工機学、理容学のように、学術分野の一部門を示す語
としては、未だ広く使用されているとまでは断定しがたいものもないではないが、
これらとても、学術分野の一部門を示す語として用いられたからといつてさほど不
自然ないし奇異なものとは考えられないものである。
 また、学位制度に基づく博士の学位の種類(名称)が、前述のとおり逐次増加
し、今日では一九種の多くを数えるに至つていることからすると、指定商品の需要
者を含む一般世人の中には、これらのもののすべてを正確に了知していない者が少
なくないと考えられるのである。
 右に述べた諸点を併せ考えると、前記のような構成からなる本願各商標を指定商
品について使用するときには、なるほど、それが第一義的には指定商品の識別標識
としての機能を果すものであるにせよ、これら各商標が商標として使用されること
により、その構成が学位規則所定の博士の種類(名称)と類似する関係上、本願各
商標のような種類(名称)の博士の学位が、あたかも学位規則に定められているか
のように、彼此紛淆ないし誤認混同を生ずる可能性を否定することはできないとい
わざるをえない。
(三) そうだとすれば、このような紛淆ないし誤認混同を生じさせることは、前
1の(三)に述べたとおりの長い歴史の上に培われ国民の間に広く定着しきたつた
わが国の学位制度における秩序の維持と相容れないものであるというほかはない。
(四) なるほど、博士の語は、学位規則にいう博士を指称するもののほか、多く
の意味を有しており、また、五経博士など歴史上の官職名として諸種のものがある
ことは、原告らの主張するとおりである。しかし、本願各商標は、既に詳述したと
おり、たとえば「特許建築学博士」、「防衛学博士」などのように、学位規則所定
の博士の名称と範ちゆうを同じくする構成のものであるから、その構成の一部であ
る「博士」の語が多くの意味を有し、また、歴史上の官職名として諸種の用い方が
あるからといつて、このことが、直ちに右の判断を左右するものでないことはいう
までもない。
 また、「野球博士」、「相撲博士」などの語が、日常しばしば用いられること
も、原告らの主張するとおりである。しかし、これらは、本願各商標のように学位
令や学位規則所定の博士の名称と範ちゆうを同じくする用例ではないのみならず、
単に野球や相撲の分野で物知りである人を指称する語として、「物知り博士」など
と同様に、用いられるにすぎず、しかも、そこにいう野球や相撲などが学術分野の
一を形成するものと認識されるには至つていないことなどからすると、学位規則所
定の博士の名称と範ちゆうを同じくする構成に係る本願各商標とは著しく趣を異に
するものであり、これらを同日に論ずることはできない。
 更に、成立に争いのない甲第五号証ないし第八号証の各一、二によると、「料理
博士」、「探偵博士」、「アイデア博士」、「靴学博士」のような商標が登録商標
(なお、その指定商品はいずれも第二六類)として存在することが認められるが、
これら各商標も、本願各商標とは趣を異にする点で右の野球博士、相撲博士につい
て述べたところと同様であるから、このような登録商標が存在することをもつて、
前記の判断を左右するに足りない。
3 更に、本願各商標が、その指定商品に商標として使用される場合の商品流通上
の影響について考える。
(一) 本願各商標の指定商品が、いずれも第二六類「印刷物(文房具類に属する
ものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」(ただし、別表の(1
2)、(13)、(14)、(16)、(17)、(19)の各商標については、
「写真」を除く。)であることは、当事者間に争いがない。
(二) このように、本願各商標は、右の指定商品について、自他識別標識として
使用されるものであるから、たとえば、ある者が、自己の地位身分を表示する手段
として、本願各商標の一である「特許経済学博士」の名称を肩書きに自己の氏名と
ともに名刺などに使用する場合とは、その使用態様を異にするものである(なお、
本願各商標の指定商品には「名刺用紙」は包含されていない。)というべく、した
がつて、その旨を指摘する原告らの主張は首肯できる。
 しかし、本願各商標が使用されるときは、たとえば、その指定商品印刷物に属す
る書籍、雑誌、新聞、年鑑、叢書等のほか、書画、写真などに、その筆者、作者、
監修者、編者、発行者などの表示とともに、これらの者との関連を思わせるような
態様で、外題、題号などとして本願各商標が表示されることになることも十分あり
うることであり、このような場合には、本願各商標の構成が先に述べたように学位
規則所定の博士の名称と紛淆ないし誤認混同を生ずるおそれのある態様のものであ
ることを併せ考えると、その指定商品の需要者は、指定商品があたかも学位規則に
定められた博士の学位を有する者が執筆するなどこれに関与したもののようにその
品質その他について誤認し、この誤認に基づいて取引に当ることも少なくないと考
えられる。
 なお、出願人の側からみても、本願各商標を特に出願人である原告らに独占使用
させることが、その業務上の信用を維持するについて不可欠であるとすべき具体的
事情など、特段の事情の存在をうかがうこともできない。
 そうすると、本願各商標をその指定商品について商標登録を許容することは、商
標の保護と需要者の利益を保護する商標法の意図する商品流通秩序の維持の目的に
も反するものというべきである。
4 本願各商標が、商標としてその指定商品に使用された場合には、これによつ
て、前2、3に述べたような結果を招来することを併せ考えると、本願各商標は、
いずれも商標法第四条第一項第七号の規定に違背する商標というべきである。
 したがつて、本願各商標をいずれも右規定に該当するものとして登録することが
できないとした審決は相当であり、原告らの主張は採用することができない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求を失当と
して棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟
法第八九条、第九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 荒木秀一 藤井俊彦 清野寛甫)
別紙
<12247-001>
<12247-002>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛